(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、腹腔鏡手術、胸腔鏡手術、バイオプシー(biopsy、生体材料検査)などでは、術者は、棒状のシャフトを有する手術器具を、ガスにより膨らませた被検体の皮膚に貫通させ、50°乃至60°の俯角で被検体内に挿入させることで作業する。経皮的手術においては、術者は、体内に別途挿入した内視鏡や、術中CT、術中超音波断層画像等によって体内の術野の状態を見ながら、手術を行う。手術器具は、しばしば2個同時に用いられる。術者はこれらの手術器具をそれぞれの手で同時に操作することが多い。例えば、鉗子と超音波プローブ、鉗子と硬性内視鏡、2本の鉗子、などである。
【0003】
手術中において、術者が手を自由に使った作業をしたい時であって、もし助手の手が借りられないならば、術者は、手術を中断し、術具の一方を被検体上に置いてから作業を行う。そして、作業が終わると、術者は再び術具を手に持つことになる。特に、術具が鉗子である場合、鉗子を体内から引き抜いたり挿入したりするには大きな動作が必要であり、また、鉗子を挿入する際には臓器を傷つけるリスクがかなり大きい。
【0004】
そこで、滅菌した術衣を着用した助手の手を借りて、一時的に術具の保持を代行してもらい、術者の手を自由にすることが合理的である。
【0005】
ところが、助手を使う場合、術者と助手との間でのコミュニケーションがしばしばうまく行かず、術者が怒鳴るなど、術者のフラストレーションが高まる原因となっている。また、助手が何人もいると、手術台の周囲に立つ空間がしばしば不足する。
【0006】
そこで、術具(特に鉗子)を一時的に保持する器具が提供されている。
【0007】
保持されるべき器具の一端は皮膚にあけた穴を通っているため、保持は1点で行えば十分である。しかし、ただ単にシャフトを器具に引っかけるだけでは術具が自重で被検体内に落ち込んで行ってしまうので、滑らないように保持する必要がある。
【0008】
例えば、鉗子ではなく、硬性内視鏡をロボットに保持させて音声認識を使って適宜位置を調節させる装置(AESOP:Automated Endoscopic System for Optimal Positioning)は公知・公用である。また、音声ではなくスイッチを使って操作するロボット(内視鏡下手術支援ロボット:MTLP−1)もある。いずれも、硬性内視鏡に専用の金具を取り付けて、この金具をロボットアームに接続したまま使用する。ただし、AESOPでは、音声認識は大変使いにくいため、ロボットの電力をOFFにした状態で、アームを手で掴んで手動で調節し、内視鏡を適切な位置に保持させるという使い方がしばしばなされている。
【0009】
同様に、鉗子に専用の金具を取り付けて、この金具をロボットアームに接続したまま使用することは容易に考えられる。すなわち、ロボットは鉗子の動作に常時追従して、術者の操作を妨げないようにする。そして、保持を命じられると、追従動作を中止して全ての関節をロックするように構成すれば良い。
【0010】
ところが、術者の動作はしばしば非常に急速であり、これに完全に追従して動作の妨げに成らないようにすることは、技術的にかなり高度な課題である。さらに、鉗子は複数の種類を差し替えて使う。従って、ロボットに鉗子を取り付ける操作を毎回行わねばならない。
【0011】
さらに、電動モータを用いたロボットでは、漏電によって患者に電流が流れることがある。大電流が危険なのは言うまでもないが、微弱電流でも心停止等を生じるおそれがある。ロボットでは、リフトの暴走による異常な動作が生じた場合に、患者に危害を及ぼすおそれがある。
【0012】
いずれにせよ、ロボットが常時鉗子の動きに追従するシステムは、非常に高価であり、ただ鉗子を一時静止した状態で保持するための装置としては、経済合理性がないという問題がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る術具保持装置の全体を示す全体図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係り、寝台レールへの取り付けフックの取り付けと、鉛直アームの上下動に関する図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係り、保持部の外観の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係り、保持部の構造の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係り、術具を保持部に配置した状態を示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係り、保持部におけるカムの底(矢印の先端の太線)に、術具を押しつけた状態を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係り、バネの弾性力によりカムの回転を示す図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係り、バネの弾性力により術具を固定した固定状態を示す図である。
【
図9】
図9は、本実施形態に係り、カムに対する術具の自重の解放の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係り、術具に対してカムが力を及ぼさない状態を示す図である。
【
図11】
図11は、本実施形態に係り、バネの弾性力によるカムの回転により、術具が解放される解放状態を示す図である。
【
図12】
図12は、本実施形態に係り、バネの位置に対するバネの弾性エネルギーの一例を示す図である。
【
図13】
図13は、本実施形態の第3の変形例に係る保持部の概要を示す概要図である。
【
図14】
図14は、本実施形態の第3の変形例に係り、術具を把持した把持部分の回転の様子の一例を示す図である。
【
図15】
図15は、本実施形態の第3の変形例に係り、固定部と把持部分とで挟むことにより固定された術具の固定状態の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、本実施形態の第3の変形例に係り、
図13乃至
図15における術具より太い術具が、術具配置部分に配置された一例を示す図である。
【
図17】
図17は、本実施形態の第3の変形例に係り、
図13乃至
図15における術具より太い術具を把持した把持部分の回転の様子の一例を示す図である。
【
図18】
図18は、本実施形態の第3の変形例に係り、固定部と把持部分とに挟まれることにより、
図13乃至
図15における術具より太い術具を固定した固定状態の一例を示す図である。
【
図19】
図19は、本実施形態の第3の変形例に係り、
図16における術具よりさらに太い術具が、術具配置部分に配置された一例を示す図である。
【
図20】
図20は、本実施形態の第3の変形例に係り、固定部と把持部分とに挟まれることにより、
図16における術具より太い術具を固定した固定状態の一例を示す図である。
【
図21】
図21は、本実施形態の第4の変形例に係る保持部の概要を示す概要図である。
【
図22】
図22は、本実施形態の第4の変形例に係り、第1把持部分と第2把持部分とに接触して術具が配置された状態を示す図である。
【
図23】
図23は、本実施形態の第4の変形例に係り、第1乃至第3把持部分により固定された術具を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る術具保持装置を説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
図1は、本実施形態に係る術具保持装置の全体を示す全体図である。術具保持装置1は、取り付け部3と、支持部11と、解除レバー13と、鉛直アーム15と、水平アーム17と、保持部31とを有する。
図2は、寝台レール9への取り付けフック5の取り付けと、鉛直アーム15の上下動に関する図である。
図3は、保持部31の外観の一例を示す図である。
【0017】
図1および
図2に示すように、本術具保持装置1は、重複を除いて5つの自由度を有する。5つの自由度は、直交3軸における3並進の自由度と、2つの回転自由度である。なお、本術具保持装置1の動作に関する自由度は、5つの自由度に限定されない。
【0018】
鉛直アーム15により上下動を固定してしまえば、水平アーム17と、水平アーム17の端部に設けられた保持部31は、水平面上において移動可能となる。このため、はじめに上下動(鉛直アーム15の位置)を調節して、手術寝台7に載置された被検体の身体の最高部(厚み)よりも高い位置に水平アーム17を配置させれば、残りの自由度をどのように動かしても、水平アーム17と保持部31とは、被検体に接触することはない。
【0019】
取り付け部3は、取り付けフック5を有する。取り付けフック5は、手術寝台7の長軸方向に沿って、手術寝台7の側面に設けられた寝台レール9に取り付けられる。取り付けフック5は、寝台レール9にそって、手術寝台7の長軸方向にスライドさせて移動可能である。
【0020】
支持部11は、取り付けフック5に設けられる。支持部11は、図示していないラチェット機構を有する。支持部11は、ラチェット機構により、鉛直アーム15を、手術寝台7に対して鉛直方向に移動可能に支持する。支持部11におけるラチェット機構は、術者による操作により、鉛直アーム15を鉛直方向に沿って、1方向に所定の幅で移動させる。
【0021】
解除レバー13は、ラチェット機構における歯止めを歯車から解除する。すなわち、術者により解除レバー13が操作されると、支持部11のラチェット機構内の歯止めが、歯車から解放される。
【0022】
鉛直アーム15は、ラチェット機構により、鉛直方向に移動可能に支持される。鉛直アーム15は、術者の操作により、鉛直方向に移動可能なアームである。鉛直アーム15は、解除レバー13の操作により上記1方向の逆方向に移動可能となる。
【0023】
水平アーム17は、第1アーム19と、第1接続部21と、第2接続部23と、第2アーム25と、第3接続部27と、第4接続部29と、保持部31とを有する。第1乃至第4接続部各々は、ラチェット機構を有する。なお、水平アーム17におけるアームの数は、2つに限定されない。
【0024】
第1アーム19の一端は、第1接続部21を介して鉛直アーム15に接続され、鉛直アーム15に支持される。第1接続部21のラチェット機構による水平アーム17および第1アーム19の回転軸は、
図1に示す回転軸aである。水平アーム17および第1アーム19は、回転軸a周りに術者の操作により回転可能である。第1アーム19の他端は、第2接続部23を介して、第2アーム25に接続される。第2接続部23のラチェット機構による第2アーム25の回転軸は、
図1に示す回転軸bである。
【0025】
第2アーム25の一端は、第2接続部23を介して第1アーム19の他端に接続され、第1アーム19に支持される。第2アーム25は、回転軸b周りに術者の操作により回転可能である。第2アーム25の他端は、第3接続部27および第4接続部29を介して、保持部31に接続される。第3接続部27のラチェット機構による保持部31の回転軸は、
図1に示す回転軸cである。第4接続部29のラチェット機構による保持部31の回転軸は、
図1に示す回転軸dである。
【0026】
保持部31は、第3接続部27および第4接続部29を介して、第2アーム25の他端に接続され、第2アーム25に支持される。保持部31は、回転軸bおよび回転軸c周りに術者の操作により回転可能である。
【0027】
図4は、保持部31の構造の一例を示す図である。
図4に示すように、保持部31は、固定部33と、固定ピン37と、バネ39と、把持部分(以下、カムと呼ぶ)43と、カムピン45と、カバー47とを有する。なお、バネ39の代わりに、任意の弾性体が用いられても良い。カム43は、医療用の術具35を保持するための凹型形状を有する。カム43の中央部分には、カム43の回転に関する回転軸41が設けられる。ここで、術具35とは、例えば、50乃至60cmの長さを有し、200乃至300g程度の棒状の手術器具である。
【0028】
固定部33は、術具35の保持時および解放時と、保持時と解放時との遷移区間において不動である。固定ピン37は、固定部33とバネ39の一端とを接続する。固定ピン37は、術具35の保持時および解放時において不動である。回転軸41は、カム43の回転において、回転中心となる。回転軸41は、固定部33に接続される。カムピン45は、バネ39の他端とカム43とを接続する。カムピン45は、カム43の回転に応じて、回転軸41とカムピン45との距離を一定に保って、カム43とともに移動する。カバー47は、固定ピン37、バネ39、回転軸41、カムピン45を覆う。
【0029】
なお、カム43および固定部33は、術具35と接する部分において、例えば、鋳物の表面のような所定の摩擦係数を有する。所定の摩擦係数とは、例えば、術具35を保持したときにおいて、術具35が自重により滑り落ちず、かつ術具35が回転しない程度の静止摩擦係数である。また、固定部33とカム43とによる術具35を挟む力は、例えば、術具35が弾性変形する程度の力でもよい。なお、保持部31における固定部33とカム43とのうち少なくとも一方において術具35と接触する部分は、適当な弾性体(例えばゴムなど)により構成されても良い。
【0030】
(動作・使用方法)
以下、本術具保持装置1の動作および使用方法について説明する。
【0031】
(1)手術寝台7への取り付け
取り付けフック5が寝台レール9に取り付けられる。このとき、術者は、所望の位置まで取り付けフック5を寝台レール9に沿って、スライド移動させる。取り付けフック5は、術者が所望する位置に固定される。寝台レール9への取り付けフック5の固定後、原則として取り付けフック5の取り付け位置は、動かされない。
【0032】
支持部11のラチェット機構による上下動の自由度を用いて鉛直アーム15を鉛直方向に移動させることにより、水平アーム17の高さが調節される。鉛直アーム15の移動により水平アーム17の高さが調整されると、原則として水平アーム17の高さは変更されない。
【0033】
(2)位置の調整
術者が本術具保持装置1の先端(たとえば保持部31など)を掴んで、先端が任意の位置に移動されると、第1乃至第4接続部におけるラチェット機構により、先端は、概ね、移動させた位置で止まる。術者が先端を掴んで回転軸d周りに捻ると、先端の角度は、第4接続部29のラチェット機構により、概ね捻った角度で止まる。
【0034】
(3)術具35の保持
術具35のシャフトを保持部31のくぼみに移動させて、シャフトを介してカム43を軽く押し込むことにより、術具35は、保持部31に保持される。具体的には、術具35は、術具35の自重による摩擦力およびバネ39の弾性力により、カム43と固定部33とで挟まれる。これにより、術具35は、保持部31に回転不能に固定されて、保持される。すなわち、保持部31は、術具35を回転不能に固定する固定状態となる。これにより、術者は術具35から手を離しても、術具35は、保持部31に保持され、かつ長手軸を中心とする回転も生じなくなる。
【0035】
(4)術具35の保持の解除
術者が、保持部31に保持されている術具を持ち上げると、保持部31による術具35の固定が解除される。具体的には、術者が術具35を持ち上げることにより、保持部31に掛かる術具35の自重が解放され、バネ39の位置が後述する双安定状態の境界を越えると、保持部31は、術具35の固定状態から術具35が移動可能な解放状態に遷移する。
【0036】
(5)水平アーム17の移動
術者にとって、本術具保持装置1の水平アーム17が邪魔になるときには、手か術具(鉗子)35のシャフトで水平アーム17を任意の位置へ押しやることにより、水平アーム17を移動させる。
【0037】
(術具35の保持動作)
以下、保持部31による術具35の保持動作について説明する。
【0038】
(1)保持部31への術具35の配置
図5は、術具35を保持部31に配置した状態を示す図である。術具35は、カム43にまだ接触していない。
図5に示すように、引き延ばされたバネ39は、カム43の支点である回転軸41よりも上方に位置している。
【0039】
(2)術具35によるカム43への押しつけ
図6は、保持部31におけるカム43の底(矢印の先端の太線)に、術具35を押しつけた状態を示す図である。
図6に示すように、カム43の底部分を術具35で押すことで、バネ39は、一旦さらに引き延ばされ、支点である回転軸41を超えて下方に位置することになる。
【0040】
(3)カム43の回転
図7は、バネ39の弾性力によりカム43の回転を示す図である。
図7に示すように、バネ39が支点を超えて回転軸41の下方に位置すると、弾性力に応じてバネ39が縮む。バネ39の収縮により、カム43は、回転軸41を支点として反時計回りに急激に回転する。カム43の回転に伴い、術具35は、カム43により、上方から固定部33に押さえられる。
【0041】
(4)術具35の固定
図8は、バネ39の弾性力により術具35を固定した固定状態を示す図である。
図8に示すように、バネ39の収縮力により、術具35は、カム43に押されて、保持部31の固定部33に押しつけられる。これにより、術具35は、保持部31と術具35との接触部分において、術具35の自重による摩擦力により、回転不能に固定される。
【0042】
(術具35の解放動作)
以下、保持部31による固定された術具35の解除動作について説明する。
【0043】
(1)術具35の移動
図9は、カム43に対する術具35の自重の解放の一例を示す図である。
図9に示すように、術具35は、術者により上方に向けて持ち上げられる。なお、術具35は、術具35の保持動作におけるカム43の回転とは逆方向(時計回り)に軽く回転されても良い。カム43に対する術具35の加重の解放に伴い、術具35に押されてカム43が時計回りに回転する。このとき、バネ39は、わずかに引き延ばされる。
【0044】
(2)術具35に対するフリー状態
図10は、術具35に対してカム43が力を及ぼさない状態を示す図である。
図10に示すように、バネ39が回転軸41上に位置する時、カム43は、術具35に力を及ぼさない。
【0045】
(3)術具35の解放
図11は、バネ39の弾性力によるカム43の回転により、術具35が解放される解放状態を示す図である。
図11に示すように、バネ39が支点を超えて回転軸41の下方に位置すると、弾性力に応じてバネ39が縮む。バネ39の収縮力により、カム43は、回転軸41を支点として一気に時計回りに回転する。カム43の回転に伴い、術具35は、保持部31から解放される。
【0046】
保持部31により術具35の固定を維持する固定状態と、保持部31から術具35を解放可能な解放状態とは、カム43の回転軸41におけるバネ39の位置を境界として、双安定状態を形成する。
図12は、本実施形態におけるバネ39の位置に対するバネ39の弾性エネルギーの一例を示す図である。
図12におけるグラフの鞍点は、回転軸41上にバネ39が位置する時の弾性エネルギーを示している。また、
図12から明らかなように、固定状態におけるバネ39の配置と解放状態におけるバネの配置とに関するバネ39の弾性エネルギーは、回転軸上におけるバネ39の配置による弾性エネルギーより小さい。
【0047】
また、
図12における固体状態および解放状態における弾性エネルギーと、回転軸41上にバネ39が位置する時の弾性エネルギーとの差は、カム43に対する術具35の仕事に対応する。すなわち、このエネルギー差は、術具35をカム43に押し当てて、バネ39を回転軸41上に位置させるためのバネ39ののびに対応する弾性エネルギーである。なお、固定状態と解放状態との弾性エネルギーは、異なっていてもよい。
【0048】
(第1の変形例)
本実施形態との相違は、第1乃至第3接続部各々がガスクラッチを有することにある。
【0049】
本術具保持装置1は、加圧ガス(気体)を第1乃至第3接続部各々に供給する加圧ガス供給管と、後述するガスクラッチへの加圧ガスの供給のオンとオフを切り替えるスイッチとを有する。加圧ガスとは、例えば、手術室に供給されている空気、酸素などである。
【0050】
第1乃至第3接続部各々は、所定の加圧ガスにより作動するガスクラッチを有する。術者により上記スイッチがオンされると、ガスクラッチに加圧ガスが供給され、水平アーム17の固定が解除される。また、術者により上記スイッチがオフされると、ガスクラッチへの加圧ガスの供給が停止し、水平アーム17が固定される。
【0051】
(第2の変形例)
本実施形態との相違は、保持部31におけるカム43の動作部分において、加圧ガスの供給により、より強く術具35を保持することにある。すなわち、本変形例では、術具35をより強く保持するために、電動モータなどの電動部品は不要である。このため、電動モータを用いたロボットとは異なり、患者に対する漏電のおそれがない。さらに、加圧ガスの供給が停止したとしても、後述するように本変形例に係る術具保持装置1では異常な動作は生じない。これらのことから、本変形例に係る術具保持装置1では、患者に危害を及ぼすおそれがない。
【0052】
本術具保持装置1は、加圧ガスを保持部31におけるカム43の動作部分に供給する加圧ガス供給管を有する。なお、本変形例に係る術具保持装置1は、後述するガスシリンダまたはバルーンへの加圧ガスの供給のオンとオフを切り替えるスイッチを有していてもよい。
【0053】
保持部31は、加圧のガスの供給により作動するガスシリンダまたはバルーンを有する。ガスシリンダまたはバルーンは、例えば
図4において、固定ピン37とカムピン45との間に設けられる。保持部31により術具35が保持されると、ガスシリンダまたはバルーンに加圧ガスが供給される。加圧ガスの供給により、ガスシリンダまたはバルーンが作動し、カム43は、術具35を強く保持する。すなわち、ガスシリンダまたはバルーンを介した加圧ガスの圧力により、カム43は、術具35をより強く固定部33に押しつける。これにより、術具35を保持する保持力が強化される。なお、上記スイッチのオンにより、ガスシリンダまたはバルーンに加圧ガスが供給されても良い。術具35の解放は、まず、加圧ガスの供給が遮断される。次いで、加圧ガスが、ガスシリンダまたはバルーンから排出される。その後、実施形態における説明と同様にして、術具35が、保持部31から解放される。
【0054】
(第3の変形例)
本実施形態との相違は、保持部31における機構が異なることにある。
【0055】
図13は、本変形例に係る保持部の概要を示す概要図である。
保持部31は、固定部33と、回転軸41と、把持部分43と、固定軸49とを有する。固定部33は、回転軸41を介して、把持部分43を回転可能に支持する。把持部分43は、術具35が配置される術具配置部分を有する。術具配置部分とは、例えば、
図13において、把持部分のV型に相当する部分である。把持部分43は、術具配置部分に術具35が配置されると、術具35の自重により、反時計回りに回転軸41周りに回転する。
図14は、術具35を把持した把持部分43の回転の様子の一例を示す図である。把持部分43は、回転軸41を介して術具配置部分に対向する位置に重心を有する。把持部分43の自重は、術具35の自重より軽い。術具35は、把持部分43と固定部33とに挟まれることによる摩擦力によって、保持部31により固定される。
図15は、固定部33と把持部分43とで挟むことにより固定された術具35の固定状態の一例を示す図である。
図15に示すように、術具35が細いとき、固定部33における凹部の最奥部まで、術具35は移動する。
【0056】
保持部31により固定された術具35の解放は、保持部31に対する術具35の加重を解放することにより実現される。具体的には、術具35が術者により持ち上げられると、把持部分43は、無加重状態となる。このとき、把持部分43の自重により、把持部分43は、固定軸49に接触するまで回転軸41周りに時計回りに回転する。これにより、保持部31の解放状態が実現される。
【0057】
図16は、
図13乃至
図15における術具35より太い術具35が、術具配置部分に配置された一例を示す図である。このとき、術具35は、
図17、
図18に示すように、固定部33における凹部の底部分まで回転され、保持される。
【0058】
図19は、
図16における術具35よりさらに太い術具35が、術具配置部分に配置された一例を示す図である。このとき、術具35は、
図20に示すように、固定部33における凹部において、術具配置部分と底部分とのほぼ中間部分まで回転され、保持される。
【0059】
本変形例による双安定状態は、
図13、
図16、
図19において術具35が術具配置部分に配置されていない状態(解放状態)と、
図15、
図18、
図20に示すように術具35が保持部31により保持された状態(固定状態)とである。
【0060】
(第4の変形例)
本実施形態との相違は、保持部31における機構が異なることにある。
【0061】
図21は、本変形例に係る保持部31の概要を示す概要図である。
保持部31は、術具35を支点で支持する第1乃至第3把持部分と第3把持部分69を支持する支持部分65とを複数のヒンジ(ヒンジa、ヒンジb、ヒンジc、ヒンジd)により結合したリンク機構61と、リンク機構61をスライダ51および固定ヒンジ55により支持する固定部33とを有する。
【0062】
固定部33は、スライダ51を挟む2つのスライドレール53を有する。固定部33には、移動不能な固定ヒンジ55が設けられる。なお、スライドレール53およびスライダの51の代わりに、レールに設けられた直動軸受上にヒンジが設けられてもよい。
図21に示すようにスライダ51はスライドレール53に沿って、直線状に移動可能である。スライダ51、固定ヒンジ55、および複数のヒンジは、接続された部材をそれぞれ回転可能に支持する。
【0063】
リンク機構61は、スライダ51と固定ヒンジ55とにより、固定部33に支持される。リンク機構61は、第1把持部分63と、支持部分65と、第2把持部分67と、第3把持部分69と、ヒンジa、ヒンジb、ヒンジc、ヒンジdとを有する。第1把持部分63の端部は、スライダ51に接続される。第1把持部分63は、スライダ51とヒンジbを介した支持部分65とにより支持される。第2把持部分67は、第1把持部分63におけるヒンジaと第3把持部分69におけるヒンジcとを介して、第1把持部分63と第3把持部分69とにより支持される。第3把持部分69は、第3把持部分69の端部に設けられたヒンジdを介して支持部分65に接続される。支持部分65は、ヒンジcを介して第3把持部分69を支持する。支持部分65は、ヒンジbを介して第1把持部分63を支持する。
【0064】
第1把持部分63および第2把持部分67は、術具35を下方から支持する。第3把持部分69は、術具35を上方からはさむ。第3把持部分69により、術具35を上方から押さえつける力は、術具35の自重および第3把持部分69の自重に依存する。
【0065】
図22は、第1把持部分63と第2把持部分67とに接触して術具35が配置された状態を示す図である。
図22に示すように、第1把持部分63と第2把持部分67と第3把持部分69とにより構成される凹部に術具35が配置されると、術具35の自重により、スライダ51がスライドレール53に沿って移動する。スライダ51の直線移動に伴って、第3把持部分69が、ヒンジdの中心部分を通り鉛直方向を向いた直線Lを超えて、術具35側に移動する。
【0066】
図23は、第1乃至第3把持部分により固定された術具35を示す図である。
図23に示すように、第1把持部分63および第2把持部分67は、術具35を下方から支持する。第3把持部分69は、術具35を上方からはさむ。これにより、術具35は、第1乃至第3把持部分により固定される。第3把持部分69により術具35を上方から押さえつける力は、術具35の自重および第3把持部分69の自重に依存する。
【0067】
図23における固定状態から術具35を解放する場合、術具35は、上方に向けて術者により持ち上げられる。この時、第3把持部分69は、ヒンジdを回転軸として、反時計回りに回転する。第3把持部分69がヒンジdの中心部分を通り鉛直方向を向いた直線Lを超えたとき、第3把持部分69は、安定状態に移動し、保持部31の解放状態が実現される。
【0068】
すなわち、本変形例によれば、保持部31により術具35を固定する固定状態と、保持部31から術具35を解放する解放状態とは、ヒンジdの中心部分を通り鉛直方向を向いた直線Lを境界として、第3把持部分69の位置により双安定状態を形成する。
【0069】
以上に述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態における術具保持装置1によれば、動力を用いることなく、術者が所望する任意の位置および任意の角度で、術具の自重により術具が滑り落ちることなくかつ非回転で、術具35の自重により、術具35を保持して固定することができる。すなわち、固定状態において術具35は保持部31により固定されているため、術具35は、自重で被検体内に落ち込んでいくことはない。また、本術具保持装置1によれば、術者にとって最少な動作(保持部31への術具35の配置、術具35の持ち上げ)により、術具35の保持および術具35の固定状態からの解放が可能となるため、術者に対する術具35の保持の効率が向上する。本術具保持装置1によれば、術具35をこじらずに解放できるため、術中において被検体を傷つけることはない。このため、被検体に対する安全性が向上する。加えて、本術具保持装置1は、術具35が鉗子の場合、鉗子先端のハンドが被検体内の所定の部位をつかんだままの状態で、術具35を保持することが可能となる。
【0070】
加えて、本術具保持装置1は、術具35の保持及び解放において、動力を用いないため、電気ケーブルまたは電源が不要であり、電気安全、EMC(Electro−Magnetic Compatibility:電磁両立性)の問題がなく、装置の暴走の恐れもない。さらに、本術具保持装置1は、従来の術具35を保持させる装置に対して、安価である。加えて、本術具保持装置1の先端部(保持部31)、水平アーム17の関節部分(複数の接続部)は、軽量に作れるため、装置全体を軽量化することができ、かつ高い剛性を実現することができる。
【0071】
また、本術具保持装置1全体、または鉛直アーム15より先、または先端部を、オートクレーブ等で滅菌することができる。例えば、本術具保持装置1は、先端部を滅菌した場合、水平アーム17、鉛直アーム15、および支持部11に滅菌したビニールを被せて使用することができる。滅菌することによって、術者は先端部を直接手で持って所望の位置に移動させることができるようになるため、本術具保持装置1の操作は、極めて直観的(intutive)である。
【0072】
また、本術具保持装置1によれば、術具35の保持において、術者の助手の手を借りないため、術者のフラストレーションは皆無となる。加えて、術具35の保持において、手術を中断せずに済むため、手術の効率が向上する。さらに、術具35を被検体から抜く必要がなくなるため、被検体に対する術具35の再挿入時において、視野から外れた術具35の先端を探索することが不要となり、従って術中において被検体を傷つけることがなくなり、被検体に対する安全性が向上する。、
また、本術具保持装置1によれば、術具35を保持し、固定する固定状態と、術具35を解放した解放状態とは、双安定状態を形成する。双安定状態は、保持部31に対する術具35の加重または、保持部31からの術具35の自重の解放に基づいて、実現される。固定状態と解放状態とが双安定状態を形成することにより、術具35の固定と解放とが安定して実現される。
【0073】
また、本術具保持装置1の第1の変形例によれば、水平アーム17における第1乃至第3接続部各々にガスクラッチを設けることにより、水平アーム17全体の剛性を向上させることができる。すなわち、本変形例によれば、ガスクラッチに加圧ガスが供給されたときに、水平アーム17の固定が解除されることから、被検体に対する安全性がさらに向上する。
【0074】
本術具保持装置1の第2の変形例によれば、保持部31におけるカム43の動作部分において、加圧ガスを用いることで、より強く術具35を保持することができる。これにより、本変形例によれば、術具35の保持力が強化され、被検体に対する安全性がさらに向上する。
【0075】
また、本術具保持装置1の第3、第4の変形例によれば、本実施形態とは異なる機構の保持部を提供することができる。第3、第4の変形例に係る保持部31によれば、本術具保持装置1に適用可能な術具の太さの適用範囲が向上する。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。