(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明で言う、部、%、ppmは、特に規定のない限り質量基準である。
【0009】
本発明で使用するポリビニルアルコール( 以下、PVA と略記)は、特に限定されるものではないが、他の成分により変性・共重合されているものでも良く、平均重合度は、500〜3000が好ましく、1000〜2000がより好ましい。また、PVAの鹸化度は80mol% 以上のものが好ましく、90mol% 以上がより好ましい。PVA の重合度や鹸化度が前記範囲外の場合には、硬化前の流動性、硬化後の強度、弾性、遮水性に影響する場合がある。
【0010】
本発明で使用されるPVAは、あらかじめ水溶液として調製しておくことが好ましい。その固形分濃度は用途によって適宜決定されるものであり、特に限定されるものではないが、通常、3〜20%程度とすることが好ましい。3% 未満では硬化体の弾性が不足する場合があり、20% を超えると水溶液の粘性が高くなるばかりか、低温条件下では水溶液がゲル化してしまう問題も発生する。
【0011】
本発明で使用する有機チタン化合物は、特に限定されるものではないが、水酸基やカルボキシル基と反応するもの(架橋剤)である。さらに、有機チタン化合物が水溶性であり、水中で解離などによる変性が無く、水溶液中で反応性を失わないものが好ましい。
本発明で使用する有機チタン化合物は、配位子が、トリエタノールアミン、アセチルアセトン、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、およびグリコール酸の中から選ばれる少なくとも1種であり、かつ、配位子がチタン1 原子あたり2 つ以上配位しているものが好ましい。
有機チタン化合物の具体例としては、チタンラクテート、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、およびチタンペルオキソクエン酸の中から選ばれるものが好ましい。
【0012】
本発明で使用するカルシウムアルミネート系化合物は、石灰石、石灰、消石灰などのカルシウム原料と、ボーキサイトやアルミ残灰などのアルミニウム原料とを、所定の割合で配合し、焼成した後、粉砕したものである。原料としては、主成分であるCaO、Al
2O
3のほかに、SiO
2、Fe
2O
3、MgO、TiO
2、P
2O
5、Na
2O、K
2O、フッ素、塩素、重金属類などの不純物を含む場合があるが、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲では、特には問題とならない。
カルシウムアルミネート系化合物のCaO/Al
2O
3のモル比は、特に限定されるものではないが、0.8〜2.5の範囲であることが好ましい。0.8未満では弾性体の圧縮強度が低くなる場合があり、2.5を超えるとゲル化時間が短くなる場合がある。
カルシウムアルミネート系化合物の粉末度は、ブレーン比表面積で1500〜8000cm
2/gが好ましく、3000〜6000cm
2/gがより好ましい。1500cm
2/g未満の粗粒では十分な強度が得られない場合があり、8000cm
2/g以上を超えた微粉末では反応性が高く、十分な可使時間を確保できない場合がある。
カルシウムアルミネート系化合物のガラス化率は、特に限定されるものではなく、結晶質であっても非晶質であっても使用することができる。結晶質のカルシウムアルミネート系化合物としては、3CaO・Al
2O
3、12CaO・7Al
2O
3、CaO・Al
2O
3、3CaO・5Al
2O
3、CaO・2Al
2O
3、CaO・6Al
2O
3が挙げられる。これらのうち2種以上を併用することも可能である。
なお、本発明では、次に示すX線回折リートベルト法によってガラス化率の測定を行った。粉砕した試料に酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの内部標準物質を所定量添加し、めのう乳鉢で充分混合したのち、粉末X線回折測定を実施する。測定結果を定量ソフトで解析し、ガラス化率を求める。定量ソフトには、Sietronics社の「SIROQUANT」を用いた。
【0013】
本発明で使用する消泡剤は、弾性組成物の材料を混合した際に、泡の生成を抑える、または生成した泡を直ちに消す材料である。消泡剤、破泡剤、抑泡剤、脱泡剤、溶泡剤として一般的に販売されている製品が使用でき、液体、粉末のいずれであっても使用できる。
消泡剤としては、鉱物油系、ポリエーテル系、シリコーン系等が知られているが、本発明で使用する消泡剤の種類は、ゲル化時間に与える影響が小さいことから、鉱物油系材料であることが好ましい。
【0014】
本発明の弾性組成物は、ゲル化速度を制御する目的で、クエン酸、酢酸、グルコン酸、シュウ酸、ギ酸、および乳酸などの有機酸を用いることもできる。ゲル化速度は、用途によって異なるが、ポンプで長距離圧送して施工する場合、30分〜2時間程度であることが好ましい。本発明では、特にクエン酸が好ましい。
【0015】
本発明におけるPVA、有機チタン化合物、カルシウムアルミネート系化合物、水、および有機酸の配合割合は、用途によって異なるため特に限定されるものではないが、前述の材料の合計100%中、PVAは0.5〜10%が好ましく、1〜8%がより好ましい。有機チタン化合物は1〜10%が好ましく、2〜8%がより好ましい。カルシウムアルミネート系化合物は0.5〜5%が好ましく、1〜3%がより好ましい。これら範囲外では硬化前の流動性や、硬化後の弾力性、強度、耐水性、あるいはゲル化時間に影響する場合がある。
消泡剤は、PVA、有機チタン化合物、カルシウムアルミネート系化合物、水、および有機酸の合計100%に対して、外割で50〜500ppmが好ましく、100〜300ppmがより好ましい。50ppm以下で、消泡効果が優れない場合があり、500ppm以上では、弾性組成物のゲル化時間が長くなる場合がある。
水は、PVA、有機チタン化合物、カルシウムアルミネート系化合物、水および有機酸の合計100%中、75〜95%が好ましい。75%以下だと液のゲル時間が短くなりすぎる場合があり、95%以上だと長くなりすぎる場合がある。
【0016】
本発明の弾性組成物は、水酸基やカルボキシル基の架橋剤として従来から使用されているものを、本発明の効果を損なわない範囲で併用することができる。
ただし、従来の架橋剤には、PVA水溶液との混合時にすぐにゲル化したり、酸性雰囲気下でのみゲル化したり、硬化体の強度が低いものがある。従来の架橋剤としては、脂肪族アルデヒド類、芳香族アルデヒド類、トリメチロールメラミンなどのメチロール基を有する化合物、ホウ砂やホウ酸などのホウ素化合物、Zr、Alなどが有機物質と結合した金属アルコキシド類、イソシアネート基を有する化合物などが挙げられる。
【0017】
本発明の弾性組成物は、硬化体の強度や弾性率、密度をコントロールする目的でフィラーを併用することができる。
フィラーは、特に限定されることはなく、無機系や有機系のものが使用可能である。無機系化合物無機系としては、珪石、石灰石などの骨材、ゼオライトなどのイオン交換体などが挙げられ、有機系材料としては、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維などの繊維状物質、イオン交換樹脂、吸水性ポリマーなどが挙げられ、これらを本発明の目的を阻害しない範囲で使用することができる。
【0018】
本発明における弾性組成物の混合装置としては、既存のいかなる装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサー、オムニミキサー、ヘンシェルミキサー、V型ミキサー、ナウタ− ミキサーなどが挙げられる。
【0019】
本発明の組成物を用いて地下構造物周囲の空洞に充填し補修する工法は、特に限定されないが、以下の方法などが適用できる。
空洞や漏水が見られるコンクリート壁にドリルで穴を開け、注入プラグをセットする。その後、本発明の組成物を注入材として、各種ポンプを用いて注入し、空洞部を充填したりコンクリート背面に遮水層を形成する。また、地上から空洞部や構造物周囲に注入管を挿入して、各種注入ポンプを用いて注入することも可能である。
【実施例】
【0020】
以下、実施例で詳細に説明する。
【0021】
「実験例1」
PVAと水を用いて、PVA水溶液を調製した。このPVA水溶液に、有機チタン化合物、カルシウムアルミネート系化合物、有機酸、消泡剤を添加して、直ちに混合を開始した。混合には回転数2000rpmのハンドミキサーを用いた。材料を加えてから2分間混合して、弾性組成物を調製した。弾性組成物の配合を表1に示す。
なお、配合量はPVA水溶液、有機チタン化合物、カルシウムアルミネート系化合物、有機酸の合計を100%として、消泡剤はこの合計量に対する外割の添加量(ppm)で表記する。調製した弾性組成物の泡占有体積比とゲル化時間を評価した。結果を表1に併記する。
【0022】
「使用材料」
PVA:電気化学工業社製、商品名「K−17E」、重合度1700、鹸化度98.7mol%
有機チタン化合物:チタンラクテート(Tiと表記)、松本製薬工業社製、商品名「TC−310」
カルシウムアルミネート系化合物(CAと表記):試作品、CaO50%、Al
2O
340%、SiO
23%、TiO
23%、CaO/Al
2O
3モル比2.3、ガラス化率98%、ブレーン比表面積6000cm
2/g、密度2.92g/cm
3
水:水道水
有機酸:クエン酸、試薬一級品
消泡剤A:鉱物油系、ADEKA社製、商品名「アデカネートB−943」
消泡剤B:鉱物油系、サンノプコ社製、商品名「ダッポーH−106」
消泡剤C:ポリエーテル系、ADEKA社製、商品名「アデカノールLG−805」
消泡剤D:シリコーン系、サンノプコ社製、商品名「ダッポーH203」
【0023】
「測定方法」
泡占有体積比:混合した組成物の全量を、直ちにメスシリンダーに流し込み、組成物中に泡が見える一番下の位置の目盛り(h)と、泡が見える一番上の位置の目盛り(H)を測定した。さらに5分後、10分後、30分後にも同様に評価した。泡占有体積比は、下式で定義し、数値が0に近いほど、泡が少ないことを意味する。
泡占有体積(%)=(H−h)/H×100
ゲル化時間:混合した組成物を、直ちに透明なスチロール瓶に流し込み、容器を傾けても液面、すなわち泡が見える一番下の位置の面が変動しなくなるまでの時間を計測した。
【0024】
【表1】
【0025】
表1より、PVA0.5〜10%、有機チタン化合物1〜10%、カルシウムアルミネート系化合物0.5〜5%、水75〜95%、有機酸を含有し、前述した材料の合計100%に対し、外割で消泡剤
50〜500ppmを含有する弾性組成物は、泡占有体積比が小さく、かつ適切なゲル化時間を示すことができる。さらに、鉱物油系の消泡剤は、他の消泡剤に比べて、ゲル化時間に及ぼす影響が少ない。
【0026】
「実験例2」
実験例1と同様に、PVA、有機チタン化合物、カルシウムアルミネート系化合物、有機酸、水、消泡剤Aを混合し、9種類の配合の弾性組成物を調製した。調製した弾性組成物を、混合してから一定時間後に型枠や模擬試験体に流し込み、圧縮強度、弾性係数、遮水性を評価した。結果を表2に併記する。なお、表2には実験例1で測定した各経過時間後の泡占有体積比を併記する。
【0027】
「使用材料」
弾性組成物a:PVA3%、有機チタン化合物5%、カルシウムアルミネート系化合物2%、水90%、消泡剤Aと有機酸は未添加
弾性組成物b:PVA3%、有機チタン化合物5%、カルシウムアルミネート系化合物2%、水90%、有機酸は未添加、消泡剤A 200ppm
弾性組成物c:PVA3%、有機チタン化合物5%、カルシウムアルミネート系化合物2%、水88%、有機酸2%、消泡剤A 200ppm
弾性組成物d:PVA12%、有機チタン化合物5%、カルシウムアルミネート系化合物2%、水79%、有機酸2%、消泡剤A 200ppm
弾性組成物e:PVA3%、有機チタン化合物12%、カルシウムアルミネート系化合物2%、水81%、有機酸2%、消泡剤A 200ppm
弾性組成物f:PVA3%、有機チタン化合物5%、カルシウムアルミネート系化合物7%、水83%、有機酸2%消泡剤A 200ppm
弾性組成物g:PVA2%、有機チタン化合物2%、カルシウムアルミネート系化合物1%、水95%、有機酸は未添加、消泡剤A 200ppm
弾性組成物h:PVA1%、有機チタン化合物1%、カルシウムアルミネート系化合物1%、水97%、有機酸は未添加、消泡剤A 200ppm
弾性組成物i:PVA3%、有機チタン化合物5%、カルシウムアルミネート系化合物2%、水88%、有機酸2%、消泡剤A 30ppm
【0028】
「測定方法」
圧縮強度:混合した弾性組成物を4×4×4cmの型枠に流し込み、材齢1日で脱型後、JIS R 5201に準拠して測定した。荷重しても供試体が降伏しない場合は、供試体が50%変位したときの荷重から圧縮強度を算出した。
弾性係数:混合した弾性組成物を3×3×3cmの型枠に流し込み、7日間、20℃の環境下で養生して、供試体を作製した。測定は市販の万能試験機(オートグラフ)を用い、供試体に載荷した時の圧力とひずみの関係を測定し、5mm変位させた時の応力と変位から弾性係数を算出した。
遮水性:模擬試験体に、混合した弾性組成物を注入し、注入から24時間後の模擬試験体重量を測定して、漏水量を算出することで遮水性を評価した。模擬試験体は、容量3Lの直方体状ポリプロピレン製容器の側面の下部に直径2mmの穴をあけ、川砂2.7kgを充填し、さらに漏水させるために、上部より水道水600mlを加えた。その直後に、容量10mlのシリンジを用いて、模擬試験体の穴から弾性組成物を毎秒1mlの速度で合計10ml注入を行った。
【0029】
【表2】
【0030】
表2より、PVA0.5〜10%、有機チタン化合物1〜10%、カルシウムアルミネート系化合物0.5〜5%、水75〜95%、有機酸の合計100%に対し、外割で消泡剤
50〜500ppmを含有する弾性組成物は、適度な圧縮強度を示しつつ弾力性に富み、かつ遮水性を有する。これは配合が適切であることと、泡占有体積比が小さく、弾性組成物が十分に充填されたことの2つの要因が寄与していると考えられる。