特許第6366983号(P6366983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6366983
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】X線管
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/12 20060101AFI20180723BHJP
   H01J 35/00 20060101ALI20180723BHJP
   H01J 35/16 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   H01J35/12
   H01J35/00 A
   H01J35/16
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-78574(P2014-78574)
(22)【出願日】2014年4月7日
(65)【公開番号】特開2015-201298(P2015-201298A)
(43)【公開日】2015年11月12日
【審査請求日】2017年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】東芝電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下野 隆
(72)【発明者】
【氏名】清水 克則
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−096572(JP,A)
【文献】 特開2013−235656(JP,A)
【文献】 特開2010−262784(JP,A)
【文献】 特開2004−079304(JP,A)
【文献】 特開2009−043658(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0230663(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00
H01J 35/12
H01J 35/16
H05G 1/02
G21K 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負の高電圧が印加されて電子を放出する陰極と、
前記陰極に対向し、前記陰極からの電子が射突されてX線を放出する陽極ターゲットと、
底部及び筒部を有する有底筒状に形成されている金属外囲器であって、前記底部には、前記底部を貫通する貫通孔が形成されて前記底部の内面に開口部が設けられ、前記開口部が前記陽極ターゲットで塞がれている金属外囲器と、
前記貫通孔内に冷却液を供給して前記陽極ターゲットを直接冷却する流入冷却路及び前記貫通孔内からの前記冷却液を排出する排出冷却路を備える冷却機構と、
前記陰極を保持する、開口部を備える筒状のセラミック外囲器と、
前記金属外囲器の筒部を前記セラミック外囲器の前記開口部に連結する、導熱性を有する充填部材と、
前記充填部材の内周面に沿って形成され、前記金属外囲器と前記セラミック外囲器とを真空気密に封着する封着金属部と、
前記セラミック外囲器に装着され、前記金属外囲器が微少な隙間を空けて挿通され、前記充填部材で前記セラミック外囲器及び前記金属外囲器に固定され、前記冷却機構に熱的に連結されている金属筒であって、前記セラミック外囲器に伝達された熱を前記冷却機構に伝達するための金属筒と、を備えるX線管。
【請求項2】
前記充填部材は、シリコーンゴムで形成される請求項1のX線管。
【請求項3】
前記充填部材は、シリコーンゴムで接着された金属メッシュで形成される請求項1のX
線管。
【請求項4】
前記充填部材は、熱伝導率が0.2W/m・K以上の部材で形成される請求項1のX線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、冷却機構を有するX線管に関する。
【背景技術】
【0002】
X線管は、X線を利用する種々のX線装置、例えば、X線回折装置等に組み込まれている。このX線管は、一般に、陰極、陽極及びこれら陰極及び陽極を収納するセラミック外囲器及び金属外囲器から構成される真空外囲器を具備している。陰極を包囲するようにセラミック外囲器が設置されている。セラミック外囲器には、陰極が接続固定されている。また、陽極を包囲するように金属外囲器が設置されている。金属外囲器には、陽極が接続固定されている。
【0003】
X線管では、陰極に取り付けられたフィラメントが概ね2000℃以上に加熱されてフィラメントから電子が発生される。陰極および陽極の間には、数10kVの電圧が印加されている。陰極および陽極の間において、フィラメントから発生された電子が加速される。加速された電子は、陽極ターゲットに衝突する。その結果、陽極ターゲットからX線が放射される。
【0004】
よく知られるように、X線の発生に際しては、多くの熱が発生され、陽極ターゲットおよびその周辺の温度が上昇される。通常、連続的に多くのX線を発生させるためには、高温となった陽極ターゲットを水冷などで冷却することが必要とされる。
【0005】
また、加熱されるフィラメントにより陰極もまた高温になるため、陰極も冷却することが必要とされる。しかし、X線管は、陰極に高電圧が印加されるため、冷却機構を取り付けることが困難とされている。陰極を冷却することができない結果、陰極に生じる熱は、セラミック外囲器に伝達され、セラミック外囲器の表面は、概ね100℃近くまで上昇される。
【0006】
X線管への電力供給が停止された後に、陽極が接続固定されている金属外囲器は、陽極ターゲットの冷却機構により速やかに冷却することができる。しかし、陰極が接続固定されるセラミック外囲器は、短期間に冷却することができず、その冷却には、例えば、概ね1時間以上を要している。
【0007】
冷却機構を有するX線管に関しては、例えば、特許文献1に、伝熱媒体を介してセラミック外囲器の一端を金属外囲器に接続し、セラミック外囲器に蓄積する熱を金属外囲器に伝達することによってセラミック外囲器を冷却する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−96572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
X線回折装置における測定では、X線管は、被測定資料に応じて、適切な陽極ターゲットが定まり、適切な陽極ターゲットを備えるX線管に交換されて測定が実施される。従来のX線管では、動作中にセラミック外囲器の温度が高温になり、X線管への電力供給を停止した後にあっても十分に冷却されるまでに長時間を要し、X線管の交換を短時間に行なえず、次の測定までに時間を要している。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、セラミック外囲器に蓄積する熱を効率的に放出することが可能なX線管を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本実施形態に係るX線管は、負の高電圧が印加されて電子を放出する陰極と、前記陰極に対向し、陰極からの電子が射突されてX線を放出する陽極ターゲットと、底部及び筒部を有する有底筒状に形成されている金属外囲器であって、底部には、前記底部を貫通する貫通孔が形成されて底部の内面に開口部が設けられ、前記開口部が陽極ターゲットで塞がれている金属外囲器と、貫通孔内に冷却液を供給して陽極ターゲットを直接冷却する流入冷却路及び貫通孔内からの冷却液を排出する排出冷却路を備える冷却機構と、陰極を保持する、開口部を備える筒状のセラミック外囲器と、を備える。さらに、X線管は、金属外囲器の筒部をセラミック外囲器の開口部に連結する、導熱性を有する充填部材と、充填部材の内周面に沿って形成され、陰極と陽極とを真空気密に封着する封着金属部と、セラミック外囲器に装着され、金属外囲器が微少な隙間を空けて挿通され、充填部材でセラミック外囲器及び金属外囲器に固定され、冷却機構に熱的に連結されている金属筒であって、セラミック外囲器に伝達された熱を冷却機構に伝達するための金属筒と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態に係るX線管を概略的に示す断面図である。
図2図2は、図1に示すX線管の一部を拡大してX線管の構造を説明的に示す拡大図である。
図3図3は、実施形態に係るX線管のセラミック外囲器の表面温度と冷却時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面を参照して実施の形態の説明をする。
【0014】
図1は、実施の形態に係るX線管の内部構造を概略的に示している。この図1に示すように、X線管1は、電子を放出する陰極(陰極構体)10及びこの陰極10に対向され、放出された電子が射突(衝突)してX線を放射するディスク状の陽極ターゲット20を具備し、この陰極10および陽極ターゲット20が筒状の真空外囲器30内に収納され、この外囲器30内の真空の空間に陰極10および陽極ターゲット20が配置される。真空外囲器30には、陽極ターゲット20を冷却するために冷却機構40が設けられている。また、外部電源、例えば高電圧プラグ等が陰極10に接続された場合、陰極10および陽極ターゲット20の間には高電圧(管電圧)が印加される。
【0015】
陰極10は、電子を放出する電子放出源としてのフィラメント11と、放出された電子を陽極ターゲットに向けて収束する為の集束電極12と、第1の高電圧端子13と、第2の高電圧端子14と、絶縁部材15とを有している。陰極10には、後述する陽極20に対して相対的に負の管電圧が印加されている。
【0016】
フィラメント11は、例えば、2つの端子を有している。フィラメント11の端子は、一方の端子が導線を介して第1の高電圧端子13に電気的に接続され、もう一方の端子が導線を介して集束電極12に電気的に接続されている。さらにフィラメント11は、集束電極12を介して第2の高電圧端子14に電気的に接続されている。したがって、第1の高電圧13および第2の高電圧端子14に高電圧が印加された場合、これらの高電圧端子13、14の間の電位差によってフィラメント11に電流(フィラメント電流)が負荷され、電流が負荷されることでフィラメント11が加熱される。加熱されたフィラメント11から電子(熱電子)が陽極ターゲット20に向けて放出される(熱電子放出)。
【0017】
集束電極12は、フィラメント11から発散されて放出される電子を集束するために、電子が通る軌跡を包囲するように配置されている。また、集束電極12は、第2の高電圧端子14に接続されている。外部電源、例えば高電圧プラグ等が陰極10に接続された場合、高電圧プラグから印加される電圧は集束電極12を介して第1の高電圧端子13及び第2の高電圧端子14に印加される。第1の高電圧端子13及び第2の高電圧端子14に印加される電圧による電流の一部が前述のようにフィラメント11から電子として放出され、集束電極12は陽極ターゲット20に衝突するように放出される電子を集束させる。
【0018】
第1の高電圧端子13は、陰極10においてフィラメント11の反対側の端部(上端部)に設けられている。第1の高電圧端子13は、X線管1の中心軸である管軸TAを中心軸とする略円柱型で形成される。第1の高電圧端子13は、中心軸に従って延長する導線を保持している。第2の高電圧端子13から延長する導線は屈曲して、前述のようにフィラメント11の一方の端子に接続されている。
【0019】
第2の高電圧端子14は、管軸TAと同軸の略円筒形状であり、陰極10において上端部が管軸TAの方向に突出している。第2の高電圧端子14は、上端部で後述する絶縁部材15を介して第1の高電圧端子13を保持する。
【0020】
絶縁部材15は、第2の高電圧端子14の上端部に接続されている。また、絶縁部材15は、第1の高電圧端子13と第2の高電圧端子14とを絶縁するようにこれら高電圧端子13、14の間に設置されている。
【0021】
陽極ターゲット20は、陰極10のフィラメント11と対向して配置されている。陽極ターゲット20は、例えばモリブデン(Mo)または、タングステン(W)でディスク状に形成されている。陽極ターゲット20は、フィラメント11から放出される電子が衝突するように配置されている。陽極ターゲット20には、陰極10に対して相対的に正の管電圧が印加されている。陽極ターゲット20と陰極10との間に電位差が生じると、陰極10から放出された電子は、陽極ターゲット20に向けて加速され、集束電極12によって集束され陽極ターゲット20に射突される。加速集束された電子が陽極ターゲット20に衝突することによって、制動放射線により陽極ターゲット20からX線が放射される。
【0022】
陰極10および陽極ターゲット20を収納する真空外囲器30は、密閉され、内部が真空状態に維持されている。すなわち、真空外囲器30は、陰極10および陽極ターゲット20を真空状態で保持している。真空外囲器30は、金属外囲器31と、円筒状のセラミック外囲器32と、リング状の封着金属部33と、金属外囲器31にX線を透過可能なX線照射窓34とを有している。金属外囲器31は、金属部材で形成され、セラミック外囲器32は、電気的絶縁性を示すセラミックで形成される。金属外囲器31の開口側端面と円筒状のセラミック外囲器32の一方の開口端面とは、互いに対向され、その間に充填部材60が充填され、充填部材60の内面には、リング状の封着金属部33が設けられている。
【0023】
より詳細には、金属外囲器31は、管軸TAに一致する中心軸を有する筒状に形成されている。また、金属外囲器31は、筒上部が管軸TAに沿った方向に延出された有底筒状に形成され、陰極10および陽極ターゲット20を包囲するように配置されている。金属外囲器31は、管軸TAに一致する中心軸を有する筒状部を有し、また、底部には、底部を貫通する開口部が形成されている。筒状部の開口端面には、上述したように充填部材60及びリング状の封着金属部33が設けられている。また、底部開口部は、有底部内面に固定された陽極ターゲット20によって塞がれて真空気密状態に維持されている。陽極ターゲット20及び底部開口部は、金属外囲器31の中心軸と同軸に配置されている。金属外囲器31には、X線を外部に放射するためのX線窓34が設けられている。
【0024】
セラミック外囲器32は、金属外囲器31と同様に、管軸TAに一致する中心軸を有する筒状に形成されている。金属外囲器31に連結されるセラミック外囲器32は、金属外囲器31と同軸に設けられている。また、セラミック外囲器32の外径は、金属外囲器31の外径よりも僅かに大きく形成され、後に述べるように金属筒50の内径に略一致し、金属外囲器31及び金属筒50の両者が密着されて金属筒50がセラミック外囲器32に装着されている。セラミック外囲器32は、管軸TAに沿った方向に延出し、陰極10を包囲するように配置されている。セラミック外囲器32は、内部に開口が形成されている支持部を有し、それぞれの両端開口部で開口し、支持部で区画されている第1及び第2の筒状部で構成されている。また、セラミック外囲器32の支持部は、陰極10の端部が支持部開口に装着され、陰極10を支持している。より詳細には、図1に示すように、セラミック外囲器32は、リング状支持部を有している。リング状支持部は、セラミック外囲器32の内周縁側に位置し、管軸TAに垂直な方向に突出している。陰極10が金属外囲器31に向けて第2の筒状部内を延出され、第2の筒状部内を真空気密となるように陰極10(第2の高電圧端子14)がリング状支持部に気密に装着されている。また、第1の筒状部には、開口端側から、陰極10に高電圧を供給する高電圧プラグが装着される。
【0025】
封着金属部33は、管軸TAに一致する中心軸を有する筒状に形成されている。封着金属部33は、金属外囲器31およびセラミック外囲器32の間で、陰極10を包囲するように配置される。封着金属部33は、金属外囲器31の開口端およびセラミック外囲器32の開口端に接合され、金属外囲器31及びセラミック外囲器32で規定された内部空間を真空気密に保持している。封着金属部33は、筒状の肉厚が薄く、熱伝導率が低い材料で形成される。例えば、封着金属部33は、例えば、熱伝導率が20[W/m・K]以下の材料で形成される。
【0026】
X線照射窓34は、上述したように、金属外囲器31の開口を塞ぐように設置されている。X線照射窓34は、陽極ターゲット20から放射されるX線を透過して外部へ放出させる。
【0027】
冷却機構40は、冷却液が流れる冷却路40Pを備え、金属外囲器31に取り付けられている。冷却機構40においては、冷却路40Pが金属外囲器31の側部に流入路(流入冷却路)を備え、この流入路が管軸TA方向に沿って折り曲げられて金属外囲器31の底部開口部内を通り、陽極ターゲット20の底面に直接に冷却水を吹き当てるように、陽極ターゲット20の底面で開口されている。陽極ターゲット20は、衝突噴流冷却を用いて冷却される。陽極ターゲット20の底面(背面)に吹き当てられて底部開口部に流出した冷却水を導くために底部開口部には、冷却路40Pの流出路(排出冷却路)が連結され、この流出路が金属外囲器31外に延出されている。この冷却機構40は、冷却液によって陽極ターゲット20が底面側から冷却され、また、金属外囲器31は、その内部から冷却される。ここで、冷却液には、陽極ターゲット20から放出される熱が直接的に伝達され、また、冷却液には、後述するように陰極10から放出される熱が間接的に伝達される。冷却液は、例えば、純水、水溶液、絶縁油等である。純水および水溶液は、絶縁油と比較して、熱伝導率が高いため、冷却水として純水および水溶液を用いると、陽極ターゲットをより冷却することができる。
【0028】
図2は、金属外囲器31及びセラミック外囲器32、その間に充填される充填部材60、これらを囲む金属筒50並びに充填部材60内面に設けられた筒状封着金属部33から成る連結構造を拡大して概略的に示す断面図である。
【0029】
金属筒50は、管軸TAに一致する中心軸を有する筒状に形成され、この金属筒50には、微少間隙を空けるように金属外囲器31が挿通され、セラミック外囲器32の一部が装着されて金属筒50に固定され、金属筒50は、封着金属部33を囲むように配置されている。この連結構造においては、金属筒50と金属外囲器31との間には、僅かに隙間が形成されているが、充填部材60によって金属筒50、金属外囲器31及びセラミック外囲器32が一体的に連結されている。より詳細には、図2に示すように、金属筒50と金属外囲器31との間に隙間が形成され、金属筒50及びセラミック外囲器32の間は、殆ど密着され、或いは、ごく僅かな隙間形成されているに過ぎない。また、金属筒50の一方の開口端は、セラミック外囲器32に装着され、熱的に両者が連結され、また、金属筒50の他方の開口端は、冷却機構40に接触されている。
【0030】
充填部材60は、金属外囲器31、セラミック外囲器32、封着金属部33、及び金属筒50で包囲された空間に充填され、金属外囲器31、セラミック外囲器32、封着金属部33、及び金属筒50の各々に密着されている。また、充填部材60は、セラミック外囲器32及び金属筒50の間に微少な隙間が生じている場合には、この微少な隙間にも充填されることが好ましい。充填部材60は、例えば、シリコーンゴム、窒化アルミ、銅線製鋼、及び金属メッシュなどがあり、この充填部材60は、シリコーンゴムを接着剤として銅線製鋼または金属メッシュを接着した部材であってもよい。充填部材60は、銅線製鋼または金属メッシュを含んでいることから、銅線製鋼または金属メッシュを含まない場合と比較して熱伝導率が高く、良好にセラミック外囲器32からの熱を金属筒50に伝達することができる。
【0031】
X線管1の動作時において、電子が陽極ターゲット20に衝突することによって生じる熱は、この陽極ターゲット20が冷却機構40に金属外囲器31を介して熱的に連結されていることから、陽極ターゲット20で発生した熱は、金属外囲器31及び冷却路40Pを流れる冷却液を介して、X線管1の外部へ放出させることができる。
【0032】
一方、X線管1の動作時において、陰極10は、負の高電圧を印加されることによって熱を発生する。この陰極10において、例えば、フィラメント11は、2000℃以上の状態になり得る。陰極10に負の高電圧を印加されることによって発生する熱は、熱放射によって集束電極12に伝達され、第1の高電圧端子13及び第2の高電圧端子14に接続されたセラミック外囲器32へ伝達される。セラミック外囲器32へ伝達された熱の一部は、一部はセラミック外囲器32を介して外部へ放出される。また、その他の熱以外の熱の一部は、充填部材60を介して金属筒50へ伝達される。金属筒50へ伝達した熱の一部は、金属筒50の表面から外部へ放出される。金属筒50へ伝達した熱の一部は、冷却機構40に伝達され、冷却機構40を流れる冷却液によって冷却される。金属筒50は、金属外囲器31との間に微少な隙間が設けられていることから、陽極ターゲット20で発生された熱が金属外囲器31を介して金属筒50に伝達して金属筒50が高温となり、セラミック外囲部32へ伝達された熱の伝達を阻害することを防止することができる。
【0033】
また、その他のセラミック外囲部32へ伝達された熱の一部は、充填部材60および封着金属部33に伝達され、この充填部材60および封着金属部33を介して金属外囲器31へ伝達される。ここで、封着金属部33は、前述のように薄い形状に形成され、熱伝導率が低いために多量の熱を伝達できないが、充填部材60が比較的良好な導熱性を有していることから、充填部材60を介して十分な熱が金属外囲器31へ伝達される。金属外囲器31は前述のように冷却機構40に連結されていることから、金属外囲器31へ伝達された熱の一部は、前述のように冷却路40Pを流れる冷却液を介して、X線管1の外部へ放出される。
【0034】
尚、上述した構造を備えたX線管においては、X線管1の動作が停止した後も、動作時と同様に熱が伝達される。
【0035】
図3は、本実施形態に係るX線管1のセラミック外囲器32の表面の温度と冷却時間の関係の一例を示している。図3において、横軸Xには時間[分]が示され、縦軸Yには温度[℃]が示されている。横軸Xと縦軸Yとは垂直に交わる。この交点は、縦軸Yでは温度が0[℃]であることが示し、横軸Xでは時間が−(マイナス)60[分]であることが示す。横軸では、動作停止時が0[分]で示されるため、マイナス(−)の時間は、X線管1が動作中である時間を示す。縦軸Yでは、交点からY軸に従って温度[℃]が上昇する。横軸Xでは、交点からX軸に従って時間[分]が経過する。図3において、前述のように縦軸Yに平行な線SはX線管1の動作が停止した時間を示す。同様に縦軸Yに平行な線Eは、X線管1の動作が停止してから60分後を示す。
【0036】
図3には、熱伝導率が異なる3つの充填部材60を充填した場合のセラミック外囲器32の表面の温度の時間変化が各々の曲線で示されている。図3において、充填部材60は、例えば、熱伝導率が0.2[W/m・K]及び1.2[W/m・K]である。また、比較例として、充填部材60が充填されない場合も示す。図3において、曲線301は、充填部60の熱伝導率が0.2[W/m・K]の場合を示している。また、曲線302は、充填部材60の熱伝導率が1.2[W/m・K]の場合を示している。曲線303は、充填部材60がない場合を示している。図3において、横軸Xに平行な線Y1は、X線管1の動作が停止してから60分後の充填部材60がない場合の温度を示す。例えば、線Y1が示す温度は、約55℃(度)である。また、X1、X2、及びX3は、夫々、曲線301、曲線302、及び曲線303が線Y1で示される温度に達する時間を示す。
【0037】
図3に示すように、充填部材60がない場合と比べて充填部材60がある場合の
方がセラミック外囲器32の表面での冷却の速度、すなわち、冷却の効果が高い(X1<X2<X3)。また、充填剤がある場合でも熱伝導率が高い方がセラミック外囲器32の表面の冷却効果が高い(X1<X2)。
【0038】
以上のように、セラミック外囲器32に蓄積する熱を効率よく放出させることが可能であるX線管1を得ることができる。
【0039】
本実施形態によれば、導熱性を有する充填部材60を少なくともセラミック外囲器32及び金属筒50の各々に密着するように充填することによって、金属筒50へ陰極10の熱を良好に伝達することができる。この結果、セラミック外囲器32に蓄積する熱を効率よく金属筒50へ伝達することができ、ひいては、冷却路40Pを流れる冷却液へ伝達することができる。
【0040】
また、この実施の形態によれば、充填部材60がシリコーンゴムで接着された銅線製鋼または金属メッシュである場合には、充填部材60がシリコーンゴムだけである場合と比較して、熱伝導率が高くなる。この結果、セラミック外囲器32に蓄積している熱がさらに効率よく金属筒50へ伝達される。
【0041】
実施の形態によれば、封着金属部33によって金属外囲器31及びセラミック外囲器32の内側の空間が真空気密状態に維持される。また、封着金属部33も熱を伝達できるために、セラミック外囲器32に蓄積している熱が効率よく金属筒50及び金属外囲器31へ伝達される。
【0042】
また、実施の形態によれば、金属筒50の開口の一端部が冷却機構40に密着し、金属筒50は、金属外囲器31とは直接接直せず、すなわち、金属外囲器31との間に間隙を有する。したがって、セラミック外囲器32に蓄積している熱が金属筒50へ効率的に伝達される。金属筒50へ伝達された熱は冷却路40Pを流れる冷却液を介して外部へ放出される。したがって、セラミック外囲器32に蓄積している熱が効率よく外部へ放出される。
【0043】
なお、本実施形態において、金属筒50とセラミック外囲器32との間に隙間が形成されていたが、金属筒50とセラミック外囲器32とは密着して設置されていてもよい。このとき、セラミック外囲器32に蓄積している熱は、金属筒50に直接的に伝達され、または充填部材60を介して金属筒50に間接的に伝達される。
【0044】
なお、この発明は、上記実施形態そのものに限定されるものでなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具現化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1…X線管、10…陰極、11…フィラメント、12…集束電極、13…第1の高電圧端子、14…第2の高電圧端子、20…陽極ターゲット、30…真空外囲器、31…金属外囲器、32…セラミック外囲器、33…封着金属部、34…X線窓、40…冷却機構40P…冷却路、50…金属筒、60…充填部材、TA…管軸
図1
図2
図3