(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
筐体内に、マグネシウムまたはマグネシウム合金の負極と、前記負極からマグネシウムイオンが溶出可能な電解液に含まれる電解質を包む不織布または織布からなる非水溶性の袋体とを備え、前記筐体内に水を注ぎ入れることによって電池として作動するマグネシウム一次電池であって、以下(i)(ii)のいずれかを満たすことを特徴とするマグネシウム一次電池。
(i)筐体内に、前記負極とは別部材であり、水と触れて発泡して、水と電解質からなる電解液を攪拌する発泡部材を備えること。
(ii)注水の際に発泡作用を効率よく生じさせて、水と電解質からなる電解液を攪拌するため、前記負極における正極と反対側の面に格子状の溝が設けられていること。
前記筐体には、セパレータを用いずに前記負極と正極とが配置され、前記負極と前記正極との間に前記袋体が設けられることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のマグネシウム一次電池。
前記筐体には、セパレータを用いずに前記負極と正極とが配置され、前記負極と前記筐体の内側壁との間に前記袋体が設けられることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のマグネシウム一次電池。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るマグネシウム空気電池10(マグネシウム一次電池)の斜視図である。
マグネシウム空気電池10は、
図1に示すように、合成樹脂材料で形成された薄型直方体形状の筐体(支持枠体)11を備え、筐体11外に露出する矩形状の空気極13と、筐体11内に収容される矩形状のマグネシウム極(金属極)15(
図3)とを備えている。本構成のマグネシウム空気電池10は、空気極13が正極として作用し、マグネシウム極15が負極として作用する一次電池である。
【0016】
図2は、空気極13を周辺構成と共に示した分解斜視図である。
空気極13は、空気極本体31と、絶縁性多孔質シート33と、網状支持体35とを積層して一体に形成され、開口部23Aを有する空気極側パネル23を介して筐体11の一方の側面に取り付けられている。なお、空気極13は、空気極側パネル23の開口部23Aを通じて外に露出すると共に、筐体11の一方の側面に形成された不図示の開口部を通じて筐体11内にも露出し、通気性と非透水性とを有している。
【0017】
空気極本体31は、所定粘度に調整された導電材料スラリーを集電体に塗布した後に焼成して形成される。具体的には、導電材としてケッチェンブラック粉末を用い、これと水とを攪拌混合した後、これらをバインダーとして用いられるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水性分散液に投入し、攪拌混合することにより所定の粘度の導電材料スラリーを調合する。そして、このスラリーを厚さ1.1mmの発泡ニッケルからなる集電体に塗布した後、100℃で乾燥し、270℃で焼成して、空気極本体となる。
集電体の周囲は予めコイニングされ、その一部に上方に延出して正極端子19が接続されるタブ部31A(
図2)が形成されている。
【0018】
導電材料としては、上記したケッチェンブラック等のカーボンブラックの他に、カーボンウィスカー、グラファイト、グラファイトウィスカー、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノワイヤー、カーボンナノホーン等の炭素材料、銅やアルミニウム等の金属材料、ポリフェニレン誘導体等の有機導電性材料を使用することができる。
また、触媒として、酸素の還元・酸化反応を効率良く行うための触媒が好ましく、上記した白金の他に、コバルトや二酸化マンガン等の金属や酸化物等を使用しても良い。
また、バインダーとしては、上記したPTFEの他に、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂や、スチレン−ブタジエンゴム等のゴム類、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類等を使用することができる。
さらに、集電体としては、上記した発泡ニッケル等の発泡金属の他に、メッシュ状金属等の金属多孔体や、カーボン繊維を用いたカーボンペーパー等を使用することができる。
【0019】
絶縁性多孔質シート33は、酸素を透過させ、水分の透過を抑制する撥水性を備える孔径5〜40μmの多孔質膜である。本実施形態では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる多孔性のシートが用いられ、この絶縁性多孔質シートを2枚重ねて、焼成した空気極本体31の一方の面に同時に圧着している。絶縁性多孔質シートは、集電体の周囲のコイニングした部分を除く充填塗布面と同じか、それより少し大きめに形成されており、本実施形態での空気極本体31の大きさは、縦100mm、横200mm、厚さ0.5mmに形成されている。
【0020】
また、絶縁性多孔質シート33は、上記したPTFEの他に、例えば、クロロプレン、シリコーン樹脂、ポリトリメチルシリルプロピン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、クロロプレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、シリコンポリカーボネート共重合体、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル等を使用することができる。
【0021】
網状支持体35は、ステンレススチール製のエキスパンドメタルで形成されている。本実施形態では、網状支持体35は、鉄を主原料としてクロムやニッケルを混ぜた合金であり、幅0.6mmのストランドで、縦1.7mm、横2.2mmの網目を持つ目の細かいものである。網状支持体35は、圧着した絶縁性多孔質シート33の外側の面に配置され、空気極本体31の周囲と共にその周囲を結着材で結着される。これにより、空気極本体31と、絶縁性多孔質シート33と、網状支持体35とは一体に積層されて空気極13が形成される。
【0022】
網状支持体35としては、上記したステンレススチール製のエキスパンドメタルの他に、例えば、金属や合金から成る金網や、ポリテトラフルオロエチレン等の比較的厚手の合成樹脂から成るパンチングシート等を使用することができる。
本実施形態では、空気極側パネル23の開口部23Aに、網状支持体35を露出するように空気極13を結着材で取り付けている。なお、この構成に限らず、開口部を持つ2枚の合成樹脂性パネルで空気極13を挟み込む様にして取り付けても良い。
【0023】
このように、空気と接する面に絶縁性多孔質シート33を介して網状支持体35を配置したので、網状支持体35の材質を腐食等の心配をすることなく選択することができ、設計の自由度を向上させることができると共に、性能向上を図るために空気極13の厚さを薄くしても機械的強度を保持することができる。このため、電解液による加圧や水素ガスによる圧力にも耐えることができ、空気極13の変形や、該変形により電解液の漏れ等も無く、長時間使用することができる空気極13を提供できる。
なお、本実施形態では、空気極13は横長に形成されているが、これに限るものではなく、縦長で用いる等、自由に空気極の形状を設計できる。
【0024】
図3は、マグネシウム空気電池10の内部構造を短側面側から見たもので、その断面内部構造を模式的に示した図である。
筐体11は、上面部が開放し、この上面部は矩形板形状の蓋部27で覆われる。蓋部27の長手方向中央部には、蓋部27を上下に貫通する注水口27Aが設けられ、この注水口27Aにはガス抜き用の弁体29が着脱自在に設けられる。
蓋部27の一端部(
図1中右端部)には、マグネシウム極15に接続された負極端子17が設けられ、蓋部27の他端部(
図1中左端部)には、空気極13に接続されて当該蓋部27と空気極側パネル23との隙間から延びる正極端子19が形成されている。なお、
図3は空気極側パネル23を省略して示している。
【0025】
マグネシウム極15は、空気極13と所定距離を離間して対向配置され、接着により筐体11の長側面の内側壁に取り付けられる。なお、マグネシウム極15を、四方枠状のスペーサを介して筐体11に取り付けるようにしても良いし、接着以外の方法で筐体11に取り付けるようにしても良い。
このマグネシウム極15は、所定の組成のマグネシウム合金により形成されている。本実施形態では、マグネシウム極15は、上記した空気極13よりもわずかに小さく、縦90mm、横190mm、厚さ1.4mmに形成されている。なお、
図3中、符号HLは、筐体11内に注水されて満たされる電解液の上面を示している。
【0026】
このマグネシウム空気電池10を使用する場合、空気極13とマグネシウム極15との間には、マグネシウム極15からマグネシウムイオンが溶出可能な水溶性の電解液が充填される。
電解液として、安全性及び導電性の高い点からナトリウムイオンを含む塩化ナトリウム水溶液が用いられるが、特にこれに限定されない。
【0027】
このように構成されるマグネシウム空気電池10は、空気極13では絶縁性多孔質シート33を通して供給される酸素と電解液に空気極本体31が接触することにより、正極反応(O
2+2H
2O+4e
-→4OH
-)が進行し、マグネシウム極15では負極反応(Mg→Mg
2++2e
-)が進行し、放電が行われる。マグネシウム空気電池10における全反応は、Mg+1/2O
2+H
2O→Mg(OH)
2となる。
【0028】
ところで、このマグネシウム空気電池10は、内部に電解液が存在しない状態で保管され、電池として使用するときに電解液が満たされる災害用の一次電池として使用される。
この災害用の一次電池としての機能を向上させるため、本実施形態では、筐体11内に、その注水口27Aの直下に電解質を包んだ袋体51(
図3)を予め設けておき、注水口27Aから電解液の溶媒として水を注ぎ入れることにより、袋体51内の電解質が徐々に溶け出して電解液となるように構成されている。なお、
図3中、符号Wは、注水口27Aから水を注ぎ入れるときの水の流れを示している。
【0029】
上記した袋体51は、不織布または織布からなる非水溶性の素材で形成されており、上下逆さま等の様々な姿勢となっても電解質が外部に露出したり、漏れ出したりしないように、電解質である塩化ナトリウムを包んでいる。
より具体的には、袋体51は、塩化ナトリウムの粒径よりも小さい隙間を有し、固体の塩化ナトリウムは通さない一方、水を通す透水性を有している。具体的には、塩化ナトリウムの粒径は0.4mmが最も出回っているため、袋体51の平均孔径は、前記塩化ナトリウムの粒径よりも小さい0.05mm〜0.3mmが好ましい。
【0030】
また、袋体51は、ナイロン等の親水性を有する化学繊維を用いることが好ましい。この場合、不織布または織布からなる布地を、ヒートシールによって容易に溶着することができ、袋体51を容易に製作することができる。特に不織布を用いた場合には、大量生産し易く、材料コストも抑え易くなる。また、化学繊維を用いるため、袋体51の平均孔径や強度の微調整がし易く、また、天然繊維を使用する場合と比べて長期に渡って劣化を抑えることができる、といった利点も得られる。
【0031】
このように筐体11内に電解質を包んだ非水溶性の袋体51を仕込んでおくことにより、電解質を水溶性の紙に包んでおく場合と比較して、水を注ぎ入れた際に袋体51から徐々に電解質を溶け出すことができ、電解液の濃度勾配の上昇を抑えることができる。
このため、一気に電解液の濃度勾配が上昇した場合に生じるマグネシウム極15の不均一な反応を回避することができる。しかも、多湿空間に保管した場合に、袋体51が水分で溶けるといったことがないので、電解質の露出を抑制でき、電解質が筐体11内の部品やマグネシウム極15に付着してこれらを腐食させてしまう事態を避けることが可能になる。
【0032】
電解質として塩化ナトリウムを使用する場合の質量は、注ぎ入れる水の質量に対して4%〜18%の範囲内が好ましい。発明者等が検証したところ、4%未満だと、電解液の抵抗が大きくなり電圧降下が大きくなってしまうため、電圧が低く、取り出せる電力が少なくなってしまうことを確認した。一方、18%より多いと、放電末期に塩化ナトリウムが飽和状態になって析出し、セル内部の極間等に溜まって放電反応を阻害し、放電できなくなることを確認した。
なお、上記の電解質として塩化ナトリウムを使用する場合は塩化ナトリウム以外を含んでも良い。要は、この場合は電解質の主成分が塩化ナトリウムであれば良く、他の成分を含んでも良い。
【0033】
次に、袋体51のレイアウト等を説明する。
まず、本構成のマグネシウム空気電池10は、
図3に示すように、セパレータを用いずに空気極13とマグネシウム極15とを配置し、この空気極13とマグネシウム極15との間に袋体51を配置した構成である。この構成によれば、セパレータを用いない分、上記の放電反応を効率良く行うことができると共に、空気極13とマグネシウム極15との間の空きスペースSAを広く確保できる。従って、この空きスペースSAを利用して袋体51を効率良く配置することが可能になる。言い換えれば、別途空きスペースを設けなくても、袋体51を配置でき、マグネシウム空気電池10の大型化が回避可能である。
【0034】
図3に示すように、袋体51は、注水口27Aを有する蓋部27に設けられ、注水口27Aの直下であって、電解液の液面付近の浸水する高さに配置されている。袋体51を注水口27Aの直下に配置すれば、注水口27Aからの水で袋体51内の電解質を素早く溶かすことができ、注水した瞬間に放電反応を開始させて電気を取り出し易くなる。
また、袋体51を蓋部27に取り付けるので、袋体51の取り付けが容易である。この場合、袋体51をマグネシウム極15に接触しないように配置し易く、且つ、袋体51を配置するためにマグネシウム極15や空気極13を設計変更する事態を避けやすくなる。
【0035】
また、単一の袋体51を用いる場合に限らず、
図4に示すように、袋体51を2箇所に分散配置しても良い。
図4に示す構成では、袋体51は注水口27Aの直下に上下に間隔を空けて配置され、一方の袋体51が、注水口27Aを有する蓋部27の注水口27A直下近傍に取り付けられ、他方の袋体51が、筐体11の底部11Tにおける注水口27Aの直下に取り付けられる。
この構成によれば、複数個の袋体51が注水口27Aの直下に間隔を空けて配置されるので、注水口27Aからの水で各袋体51内の電解質を迅速に溶かすことができる。特に注水開始時に電解質を効率良く溶かすことができるので、放電開始のタイミングを早めて電気を取り出し易くなると共に、注水開始時の濃度勾配を低減して部分的な腐食を回避し易くなる。なお、放電を開始した後は水素が発生するため、この水素の発生により電解液がかき混ぜられ、濃度勾配をより一層低減することが可能である。
【0036】
また、袋体51を分散配置するため、単一の袋体51を配置する場合と比べて、袋体51の1つあたりの電解質量を少なくすることができ、必要量の電解質を包むための各袋体51を小さくすることができる。従って、空気極13とマグネシウム極15との間の空きスペースSAが狭い場合でも、袋体51を空きスペースSA内に配置し易くなる。また、袋体51が小さくなるため、マグネシウム極15から離間して配置し易くなる。
しかも、袋体51を蓋部27や筐体11の底部11Tに取り付けるので、マグネシウム極15に接触しないように配置し易く、且つ、袋体51を配置するためにマグネシウム極15や空気極13の設計変更をより回避し易くなる。
【0037】
続いて、実施例及び比較例を挙げて説明する。なお、以下の実施例や比較例ではマグネシウム空気電池を用いているが、本発明は、電解質に塩化ナトリウムを使用するマグネシウム一次電池に広く適用可能である。例えば、マグネシウム塩化鉛電池、マグネシウム塩化銀電池、マグネシウム二酸化マンガン電池等に適用可能である。
【0038】
また、上記したように袋体51を2箇所に分散配置する場合は、垂直方向への分散ではなく、水平方向に分散させても良い。この場合、例えば、
図1の筐体11を横方向に3分割した分割線の位置に来るように袋体51を配置すると共に、それぞれの袋体15の上部に注水口27A及び弁体29を配置する。
【0039】
(実施例1)
ナイロン製の不織布を用いて、電解液重量に対して10%(注ぎ入れる水の量に対する11%に相当)に相当する33gの塩化ナトリウムを包み、負極であるマグネシウム合金と対向するように、マグネシウム空気電池10の筐体11内の注水口27Aの直下に取り付けた。その後、温度40℃、湿度80%の高温多湿空間に一週間保管後、水を300g注ぎ入れ、電流密度25mA/cm
2で放電させたときのセル電圧を測定した。
【0040】
(実施例2)
ナイロン製の不織布を用いて、電解液重量に対して3%(注ぎ入れる水の量に対する3.1%)に相当する9.3gの塩化ナトリウムを包み、負極であるマグネシウム合金と対向するように、マグネシウム空気電池10の筐体11内の注水口27Aの直下に取り付けた。その後、温度40℃、湿度80%の高温多湿空間に一週間保管後、水を300g注ぎ入れ、電流密度25mA/cm
2で放電させたときのセル電圧を測定した。
【0041】
(実施例3)
ナイロン製の不織布を用いて、電解液重量に対して19%(注ぎ入れる水の量に対する23%)に相当する70gの塩化ナトリウムを包み、負極であるマグネシウム合金と対向するように、マグネシウム空気電池10の筐体11内の注水口27Aの直下に取り付けた。その後、温度40℃、湿度80%の高温多湿空間に一週間保管後、水を300g注水し、電流密度25mA/cm
2で放電させたときのセル電圧を測定した。
【0042】
(実施例4)
ナイロン製の不織布を用いて、電解液重量に対して10%(注ぎ入れる水の量に対する11%)に相当する33gの塩化ナトリウムを包み、負極であるマグネシウム合金と対向するように、マグネシウム空気電池10の筐体11内の注水口27Aの直下ではない場所に位置する底部11Tに取り付けた。その後、温度40℃、湿度80%の高温多湿空間に一週間保管後、水を300g注ぎ入れ、電流密度25mA/cm
2で放電させたときのセル電圧を測定した。
【0043】
(比較例1)
水溶性の紙を用いて、電解液重量に対して10%(注ぎ入れる水の量に対する11%に相当)に相当する33gの塩化ナトリウムを包み、負極であるマグネシウム合金と対向するように、マグネシウム空気電池10の筐体11内の注水口27Aの直下に取り付けた。その後、温度40℃、湿度80%の高温多湿空間に一週間保管後、水を300g注ぎ入れ、電流密度25mA/cm
2で放電させたときのセル電圧を測定した。
【0044】
(比較例2)
マグネシウム空気電池10の筐体11内には電解質を入れず、温度40℃、湿度80%の高温多湿空間に一週間保管後、電解液重量に対して10%の塩化ナトリウム水溶液を300g注液し、電流密度25mA/cm
2で放電させたときのセル電圧を測定した。
【0045】
図5は、実施例1〜4の放電カーブを示している。
図5中、符号f1が実施例1の放電カーブを示し、符号f2が実施例2の放電カーブを示し、符号f3が実施例3の放電カーブを示し、f4が実施例4の放電カーブを示している。
また、表1は、放電時のセル電圧に加えて、一週間保管後に塩化ナトリウムが漏出したか否かを目視等で確認した結果、及び、放電末期に塩化ナトリウムが析出したか否かを目視等で確認した結果を併記している。
【0047】
表1に示すように、実施例1〜4では、一週間保管後であっても塩化ナトリウムは漏出しなかった。このことから、仮に、複数個のマグネシウム空気電池をまとめてラッピングして保管し、災害時に全部開放し、一部または全部を直ぐに使用せず、一週間経過した場合を想定しても、使用上問題ないことが判った。
言い換えれば、マグネシウム空気電池を1個ずつラッピングしなくても、上記の想定では使用上問題がなく、まとめてラッピングする分、安価に提供することが可能になる。
また、ラッピングした状態にしておけば、外部の湿度の影響を受け難くなるため、ラッピング状態では、より長期に渡って水分の影響による塩化ナトリウムの漏出を回避できる。これらによって、長期保管に好適なマグネシウム空気電池と言える。
【0048】
また、実施例1、3では、比較例2のような使用時に電解液を注液するマグネシウム空気電池と同等のセル電圧(1.0V以上)が得られた。このことから、使用時に電解液を注液するマグネシウム空気電池と遜色ない電池性能を得ながら、水を用意できれば電池を使用できるので、場所を選ばず使用することができる、という優位性が得られる。
但し、実施例3は、実施例1と比較して塩化ナトリウムが多く、注ぎ入れる水の量に対して18%を超えるため、放電末期に塩化ナトリウムが飽和状態になって析出することが確認された。塩化ナトリウムが析出すると、放電反応を阻害するため、実施例1よりも放電持続時間が若干短くなってしまうが、5水準の中で最も高いセル電圧であった(
図5参照)。
【0049】
一方、実施例2は、実施例1と比較して塩化ナトリウムが少なく、注ぎ入れる水の量に対して4%未満であるため、セル電圧が0.7Vと低かった。電圧が低いと、駆動できる電気機器が制約され、電池の用途が制約されてしまう。言い換えれば、電圧が低い電気機器を利用する場合等には実施例2の電池でも良い。
【0050】
また、実施例4は、実施例1と比較して、塩化ナトリウムを包んだ袋体51の位置が、注水口27Aの直下でないため、電解質をすばやく溶かすことができず、注水した瞬間から電気を取り出しにくい。そのため、セル電圧が1.0Vに達するまで時間が長くかかってしまった。電圧が低いと、駆動できる電気機器が制約され、電池の用途が制約されてしまう。言い換えれば、電圧が低い電気機器を利用する場合等には実施例4の電池でも良い。
【0051】
これに対し、比較例1では、一週間保管後に塩化ナトリウムが漏出した。このため、筐体11内の部品や負極等が腐食するおそれがあり、保存性に不利である。
また、比較例2では、保存性及び電池性能は得られるものの、上述したように、電池使用時に電解質を調達する必要があり、使用場所が制約されてしまう。
【0052】
以上説明したように、本実施のマグネシウム空気電池10では、マグネシウム極15からマグネシウムイオンが溶出可能な電解質を、非水溶性の袋体51に包んで筐体11内に予め入れておき、筐体11内に水を注ぎ入れることによって電池として作動させるので、水を注ぎ入れるだけで電池として作動すると共に、水を注ぎ入れた際に袋体51内の電解質が徐々に溶け出して濃度勾配を抑制し、且つ、保管時は袋体51により電解質の露出を抑えてマグネシウム極15等の腐食を抑制することができる。
また、電解質の主成分は塩化ナトリウムであるため、例えば、温度20℃では湿度75%まで潮解性を示さず、湿度の影響を受け難い。これによっても、保管時の電解質の露出を抑え、腐食を抑制し易くなる。
【0053】
また、電解質の質量は、注ぎ入れる水の質量に対して4%〜18%の範囲内である場合、電解液が抵抗大となって電圧が低下する事態と電解質が飽和して放電量が少なくなる事態とを効率良く避けることができ、電池性能を良好にすることができる。
また、袋体51は、筐体11の注水口27Aの直下に設けられる場合、注水口27Aからの水で袋体51内の電解質を素早く溶かすことができ、注水した瞬間に電気を取り出し易くなる。
また、電解質は、粉末状若しくは粒状であって、電解液の上面付近の浸水する高さに配置されるので、注水によって電解質を効率よく溶解させることができる。
【0054】
また、セパレータを用いずにマグネシウム極15と空気極13とが配置され、これらマグネシウム極15と空気極13との間に袋体51が設けられるので、放電反応を効率良く行って電池性能を確保し易くすると共に、マグネシウム極15と空気極13との間の空きスペースSAを効率良く利用して袋体51を配置することができる。
また、袋体51は、水の注水口27Aが設けられる蓋部27に取り付けられるので、袋体51の取り付けが容易である。この場合、袋体51を配置するためにマグネシウム極15や空気極13の設計変更を回避し易くなる。
【0055】
この実施形態では、電解質を包んだ袋体51を、筐体11内の上部に設ける場合を説明したが、これに限らず、
図6に示すように、袋体51を筐体11内の下部に設けても良い。
図6の場合でも注水口27Aの直下に設ける場合よりは効率は落ちるが、注水口27Aからの水で袋体51内の電解質を溶かすことができる。
【0056】
次に、本発明の他の実施形態に係るマグネシウム空気電池100(マグネシウム一次電池)を説明する。
図7は、マグネシウム空気電池100の内部構造を短側面側から見たもので、その断面内部構造を模式的に示した図である。なお、上記と同様の部分は同一の符号を付している。
このマグネシウム空気電池100は、折り曲げ自在な1枚のシート材を2つ折りして重ね、その両側縁を接合し、折り曲げ加工して形成された中空箱形状の筐体(支持枠体)111を備えている。筐体111には、空気極13が装着されるとともに、空気極13と対向するようにマグネシウム極(金属極)15が収容される。
【0057】
筐体111は、矩形の底部112と、矩形の前壁部113と、矩形の後壁部114と、左右の側壁部115とを一体に有している。前壁部113には矩形の開口部23Aが設けられ、開口部23Aに空気極13が配置されている。
底部112は、側面部視で下方凸のV字形に形成される。マグネシウム極15の下端は、底部112の傾斜に案内されて下方凸の部分112Aに嵌り、マグネシウム極15の下端が容易に位置決めされる。また、マグネシウム極15の両側には、同一幅の空間SF、SRが設けられる。
【0058】
筐体111の上面部を覆う蓋部27は、前壁部113及び後壁部114の上端を折り曲げることによって形成される。この場合、前壁部113の上端は、マグネシウム極15と空気極13との離間距離を適正に保つ第1折り曲げ部113F1と、マグネシウム極15を上方から挟み込む第2折り曲げ部113F2―1、113F2−2とを形成するように折り曲げられる。また、後壁部114の上端は、マグネシウム極15と空気極13との離間距離を適正に保つ第1折り曲げ部114R1と、マグネシウム極15を上方から挟み込む第2折り曲げ部114R2―1、114R2−2とを形成するように折り曲げられる。
【0059】
ここで、第2折り曲げ部113F2―1、113F2−2は、筐体11の奥行き方向で異なる位置に設けられ、一方の第2折り曲げ部113F2―1は、マグネシウム極15の手前で折り曲げられ、他方の第2折り曲げ部113F2−2は、マグネシウム極15を超えて折り曲げられた部分である。また、第2折り曲げ部114R2―1、114R2−2についても、筐体11の奥行き方向で異なる位置に設けられ、一方の第2折り曲げ部114R2−2は、マグネシウム極15の手前で折り曲げられ、他方の第2折り曲げ部114R2―1は、マグネシウム極15を超えて折り曲げられた部分である。このようにして、マグネシウム極15の上部を強固に支持することができる。
【0060】
上記筐体111は、紙を含有したシート材によって製作される。このシート材には、熱融着性樹脂(例えば、ポリエチレン(PE))で両面がラミネート加工された紙、つまり、ラミネート紙(両面ラミネート紙とも言う。)が用いられている。筐体111にラミネート紙を用いた場合、電解液が外部に染み出す(漏れる)ことがなく、金属缶や樹脂製容器を使用する場合に比して、軽量かつ安価である。
本構成における紙を含有したシート材とは、紙と熱融着性樹脂とをラミネート加工などにより複合化したものである。
シート材中の紙の比率としては、好ましくは50%を超えるようにする。本構成の外装体71は、紙の比率を50%超過とすることで、例えば紙ゴミとして廃棄可能である。紙としては、コートボール、ノーコートボール、板紙、カード紙などの、比較的厚手の強度を有するものが好適に使用できる。熱融着性樹脂としては、シート材を熱融着により接合して、液密な箱形状に形成可能とするものであり、熱融着が可能なものであれば任意の樹脂が使用可能であるが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。熱接着性樹脂の厚さは、十分な熱融着状態を得るために、少なくとも10μm、好ましくは20μm以上とする。外装体の内面側となる面は、密封性をより確実なものとするために、40μm以上の厚さとすることが好ましい。
【0061】
ところで、発明者等が検討したところ、大型電池のように電解質の量や注水量が多くなると、電解質を溶かしきるには時間がかかり、また、注水により電解質を溶かしただけでは、上下間で電解液の濃度にムラが発生する。この場合、真水と塩化ナトリウム水溶液の比重の関係から、塩分濃度が高い領域が筐体111の底部112近傍に形成され、空気極13とマグネシウム極15とが対向する電池反応領域では、電解液の濃度が低くなってしまい、電解液をかき混ぜる、マグネシウム空気電池100を振る、等しなければ十分な起電力が得られないおそれがあった。
しかし、マグネシウム空気電池100内をかき混ぜ可能にする電池構造は実用上考えにくい。また、マグネシウム空気電池100を振ることは、電解液の漏れを招く原因となる。また、大型電池等の電池によっては、振ることが容易でない場合も考えられる。
そこで、本構成では、
図7に示すように、マグネシウム空気電池100の筐体111内に、電解質を包んだ袋体51に加えて、水と触れて発泡する発泡部材121を配置するようにしている。
【0062】
より具体的には、袋体51は、空間SR内、つまり、マグネシウム極15と筐体111の内壁面(後壁部114)との間の空間内において、注水口27Aの直下に設けられる。ここで、注水口27Aは、後壁部114の上部を折り曲げて形成した蓋部27の部分(第1折り曲げ部114R1)に切り欠きを設けることによって形成され、この第1折り曲げ部114R1に袋体51が吊り下げ支持されている。なお、第1折り曲げ部114R1だけでは袋体51の支持強度が不足する場合は、後壁部114の他の部分に袋体51を取り付けるようにしても良い。
【0063】
発泡部材121は、
図7に一例として空間SR内の底部112上に配置した場合を示すように、空間SR内の底部112上であって、注水口27A及び袋体51の直下までの間に配置される。この発泡部材121の素材は、マグネシウム金属若しくはマグネシウム合金であり、この素材から形成した粉末又は粒子、或いは、板状や棒状の部材の少なくともいずれか一つ以上が適用される。板状等の部材を適用する場合、格子状の溝を設ける等して単純形状に比して表面積を増大させることが好ましい。
以上の構成により、水を注ぎ入れた際に、水が発泡部材121に触れた瞬間から発泡作用が生じ、電解液を攪拌させ、電解液の濃度差(濃度勾配)を効果的に抑えることができる。従って、水を注ぎ入れるだけで作動すると共に、水注ぎを入れた際の電解液の濃度勾配を抑制し、且つ、保管時の負極等の腐食を抑制可能なマグネシウム空気電池100を提供することができる。
【0064】
しかも、マグネシウム金属若しくはマグネシウム合金製の発泡部材121を用いるので、電池構成部材として、新たに異種類の物質を筐体111内に使用する必要が無く、マグネシウム極15の製造時に生じる加工屑を活用することができる。また、発泡後の反応生成物と、放電による反応生成物とが同じものであるため、放電反応に影響がでるような物質の発生がない。
【0065】
また、電解質は、粉末状、若しくは粒子状であって、これを上記した袋体51に入れ、筐体111内の注水口27A直下で、電解液の液面付近の浸水する高さに配置される。これにより、注水によって電解質の一部が溶解し、続いて発泡用途のマグネシウム金属若しくはマグネシウム合金により発泡作用が生じて、電解液を攪拌し、残りの電解質の溶解と濃度差の解消を図ることができる。
また、電解質を袋体51に入れ、筐体111内の上部に配置することにより、電解質の位置を保持できるとともに、比重差による電解質の溶解が起こり、より短時間で電解質の溶解と濃度差の解消を図ることができる。
【0066】
また、上記発泡部材121は、電解質の下方の筐体111内に配置固定されるので、比重の関係から電解質の濃度が高い領域(筐体111の下方領域)の電解液を効率良く攪拌することができると同時に、気泡の浮力によって発泡用途のマグネシウム金属若しくはマグネシウム合金が自由に移動してしまうことを回避できる。このため、
図7に示したように、マグネシウム極15と筐体111の内壁面(後壁部114)との間の空間SR内に、発泡部材121を配置した場合、発泡用途のマグネシウム金属若しくはマグネシウム合金が、放電反応領域であるマグネシウム極15と空気極13と間の空間SFに移動することを抑えることができる。
【0067】
また、発泡用途のマグネシウム金属若しくはマグネシウム合金に、粉末、粒子、或いは、単純形状に比して表面積を増大させた形状の部材の少なくともいずれか一つ以上を用いることにより、水と触れる表面積を効率よく稼ぐことができ、また、発泡し易い縁部を多く確保し易くなる。また、マグネシウムの自己放電反応によって水素が発生し、浮力によって、下方にて濃度が高くなった電解液を、濃度が低くなりやすい上部の領域に移動させ、上部の放電反応領域に移動させることができる。
また、この発泡部材121を、マグネシウム極15に一体に設けるようにしても良い。例えば、
図8に示すように、発泡部材121として、マグネシウム極15の空気極13と対向しない側の面に格子状の溝を設けるようにしても良い。この構成によれば、マグネシウム極15に、注ぎ入れた水と触れる表面積を効率よく確保することができ、注水の際に、マグネシウム極15の溝の縁部を利用して発泡作用を効率よく生じさせることができる。
【0068】
続いて、実施例及び比較例を挙げて説明する。
また、所定の条件(放電時間60分、電流設定2A、注水開始より3分以内に放電開始)での電圧の立ち上がりを試験し、その結果を
図9に示している。
実施例Aは、負極(マグネシウム極15)の正極(空気極13)と反対側の面に格子状の溝を設け、且つ、塩化ナトリウム(電解質)の入った袋体51を、電解液の上面付近の浸水する高さに配置した場合であり、図中、「負・塩上」と表記している。
実施例Bは、塩化ナトリウムの入った袋体51を、電解液の上面付近の浸水する高さに配置し、粉末状の発泡部材121を底部112上に配置した場合であり、図中、「粉下・塩上」と表記している。
【0069】
実施例Cは、塩化ナトリウムの入った袋体51と、粉末状の発泡部材121とを底部112上に配置した場合であり、図中、「粉下・塩下」と表記している。
実施例Dは、塩化ナトリウムの入った袋体51を、電解液の上面付近の浸水する高さに配置し、粉末状の発泡部材121を前記袋体51の直下に配置した場合であり、図中、「粉上・塩上」と表記している。
実施例Eは、発泡部材121として、負極(マグネシウム極15)とは別体のマグネシウム合金板を用意し、この発泡部材121を底部112上に配置し、塩化ナトリウムの入った袋体51を、電解液の上面付近の浸水する高さであって、発泡部材121の上方に配置した場合であり、図中、「板下・塩上」と表記している。
【0070】
実施例Fは、発泡部材121として、負極(マグネシウム極15)とは別体のマグネシウム合金板を用意し、この発泡部材121を塩化ナトリウムの入った袋体51の直下に配置し、塩化ナトリウムの入った袋体51を電解液の上面付近の浸水する高さに配置した場合であり、図中、「板上・塩上」と表記している。
なお、実施例E、Fの発泡部材121には、格子状の溝を設けたマグネシウム合金板を用い、このマグネシウム合金板の幅は、負極(マグネシウム極15)とほぼ同じ幅とし、高さを負極よりも格段に低いものとし、空間SR内に配置した。
【0071】
比較例αは、塩化ナトリウム水溶液(電解液)を注液した場合であり(図中、「食塩水」と表記)、比較例βは、塩化ナトリウムの入った袋体51を電解液の上面付近の浸水する高さに配置し、水を注ぎ入れた場合である(図中、「塩上」と表記)。また、比較例γは、塩化ナトリウムの入った袋体51を底部112上に配置し、水を注ぎ入れた場合である(図中、「塩下」と表記)。
【0072】
発明者等の検討によれば、立ち上がりの早さは、「実施例Bの粉下・塩上」、「実施例Fの板上・塩上」、「実施例Dの粉上・塩上」、「実施例Eの板下・塩上」、「実施例Aの負・塩上」、「比較例αの食塩水」、「比較例βの塩上」の順であった。
試験結果では、1V到達までの放電時間は、「実施例Bの粉下・塩上」が9分54秒、「実施例Fの板上・塩上」が16分24秒、「実施例Dの粉上・塩上」が16分26秒、「実施例Eの板下・塩上」が17分27秒、「実施例Aの負・塩上」が18分44秒、「比較例αの食塩水」が22分11秒、「比較例βの塩上」が25分53秒であった。
【0073】
なお、
図9に示す試験結果では、塩化ナトリウムの入った袋体51を底部112上に配置しただけの比較例γ、及び、塩化ナトリウムの入った袋体51と粉末状の発泡部材121とを底部112上に配置した実施例Cが、実用の電圧上昇が見られず、放電時間60分では1Vに到達しなかった。また、塩化ナトリウムの一部が溶けずに底部112上に残留した。
但し、
図9に示すように、発泡部材121を配置した実施例Cの方が、比較例γと比べて電圧の立ち上がりが早く、且つ、電圧値も高かった。つまり、発泡部材121によって立ち上がり特性が向上していることが明らかである。
【0074】
図10は上下の濃度差(下部濃度−上部濃度)を示し、
図11は
図10の一部(塩上)のみに絞って拡大した図を示している。発明者等が検討したところ、塩化ナトリウムの入った袋体51を底部112上に配置した場合(例えば、比較例γ)、上下の濃度差が大きくなり、液抵抗が大きくなり、電圧が低く、電流が小さくなり易かった。
図11に示すように、上下の濃度差を低くする観点からは、「実施例Eの板下・塩上」が最も有利であり、次いで、「実施例Fの板上・塩上」であり、残りの実施例A〜Dはほぼ同等であった。また、
図11の中では「比較例βの塩上」が最も不利であり、このことからも発泡部材121を配置することが有利であることが判る。
【0075】
以上説明したように、本実施の形態では、筐体111内に水と触れて発泡する発泡部材121を有し、この発泡部材121はマグネシウム金属若しくはマグネシウム合金であるため、水を注ぎ入れた際に発泡部材121により電解液を攪拌することができ、電解液の濃度勾配を抑制し、事前の電解液調整作業を不要にできる。しかも、新たに異種類の物質を筐体111内に使用する必要が無く、マグネシウム極15の製造時に生じる加工屑を活用することができ、材料コスト低減にも有利である。また、発泡後の反応生成物と、放電による反応生成物とが同じものであるため、放電反応に影響がでるような物質の発生がない、という効果も得られる。
【0076】
この発泡部材121を電解質より下方に配置固定した場合には、濃度が高くなり易い下方にて電解液を攪拌でき、濃度差を効果的に解消することができる。また、発泡部材121は、粉末状、格子状の溝を設けた平板、負極における正極と反対側の面に格子状の溝を設けた構成の少なくともいずれかであるため、簡易な構成で発泡作用を生じさせることができる。
【0077】
また、
図7及び
図8に示すように、筐体111には、セパレータを用いずにマグネシウム極15と空気極13とが配置され、このマグネシウム極15と筐体111の内側壁(後壁部114)との間に袋体51及び発泡部材121が設けられるので、電解質や発泡用途のマグネシウム金属若しくはマグネシウム合金が、放電反応領域であるマグネシウム極15と空気極13と間の空間SFに直ぐに移動することを避けることができ、放電反応領域での濃度ムラを抑えやすくなる。これによって、濃度ムラに起因する放電反応への影響を抑えることができる。
【0078】
なお、発泡部材121を配置した場合には、上記したように、電解液を積極的に攪拌させることができることから、電解質を上記袋体51に包まずに筐体111内に配置しても、水を注ぎ入れた際の電解液の濃度勾配を抑制することが可能になる。
【0079】
以上、本発明を実施するための形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
例えば、空気極13等の各部の構成は、公知の構成を広く適用可能である。
また、上述の各実施形態では、袋体51を注水口27Aの直下に設ける場合を説明したが、直下から若干ずれた位置でも良く、注水口27Aの直下近傍でも良い。また、注水口27Aの直下及び直下近傍以外であっても、注水口27Aからの水で徐々に電解質を溶け出させることが可能な範囲で、袋体51や発泡部材121の配置位置を変更しても良い。
また、上述の各実施形態では、電解質に塩化ナトリウムを使用する場合を説明したが、これに限らず、アルカリ金属やアルカリ土類金属イオンの塩化物を使用しても良い。