(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0018】
図1は、実施の形態に係る建設機械の一例であるショベル1の外観を示す斜視図である。ショベル1は、主として走行機構2と、走行機構2の上部に旋回機構3を介して回動自在に搭載された上部旋回体(以下、単に旋回体ともいう)4とを備えている。
【0019】
旋回体4には、ブーム5と、ブーム5の先端にリンク接続されたアーム6と、アーム6の先端にリンク接続されたバケット10とが取り付けられている。バケット10は、土砂、鋼材などの吊荷を捕獲するための設備である。ブーム5、アーム6、及びバケット10は、それぞれブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9によって油圧駆動される。また、旋回体4には、バケット10の位置や励磁動作および釈放動作を操作する操作者を収容するための運転室4aや、油圧を発生するためのエンジン11といった動力源が設けられている。エンジン11は、例えばディーゼルエンジンで構成される。
【0020】
図2は、実施の形態に係るショベル1の電気系統や油圧系統などのブロック図である。なお、
図2では、機械的に動力を伝達する系統を二重線で、油圧系統を太い実線で、操縦系統を破線で、電気系統を細い実線でそれぞれ示している。
【0021】
ショベル1は電動発電機12および減速機13を備えており、エンジン11及び電動発電機12の回転軸は、共に減速機13の入力軸に接続されることにより互いに連結されている。エンジン11の負荷が大きいときには、電動発電機12が自身の駆動力によりエンジン11の駆動力を補助(アシスト)し、電動発電機12の駆動力が減速機13の出力軸を経てメインポンプ14に伝達される。一方、エンジン11の負荷が小さいときには、エンジン11の駆動力が減速機13を経て電動発電機12に伝達されることにより、電動発電機12が発電を行う。電動発電機12は、例えば、磁石がロータ内部に埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnetic)モータによって構成される。電動発電機12の駆動と発電との切りかえは、ショベル1における電気系統の駆動制御を行うコントローラ30により、エンジン11の負荷等に応じて行われる。
【0022】
減速機13の出力軸にはメインポンプ14及びパイロットポンプ15が接続されており、メインポンプ14には高圧油圧ライン16を介してコントロールバルブ17が接続されている。コントロールバルブ17は、ショベル1における油圧系の制御を行う装置である。コントロールバルブ17には、
図1に示した走行機構2を駆動するための油圧モータ2A及び2Bの他、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9が高圧油圧ラインを介して接続されており、コントロールバルブ17は、これらに供給する油圧を運転者の操作入力に応じて制御する。
【0023】
パイロットポンプ15には、パイロットライン25を介して操作装置26(操作手段)が接続されている。操作装置26は、旋回用電動機21、走行機構2、ブーム5、アーム6、及びバケット10を操作するための操作装置であり、操作者によって操作される。操作装置26には、油圧ライン27を介してコントロールバルブ17が接続され、また、油圧ライン28を介して圧力センサ29が接続される。操作装置26は、パイロットライン25を通じて供給される油圧(1次側の油圧)を操作者の操作量に応じた油圧(2次側の油圧)に変換して出力する。操作装置26から出力される2次側の油圧は、油圧ライン27を通じてコントロールバルブ17に供給されるとともに、圧力センサ29によって検出される。
【0024】
圧力センサ29は、操作装置26に対して旋回機構3を旋回させるための操作が入力されると、この操作量を油圧ライン28内の油圧の変化として検出する。圧力センサ29は、油圧ライン28内の油圧を表す電気信号を出力する。この電気信号は、コントローラ30に入力され、旋回用電動機21の駆動制御に用いられる。
【0025】
コントローラ30は、CPU(Central Processing Unit)及び内部メモリを含む演算処理装置によって構成され、内部メモリに格納された駆動制御用のプログラムをCPUが実行することにより実現される。コントローラ30は、各種センサ及び操作装置26等からの操作入力を受けて、インバータ18A、18B、18C及び蓄電手段101等の駆動制御を行う。
【0026】
油圧モータ310は、ブーム5が下げられるときにブームシリンダ7から吐出される油によって回転されるように構成されており、ブーム5が重力に従って下げられるときのエネルギを回転力に変換するために設けられている。油圧モータ310は、コントロールバルブ17とブームシリンダ7の間の油圧管7Aに設けられている。ブーム回生用発電機300で発電された電力は、回生エネルギとしてインバータ18Bを経て蓄電手段101に供給される。
【0027】
旋回用電動機21は、
図1の旋回機構3に設けられ、上部旋回体4を回動させる。旋回用電動機21は交流電動機であり、旋回体4を旋回させる旋回機構3の動力源である。旋回用電動機21の回転軸21Aには、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、及び旋回減速機24が接続される。旋回用インバータ18Cは、蓄電手段101からの電力を受け、旋回用電動機21を駆動する。また旋回用電動機21の回生運転時には、旋回用電動機21からの電力を蓄電手段101に回収する。
【0028】
旋回用電動機21が力行運転を行う際には、旋回用電動機21の回転駆動力の回転力が旋回減速機24にて増幅され、旋回体4が加減速制御され回転運動を行う。また、旋回体4の慣性回転により、旋回減速機24にて回転数が増加されて旋回用電動機21に伝達され、回生電力を発生させる。
【0029】
レゾルバ22は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転位置及び回転角度を検出するセンサであり、旋回用電動機21と機械的に連結することで回転軸21Aの回転角度及び回転方向を検出する。レゾルバ22が回転軸21Aの回転角度を検出することにより、旋回機構3の回転角度及び回転方向が導出される。メカニカルブレーキ23は、機械的な制動力を発生させる制動装置であり、コントローラ30からの指令によって、旋回用電動機21の回転軸21Aを機械的に停止させる。旋回減速機24は、旋回用電動機21の回転軸21Aの回転速度を減速して旋回機構3に機械的に伝達する減速機である。
【0030】
続いて電気系統について詳細に説明する。電気系統は主として、コントローラ30、電源装置100、インバータ18A〜18Cを備える。
【0031】
(アシスト)
アシスト用のインバータ18Aの2次側(出力)端には、電動発電機12が接続される。インバータ18Aは、コントローラ30の一部であるアシスト用インバータコントローラ30Aからの指令にもとづき、電動発電機12の運転制御を行う。
【0032】
(ブーム回生)
インバータ18Bの2次側(出力)端には、ブーム回生用発電機300が接続されている。上述のようにブーム回生用発電機300は、ブーム5が重力の作用により下げられるときに、位置エネルギを電気エネルギに変換する電動作業要素である。インバータ18Bは、コントローラ30のブーム回生用のインバータコントローラ30Bによって制御され、ブーム回生用発電機300が発生する電気エネルギを直流電力に変換し、電源装置100に回収する。
【0033】
(旋回)
旋回用電動機21、レゾルバ22、メカニカルブレーキ23、旋回減速機24、旋回用インバータ18Cおよびコントローラ30の一部である旋回用のインバータコントローラ30Cは、電動旋回装置500を構成する。
旋回用電動機21は、PWM(Pulse Width Modulation)制御指令により旋回用インバータ18Cによって交流駆動される。旋回用電動機21としては、例えば、磁石埋込型のIPMモータが好適である。
【0034】
旋回用インバータコントローラ30Cは、操作入力に応じた回転速度指令を受け、レゾルバ22により検出される旋回用電動機21の旋回速度が、回転速度指令と一致するように、旋回用インバータ18Cを制御する。
【0035】
(電源)
蓄電手段101とコントローラ30の一部であるコンバータコントローラ30Dは、電源装置100を構成する。蓄電手段101は、例えば蓄電池であるバッテリと、バッテリの充放電を制御する昇降圧コンバータ(双方向DC/DCコンバータ)と、正極及び負極の直流配線からなるDCバスとを備えている(図示せず)。蓄電器としては、リチウムイオン電池等の充電可能な2次電池、キャパシタ、そのほか電力の授受が可能なその他の形態の電源を用いてもよい。DCバスには、インバータ18A〜インバータ18Cそれぞれの1次側(直流入力)が接続されている。コントローラ30Dは、DCバスに生ずるDCリンク電圧が所定の電圧レベルとなるように、双方向DC/DCコンバータを制御する。電源装置100は、電動発電機12等が力行運転する際には、双方向DC/DCコンバータを昇圧動作させ、電動発電機12等が回生運転する際には、双方向DC/DCコンバータを降圧動作させ、電動発電機12が発生した電力を蓄電器に回収する。
【0036】
すなわち、インバータ18Aが電動発電機12を力行運転させる際には、必要な電力をバッテリ及び昇降圧コンバータからDCバスを介して電動発電機に供給する。また、電動発電機12を回生運転させる際には、電動発電機12により発電された電力をDCバス及び昇降圧コンバータを介してバッテリに充電する。なお、昇降圧コンバータの昇圧動作と降圧動作の切替制御は、DCバス電圧値、バッテリ電圧値、及びバッテリ電流値にもとづき、コンバータコントローラ30Dによって行われる。これにより、DCバスを、予め定められた一定電圧値に蓄電された状態に維持することができる。
【0037】
以上がショベル1の全体構成である。続いて、実施の形態に係る電動旋回装置500について詳細に説明する。
【0038】
図3は、実施の形態に係る電動旋回装置500の構成を示す制御ブロック図である。
電動旋回装置500は、旋回用電動機21および旋回用インバータ18Cを備える。旋回用インバータ18Cは、旋回用電動機21を駆動する3相出力のスイッチング回路19と、スイッチング回路19を制御するインバータコントローラ30Cを備える。
【0039】
スイッチング回路19は、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などのパワートランジスタで構成され、パワートランジスタは、インテリジェントパワーモジュール(IPM:Intelligent Power Module)に内蔵されている。IPMは、温度センサ等の各種センサを搭載しており、各種センサは、過電流、制御電源電圧低下、出力短絡、温度異常といった事象を検出し、これらの事象を検出した場合には、IPMエラー信号を出力する。ここで、温度異常の事象は、インバータの温度が所定の運転停止温度以上になったことを意味する。運転停止温度は、例えば100℃に設定される。IPMは、IPMエラー信号を検出すると、IPM自身の保護のために、あるいは駆動対象のモータやインバータの焼損防止のために、駆動対象のモータを駆動するための電流の供給を停止する。この場合には、ショベル1の動作自体も停止され、連続運転が中断される。
【0040】
インバータコントローラ30Cは、相電圧指令生成部35、変調コントローラ36およびパルス幅変調器37を備える。
相電圧指令生成部35は、U相、V相、W相の相電圧指令Vu_ref、Vv_ref、Vw_refを生成する。
【0041】
本実施の形態において、インバータコントローラ30Cは、3相電流Iu、Iv、Iwを、回転座標系であるdq座標系に3相/2相変換し、スイッチング回路19のアーム(トランジスタ)をフィードバック制御するベクトル制御を行う。
相電圧指令生成部35には、前段のコントローラ(不図示)から、d軸電流指令値Id_refおよびq軸電流指令値Iq_refが入力される。また電流センサ(不図示)によって検出された相電流Iu,Iv,Iwの検出値入力される。
【0042】
たとえば相電圧指令生成部35は、誤差検出器31、PI制御部32、2相3相変換器33、3相2相変換器34を備える。3相2相変換器34は、相電流Iu,Iv,Iwの検出値を、回転座標系のd軸電流Id、q軸電流Iqに変換する。誤差検出器31dは、d軸電流指令値Id_refとd軸電流検出値Idの誤差ΔIdを演算し、誤差検出器31qは、q軸電流指令値Iq_refとq軸電流検出値Iqの誤差ΔIqを演算する。PI制御部32dは、誤差ΔIdがゼロに近づくように、d軸電圧指令Vd_refを生成する。同様にPI制御部32qは、誤差ΔIqがゼロに近づくように、q軸電圧指令Vq_refを生成する。2相3相変換器33は、回転座標系の電圧指令Vd_ref、Vq_refを、UVW座標系の相電圧指令Vu_ref、Vv_ref、Vw_refに変換する。
【0043】
変調コントローラ36は、相電圧指令Vu_ref、Vv_ref、Vw_refを、0≦α≦1となる可変パラメータにもとづいて、式(2a)〜(2c)で与えられる制御指令Vu_out、Vv_out、Vw_outに変換する。
Vu_out=Vu_ref+α×{Vbase−max(Vu_ref,Vv_ref,Vw_ref)} …(2a)
Vv_out=Vv_ref+α×{Vbase−max(Vu_ref,Vv_ref,Vw_ref)} …(2b)
Vw_out=Vw_ref+α×{Vbase−max(Vu_ref,Vv_ref,Vw_ref)} …(2c)
【0044】
max()は、最大値を選択する関数である。α=1のときに、たとえばU相の相電圧指令Vu_refが最大であるとする。このとき、制御指令Vu_out、Vv_out、Vw_outは以下の式で表される。
Vu_out=Vbase
Vv_out=Vv_ref+{Vbase−Vu_ref}
Vw_out=Vw_ref+{Vbase−Vu_ref}
【0045】
すなわち式(2a)〜(2c)のアルゴリズムでは、相電圧指令が最大値をとる相において、制御電圧がベース電圧Vbaseに固定される。ベース電圧Vbaseは、キャリア信号Vcの振幅に応じて定められており、キャリア信号Vcのピーク以上の電圧レベルとされる。これにより、相電圧指令が最大値をとる相においてスイッチングが停止する。
【0046】
図4は、パルス幅変調器37の構成例を示すブロック図である。パルス幅変調器37は、キャリア周波数fcを有するキャリア信号Vcを、U,V,W相の制御指令Vu_out、Vv_out、Vw_outそれぞれと比較することにより、3相のパルス信号Su、Sv、Swを生成する。キャリア信号Vcは、ベース電圧Vbaseに応じた振幅を有する三角波形あるいはランプ波形を有する周期信号である。
【0047】
具体的にはパルス幅変調器37は、キャリア信号生成部38、コンパレータ39h、39lを含む。
【0048】
スイッチング回路19の上側アームMHと下側アームMLが同時オンするのを防止するためにデッドタイムが挿入される。デッドタイムを設定するために、キャリア信号生成部38は、所定量シフトした同相の2つのキャリア信号Vc_h,Vc_lを生成する。コンパレータ39hは、キャリア信号Vc_hと制御指令Vu_outを比較し、比較結果に応じてU相の上側アームMHの駆動信号Su_hを生成する。コンパレータ39lは、キャリア信号Vc_lと制御指令Vu_outを比較し、比較結果に応じてU相の下側アームMLの駆動信号Su_hを生成する。U相、W相も同様である。なおキャリア信号生成部38は、U,V,W相で共有することができる。またデッドタイムの挿入方法はこれには限定されず、公知の技術を用いればよい。
【0049】
スイッチング回路19のゲートドライバ19hは、駆動信号Su_hにもとづいて上側アームMHを駆動し、ゲートドライバ19lは、駆動信号Su_lにもとづいて下側アームMLを駆動する。
【0050】
以上が電動旋回装置500の基本構成である。続いてその動作を説明する。
図5は、3相変調および2相変調の基本動作を示す波形図である。時刻t1より前が3相変調を、時刻t1以降が2相変調を示す。
【0051】
図6は、実施の形態において、パラメータαを0〜1まで連続的に変化させたときの動作波形図である。α=0のとき、変調コントローラ36およびパルス幅変調器37の動作は、
図4の時刻t1以前と同様の3相変調である。α=1のとき、変調コントローラ36およびパルス幅変調器37の動作は、
図4の時刻t1以降と同様の2相変調である。αが0と1の中間値をとるときには、3相変調と2相変調の中間的な状態となる。
【0052】
以上が電動旋回装置500の動作である。
実施の形態に係る電動旋回装置500によれば、αを連続的に変化させることで、3相変調と2相変調を連続的に遷移させることができる。
【0053】
続いて、パラメータαの生成方法についていくつかの実施例をもとに説明する。
【0054】
(第1実施例)
図7(a)、(b)は、第1実施例におけるパラメータαと電流指令i
refの関係を示す図である。この実施例では変調コントローラ36にはパラメータαが、電流指令i
refを引数とする関数α=f(i
ref)として定義されている。関数f()は、電流指令i
refが大きくなるほどαが大きくなるように定められる。電流指令i
refは、
図3の制御ブロック図におけるd軸電流指令値Id_refとq軸電流指令値Iq_refの二乗平均平方根√(Id_ref
2+Iq_ref
2)であってもよいし、q軸電流指令値Iq_refであってもよいし、それより上流で生成される電流指令値、言い換えればトルク指令値であってもよい。
【0055】
図7(a)では、実線で示す関数f(i
ref)は、以下のように定められる。
α=0 (i
ref<i
min)
α=(i
ref−i
min)×1/(i
max−i
min) (i
min<i
ref<i
max)
α=1 (i
max<i
ref)
【0056】
これにより、電流指令i
refが所定のしきい値i
minより小さいときには3相変調で、電流指令i
refが所定のしきい値i
maxより大きいときには2相変調で動作させることができ、電流指令i
refがi
min〜i
maxの間であるときには、それらの中間的な状態で動作させることができる。
【0057】
たとえばショベル1の旋回軸が停止した状態から、旋回を開始するときには、大きなトルクが必要とされるため、一時的に電流指令i
refが大きくなる。したがって、旋回開始直後の加速動作時においては2相変調で動作させることで、インバータの損失を低減できるため、ユニットを小型化することが可能となる。またある程度加速した後には制御性に優れる3相変調に切りかえることにより、ショベル1の良好な操作性を確保することができる。
【0058】
図7(b)に示すように、パラメータαを別の関数、たとえば2次関数や指数関数として定義してもよい。
【0059】
2相変調のデメリットとして、3相変調よりも音響ノイズが大きい点が挙げられる。この点に関して、ショベル1においては、電流指令i
refが大きくなるのはパワーや速度が要求される状況であり、これらの状況では、掘削音や走行音、旋回音など、ショベル1が発生する機械的な音が大きいことが多い。したがってインバータの発生するノイズはそれらの機械的な音に埋もれるため、問題となりにくく、したがって2相変調のデメリットは緩和される。
(第2実施例)
第2実施例では、関数f()は、電流指令i
refに加えて、旋回速度指令ω
cmdを引数として定義される。
図8は、電動旋回装置500の速度制御に関する制御ブロック図である。コントローラ30Cは、上流のコントローラから、旋回用電動機21の旋回速度を指示する速度指令ω
cmdを受ける。またレゾルバ22から、旋回用電動機21の現在の旋回速度の検出値ω
resを受ける。コントローラ30Cの速度コントローラ40は、速度指令ω
cmdと検出値ωresの誤差がゼロに近づくように、PI制御によって、旋回用電動機21のトルク指令値τ
refを調節する。トルク電流変換部42は、トルク指令値τ
refを、d軸電流指令値Id_refおよびq軸電流指令値Iq_refに変換する。
【0060】
図9は、第2実施例におけるパラメータαと、電流指令i
refおよび旋回速度指令ω
cmdの関係を示す図である。関数f()は、旋回速度指令ω
cmdの絶対値が小さいほど、αが大きくなるように定められる。
【0061】
第2実施例によれば、速度指令ω
cmdに応じて変調方式を制御することができる。すなわち、ショベル1の旋回軸を高速旋回させるときにはαの値が小さくなり、3相変調で動作し、旋回軸を低速旋回させるときにはαの値が大きくなり、2相変調で動作する。これにより、高速旋回時には、制御性能が高い3相変調で動作することとなるため、良好な操作感を実現でき、それほど高い制御性能が要求されない低速旋回時には、2相変調で動作させることで、消費電力を低減できる。
【0062】
パラメータαに加えて、パルス幅変調器37におけるキャリア周波数fcを制御してもよい。キャリア周波数fcの制御について、第3、第4実施例をもとに説明する。
【0063】
(第3実施例)
図10は、第3実施例におけるキャリア周波数fcと電流指令i
refの関係を示す図である。この実施例では、キャリア周波数fcが、電流指令i
refを引数とする関数fc=g(i
ref)として定義されている。関数g()は、電流指令i
refが大きくなるほどキャリア周波数fcが低くなるように定められる。
【0064】
これにより、電流指令i
refが所定のしきい値i
TH1より小さいときには高いキャリア周波数で、電流指令i
refが所定のしきい値i
TH2より大きいときには2相変調で動作させることができ、電流指令i
refがi
min〜i
maxの間であるときには、それらの中間的な周波数で動作させることができる。
【0065】
たとえばショベル1の旋回軸が停止した状態から、旋回を開始するときには、大きなトルクが必要とされるため、一時的に電流指令i
refが大きくなる。したがって、旋回開始直後の加速動作時においてはキャリア周波数を低下させることで、2相変調で動作することとあいまって、インバータの損失を低減できるため、ユニットを小型化することが可能となる。またある程度加速した後にはキャリア周波数を高めることにより、3相変調で動作することとあいまって、制御性を高めることができ、ショベル1の良好な操作性を確保することができる。
【0066】
関数g()は、
図10のそれには限定されない。
【0067】
(第4実施例)
第4実施例では、関数g()は、電流指令i
refに加えて、旋回速度指令ω
cmdを引数として定義される。
図11は、第4実施例におけるキャリア周波数fcと、電流指令i
refおよび旋回速度指令ω
cmdの関係を示す図である。関数g()は、旋回速度指令ω
cmdの絶対値が小さいほど、fcが低くなるように定められる。
【0068】
第4実施例によれば、速度指令ω
cmdに応じてキャリア周波数を制御することができる。すなわち、ショベル1の旋回軸を高速旋回させるときにはキャリア周波数fcが高くなり、旋回軸を低速旋回させるときにはキャリア周波数fcが低くなる。これにより、高速旋回時には、キャリア周波数を高めて制御性能を高めることで、3相変調で動作することとあいまって、良好な操作感を実現できる。反対にそれほど高い制御性能が要求されない低速旋回時には、キャリア周波数fcを低下させることで、2相変調で動作させることとあいまって、消費電力を低減できる。
【0069】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例を説明する。
【0070】
(第1変形例)
実施の形態では、式(2a)〜(2c)にもとづいて、制御指令Vu_out、Vv_out、Vw_outを生成する場合を説明したが本発明はそれには限定されない。式(2a)〜(2c)に代えて、式(1a)〜(1c)のセットを用いてもよい。
Vu_out=Vu_ref−α×min(Vu_ref,Vv_ref,Vw_ref) …(1a)
Vv_out=Vv_ref−α×min(Vu_ref,Vv_ref,Vw_ref) …(1b)
Vw_out=Vw_ref−α×min(Vu_ref,Vv_ref,Vw_ref) …(1c)
【0071】
min()は、最小値を選択する関数である。α=1のときに、たとえばV相の相電圧指令Vv_refが最小であるとする。このとき、制御指令Vu_out、Vv_out、Vw_outは以下の式で表される。
Vu_out=Vu_ref−Vv_ref …(1a)
Vv_out=0 …(1b)
Vw_out=Vw_ref−Vv_ref …(1c)
【0072】
式(1a)〜(1c)のアルゴリズムでは、相電圧指令が最小値をとる相において、制御電圧が0、すなわちキャリア信号Vcの最小値以下に固定される。これにより、相電圧指令が最小値をとる相においてスイッチングが停止する。
【0073】
あるいは、変調コントローラ36は、式(1a)〜(1c)のセットと、式(2a)〜(2c)のセットと、交互に用いてもよい。
(第2変形例)
実施の形態では、パラメータαを、電流指令i
refあるいは速度指令ω
cmdの関数として変化させる場合を説明したが本発明はそれには限定されない。たとえばパラメータαをインバータの相電流iu、iv、iwの検出値、あるいは旋回速度の検出値ω
resの関数として定義してもよい。あるいはパラメータαを、時間tの関数として定義してもよい。
【0074】
(第3変形例)
実施の形態では、本発明に係るハイブリッド型建設機械の一例として、ショベル1を示したが、本発明のハイブリッド型建設機械の他の例としては、旋回機構を備えるリフティングマグネット車両やクレーン等が挙げられる。あるいは実施の形態では、旋回用電動機21の制御について説明したが、その他の電動機、たとえばパワーアシスト用の電動発電機12にも適用可能である。