特許第6367022号(P6367022)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6367022超伝導電磁石、超伝導サイクロトロン、及び荷電粒子線偏向電磁石
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367022
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】超伝導電磁石、超伝導サイクロトロン、及び荷電粒子線偏向電磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/00 20060101AFI20180723BHJP
   H05H 7/04 20060101ALI20180723BHJP
   H05H 13/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   H01F6/00 160
   H05H7/04
   H05H13/00
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-137040(P2014-137040)
(22)【出願日】2014年7月2日
(65)【公開番号】特開2016-15422(P2016-15422A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2016年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】湯本 健太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 潤
【審査官】 右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−251182(JP,A)
【文献】 特開昭49−057791(JP,A)
【文献】 特開平02−226699(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/052709(WO,A1)
【文献】 特開平05−205938(JP,A)
【文献】 特開平10−135026(JP,A)
【文献】 特開2004−179413(JP,A)
【文献】 特開2008−020266(JP,A)
【文献】 特開平06−260331(JP,A)
【文献】 特開2009−009987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/00
H05H 7/04
H05H 13/00
H01L 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の超伝導コイルと、
前記超伝導コイルを収容するヨークと、
前記超伝導コイルに給電して前記超伝導コイルを励磁するコイル電源と、
前記コイル電源を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記超伝導コイルを励磁するときに電流の掃引速度を変化させ
前記制御部は、励磁初期に、前記電流の掃引速度を時間の経過と共に大きくする、超伝導電磁石。
【請求項2】
請求項1に記載の超伝導電磁石を有する、超伝導サイクロトロン。
【請求項3】
請求項1に記載の超伝導電磁石を有する、荷電粒子線偏向電磁石。
【請求項4】
環状の超伝導コイルと、
前記超伝導コイルを収容するヨークと、
前記超伝導コイルに給電して前記超伝導コイルを励磁するコイル電源と、
前記コイル電源を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記超伝導コイルを励磁するときに電流の掃引速度を変化させ、
前記制御部は、励磁初期に、前記電流の掃引速度を時間の経過と共に大きくし、
前記制御部は、前記電流の掃引速度を段階的に大きくする、超伝導電磁石。
【請求項5】
請求項4に記載の超伝導電磁石を有する、超伝導サイクロトロン。
【請求項6】
請求項4に記載の超伝導電磁石を有する、荷電粒子線偏向電磁石。
【請求項7】
環状の超伝導コイルと、
前記超伝導コイルを収容するヨークと、
前記超伝導コイルに給電して前記超伝導コイルを励磁するコイル電源と、
前記コイル電源を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記超伝導コイルを励磁するときに電流の掃引速度を変化させ、
前記超伝導コイルの温度を測定する温度測定部を更に備え、
前記制御部は、前記温度測定部によって測定した前記温度に基づいて前記電流の掃引速度を変化させる、超伝導電磁石。
【請求項8】
請求項7に記載の超伝導電磁石を有する、超伝導サイクロトロン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導電磁石、超伝導サイクロトロン、及び荷電粒子線偏向電磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超伝導電磁石に関する技術として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1には、超伝導サイクロトロンに用いられる超伝導電磁石であって、コイル電源が超伝導コイルに給電することで、超伝導コイルが励磁され、超伝導コイルを収容するヨークに磁気回路が形成されるものが記載されている。なお、このような超伝導電磁石は、荷電粒子線の進行方向を変化させるための荷電粒子線偏向電磁石にも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−251182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような超伝導電磁石においては、超伝導コイルを励磁する際の電流の掃引速度は一定とされていた。ここで、超伝導電磁石において、コイル電源の電圧は、電流の掃引速度及びインダクタンスに比例する。また、インダクタンスは電流に依存し、電流が小さいときにはインダクタンスが高い。従って、電流の掃引速度を一定として超伝導コイルを励磁する際、電流が小さいときにはコイル電源の電圧が増大するため、高い電圧に対応した大型のコイル電源が必要となる場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、コイル電源の電圧の増大を抑制することができる超伝導電磁石、超伝導サイクロトロン、及び荷電粒子線偏向電磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る超伝導電磁石は、環状の超伝導コイルと、超伝導コイルを収容するヨークと、超伝導コイルに給電して超伝導コイルを励磁するコイル電源と、コイル電源を制御する制御部と、を備え、制御部は、超伝導コイルを励磁するときに電流の掃引速度を変化させる。
【0007】
本発明に係る超伝導電磁石によれば、コイル電源が超伝導コイルに給電することで、超伝導コイルが励磁され、超伝導コイルを収容するヨークに磁気回路が形成される。ここで、制御部は、超伝導コイルを励磁するときに電流の掃引速度を変化させることができる。従って、制御部によって、状況に応じて、コイル電源の電流の掃引速度を好適に変化させることができる。電圧は電流の掃引速度及びインダクタンスに比例するため、インダクタンスが高いときでも電流の掃引速度を小さくすることで、電圧の増大を抑制できる。これにより、コイル電源の電圧の増大を抑制することができる。
【0008】
本発明に係る超伝導電磁石において、制御部は、励磁初期に、電流の掃引速度を時間の経過と共に大きくしてよい。この場合、インダクタンスが高い励磁初期には電流の掃引速度を小さくし、インダクタンスが低くなった後は電流の掃引速度を大きくすることができる。これにより、コイル電源の電圧の増大を抑制することができる。
【0009】
本発明に係る超伝導電磁石において、制御部は、電流の掃引速度を段階的に大きくしてよい。これにより、制御部によるコイル電源の制御を容易に行うことができる。
【0010】
本発明に係る超伝導電磁石において、コイル電源の電圧を測定する電圧測定部を更に備え、制御部は、電圧測定部によって測定した電圧に基づいて電流の掃引速度を変化させてよい。これにより、コイル電源の電圧に応じて電流の掃引速度を好適に変化させることができるため、コイル電源の電圧の増大を抑制することができる。
【0011】
本発明に係る超伝導電磁石において、超伝導コイルの温度を測定する温度測定部を更に備え、制御部は、温度測定部によって測定した温度に基づいて電流の掃引速度を変化させてよい。これにより、超伝導コイルの温度に応じて電流の掃引速度を好適に変化させることができる。
【0012】
本発明に係る超伝導電磁石において、電流の掃引速度を変化させる掃引パターンを記憶する記憶部を更に備え、制御部は、記憶部が記憶している掃引パターンに基づいて電流の掃引速度を変化させてよい。これにより、好適な掃引パターンを記憶部に記憶させておくことにより、当該掃引パターンに基づいて電流の掃引速度を好適に変化させることができるため、コイル電源の電圧の増大を抑制することができる。
【0013】
本発明に係る超伝導サイクロトロンは、上述の超伝導電磁石を有する。これにより、超伝導サイクロトロンに用いられる超伝導電磁石のコイル電源の電圧の増大を抑制することができる。
【0014】
本発明に係る荷電粒子線偏向電磁石は、上述の超伝導電磁石を有する。これにより、荷電粒子線偏向電磁石に用いられる超伝導電磁石のコイル電源の電圧の増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コイル電源の電圧の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る超伝導電磁石の構成を示す概略断面図である。
図2】コイル電源の構成を説明する概略回路図である。
図3】電流の掃引速度の制御の一例を示すグラフである。
図4】第1の制御例に係る超伝導電磁石の構成を示す概略断面図である。
図5】第2の制御例に係る超伝導電磁石の構成を示す概略断面図である。
図6】超伝導コイルの温度に基づく電流の掃引速度の制御を説明するグラフである。
図7】第3の制御例に係る超伝導電磁石の構成を示す概略断面図である。
図8】超伝導コイルのインダクタンスの電流依存性を示すグラフである。
図9】掃引パターンに基づく電流の掃引速度の制御を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る超伝導電磁石の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、実施形態に係る超伝導電磁石1の構成を示す概略断面図である。図1に示すように、超伝導電磁石1は、超伝導サイクロトロンに用いられるものである。この超伝導サイクロトロンは、イオン源(不図示)から供給される荷電粒子を超伝導コイル2,3により発生させた磁場によって加速して、荷電粒子線(荷電粒子ビーム)を出力する円形加速器である。荷電粒子としては、例えば陽子、重粒子(重イオン)、電子などが挙げられる。
【0019】
超伝導電磁石1は、環状の超伝導コイル2,3と、超伝導コイル2,3を収容する環状のヨーク4と、超伝導コイル2,3に給電するコイル電源8と、コイル電源8を制御する制御部9と、超伝導コイル2,3を冷却するための冷凍機(冷却手段)10と、を備えている。超伝導電磁石1は、超伝導コイル2,3を冷凍機10により冷却して所定温度以下とすることで超伝導状態として、この超伝導状態となった超伝導コイル2,3にコイル電源8により電流を流して励磁することで強力な磁場を発生させる。
【0020】
超伝導コイル2,3は、断面矩形状の円環状をなし、それぞれの中心軸線C1,C2が一致するように、上下に離間して配置されている。図1に示すように、超伝導コイル2が上側に配置され、超伝導コイル3が下側に配置されている。
【0021】
また、超伝導コイル2,3は、図示しないコイル保持部材によって一体的にヨーク4内で保持されている。このコイル保持部材に接触するように、又は超伝導コイル2,3に接触するように、冷凍機10が設けられており、冷凍機10による超伝導コイル2,3の直接冷却が行われる。超伝導コイル2,3は、冷凍機10によって所定温度以下まで冷却されることで超伝導状態となる。冷凍機10としては、例えば小型GM冷凍機を採用することができる。
【0022】
ヨーク4は、例えば鉄を含んだ磁性体によって形成され、超伝導コイル2,3によって発生させた磁場により閉じた磁気回路を形成する。ヨーク4は、中空の円盤部5と、円盤部5の内部に配置された上ポール(上磁極)6及び下ポール(下磁極)7と、を備える。円盤部5の内部には超伝導コイル2,3が収容されており、円盤部5の中心軸線C3は、超伝導コイル2,3の中心軸線C1,C2と一致する。上ポール6は、円盤部5の内面の上面側5aに接続した略円柱状をなし、超伝導コイル2の空芯部位に配置されている。下ポール7は、円盤部5の内面の下面側5bに接続した略円柱状をなし、超伝導コイル3の空芯部位に配置されている。上ポール6と下ポール7との間は離間しており、空間Gが形成されている。空間Gは、上ポール6と下ポール7との間に形成される磁場によって、荷電粒子を加速する空間である。
【0023】
コイル電源8は、超伝導コイル2,3に給電を行うことで超伝導コイル2,3を励磁する。励磁された超伝導コイル2,3によって発生した磁場は、順に、ヨーク4の円盤部5、上ポール6、空間G、下ポール7を周回する磁気回路を形成する。
【0024】
コイル電源8は、基準電圧を発生させる起電部14と、電流を変化させる電力制御素子15と、を有している(図2参照)。電力制御素子15は、制御部9により制御されて、超伝導コイル2,3に給電する電流の掃引速度を変化させる。例えば、電力制御素子15は、電流の掃引速度を一定に維持する、掃引速度を所定の値に段階的に変化させる、掃引速度を連続的に変化させる等することができる。
【0025】
制御部9は、コイル電源8の電力制御素子15を制御することで、超伝導コイル2,3に給電する電流の掃引速度を制御する。制御部9が電流の掃引速度を変化させるタイミングは、特に限定されない。例えば、制御部9は、電流の掃引速度を、コイル電源8の電圧に基づいて変化させてもよく、コイル電源8の電流に基づいて変化させてもよく、超伝導コイル2,3等の超伝導電磁石1の構成部品の温度に基づいて変化させてもよく、超伝導コイル2,3の励磁開始後の経過時間に基づいて変化させてもよく、又は、予め解析又は測定によって取得した好適な掃引パターンに基づいて変化させてもよい。これらのいずれか一つ、又は複数の組み合わせにより、好適な電流の掃引速度によって超伝導コイル2,3を励磁することができる。これにより、コイル電源8の電圧が過大になることを避けつつ、超伝導コイル2,3に給電される電流の掃引速度をできるだけ大きく設定することができる。
【0026】
続いて、制御部9による電流の掃引速度の制御について詳細に説明する。
【0027】
まず、超伝導コイル2,3に給電される電流と、コイル電源8の電圧と、の関係について説明する。超伝導電磁石1において、式(1)に示すように、コイル電源8の電圧Vは、超伝導コイル2,3に給電される電流Iの掃引速度、及び超伝導コイル2,3のインダクタンスLに比例する。
【数1】

また、式(2)に示すように、インダクタンスLは電流Iに依存し、電流Iが小さいときはインダクタンスLが高い(図8参照)。
【数2】
【0028】
図8は、超伝導コイルのインダクタンスの電流依存性を示すグラフであり、横軸は電流I、縦軸はインダクタンスLを表す。解析又は測定を行うことにより、図8に示すようなデータが得られる。図8において、インダクタンスは、電流Iが小さいとき(例えば、2(A)以下のとき)には高く(約800(H))、電流Iが大きくなるに伴い急激に低下し、電流Iが大きいとき(例えば、10(A)以上のとき)には低くなっている(約60(H))。なお、上記の式(1)、(2)において、Iは超伝導コイル2,3に給電される電流、Vはコイル電源8の電圧、Lは超伝導コイル2,3のインダクタンスL、Qmは磁気蓄積エネルギーを表す。また、以下の説明において、電流Iの時間微分(電流Iの掃引速度)をSと表す場合がある。
【0029】
以上により、超伝導コイル2,3を励磁する際、電流Iが小さいときにはインダクタンスLが高くなり、電圧Vが高くなる。
【0030】
本実施形態における電流の掃引速度について説明する。図3に示すように、超伝導コイル2,3を励磁する際、励磁初期において電流Iは小さい(すなわち、図8に示すようにインダクタンスLは高い)。励磁初期とは、例えば、励磁開始から少なくとも電流Iが定常の値に達するまでの期間としてもよく、又は励磁開始から所定時間が経過するまでの期間としてもよい。ここで、制御部9は、励磁開始時において、電流Iの掃引速度Sを小さい値S1に設定する。これにより、電圧Vが高くなることを抑制する。なお、図3は、横軸が時間t、縦軸が電流I及び電流Iの掃引速度Sを表している。
【0031】
次に、制御部9は、電流Iの掃引速度Sを、電圧Vが過大にならない範囲で適宜増減させるように制御する。励磁開始時において電流Iの掃引速度Sを小さい値S1に設定しているが、時間の経過と共に電流Iが大きくなってインダクタンスLが低くなり、電流Iの掃引速度Sを大きい値に設定することも可能となる。従って、図3に示す例では、制御部9は、電流Iの掃引速度Sを小さい値S1から大きい値S2に設定している。この場合、インダクタンスLは励磁開始時よりも低いため、電圧Vが過大になることを避けつつ、電流Iの掃引速度Sを大きな値に設定することができる。なお、電流Iの掃引速度Sを小さな値S1から大きな値S2へ切り替えるタイミングは、特に限定されず、例えば、コイル電源8の電圧に基づいて切り替えてもよく、超伝導コイル2,3の電流に基づいて切り替えてもよく、予め切り替えるタイミングをデータとして準備しておいてもよい。また、掃引速度Sの変化の態様も図3に示すものに限定されない。以下、制御部9が電流Iの掃引速度Sを変化させる場合の制御方法の具体的な例について説明する。
【0032】
[第1の制御例]
本実施形態の第1の制御例として、コイル電源8の電圧Vに基づいて電流Iの掃引速度Sを変化させる場合について、図4を参照しつつ説明する。
【0033】
図4は、第1の制御例に係る超伝導電磁石1の構成を示す概略断面図である。図4に示すように、超伝導電磁石1は、電圧Vを測定する電圧測定部11を更に備えている。コイル電源8は、電圧測定部11と接続されており、電圧測定部11によって常時、又は所定時間毎に電圧Vを測定されている。電圧測定部11によって測定された電圧Vは、制御部9に出力される。
【0034】
制御部9は、電圧測定部11によって測定された電圧Vに基づいて、電流Iの掃引速度Sを好適に変化させるように、コイル電源8の電力制御素子15を制御するフィードバック制御を行う。
【0035】
電圧測定部11によって測定された電圧Vをフィードバックすることによって、制御部9が電流Iの掃引速度Sを図3に示すようなパターンで制御する場合の例について説明する。この場合、まず、制御部9は、励磁開始時において電流Iの掃引速度Sを小さい値S1に設定する(図3参照)。
【0036】
次に、電圧測定部11によって電圧Vを測定する。測定した結果、電圧Vが所定の範囲内に収まっている場合(すなわち、電圧Vが過大ではなく、且つ、低すぎでもない場合)、制御部9は、電流Iの掃引速度Sを小さい値S1のまま維持するように制御する。電流Iは、小さい値S1の掃引速度Sで増大し、インダクタンスLは電流Iの増大に伴い低下する。従って、電流Iの掃引速度Sを小さい値S1のまま維持すると、電圧Vは低下してゆく。
【0037】
励磁開始から一定の時間が経過した後に、電圧測定部11によって電圧Vを測定した結果、電圧Vが所定の値より小さくなったと判定した場合、制御部9は、電流Iの掃引速度Sが大きい値S2になるように制御する。これにより、電圧Vが過大になることを避けることができる範囲内で、電流Iの掃引速度Sをできるだけ大きく設定することができる。
【0038】
なお、第1の制御例において、励磁開始時において電流Iの掃引速度Sを小さい値S1に設定する場合を例示したが、励磁開始時において電流Iの掃引速度Sを小さい値S1としなくてもよく、相対的に大きい値としてもよい。この場合でも、制御部9がフィードバック制御を行うことによって、電流Iの掃引速度Sを好適な大きさに変化させることができる。例えば、電圧Vが大きすぎる場合は、制御部9が電流Iの掃引速度Sを小さくするような制御を行うことによって、電圧Vが過大となることを抑制することができる。
【0039】
また、電流Iの掃引速度Sについて、小さい値S1と大きい値S2との2段階に切り換える場合を例示したが、3段階以上に切り換えてもよく、連続的に切り替えてもよい。この場合、電流Iの掃引速度Sをより好適に制御することが可能となる。
【0040】
[第2の制御例]
続いて、本実施形態の第2の制御例として、超伝導コイル2,3の温度に基づいて電流Iの掃引速度Sを変化させる場合について、図5,6を参照しつつ説明する。
【0041】
図5は、第2の制御例に係る超伝導電磁石1の構成を示す概略断面図である。第2の制御例に係る超伝導電磁石1は、第1の制御例に係る超伝導電磁石1と比較して、電圧測定部11を有さず、超伝導コイル2,3の温度を測定する温度測定部12を有している点で相違している。
【0042】
温度測定部12は、超伝導コイル2,3に直接、又は超伝導コイル2,3の周囲のヨーク4等の構成部品に配置されて、超伝導コイル2,3の温度を常時、又は所定時間毎に測定する。温度測定部12によって測定された温度は、制御部9に出力される。温度測定部12によって超伝導コイル2,3を直接測定した温度は、超伝導コイル2,3の温度を表す。一方、温度測定部12によって超伝導コイル2,3の周囲のヨーク4等の構成部品を測定した温度は、制御部9によって演算が行われて、超伝導コイル2,3の温度が推定される。以下、超伝導コイル2,3を直接測定した温度に限らず、ヨーク4等の構成部品の温度から推定された超伝導コイル2,3の温度も、温度測定部12によって測定された超伝導コイル2,3の温度Tという。
【0043】
電流Iの掃引速度Sが過大になると、磁束変化が過大となり、超伝導電磁石1の構成部品において渦電流による発熱が大きくなる。ここで、超伝導コイル2,3を、超伝導状態を維持できる温度に保つために、超伝導コイル2,3の温度Tが所定の値を超えないように管理する必要がある。
【0044】
制御部9は、図5,6に示すように、超伝導コイル2,3に給電する電流Iの掃引速度Sを制御する。制御部9は、温度測定部12によって測定された超伝導コイル2,3の温度Tに基づいて、電流Iの掃引速度Sを好適に変化させるように、コイル電源8の電力制御素子15を制御するフィードバック制御を行う。なお、図6は、横軸が時間t、縦軸が超伝導コイル2,3の温度T及び電流Iの掃引速度Sを表している。
【0045】
制御部9は、図6に示すように、電流Iの掃引速度Sを増大、又は減少させる基準とする温度上限閾値Mを設定する。超伝導コイル2,3の温度Tが温度上限閾値Mよりも高い場合、制御部9は、電流Iの掃引速度Sが小さい値S1になるように制御する。これにより、超伝導コイル2,3の温度Tが所定の値を超えないように管理する。
【0046】
一方、超伝導コイル2,3の温度が温度上限閾値Mよりも低い場合、制御部9は、電流Iの掃引速度Sを大きい値S2になるように制御する。これにより、超伝導コイル2,3の温度が過大になることを避けつつ、電流Iの掃引速度Sをできるだけ大きく設定することができる。
【0047】
[第3の制御例]
続いて、本実施形態の第3の制御例として、予め記憶した掃引パターンに基づいて電流Iの掃引速度Sを変化させる場合について、図7〜9を参照しつつ説明する。
【0048】
図7は、第3の制御例に係る超伝導電磁石1の構成を示す概略断面図である。第3の制御例に係る超伝導電磁石1は、第1の制御例に係る超伝導電磁石1と比較して、電圧測定部11を有さず、超伝導コイル2,3に給電される電流Iの掃引速度Sを変化させる掃引パターンを記憶する記憶部13を有している点で相違している。
【0049】
記憶部13は、超伝導コイル2,3の励磁時における、超伝導コイル2,3のインダクタンスLの電流依存性について、例えば数値計算、実験等により予め取得したデータに基づく超伝導コイル2,3の最適な掃引パターンを記憶している。予め取得するデータは、例えば図8に示すような、コイル電源8により超伝導コイル2,3に所定の電流を給電した場合における超伝導コイル2,3のインダクタンス等に関するものである。
【0050】
制御部9は、図9に示すように、記憶部13に記憶された掃引パターンに基づいて、電流Iの掃引速度Sを制御する。なお、図9において、横軸は時間t、縦軸は電流Iの掃引速度Sを表す。超伝導電磁石1において、図8に示すような、超伝導コイル2,3の励磁時における、超伝導コイル2,3のインダクタンスLの電流依存性のデータに基づき、好適な電流Iの掃引速度Sを予め記憶部13に記憶させておく。このとき、インダクタンスLの電流依存性のデータに対して、例えば点列、関数による近似等を行ってもよい。第3の制御例では、記憶部13が予め掃引パターンを記憶しておくため、図9に示すように、電流Iの掃引速度Sを連続的に、且つ細かく制御することを容易に行うことができる。
【0051】
これにより、超伝導コイル2,3の温度Tが過大になることを避けつつ、電流Iの掃引速度Sをできるだけ大きく設定することができる。また、例えば上記の制御を行わない場合と同等の励磁時間で、電圧Vを一定の値以下に維持しつつ、励磁に伴う磁束の変化に起因する渦電流の発熱が最小となるような電流Iの掃引速度Sを予め設定することもできる。なお、記憶部13に記憶された掃引パターンは、図3図6に示すような、掃引速度Sが段階的に変化するようなシンプルなものであってもよい。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係る超伝導電磁石1によれば、コイル電源8が超伝導コイル2,3に給電することで、超伝導コイル2,3が励磁され、超伝導コイル2,3を収容するヨーク4に磁気回路が形成される。ここで、制御部9は、超伝導コイル2,3を励磁するときに電流の掃引速度を変化させることができる。従って、制御部9によって、状況に応じて、コイル電源8の電流の掃引速度を好適に変化させることができる。電圧は電流の掃引速度及びインダクタンスに比例するため、インダクタンスが高いときでも電流の掃引速度を小さくすることで、電圧の増大を抑制できる。これにより、コイル電源8の電圧の増大を抑制することができる。
【0053】
また、制御部9は、励磁初期に、電流の掃引速度を時間の経過と共に大きくする。これにより、インダクタンスが高い励磁初期には電流の掃引速度を小さくし、インダクタンスが低くなった後は電流の掃引速度を大きくすることができる。これにより、コイル電源8の電圧の増大を抑制することができる。
【0054】
また、制御部9は、電流の掃引速度を段階的に大きくする。これにより、制御部9によるコイル電源8の制御を容易に行うことができる。
【0055】
また、コイル電源8の電圧を測定する電圧測定部11を更に備え、制御部9は、電圧測定部11によって測定した電圧に基づいて電流の掃引速度を変化させる。これにより、コイル電源8の電圧に応じて電流の掃引速度を好適に変化させることができるため、コイル電源8の電圧の増大を抑制することができる。
【0056】
また、超伝導コイル2,3の温度を測定する温度測定部12を更に備え、制御部9は、温度測定部12によって測定した温度に基づいて電流の掃引速度を変化させる。これにより、超伝導コイル2,3の温度に応じて電流の掃引速度を好適に変化させることができる。
【0057】
また、電流の掃引速度を変化させる掃引パターンを記憶する記憶部13を更に備え、制御部9は、記憶部13が記憶している掃引パターンに基づいて電流の掃引速度を変化させる。これにより、好適な掃引パターンを記憶部13に記憶させておくことにより、当該掃引パターンに基づいて電流の掃引速度を好適に変化させることができるため、コイル電源8の電圧の増大を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る超伝導電磁石1を有する超伝導サイクロトロンは、超伝導電磁石1のコイル電源8の電圧の増大を抑制できる。
【0059】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、超伝導電磁石1は、上記の各制御例に記載した構成を組み合わせてもよい。すなわち、電圧測定部11、温度測定部12、記憶部13のうちの少なくとも2つを備えた構成としてもよい。この場合、超伝導コイル2,3に給電する電流の掃引速度をより好適に制御することが可能となるため、コイル電源8の電圧の増大をより抑制できる。
【0060】
また、上記の実施形態に係る超伝導電磁石1において、制御部9は、電流の掃引速度を時間の経過と共に(一時的に)小さくしてもよい。この場合、コイル電源8の電圧が過大になることを抑制することができる。
【0061】
また、上記の実施形態に係る超伝導電磁石1は、超伝導サイクロトロンに用いられるものであるが、例えば荷電粒子線偏向電磁石、シリコン単結晶引き上げ装置(MCZ)等に用いてもよい。この場合、超伝導電磁石1のコイル電源8の電圧の増大を抑制できる。
【符号の説明】
【0062】
1…超伝導電磁石、2,3…超伝導コイル、4…ヨーク、8…コイル電源、9…制御部、11…電圧測定部、12…温度測定部、13…記憶部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9