(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367087
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】動力伝達ローラ
(51)【国際特許分類】
F16H 13/04 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
F16H13/04 C
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-229721(P2014-229721)
(22)【出願日】2014年11月12日
(65)【公開番号】特開2016-94956(P2016-94956A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】中尾 吾朗
【審査官】
瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−044731(JP,A)
【文献】
特開平08−227896(JP,A)
【文献】
特公昭51−026819(JP,B1)
【文献】
特開平09−296589(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0181901(US,A1)
【文献】
特開2016−061368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ローラ(D)と従動ローラ(S)との間に介在して、前記駆動ローラ(D)の回転力を摩擦力によって前記従動ローラ(S)側に伝達する動力伝達ローラにおいて、
受け部材(7)によって保持され、前記駆動ローラ(D)及び前記従動ローラ(S)に対し接離自在としたローラ本体(2)と、
車両本体側に固定される揺動軸(3)と、
前記ローラ本体(2)の内径側に配置され、前記揺動軸(3)に揺動自在に設けられる揺動アーム(4)と、
前記ローラ本体(2)を回転自在に支持するローラ軸受(5)と、
前記揺動アーム(4)に対して前記受け部材(7)が接離する方向に、この受け部材(7)を案内する一対のシャフト(6、6)と、
前記揺動アーム(4)と前記受け部材(7)との間に介在して設けられる摺動部材(8)と、
前記揺動アーム(4)と前記摺動部材(8)との間に介在して設けられる一対の付勢部材(9、9)と、
を備え、前記受け部材(7)は、前記付勢部材(9)の付勢方向に対して傾斜する傾斜面(7b)を有するとともに、前記摺動部材(8)は、前記受け部材(7)の傾斜面(7b)と当接する傾斜面(8a)を有し、前記受け部材(7)の前記揺動アーム(4)側への相対移動に伴って、前記摺動部材(8)が前記両傾斜面(7b、8a)を介して前記受け部材(7)から反力を受け、この反力と前記付勢部材(9)からの付勢力によって前記摺動部材(8)が前記揺動アーム(4)側に押圧され、この押圧によって、前記揺動アーム(4)及び前記受け部材(7)と前記摺動部材(8)との間に摩擦を生じさせたことを特徴とする動力伝達ローラ。
【請求項2】
前記摺動部材(8)の前記揺動アーム(4)及び前記受け部材(7)と摺動する面のうち少なくとも一方の面に樹脂材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達ローラ。
【請求項3】
前記摺動部材(8)に、前記付勢部材(9)を保持する突起部(8b)を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の動力伝達ローラ。
【請求項4】
前記シャフト(6)と同軸に、前記受け部材(7)を前記揺動アーム(4)に対して離間する方向に付勢する補助付勢部材(14)を設けたことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の動力伝達ローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動ローラと従動ローラとの間に介在して、駆動ローラの回転力を摩擦力によって従動ローラに伝達する動力伝達ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの動力伝達機構においては、エンジンのクランクと、ウォータポンプ(WP)やアイドリングストップジェネレータ(ISG)等の補機類との間の動力の伝達を、アイドラプーリを経由して架け渡した補機ベルトを介して行っていた。この場合、クランクの回転に伴って、補機類も常に回転することになるため、例えば、エンジンの暖気運転のようにWPを回転させる必要がない時にも不必要に回転することになり、ベルト損失とプーリの不必要な回転に起因する燃費の低下が問題となっていた。
【0003】
この問題を解決すべく、例えば、特許文献1の
図1には、補機ベルトを用いる代わりに、駆動ローラ(クランクシャフトプーリ4)と従動ローラ(フリクションプーリ14)との間に動力伝達用のアイドラローラ(フリクションホイール17)を介在させ、駆動ローラの回転力を、アイドラローラの摩擦力によって、従動ローラに伝達する構成が開示されている。このアイドラローラは、補機ベルトと異なり、その位置を進退させることによって、駆動ローラや従動ローラとの間の接離状態を自在に変えることができる。
【0005】
このアイドラローラを進退させて、駆動ローラ及び従動ローラに均等に当接させる機構(カムアクチュエータ)について、特許文献2の
図1を用いて説明する。本図に示すカムアクチュエータは、モータ1の回転を遊星減速機Rで減速し、その減速した回転を偏心カム3によって連接棒201の往復動に変換して、この連接棒201の端部で支持されたプーリ300を進退させるようにしたものである。このプーリ300を進退させることにより、エンジンの稼働状況等の諸条件に対応して、駆動ローラから従動ローラへの動力の伝達又は遮断を制御し、燃費の向上を図っている。
【0006】
この連接棒201は、その中ほどで軸方向から若干量だけ揺動可能に構成されている。このように、揺動可能とすることにより、プーリ300が駆動ローラ及び従動ローラと当接した際に、プーリ300と各ローラとの間の当接力がほぼ等しくなるように連接棒201が揺動して、プーリ300が最適な位置に位置決めされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4891914号公報
【特許文献2】特許第4809341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に係るカムアクチュエータは、プーリ300(アイドラローラ)の回転軸を掴むように構成され、その揺動支点はプーリ300の外側(連接棒201の長さ方向中央付近)に位置している。このため、プーリ300の周囲にその揺動のためのスペースを確保しておかなければならず、動力伝達機構の小型化に支障が生じ、システムレイアウトの自由度が損なわれる問題がある。また、一本の連接棒201の揺動によってプーリ300の位置決めがなされるため、連接棒201の軸周りのねじれが生じる恐れがあり、プーリ300と駆動ローラ及び従動ローラとの間の当接不良が生じ、摩擦による動力伝達が不安定になりやすい問題もある。
【0009】
また、駆動ローラ及び従動ローラは完全な真円とは限らず、その場合、これらの回転に伴って自励振動や共振が発生しやすい。このため、駆動ローラ及び従動ローラとプーリ300との接触状態が不安定となって(プーリ300が、自励振動や共振に伴って小刻みに飛び跳ねて)、動力伝達が安定的にできない問題もある。
【0010】
そこで、この発明は、駆動ローラと従動ローラとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行うとともに、その動力伝達機構の小型化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、この発明においては、駆動ローラと従動ローラとの間に介在して、前記駆動ローラの回転力を摩擦力によって前記従動ローラ側に伝達する動力伝達ローラにおいて、受け部材によって保持され、前記駆動ローラ及び前記従動ローラに対し接離自在としたローラ本体と、車両本体側に固定される揺動軸と、前記ローラ本体の内径側に配置され、前記揺動軸に揺動自在に設けられる揺動アームと、前記ローラ本体を回転自在に支持するローラ軸受と、前記揺動アームに対して前記受け部材が接離する方向に、この受け部材を案内する一対のシャフトと、前記揺動アームと前記受け部材との間に介在して設けられる摺動部材と、前記揺動アームと前記摺動部材との間に介在して設けられる一対の付勢部材と、を備え、前記受け部材は、前記付勢部材の付勢方向に対して傾斜する傾斜面を有するとともに、前記摺動部材は、前記受け部材の傾斜面と当接する傾斜面を有し、前記受け部材の前記揺動アーム側への相対移動に伴って、前記摺動部材が前記両傾斜面を介して前記受け部材から反力を受け、この反力と前記付勢部材からの付勢力によって前記摺動部材が前記揺動アーム側に押圧され、この押圧によって、前記揺動アーム及び前記受け部材と前記摺動部材との間に摩擦を生じさせたことを特徴とする動力伝達ローラを構成した。
【0012】
この構成によると、動力伝達ローラのローラ本体に、駆動ローラ又は従動ローラの少なくとも一方が当接すると、その当接力によって摺動部材と当接する一対の付勢部材が独立して伸縮して、受け部材がシャフトによって案内されて揺動アームに対して接離するとともに、この揺動アームが揺動軸周りに揺動する。この受け部材の揺動アームに対する接離、及び揺動アームの揺動によって、ローラ本体が各ローラの位置に対応した位置に変位して、駆動ローラと動力伝達ローラとの間、及び従動ローラと動力伝達ローラとの間のそれぞれの当接力がほぼ等しくなり、その状態で駆動ローラから従動ローラに、安定的に動力を伝達することができる。
【0013】
しかも、揺動アームをローラ本体の内径側に配置することにより、この揺動アームを揺動する揺動軸や、ローラ軸受も同様にローラ本体の内径側に配置されることになり、揺動機構を含めたこの動力伝達ローラの小型化を図ることができる。さらに、揺動アームに対して、受け部材を一対のシャフトで案内する構成としたので、付勢時における揺動アームと受け部材との間のねじれが生じにくく、駆動ローラ及び従動ローラに対して、動力伝達ローラを確実に当接させることが可能となる。このため、駆動ローラと従動ローラとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行うことができる。
【0014】
また、揺動アームと受け部材との間に摺動部材を介在させたことにより、ローラ本体が駆動ローラ及び従動ローラに向かうように動くとき(すなわち、受け部材が揺動アームから突出するように動くとき)は、付勢部材から摺動部材に伝わった付勢力の大部分は、この摺動部材及び受け部材に形成した傾斜面を介して、受け部材への押圧力としてそのまま伝わる。このとき、揺動アーム側には、受け部材側への押圧力の反力が及ぶが、摺動部材は付勢部材によってその伸縮方向にしっかり支持されており、その反力による摺動部材の揺動アームへの押圧力は小さい。このため、揺動アーム及び受け部材と摺動部材との間に作用する摩擦力は小さく、ローラ本体を速やかに突出させて、駆動ローラ及び従動ローラに当接させることができる。
【0015】
その一方で、ローラ本体が駆動ローラ及び従動ローラから離れるように動くとき(すなわち、受け部材が揺動アーム側に押し込まれるように動くとき)は、摺動部材に、受け部材からの反力としての押圧力が直接作用するとともに、付勢部材からの付勢力も受けるため、この押圧力によって、摺動部材から揺動アーム側への強い押圧力が作用する。このため、揺動アーム及び受け部材と摺動部材との間に大きな摩擦力が生じ、ローラ本体が駆動ローラ及び従動ローラから離れようとする力が作用した際に、ローラ本体の動きを遅延させるダンパとしての作用が発揮される。
【0016】
このように、ダンパ機能を持たせることにより、例えば、駆動ローラ及び従動ローラが完全な真円でなく、その回転に伴って自励振動や共振が発生した場合においても、この駆動ローラ及び従動ローラとローラ本体との接触状態を安定的に保つことができ、駆動ローラから従動ローラへの動力の伝達を確実に行うことができる。このダンパ機能の強弱は、受け部材及び摺動部材に形成した傾斜面の傾斜角を変更することにより、適宜変更することができる。
【0017】
前記各構成においては、前記摺動部材の前記揺動アーム及び受け部材と摺動する面のうち少なくとも一方の面に樹脂材が設けられた構成とするのが好ましい。
【0018】
このように、樹脂材を設けることにより、揺動アーム及び受け部材と摺動部材との間の摩擦抵抗の安定化を図ることができ、ローラ本体をスムーズに進退させることができる。この樹脂材は、摺動部材の摺動面にコーティングにより形成したり、摺動部材自体を樹脂材で構成したりすることができる。また、樹脂材と他素材との複合材を採用することもできる。
【0019】
前記各構成においては、前記摺動部材に、前記付勢部材を保持する突起部を形成した構成とするのが好ましい。
【0020】
このように、突起部を形成することにより、付勢部材を安定して保持して摺動部材に当接させることができ、ローラ本体をスムーズに進退させることができる。
【0021】
前記各構成においては、前記シャフトと同軸に、前記受け部材を前記揺動アームに対して離間する方向に付勢する補助付勢部材を設けた構成とすることもできる。
【0022】
このように、補助付勢部材を設けて受け部材を付勢することにより、付勢部材による付勢力を補って、ローラ本体を安定的に駆動ローラ及び従動ローラに当接させることができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明においては、駆動ローラ及び従動ローラに接触するローラ本体と、車両本体側に固定される揺動軸と、前記ローラ本体の内径側に配置され、前記揺動軸に揺動自在に設けられる揺動アームと、前記ローラ本体を回転自在とするローラ軸受と、前記揺動アームに対して前記受け部材が接離する方向に、この受け部材を案内する一対のシャフトと、前記揺動アームと前記受け部材との間に介在して設けられる摺動部材と、前記揺動アームと前記摺動部材との間に介在して設けられる一対の付勢部材と、を備えた動力伝達ローラを構成した。
【0024】
動力伝達ローラのローラ本体に、駆動ローラ又は従動ローラの少なくとも一方が当接して、その当接力によって摺動部材と当接する一対の付勢部材が独立して伸縮して、受け部材がシャフトによって案内されて揺動アームに対して接離するとともに、この揺動アームが揺動軸周りに揺動することによって、ローラ本体が各ローラの位置に対応した位置に変位して、駆動ローラと動力伝達ローラとの間、及び従動ローラと動力伝達ローラとの間のそれぞれの当接力がほぼ等しくなり、その状態で駆動ローラから従動ローラに、安定的に動力を伝達することができる。
【0025】
また、揺動アームをローラ本体の内径側に配置することにより、この揺動アームを揺動する揺動軸や、ローラ軸受も同様にローラ本体の内径側に配置されることになり、揺動機構を含めたこの動力伝達ローラの小型化を図ることができる。さらに、揺動アームに対して、受け部材を一対のシャフトで案内する構成としたので、付勢時における揺動アームと受け部材との間のねじれが生じにくく、駆動ローラ及び従動ローラに対して、動力伝達ローラを確実に当接させることが可能となる。このため、駆動ローラと従動ローラとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行うことができる。
【0026】
さらに、揺動アームと受け部材との間に摺動部材を介在させて、揺動アームと受け部材が離間する際には受け部材をスムーズに移動させ、揺動アームと受け部材が接近するときは、摩擦力によって受け部材の動きが緩慢になるダンパ機能を持たせた。これにより、駆動ローラ及び従動ローラが完全な真円でなく、その回転に伴って自励振動や共振が発生した場合においても、この駆動ローラ及び従動ローラとローラ本体との接触状態を安定的に保つことができ、駆動ローラから従動ローラへの動力の伝達を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】この発明に係る動力伝達ローラの第一実施形態を示す図であって、(a)は正面図、(b)は(a)中のb−b線に沿う断面図
【
図2】
図1(a)に示す動力伝達ローラの、(a)は側面図、(b)は背面図
【
図3】
図1(a)に示す動力伝達ローラの
図1(b)中のIII−III線に沿う断面図
【
図5】
図1(a)に示す動力伝達ローラの分解斜視図
【
図6】
図1(a)に示す動力伝達ローラの作用を示す平面図
【
図7】
図1(a)に示す動力伝達ローラのダンパの作用を示す縦断面図であって、(a)はダンパ機能が発揮されている状態、(b)はダンパ機能が発揮されていない状態
【
図8】動力伝達ローラに偏心カム機構を併設した状態の平面図であって、(a)は動力伝達状態、(b)は動力切断状態
【
図9】この発明に係る動力伝達ローラの第二実施形態を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明に係る動力伝達ローラ1の第一実施形態を
図1から
図5に示す。この動力伝達ローラ1は、クランク等の駆動ローラDと、ウォータポンプ(WP)やアイドリングストップジェネレータ(ISG)等の補機類を作動させる従動ローラSとの間に介在して、駆動ローラDの回転力を摩擦力によって従動ローラS側に伝達するためのものであり(
図6参照)、ローラ本体2、揺動軸3、揺動アーム4、ローラ軸受5、一対のシャフト6、6、揺動アーム4とローラ本体2を保持する受け部材7との間に介在して摩擦力を生じさせる摺動部材8、揺動アーム4と摺動部材8との間に介在して設けられる一対の付勢部材9、9を主要な構成要素としている。なお、駆動ローラD及び従動ローラSとしての機能は、クランク等の各ローラに固有のものではなく、例えば、ISGが駆動ローラD、クランクが従動ローラSとして機能することもある。
【0029】
ローラ本体2は、駆動ローラD及び従動ローラSに直接接触する有底円筒状の部材である。このローラ本体2の駆動ローラD及び従動ローラSとの接触面は、摩擦力を高めるためのローレット加工部2aとなっている(
図2(a)参照)。また、ローラ本体2の円筒底部には複数の孔2bが形成され、このローラ本体2の軽量化が図られている。このローラ本体2の回転中心には軸受孔2cが形成されており、ローラ軸受5(この実施形態では玉軸受)の内輪5a及び軸受孔2cに軸受保持部材10を挿し込むことによって、内輪5a側に設けたローラ本体2とローラ軸受5の外輪5bとが相対回転自在となっている(
図1(b)参照)。このように、ローラ本体2を内輪5aとともに回転させるように構成することにより、ローラ軸受5への負荷が小さくなり、その長寿命化を図ることができる。
【0030】
このローラ軸受5の外輪5bには、受け部材7が嵌め込まれている。この受け部材7には、ローラ軸受5を中心とする対称位置に、一対の貫通孔7a、7aが形成されている。各貫通孔7aには、シャフト6が挿し込まれ、その頭部側(
図3において、シャフト6の下端側)は、揺動軸3によって揺動自在に設けられた揺動アーム4に固定されている。その一方で、シャフト6の先端部(
図3において、シャフト6の上端側)は、止め輪6aによって抜け止めされつつ受け部材7から突出自在となっている。このように、揺動アーム4に対して、受け部材7を一対のシャフト6、6で案内する構成としたので、付勢時における揺動アーム4と受け部材7との間のねじれが生じにくく、駆動ローラD及び従動ローラSに対して、動力伝達ローラ1を確実に当接させることが可能となっている。
【0031】
受け部材7の揺動アーム4に対向する面には、この受け部材7の中央側に向かうほど揺動アーム4との距離が近接する傾斜面7bが形成されている。その一方で、摺動部材8には、受け部材7に形成された傾斜面7bと当接する傾斜面8aが形成されている。この摺動部材8は、揺動アーム4と受け部材7との間に介在するように設けられ、受け部材7に形成された傾斜面7bと摺動部材8に形成された傾斜面8aは互いに当接した状態となっている。
【0032】
この摺動部材8の素材は特に限定されないが、樹脂材を用いるのが好ましい。樹脂材を用いることにより、摺動部材8と揺動アーム4及び受け部材7との間の摩擦抵抗の安定化を図ることができ、ローラ本体2をスムーズに進退させることができる。摺動部材8の全体を樹脂材で構成する代わりに、摺動部材8の揺動アーム4及び受け部材7との間の摺動面にコーティングにより形成したり、樹脂材と金属材等の他素材との複合材としたりすることもできる。
【0033】
揺動アーム4と摺動部材8との間には、付勢部材9(コイルばね)が設けられている。この付勢部材9の付勢方向は、揺動アーム4に対する受け部材7の相対移動方向と直交する方向である。受け部材7及び摺動部材8にそれぞれ形成された傾斜面7b、8aの法線は、この付勢方向と約60度の角度をなしており、この付勢部材9で摺動部材8を押圧したときに、その押圧力は傾斜面7b、8aによって、受け部材7を揺動アーム4から離間するように付勢する方向の力に変換される。この付勢部材9は、摺動部材8に形成された突起部8bに嵌め込まれることによって保持されている。これにより、付勢部材9を安定して保持することができ、ローラ本体2をスムーズに進退させることができる。
【0034】
この実施形態においては、ローラ軸受5、摺動部材8、及び付勢部材9は、ローラ本体2の摩擦面(ローレット加工部2a)の幅方向中央を通る面内に配置されている。このように配置することにより、付勢部材9によって受け部材7(ローラ軸受5)を付勢した際に、その付勢力によるモーメントの発生を防止し、ローラ本体2がこのモーメントに起因して傾斜するのを防止することができる。このため、駆動ローラD及び従動ローラSに対して、動力伝達ローラ1を確実に当接させることが可能となり、駆動ローラDと従動ローラSとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行うことができるとともに、各ローラD、Sの当接不良に起因するローラ本体2の摩耗等の不具合を防止することができる。
【0035】
揺動軸3、揺動アーム4、ローラ軸受5、摺動部材8、及び付勢部材9は、全てローラ本体2の内径側(円筒内)に配置されている。このため、この動力伝達ローラ1を含む動力伝達機構の小型化を図ることができる。この動力伝達ローラ1は、その揺動軸3をスペーサ11を介して駆動ローラD及び従動ローラSを覆うカバー(図示せず)に固定し、このカバーを所定位置に嵌め込むことによって、駆動ローラDと従動ローラSとの間の所定位置に配置されるようになっている。この場合、動力伝達ローラ1に、付勢部材9を縮めた状態(受け部材7が揺動アーム4側に接近した状態)での保持及びその解除を自在に行い得る機構(図示せず)を設けることにより、カバー嵌め込み時において動力伝達ローラ1と駆動ローラD及び従動ローラSが接触するのを防止して、この動力伝達ローラ1の取付けを容易かつスムーズに行うことができる。
【0036】
上記においては、カバー側に動力伝達ローラ1を設ける構成について述べたが、エンジンブロック側に取付スペースが確保できるのであれば、このエンジンブロックに動力伝達ローラ1を設ける構成とすることもできる。
【0037】
上述したように、動力伝達ローラ1のローラ本体2に、駆動ローラD又は従動ローラSの少なくとも一方が当接すると、その当接力によって、摺動部材8を付勢する一対の付勢部材9、9のそれぞれが独立して伸縮して、受け部材7が一対のシャフト6、6によって案内されて揺動アーム4に対して接離するとともに、この揺動アーム4が揺動軸3周りに揺動する。この揺動によって、
図6に示すように、ローラ本体2が各ローラD、Sの位置に対応した位置に変位して、駆動ローラDと動力伝達ローラ1との間、及び従動ローラSと動力伝達ローラ1との間のそれぞれの当接力がほぼ等しくなり、その状態で駆動ローラDから従動ローラSに、安定的に動力を伝達することができる。
【0038】
動力伝達ローラ1に設けた摺動部材8のダンパとしての作用について
図7(a)(b)を用いて説明する。ローラ本体2(受け部材7)が駆動ローラD及び従動ローラSに向かうように動くとき(すなわち、受け部材7が揺動アーム4から突出するように動くとき)は、付勢部材9からの付勢力Fが摺動部材8に伝わり、受け部材7及び摺動部材8にそれぞれ形成した傾斜面7b、8aを介して、受け部材7を揺動アーム4から離間させる押圧力Wとして、そのまま受け部材7に伝わる。このとき、揺動アーム4側には、受け部材7側への押圧力Wの反力が及ぶが、摺動部材8は付勢部材9によってその伸縮方向にしっかり支持されており、その反力による摺動部材8の揺動アーム4への押圧力Pは小さい(
図7(b)参照)。このため、揺動アーム4及び受け部材7と摺動部材8との間に作用する摩擦力は小さく、ローラ本体2を速やかに突出させて、駆動ローラD及び従動ローラSに当接させることができる。
【0039】
その一方で、ローラ本体2(受け部材7)が駆動ローラD及び従動ローラSから離れるように動くとき(すなわち、受け部材7が揺動アーム4側に押し込まれるように動くとき)は、摺動部材8に、受け部材7からの反力としての押圧力Wが直接作用するとともに、付勢部材9からの付勢力も受けるため、この押圧力Wによって、摺動部材8から揺動アーム4側への強い押圧力Pが作用する(
図7(a)参照)。このため、揺動アーム4及び受け部材7と摺動部材8との間に大きな摩擦力が生じ、ローラ本体2が駆動ローラD及び従動ローラSから離れようとする力が作用した際に、ローラ本体2の動きを遅延させるダンパとしての作用が発揮される。
【0040】
このように、ダンパ機能を持たせることにより、例えば、駆動ローラD及び従動ローラSが完全な真円でなく、その回転に伴って自励振動や共振が発生した場合においても、この駆動ローラD及び従動ローラSとローラ本体2との接触状態を安定的に保つことができ、駆動ローラDから従動ローラSへの動力の伝達を確実に行うことができる。
【0041】
この動力伝達ローラ1のローラ軸受5の近傍には、
図8(a)(b)に示すように、このローラ軸受5に当接可能に偏心軸12a周りに回動する偏心カム12を設けることができる。この偏心軸12aは、遊星ギア機構等の減速機構13を介してモータ(図示せず)に接続されている。偏心カム12がローラ軸受5に当接していない状態では(
図8(a)参照)、動力伝達ローラ1は駆動ローラDと従動ローラSにそれぞれ当接し、駆動ローラDから従動ローラSへの動力伝達がなされる。その一方で、偏心カム12がローラ軸受5に当接し、動力伝達ローラ1に設けられた付勢部材9の付勢力に抗して(付勢部材9を押し縮めるように)このローラ軸受5を押し込むと、動力伝達ローラ1と駆動ローラD及び従動ローラSとがそれぞれ離間し(
図8(b)参照)、駆動ローラDから従動ローラSへの動力伝達が遮断される。
【0042】
このように、偏心カム12を設けることにより、駆動ローラDと従動ローラSとの間の動力の伝達及び切断を、容易かつスムーズに行うことができる。偏心カム12を用いる代わりに、各種アクチュエータを採用し、このアクチュエータでローラ軸受5を押し込むようにしても、同様の作用を得ることができる。なお、偏心カム12によるローラ軸受5の押し込みは、必ずしもローラ軸受5を直接押し込むものでなくてもよく、このローラ軸受5に設けた押圧部材(図示せず)を介して押し込むようにしてもよい。
【0043】
この発明に係る動力伝達ローラ1の第二実施形態を
図9に示す。この動力伝達ローラ1は、ローラ本体2、揺動軸3、揺動アーム4、ローラ軸受5、一対のシャフト6、6、揺動アーム4とローラ本体2を保持する受け部材7との間に介在して摩擦力を生じさせる摺動部材8、揺動アーム4と摺動部材8との間に介在して設けられる一対の付勢部材9、9を主要な構成要素としており、その基本的な構成は第一実施形態に係る動力伝達ローラ1と同じであるが、シャフト6と同軸に、受け部材7を揺動アーム4に対して離間する方向に付勢する補助付勢部材14を設けた点において異なっている。
【0044】
このように、補助付勢部材14を設けることにより、付勢部材9による受け部材7に対する付勢力を補って、ローラ本体2を安定的に駆動ローラD及び補助ローラSに当接させることができる。
【0045】
上記各実施形態に係る動力伝達ローラ1はあくまでも一例であって、駆動ローラDと従動ローラSとの間の摩擦による動力伝達を安定的に行うとともに、その動力伝達機構の小型化を図る、という本願発明の課題を解決し得る限りにおいて、各構成部品の形状や配置を変更したり、別途部品を追加したりすることも許容される。
【符号の説明】
【0046】
1 動力伝達ローラ
2 ローラ本体
2a ローレット加工部
2b 孔
2c 軸受孔
3 揺動軸
4 揺動アーム
5 ローラ軸受
5a 内輪
5b 外輪
6 シャフト
6a 止め輪
7 受け部材
7a 貫通孔
7b 傾斜面
8 摺動部材
8a 傾斜面
8b 突起部
9 付勢部材
10 軸受保持部材
11 スペーサ
12 偏心カム
12a 偏心軸
13 減速機構
14 補助付勢部材
D 駆動ローラ
S 従動ローラ