(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いられる粉末状チーズとしては、ナチュラルチーズ及び/又はプロセスチーズを粉末化したものである。
【0009】
上記ナチュラルチーズとしては、例えばゴーダチーズ、パルメザンチーズ、グリュイエールチーズ、エメンタールチーズ、チェダーチーズなどの超硬質チーズ及び硬質チーズが挙げられる。上記プロセスチーズとは、1種又は2種以上のナチュラルチーズを、乳化剤(リン酸塩、クエン酸塩など)、香辛料及び調味料などを加えて加熱、溶解後成形したものである。上記のチーズの中で、好ましくはゴーダチーズ、パルメザンチーズ、グリュイエールチーズ、エメンタールチーズである。
【0010】
上記ナチュラルチーズ及び/又はプロセスチーズを粉末化する方法としては、例えばブロック状のナチュラルチーズ及び/又はプロセスチーズをすりおろしたり、チョッパー、グラインダーなどを用いて細かく粉砕する方法などが挙げられる。なお、本発明で用いられる粉末状チーズは、ナチュラルチーズ及び/又はプロセスチーズを粉末化したものであれば、市販されている粉末状チーズを使用しても良い。
但し、ナチュラルチーズ及び/又はプロセスチーズを、溶融塩で溶解・均質化した後にスプレードライヤーやドラム式乾燥機で乾燥する方法で粉末化したものは、本発明の粉末状チーズには含まれない。
【0011】
本発明で用いられる粉末状チーズの大きさは、約1mm以下の粉末状であることが好ましい。この大きさであれば均一な加熱が可能であり適している。
【0012】
本発明で用いられる粉末状チーズの水分含量は、約8〜40%が好ましく、約8〜35%がさらに好ましい。水分含量が上記範囲であると、粉末状チーズと小麦たんぱく酵素分解物とを混合し加熱する際、粉末状チーズが焦げるのを防ぐことができる。
【0013】
ここで水分含量とは、試料3gを常圧下において105℃・4時間乾燥した際の減量分であり、下記式によって求められる。
水分含量={(乾燥前の質量−乾燥後の質量)/乾燥前の質量}×100
【0014】
本発明で用いられる小麦たんぱく酵素分解物とは、小麦たんぱくを酵素によって分解したものである。
ここで小麦たんぱくとは、小麦たんぱくを含むものであれば特に制限はなく、例えば、小麦、小麦粉、小麦グルテンなどが挙げられる。
【0015】
小麦たんぱく酵素分解物としては、例えば、(a)小麦たんぱくとして小麦(小麦玄麦、精麦など)を用いた小麦たんぱく酵素分解物(以下、小麦酵素分解物という)、(b)小麦たんぱくとして小麦グルテンを用いた小麦たんぱく酵素分解物(以下、小麦グルテン酵素分解物という)などが挙げられる。
【0016】
上記した(a)小麦酵素分解物は、小麦に含まれる小麦たんぱくを酵素によって分解したものであるが、例えば、小麦に麹菌を繁殖させた小麦麹に水を加えた後に熟成させる方法によって得ることができる。なお、小麦麹は市販されている小麦麹を使用しても良い。
【0017】
上記麹菌としては、食用に有用な麹菌であれば特に制限はなく、例えば、アスペルギルス属に属する微生物などであり、具体的には、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・タマリ、アスペルギルス・ウサミ、アスペルギルス・ニガーなどが挙げられる。
【0018】
上記熟成の条件としては、小麦麹に含まれる小麦たんぱくを麹菌が生産する酵素によって分解できれば特に制限はないが、例えば、約35〜50℃で約1〜10日間熟成させることが好ましく、約40〜45℃で約4〜8日間熟成させることがより好ましい。なお、熟成させる際、麹菌以外の微生物の増殖を抑制するために食塩を配合することもできる。
【0019】
熟成させて得られた小麦酵素分解物は、さらに加熱殺菌処理、濾過処理、乾燥処理などの処理を行っても良い。
【0020】
(a)小麦酵素分解物の形態としては、粉末状チーズと混合することを考慮した場合、好ましくは粉末状である。
【0021】
前述した(b)小麦グルテン酵素分解物は、小麦グルテンを酵素によって分解したものであるが、例えば、小麦グルテンに液体麹を加えた後に熟成させる方法によって得ることができる。
【0022】
上記小麦グルテンとしては、粉末状、ペースト状、粒状又は繊維状に成形したものであって、小麦グルテンの含有率が無水物に換算した値で50質量%を超えるものが好ましい。
【0023】
上記液体麹としては、公知の方法で調整されたものを用いることができる。例えば、液体培地に麹菌を接種し、培養温度25〜35℃で通気攪拌し、好気的条件下で培養することにより、液体麹が得られる。
該麹菌としては、食用に有用な麹菌であれば特に制限はなく、例えば、アスペルギルス属に属する微生物などであり、具体的には、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・タマリ、アスペルギルス・ウサミ、アスペルギルス・ニガーなどが挙げられる。
【0024】
上記熟成の条件としては、小麦グルテンを麹菌が生産する酵素によって分解できれば特に制限はないが、例えば、約35〜50℃で約1〜10日間熟成させることが好ましく、約40〜45℃で約4〜8日間熟成させることがより好ましい。
【0025】
熟成させて得られた小麦グルテン酵素分解物は、防黴性を考慮して食塩を加えても良い。また、加熱殺菌処理、濾過処理、乾燥処理などの処理を行っても良い。
【0026】
(b)小麦グルテン酵素分解物の形態としては、粉末状チーズと混合することを考慮した場合、好ましくは粉末状である。このような小麦グルテン酵素分解物としては、粉末発酵うまみ調味料FB(商品名;キッコーマン食品社製)が商業的に販売されており、本発明ではこれを使用することがきできる。
【0027】
以下に本発明の粉末状チーズ加工品の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、粉末状チーズと、小麦たんぱく酵素分解物とを含有する混合物を加熱する工程を有する。
【0028】
混合物は、粉末状チーズと小麦たんぱく酵素分解物が均一になるように混合して得ることができる。混合方法に特に制限はなく、例えば、リボンブレンダ―、ナウターミキサー、撹拌機付のニーダー、撹拌機付の釜など公知の混合装置を用いることができる。
【0029】
混合物の加熱方法としては、公知の加熱方法で加熱すれば良い。加熱装置としては特に制限はなく、例えば、撹拌機付のニーダー、攪拌機付の釜、ホットプレートなどを用いることができる。
【0030】
混合物の加熱のタイミングとしては、粉末状チーズと小麦たんぱく酵素分解物を混合して混合物を得た後に加熱しても良いし、粉末状チーズと小麦たんぱく酵素分解物を撹拌機付の加熱装置に加えて撹拌しながら混合物を得る過程で加熱しても良い。
【0031】
混合物を加熱する際の温度としては、品温が約100〜125℃の範囲で行い、好ましくは約100〜115℃である。加熱時間としては、品温が約100〜125℃に達してから0分〜約60分間加熱することが好ましい。上記加熱温度と加熱時間の範囲内であれば、粉末状チーズにロースト風味を付与及びチーズ感を強化することができる。
【0032】
本発明の製造方法では、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、任意の工程を含んでも良い。例えば、混合物を加熱した後、当該混合物を冷却する工程が挙げられる。冷却する方法は、当該混合物が常温まで冷却できれば特に制限はなく、例えば加熱装置から取り出して放冷する方法や、流動層に移して冷却する方法や、加熱装置内にて放冷する方法などが挙げられる。
【0033】
本発明の製造方法における粉末状チーズと小麦たんぱく酵素分解物との配合量は、粉末状チーズ100質量部に対して小麦たんぱく酵素分解物が約1〜20質量部が好ましく、さらに好ましくは約1〜10質量部である。
【0034】
本発明の製造方法における加熱前の混合物に、糖類及び/又はアミノ酸類をさらに配合することも本発明の形態の一つである。糖類及び/又はアミノ酸類を配合することにより粉末状チーズのロースト風味がさらに強化されるため好ましい。
【0035】
上記糖類としては、例えば、一糖類(キシロース、グルコース、フルクトース、ガラクトースなど)、二糖類(マルトース、スクラロース、ラクトースなど)、三糖類以上のオリゴ糖(ビートオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖など)などが挙げられ、好ましくキシロース、グルコースである。
【0036】
上記アミノ酸類としては、L−トレオニン、リジン、グルタミン酸、グリシン、L−フェニルアラニン、メチオニン及びこれらアミノ酸の塩類が挙げられ、好ましくはL−トレオニン及びその塩類である。
【0037】
糖類及び/又はアミノ欄類の配合量に特に制限はないが、粉末状チーズ100質量部に対して約0.05〜3質量部が好ましく、さらに好ましくは約0.1〜1.2質量部である。
【0038】
本発明の製造方法における加熱前の混合物には、所望により賦形剤をさらに配合することができる。賦形剤としては、例えば粉末セルロース、乳糖、デキストリン、マルチトール、コーンスターチ、澱粉などが挙げられ、好ましくは粉末セルロース、デキストリンである。
【0039】
賦形剤の配合量に特に制限はないが、粉末状チーズ100質量部に対して約5〜30質量部が好ましく、さらに好ましくは約10〜20質量部である。賦形剤を配合することにより、得られた粉末状チーズ加工品の流動性が良くなるため好ましい。
【0040】
本発明の製造方法における加熱前の混合物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、酸化防止剤(ビタミンC、ビタミンEなど)、粉末状乳製品(ホエーパウダー、脱脂粉乳など)、調味料類(砂糖、食塩など)も併用することができる。
【0041】
粉末状チーズと、小麦たんぱく酵素分解物とを含有する混合物を100〜125℃で加熱することを特徴とする粉末状チーズにロースト風味を付与及びチーズ感を強化する方法も、本発明の形態の一つである。
【0042】
以下に本発明を実施例で説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0043】
<小麦酵素分解物及び対照品1、2の作製>
(1)原材料
小麦麹(商品名:小麦こうじ;河村こうじ屋社製)
大麦麹(商品名:麦こうじ1キロ;鈴木こうじ店社製)
食塩
水
【0044】
(2)配合
上記原材料を用いて作製した小麦酵素分解物及び対照品1、2の配合を表1に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
(3)作製方法
[小麦酵素分解物及び対照品1(大麦酵素分解物)の作製]
上記表1と等倍量の原材料を袋の中で1分間混合した。当該混合物を40℃の恒温槽で1週間熟成させた後に凍結乾燥機(型式:RLEII−103;共和真空技術社製)を使用して乾燥し、ハンドブレンダ―(型式:MR5555MCA;ブラウン社製)を使用して粉砕して、粉末状の小麦酵素分解物、対照品1(大麦酵素分解物)を得た。
【0047】
[対照品2(未熟成小麦麹)の作製]
上記表1と等倍量の原材料を袋の中で1分間混合した。その後熟成させず、混合後すぐに当該混合物を凍結乾燥機(型式:RLEII−103;共和真空技術社製)を使用して乾燥し、ハンドブレンダ―(型式:MR5555MCA;ブラウン社製)を使用して粉砕して、粉末状の対照品2(未熟成小麦麹)を得た。
【0048】
<粉末状チーズ加工品の作製>
(1)原材料
粉末状ゴーダチーズ(商品名:粉チーズ芳醇;雪印メグミルク社製)
小麦酵素分解物(上記により得られたもの)
小麦グルテン酵素分解物(商品名:粉末発酵うま味調味料FB;キッコーマン食品社製)
小麦粉(商品名:日清フラワー;日清製粉社製)
未熟成小麦麹(上記により得られた対照品2)
小麦たんぱく酸分解物(商品名:プロエキスHVP−G;播州調味料社製:塩酸によって小麦たんぱくを加水分解したもの)
大麦酵素分解物(上記により得られた対照品1)
粉末セルロース(商品名:KCフロックW−250;日本製紙社製)
D−キシロース(商品名:D−キシロース;岡村製油社製)
L−トレオニン(商品名:L−トレオニン;味の素ヘルシーサプライ社製)
【0049】
(2)配合
上記原材料を用いて作製した粉末状チーズ加工品の配合及び粉末状チーズ加工品製造の際の加熱温度を表2、3に示した。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
(3)粉末状チーズ加工品の製造方法
[実施例1〜4、比較例1〜4]
上記表2及び3と等倍量の原材料を袋の中で1分間混合し、ホットプレート(型式:IHP−30CVC;東芝社製 設定温度150℃)でヘラを用いて撹拌しながら加熱し、品温が110℃に達した後に、ステンレスボールに取り出し、常温まで放冷して粉末状チーズ加工品(実施例品1〜4、比較例品1〜4)を得た。
【0053】
[実施例5]
品温が100℃に達するまで加熱した以外は、実施例1と同様の処理を行い、粉末状チーズ加工品(実施例品5)を得た。
【0054】
[実施例6]
品温が125℃に達するまで加熱した以外は、実施例1と同様の処理を行い、粉末状チーズ加工品(実施例品6)を得た。
【0055】
[比較例5]
品温が90℃に達するまで加熱した以外は、実施例1と同様の処理を行い、粉末状チーズ加工品(比較例品5)を得た。
【0056】
[比較例6]
品温が130℃に達するまで加熱した以外は、実施例1と同様の処理を行ったが、焦げ付いて、粉末状チーズ加工品が得られなかった。
【0057】
<粉末状チーズ加工品の評価>
得られた粉末状チーズ加工品を喫食して、ロースト風味及びチーズ感の官能評価を下記表3に示す評価基準に従い10名のパネラーで評価した。結果は10名の評価点の平均値として求め、以下の基準に従って記号化した。結果を表4に示す。
記号 評価点の平均値
◎ : 平均値3.5以上4.0未満
○ : 平均値2.5以上3.5未満
△ : 平均値1.5以上2.5未満
× : 平均値1.5未満
【0058】
【表4】
【0059】
【表5】
結果より、実施例品については、粉末状チーズにロースト風味を付与及びチーズ感を強化することができた。実施例品3では、粉末状チーズに特にチーズ感を強化することができた。実施例品4では、粉末状チーズに特に香ばしいロースト風味を付与することができた。
一方比較例品については、本発明の効果を得ることができなかった。具体的には、比較例品1では、粉末状チーズにロースト風味を付与することができたものの、粉末状チーズにチーズ感を強化することができなかった。比較例品2では、わずかに、粉末状チーズにロースト風味を付与及びチーズ感を強化することができたものの、十分な効果を得ることができなかった。比較例品3〜5では、粉末状チーズにロースト風味を付与及びチーズ感を強化することができなかった。