(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367086
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】排ガス処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/50 20060101AFI20180723BHJP
B01D 53/83 20060101ALI20180723BHJP
F23J 9/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
B01D53/50 100
B01D53/83
F23J9/00ZAB
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-226705(P2014-226705)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-87565(P2016-87565A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】315016723
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ環境ソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(72)【発明者】
【氏名】望月 美彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 稔
【審査官】
佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−105578(JP,A)
【文献】
特開平06−165914(JP,A)
【文献】
特開平02−289432(JP,A)
【文献】
特開2008−241078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34−53/85
F23J 9/00
C03B 1/00− 5/44
C03B 8/00− 8/04
C03B 19/12−20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉から排出されるダスト中にNa化合物を含む排ガスの煙道に廃熱ボイラを備えた排ガス処理設備の排ガス処理方法において、
前記排ガスが前記廃熱ボイラに導入される前の前記煙道にアルカリ成分を含有する粉体を供給して、前記廃熱ボイラの水管表面に付着したダスト層の温度が220℃以下の領域上での硫酸水素ナトリウムの固結を防止し、
前記粉体を前記煙道の外部から内部へ突出させた供給管から供給する際に、前記煙道の内部の前記供給管の管表面を保温していることを特徴とする排ガス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解炉から排出されるダスト中にNa化合物を含む排ガスの煙道中に、排ガスの廃熱で蒸気を発生させる廃熱ボイラを備えた排ガス処理設備の排ガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は溶解炉から排出される排ガスの処理設備の説明図である。
図示のように溶解炉の排ガス処理設備10は、溶解炉12から発生した排ガスの煙道20に、排ガスの流れ方向の上流から下流に向けて廃熱ボイラ30と、バグフィルタ40と、ファン50が配置されている。
溶解炉12は、例えばガラス溶解炉の場合、炉内に供給されたケイ砂、Na
2SO
4などのガラス原料を燃焼バーナーにより1000℃以上で溶解している。そして後段の成形機でガラスびん、照明などのガラス製品を成形している。
【0003】
廃熱ボイラ30は、溶解炉12から排出される排ガスの煙道20中に設置されている。廃熱ボイラ30は、水管と、ポンプを主な基本構成としている。水管は、煙道20を流れる排ガスの流れ方向と直交する方向に所定の間隔を開けて複数配置し、ポンプにより管内に水を供給している。このような構成の廃熱ボイラ30は、煙道20を流れる排ガスによって水管の管内を流れる水を加熱して蒸気を発生させている。発生した蒸気は、例えば、水管の管表面に付着したダストを洗浄するスートブローに利用している。
【0004】
バグフィルタ40は、排ガス中に含まれるばい塵(原料飛散物)などを捕集する集塵装置である。
ファン50は、煙道20の下流で溶解炉12から発生した排ガスを吸引して外部へ排出している。
排ガス中には、SO
X(硫黄酸化物)、NO
X(窒素酸化物)、PM(微粒子状物質)などの大気汚染物質が含まれているため、従来、脱硫装置、脱硝装置を設けた排ガス処理設備がある。
【0005】
特許文献1に開示の排ガス処理設備は、ガスタービンから排出された排ガス中に含まれる硫黄酸化物を除去するために、廃熱回収ボイラが設置されている領域にアルカリ粉体を供給するアルカリ粉体供給手段を設けている。そして、廃熱回収ボイラの下流側に設けた脱硫装置で硫黄酸化物を好適に除去して装置の耐久性を高くしている。
【0006】
特許文献2に開示のガラス溶解炉排ガス処理方法は、ガラス溶解炉で発生した排ガスを200℃〜300℃の温度に冷却し、排ガス中の硫黄酸化物をアルカリ中和剤と搬送させて硫酸塩化合物を生成させている。硫酸塩化合物は電気集塵装置で除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−128775号公報
【特許文献2】特開2006−75764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のガラス溶解炉に供給されるガラス原料中には、ガラス製品の用途に応じて種々の金属物質が含まれている。このためガラス溶解炉から排出される排ガスのダスト中の成分は、一般の燃焼炉から発生する排ガスのダスト中に含まれる成分と異なり、一例として、Na(ナトリウム):30wt%、S(硫黄):40wt%、K(カリウム):10wt%、Cr(クロム):10wt%、その他10wt%のような、Na化合物を多く含有するものがある。
【0009】
本出願人が溶解炉から発生したNa化合物を多く含有するダストと硫黄酸化物を含有する排ガスの排ガス処理の実験装置を稼働した際に、煙道中に設けた廃熱ボイラの水管にダストが付着し固結する現象が確認された。固結したダストは、スートブローによる洗浄で落とすことができなかった。このダストを採取して成分を調べたところ、NaHSO
4、Na
3H(SO
4)
2、Na
2SO
4等を含んでいることが判明した。
【0010】
ダストが廃熱ボイラの水管などに付着して堆積すると煙道を閉塞してしまい、吸引ファンに過剰な負荷が掛かったり、煙道内が過剰な負圧状態となったりする。この場合、ガラス溶解炉の稼働を停止して、廃熱ボイラの水管などに付着したダストの除去作業を行わなければならない。ガラス溶解炉を停止させると、製造復帰までに時間が掛かり、稼働効率が著しく低下してしまうという問題があった。
【0011】
特許文献1に開示の排ガス処理設備は、アルカリ粉体供給装置が複数設置された熱交換器間に配置されている。このため、ダスト中にNa化合物を多く含む排ガスを処理する場合、ダストの最も付着量の多い上流側の熱交換器に設けられた水管への付着を防止することができない。
特許文献2に開示のガラス溶解炉排ガス処理方法では、アルカリ中和剤を供給する前にガス冷却装置で排ガス温度を200℃〜300℃に冷却しているため、硫酸水素ナトリウムが溶融して液化し前記ガス冷却装置に付着するおそれがあった。
【0012】
上記従来技術の問題点に鑑み、本発明は溶解炉から排出されるNa化合物を含むダストが廃熱ボイラの水管に付着して固結することを防止できる排ガス処理方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記の課題を解決するための第1の手段として、溶解炉から排出されるダスト中にNa化合物を含む排ガスの煙道に廃熱ボイラを備えた排ガス処理設備の排ガス処理方法において、前記排ガスが前記廃熱ボイラに導入される前の前記煙道にアルカリ成分を含有する粉体(以下、単に粉体と略すことがある)を供給して、前記廃熱ボイラの水管上での硫酸水素ナトリウムの固結を防止することを特徴とする排ガス処理方法を提供することにある。
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するための第2の手段として、前記第1の手段において、前記粉体を前記煙道の外部から内部へ突出させた供給管から供給する際に、前記煙道の内部の前記供給管の管表面を保温していることを特徴とする排ガス処理方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0015】
上記のような本発明によれば、排ガス中に含まれる硫黄酸化物を除去することにより、廃熱ボイラに硫酸水素ナトリウムのダストが付着して固結し煙道を塞ぐことがなく、溶解炉および排ガス処理設備を長期に亘って安定した運転を行うことができる。
【0016】
また、溶解炉と廃熱ボイラの間の煙道中にアルカリ成分を含有する粉体を供給しているので、硫酸水素ナトリウムのダストが最も付着し易い廃熱ボイラの上流側の水管上の付着を効果的に防止できる。
【0017】
また、粉体を供給する供給管の煙道内の管表面を保温しているので、空気輸送で粉体を供給することによって煙道内の供給管の管表面が冷却されて、結露が生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】煙道の圧力損失比と時間の関係を示すグラフである。
【
図3】溶解炉から排出される排ガスの処理設備の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の排ガス処理方法の実施形態を添付の図面を参照しながら、以下詳細に説明する。
【0020】
[ダスト固結のメカニズム]
溶解炉から排出されるダスト中にNa化合物を含む排ガスのNa化合物としては、例えば、ガラス原料のNa
2SO
4が挙げられる。
Na
2SO
4は、1000℃以上の溶解炉12で次式のように分解してSO
3が発生する。
【化1】
溶解炉で発生した排ガスは、煙道に導入されるとガス温度が約400℃まで低下する。
【0021】
煙道中に配置した廃熱ボイラの水管には循環水が流れている。煙道中で露出している水管は、排ガスの廃熱によって加熱されて水管の表面温度が約160℃となっている。このため、水管に付着したダスト層には160〜400℃の温度分布が生じている。一方、排ガス中にSO
3を含む場合、ダストの電気抵抗率が温度約220℃以下でSO
3のダストの表面への凝縮で大幅に低くなることが知られている。したがって、水管表面に付着したダスト層の温度が約220℃以下の領域のNa
2SO
4に、SO
3が凝縮して排ガス中の水分と次式のように反応し、硫酸水素ナトリウム(NaHSO
4)が発生する。
【化2】
【0022】
発生した硫酸水素ナトリウムは、融点が180℃〜190℃であるため、水管表面に付着したダスト層内の融点以上の領域のダストが溶融して、バインダーとなってNa
2SO
4同士を付着させる。
そして、接触あるいは混合したNa
2SO
4と硫酸水素ナトリウムが次式のように反応する。
【化3】
生成したNa
3H(SO
4)
2は融点が約270℃であり、水管表面のダスト層内の温度が約270℃以下の領域で固結したものと推定される。
【0023】
[粉体供給手段60]
図1は本発明の排ガス処理方法の説明図である。図示のように、溶解炉12の出口に接続する煙道20中で、廃熱ボイラ30の上流側にアルカリ成分を含有する粉体の粉体供給手段60を取り付けている。
【0024】
本実施形態の粉体供給手段60は、供給管62と、ホッパー64と、ブロア66、保温手段68を主な基本構成としている。
供給管62は、煙道20の外部から内部へ向けて(煙道20の断面方向)挿入して、一端を排ガスの流れ方向と平行に配置し、他端を煙道20の外部に配置したブロア66に接続させている。供給管62の一端は、端面を上流側又は下流側に向けることができる。端面を上流側に向けた場合、粉体の供給方向が排ガスの流れ方向に逆らっているため、粉体を拡散させながら供給できる。この他、供給管62は、粉体の排出口を備えた分岐管を一端側に複数等間隔に接続させた構成であってもよい。
【0025】
ブロア66と煙道20の間の供給管62にはホッパー64を取り付けている。ホッパー64には粉体が充填されている。本実施形態の供給管62は、保温手段68により煙道20の内部へ挿入した管表面を所定温度に加熱保温している。保温手段68は、煙道20内の供給管62の管表面を覆うように形成されたヒーターである。管表面の温度は、例えば、40℃〜50℃に設定している。このような保温を行うことにより、粉体を煙道20内に供給する際に、空気輸送する粉体によって管壁温度が低下して、煙道20中に露出している管表面の温度が低下して結露が生じることを防止できる。結露が生じると硫酸水素ナトリウムが固結し易いおそれがあるからである。
【0026】
アルカリ成分を含有する粉体としては、酸性の硫黄酸化物を中和できるものであればよく、例えば、Ca(OH)
2、CaCO
3、CaO、MgO、Mg(OH)
2、ナトリウム化合物、バリウム化合物などを適用することができる。本実施形態の粉体は、粒径が100μm以下の粉体を用いている。このような粒径であれば、煙道20中に供給した際、排ガスと容易に混合して、硫黄酸化物との反応を促進させることができる。
【0027】
また、粉体は、排ガス中の硫黄酸化物の濃度をあらかじめ測定しておき、この測定値に基づいて所定量を供給している。本実施形態では、排ガス中の硫黄酸化物と粉体のモル比を、1:1〜1:10の範囲に設定し供給している。モル比が1:10よりも多くなると、硫黄酸化物と未反応の過剰な粉体によって後段のバグフィルタの負荷が掛かるおそれがある。例えば、排ガス中の硫黄酸化物の濃度が10ppmで、Ca(OH)
2を粉体とした場合、硫黄酸化物のモル比を1とした場合の粉体の供給量は、約300g/hに設定することができる。
【0028】
このような構成の粉体供給手段60は、ホッパー64に充填されている粉体をブロア66で供給管62から空気輸送で煙道20へ供給している。
アルカリ成分がCa(OH)
2の場合には、排ガス中のSO
3と次のように反応している。
【化4】
このように煙道内に供給されたアルカリ性の粉体が排ガス中のSO
3と反応して、SO
3を除去することができる。
【0029】
なお、粉体供給手段60の設置箇所は、煙道中の排ガスの風速が5〜6m/sの場合、廃熱ボイラ30の上流側であって、煙道20内に粉体を供給して硫黄酸化物と反応させる時間が少なくとも0.5秒以上確保できればよく、一例として、廃熱ボイラ30から数メートル上流側の煙道20に取り付けている。また、本実施形態の粉体供給手段60は、廃熱ボイラ30の上流側の水管32よりも上流側に設けており、上流側の水管32よりも下流側に設けていない。これは廃熱ボイラ30上で最もダストが付着する箇所が上流側の水管32であり、粉体供給手段60をこれよりも上流側に設置しないと、上流側の水管32のダストの付着を防止できないためである。
【0030】
また、粉体供給手段60は、粉体を煙道20の外部から内部へ供給できる構成であれば良く、上記構成のほかブロアを用いずに煙道の負圧を利用した供給など、その他の構成も適用可能である。
【0031】
[作用]
上記構成による本発明の排ガス処理方法の作用について以下説明する。
溶解炉12の出口に接続する煙道20中で、廃熱ボイラ30の上流側に設けた粉体供給手段60から粉体を空気輸送で煙道20内へ供給する。
粉体がCa(OH)
2の場合、排ガス中の硫黄酸化物と反応して硫酸カルシウムとなり、硫黄酸化物の濃度を低減できる。廃熱ボイラ30には、スートブロー70が設けられており、水管32に付着したダストの除去が定期的に行われる。生成した硫酸カルシウムは、煙道中の排ガス温度(約400℃以下)では溶融しないため、後段のバグフィルタ40で捕集できる。そして、廃熱ボイラ30内では硫黄酸化物の濃度が低いので、硫酸水素ナトリウムはほとんど生成していない。このため水管32に硫酸水素ナトリウムが固結することがない。従って、溶解炉12および排ガス処理設備10を長期に亘って安定して運転させることができる。
【0032】
[実施例]
次に、粉体供給手段60から粉体としてJIS特号消石灰を溶解炉12と廃熱ボイラ30の間の煙道20に噴霧し、廃熱ボイラ30の経時的な圧力損失比の変化を調べた。なお、圧力損失比とは運転初期の廃熱ボイラの圧力損失を1として、その後の廃熱ボイラの圧力損失を比率で表したものである。このとき消石灰の供給量は、排ガスに対して0.1〜1g/m
3Nである。
【0033】
図2は煙道の圧力損失比と時間の関係を示すグラフである。同グラフの横軸は試験時間(h)を示し、縦軸は煙道の圧力損失比(−)を示す。またaはアルカリ成分を含む粉体の供給有りの場合を示し、bはアルカリ成分を含む粉体の供給なしの場合を示している。
【0034】
図2によれば、bの煙道中に粉体を供給しない場合、時間の経過と共に上昇し、試験時間2000時間前後で圧力損失比が3から4へ著しく上昇している。一方、aの煙道中に粉体を供給した場合、試験時間が4000時間経過後でも圧力損失比が1.5以下であり、圧力損失の経時的な増加を抑制できた。
【0035】
このような本発明の排ガス処理方法によれば、排ガス中に含まれる硫黄酸化物を除去することにより、廃熱ボイラに硫酸水素ナトリウムのダストが付着して固結し煙道を塞ぐことがなく、溶解炉および排ガス処理設備を長期に亘って安定した運転を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ガラス溶解炉などダスト中にNa化合物を多く含む排ガスの処理分野において、特に有用である。
【符号の説明】
【0037】
10………排ガス処理設備、12………溶解炉、20………煙道、30………廃熱ボイラ、32………水管、40………バグフィルタ、50………ファン、60………アルカリ成分を含有する粉末供給手段、62………供給管、64………ホッパー、66………ブロア、70………スートブロー。