(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2のステップにおけるレーザ光の照射とワークに対する相対的な移動の繰り返しの回数は、予め求めたレーザ光の照射回数とワークの曲げ角度との関係を示すデータに基づいて定められる、請求項1に記載のレーザフォーミング加工方法。
前記レーザ光の照射回数とワークの曲げ角度との関係を示すデータの作成は、以下の各ステップを実行することにより行われる、請求項2に記載のレーザフォーミング加工方法。
c.レーザ光を、前記第1のワークと材質および形状が等しい第2のワークの一方の面に照射しながらワークに対して相対的に移動させた後、ワークの曲げ角度を測定する第3のステップ
d.前記第2のワークの他方の面のうち、前記レーザ光の照射軌跡に対向する箇所に、レーザ光を照射しながらワークに対して相対的に移動させる動作を繰り返し行い、かつ当該動作毎に曲げ角度を測定する第4のステップ
e.前記第3および第4のステップにおいて測定したワークの曲げ角度とレーザ光の照射回数との関係を示すデータを作成する第5のステップ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2に記載のレーザ光による焼入れ方法は、金属板の表面を焼入れするものであり、バネ部材等を製造する場合に必要とされる断面全体の焼入れ、ひいては薄板鋼材全体の焼入れが困難であることから、レーザフォーミング加工を用いたバネ部材等の製造は、実現に至っていない。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みて成されたもので、薄板鋼材の曲げ加工と焼入れを同時に実現できるレーザフォーミング加工方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明にかかるレーザフォーミング加工方法は、以下の各ステップにより、レーザ光を用いて薄板鋼材製のワークを所定の形状に加工することを特徴とする。
a.レーザ光を、第1のワークの一方の面に照射しながらワークに対して相対的に
移動させ、レーザ光の照射軌跡に沿って、
前記第1のワークの断面の厚さDに対して0.5D〜0.8Dの範囲でワークに焼入れを行う第1のステップ
b.前記第1のワークの他方の面のうち、前記レーザ光の照射軌跡に対向する箇所
に、レーザ光を照射しながらワークに対して相対的に移動させる動作を繰り返し行
い、レーザ光の照射軌跡に沿って、前記第1のワークの断面の厚さDに対して0.5D〜0.8Dの範囲でワークに焼入れを行い、前記第1のステップの焼入れと合わせて、前記レーザ光の照射軌跡に沿ったワ
ークの断面全体に焼入れを行うと共に、前記第1のワークをレーザ光の照射軌跡に沿って所定の角度曲げる第2のステップ。
【0011】
ここで、前記第2のステップにおけるレーザ光の照射とワークに対する相対的な移動の繰り返しの回数は、予め求めたレーザ光の照射回数とワークの曲げ角度との関係を示すデータに基づいて定められることが好ましい。
【0012】
そして前記レーザ光の照射回数とワークの曲げ角度との関係を示すデータの作成は、以下の各ステップを実行することにより行われる。
c.レーザ光を、前記第1のワークと材質および形状が等しい第2のワークの一方
の面に照射しながらワークに対して相対的に移動させた後、ワークの曲げ角度を測
定する第3のステップ
d.前記第2のワークの他方の面のうち、前記レーザ光の照射軌跡に対向する箇所
に、レーザ光を照射しながらワークに対して相対的に移動させる動作を繰り返し行
い、かつ当該動作毎に曲げ角度を測定する第4のステップ
e.前記第3および第4のステップにおいて測定したワークの曲げ角度とレーザ光
の照射回数との関係を示すデータを作成する第5のステップ。
【0014】
また本発明にかかるレーザフォーミング加工装置は、レーザ発振器から放射されたレーザ光を前記第1のワークに照射するレーザ照射装置と、前記第1のワークを把持した状態で、当該ワークを回転、旋回および昇降させるワーク保持装置と、前記ワーク保持装置を水平面内で移動させる可動テーブルと、前記レーザ発振器、ワーク保持装置および可動テーブルの動作を制御するコントローラと、を備え、上述のいずれかのレーザフォーミング加工方法を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のレーザフォーミング加工方法および装置によれば、薄板鋼材の曲げ加工と焼入れが同時に行えるため、プレス加工装置や熱処理用の炉を用いることなく、所望の形状と性能を備えたバネ部材等を作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態にかかるレーザフォーミング加工方法および装置について、図面を参照して説明する。
【0018】
<レーザフォーミング加工装置の構成と各部の機能>
図1は、本実施の形態にかかるレーザフォーミング加工装置(以降、「加工装置」と略す。)の基本的な構成を示す図、
図2は、同装置の制御系の構成を示すブロック図である。
【0019】
本実施の形態にかかる加工装置1は、レーザ照射装置2、ワーク保持装置3、可動テーブル4およびコントローラ5(
図2参照)で構成されている。
【0020】
レーザ照射装置2は、薄板鋼材で作製されたワークの表面にレーザ光Lを照射するもので、レーザ光を発振するレーザ発振器21、レーザ発振器21から発振されたレーザ光Lをワーク10に向けて反射させるミラー22およびレーザ光Lを集光するレンズ23で構成されている。
【0021】
加工対象であるワーク10はホルダ31に保持された状態で、ワーク保持装置3および可動テーブル4によって三次元空間内を移動し、レーザ光Lを照射することによって曲げ加工および熱処理(焼入れ)が施される。
【0022】
ワーク保持装置3は、ワーク10を把持したホルダ31を回転・旋回させ、更に上下方向に移動させるものである。ワーク保持装置3は、可動テーブル4上に固定された支柱32、支柱32をガイドとして上下動する昇降部材33、昇降部材33に回転可能に支持され、軸を中心に垂直面内で旋回する旋回部材34および旋回部材34の先端に取り付けられ、ホルダ31を回転させる回転部材35で構成されている。なお、旋回部材34は昇降部材33を挟むように一対のアームで構成され、かつ先端部分が一体化している。
【0023】
図示しないが、支柱32には昇降部材33を上下動させるモータとボールネジが内蔵され、昇降部材33には旋回部材34を旋回させるモータが内蔵され、回転部材35には、旋回部材34に対して回転部材35を回転させるモータが内蔵されている。
【0024】
ホルダ31に取り付けられたワーク10は、昇降部材33によって矢印aで示す方向に上下動し、旋回部材34によって矢印bで示す方向に旋回し、回転部材35によって矢印cで示す方向に回転する。結果として、レーザ光Lの照射位置に合わせてワーク10の位置および姿勢を変えることができる。
【0025】
可動テーブル4は、矢印で示したように水平面内で移動できるように構成されており、図示しないが、内部に直交する一対のボールネジと、それぞれのボールネジを回転させるモータが収容されている。
【0026】
図2に示すコントローラ5はプログラマブルロジックコントローラで構成され、入力表示部51から入力され記憶部52に格納されたデータに基づいて、レーザ発振器21、ワーク保持装置3および可動テーブル4の動作を制御する。
【0027】
なお、本実施の形態では、ワーク10を移動させることによって、ワーク10に対するレーザ光の相対的移動を実現しているが、ワーク保持装置3でワーク10を一定の位置に保持し、回転ミラー等を用いてレーザ光Lの照射位置を変えることによって、ワーク10に対するレーザ光Lの相対的な移動を実現してもよい。
【0028】
<レーザフォーミング加工方法における曲げ加工と焼入れ>
前述したように、本発明にかかるレーザフォーミング加工方法は、下記の各ステップを実行することにより、金型を用いることなく、薄板鋼材の曲げ加工と焼入れを実現するものである。
a.レーザ光Lを、ワーク10の一方の面に照射しながらワーク10に対して相対
的に移動させ、レーザ光Lの照射軌跡に沿って、
ワーク10の断面の厚さDに対して0.5D〜0.8Dの範囲でワーク10に焼入れを行う。
b.ワーク10の他方の面のうち、レーザ光10の照射軌跡に対向する箇所に、レー
ザ光を照射しながらワーク10に対して相対的に移動させる動作を繰り返し行
い、レーザ光Lの照射軌跡に沿って、ワーク10の断面の厚さDに対して0.5D〜0.8Dの範囲でワークに焼入れを行い、前記第1のステップの焼入れと合わせて、レーザ光Lの照射軌跡に沿ったワーク
10の断面全体に焼入れを行うと共に、ワーク10をレーザ光の照射軌跡に沿っ
て所定の角度曲げる。
【0029】
上述のレーザフォーミング加工方法は
図1の加工装置1を用いて実現される。加工装置1の動作を説明する前に、レーザフォーミング加工による曲げ加工および焼入れについて説明する。最初に、
図3および
図4を参照して曲げ加工について説明する。
【0030】
図3(a)に、薄板鋼材製のワーク10に対して、レーザ光Lを照射しながら紙面に対して直交する方向に移動させたときのワーク10の状態を示す。レーザ光Lの照射が終了した段階では、ワークはレーザ光の軌跡を中心として、レーザ光の照射側(上側)にθ1だけ曲がる。以下に、その理由を説明する。
【0031】
レーザ光Lをワーク10に対して直線状に移動させると、ワーク10は加熱される局部が熱膨張して、一旦、レーザ光の照射方向とは逆方向(下側)に曲がる。この際、熱膨張した部位には、レーザ光の照射箇所の周辺やレーザ光の移動方向の前方側および裏面側の非加熱部位が伸びないために、材料の降伏点を超える圧縮応力が生じ、当該部分の塑性変形による引張りの残留応力が生じる。その後、レーザ光の通過に伴い該当部位が冷却されることによって熱収縮し、引張りの残留応力によりレーザ光の照射側に折れ曲がる。
【0032】
図3(a)に示すレーザ光Lの照射を終えた後、
図3(b)に示すように、ワーク10の下面から、上述のレーザ光Lの照射軌跡と対向する箇所に、レーザ光Lを照射しながらワーク10に対して相対的に移動させると、上述と同様の理由でワークがレーザ光の照射側に曲がり、曲げ角度θ2は1回目の曲げ角度θ1より小さくなる。
【0033】
次に、
図3(c)に示すように、2回目のレーザ光Lの照射と同じ強さおよび同じ軌跡に沿ってレーザ光Lを照射すると、ワーク10はレーザ光Lの照射側すなわち時計回りに曲がり、ワーク10の曲げ角度はθ3となる。前述の曲げ角度θ1およびθ2は水平方向に対して上側であったが、曲げ角度θ3は水平方向に対して下側になっている。
【0034】
ワーク10の下面からのレーザ光Lの照射とワーク10の移動を繰り返すと、ワーク10はレーザ光Lの照射側への曲げを繰り返し、ワークの曲げ角度θ3はレーザ光の照射毎に大きくなる。
【0035】
図4は、
図3に示した手順に従い、ワークの上面にレーザ光を照射した後、同一の軌跡に対して下面からレーザ光を繰り返し照射したときのワークの曲げ角度をグラフ化したものである。図では、
図3においてワークが水平線より上に曲がったときの曲げ角度をマイナス、ワークが水平線より下に曲がったときの曲げ角度をプラスで表している。
【0036】
測定に際して、ワークとして縦と横が30mm、厚さが0.5mmの薄板状の炭素鋼(品番S55C)を用いた。またレーザ発振器として波長808nm、出力30Wの半導体レーザを用い、照射部に直径が0.4mmのスポットを形成した状態で、上面については70mm/minの速度、下面については100mm/minの速度でワークを移動させた。
【0037】
図4のグラフから明らかなように、レーザ光を同一の軌跡に沿って同一の方向から繰り返し照射すると、ワークの曲げ角度が次第に大きくなる。従って、予め、レーザ光の照射回数とワークの曲げ角度の関係を示すデータを求めておけば、同一の材質および形状のワークに対し、レーザ光の照射回数を変えることによって、ワークの曲げ角度を制御することができる。
【0038】
なお、
図3に示す曲げ角度θ1〜θ3は、レーザ光による加熱の程度によって変わるため、θ2やθ3が0やマイナスの値になることもあり得る。逆に言えば、上面および下面へのレーザ光による加熱の程度を変えることによって、曲げ角度θ1〜θ3を調節することができる。ちなみに、
図4においてレーザ光の照射によって得られた曲げ角度θ1、θ2およびθ3は、θ1=−1度、θ2およびθ3は共にプラスの値であった。
【0039】
次に、
図5および
図6を参照して、ワークの焼入れについて説明する。
図3に示すように、ワークの一方の面にレーザ光を照射した後、ワークの他方の面にレーザ光を照射するのは、ワークの断面全体に焼入れを行うためである。
【0040】
前述したように、ワークの焼入れは、薄板鋼材を用いてバネ部材等を作製する上で不可欠の熱処理であり、焼入れによって弾性の維持と耐久性の向上が図られる。
【0041】
ところで、レーザ光による焼入れができる鋼材には条件がある。具体的には、鋼材が0.2%以上の炭素を含んでいる必要があり、また十分に厚い鋼材に対するレーザ光による加熱深さの限界Hに対して鋼材の断面の厚さが3H以下である必要がある。
【0042】
炭素の含有量については、一定の割合以上の炭素が含まれていないと、加熱と急冷によっても組織のマルテンサイト化を生じることができない。また鋼材の厚さについては、焼入れはワークの表裏両面にレーザ光を照射することにより行われるが、鋼材の厚さが厚すぎると、深い部分について焼入れが成立するのに十分な温度まで鋼材を加熱することができない。
【0043】
図5に、レーザ光による焼入れが行われた薄板鋼材(ワーク10)の断面を示す。図中、梨地状の部分11はレーザ光による焼入れに必要な温度まで加熱された箇所を示す。
【0044】
後述するように、焼入れはレーザ光によってワークを750℃以上に加熱することにより行われる。焼入れにおいては冷却の過程が重要であり、加熱箇所が一定の速度以上で冷却(急冷)されないと、十分な効果を発揮できない。
【0045】
レーザ光によって供給された熱が、熱拡散によって鋼材中を伝達することにより該当部分が冷却されるが、
図5(a)に示すように、レーザ光の強さが強く、裏面まで加熱される状態では、レーザ光通過後、鋼材内の熱が深さ方向に十分拡散されず、冷却が不十分となることから、十分な焼入れが行われない。
【0046】
これに対し、
図5(b)に示すように、レーザ光の照射による加熱が鋼材の断面の途中までしか及ばない場合は、レーザ光の通過後、熱拡散が十分行われるために、レーザ光の通過後、該当箇所が急冷されて十分な焼入れが行われる。
【0047】
ただし、一方の面からのレーザ光の照射では、断面全体の焼入れを行うことができないため、他方の面からレーザ光を照射して、加熱が行われる箇所が重なり合うようにする必要がある。
【0048】
一方、
図5(c)に示すように、一方の面からの加熱の深さが浅い場合、断面の中間に焼入れが行われない箇所が生じるため、断面全体として十分な焼入れが行われない結果となる。発明者等が実験を重ねた結果、一方の面からの加熱の深さが断面の
厚さDに対して0.5D〜0.8Dの条件で、鋼材の両側からレーザ光を照射すれば、断面全体として十分な焼入れが行われることが分かった。
【0049】
図6は、焼入れを行った薄板鋼材の断面の硬度を測定した結果を示すグラフであり、横軸は鋼材の表面からの距離、縦軸はその箇所の硬度を示す。図中、符号Aで示すグラフは、
図5(a)に示す加熱が行われた場合の断面の硬度、符号Bで示すグラフは、
図5(b)に示す加熱が行われた場合の断面の硬度、符号Cで示すグラフは、
図5(c)に示す加熱が行われた場合の断面の硬度を示す。
【0050】
硬度の測定に際して、
図4の場合と同様に、ワークとして縦と横が30mm、厚さ0.5mmの炭素鋼(品番S55C)を用いた。またレーザ発振器として波長808nm、出力30Wの半導体レーザを用いた。
【0051】
図中、符合Aのグラフは、ワークを100mm/minの速度で移動させ、符合Bのグラフは、ワークを約70mm/minの速度で移動させ、符号Cのグラフはワークを10mm/minの速度で移動させながら、ワークにレーザ光を照射したものである。
【0052】
図6に示すように、薄板鋼材の両面からレーザ光を照射して焼入れを行い、かつ焼入れの領域が断面の厚さDに対して0.5D〜0.8Dであれば、断面全体として十分かつ均一な硬度を実現でき、結果として、十分な弾性を有するバネ部材等を実現できる。
【0053】
なお、薄板鋼材の全面に渉って焼入れを行う場合には、レーザ光を照射する都度、ワークを水平方向に移動させ、レーザ光の照射軌跡をずらしながら上述した焼入れを繰り返す。またその際のワークの曲げ角度は、
図4に示すグラフに基づいてレーザ光の照射回数を調節することにより制御する。
【0054】
次に、レーザ光の強度とワークの移動速度との関係について説明する。レーザフォーミング加工において曲げ加工と焼入れ処理を両立させるためには、ワークを750℃〜1500℃に加熱する必要がある。750℃未満では十分な焼入れが行われず、逆に1500℃を超えると、ワークが解けて曲げ加工ができなくなる。
【0055】
ワークの温度制御は、レーザ光の強度およびワークの移動速度を制御することにより行う。レーザ光の強度を強くするかワークの移動速度を遅くすれば、ワークの温度が上昇する。逆に、レーザ光の強度を弱くするかワークの移動速度を速くすれば、ワークの温度が低下する。
【0056】
ただし、レーザ光の強度制御よりもワークの移動速度の制御の方が容易であるため、通常は、ワークの移動速度を変えることによってワークの温度を制御する。本発明にかかるレーザフォーミング加工方法においては、ワークの移動速度は、
図5(b)に示す状態の焼入れを実現できる値に設定される。
【0057】
<レーザフォーミング加工方法における処理手順>
次に、
図7および
図8のフローチャートを参照して、本発明にかかるレーザフォーミング加工方法における処理の流れを説明する。
【0058】
本発明にかかるレーザフォーミング加工方法は、レーザ光の照射回数とワークの曲げ角度との関係を示すデータを取得する準備工程と、取得したデータに基づいてワークの曲げ加工と焼入れを行う本工程とに分かれている。最初に、
図7のフローチャートに基づいて準備工程を説明する。
【0059】
準備工程では、加工装置1を用いて、
図4に示したレーザ光の照射回数とワークの曲げ角度との関係を示すデータを取得する。作業者は、作業を開始する前に、ホルダ31でワーク10を把持すると共に、ワーク保持装置3を操作して、ワーク10を
図1に示す水平状態に保持する。
【0060】
その後、可動テーブル4を制御して、ワーク10の一方の面(以降、「第1面」という)にレーザ光Lを照射しながら、ワーク10を紙面と直交する方向に移動させ、所定の軌跡に沿ってワーク10を加熱する(ステップS11)。
【0061】
具体的には、コントローラ5の指示に従ってレーザ発振器21を駆動し、ワーク10の上面にレーザ光Lを照射すると共に、可動テーブル4を駆動して、ホルダ31に把持されたワーク10を紙面と直交する方向に一定速度で移動させる。
【0062】
ステップS11の処理により、ワーク10は
図3(a)に示すように、レーザ光Lの照射軌跡を中心にレーザ光の照射側に折れ曲がり、更に
図5(b)に示すように、ワークの断面の半分程度に焼入れが行われる。
【0063】
この状態において、作業者はコンパス等を用いてワーク10の曲げ角度θ1を測定する(ステップS12)。測定された曲げ角度のデータは、作業者がコントローラ5の入力表示部51を操作して、その都度または後でまとめて入力する。入力された曲げ角度のデータは記憶部52に格納される。
【0064】
次に、作業者はワーク保持装置3を操作してホルダ31を180°回転させる。この状態では、ワーク10はレーザ光の照射軌跡に沿って下側に折れ曲がっている。
【0065】
次に、加工装置1を駆動し、ワーク10の他方の面(以降、「第2面」という)のうち、レーザ光Lの照射軌跡に対向する箇所にレーザ光を照射すると共に、ワーク10をレーザ光Lに対して移動させる(ステップS13)。
【0066】
具体的には、作業者は、可動テーブル4を操作してレーザ光が、第1面のレーザ光の照射軌跡に対向する箇所を照射するように調整した後、可動テーブル4を駆動して、ワーク10を紙面と直交する方向に一定速度で移動させる。ステップS13の処理後、ワークの曲げ角度は
図3(b)に示す角度θ2になる。
【0067】
この状態において、ステップS12と同様に、作業者はコンパス等を用いてワーク10の曲げ角度θ2を測定する(ステップS14)。測定された曲げ角度のデータは記憶部52に格納される。
【0068】
引き続いて、上述のステップS13に示したレーザ光の照射およびワークの移動とステップS14に示した曲げ角度の測定を、曲げ角度が予定の値(例えば80度)になるまで繰り返し(ステップS15でNo)、測定された曲げ角度θ3のデータを、レーザ光の照射回数と共にコントローラ5の記憶部52に格納する。
【0069】
次に、作業者は、コントローラ5にインストールされたグラフ作成用のソフトウェアを読み出し、そのソフトウェアを用いて、収集したデータに基づいて、曲げ角度とレーザ光の照射回数との関係を示すグラフ(
図4参照)を作成する(ステップS16)。作成されたグラフのデータは記憶部52に格納される(ステップS17)。以上で準備工程は終了する。
【0070】
次に、
図8のフローチャートに基づいて、薄板鋼材の曲げ加工と焼入れを行う本工程の流れを説明する。
【0071】
本工程においては、レーザ光の照射に先立って、ワークの設計データを作成する(ステップS21)。すなわち、要求されるワークの立体形状を得るために、どの箇所にどの程度の曲げ加工を施せばよいかを決定する。このステップにおいて、前述の準備工程において作成したグラフのデータに基づいて、レーザ光を照射する軌跡とレーザ光の照射回数が設定され、その軌跡と回数のデータが記憶部52に格納される。
【0072】
なお、本実施の形態では、予備工程においてワークの第2面へのレーザ光の照射とワークの移動を繰り返し、その都度、ワークの曲げ角度を測定しているが、
図4に示す曲線を近似式で表し、その近似式に基づいてレーザ光の照射回数を算出するようにしてもよい。
【0073】
以後のステップでは、ワーク10をホルダ31から取り外す場合を除いて、記憶部53に格納されたデータに基づいて、コントローラ5がレーザ発振器21、ワーク保持装置3および可動テーブル4の駆動を制御して、処理を自動的に進める。
【0074】
最初に、ステップS21で作成した設計データに基づいて、前述のワーク10と材質および形状が等しいワークの第1面の所定の箇所に、レーザ光Lを照射しながらワーク10を移動させ、所定の軌跡に沿ってワークの断面に焼入れを行う(ステップS22)。
【0075】
この際のホルダ31によるワーク10の把持、レーザ発振器21、ワーク保持装置3および可動テーブル5の駆動(レーザ光の強度およびワークの移動速度を含む)については、準備工程におけるステップS11およびS13(
図7参照)の処理と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0076】
次に、ワーク保持装置4を操作してワーク10を180°回転させた後、レーザ発振器21により、ワーク10の第2面のうち、第1面のレーザ光Lの照射軌跡に対向する箇所にレーザ光Lを照射すると共に、可動テーブル4によりワーク10をレーザ光に対して移動させて曲げ加工と焼入れを行う(ステップS23)。ステップS23が終了した段階では、ワークの断面に
図5(b)に示す状態の焼入れが行われる。
【0077】
引き続いて、上述のステップS23に示したレーザ光の照射とワークの移動を、設計データで指定された回数繰り返して(ステップS24でNo)、要求される曲げ角度を実現する。
【0078】
指定されたレーザ光の照射軌跡に対する曲げ加工と焼入れが終了した後、設計データで指定された他の箇所について、ステップS22およびS23に示す曲げ加工と焼入れを繰り返し(ステップS25でNo)、最終的に、予定された三次元形状のワークを実現して(ステップS25でYes)、レーザフォーミング加工を終了する。
【0079】
なお、レーザ光Lの照射軌跡をずらしながら曲げ加工を連続して行うと、ワーク10が湾曲し、レーザ光Lがワーク10に対して斜めに入射するようになる。このため、
図1に二点鎖線で示したように、可動テーブル4を移動させると共に、ホルダ31を旋回させて、ワーク10のレーザ光照射面がレーザ光Lに対して略垂直になるようにワーク10の位置を調整する。合わせて、レーザ光Lがワーク10の表面で焦点を結ぶように昇降部材33でワーク10の位置を調節する。
【0080】
図9および
図10に、本発明にかかるレーザフォーミング加工方法を用いて作製したワークの写真を示す。
図9のワークは、特定のレーザ光Lの照射軌跡に沿って
図8のステップS22およびS23の処理を繰り返し行ったもので、ワークは直角に近い値まで折り曲げられている。
【0081】
一方、
図10に示す波形のワークを実現する際には、ワークを上側に凸になる箇所と下側に凸となる箇所に分割して曲げ加工を行う。最初に、上側に凸となる箇所について、ワーク保持装置3のホルダ33に把持されたワーク10の一方の面に対して、
図8のステップS22およびS23の処理を、ワーク10をレーザ光Lの走査方向に直交する方向にずらしながら繰り返し行い、曲げ加工を終える。その後、下側に凸となる箇所について、ワークを180°反転させた他方の面に対して、
図8のステップS22およびS23の処理を、レーザ光Lの走査方向に直交する方向にずらしながら繰り返し行い、曲げ加工を終える。
【0082】
図11は、本発明にかかるレーザフォーミング加工方法を用いて作製可能なワークの三次元形状を示したものである。図中、ワークに描かれた細線は、レーザ光の照射軌跡を示す。
【0083】
図11に示すお椀形のワークを実現する際には、正方形のワークの対角線が紙面と並行となる状態で、ホルダ31により把持する。そしてその状態で
図8のステップS22およびS23の処理を、ワーク10をレーザ光の走査方向に直交する方向にずらしながら繰り返し行う。これにより1本の対角線に沿った曲げ加工が終了する。
【0084】
その後、ワーク10を、もう1本の対角線が紙面と並行になる状態で、ホルダ31により把持する。その状態において、上述の処理を他方の対角線に沿って行えば、お椀形のワークが得られる。
【0085】
以上説明したように、本発明にかかるレーザフォーミング加工方法を採用すれば、プレス加工装置や熱処理用の炉を用いることなく、薄板鋼材に曲げ加工と焼入れの処理を施して、所望の三次元形状と性能を備えたバネ部材等を作製できる。
【0086】
なお、本実施の形態では、制御のし易さから、レーザ光の照射軌跡が直線状になるように可動テーブル4の動作を制御したが、必ずしも直線に限定されない。レーザ光の照射軌跡がリング状や楕円状になるように可動テーブル4の動作を制御することによって、より複雑な三次元形状のワークを実現できる。
【0087】
また、本実施の形態では、レーザフォーミング加工を用いて小型のバネ部材等を作製する場合について説明したが、本発明の用途はバネ部材等の作製に限定されない。本発明にかかるレーザフォーミング加工方法は、曲げ加工と焼入れを両立させる必要がある全ての部材の作製に適用できる。