(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スズ母粉、スズ母粉及び合金成分の母粉、又はスズ基合金の母粉をDCプラズマ法に付して、これらの母粉からスズ又はスズ基合金の粒子の集合体からなるスズ粉を製造する工程を有し、
プラズマガスとしてアルゴンと窒素との混合ガスを用い、
層流状態のプラズマフレームを用いて前記の母粉をDCプラズマ法に付す、スズ粉の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1に記載のプラズマ法によってスズ粒子を製造した場合、プラズマによるスズの気化を、アルゴンガスと水素ガスとを含む還元性雰囲気で行っていることに起因して、粗粒のスズ粒子が残留してしまう。したがって、同文献に記載の技術で得られたスズ粉を、微細配線パターンの形成に用いることには難点がある。
【0007】
特許文献2に記載の技術では、湿式還元時に添加した保護剤が粒子中に残留するため、そのことに起因して良好な導電性が得られないことがある。
【0008】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得るスズ粉及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決すべく本発明者は鋭意検討した結果、特定の条件下でスズ粉末をプラズマ法に付すことで、適度な粒径を有し、耐酸化性が高く、導電ペーストにしたときの印刷特性が良好なスズ粉が得られることを知見した。
【0010】
本発明は前記の知見に基づきなされたものであり、スズ又はスズ基合金の粒子の集合体からなり、一次粒子径D
SEMが0.1μm以上0.8μm以下であり、粒子表面及びその近傍に窒素を含有するスズ粉を提供することによって前記の課題を解決したものである。
【0011】
また本発明は、スズ又はスズ基合金の粒子の集合体からなり、一次粒子径D
SEMが0.1μm以上0.8μm以下であり、該粒子が単結晶からなるスズ粉を提供するものである。
【0012】
更に本発明は、前記のスズ粉の好適な製造方法として、スズ母粉、スズ母粉及び合金成分の母粉、又はスズ基合金の母粉を熱プラズマ法に付して、これらの母粉からスズ又はスズ基合金の粒子の集合体からなるスズ粉を製造する工程を有し、 層流状態のプラズマフレームを用いて前記の母粉を熱プラズマ法に付す、スズ粉の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のスズ粉は、適度な粒径を有し、耐酸化性が高く、導電ペーストにしたときの印刷特性が良好なものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のスズ粉は、金属スズの粒子の集合体又はスズ基合金の粒子の集合体からなる。スズ基合金としては、例えばスズ−ビスマス合金やスズ−銀−銅合金などが挙げられるが、これらに限られない。以下の説明では、簡便のため、特に断らない限り、金属スズの粒子及びスズ基合金の粒子を総称して、単に「スズ粒子」という。なお、本発明のスズ粉を構成する粒子の集合体には、本発明の効果を損なわない範囲において、スズ粒子以外の粒子が含まれていても差し支えない。
【0016】
本発明のスズ粉は、走査型電子顕微鏡(以下「SEM」という。)観察により測定された一次粒子径D
SEMが0.1μm以上0.8μm以下であり、好ましくは0.1μm以上0.6μm以下であり、更に好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。一次粒子径D
SEMがこの範囲内であることによって、本発明のスズ粉は適度な粒径を有することになり、該スズ粉を配合してなる導電ペーストは、微細配線パターンの形成に好適なものとなる。また、この範囲の粒径を有するスズ粒子は比較的表面活性が高いので融点が低くなる。したがって本発明のスズ粉を金属フィラーとして配合した導電ペースト等の導電性組成物は、低温焼結性を発現するものとなる。
【0017】
一次粒子径D
SEMは、スズ粉を20000倍以上50000倍以下程度にSEMで拡大観察し、500個以上の粒子の円面積相当径の平均値を算出することで求める。算出には、例えば、旭エンジニアリング株式会社製のIP−1000PCを用いてもよい。
【0018】
本発明のスズ粉は、一次粒子径D
SEMが上述の範囲内であることのほか、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D
50が好ましくは0.1μm以上0.8μm以下であり、更に好ましくは0.1μm以上0.6μm以下であり、一層好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。粒径D
50がこの範囲内であることによって、本発明のスズ粉は一層適度な粒径を有することになり、該スズ粉を配合してなる導電ペーストは、微細配線パターンの形成に一層好適なものとなる。また、融点が一層低くなる。
【0019】
本発明のスズ粉は、上述の粒径D
50を有することに加えて、粗粒の含有割合が低いものであることが好ましい。具体的には、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積90容量%における体積累積粒径D
90と前記のD
50との比であるD
90/D
50の値が1.5以上2.5以下であることが好ましく、1.8以上2.2以下であることが更に好ましく、1.9以上2.1以下であることが一層好ましい。D
90/D
50の値がこの範囲であることによって、本発明のスズ粉を配合してなる導電ペーストは、微細配線パターンの形成に更に一層好適なものとなる。D
90そのものの値については、好ましくは0.3μm以上0.9μm以下であり、更に好ましくは0.3μm以上0.8μm以下であり、一層好ましくは0.4μm以上0.75μm以下である。
【0020】
上述のD
50及びD
90の測定は、例えば以下の方法で行うことができる。0.1gの測定試料を、ヘキサメタリン酸ナトリウムの20mg/L水溶液100mlと混合し、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製 US−300T)で10分間分散させる。その後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置、例えば堀場製作所製LA−920を用いて粒度分布を測定する。
【0021】
本発明のスズ粉は、これを構成するスズ粒子が、粒子の表面及びその近傍の部位に窒素を含有している点にも特徴の一つを有する。スズ粒子における窒素の存在の有無は、X線光電子分光法(以下「ESCA」とも言う。)によって確認することができる。表面近傍の部位とは、ESCAによって検出可能な深さまでの部位のことであり、一般には概ね10nm程度までである。スズ粒子の表面及びその近傍の部位に窒素が存在していることで、スズ粒子の分散性が向上することが本発明者の検討の結果判明した。また、スズ粒子の耐酸化性が向上することも判明した。スズ粒子の耐酸化性の向上は、スズ粒子中のスズの結晶子径の増大に起因しているものと本発明者は考えている。更に、窒素が存在していることで、本発明のスズ粉を溶剤と混合して導電ペースト等の導電性組成物を調製するときに、スズ粒子の溶剤へのなじみが良好になることも判明した。その結果、該導電性組成物を用いて配線パターン等を印刷によって形成するときの印刷性が良好になる。ESCAの測定には、例えばアルバック・ファイ社製XPS Quantum2000を用いることができる。測定条件は、X線入射エネルギー40W、ビーム径200μmとして、ナロースキャンによる元素の定量分析を行った。
【0022】
スズ粒子に含まれる窒素の含有量は、上述したESCAによって測定することができる。ESCAによって測定された窒素の含有量は、同じくESCAによって測定されたスズの量に対して0.6atm%以上10atm%以下であることが好ましく、0.7atm%以上8.0atm%以下であることが更に好ましく、1.0atm%以上5.0atm%以下であることが一層好ましい。窒素の含有量をこの範囲内に設定することで、スズ粉の導電性を損なうことなく、スズ粒子の分散性や耐酸化性が一層向上する。また、導電ペーストなどの導電性組成物の印刷適性が一層向上する。
【0023】
スズ粒子中に含まれている窒素がどのような形態で存在しているかは、現時点では分明ではない。本発明者がエネルギー分散型X線分光法等の分析方法によって解析した結果、窒素は硝酸根の状態でスズと化合物を形成しているのではないかと推測している。しかし、このことは本発明の範囲を制限するものではない。
【0024】
上述のとおり、本発明のスズ粉は、これを構成するスズ粒子中のスズ(スズ基合金粒子の場合はスズ基合金)の結晶子径が大きいものである。具体的には、本発明のスズ粉は、これを構成する粒子の表面及びその近傍の部位に窒素を含有していることに加えて、又はそれに代えて、スズ粉を構成するスズ粒子は単結晶からなることが好ましい。この単結晶は金属スズ又はスズ基合金からなるものである。単結晶のスズ粒子からなるスズ粉は、結晶粒界が存在しないことに起因して、スズ粒子の耐酸化性が向上する。この観点から、スズ粒子は、粒子の表面及びその近傍の部位に窒素を含有しており、かつ単結晶であることが特に好ましい。単結晶である限りスズ(又はスズ基合金)の結晶系に特に制限はない。後述する好適な方法でスズ粉を製造すると、β−Snの単結晶が得られやすい。なお、スズ粒子が単結晶からなるとは、スズ粒子の内部構造としてスズ(又はスズ基合金)の単結晶相を有するという意味であり、スズ粒子の最表面が不可避的に酸化されていたり、水酸化物になっていたりすることは許容される。
【0025】
スズ粒子が、その表面及びその近傍の部位に窒素を含有しており、かつ単結晶である場合には、粒子表面及びその近傍の部位は、スズ及び窒素を含む化合物の単結晶相になっていることが好ましく、該部位よりも粒子の内部域は、スズの単結晶相になっていることが好ましい。スズ粒子が単結晶であるか否かは、粒子を透過型電子顕微鏡(以下「TEM」という。)観察したときの電子回折パターンから判断することができる。この電子回折パターンとして二次元点配列のネットパターンが観察される場合には、粒子は単結晶であると判断できる。
【0026】
本発明のスズ粉は、BET比表面積から換算された粒径D
BETの値にも特徴の一つを有する。具体的には、粒径D
BETの値は0.05μm以上0.4μm以下であることが好ましく、0.06μm以上0.3μm以下であることが更に好ましく、0.08μm以上0.25μm以下であることが一層好ましい。特に、粒径D
BETと粒径D
50との比であるD
BET/D
50の値が1以下、特に0.7以下、とりわけ0.6以下であることが、導電ペーストなどの導電性組成物の印刷適性が一層向上する点から好ましい。
【0027】
粒径D
BETに関連して、スズ粉のBET比表面積は、1m
2/g以上10m
2/g以下であることが好ましく、2m
2/g以上10m
2/g以下であることが更に好ましく、3m
2/g以上9m
2/g以下であることが一層好ましい。BET比表面積は、吸着ガスである窒素を30容量%、キャリアガスであるヘリウムを70容量%含有する窒素−ヘリウム混合ガスを用いて、BET比表面積測定装置((株)島津製作所製、マイクロメリィックス フローソーブII2300)により、JIS R 1626「ファインセラミック粉体の気体吸着BET法による比表面積測定方法」の6.2流動法の(3.5)一点法に従って測定することができる。
【0028】
先に述べたとおり、本発明のスズ粉は、スズ粒子が窒素を含有していることで、耐酸化性が高いものである。これに加えて、又はこれに代えて、本発明のスズ粉は、スズ粒子が単結晶であることで、耐酸化性が高いものである。換言すれば、本発明のスズ粉は、スズ粒子表面に存在する酸素の含有量が低いものである。スズ粒子表面に存在する酸素の含有量は、窒素の含有量と同様に、ESCAによって測定することができる。ESCAによって測定された酸素の含有量は、同じくESCAによって測定されたスズの量に対して80atm%以上230atm%以下であることが好ましく、100atm%以上200atm%以下であることが更に好ましく、150atm%以上190atm%以下であることが一層好ましい。
【0029】
本発明のスズ粉を構成するスズ粒子の形状に特に制限はなく、例えば球形状、フレーク状、多面体状など種々の形状を採用することができる。スズ粒子の分散性を高める観点からは、球形状又は略球形状であることが好ましい。例えば、本発明のスズ粉を電子顕微鏡(例えば85000倍)で観察したときに、多くのスズ粒子が真球形状又は略真球形状を呈していることが好ましい。具体的には、スズ粉を構成するスズ粒子の50個数%以上、特に80個数%以上、とりわけ90個数%以上、更に95個数%以上(100個数%含む)が球形状又は略球形状であることが好ましい。このように、真球形状又は略真球形状のスズ粒子を含有するスズ粉であれば、特に優れた分散性を得ることができる。したがって、例えばフレーク粉と混合することにより、緻密性をより一層高めることができる。「真球形状又は略真球形状のスズ粒子を含有する」とは、スズ粉を構成するスズ粒子のうちの少なくとも60個数%以上、中でも80個数%以上、その中でも90個数%以上(100個数%を含む)が、真球形状又は略真球形状のスズ粒子が占めるという意味である。また、「略真球形状」とは、完全な真球形状ではないが、球状として認識可能な形状を意味するものである。
【0030】
次に、本発明のスズ粉の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、スズ母粉、スズ母粉及び合金成分の母粉、又はスズ基合金の母粉(以下、これらを総称して単に「母粉」と言う。)をDCプラズマ法に付して、これらの母粉からスズ又はスズ基合金の粒子の集合体からなるスズ粉を製造する工程を有する。そして、層流状態のプラズマフレームを用いて前記の母粉をDCプラズマ法に付す。プラズマ法には、DCプラズマ法のほかにRFプラズマ法などが知られているが、本発明のスズ粉の製造にはDCプラズマ法を用いることが非常に有利であることが本発明者の検討の結果判明した。以下、この製造方法について詳述する。
【0031】
DCプラズマ法を行うには、公知のDCプラズマ装置を使用することができる。そして、DCプラズマ装置に母粉を供給して、該母粉を加熱噴射するときに、プラズマフレームが層流状態で太く長くなるようにプラズマの発生条件を調整することが好ましい。こうすることで、単結晶のスズ粒子を首尾よく形成することができる。また、粗粒の母粉が残存しにくくなる。
【0032】
プラズマフレームが層流状態であるか否かは、プラズマフレームを、フレーム幅が最も太く観察される側面から観察したときに、フレーム幅に対するフレーム長さの縦横比(以下、フレームアスペクト比)が3以上であるか否かによって判断することができる。具体的には、フレームアスペクト比が3以上であれば層流状態と判断することができ、3未満であれば乱流状態と判断することができる。
【0033】
本製造方法においては、プラズマガスとしてアルゴンと窒素の混合ガスを使用することも好ましい。これによって、スズ粒子の表面及びその近傍の部位に窒素を首尾よく含有させ得る。またスズ粒子が一層単結晶になりやすくなる。
【0034】
DCプラズマ装置としては、例えば
図1に示すとおり、粉末供給装置2、チャンバ3、DCプラズマトーチ4、回収ポット5、粉末供給ノズル6、ガス供給装置7及び圧力調整装置8を備えたプラズマ装置1を用いることができる。この装置においては、母粉は、粉末供給装置2から粉末供給ノズル6を通してDCプラズマトーチ4内部を通過する。プラズマトーチ4には、アルゴン、又はアルゴンと窒素の混合ガスが、ガス供給装置7から供給されプラズマフレームが発生する。また、DCプラズマトーチ4で発生させたプラズマフレーム内で、原料粉末はガス化され、チャンバ3に放出された後、冷却され微粉末となって回収ポット5内に蓄積回収される。チャンバ3の内部は、圧力調整装置8によって粉末供給ノズル6よりも相対的に陰圧が保持されるように制御され、プラズマフレームを安定して発生する構造をとっている。なお
図1に示す装置は、これはDCプラズマ装置の一例であって、本発明のスズ粉の製造はこの装置に限定されるものではない。
【0035】
母粉は、特に限定されるものではない。母粉のプラズマ噴射性とコストの観点から、母粉の粒径D
50は3.0μm以上30μm以下であることが好ましく、中でも5.0μm以上15μm以下であることが好ましい。また、母粉の形状に特に制限はなく、例えば樹枝状、棒状、フレーク状、キュービック状、又は球状ないし略球状などが挙げられる。プラズマトーチへの供給効率を安定化する観点からは、球状ないし略球状の母粉を用いることが好ましい。スズ基合金からなる粒子を製造する場合には、スズ母粉及び合金成分の母粉の双方をプラズマ装置に供給すればよい。この場合、スズ母粉と合金成分の母粉との供給量の比率は、目的とするスズ基合金の組成と同じとなるようにすることが有利である。スズ母粉及び合金成分の母粉の双方を供給することに代えて、目的とするスズ基合金と同組成のスズ基合金の母粉をプラズマ装置に供給することもできる。
【0036】
DCプラズマ装置を使用して母粉を加熱噴射する場合、プラズマガスとして、アルゴン、又はアルゴンと窒素の混合ガスを使用して、上述のとおり、プラズマフレームが層流状態で太く長くなるように調整することが好ましい。このように調整すれば、投入した母粉はプラズマ炎中で瞬時に蒸発気化し、プラズマフレーム内で十分なエネルギーを供給することができるため、プラズマ尾炎部に向かって核形成、凝集及び凝縮が生じて微粒子、特にサブミクロンオーダーの微粒子を首尾よく形成することができる。
【0037】
プラズマフレームが層流状態で太く長くなるようにするためには、プラズマ出力とガス流量を調整することが有利であることが本発明者の検討の結果判明した。詳細には、直流熱プラズマ装置のプラズマ出力を2kW以上30kW以下に設定することが好ましく、4kW以上15kW以下に設定することが更に好ましい。また、プラズマガスのガス流量に関しては、0.1L/min以上20L/min以下に設定することが好ましく、0.5L/min以上18L/min以下に設定することが更に好ましい。
【0038】
プラズマフレームを層流状態に安定的に保つためには、上述の範囲のプラズマ出力及びガス流量を保ちつつ、プラズマ出力(A)に対する、アルゴンガス流量(B)と窒素ガス流量(C)との和の比である計算式(B+C)/Aで算出した値(単位:L/(min・kW))を、0.50以上2.00以下に設定することが好ましい。特に(B+C)/Aの値を0.70以上1.70以下、とりわけ0.75以上1.50以下に設定すると、母粉のガス化に必要な流速を確実に得ることができ、またプラズマフレームを層流で安定した状態に保持することができるので好ましい。ガスとしてアルゴンのみを用いる場合には、B/Aの値を上述の範囲に設定することが好ましい。
【0039】
熱プラズマを発生させる動作ガスとしてのプラズマガスは、上述のようにアルゴン、又はアルゴンと窒素の混合ガスを使用すること好ましい。特に、アルゴンガスと窒素ガスとを混合したガスを使用すると、窒素(2原子分子)ガスによって、一層大きな振動エネルギー(熱エネルギー)を母粉に付与することができ、そのことに起因して凝集状態を均一にできるので、粗粒が少なく、粒度分布がよりシャープな粒子を得ることができる。尤も、窒素ガスの含有量が過度に多いと、プラズマフレームが減退してしまう傾向にある。この観点から、ブラズマガスにおけるアルゴンガスと窒素ガスの割合は、アルゴンガス:窒素ガスの流量比で99:1から10:90までの範囲であることが好ましく、95:5から60:40までの範囲であることが更に好ましく、95:5から80:20までの範囲であることが一層好ましい。また、目的とするスズ粉の粒度分布をシャープにする観点からは、アルゴンガスと窒素ガスの割合は、流量比で99:1から50:50までの範囲、特に95:5から50:50までの範囲のように、窒素ガスよりもアルゴンガスの流量の方が多い比率内で調整すること好ましい。
【0040】
このようにして得られたスズ粉は、そのままでも用いることができるが、コンタミネーションとして存在する粗大凝集粒子の除去を行うために分級することが望ましい。分級は、適切な分級装置を用いて、目的とする粒度が中心となるように、粗粉や微粉を分離するようにすればよい。
【0041】
本発明のスズ粉は、それ単独で、あるいは他のスズ粉又は他の金属粉と混合されて、導電性組成物に配合される金属フィラーとして好適に用いられる。導電性組成物としては、例えば導電ペーストや導電インクなどが挙げられる。これらの導電性組成物は、金属フィラーとしてのスズ粉、バインダ樹脂及び有機溶媒等の成分を含むものである。導電性組成物は、例えばこれを所定の手段によって塗布することで、プリント配線基板の配線回路を形成することができる。またプリント配線基板中のビア充填用材料や、プリント配線基板に電子デバイスを表面実装するときの接着剤として用いることもできる。更に、チップ部品の電極形成に用いることもできる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0043】
〔実施例1〕
本実施例では、
図1に示す構造のDCプラズマ微粉製造装置を用いて下記に従いスズ粉を製造した。原料粉末供給口から、母粉としてスズ粉(粒径D
50=7μm、球状粒子)を3g/minの供給量で導入した。これとともに、アルゴンガス及び窒素ガスの混合ガスを、プラズマガスとしてプラズマフレームの内部に供給した。アルゴンガスの流量は12.8L/min、窒素ガスの流量は0.8L/minとした。アルゴンガスの流量(B)と窒素ガスの流量(C)との比は94:6であった。プラズマ出力は10.1kWであり、プラズマ出力(A)、アルゴンガス流量(B)及び窒素ガス流量(C)の関係式(B十C)/Aは1.3(L/(min・kW))であった。プラズマフレームはフレームアスペクト比が4であり、層流状態であった。このようにして、目的とするスズ粉を得た。得られたスズ粉のスズ粒子は球形状のものであった(以下の実施例2及び3においても同じ。)。
図2に、得られたスズ粒子のTEM像を示す。また
図3に、TEM像による電子回折パターンを示す。
【0044】
〔実施例2及び3〕
以下の表1に示す条件を採用する以外は、実施例1と同様にしてスズ粉を得た。
【0045】
〔実施例4〕
本実施例では、ガス種としてアルゴンガスのみを用いた。そして表1に示す条件を採用し、それ以外は実施例1と同様にしてスズ粉を得た。
【0046】
〔比較例1〕
実施例4において、DCプラズマ法に代えてRFプラズマ法を用いた。そして表1に示す条件を採用し、それ以外は実施例4と同様にしてスズ粉を得た。
【0047】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたスズ粉について、上述の方法で粒径D
SEM、D
50D
50及びD
90、BET表面積、D
BETの値を測定した。またESCAによって、スズの量に対する窒素の含有量及びスズの量に対する酸素の含有量を測定した。更に、以下の方法でスズ粉の凝集状態を評価した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0048】
〔スズ粉の凝集状態の評価〕
実施例及び比較例で得られたスズ粉を用いて導電性ペーストを調製した。導電性ペーストは、スズ粉を85質量%、エチルセルロースを0.75質量%、ターピネオールを14.25質量%の組成比率で混錬し調製した。この導電性ペーストを、ガラス基板上にアプリケーターで20μm厚に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を80℃で3時間乾燥して導電膜を得た。この導電膜の表面を光学顕微鏡で50倍の倍率で観察し、スズ粉の凝集状態を評価した。具体的には、導電膜の表面に斜めから光を投影し、スズ粉の凝集体に起因して生じる影の観察を行った。そして、以下の基準で凝集状態を評価した。
◎:凝集物が観察されない
○:凝集物が僅かにみられる
△:凝集物が点在している
×:凝集物が多くみられる
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られたスズ粉は、粗粒が少ないものであることが判る。また、凝集状態が低いことが判る。これに対して、DCプラズマ法ではなく、RFプラズマ法を用いた比較例1のスズ粉は、粒子の凝集の程度が高いものとなってしまった。
【0051】
また、
図2に示すTEM像から明らかなとおり、実施例1のスズ粉においては、スズ粒子の表面にスズと窒素とからなる化合物のエピタキシャル成長層が観察される。この層の厚みは2ないし3nmである。更に、
図3に示す電子回折パターンから晃かなとおり、このスズ粒子はβ−Snの単結晶相を粒子内部に有していることが判る。