【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の測定方法は以下の通りである。
【0039】
A.破断強度、破断伸度
JIS−L−1013に準じ、島津製作所製のAGS−1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定する。荷重−伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、そのときの伸び率を破断伸度(%)とする。
【0040】
B.平均粒子径
透過電子顕微鏡(日本電子社製 透過電子顕微鏡 JEM−1230)を用いて写真撮影し、自動画像処理装置(LUZEX AP(ニレコ(株)製)にて体積基準の水平方向等分径を測定し、比重を計算して、重量平均の平均粒子径を求めた。
【0041】
C.紡糸操業性
工程通過性が良好なものを○、工程通過性が若干悪いものを△、工程通過性が悪い又は製糸不可のものを×とした。
【0042】
D.ステンレス繊維磨耗切断試験(SUS走行試験)
10g荷重をかけた線径35μmのステンレスワイヤー(SUS315)に対し垂直に評価繊維を150m/minの糸速にて走行させる。このとき、評価繊維とステンレスワイヤーとが擦られることによりワイヤーが磨耗するので、切断するまでの時間を計測する。
切断に要する時間が長いほど、紡糸、延伸工程やこれ以降の後加工工程などの工程通過性が向上する傾向があるため、下記に示す切断までの時間で評価した。切断までの時間は△以上有れば、通常、問題はない。
切断時間10min未満は×、10〜30min未満は△、30min以上断線しなかったものを○とした。
【0043】
E.毛羽数
毛羽検知器(春日電機製)上を糸速400m/minにて10万m走行させ、100万mあたりの毛羽数に換算し、毛羽数を求めた。毛羽数は毛羽検知器のカウンターにより計測した。
【0044】
F.カビ抵抗性試験
カビ抵抗性試験用布帛は以下のように作製した。
合成繊維を2本双糸として、ウェール数が30本/2.54cm、コース数が60本/2.54cmの筒編地を作成し、比較サンプル(A)とした。基準サンプルとして、防カビ・抗菌成分を含まない以外は比較サンプル(B)と同じものを準備した。これら生地の下処理方法として、開反し、油剤落しのため湯洗い(60℃1分)、脱水し、乾燥(通常ポリエステルセット温度の190℃、1分35秒・筒編みが平たくなる様にセットを行った生地を原反とした。
以下の方法でカビ抵抗性試験を行い、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)による抗カビ活性値およびJIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)による14日後の判定を求めた。
<抗カビ活性値>
原反について、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)により、クロカビ:Cladosporium cladosporioides NBRC 6348、クロコウジカビ:Aspergillus niger NBRC 105649、アオカビ:Penicillium citrinum NBRC 6352、白癬菌:Trichophyton mentagrophytes NBRC 32409の抗カビ活性値を求めた。次に、JIS L 0217,103に基づき、工業洗濯を10回行い、ISO 13629−1;2012法により、同じく抗カビ活性値を求めて、洗濯後の抗カビ活性値とした。
<14日後の判定>
JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式)(コウジカビ:Aspergillus niger NBRC 105649、アオカビ:Penicillium citrinum NBRC 6352、ケタマカビ:Chaetomium globosum NBRC 6347、糸状菌:Myrothecium verrucaria NBRC 6113の混合胞子液)に従って、カビ抵抗性試験を実施した。14日後の判定基準を以下に示す。
0 菌糸の発育が認められない
1 菌糸の発育部分が認められ、菌糸の発育部分の面積が、全面積の1/3を超えない
2 菌糸の発育部分が認められ、菌糸の発育部分の面積が、全面積の1/3を超える
【0045】
〔実施例1〕
酸化チタン0.04質量%含有するポリエチレンテレフタレート(IV:0.670dl/g)と、銀及び亜鉛を担持したガラスの防カビ剤を20質量%含有したポリエチレンテレフタレートマスターバッチ(富士ケミカル製:FK−43;平均粒子径2.0μm、銀含有量0.5質量%、亜鉛含有量19質量%)を準備した。両樹脂を20ppm近傍まで乾燥し、混合機により繊維内の防カビ剤濃度が1.0質量%になるようブレンドし、押出機に導入した。これらの樹脂は、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔を有する紡糸口金から吐出した。その後、PTRが1090m/minで引き取り、GR1(90℃)が1100m/min、GR2(135℃)が3800m/minの条件で、繊度84dtex/24fの合成繊維マルチフィラメントを得た。ここで、PTR−GR2間で張力付与、GR1−GR2間で延伸(延伸倍率3.49)、GR2で熱処理を施し、ワインダーに捲いて合成繊維マルチフィラメントを得た。
【0046】
〔比較例1〕
酸化チタンを0.04質量%添加したポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV:0.670dl/g)を、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔を有する紡糸口金から吐出したこと以外は実施例1と同様に合成繊維マルチフィラメントを得た。
【0047】
〔実施例2〜
3、参考例1〜2、比較例2、3〕
防カビ剤濃度を0.3〜6.0質量%と変更する以外は、実施例1と同様に合成繊維マルチフィラメントを得た。
【0048】
〔実施例
4、比較例4〕
繊度を167dtex/48f、450dtex/96fと変更したこと以外は実施例3と同様に合成繊維マルチフィラメントを得た。
【0049】
実施例1〜
4、
参考例1、2、比較例1〜
4から得られた合成繊維マルチフィラメントの物性及びカビ抵抗性試験の結果を表1に示す。
【表1】
【0050】
実施例1〜
4、参考例1、2から得られた合成繊維マルチフィラメントは、表1に記載の通り、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)において、クロカビに対して、原反の抗カビ活性値は、3.3以上、洗濯10回後の抗カビ活性値は3.0以上であった。
また、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌に対して、いずれも、原反の抗カビ活性値は3.3以上、洗濯後の抗カビ活性値は3.0以上となり、防カビ性および防カビ耐久性に優れていた。
また、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)のカビ抵抗性試験では、判定が0であり、14日後のカビの生育は認められなかった。
このように、実施例1〜
4、参考例1、2から得られた合成繊維マルチフィラメントは、カビ抵抗性が高く、防カビ性及び防カビ耐久性に優れていた。また、いずれも、紡糸操業性も良好で、毛羽も少なく、糸品位も良好であった。特に実施例1〜
4から得られた合成繊維マルチフィラメントは、毛羽もなく、糸品位が優れており、後工程通過性にも優れたものであった。
【0051】
これに対し、比較例1から得られた合成繊維マルチフィラメントは、防カビ剤が未添加のもののため、いずれの試験においても、カビ抵抗性はなく、防カビ性は得られなかった。
【0052】
また、比較例2の防カビ剤を0.3質量%含む合成繊維マルチフィラメントは、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)のカビ抵抗試験において、原反及び洗濯後のクロカビに対する抗カビ活性値が3.0未満となった。
尚、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌の抗カビ活性値は、原反において、クロコウジ(2.0)、アオカビ(2.3)、白癬菌(2.4)、10回洗濯後クロコウジ(1.9)、アオカビ(2.0)、白癬菌(1.9)であった。また、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)においても、14日後の判定で1となり、若干のカビの生育が確認された。
このように、比較例2から得られた合成繊維マルチフィラメントは、実施例1〜
4、参考例1、2から得られたものと比べて、防カビ性及び防カビ耐久性に劣っていた。
また、比較例3の防カビ剤を6質量%含む合成繊維マルチフィラメントは、防カビ性及び防カビ耐久性には優れるものの、紡糸操業性が悪く、毛羽も多く糸品位に劣り、後工程通過性も不良であった。
【0053】
比較例4から得られた450dtex/60fの合成繊維マルチフィラメントは、上記ISO法のカビ抵抗試験において、クロカビに対し、原反で抗カビ活性値が3.3未満、洗濯後で抗カビ活性値が3.0未満となり、実施例1〜6から得られたマルチフィラメントと比べて、防カビ性及び防カビ耐久性に劣っていた。これは総繊度が450dtex、単糸繊度4.3dtexであり、実施例品と比べて、繊維の太さに対して、繊維の表面積が小さくなり、繊維表面層に配される防カビ剤の粒子の密度が小さくなるため、防カビ性が低下すると考えられる。
【0054】
また、実施例1〜
4、参考例1、2、比較例1〜4から得られた合成繊維マルチフィラメントを用いて、シャワーカーテンを製造し、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)の評価を実施したところ、実施例品は、14日用いてもカビが発生しなかったが、比較例1は7日後までに、比較例2と4は、14日後までに、カビが付着していた。
【0055】
〔実施例
5〜
7、比較例5〕
防カビ剤の平均粒子径を0.6〜8.0μmに変更した以外は実施例3と同様に合成繊維マルチフィラメントを得た。
実施例3、
5〜
7、比較例5から得られた合成繊維マルチフィラメントの物性及びカビ抵抗性試験の結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例
5〜
7から得られた合成繊維マルチフィラメントは、いずれも、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)のカビ抵抗性試験において、クロカビを対象とした、原反の抗カビ活性値が3.3以上であり、工業洗濯10回後の抗カビ活性値は3.0以上であった。また、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌に対して、いずれも、原反の抗カビ活性値は3.3以上、洗濯後の抗カビ活性値は3.0以上であった。JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)では、14日後の判定は0であり、カビの生育は認められなかった。このように、実施例7〜9から得られた合成繊維マルチフィラメントは、いずれも、防カビ性及び防カビ耐久性に優れ、また、紡糸操業性、糸物性、糸品位も良好であった。尚、無機系防カビ剤の粒子径が2.0μm、3.5μmの実施例3、
7のものは、糸物性、紡糸操業性のいずれも特に優れており、後工程通過性の優れる、毛羽もない品位のよいものであった。
【0058】
比較例5から得られた無機系防カビ剤の粒子径が8.0μmの合成繊維マルチフィラメントは、ISO法において、クロカビに対しての原反、洗濯10回後の抗カビ活性値は、2.8、2.5と低く、JIS法においても、14日後にカビの生育が一部認められ、実施例品と比べて、防カビ性が劣っていた。尚、ISO法において、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌に対して、原反の抗カビ活性値は、クロコウジ(2.9)、アオカビ(2.7)、白癬菌(2.9)、10回洗濯後の抗カビ活性値は、クロコウジ(2.8)、アオカビ(2.7)、白癬菌(2.7)であり、これらについても、防カビ性の低いものであった。これは、防カビ剤の粒子径が大きいため、繊維内に存在個数が少なくなり、繊維表面層への露出が少なくなったため防カビ性が低下したと考えられる。また、紡糸操業性、ノズル直下のバラスの安定も悪く、延伸工程において、糸条の変形に耐えられず、断糸が多発した。また、得られた繊維の強度も低く、毛羽も多発し、100万mあたり6.5個、混入した。SUS線の走行試験は問題なかったが、これは、防カビ剤の粒子径が大きいため、繊維表面層への防カビ剤の存在確率が低く、SUS線磨耗が少なく断線はしなかったと考えられる。
【0059】
実施例
5〜
7、比較例5から得られた合成繊維マルチフィラメントを用いて、シャワーカーテンを製造したところ、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)において、実施例品は、14日以上用いてもカビが発生しなかったが、比較例5から得られたものは、14日後までに、カビが付着していた。
【0060】
〔実施例
8、参考例3〜5、比較例6〕
紡糸速度及びノズル孔径、フィラメント数、紡糸ドラフト、単糸繊度、繊維内の防カビ剤濃度を変更した以外は実施例3と同様に合成繊維マルチフィラメントを得た。これら及び実施例3から得られた合成繊維の物性及びカビ抵抗性試験の結果を表3に示す。
【表3】
【0061】
実施例3、
8、参考例3〜5から得られた合成繊維マルチフィラメントは、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)の抗カビ抵抗性試験において、クロカビ、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌に対する、原反の抗カビ活性値が3.3以上、洗濯10回後の抗カビ活性値3.0以上であった。また、いずれの合成繊維も、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)では、14日後の判定が0であり、カビの生育は認められなかった。
実施例3、
8から得られ
たものは、糸物性、紡糸操業性のいずれも特に優れており、後工程通過性の優れる、毛羽もない品位のよい合成繊維であった。
比較例6の合成繊維マルチフィラメントは、防カビISO 13629−1;2012法カビ抵抗性試験(発光測定法)のクロカビにおいて、原反の抗カビ活性値が3.3未満、工業洗濯10回後の抗カビ活性値3.0未満であり、防カビ性に劣っていた。
【0062】
実施例3、8
、参考例3〜5、比較例6から得られた合成繊維マルチフィラメントを用いて、シャワーカーテンを製造したところ、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)評価にて、実施例品は、14日以上用いてもカビが発生しなかったが、比較例6は14日後までに、カビが付着していた。
【0063】
このように、繊度、適正な紡糸ドラフト、無機系防カビ剤の濃度及び粒子径を選定することにより、防カビ性及び防カビ耐久性、紡糸操業性を改善でき、糸物性、糸品質の良い合成繊維マルチフィラメントを得ることができる。さらに、適正な無機系防カビ剤の濃度及び粒子径を選定することにより、製織編工程など後工程通過性を向上させることができる。
【0064】
〔レースカーテン評価〕
次いで、実施例3、比較例4、比較例6から得られた合成繊維マルチフィラメントを、それぞれ50%用いてトリコット布帛を製造し、裏面全面に得られたマルチフィラメントが露出したレースカーテンを製造した。また比較対象として、比較例1から得られた合成繊維マルチフィラメントを、100%用いて布帛を製造し、レースカーテンを製造した。各合成繊維マルチフィラメントを用いたレースカーテンにつき、抗カビ抵抗性試験を実施した結果を表4に示す。
【表4】
比較例品と比較して実施例品は、防カビ性及び防カビ耐久性に優れていた。
【0065】
〔シャワーカーテン評価〕
次いで、実施例3、比較例4、6の合成繊維マルチフィラメントを50%の混率として、経糸に全本導入したシャワーカーテンを製造した。また比較対象として、比較例1の合成繊維マルチフィラメントを、100%用いて布帛を製造し、シャワーカーテンを製造した。これらのシャワーカーテンにつき、抗カビ抵抗性試験を実施した結果を表5に示す。
【表5】
比較例品と比較して実施例品は、防カビ性及び防カビ耐久性に優れていた。