特許第6367070号(P6367070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ KBセーレン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367070
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】合成繊維マルチフィラメント
(51)【国際特許分類】
   D01F 1/10 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   D01F1/10
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-202696(P2014-202696)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-69772(P2016-69772A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕之
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−177350(JP,A)
【文献】 特開2009−108435(JP,A)
【文献】 特開2009−108436(JP,A)
【文献】 特開2013−057163(JP,A)
【文献】 特開2011−226024(JP,A)
【文献】 特開2000−008222(JP,A)
【文献】 特開平05−051815(JP,A)
【文献】 特開2001−247333(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0023156(US,A1)
【文献】 特開平10−204727(JP,A)
【文献】 特開2009−256857(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/120772(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00−6/96
9/00−9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスに金属成分を担持した無機系防カビ剤と熱可塑性樹脂から構成される丸断面のマルチフィラメントであって、総繊度が200dtex以下、単糸繊度が6dtex未満であり、無機系防カビ剤は、ガラスに亜鉛または銀の少なくともいずれか一方が担持された平均粒子径が0.6〜3.5μmの微粒子であり、繊維中に無機系防カビ剤を1〜3質量%含有し、100万m当たりの毛羽数が2個以下である合成繊維マルチフィラメント。
【請求項2】
無機系防カビ剤は、ガラスに亜鉛担持され、剤に対する亜鉛の含有量が15〜25質量%ある請求項1記載の合成繊維。
【請求項3】
無機系防カビ剤は、ガラスに銀が担持され、剤に対する銀の含有量が0.1〜3質量%である請求項1または2記載の合成繊維。
【請求項4】
強度が3cN/dtex以であることを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載の合成繊維。
【請求項5】
SUS走行試験において、SUS線上に走行させたときの断線する時間が10分以上である請求項1〜4いずれか一項に記載の合成繊維。
【請求項6】
無機系防カビ剤マスターバッチと希釈樹脂を混合する工程、混合したものを紡糸ドラフトが3090で溶融紡糸する工程、溶融紡糸して得られた繊維を延伸倍率が3.04.0倍で延伸する工程を含む、直接紡糸延伸法により製造する請求項1〜いずれか一項に記載の合成繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防カビ性を有する合成繊維マルチフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、防カビ性を有する布帛は数多く提案されている。例えば、スプレー、浸漬、コーティング他による加工により防カビ性を付与する方法、織組織、練り込み剤などの工夫により、防カビ性を付与する方法、フッ素系のコーティング剤を用いた加工を施した布帛で覆うことによるカビを定着させない方法などが挙げられる。
例えば、特許文献1には、防カビ剤を塗布した産業資材用機能性布帛が記載されている。
また、特許文献2には、無機系抗菌剤と第1のポリエステル樹脂を含有するマスターバッチと第2のポリエステル樹脂とを混合して得られた紡糸原料を溶融紡糸する工程において、第1のポリエステル樹脂と第2のポリエステル樹脂の極限粘度を特定の範囲とすることにより、抗カビ性を有するポリエステル繊維を製造する方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−293147号公報
【特許文献2】特開2011−226024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように防カビ剤を後から塗布する布帛は、長期間の使用や洗濯により剥離し易く、剥離した部分から水を吸収し、カビが発生したり、繊維性能が低下するため、防カビ耐久性に問題がある。
また特許文献2記載された繊維は、繊維に練り込んだものであり、後加工により塗布するもののような問題は生じないが、防カビ性としては、未だ十分なものが得られていないのが現状である。
【0005】
したがって、本発明は上記のような課題を解決し、後加工によらずとも、より良好な防カビ性を有する合成繊維を得ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、ガラスに金属成分を担持した無機系防カビ剤と熱可塑性樹脂から構成される丸断面のマルチフィラメントであって、総繊度が200dtex以下、単糸繊度が6dtex未満であり、無機系防カビ剤は、ガラスに亜鉛または銀の少なくともいずれか一方が担持された平均粒子径が0.6〜3.5μmの微粒子であり、繊維中に無機系防カビ剤を1〜3質量%含有し、100万m当たりの毛羽数が2個以下である合成繊維マルチフィラメントを、第1の要旨とする。
上記マルチフィラメントにおいて、無機系防カビ剤が、ガラスに亜鉛担持され、剤に対する亜鉛の含有量が15〜25質量%あることを、第2の要旨とする。
上記マルチフィラメントにおいて、無機系防カビ剤が、ガラス銀の担持され、剤に対す銀の含有量が0.1〜3質量%であることを、第の要旨とする。
上記マルチフィラメントにおいて、強度が3cN/dtex以上あることを、第の要旨とする。
上記マルチフィラメントにおいて、SUS線上に走行させたときの断線する時間が10分以上であることを、第5の要旨とする。
また、無機系防カビ剤マスターバッチと希釈樹脂を混合する工程、混合したものを紡糸ドラフトが3090で溶融紡糸する工程、溶融紡糸して得られた繊維を延伸倍率が3.04.0倍で延伸する工程を含む、直接紡糸延伸法により製造する上記マルチフィラメントの製造方法を、第の要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のマルチフィラメントによれば、防カビ剤を後加工で塗布せずとも、優れた防カビ性が得られ、防カビ耐久性にも優れている。
本発明の第2の要旨によれば、防カビ性、防カビ耐久性に特に優れたものとなる。
本発明の第3の要旨によれば、上記の効果に加え、繊維品質に優れるため、後工程通過性にも優れている。
本発明の第4の要旨によれば、本発明のマルチフィラメントを好適に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
まず、本発明の合成繊維マルチフィラメントは、ガラスに金属成分を担持した無機系防カビ剤と熱可塑性樹脂から構成される。
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂のみに限定されず、繊維形成可能な熱可塑性樹脂を選択できる。例えば、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアルキレンテレフタレートを主体とした芳香族ポリエステルや、ポリ乳酸のなどの脂肪族ポリエステルポリ乳酸などが挙げられる。
さらに、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂も使用できる。
【0010】
本発明の合成繊維マルチフィラメントは、本発明の効果を損なわない範囲であれば一般的に使用される添加剤、滑剤、艶消し剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、制電剤、耐光剤などが含まれていてもよい。
【0011】
本発明において、無機系防カビ剤は、基材としてガラスを使用し、亜鉛または銀の少なくともいずれか一方が担持された微粒子である。特に好適には、亜鉛と銀の両方を担持されているものである。防カビ剤に対する亜鉛の含有率は、15〜25質量%の範囲が好ましく、銀の含有率は、0.1〜3質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.1〜1質量%である。このような範囲であれば、繊維の白度、糸品位および防カビ性を十分に保ち易くなる。
【0012】
本発明において、無機系防カビ剤は、平均粒子径が0.6〜3.5μmの微粒子である。
平均粒子径が大き過ぎると、同じ濃度とした場合に、繊維内にの微粒子の存在個数が少なくなり、繊維表面層に存在する確率が低下し、防カビ性が低下する。
また、防カビ剤の粒子が小さ過ぎる場合は、粒子同士が凝集し、繊維において防カビ性に斑が生じ、防カビ性が低下する場合がある。よって、良好な防カビ性、防カビ安定性の点から、上記の範囲とするのがよい。
【0013】
本発明の合成繊維マルチフィラメントは、上記の熱可塑性樹脂と無機系防カビ剤を組み合わせることにより得ることができる。
【0014】
本発明の合成繊維マルチフィラメントにおいて、無機系防カビ剤の含有率は、0.5〜5質量%である。より好ましくは、1〜3質量%である。含有率が0.5質量%未満の場合、防カビ性が十分に発揮できない。また、本発明においては、5質量%を超えると、紡糸操業性が悪化し、糸品位も損なわれるため、実用的でない。
【0015】
本発明の合成繊維マルチフィラメントは、総繊度が200dtex以下である。中でも
150dtex以下が好ましく、より好ましくは100dtex以下である。また繊維製品としての取り扱い易さから、総繊度の下限は、15dtex程度である。
本発明の合成繊維マルチフィラメントの単糸繊度は、6dtex未満である。中でも、5dtex以下がより好ましく、3dtex以下がさらに好ましい。また、剤の粒径に近くなると延伸などで断糸するおそれがあること等を考えると、単糸繊度の下限は、1.5dtex以上であることが好ましい。
総繊度が、200dtexを超えると、繊維の表面積が小さくなり、繊維表面層に配される無機系防カビ剤の粒子の密度が小さくなるため、防カビ性が十分に発揮できない。また、単糸繊度が6dtex以上であると、繊維の表面積が小さくなり、無機系防カビ剤の繊維表面層への露出が少なくなり、防カビ性が十分でない。
本発明においては、特定の無機系防カビ剤を特定量含有し、総繊度、単糸繊度を特定の範囲のマルチフィラメントとすることにより、防カビ剤を有効に利用して、防カビ性と防カビ耐久性の優れた繊維となる。このような本発明のマルチフィラメントは、糸品位も良好となる。
【0016】
本発明の合成繊維マルチフィラメントのフィラメント数としては、防カビ性を良好に保つ点から、3〜200本が好ましく、より好ましくは、12〜96本である。
【0017】
本発明の合成繊維マルチフィラメントの強度は、3cN/dtex以上であることが好ましい。3cN/dtex未満の場合、繊維中に含まれる防カビ剤によって、織編工程、加工工程での断糸など後工程での不具合が出るおそれがある。
【0018】
本発明の合成繊維マルチフィラメントの繊維横断面は、特に限定するものではなく、丸断面や三角、四角などの多角断面、中空、フラットなどが挙げられる。
【0019】
本発明の合成繊維マルチフィラメントの100万m当たりの毛羽数は、2個以下であることが好ましい。この範囲であれば、通常の織編工程、加工工程などの後工程通過性が良好となる。さらに好ましくは、毛羽を含まないことである。
【0020】
本発明の合成繊維マルチフィラメントは、防カビ性を持たせるために、繊維表面層に防カビ剤が配置されることが好ましく、繊維表面に、防カビ剤の微粒子が少なくとも一部露出していることが好ましい。このような配置とすることにより、防カビ性がより良好となる。
【0021】
また、本発明の合成繊維マルチフィラメントは、後述するSUS走行試験において、SUS線上に走行させたときの断線する時間が10分以上であることが好ましく、より好ましくは30分以上である。断線時間が10分未満であると、後工程において、繊維表面層の剤により筬、針やピンなどが、削られる恐れがあり、織編工程や仮撚工程などの工程通過性を低減させる傾向がある。
【0022】
本発明の合成繊維のマルチフィラメントの抗カビ活性値(ISO 13629−1;2012法(発光測定法))は、3.3以上であることが好ましい、より好ましくは、3.5以上である。
また、洗濯(JIS L 0217,103号)10回後のこれらの抗カビ活性値は、3.0以上であることが好ましい。
一般的に、抗カビ活性値が2.0以上であると、防カビ性があるとされているが、本発明の合成繊維マルチフィラメントは、より防カビ性が優れたものとすることができる。
また、このような範囲とすることで、他の繊維を混用して、繊維製品を製造した場合でも、防カビ性が優れたものを得ることができる。
尚、上記の抗カビ活性値は、クロカビ、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌を対象とし、これらのカビについて、上記の抗カビ活性値の範囲を満足するものであることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明の合成繊維マルチフィラメントは、JIS Z 2911:2010法のカビ抵抗性試験(クロカビ、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌の混合胞子液使用)において、14日後の判定が0、即ち、カビの生育が認められないものであることが好ましい。尚、この試験において、判定が1または2のように生育が認められた場合、カビ、菌が生育し、コロニーを作るため、カーテン等に使用したときなど、防カビ性に劣るものとなる。
【0024】
本発明の合成繊維マルチフィラメントは、織物、編物、不織布等の布帛とした繊維構造体として、種々用いることができる。
【0025】
本発明の合成繊維マルチフィラメントを用いた布帛は、合成繊維を100%用いてもよいし、少なくとも一部に用いたものでもよく、目的とする用途に合わせたものとするとよい。防カビ性を良好に持たせる点からは、布帛に対し、25%以上用いることが好ましく、より好ましくは、50%以上である。
【0026】
また、本発明の合成繊維マルチフィラメントを用いた布帛は、抗カビ活性値(ISO 13629−1;2012法(発光測定法))が2.0以上、JIS L 0217,103号の洗濯10回後の抗カビ活性値が2.0以上となすように本発明の合成繊維マルチフィラメントを混用することが好ましい。
【0027】
次に、本発明の合成繊維の好適な製造方法について具体的に説明する。
以下は、防カビ剤を添加したポリエチレンテレフタレートマスターバッチとポリエチレンテレフタレート樹脂を用いた合成繊維の製造方法の例である。
【0028】
まず、防カビ剤を添加したポリエチレンテレフタレートマスターバッチとして、上記平均粒子径をもつ無機系防カビ剤を10〜20質量%含有したポリエステル樹脂、希釈樹脂として、ポリエチレンテレフタレート樹脂を準備する。
これらの樹脂をドライブレンドにより混合し、溶融して、紡糸口金から吐出する。引き続き糸条を冷却して、油剤を付与した後、未延伸糸を巻糸体に一旦巻き取る。その後、巻糸体に巻き取った未延伸糸を引き出し、延伸した後、熱処理をして巻糸体に捲き取り、本発明の合成繊維マルチフィラメントを得ることができる。
【0029】
紡糸ドラフトは10〜150が好ましく、さらに好ましくは30〜90である。紡糸ドラフト10未満である場合、延伸工程で延伸倍率が高くなり、繊維の変形量が高くなる。これに伴い、剤が変形を阻害し、断糸の原因になる可能性がある。さらに、紡糸ドラフトが180を超える場合、ノズル直下での糸条の変形速度が非常に速いため、含まれている剤の移動が追いつかないことにより、断糸の原因となり、紡糸操業性を低下させる要因となる可能性がある。したがって、適した紡糸ドラフトになるよう、ノズルの孔径と紡糸速度を選定するとよい。
【0030】
紡糸温度(紡糸口金から吐出する温度)としては、例えば、270〜300℃が好ましく、より好ましくは280〜295℃である。
【0031】
紡糸速度(上記では未延伸糸を巻き取る速度)としては、例えば、600〜3500m/minが好ましく、より好ましくは800〜1800m/minである。
【0032】
延伸速度としては、例えば、500〜1200m/minが好ましく、より好ましくは600〜1000m/minである。
【0033】
延伸工程での熱処理温度としては、例えば、100〜180℃が好ましく、より好ましくは120〜160℃である。
【0034】
延伸倍率としては、DRが2.0〜4.5が好ましく、より好ましくはDRが3.0〜4.0である。DRが4.5を超える場合には、繊維の変形量が高くなる。これに伴い、剤が変形を阻害し、断糸の原因になる可能性がある。さらに、DRが2.0未満場合、紡糸ドラフトを高くする必要があり、ノズル直下での糸条の変形速度が非常に速いため、含まれている剤の移動が追いつかないことにより、断糸の原因となり、紡糸操業性を低下させる要因となる可能性がある。
【0035】
上記は、未延伸糸を一旦巻き取った後に、延伸する方法(コンベンショナル法)を例示したが、未延伸糸を一旦巻き取ることなく、延伸し、熱処理した後に巻き取る方法(直接延伸方法)にて、本発明の合成繊維を製造してもよい。
この場合、巻き取り速度は、3000〜4500m/minが好ましく、より好ましくは、3000〜4000m/minである。
【0036】
本発明の合成繊維マルチフィラメントは、未延伸糸、半延伸糸(高配向き未延伸糸)、延伸糸等のいずれの形態のものでもよい。
【0037】
上述した製造方法においては、延伸糸を得る方法を例示したが、高配向の未延伸糸を得る場合は、上述したコンベンショナル法と同様に、樹脂を溶融した吐出した後、冷却し、油剤を付与した後、第1ゴデッドロールに導き、その後、第1ゴデッドロールと等速の第2ゴデッドローラーを経由して巻糸体に高配向の半延伸糸巻き取ることにより得ることができる。それぞれのゴデッドロールを等速の3000〜4500m/min程度が好ましく、より好ましくは、3000〜4000m/minである。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の測定方法は以下の通りである。
【0039】
A.破断強度、破断伸度
JIS−L−1013に準じ、島津製作所製のAGS−1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定する。荷重−伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、そのときの伸び率を破断伸度(%)とする。
【0040】
B.平均粒子径
透過電子顕微鏡(日本電子社製 透過電子顕微鏡 JEM−1230)を用いて写真撮影し、自動画像処理装置(LUZEX AP(ニレコ(株)製)にて体積基準の水平方向等分径を測定し、比重を計算して、重量平均の平均粒子径を求めた。
【0041】
C.紡糸操業性
工程通過性が良好なものを○、工程通過性が若干悪いものを△、工程通過性が悪い又は製糸不可のものを×とした。
【0042】
D.ステンレス繊維磨耗切断試験(SUS走行試験)
10g荷重をかけた線径35μmのステンレスワイヤー(SUS315)に対し垂直に評価繊維を150m/minの糸速にて走行させる。このとき、評価繊維とステンレスワイヤーとが擦られることによりワイヤーが磨耗するので、切断するまでの時間を計測する。
切断に要する時間が長いほど、紡糸、延伸工程やこれ以降の後加工工程などの工程通過性が向上する傾向があるため、下記に示す切断までの時間で評価した。切断までの時間は△以上有れば、通常、問題はない。
切断時間10min未満は×、10〜30min未満は△、30min以上断線しなかったものを○とした。
【0043】
E.毛羽数
毛羽検知器(春日電機製)上を糸速400m/minにて10万m走行させ、100万mあたりの毛羽数に換算し、毛羽数を求めた。毛羽数は毛羽検知器のカウンターにより計測した。
【0044】
F.カビ抵抗性試験
カビ抵抗性試験用布帛は以下のように作製した。
合成繊維を2本双糸として、ウェール数が30本/2.54cm、コース数が60本/2.54cmの筒編地を作成し、比較サンプル(A)とした。基準サンプルとして、防カビ・抗菌成分を含まない以外は比較サンプル(B)と同じものを準備した。これら生地の下処理方法として、開反し、油剤落しのため湯洗い(60℃1分)、脱水し、乾燥(通常ポリエステルセット温度の190℃、1分35秒・筒編みが平たくなる様にセットを行った生地を原反とした。
以下の方法でカビ抵抗性試験を行い、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)による抗カビ活性値およびJIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)による14日後の判定を求めた。
<抗カビ活性値>
原反について、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)により、クロカビ:Cladosporium cladosporioides NBRC 6348、クロコウジカビ:Aspergillus niger NBRC 105649、アオカビ:Penicillium citrinum NBRC 6352、白癬菌:Trichophyton mentagrophytes NBRC 32409の抗カビ活性値を求めた。次に、JIS L 0217,103に基づき、工業洗濯を10回行い、ISO 13629−1;2012法により、同じく抗カビ活性値を求めて、洗濯後の抗カビ活性値とした。
<14日後の判定>
JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式)(コウジカビ:Aspergillus niger NBRC 105649、アオカビ:Penicillium citrinum NBRC 6352、ケタマカビ:Chaetomium globosum NBRC 6347、糸状菌:Myrothecium verrucaria NBRC 6113の混合胞子液)に従って、カビ抵抗性試験を実施した。14日後の判定基準を以下に示す。
0 菌糸の発育が認められない
1 菌糸の発育部分が認められ、菌糸の発育部分の面積が、全面積の1/3を超えない
2 菌糸の発育部分が認められ、菌糸の発育部分の面積が、全面積の1/3を超える
【0045】
〔実施例1〕
酸化チタン0.04質量%含有するポリエチレンテレフタレート(IV:0.670dl/g)と、銀及び亜鉛を担持したガラスの防カビ剤を20質量%含有したポリエチレンテレフタレートマスターバッチ(富士ケミカル製:FK−43;平均粒子径2.0μm、銀含有量0.5質量%、亜鉛含有量19質量%)を準備した。両樹脂を20ppm近傍まで乾燥し、混合機により繊維内の防カビ剤濃度が1.0質量%になるようブレンドし、押出機に導入した。これらの樹脂は、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔を有する紡糸口金から吐出した。その後、PTRが1090m/minで引き取り、GR1(90℃)が1100m/min、GR2(135℃)が3800m/minの条件で、繊度84dtex/24fの合成繊維マルチフィラメントを得た。ここで、PTR−GR2間で張力付与、GR1−GR2間で延伸(延伸倍率3.49)、GR2で熱処理を施し、ワインダーに捲いて合成繊維マルチフィラメントを得た。
【0046】
〔比較例1〕
酸化チタンを0.04質量%添加したポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV:0.670dl/g)を、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔を有する紡糸口金から吐出したこと以外は実施例1と同様に合成繊維マルチフィラメントを得た。
【0047】
〔実施例2〜3、参考例1〜2、比較例2、3〕
防カビ剤濃度を0.3〜6.0質量%と変更する以外は、実施例1と同様に合成繊維マルチフィラメントを得た。
【0048】
〔実施例、比較例4〕
繊度を167dtex/48f、450dtex/96fと変更したこと以外は実施例3と同様に合成繊維マルチフィラメントを得た。
【0049】
実施例1〜参考例1、2、比較例1〜から得られた合成繊維マルチフィラメントの物性及びカビ抵抗性試験の結果を表1に示す。
【表1】
【0050】
実施例1〜4、参考例1、2から得られた合成繊維マルチフィラメントは、表1に記載の通り、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)において、クロカビに対して、原反の抗カビ活性値は、3.3以上、洗濯10回後の抗カビ活性値は3.0以上であった。
また、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌に対して、いずれも、原反の抗カビ活性値は3.3以上、洗濯後の抗カビ活性値は3.0以上となり、防カビ性および防カビ耐久性に優れていた。
また、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)のカビ抵抗性試験では、判定が0であり、14日後のカビの生育は認められなかった。
このように、実施例1〜4、参考例1、2から得られた合成繊維マルチフィラメントは、カビ抵抗性が高く、防カビ性及び防カビ耐久性に優れていた。また、いずれも、紡糸操業性も良好で、毛羽も少なく、糸品位も良好であった。特に実施例1〜から得られた合成繊維マルチフィラメントは、毛羽もなく、糸品位が優れており、後工程通過性にも優れたものであった。
【0051】
これに対し、比較例1から得られた合成繊維マルチフィラメントは、防カビ剤が未添加のもののため、いずれの試験においても、カビ抵抗性はなく、防カビ性は得られなかった。
【0052】
また、比較例2の防カビ剤を0.3質量%含む合成繊維マルチフィラメントは、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)のカビ抵抗試験において、原反及び洗濯後のクロカビに対する抗カビ活性値が3.0未満となった。
尚、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌の抗カビ活性値は、原反において、クロコウジ(2.0)、アオカビ(2.3)、白癬菌(2.4)、10回洗濯後クロコウジ(1.9)、アオカビ(2.0)、白癬菌(1.9)であった。また、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)においても、14日後の判定で1となり、若干のカビの生育が確認された。
このように、比較例2から得られた合成繊維マルチフィラメントは、実施例1〜4、参考例1、2から得られたものと比べて、防カビ性及び防カビ耐久性に劣っていた。
また、比較例3の防カビ剤を6質量%含む合成繊維マルチフィラメントは、防カビ性及び防カビ耐久性には優れるものの、紡糸操業性が悪く、毛羽も多く糸品位に劣り、後工程通過性も不良であった。
【0053】
比較例4から得られた450dtex/60fの合成繊維マルチフィラメントは、上記ISO法のカビ抵抗試験において、クロカビに対し、原反で抗カビ活性値が3.3未満、洗濯後で抗カビ活性値が3.0未満となり、実施例1〜6から得られたマルチフィラメントと比べて、防カビ性及び防カビ耐久性に劣っていた。これは総繊度が450dtex、単糸繊度4.3dtexであり、実施例品と比べて、繊維の太さに対して、繊維の表面積が小さくなり、繊維表面層に配される防カビ剤の粒子の密度が小さくなるため、防カビ性が低下すると考えられる。
【0054】
また、実施例1〜4、参考例1、2、比較例1〜4から得られた合成繊維マルチフィラメントを用いて、シャワーカーテンを製造し、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)の評価を実施したところ、実施例品は、14日用いてもカビが発生しなかったが、比較例1は7日後までに、比較例2と4は、14日後までに、カビが付着していた。
【0055】
〔実施例、比較例5〕
防カビ剤の平均粒子径を0.6〜8.0μmに変更した以外は実施例3と同様に合成繊維マルチフィラメントを得た。
実施例3、、比較例5から得られた合成繊維マルチフィラメントの物性及びカビ抵抗性試験の結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例から得られた合成繊維マルチフィラメントは、いずれも、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)のカビ抵抗性試験において、クロカビを対象とした、原反の抗カビ活性値が3.3以上であり、工業洗濯10回後の抗カビ活性値は3.0以上であった。また、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌に対して、いずれも、原反の抗カビ活性値は3.3以上、洗濯後の抗カビ活性値は3.0以上であった。JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)では、14日後の判定は0であり、カビの生育は認められなかった。このように、実施例7〜9から得られた合成繊維マルチフィラメントは、いずれも、防カビ性及び防カビ耐久性に優れ、また、紡糸操業性、糸物性、糸品位も良好であった。尚、無機系防カビ剤の粒子径が2.0μm、3.5μmの実施例3、のものは、糸物性、紡糸操業性のいずれも特に優れており、後工程通過性の優れる、毛羽もない品位のよいものであった。
【0058】
比較例5から得られた無機系防カビ剤の粒子径が8.0μmの合成繊維マルチフィラメントは、ISO法において、クロカビに対しての原反、洗濯10回後の抗カビ活性値は、2.8、2.5と低く、JIS法においても、14日後にカビの生育が一部認められ、実施例品と比べて、防カビ性が劣っていた。尚、ISO法において、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌に対して、原反の抗カビ活性値は、クロコウジ(2.9)、アオカビ(2.7)、白癬菌(2.9)、10回洗濯後の抗カビ活性値は、クロコウジ(2.8)、アオカビ(2.7)、白癬菌(2.7)であり、これらについても、防カビ性の低いものであった。これは、防カビ剤の粒子径が大きいため、繊維内に存在個数が少なくなり、繊維表面層への露出が少なくなったため防カビ性が低下したと考えられる。また、紡糸操業性、ノズル直下のバラスの安定も悪く、延伸工程において、糸条の変形に耐えられず、断糸が多発した。また、得られた繊維の強度も低く、毛羽も多発し、100万mあたり6.5個、混入した。SUS線の走行試験は問題なかったが、これは、防カビ剤の粒子径が大きいため、繊維表面層への防カビ剤の存在確率が低く、SUS線磨耗が少なく断線はしなかったと考えられる。
【0059】
実施例、比較例5から得られた合成繊維マルチフィラメントを用いて、シャワーカーテンを製造したところ、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)において、実施例品は、14日以上用いてもカビが発生しなかったが、比較例5から得られたものは、14日後までに、カビが付着していた。
【0060】
〔実施例8、参考例3〜5、比較例6〕
紡糸速度及びノズル孔径、フィラメント数、紡糸ドラフト、単糸繊度、繊維内の防カビ剤濃度を変更した以外は実施例3と同様に合成繊維マルチフィラメントを得た。これら及び実施例3から得られた合成繊維の物性及びカビ抵抗性試験の結果を表3に示す。
【表3】
【0061】
実施例3、8、参考例3〜5から得られた合成繊維マルチフィラメントは、ISO 13629−1;2012法(発光測定法)の抗カビ抵抗性試験において、クロカビ、クロコウジカビ、アオカビ、白癬菌に対する、原反の抗カビ活性値が3.3以上、洗濯10回後の抗カビ活性値3.0以上であった。また、いずれの合成繊維も、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)では、14日後の判定が0であり、カビの生育は認められなかった。
実施例3、から得られものは、糸物性、紡糸操業性のいずれも特に優れており、後工程通過性の優れる、毛羽もない品位のよい合成繊維であった。
比較例6の合成繊維マルチフィラメントは、防カビISO 13629−1;2012法カビ抵抗性試験(発光測定法)のクロカビにおいて、原反の抗カビ活性値が3.3未満、工業洗濯10回後の抗カビ活性値3.0未満であり、防カビ性に劣っていた。
【0062】
実施例3、8、参考例3〜5、比較例6から得られた合成繊維マルチフィラメントを用いて、シャワーカーテンを製造したところ、JIS Z 2911:2010法(繊維製品の試験 湿式法)評価にて、実施例品は、14日以上用いてもカビが発生しなかったが、比較例6は14日後までに、カビが付着していた。
【0063】
このように、繊度、適正な紡糸ドラフト、無機系防カビ剤の濃度及び粒子径を選定することにより、防カビ性及び防カビ耐久性、紡糸操業性を改善でき、糸物性、糸品質の良い合成繊維マルチフィラメントを得ることができる。さらに、適正な無機系防カビ剤の濃度及び粒子径を選定することにより、製織編工程など後工程通過性を向上させることができる。
【0064】
〔レースカーテン評価〕
次いで、実施例3、比較例4、比較例6から得られた合成繊維マルチフィラメントを、それぞれ50%用いてトリコット布帛を製造し、裏面全面に得られたマルチフィラメントが露出したレースカーテンを製造した。また比較対象として、比較例1から得られた合成繊維マルチフィラメントを、100%用いて布帛を製造し、レースカーテンを製造した。各合成繊維マルチフィラメントを用いたレースカーテンにつき、抗カビ抵抗性試験を実施した結果を表4に示す。
【表4】
比較例品と比較して実施例品は、防カビ性及び防カビ耐久性に優れていた。
【0065】
〔シャワーカーテン評価〕
次いで、実施例3、比較例4、6の合成繊維マルチフィラメントを50%の混率として、経糸に全本導入したシャワーカーテンを製造した。また比較対象として、比較例1の合成繊維マルチフィラメントを、100%用いて布帛を製造し、シャワーカーテンを製造した。これらのシャワーカーテンにつき、抗カビ抵抗性試験を実施した結果を表5に示す。
【表5】
比較例品と比較して実施例品は、防カビ性及び防カビ耐久性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の合成繊維マルチフィラメントは、防カビ性及び防カビ耐久性が優れているため、ブラインドカーテン、ボイルカーテン、シャワーカーテン、レースカーテンなどのカーテン素材、網戸、水周りなどの繊維製品などに好適に利用できる。