特許第6367014号(P6367014)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6367014金属被覆粒子、それを含む樹脂組成物および塗布物、ならびに金属被覆粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367014
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】金属被覆粒子、それを含む樹脂組成物および塗布物、ならびに金属被覆粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/00 20060101AFI20180723BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20180723BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20180723BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20180723BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20180723BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20180723BHJP
   C23C 18/44 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   H01B1/00 C
   H01B1/00 E
   H01B1/22 A
   C09D201/00
   C09D5/24
   C09D7/61
   C09D7/62
   C23C18/44
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-116915(P2014-116915)
(22)【出願日】2014年6月5日
(65)【公開番号】特開2015-230847(P2015-230847A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 和哉
(72)【発明者】
【氏名】南山 偉明
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 良樹
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−120658(JP,A)
【文献】 特開2007−184115(JP,A)
【文献】 特開2011−070943(JP,A)
【文献】 特開2013−206777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/00−1/24
5/00−5/16
13/00
C09D 1/00−201/10
C23C 18/00−18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子と、
前記粒子を被覆する金属層と、を含み、
前記金属層は、その表面における十点平均粗さRが0.1μm以下であり、
前記粒子はアルミナからなり、前記金属層は銀からなる、金属被覆粒子。
【請求項2】
前記金属被覆粒子は、その表面に保護層を有する、請求項1に記載の金属被覆粒子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の金属被覆粒子を含む樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂組成物を適用した塗布物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被覆粒子、それを含む樹脂組成物および塗布物、ならびに金属被覆粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子は、従来より様々な分野に利用されている。たとえば、フレーク状の銀粒子は高い導電性を有するため、これを樹脂に練り込んだペーストは導電性の接着剤として好適に利用することができる。しかし、このような単一の金属からなる金属粒子の比重、導電性等の種々の特性は、単一の金属の特性のみに依存するため、比重等の種々の特性を、所望される種々の条件に対応させることが難しい傾向にある。
【0003】
これに対し、たとえば、特開2013−206777号公報(特許文献1)には、比重の小さいガラスフレークの表面に銀を被覆させた導電性粒子が開示されている。また、特開2006−331703号公報(特許文献2)には、板状のアルミナ粒子の表面に銀を被覆させた導電性粒子が開示されている。これらの導電性粒子は、銀に起因する導電性と、ガラスフレークまたはアルミナ粒子に起因する比重の低さを有することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−206777号公報
【特許文献2】特開2006−331703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の導電性粒子は、ガラスフレークの表面の50%が銀によって被覆されるものの、その体積抵抗率は低くても5.5×10-4Ω・cm程度であり、銀に起因する導電性が十分に発揮されていないのが実情である。また、特許文献2の導電性粒子は、無電解めっき法を用いて製造されるが、特許文献2に開示される製造方法では、アルミナ粒子の表面に形成される銀被膜は緻密性が低く不均質となり、銀の被覆量に見合うような高い導電性を発揮することは困難である。
【0006】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、高い導電性を有する金属被覆粒子、それを含む樹脂組成物および塗布物、ならびに金属被覆粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、無電解めっき法を用いてアルミナ粒子に銀を被覆する手法について検討した。そして、特許文献2に開示される従来の無電解めっき法では、銀被膜が形成されない領域が多く存在し、また、アルミナ粒子の表面に形成される銀被膜は、その表面に粒子状の状態で銀が多く析出していることが分かった。
【0008】
上記検討から、本発明者らは、銀被膜が形成されない領域が多く存在することはもちろん、粒子状の状態の銀が、粒子の表面に析出することによって銀被膜の表面が凹凸のある状態になり、これによって銀被膜表面の平滑性が良好でなくなることが、導電性を十分に高めることができない理由の一つであると考えた。そこで、本発明者らは、銀被膜の表面形状を平滑にすることに着眼して鋭意検討を進めたところ、無電解めっき処理に用いるアルミナ粒子などの粒子の表面を適切に処理することにより、粒子の表面に形成される銀被膜の表面状態を平滑化できることを知見し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明の一態様に係る金属被覆粒子は、粒子と、粒子を被覆する金属層と、を含み、金属層の表面における十点平均粗さRは0.1μm以下である。
【0010】
上記金属被覆粒子において、金属層は、金、銀、白金、ニッケル、銅、スズおよびこれらの合金からなる群より選択される1種以上からなることが好ましい。
【0011】
上記金属被覆粒子において、粒子は、アルミナまたはシリカからなることが好ましい。
上記金属被覆粒子において、粒子はアルミナからなり、金属層は銀からなることが好ましい。
【0012】
上記金属被覆粒子は、その表面に保護層を有することが好ましい。
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、上記金属被覆粒子を含む。
【0013】
本発明の一態様に係る塗布物は、上記樹脂組成物を適用したものである。
本発明の一態様に係る金属被覆粒子の製造方法は、粒子前駆体を準備する工程と、酸性溶媒またはアルカリ性溶媒を用いて、粒子前駆体の表面を活性化処理することにより、活性化粒子を調製する工程と、活性化粒子の表面に触媒を担持させて、触媒担持粒子を調製する工程と、触媒担持粒子を無電解めっき処理することにより、粒子の表面に金属層が設けられた金属被覆粒子を作製する工程と、を備える。
【0014】
上記金属被覆粒子の製造方法は、金属被覆粒子の表面を保護処理する工程をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い導電性を有する金属被覆粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】十点平均粗さRの算出方法を説明するための図である。
図2】実施例1の金属被覆粒子の電子画像である。
図3】実施例2の金属被覆粒子の電子画像である。
図4】実施例3の金属被覆粒子の電子画像である。
図5】実施例4の金属被覆粒子の電子画像である。
図6】比較例1の金属被覆粒子の電子画像である。
図7】実施例4の金属被覆粒子の断面の電子画像である。
図8】実施例4の金属被覆粒子の断面の電子画像である。
図9】比較例1の金属被覆粒子の断面の電子画像である。
図10】比較例1の金属被覆粒子の断面の電子画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[金属被覆粒子]
本実施形態に係る金属被覆粒子は、粒子と、粒子を被覆する金属層と、を含み、金属層は、その表面における十点平均粗さRが0.1μm以下である。
【0018】
ここで、「十点平均粗さR」は次のようにして算出することができる。まず、金属被覆粒子を樹脂に練り込んだ試料を準備する。次に、この試料を所定の形状に成形した後、イオンミリング等を用いて成形後の試料を切断する。次に、電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、切断後の試料の断面を10000倍の倍率で撮像し、その電子画像を得る。得られる電子画像は、図1に例示するように、樹脂13中に、粒子11と金属層12とを含む金属被覆粒子10が複数個分散されている状態を示す画像となり、金属被覆粒子の断面が確認可能となる。
【0019】
次に、金属層12の断面の画像から得られる、金属層12の表面部分(粒子と接していない側)の断面形状を、金属層12の粗さ曲線(金属層12の輪郭曲線)とし、その粗さ曲線のX線の方向に基準長さだけを選択する。また、本実施形態において、上記基準長さは5cmとするが、これは、電子画像上の5cmであり、故に、実際に金属被覆粒子において選択される長さは2.19μm程度となる。このとき、選択される領域内において、粒子11上に金属層12が形成されていない領域を含まないようにするか、金属層12が形成されていない領域は後述の山頂として選択しないようにする。
【0020】
次に、選択した粗さ曲線において、選択した部分の平均線から縦倍率の方向に測定した、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高(Yp1〜Yp5)の各絶対値の平均値と、最も深い谷底から5番目までの谷底の標高(Yv1〜Yv5)の各絶対値の平均値との和(RzJIS)を求める。この計算式は、「(Yp1+Yp2+Yp3+Yp4+Yp5+Yv1+Yv2+Yv3+Yv4+Yv5)/5」で表される。なお、山頂とは、金属層により被覆される粒子の表面から離れる方向に位置し、谷底とは、粒子の表面に近づく方向に位置する。
【0021】
上記計算式により算出された値は、JIS B 0601:2001に規定される十点平均粗さである。十点平均粗さRzJISの値が小さいほど、金属被覆粒子における金属層の表面の平滑性が高いことを示し、十点平均粗さRzJISの値が大きいほど、金属被覆粒子における金属層の表面の平滑性が低いこととなる。
【0022】
同様にして、合計50個の金属被覆粒子の十点平均粗さRzJISを算出し、算出された50個の十点平均粗さRzJISの平均値を算出し、これを「十点平均粗さR」とする。十点平均粗さRの値が小さいほど、金属被覆粒子の表面形状の平滑性が高いことを示し、十点平均粗さRの値が大きいほど、金属被覆粒子の表面形状の平滑性が低いこととなる。
【0023】
本実施形態の金属被覆粒子において、金属層の表面における十点平均粗さRは0.1μm以下である。これは、従来の金属被覆粒子と比して小さい値であり、故に、本実施形態の金属被覆粒子は従来と比して高い平滑性を有するものとなる。そして、このような特徴を有する金属被覆粒子は高い導電性を有することができる。十点平均粗さRは0.08μm以下であることが好ましく、0.07μm以下であることがより好ましい。これにより、さらに金属被覆粒子の導電性を向上させることができる。なお、十点平均粗さRの下限値は0であるため、下限を特定する必要はない。
【0024】
また、本実施形態に係る個々の金属被覆粒子は、十点平均粗さRzJISが0.1μm以下であることが好ましく、0.08μm以下であることがより好ましく、0.07μm以下であることがより好ましい。この場合、金属被覆粒子を集合体として用いた場合に、平滑性がより高く、かつ平滑性のばらつきがより小さいという特徴を有することができる。
【0025】
金属被覆粒子の形状は特に制限されず、たとえば、粒状、フレーク状、針状、繊維状、樹枝状、球状などの各形状を挙げることができる。金属被覆粒子の形状は、後述する粒子の形状に依拠する。特に、高い導電性を発揮できる点から、フレーク状であることが好ましい。
【0026】
金属被覆粒子の平均粒子径は、その形状により異なるが、0.1μm以上100μm以下であること好ましく、1μm以上50μm以下であることがより好ましい。平均粒子径が0.1μm未満の場合、導電性を付与するために被覆すべき金属量が多くなり、生産性が低下する場合がある。また、平均粒子径が100μmを超える場合、ファインピッチ化(細線化)が進む導電材用途に適用することが難しくなる場合がある。
【0027】
特に、金属被覆粒子がフレーク状である場合には、平均粒子径は1μm以上100μm以下が好ましく、平均厚みは0.01μm以上3μm以下が好ましく、アスペクト比は1以上500以下が好ましい。
【0028】
ここで、「平均粒子径」とは、レーザー回折法により測定された粒度分布に基づき、その体積平均を算出して求められる体積平均粒径をいう。また、「アスペクト比」とは、粒子の平均厚みに対する平均粒子径の比率である。
【0029】
<粒子>
本実施形態の粒子は、金属被覆粒子のコアとなる構成部材であり、金属被覆粒子の大部分を占めるため、金属被覆粒子の比重、形状、および製造コストに大きく寄与する。
【0030】
粒子の材料は特に制限されず、たとえば、アルミナ、シリカ、ガラス、窒化ホウ素などの無機物、アルミニウムなどの金属、および樹脂等が挙げられる。上記樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0031】
なかでも、本実施形態の粒子は、アルミナまたはシリカからなることが好ましい。アルミナおよびシリカは、後述する製造方法を用いて金属層を形成するのに適している。また、アルミナおよびシリカは、樹脂およびガラスと比して、熱膨張率が小さいため、より安定な品質の金属被覆粒子を提供することができる。さらに、製造の容易性、品質の均一性の観点からは、粒子はアルミナまたはシリカなることが好ましい。
【0032】
粒子の形状は特に制限されず、たとえば、粒状、フレーク状、針状、繊維状、樹枝状、球状などの各形状を挙げることができる。特に、高い導電性を発揮できる点から、フレーク状であることが好ましい。
【0033】
粒子の平均粒子径は、その形状により異なるが、0.1μm以上100μm以下であること好ましく、1μm以上50μm以下であることがより好ましい。平均粒子径が0.1μm未満の場合、導電性を付与するために被覆すべき金属量が多くなり、生産性が低下する場合がある。また、平均粒子径が100μmを超える場合、ファインピッチ化が進む導電材用途に適用することが難しくなる場合がある。
【0034】
特に、粒子がフレーク状である場合には、平均粒子径は1μm以上50μm以下が好ましく、平均厚みは0.01μm以上3μm以下が好ましく、アスペクト比は1以上500以下が好ましい。粒子の平均粒子径の測定方法は、金属被覆粒子の平均粒子径の測定方法と同様である。
【0035】
<金属層>
本実施形態の金属層は、粒子を被覆する被膜であって金属被覆粒子の表面に位置するため、金属被覆粒子の意匠性および導電性に大きく寄与する。なお、金属層は、必ずしも粒子の表面の全てを被覆する必要はなく、表面の少なくとも一部にのみ形成されていても、本発明の効果を奏する限り、本発明を逸脱するものではない。
【0036】
金属層の材料は特に制限されず、従来公知の金属を用いることができるが、特に、高い導電性を発揮する観点から、金、銀、白金、ニッケル、銅、スズおよびこれらの合金からなる群より選択される1種以上からなることが好ましい。なかでも、特に高い導電性を発揮する観点から、金および銀のうちの1種以上からなることがより好ましい。
【0037】
金属層は、粒子の表面の全てを被覆していることが好ましい。このような金属被覆粒子はより高い導電性を有することができる。従来の技術では、粒子の表面の全てを被覆することは困難であったが、後述する製造方法により得られる本実施形態の金属被覆粒子によれば、より均質な金属層を粒子の全面に形成させることが可能である。金属層の被覆の状態は、電子顕微鏡(たとえば、上記のFE−SEM)を用いることによって観察することができる。
【0038】
金属被覆粒子における金属層の含有割合は、金属被覆粒子全体(100質量%)に対して1質量%以上60質量%以下であることが好ましい。1質量%未満の場合、粒子の被覆率が低くなるために金属被覆粒子の導電性が低下する傾向がある。60質量%超の場合、粒子表面に析出された金属量が多すぎることにより、金属層上にさらに粒子状の状態で析出し易い。このような粒子状の析出部分が存在すると、金属被覆粒子の表面(すなわち、金属層の表面)に凹凸のある状態となり、これによって金属層の表面の平滑性が低下するために、金属被覆粒子の導電性が低下する傾向がある。上記含有割合は、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、1質量%以上49.8質量%以下がさらに好ましい。上記含有割合は、原子吸光光度法により測定することができる。
【0039】
金属層の厚さは特に制限されず、たとえば0.01μm以上0.20μm以下とする。0.01μm未満の場合、金属層の厚さが不均一になり易く、また、高い導電性を得ることが難しくなる傾向がある。一方、0.20μm超の場合、材料に起因するコストの増加や、製造工程の長時間化による製造コストの増加が懸念される。
【0040】
<保護層>
本実施形態の金属被覆粒子は、金属層上にさらに保護層を有していてもよい。保護層を有することにより、金属被覆粒子の耐熱性、酸化防止効果(耐腐食性)が向上する。
【0041】
保護層の材料は、金属被覆粒子の導電性を阻害しないものであれば特に制限されず、従来公知の材料、たとえば脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、キレート剤、有機金属化合物などを挙げることができ、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、脂肪酸、脂肪酸塩、キレート剤が好ましい。
【0042】
脂肪酸としては、プロピオン酸、カプリル酸、ラウリン酸、パルチミン酸、オレイン酸、アクリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リノール酸、アラキドン酸などを挙げることができ、脂肪酸塩としては、これらの塩を挙げることができる。キレート剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物を挙げることができる。なかでも、金属層の保護効果の高さから、保護層は、ステアリン酸、オレイン酸およびラウリン酸の1種以上からなることが好ましい。
【0043】
<作用効果>
本実施形態の金属被覆粒子は、粒子と、粒子を被覆する金属層とを含み、金属層の表面における十点平均粗さRは0.1μm以下である。このような高い平滑性を有する金属被覆粒子は、高い導電性を有することができる。十点平均粗さRが0.1μm以下である金属被覆粒子が高い導電性を有する理由は明確ではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0044】
すなわち、(1)このような平滑性の高い金属被覆粒子を用いて導電性樹脂組成物を調製し、それを基体上に塗布した導電性塗布物とした場合、塗膜中での金属被覆粒子同士の密着性、接触面積が、平滑性の低い金属被覆粒子と比して大きくなる。このため、結果的に高い導電性を発揮することができる。(2)平滑性の高い金属被覆粒子における金属層の緻密性は、平滑性の低い金属被覆粒子と比して高く、結果的に高い導電性を発揮することができる。(3)金属被覆粒子における金属層の被覆率が従来と比して向上しており、結果的に高い導電性を発揮することができる。
【0045】
特に、これまで、アルミナからなる粒子に対して均質な銀被膜を形成することは難しいと考えられていたが、本実施形態の金属被覆粒子によれば、アルミナからなる粒子に対して、高い平滑性を有する銀被膜を形成することができる。したがって、本実施形態の金属被覆粒子において、アルミナからなる粒子と、銀からなる金属層とを採用した場合、上記効果をより顕著に発揮することができる。
【0046】
また、本実施形態の金属被覆粒子は、高い平滑性を有するため、表面における光の乱反射が抑制される。このため、本実施形態の金属被覆粒子は高い光輝性(明度)を有することができ、もって意匠性にも優れることとなる。
【0047】
[金属被覆粒子の製造方法]
本実施形態に係る金属被覆粒子の製造方法は、粒子前駆体を準備する工程(準備工程)と、酸性溶媒またはアルカリ性溶媒を用いて、粒子前駆体の表面を活性化処理することにより、活性化粒子を調製する工程(活性化粒子調製工程)と、活性化粒子の表面に触媒を担持させて、触媒担持粒子を調製する工程(触媒担持粒子調製工程)と、触媒担持粒子を無電解めっき処理することにより、粒子の表面に金属層が設けられた金属被覆粒子を作製する工程(金属被覆粒子作製工程)とを主に備える。以下、各工程について説明する。
【0048】
<準備工程>
本工程では、粒子前駆体を準備する。この「粒子前駆体」とは、金属被覆粒子作製工程後に得られる金属被覆粒子が備える粒子と同様の組成、および同等の形状を有するものであるものの、その表面状態が異なる。
【0049】
粒子前駆体としては、アルミナ、シリカ、ガラス、窒化ホウ素などの無機物、アルミニウムなどの金属、および樹脂等からなる粒子を用いることができる。また、その形状は、粒状、フレーク状、針状、繊維状、樹枝状、球状などの各形状を挙げることができ、粒子の平均粒子径は、0.1μm以上100μm以下とすることができる。
【0050】
<活性化粒子調製工程>
本工程では、酸性溶媒またはアルカリ性溶媒を用いて、粒子前駆体の表面を活性化処理することにより、活性化粒子を調製する。具体的には、撹拌槽に粒子前駆体を投入し、さらに水等の溶媒を投入することにより、粒子前駆体を含むスラリーを調製する。次に、このスラリーに酸性溶媒またはアルカリ性溶媒を添加して撹拌することにより、粒子前駆体の表面を活性化させる。そして、スラリーを洗浄処理することにより、活性化処理を停止させる。洗浄処理方法は特に制限されず、たとえば、洗浄液として水を用い、これを遠心分離機、漏斗等を用いて固液分離する方法を挙げることができる。
【0051】
酸性溶媒に含まれる酸としては、たとえば、硝酸、塩酸、硫酸、フッ酸を挙げることができ、アルカリ性溶媒に含まれるアルカリとしては、たとえば、水酸化ナトリウムを挙げることができる。安全性の観点から、これらの溶媒は水であることが好ましいが、アルコール等の有機溶媒を使用してもよい。
【0052】
酸性溶媒の添加量は、スラリーに含まれる粒子前駆体の全量を100体積%としたとき、酸性溶媒に含まれる酸の体積割合が0.1体積%以上30体積%以下であることが好ましい。アルカリ性溶媒の添加量も同様である。上記体積割合が30体積%を超える場合、表面の活性化だけでなく、表面の過剰なエッチングが生じ易くなり、粒子前駆体の表面形状が荒れてしまう傾向がある。0.1体積%未満の場合、表面の活性化が不十分となる傾向がある。上記体積割合は0.5体積%以上10体積%以下がより好ましい。
【0053】
また、活性化処理に要する時間は1分以上30分以下であることが好ましい。活性化処理に要する時間とは、スラリーに酸性溶媒またはアルカリ性溶媒を添加してから、洗浄処理に供するまでの時間である。この時間が30分を超えると、表面の活性化だけでなく、表面の過剰なエッチングが生じ易くなり、粒子前駆体の表面形状が変化してしまう傾向がある。1分未満の場合、表面の活性化が不十分となる傾向がある。
【0054】
また、本工程において、酸性溶媒またはアルカリ性溶媒と共に、シランカップリング剤を用いてもよい。この場合、酸性溶媒またアルカリ性溶媒により清浄化された表面にシランカップリング剤が付着することができるため、表面に活性度の高いシラン基を有する活性化粒子を調製することができる。シランカップリング剤の添加量は、スラリーに含まれる粒子前駆体の全量を100体積%としたとき、添加されるシランカップリング剤の体積割合が1体積%以上20体積%以下であることが好ましい。このようなシランカップリング剤としては、アミノシラン、エポキシシランなどを挙げることができる。
【0055】
<触媒担持粒子調製工程>
本工程では、活性化粒子の表面に触媒を担持させて、触媒担持粒子を調製する。具体的には、撹拌槽に水等の溶媒を投入し、さらに洗浄処理後の活性化粒子を投入することにより、活性化粒子を含むスラリーを調製する。次に、このスラリーに触媒を添加して撹拌することにより、活性化粒子の表面に触媒を担持させる。そして、スラリーを洗浄処理することにより、触媒の担持を停止させる。洗浄処理方法は特に制限されず、たとえば、洗浄液として水を用い、これを遠心分離機、漏斗等を用いて固液分離する方法を挙げることができる。
【0056】
活性化粒子の表面に担持された触媒は、後述する無電解めっき処理において金属が析出するための核となる。触媒としては、金属化合物を好適に用いることができ、たとえば塩化第一パラジウム、塩化第一スズ、硫酸第一スズ、フッ化スズ、酸化スズ、および有機酸スズからなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。たとえば、塩化第一パラジウムを用いた場合には、活性化粒子の表面にパラジウムイオンが担持されることとなる。なお、本工程では、必要に応じて還元剤を用いてもよい。
【0057】
<金属被覆粒子作製工程>
次に、触媒担持粒子を無電解めっき処理することにより、粒子の表面に金属層が設けられた金属被覆粒子を作製する。具体的には、撹拌槽に水等の溶媒を投入し、さらに洗浄処理後の触媒担持粒子を投入することにより、触媒担持粒子を含むスラリーを調製する。次に、このスラリーを撹拌しながら、金属塩、還元剤、および錯化剤を含むめっき処理液を投入し、無電解めっき処理を進行させる。そして、スラリーを洗浄処理する。洗浄処理方法は特に制限されず、洗浄液として水を用い、これを遠心分離機、漏斗等を用いて固液分離する方法を挙げることができる。
【0058】
めっき処理液の溶媒としては、有機溶媒、水またはこれらの混合溶媒を用いることができる。有機溶媒を用いた場合、めっき処理速度が遅くなるので、緻密な金属層を形成するのに適している。また、生産性を考慮した場合、水溶媒または混合溶媒を用いることが好ましい。なお、めっき処理液を添加する前のスラリーに含まれる溶媒も、水溶媒、有機溶媒および混合溶媒のいずれでもよい。
【0059】
めっき処理液に含まれる金属塩としては、無電解めっき処理法に用いられる公知のものを用いることができる。なかでも、有機溶媒、水、混合溶媒中で安定的に溶解できるものが好ましく、具体的には、硝酸塩、硫酸塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩、塩化物、酢酸塩、乳酸塩、スルファミン酸塩、フッ化物、ヨウ化物およびシアン化物を挙げることができる。この金属塩を構成する金属が、金属層を構成する金属となる。
【0060】
めっき処理液に含まれる還元剤としては、無電解めっき処理法に用いられる公知のものを用いることができる。具体的には、グルコース、サッカロースなどの糖類、セルロース、デンプン、グリコーゲンなどの多糖類、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、次亜リン酸、ホルムアルデヒド、水素化ボロン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、ヒドラジン酒石酸、およびこれらの塩を用いることができる。ヒドラジン酒石酸はアルカリ金属塩であることが好ましい。
【0061】
めっき処理液に含まれる錯化剤としては、無電解めっき処理法に用いられる公知のものを用いることができる。具体的には、コハク酸などのカルボン酸、クエン酸および酒石酸などのオキシカルボン酸、グリシン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、アミノ酢酸など、およびこれらの塩(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等)を用いることができる。錯化剤を用いることによって、金属の再析出を抑制することができるため、安定的に金属層を成長させることができる。
【0062】
めっき処理液のpHは、金属塩を構成する金属の種類によって適宜調整することが好ましい。めっき処理液に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等を添加することにより、そのpHをアルカリ性(pH8〜12)に調整することができ、硫酸、硝酸、クエン酸等を添加することにより、そのpHを酸性(pH1〜6)にすることができる。また、これらを併用することによって、そのpHを中性(pH6〜8)にすることもできる。めっき処理液を添加した後の反応液のpHについても同様に調整することが好ましい。
【0063】
無電解めっき処理を進行させる際の反応液の温度は、金属層となる金属の種類によって適宜調整することが好ましい。たとえば金属層が銀からなる場合、5℃以上40℃以下が好ましく、10℃以上30℃以下がより好ましい。なお、めっき処理時には、触媒担持粒子が沈降しない程度に反応液を撹拌することが好ましい。
【0064】
本工程を実施することにより、金属被覆粒子を含むスラリーを得ることができ、これを乾燥させることにより、金属被覆粒子を得ることができる。この金属被覆粒子は、粒子と、粒子を被覆する金属層と、を含み、金属層の表面における十点平均粗さRは0.1μm以下である。
【0065】
<保護処理工程>
上述の金属被覆粒子製造工程に続き、金属被覆粒子の表面を保護処理する工程を実施してもよい。これにより、金属被覆粒子の表面に上述の保護層を形成することができる。
【0066】
保護層を形成する方法は特に制限されないが、たとえば、保護層の材料となる脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、キレート剤、有機金属化合物等を含む溶液中に、金属被覆粒子を投入する方法を挙げることができる。なお、保護層形成後、固液分離等により、保護層が形成された金属被覆粒子を洗浄することが好ましい。
【0067】
<作用効果>
本実施形態に係る金属被覆粒子の製造方法によれば、粒子と、粒子を被覆する金属層と、を含み、金属層の表面における十点平均粗さRは0.1μm以下である金属被覆粒子を製造することができる。このようにして得られる金属被覆粒子は、高い平滑性を有し、もって高い導電性を有することができる。この製造方法により、このような平滑性および導電性の高い金属被覆粒子を製造することができる理由は明確ではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0068】
上述の活性化粒子工程により、粒子前駆体の表面が活性化されるが、この「活性化」とは、粒子前駆体の表面の汚れ等を除去して、粒子前駆体の表面を清浄化された状態とするとともに、その表面の反応性が高められた状態にする程度の表面処理であり、粒子前駆体の表面の状態を変化させて荒らしてしまうような、従来の強い表面処理とは異なる。このため、活性化粒子は、触媒との親和性が高く、エッチング等による乱れが発生していない表面を有することができ、その表面により均一に触媒を担持することができ、これにより、均質性の高い平滑な金属層が形成されることとなる。
【0069】
また、本発明は、上述の金属被覆粒子を含む樹脂組成物も対象とする。さらに、本発明は、上述の金属被覆粒子を含む樹脂組成物を適用した塗布物も対象とする。以下、これらについて詳述する。
【0070】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂に上述の金属被覆粒子を分散させたものや、溶剤中に樹脂および金属被覆粒子を分散させたものであり、具体的には、導電性ペースト、導電性塗料、導電性接着剤、導電性インキ、導電性フィルム等を挙げることができる。このような導電性の樹脂組成物(以下、「導電性樹脂組成物」ともいう)は、たとえば、上記金属被覆粒子を樹脂に練り込むことによって、または、これを溶剤中に分散(溶解)させることによって製造することができる。
【0071】
上記樹脂としては、この種の用途に使用される従来公知の樹脂を使用することができ、たとえば、熱硬化型アクリル樹脂/メラミン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂/セルロースアセテートブチレート(CAB)/メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル(アルキド)樹脂/メラミン樹脂、熱硬化型ポリエステル(アルキド)/CAB/メラミン樹脂、イソシアネート硬化型ウレタン樹脂/常温硬化型アクリル樹脂、水希釈型アクリルエマルジョン/メラミン樹脂などを挙げることができる。
【0072】
上記溶剤としては、上述の樹脂を溶解または分散できる溶剤であれば特に限定されない。たとえば、有機溶媒、水などから適宜好適なものを選択することができる。
【0073】
本実施形態に係る導電性樹脂組成物は、上述の金属被覆粒子を含むことにより、上述の金属被覆粒子の効果を引き継ぐことができる。すなわち、本実施形態に係る導電性樹脂組成物によれば、高い導電性を発揮することができる。
【0074】
なお、導電性樹脂組成物における金属被覆粒子の含有量は、用途により異なるため特に限定されないが、たとえば、樹脂100質量部に対して10質量部以上100質量部以下とすることが好ましい。10質量部未満の場合、導電性樹脂組成物の導電性が不十分となる場合があり、100質量部を超える場合、導電性樹脂組成物中の金属被覆粒子の量が多過ぎるために、操作性が低下する場合がある。また、上記導電性組成物は、樹脂および金属被覆粒子以外の任意の成分を含んでもよい。任意の成分としては、たとえば、ガラスフリット、金属アルコキシド、粘度調製剤、表面調製剤を挙げることができる。
【0075】
[塗布物]
本実施形態に係る塗布物は、上記樹脂組成物を適用した塗布物、具体的には、上記導電性樹脂組成物により形成された塗膜を基体上に有する塗布物であり、導電性塗膜、電極、配線、回路、導電性接合構造、導電性粘着テープ等を挙げることができる。このような塗布物は、上記導電性樹脂組成物を従来公知の塗布方法により基体上に塗布することによって製造することができる。
【0076】
上記塗膜の形状および厚さも特に制限されず、その用途によって所望の形状および厚さに適宜調整することができる。また、上記基体も特に制限されず、金属、プラスチックなどの有機物、セラミックス、ガラスなどの無機物、紙および木材などを用いることができる。
【0077】
本実施形態に係る塗布物は、上述の金属被覆粒子を含むことにより、高い導電性を発揮することができる。
【0078】
[その他]
本発明の金属被覆粒子は、導電性が求められる用途以外にも適用することができる。たとえば、平滑性の高い金属層を有していることから、光輝性などの意匠性が求められる用途に適用することができる。具体的には、樹脂に上述の金属被覆粒子を分散させたものや、溶剤中に樹脂および金属被覆粒子を分散させたものを、光輝性樹脂組成物として上記用途に適用することができる。このような光輝性樹脂組成物は、上述の金属被覆粒子を含むことにより、高い光輝性を発揮することができる。
【0079】
上記光輝性樹脂組成物は、たとえば上記金属被覆粒子を樹脂に練り込むことによって、または、塗料やインクのように、上記金属被覆粒子を溶剤中に分散(溶解)させることによって製造することができる。なお、樹脂の種類、溶剤の種類は導電性樹脂組成物に用いられる樹脂と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0080】
また、上記光輝性樹脂組成物により形成された塗膜を基体上に有する塗布物は、高い光輝性を発揮することができる。このような塗布物は、上記光輝性樹脂組成物を従来公知の塗布方法により基体上に塗布することによって製造することができる。
【0081】
上記塗膜の形状および厚さも特に制限されず、その用途によって所望の形状および厚さに適宜調整することができる。また、上記基体も特に制限されず、金属、プラスチックなどの有機物、セラミック、ガラスなどの無機物、紙および木材などを用いることができる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0083】
[金属被覆粒子の製造]
以下の各工程を実施することにより、実施例1〜4および比較例1の金属被覆粒子を製造した。
【0084】
<実施例1>
(準備工程)
まず、粒子前駆体として、アルミナフレーク粉末(商品名:「セラフ YFA−10030」、株式会社キンセイマテック社製)を準備した。この粉末の比表面積は2.38cm2/cm3であり、体積平均粒子径は9μmであり、アスペクト比は25〜30程度であった。
【0085】
(活性化粒子調製工程)
次に、撹拌槽に準備したアルミナフレーク粉末5g、イオン交換水50mlを投入して、スラリーを調製した。次に、このスラリーに60体積%フッ酸1mlをイオン交換水50mlで希釈した酸性溶媒を添加して3分間撹拌した。このときの撹拌槽内の温度は20℃であった。そして、撹拌後、スラリーの固液分離を行い、イオン交換水で洗浄した。これにより、活性化粒子としての粒子Aが得られた。
【0086】
(触媒担持粒子調製工程)
次に、他の撹拌槽にイオン交換水50mlを投入し、さらに粒子Aの全量を投入して1分間撹拌することにより、粒子Aを含むスラリーを調製した。次に、このスラリーに触媒としてのフッ化第一スズ0.25gとイオン交換水50mlを添加し、5分間撹拌を行った。このときの撹拌槽内の温度は55℃であった。そして、撹拌後、スラリーの固液分離を行い、イオン交換水で洗浄した。これにより、触媒担持粒子としての粒子Bが得られた。
【0087】
(金属被覆粒子作製工程)
次に、他の撹拌槽にイオン交換水900mlを投入し、さらに粒子Bの全量を投入して1分間撹拌することにより、粒子Bを含むスラリーを調製した。次に、このスラリーに以下(1)〜(3)の水溶液を投入し、60分間撹拌することにより、無電解めっき処理を進行させた。このときの撹拌槽内の温度は10℃であった。撹拌後、スラリーの固液分離を行い、イオン交換水で洗浄した。これにより、金属被覆粒子(ただし保護層を有さない)としての粒子Cが得られた。
【0088】
(1)硝酸銀7.87gと25%アンモニア水35mlをイオン交換水225mlに溶解させた水溶液
(2)水酸化ナトリウム3.15gをイオン交換水225mlに溶解させた水溶液
(3)ぶどう糖47.2gをイオン交換水225mlに溶解させた水溶液
なお、硝酸銀が金属塩に相当し、水酸化ナトリウムがpH調整剤に相当し、ぶどう糖が還元剤に相当し、アンモニア水が錯化剤に相当する。
【0089】
(保護処理工程)
次に、他の撹拌槽内に、2gのオレイン酸が100mlのイソプロピルアルコールに溶解されたオレイン酸含有アルコール溶液を投入し、さらに粒子Cの全量を投入して10分間撹拌した。これにより、金属被覆粒子の表面に保護層が形成された。撹拌後、スラリーの固液分離を行い、イオン交換水で洗浄し、さらに110℃の真空環境下で乾燥処理を行った。
【0090】
以上の処理により、実施例1の金属被覆粒子を製造した。実施例1の金属被覆粒子は、アルミナからなる粒子と、銀からなる金属層と、オレイン酸からなる保護層とを有しており、目視において白色を呈していた。
【0091】
<実施例2>
金属被覆粒子作製工程において、イオン交換水900mlの代わりに、イオン交換水700mlとメチルアルコール200mlとの混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様の方法により金属被覆粒子を作製した。なお、活性化粒子調製工程、触媒担持粒子調製工程および金属被覆粒子作製工程における各撹拌槽内の温度は、それぞれ20℃、55℃および30℃であった。
【0092】
実施例2の金属被覆粒子は、アルミナからなる粒子と、銀からなる金属層と、オレイン酸からなる保護層とを有しており、目視において白色を呈していた。
【0093】
<実施例3>
活性化粒子調製工程において、水酸化ナトリウム10gをイオン交換水50mlで希釈したアルカリ性溶媒を用い、触媒担持粒子調製工程において、塩化第一スズ0.3gおよび35体積%塩酸1mlを触媒として併用した以外は、実施例1と同様の方法により金属被覆粒子を作製した。なお、活性化粒子調製工程、触媒担持粒子調製工程および金属被覆粒子作製工程における各撹拌槽内の温度は、それぞれ20℃、30℃および30℃であった。
【0094】
実施例3の金属被覆粒子は、アルミナからなる粒子と、銀からなる金属層と、オレイン酸からなる保護層とを有しており、目視において白色を呈していた。
【0095】
<実施例4>
活性化粒子調製工程において、60体積%フッ酸5mlをイオン交換水50mlで希釈した酸性溶媒を用い、触媒担持粒子調製工程において、塩化第一スズ0.3gおよび35体積%塩酸1mlを触媒として併用した以外は、実施例1と同様の方法により、金属被覆粒子を作製した。なお、活性化粒子調製工程、触媒担持粒子調製工程および金属被覆粒子作製工程における各撹拌槽内の温度は、それぞれ20℃、30℃および30℃であった。
【0096】
実施例4の金属被覆粒子は、アルミナからなる粒子と、銀からなる金属層と、オレイン酸からなる保護層とを有しており、目視において白色を呈していた。
【0097】
<比較例1>
活性化粒子調製工程を行わなかった以外は、実施例4と同様の方法により、金属被覆粒子を作製した。比較例1の金属被覆粒子は、アルミナからなる粒子と、銀からなる金属層と、オレイン酸からなる保護層とを有しており、目視において黄褐色を呈していた。
【0098】
[特性評価]
実施例1〜4および比較例1の金属被覆粒子を用いて、SEM観察を行うとともに、金属被覆粒子中の銀の含有割合(質量%)、十点平均粗さRの算出、導電性の評価、光輝性の評価を実施した。
【0099】
<SEM観察>
実施例1〜4および比較例1の金属被覆粒子を、電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて10000倍の倍率で撮像した。撮像された電子画像を図2〜6に示す。
【0100】
図2図6は、それぞれ実施例1〜4、比較例1の金属被覆粒子の電子画像である。図6の比較例1の金属被覆粒子と比して、図2図5の実施例1〜4の各金属被覆粒子は、表面が平滑であることが観察された。また、比較例1の金属被覆粒子では、金属層の表面に粒子状に析出する金属粒子が多数観察された。
【0101】
また、目視において、実施例1〜4の金属被覆粒子は白色を呈したのに対し、比較例1の金属被覆粒子は黄褐色を呈していた。これは、粒子に被覆された金属が粒子状に被覆されたことによる光の乱反射の影響によるためと考えられる。
【0102】
<銀の含有割合>
実施例1〜4および比較例1の金属被覆粒子を硝酸およびフッ化水素酸からなる混酸に溶解させた各測定試料を準備した。原子吸光光度計(製品名:「A−2000」、株式会社日立ハイテクフィールディング製)を用いて、各測定試料中に含まれる金属成分を測定した。なお、測定波長は328.1nm、ガス条件は空気−アセチレンとした。そして、この測定結果からAgの質量比を算出し、これをもとに、下記式(2)により、各金属被覆性粒子の平均被覆量(質量%)を算出した。この結果を表1の「Ag含有割合」の欄に示す。
【0103】
被覆量(質量%)={W1/(W1+W2)}×100・・・(1)
式(2)中、W1は金属層を構成する銀(Ag)の質量を示し、W2はコア粒子を構成するアルミナ(Al23)の質量を示す。
【0104】
【表1】
【0105】
表1を参照し、実施例1〜4および比較例1の金属被覆粒子において、銀の含有割合には大きな差は確認されなかった。
【0106】
<十点平均粗さRの算出>
実施例1〜4および比較例1の金属被覆粒子をエポキシ樹脂に練り込んだ試料を作製し、この試料を所定の形状に成形した後、イオンミリングを用いて成形後の試料を切断した。得られた切断面を、電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて10000倍の倍率で撮像し、その電子画像を用いて、上述の方法により十点平均粗さRを算出した。その結果を表1の「十点平均粗さR」の欄に示す。
【0107】
表1を参照し、実施例1〜4において、十点平均粗さRは0.1μm以下であるのに対し、比較例1における十点平均粗さRは0.25μmと2倍以上の値を示すことが確認された。したがって、実施例1〜4の金属被覆粒子は、比較例1の金属被覆粒子と比して平滑性が高いことが確認された。
【0108】
また、図7および8に、実施例4の試料の断面を撮像した電子画像(図8図7に比して撮像倍率を5倍に上げたもの)を示す。対比として、図9および図10に、比較例1の試料の断面を撮像した電子画像(図10図9に比して撮像倍率を5倍に上げたもの)を示す。
【0109】
図7図10を参照し、実施例4の金属被覆粒子においては、比較例1の金属被覆粒子と比して、均質な金属層が緻密に形成されていることが確認された。また、その表面の凹凸も小さく、平滑性が高いことが目視からも確認された。特に、比較例1の金属被覆粒子は、金属層が形成されず、アルミナが露出している箇所が多く確認された。
【0110】
<導電性の評価>
実施例1〜4および比較例1の各金属被覆粒子とビヒクル(商品名:「ニッペアクリルオートクリヤースーパー」、日本ペイント社製)とを混練して、導電性樹脂組成物を作製した。なお、導電性樹脂組成物における配合量(金属被覆粒子:樹脂)は60体積%:40体積%とした。
【0111】
得られた導電性樹脂組成物を、乾燥後の塗膜厚さが30μm〜40μmとなるようにアプリケーターを用いてPETフィルム上に塗布し、80℃にて1分間乾燥することにより塗膜を形成した。なお、塗膜の厚みは、デジマチック標準外側マイクロメータ(商品名:「IP65 COOLANT PROOF Micrometer」、株式会社ミツトヨ社製)で測定することによって確認した。
【0112】
各塗膜について、四探針式表面抵抗測定器(商品名:「ロレスタGP」、株式会社三菱アナリテック製)を用いて任意の3点を測定し、その平均値を比抵抗値(Ω・cm)とした。具体的には、導電性塗膜の寸法、平均塗膜厚み、測定点の座標を四探針式表面抵抗測定器にデータ入力し、自動的に計算させることによって得られる値を導電性塗膜の比抵抗値とした。結果を表1に示す。なお、比抵抗値が小さい程導電性に優れていることを示す。
【0113】
表1を参照し、実施例1〜4の導電性樹脂組成物は、比較例1の導電性樹脂組成物よりも比抵抗値が小さく、導電性に優れていることが確認された。
【0114】
<光輝性の評価>
各塗膜について、JIS−Z8722(2009)(色の測定方法−反射および透過物体色)の条件aに記載の方法に従って測定したY値から、JIS−Z8729(2004)(色の表示方法−L表色系およびL表色系)に規定されるL、aおよびbを得た。具体的には、マルチアングル分光測色計(商品名:「X-Rite MA-68II」、X-Rite社製)を用いて、入射角45°、正反射方向からのオフセット角15°におけるL値、a値およびb値を測定した。L値が大きいほど、明度が大きいことを示す。この結果を表1の「L」、「a」および「b」の欄に示す。
【0115】
表1を参照し、実施例1〜4の導電性樹脂組成物は、比較例1の導電性樹脂組成物よりも明度が大きく、したがって、高い光輝性を有することが確認された。
【0116】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0117】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0118】
10 金属被覆粒子、11 粒子、12 金属層、13 樹脂。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10