【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の請求項1に係る血圧測定装置の学習機能を示す一実施例であり、そのフロー図である。
図1(a)はECGラグの学習機能を使用した時の本体のCPU37の一連の流れを示すフロー図であり、
図1(b)はECGラグの学習機能自体の一連の流れを示すフロー図であり、
図1(c)はECGラグを測定する際にK音の位置とR波の位置をずらした時の様子を示した説明図である。
図2は、本発明の
実施例2に係る血圧測定装置の学習機能を示す一実施例であり、そのフロー図である。
図3は、本発明の請求項1乃至3に係る血圧測定装置の構成を概略的に示したブロック図であり、本発明の血圧測定装置の動作の流れはこの図をもって説明する。
図4及び
図5は、前段で述べた特許文献1及び特許文献3に記載された測定装置の説明図である。
【0019】
まず、
図3に記載の本体41の全体構造について大まかな概要を説明をする。
図3において、31はカフ、32はマイク、33はケーブル、34は圧力センサ、35は圧力制御部、36はポンプ、37はCPU、38は心電信号入力部、39は表示部、操作パネル、40は外部入出力、41は本体、本体ケース、42は心電計、43は心電センサ、45は外部機器である。
【0020】
ケーブル33は、中空のチューブ状の空気回路機能及び電線機能を併せ持つケーブルである。カフ31はケーブル33にて本体41の加圧ポンプ36及び圧力センサ34及び圧力制御部35と接続し、加圧ポンプ36及び圧力センサ34及び圧力制御部35は電気信号回路にてCPU37と接続し、マイク32はケーブル33にて本体41のCPU37と接続する。圧力センサ34にて測定され得られたカフ内圧の圧力信号及びマイク32にて検出された血管から発生するK音を含む振動Aの信号はCPU37へ送られ処理されることで、CPU37はカフ内圧、K音強度、周波数スペクトル、最高血圧値、最低血圧値などのデータを得る。CPU37は表示部39と接続し、前記各データを表示部39に表示する。
【0021】
心電センサ43は心電計42を本体41の心電信号入力部38に接続することでCPU37と接続する。心電センサ43から得られた信号は、K音を抽出するためのデータとして用い、得られた心拍数は、前記各データと共に表示部39に表示する。また、外部機器45は、メモリ増設用の機器や、別室でのモニタ機器であり、本体41の外部入出力40を通してCPU37に接続する。
【0022】
次に、
図3に記載のカフ31及びマイク32について説明をする。 カフ31及びマイク32は、ケーブル33にて血圧測定装置の本体41に接続されており、カフ31とマイク32を使用する時は、一体となり、被験者の血圧を測定する部位に巻きつけて使用する。この場合、別途専用の袋を設けてその中にカフ31とマイク32を挿入し事前に一体としてまとめておくと利便性が高い。
【0023】
カフ31の材質は、伸縮する樹脂又はゴム又は樹脂及びゴムの複合物からなり、カフ31の大きさは、新生児、幼児、小児、成人、肥満者などによって使い分ける。なお、カフ31の大きさの目安は、一般に公開され知られており、JIS T 1115−2005−5.4又はJIS T 4203−1976又はWHO Expert Co
mmitteeの報告書又はWTO勧告による報告書などで確認ができる。
【0024】
マイク32には、ECM(エレクトレットコンデンサマイクロホン)若しくはMEMSマイクなどの高精度マイク、又は圧電センサ若しくは歪みセンサなど応用した高精度振動センサを用い、被験者にカフ31を巻いた時、血管から発生するK音を含む振動Aを検出し易い位置にマイク32を配置させる。
【0025】
実際には、マイク32の上からカフ31を重ね合わせるように使用し、カフ31の加圧を流用し、マイク32が前記血管上若しくは血管近傍に固定されるようにするため、使用前からマイク32をカフ31の決められた配置に固定させておくと使用前後の脱着にて利便性が高い。
【0026】
なお、検出性能を上げるため、マイク32に使用する前記高精度マイク又は高精度振動センサを複数個使用し、複数個所に配置することもできる。また、使用時の利便性よりも性能を求める場合は、事前にマイク32を被験者の血管上に配置させておき、後からカフ31を被験者に巻く方法、若しくは、カフ31を被験者に巻いた後にマイク32をカフ31と被験者の間に挿入する方法がある。
【0027】
次に、
図3に記載の本体41の動作について説明をする。 被験者にカフ31及びマイク32を装着させ、操作パネル39の血圧測定開始ボタンにて測定開始信号を入力すると、ポンプ36が動作しカフ31に空気を送り込んで加圧される。カフ31のカフ内圧は、圧力制御部35によって制御され、安静時の標準的な測定では、加圧されて動脈を駆血する程度の一定の圧力値に達した後、CPU37により圧力制御部35の急速排気弁及び比例制御弁を制御することで、減圧されて測定が完了する。なお、本発明の血圧測定装置では、前記振動Aの検出は、前記加圧時又は前記減圧時のいずれかを選択することが可能で、初期設定時の切り換えによって変更できる。
【0028】
実際には、予想以上に血圧が高い人の場合、前記圧力が動脈の駆血に不十分になることで、さらに追加で加圧したり、前記圧力が体動によって変化し過多になる場合は減圧したりする。この工程を繰り返すことで、安定に血圧測定ができるよう、CPU37を通じて圧力制御部35とポンプ36が制御され測定される。
【0029】
運動中や体動が激しい場合、例えば、カフ31を激しく動かすと、カフ31が被験者の衣服や周囲の物とぶつかり、擦れることで、ノイズによる振動がマイク32を通してK音と混在して振動Aの信号として検出してしまう。
【0030】
そこで、本発明の請求項1に記載の血圧測定装置では、このように外来ノイズが多く測定が困難な場合に心電信号を利用する。
【0031】
一般に心電図トリガ法とは、心電図のトリガ(R波)を基準として一定時間遅れた時にゲートを開き(K音ラグ:R波からK音までの遅れ時間)、その後一定時間帯(ゲート時間)のデータを抽出する方法である。 ECGラグとは、心電計から電気信号として出力されるECG波形が実際のECG波形からどれくらいの時間遅れが生じているかを表した遅れ時間のことをいう。
【0032】
図3において、心電計42を本体41の心電信号入力部38に接続し、心電センサ43を被験者に取り付け、血圧測定を開始すると、心電センサ43から検出された心電図トリガ(R波)がCPU37に送られる。前記心電図トリガをゲート信号として利用し、心電図トリガから予測されるK音の発生時間を含むゲート時間を決めることで、そのゲート時間内に発生するK音を含む振動Aの信号又は振動Bの信号からより高精度で安定したK音を含む振動信号を抽出することが可能になる。
【0033】
また、得られた振動信号は、FFT解析を用いたスペクトル解析をすることで、周波数スペクトルを導出させることができ、より高精度の信号抽出が可能になる。
【0034】
また、心電計42が無い場合は、心拍センサ44を被験者に取り付け本体41と接続することで、心拍センサ44から検出した心拍信号を前記心電信号の代わりとして用いることも可能である。
【0035】
これら心電図トリガを使った測定方法は、外来ノイズが多く測定が困難な場合には、大変有効な方法であり、前述で説明した高精度で安定した血圧測定の性能をさらに向上させるものである。
【0036】
しかし、その遅れ時間が未知の場合は、心電図トリガ法を正常に利用することができない。
【0037】
そこで、本発明の請求項1にかかる血圧測定装置では、心電計のメーカによる差や心電計の個体差がどのようなものでも対処できるよう、心電信号との遅れ時間を自動で学習する機能を設けた。
【0038】
以下、その機能について説明する。
図1(a)において、ECGラグが既知であれば、測定が開始(S11)されると既知のECGラグに合わせECG波形をその時間分をずらす(S14)ことによって血圧計算が行われ血圧値の決定(S15、S35)が行われる。血圧計算については、
図2のフロー図において専用フィルタが無いものとして見た場合のフロー図となる。
【0039】
一般的には、事前に各社心電計メーカ等と契約、事前協議若しくは事前確認等をした上で、ECGラグが既知の心電計を指定機種とすることで対処しているのが殆どである。 一方、事前確認等をせず使用しようとすると、ECGラグは心電計測においては不必要なパラメータであるため、各社心電計メーカでは、ECGラグは公表及び保証もされておらず、ECGラグは未知の数値となる。未知の数値のままでは、心電図トリガ法は使用できない。 かかる場合、使用する心電計のECGラグを実際に計測して取得することで対処できそうであるが、これは非常に困難な作業であるためその労力を鑑みると実際に計測し取得している者は、弊社以外では皆無に等しい。
【0040】
最近は、心電計の性能向上が図られ非常に優秀な心電計も存在するが、前述したとおり、ECGラグに関しては、心電計にとっては全く関係のない特性であるため、実際に自身が発売する心電計のECGラグがどの値になるのか知らないというメーカも存在するくらいである。
【0041】
本発明の請求項1にかかる血圧測定装置では、これらの問題点を解決するため、R波とK音の位置ずれを観測し、位置ずれの最適値を見つけ出すことにより心電信号の遅れ時間(ECGラグ)を決定することができるECGラグ測定手段を開発し、且つその測定結果は血圧測定の作業中に学習することで得られるようにした。
【0042】
ECGラグ測定手段は、一度の測定で見つけ出すことは困難であるため、
図1(a)の血圧測定(S11〜S15)の工程を数回実施することが必要である。 まず、血圧測定で得られたK音(S21)とECG波形から得られたR波(S22)からECGラグを比較評価し最適値を数点に絞り込む(S23)。最適値は、被験者とカフ圧と心拍数によって変化するK音ラグも考慮した上で、実際のR波の位置をずらし、それを最適値とすれば良い。この最適値からさらにECG波形をずらして評価値の高い点を数点取得し(S23)、これを保存する(S24)。
【0043】
図1(c)にその様子を示す。この図の上図は、R波の位置をずらす前の図であり、下図は、K音の位置を固定し、R波の位置をずらしていった時の図である。 ここで、R波の位置をずらしながら、K音とR波の位置の重なり評価値を計算し、最適な評価値となる位置を見つけ出す。なお、重なり評価値は、K音とR波の位置情報の差分から評価計算式より導き出す。 しかし、一回のみの測定で見つけた場合、当該位置の信頼性は高くないため、数回測定することが必要となる。また、その時に幅広く比較できるよう一回の測定で上位数点の評価値を残しておくと良い。 この工程を複数回繰り返し、最終的に1つに絞り込む(S26)ことができれば、学習完了となり、当該心電計固有のECGラグが決定(S28)される。その後、決定したECGラグを用いてECG波形を当該ラグ分ずらした後(S14)、血圧計算(S15)を行いその結果を表示部39に表示する。
【0044】
本発明では、さらに正確な評価を可能とするために、心拍数を変化させた上でも評価できる工程(心拍変化BAT評価手段)をプログラム中に組み込んでいる。実際には、安静時に評価する安静時評価手段及び低負荷時(軽い運動)に評価する低負荷評価手段を設け、安静時及び低負荷時(軽い運動)において前述した血圧測定とECGラグの学習を行う。S23で取得した複数の候補には、真のECGラグと、偽のECGラグ(真のECGラグ±RR間隔の倍数)が含まれており、心拍数が変わらない(RR間隔が変わらない)とこれらの候補も変わらない。しかし、低負荷時にも学習を行うと、真のECGラグは変わらないが、心拍数(RR間隔)が変わるために偽のECGラグは安静時とは別の値となり、真のECGラグを精度良く学習することが可能となる。なお、前記の低負荷評価手段は、あらためて別途工程を追加する必要はなく、通常の運動負荷測定中で行える。
【0045】
実際にこの手段を用いて評価を行うと、一人当たり、2〜6回の血圧測定でECGラグの真値が得られることが判った。これまでECGラグが未知であった時の対処方法を考えると、ECGラグの取得について飛躍的に工数が削減され、さらに心電計の機種指定が不要となることであらゆる制約から解放される。 よって、本発明は、このような事からも、これまでに無い画期的な手段であり機能であることが判る。
【0046】
学習機能の流れを抜粋すると、
図1(b)に示すものとなる。 血圧振動からK音を検出(S21)し、ECG波形からR波を検出(S22)する。K音とR波の位置からECGラグとする遅れ時間の評価値を計算し、評価値の高い点を数点取得し(S23)、CPU37に書き込む(S24)。その後、過去の遅れ時間候補を読み出し(S25)、候補が1つに絞れるか否かで学習完了か否かを決定(S26、S27、S28)する。
図1(b)に示す学習機能の流れが
図1(a)のECGラグの学習(S13)部分にあたる。 なお、学習完了(S28)した場合は、再度学習ループ(S13)には入らない(S12)。また、心電計の製造メーカ、機種、設定条件毎で異なる値となるため、この機能を有効活用しようとした場合は、心電計や被験者の組み合わせ毎、何らかの変更があった毎に、このような学習(S11〜15)を繰り返すことが好ましい。
【0047】
なお、前述した被験者によって変化するK音ラグを考慮する方法の一例として、特許文献 特開平07−265274号公報を挙げられる。ただし、本発明では、K音ラグにおいてもECGラグと同様に、前述した又は後述する自動学習機能を設けている。
【0048】
以上のように、請求項1に記載の学習機能によって得られたECGラグを利用することで、ノイズを含む振動信号から精度の高いK音を抽出することが可能になり、高精度で安定した血圧測定が可能となった。このことで、心電計毎の固有の問題であったECGラグの問題が解消されると共に、測定中は常時、被験者の状態と血圧測定装置に表示される血圧値を目視観察する必要がなくなり、今まで医師や看護師が拘束されていた血圧測定中の時間を、他の医療業務や臨床研究に回す事が可能になる。
【実施例2】
【0049】
本発明の
実施例2に
おける血圧測定装置では、前述と同様に心電図トリガ法を用いるが、さらにノイズに対するフィルタリング機能を向上させるために、事前に被験者の安静時の血圧測定を実施し、そのデータを解析し得られた前記被験者特有のK音の特徴をCPU37に学習させた上で、運動中や体動が激しい場合の血圧測定を実施する機能を備えている。なお、当初の初期状態は標準的な値を設定しているので、実際に安静時の血圧測定を実施しなくても測定に支障はないが、可能な限り安静時のデータを事前に入手しておく方が好ましい。この機能により、測定中は
常時、前記学習機能が繰り返し動作しているため、血圧を測定すればするほど得られる血圧値は高精度で安定した真値に近づいていく。
【0050】
図2にその学習機能のフロー図を示す。また機器本体41の動作については
図3を基に説明する。 マイク32により検出された振動Aの信号(S31)は、第1のフィルタ(バンドパスアナログフィルタ)で処理され、A/D変換器によりデジタル変換されCPU37に送られた後、第2のフィルタ(FIRフィルタ、有限インパルス応答フィルタ)において、被験者に対する過去の測定で得られたK音の周波数スペクトルに応じて形成された専用フィルタが読み出され(S32)、専用フィルタが一定時間形成(S33)され処理されることで、振動Bの信号が抽出(S33)される。振動Bの信号の大きさからK音強度が導出され、振動Bの信号をFFT(高速フーリエ変換)解析を用いたスペクトル解析(S34)をすることで、周波数スペクトルが導出される。そして、血圧値の決定(S35)が行われる。一方、その後、前記周波数スペクトルはCPU37に記憶され再度新たな専用フィルタとして形成(S36、S37)される。
【0051】
なお、圧力センサ34によって測定され得られた圧力信号は、前記第1のフィルタを通りCPU37に送られた後、前記第2のフィルタ(S32)によって、カフ31のカフ内圧として導出される。
【0052】
また、本発明にかかる請求項1に記載の血圧測定装置では、前述した心電図トリガ法における遅れ時間及びゲート時間も、
実施例2に記載の学習機能(S13)を利用して決めることもできる。 かかる場合、
図1(a)のフロー図において血圧計算にかかる作業中に
図2のフロー図が包含される。
【0053】
以上のように、
実施例2に記載の学習機能によって得られたK音の特徴を参酌して繰り返し処理することで、ノイズを含む振動信号から精度の高いK音を抽出することが可能になり、高精度で安定した血圧測定が可能となった。このことで、測定中は常時、被験者の状態と血圧測定装置に表示される血圧値を目視観察する必要がなくなり、今まで医師や看護師が拘束されていた血圧測定中の時間を、他の医療業務や臨床研究に回す事が可能になる。
【0054】
一方、事前に操作パネル39から測定時間設定を入力し、自動的に測定開始及び測定停止する機能を付けることで、長時間の血圧測定が可能になる。例えば、血圧測定を1分間隔で実施し、それを60分間連続で繰り返し測定するなどの設定である。高精度で安定した測定に加え、この機能を用いることで、医師や看護師が血圧測定に拘束されることがなくなり、今まで医師や看護師が拘束されていた血圧測定中の時間を、他の医療業務や臨床研究に回す事が可能になる。
【0055】
さらに、外部入出力40を使用し、CPU37に蓄積するデータが一杯にならないよう、外部機器45にデータ保存用のメモリを増設したり、別室にあるモニタに本体41の画面表示をしたり、データをテレメータ等で出力することで、別室での血圧測定の管理が可能になる。
【0056】
被験者の生体データを測定し診断する上で、血圧値の高精度で安定した性能は必須である。本発明の血圧測定装置は、K音について信頼性が高い様々なデータを医師や看護師に提供することができるため、今後の医学発展に十分貢献する機器と考える。
【0057】
なお、前述の実施例では、聴診法を用いた血圧測定装置を主に記載したが、オシロメトリック法を用いた血圧測定装置でも、同様の事が可能である。