特許第6367122号(P6367122)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6367122アルミナ焼結体、砥粒、砥石、研磨布、及びアルミナ焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367122
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】アルミナ焼結体、砥粒、砥石、研磨布、及びアルミナ焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20180723BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20180723BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20180723BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20180723BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C04B38/00 303Z
   C04B35/111 500
   C04B35/64
   B24D3/00 320A
   B24D3/00 340
   B24D11/00 B
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-560783(P2014-560783)
(86)(22)【出願日】2014年2月5日
(86)【国際出願番号】JP2014052666
(87)【国際公開番号】WO2014123153
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2016年11月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-23469(P2013-23469)
(32)【優先日】2013年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 宏和
(72)【発明者】
【氏名】平澤 晋也
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 良太
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−194026(JP,A)
【文献】 特開2002−068854(JP,A)
【文献】 特開2001−219099(JP,A)
【文献】 特開平11−322433(JP,A)
【文献】 特開平09−310765(JP,A)
【文献】 特開平06−136353(JP,A)
【文献】 米国特許第05893935(US,A)
【文献】 特公平01−038629(JP,B2)
【文献】 特開昭61−250084(JP,A)
【文献】 黄志堅他,マイクロ波加熱によるセラミックス焼結の研究,日本金属学会北陸信越支部・日本鉄鋼協会北陸信越支部 平成19年度連合講演会概要集,日本,2007年12月 1日,第98頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00
B24D 3/00
B24D 11/00
C04B 35/111
C04B 35/64
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ及び水酸化アルミニウム混合物焼結体を含む、気孔率が6〜35体積%、ビッカース硬度が4GPa以上のアルミナ焼結体を含む砥粒
【請求項2】
アルミナ10〜99質量%、水酸化アルミニウム1〜90質量%混合物焼結体を含む請求項1に記載のアルミナ焼結体を含む砥粒
【請求項3】
アルミナ45〜90質量%と水酸化アルミニウム10〜55質量%の混合物の焼結体を含む請求項1又は2に記載のアルミナ焼結体を含む砥粒。
【請求項4】
前記水酸化アルミニウムがナトリウムを含む請求項1〜3のいずれかに記載のアルミナ焼結体を含む砥粒。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の砥粒の層を作用面に有する砥石。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の砥粒の層を作用面に有する研磨布。
【請求項7】
下記工程(1)〜(3)を有する、気孔率が6〜30%、ビッカース硬度が4GPa以上のアルミナ焼結体を含む砥粒の製造方法。
工程(1):アルミナ及び水酸化アルミニウムを配合した混合物を調製する工程
工程(2):工程(1)で得られた混合物を成形する工程
工程(3):工程(2)により得られた成形体を焼成しアルミナ焼結体を含む砥粒を得る工程
【請求項8】
更に、下記工程(4)を有する、請求項に記載のアルミナ焼結体を含む砥粒の製造方法。
工程(4):工程(3)により得られたアルミナ焼結体を含む砥粒を粉砕する工程
【請求項9】
下記工程(1)、(2)、(3)’、(4)’を有する、気孔率が6〜30%、ビッカース硬度が4GPa以上のアルミナ焼結体を含む砥粒の製造方法。
工程(1):アルミナ及び水酸化アルミニウムを配合した混合物を調製する工程
工程(2):工程(1)で得られた混合物を成形する工程
工程(3)’:工程(2)で得られたアルミナの成形体を乾燥させた後に、粉砕する工程
工程(4)’:工程(3)’で得られた粉砕物を焼成しアルミナ焼結体を含む砥粒を得る工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ焼結体、当該アルミナ焼結体からなる砥粒、当該砥粒を用いてなる砥石、研磨布、及びアルミナ焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ焼結体は、高硬度、高強度、高耐熱性、高耐摩耗性及び高耐薬品性等に優れるという特徴を活かして様々な産業分野で使用されている。特に、鉄鋼産業における重研削砥石の原料(砥粒)として使用されている。
【0003】
また鉄鋼やステンレスの研削・研磨や、溶接ビード除去やバリ取りに研磨布が用いられており、高い研削量(被削材が削られた量)が求められている。高い研削量を実現するためには、砥粒自体の破砕量を大きくし、常に新しい刃面が現れるようにする必要がある。そのため、破砕性に富んだ砥粒が求められている。アルミナ焼結体は、研磨布のような軽負荷における研削では、破砕性が十分ではなく、研削に必要な動力が大きくなる。
【0004】
特許文献1に示すように、破砕性に富んだ砥粒としてゾル‐ゲル法を用いて製造される砥粒が挙げられる。
特許文献2に示されているように、砥粒の破砕性を向上させる方法としてレーザー照射により結晶組織内に欠陥、隙間を形成する方法がある。
その他、特許文献3に示されているように、加熱した砥粒を急速冷却することにより、砥粒内部にマイクロクラックを形成する方法がある。
【0005】
また、砥粒に関する記述は無いものの、特許文献4に示されているように、多孔質なアルミナ焼結体の製造方法として原料のアルミナに水酸化アルミニウムを添加して焼成処理する方法が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−136353号公報
【特許文献2】特開2006−117905号公報
【特許文献3】特開平11−285976号公報
【特許文献4】特開2002−68854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のゾル‐ゲル砥粒は製法が簡便でなく、また、そのため高価であるという欠点がある。
特許文献2の方法は、レーザー照射を行なうことで製造工程を増やし、製造コストが大きく増加する。
特許文献3の方法では、マイクロクラックの形成量と破砕性の関係に関しては開示されておらず、目的の研削方法、被削材に適した破砕性を得ることができない。
特許文献4では、多孔質なアルミナ焼結体を砥粒に使用する旨の記載はなく、更に、当然に当該焼結体の破砕性については開示されていない。また、この多孔質なアルミナ焼結体を砥粒として用いた場合、焼成温度が低く、気孔率が大きすぎるため、砥粒として十分な硬度が得られない。
【0008】
本発明は、このような状況下になされたものであり、破砕性に優れ、研削動力の小さいアルミナ焼結体、当該アルミナ焼結体からなる砥粒、当該砥粒を用いてなる砥石、研磨布、及びアルミナ焼結体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アルミナ焼結体の気孔率を制御し任意の破砕性を付与することに着目し、更に当該気孔率を付与するための添加物として水酸化アルミニウムに着目した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は下記の[1]〜[]のとおりである。
[1]アルミナ及び水酸化アルミニウム混合物焼結体を含む、気孔率が6〜35体積%、ビッカース硬度が4GPa以上のアルミナ焼結体を含む砥粒
[2]アルミナ10〜99質量%、水酸化アルミニウム1〜90質量%混合物焼結体を含む[1]に記載のアルミナ焼結体を含む砥粒
[3]アルミナ45〜90質量%と水酸化アルミニウム10〜55質量%の混合物の焼結体を含む[1]又は[2]に記載のアルミナ焼結体を含む砥粒。
[4]前記水酸化アルミニウムがナトリウムを含む請求項1〜3のいずれかに記載のアルミナ焼結体を含む砥粒。
[1]〜[4]のいずれかに記載の砥粒の層を作用面に有する砥石。
[1]〜[4]のいずれかに記載の砥粒の層を作用面に有する研磨布。
]下記工程(1)〜(3)を有する、気孔率が6〜30%、ビッカース硬度が4GPa以上のアルミナ焼結体を含む砥粒の製造方法。
工程(1):アルミナ及び水酸化アルミニウムを配合した混合物を調製する工程
工程(2):工程(1)で得られた混合物を成形する工程
工程(3):工程(2)により得られた成形体を焼成しアルミナ焼結体を含む砥粒を得る工程
]更に、下記工程(4)を有する、[]に記載のアルミナ焼結体を含む砥粒の製造方法。
工程(4):工程(3)により得られたアルミナ焼結体を含む砥粒を粉砕する工程
]下記工程(1)、(2)、(3)’、(4)’を有する、気孔率が6〜30%、ビッカース硬度が4GPa以上のアルミナ焼結体を含む砥粒の製造方法。
工程(1):アルミナ及び水酸化アルミニウムを配合した混合物を調製する工程
工程(2):工程(1)で得られた混合物を成形する工程
工程(3)’:工程(2)で得られたアルミナの成形体を乾燥させた後に、粉砕する工程
工程(4)’:工程(3)’で得られた粉砕物を焼成しアルミナ焼結体を含む砥粒を得る工程
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、破砕性に優れ、研削動力の小さいアルミナ焼結体、当該アルミナ焼結体からなる砥粒、当該砥粒を用いてなる砥石、研磨布、及びアルミナ焼結体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】水酸化アルミニウムの添加量とアルミナ焼結体の気孔率、ビッカース硬度の相関図である。
図2】水酸化アルミニウムの添加量と研削動力の相関図である。
図3】アルミナ焼結体の気孔率に対するC係数、ビッカース硬度の相関図である。
図4】本発明のアルミナ焼結体の結晶組織の様子(サーマルエッチング済み)のSEM写真である。
図5】比較例におけるアルミナ焼結体の結晶組織の様子(サーマルエッチング済み)のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のアルミナ焼結体は、アルミナ及び水酸化アルミニウムを配合した混合物を焼結して得られ、気孔率が6〜35体積%、ビッカース硬度が4GPa以上である。このような構成を有することで、破砕性に優れ、研削動力の小さいアルミナ焼結体が得られる。
以下本発明の各構成について詳細に説明する。
【0014】
[アルミナ焼結体]
本発明のアルミナ焼結体は、気孔率が6〜35体積%である。
気孔率が6体積%以上であることで、高い破砕性を有するアルミナ焼結体を得ることができる。破砕性の指標となるC係数の値は、図3に示すように気孔率の増加に伴い増加し、気孔の導入による破砕性の向上が確認できる。アルミナ単味で製造した場合の気孔率は5.5体積%であるため、十分な破砕性の向上を得るためには気孔率6体積%以上が必要である。さらに破砕性の向上を図る場合は、気孔率7体積%以上が好ましく、気孔率11体積%以上がより好ましい。
気孔率が35体積%以下であることで、研削に必要なビッカース硬度を保ちやすくすることができる。しかし、気孔率の上昇に伴い、ビッカース硬度の値は減少し、研削性能も低下する。そのため、気孔率は31体積%以下が好ましく、24体積%以下がより好ましい。
気孔率の測定方法は、実施例に記載の方法による。
また、気孔率は、後述する水酸化アルミニウムの含有量や、焼成温度を調整することで、上記数値範囲のものを得ることができる。
【0015】
本発明のアルミナ焼結体は、ビッカース硬度が4GPa以上である。被削材を研削するためには、被削材の以上のビッカース硬度が必要であるため、アルミナ焼結体は、前述の気孔率を有し、ビッカース硬度が4GPa以上であることで、ビッカース硬度が4GPa程度である一般的な炭素鋼を研削することができる。
ビッカース硬度は、一般的なステンレス鋼のビッカース硬度が6GPa程度であることから、6GPa以上が好ましい。またビッカース硬度の上限は、特に限定されないが、例えば、22GPa以下であり、好ましくは19GPa以下である。
ビッカース硬度の測定方法は実施例に記載の方法による。また上記のビッカース硬度は、気孔率を適宜調整することで得られる。
【0016】
<アルミナ>
本発明において用いられるアルミナは、得られるアルミナ焼結体において、コランダム結晶からなる主結晶相を形成するための原料であることから、高純度のものが好ましく、例えばバイヤー法で形成されたアルミナ等を用いるのが好ましい。
アルミナの純度は、酸化物換算で97質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。
またアルミナ中に含まれるナトリウムの含有量は、酸化物換算(Na2O)で、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。
またその他の物質のそれぞれの含有量は、酸化物換算で、0.05質量%以下が好ましく、0.01質量%以下がより好ましい。
【0017】
アルミナの形態としては、粉末、スラリー、水溶液等が挙げられるが、本発明においては、作業時のハンドリングのし易さ等の観点から、粉末の原料を用いるのが好ましい。
粉末原料を用いる場合、アルミナ粉末の累積質量50%径(d50)は、均質な混合粉末を得るために、3μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。
累積質量50%径(d50)の下限値は、特に限定されないが、例えば0.01μm以上である。
ここで、各種粉末の累積質量50%径(d50)は、レーザー回折法により測定することができる。
【0018】
<水酸化アルミニウム>
本発明のアルミナ焼結体には、水酸化アルミニウムが用いられる。水酸化アルミニウムは、焼成することによりアルミナに変化するため、不純物の影響を考慮する必要がない。またアルミナと比べ焼成時の収縮率が大きいため、この収縮率の差によりアルミナ焼結体に気孔が形成される。
水酸化アルミニウムの純度は、焼成後にアルミナと同程度の純度になることが好ましいため、アルミナと同程度の純度であることが好ましい。
【0019】
水酸化アルミニウムの形態としては、アルミニウムの形態と同様のものが使用できる。
水酸化アルミニウムの累積質量50%径(d50)は、値が小さいと焼成した際のアルミナの収縮により気孔が形成され難くなるため、値が大きい方がコスト面で優位であり好ましい。
粉末原料を用いる場合、水酸化アルミニウムの累積質量50%径(d50)は、好ましくは0.1〜100μmであり、より好ましくは3〜100μm、更に好ましくは5〜80μm、より更に好ましくは6〜60μmである。
【0020】
焼成する混合物におけるアルミナの配合量は、混合物全体に対して、10〜99質量%が好ましく、20〜99質量%がより好ましく、30〜99質量%が更に好ましく、45〜90質量%が更により好ましい。
混合物における水酸化アルミニウムの配合量は、混合物全体に対して、1〜90質量%が好ましく、1〜80質量%がより好ましく、1〜70質量%が更に好ましく、10〜55質量%が更により好ましい。このような範囲とすることで、適度な気孔率を得やすくなる。
【0021】
[製造方法]
アルミナ焼結体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、下記工程(1)〜(3)を有することが好ましい。
工程(1):アルミナ及び水酸化アルミニウムを配合した混合物を調製する工程
工程(2):工程(1)で得られた混合物を成形する工程
工程(3):工程(2)により得られた成形体を焼成しアルミナ焼結体を得る工程
【0022】
上記製造方法は、粉末状のアルミナ焼結体を得るために、必要に応じて下記工程(4)を有していてもよい。
工程(4):工程(3)により得られたアルミナ焼結体を粉砕する工程
【0023】
また、アルミナ焼結体の製造方法は、例えば、下記工程(1)(2)(3)’(4)’を有することが好ましい。
工程(1):アルミナ及び水酸化アルミニウムを配合した混合物を調製する工程
工程(2):工程(1)で得られた混合物を成形する工程
工程(3)’:工程(2)で得られたアルミナの成形体を乾燥させた後に、粉砕する工程
工程(4)’:工程(3)’で得られた粉砕物を焼成しアルミナ焼結体を得る工程
【0024】
工程(1)の原料の混合に際しては、公知の混合手段が用いられ、例えば容器回転式、機械撹拌式、流動撹拌式、無撹拌式、高速せん断・衝撃式等により混合する。
【0025】
工程(2)の成形に際しては、公知の成形手段が用いられ、例えば、金型プレス、冷間静水圧プレス、鋳込成形、射出成形、押出し成形等により任意の形状に成形することができる。
【0026】
工程(3)では、工程(2)で得られた成形体を焼結する。また、焼結に際しては、公知の焼結法が用いられ、例えば、ホットプレス法、常圧焼成法、ガス加圧焼成法、マイクロ波加熱焼成法等、種々の焼結手法によって焼結する。
焼結温度は、好ましくは1400℃以上1800℃以下であり、より好ましくは1600℃越え1800℃以下である。
【0027】
また、工程(4)では、工程(3)により得られたアルミナ焼結体を粉砕する。粉砕に際しては公知の粉砕手段が用いられ、例えば、ボールミル、ロッドミル、振動ミル、高圧粉砕ロール等により任意の大きさに粉砕する。
【0028】
工程(3)’では、工程(2)で得られたアルミナの成形体を乾燥させた後に、粉砕する。粉砕方法は、上記工程(4)と同様の粉砕方法を用いることができる。また、乾燥は、例えば、大気雰囲気下、常圧で、約100℃にて、2時間以上で行なうことができる。
【0029】
工程(4)’では、工程(3)’で得られた粉砕物を焼成しアルミナ焼結体を得る。焼結は、上記工程(3)と同様の方法で行なうことができる。
【0030】
[用途]
本発明のアルミナ焼結体は、優れた破砕性を有しており、例えば研削材、切削材、研磨材等の研削・切削・研磨等の工具、さらには鉄鋼産業における研磨布の砥粒として好適である。
【0031】
<砥粒>
本発明の砥粒は、本発明のアルミナ焼結体からなる。
成形体の解砕や、焼結体の解砕により任意の砥粒を得ることができる。本発明のアルミナ焼結体は、上述の通り、例えば、粉砕処理、混練処理、成形処理、乾燥処理、焼結処理を順次施すことで得られる。
【0032】
<砥石>
本発明の砥石は、本発明の砥粒の層を作用面に有するものである。本発明の砥石は、例えば、台金と、前記台金の作用面に設けられた砥粒を含有する層と、を有する。
砥粒を含有する層は、作用面に砥粒を固定することで得られる。本発明の砥石における砥粒の作用面への固定方法としては、レジンボンド、ビトリファイドボンド、メタルボンドによる接着や、電着等が挙げられる。
上記レジンボンドは、切れ味は良好であるが、耐久性が低い。上記ビトリファイドボンドは、切れ味がよく、耐摩耗性も良好であるが、砥粒に内部応力が発生し、砥粒が割れたり、欠けたりしやすくなる。電着は、形状の自由度が大きく、切れ味も良好である。以上に鑑み、砥石においては、その用途に応じて砥粒の固定方法が選択される。
また、台金の材質としては、例えば、スチール、ステンレス合金、アルミニウム合金等が挙げられる。
【0033】
砥石の製造方法としては、例えば、レジンボンド砥石の場合、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等の結合剤(レジンボンド)の粉末と本発明の砥粒とを混合し、又は、前記結合剤を砥粒にコーティングし、金型に充填してプレス成形する方法、或いは、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の液状の結合剤(レジンボンド)と砥粒を混合し、型に流し込んで硬化させる方法により、台金の作用面に砥粒の層を有する砥石が得られる。
本発明の砥石の形状については、特に制限はなく、砥石の用途に応じて、ストレート型やカップ型等の形状から適宜選択すればよい。
【0034】
<研磨布>
本発明の研磨布は、本発明の砥粒の層を作用面に有するものである。本発明の研磨布は、例えば、基材と、前記基材の作用面に設けられた砥粒を含有する層と、を有する。
砥粒を含有する層は、前記基材の作用面に砥粒を固定することで得られる。本発明の研磨布における砥粒の作用面への固定方法としては、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の合成樹脂接着剤や、膠等の天然産接着剤が挙げられる。天然産接着剤は柔軟性に富むが、耐熱性・耐水性に乏しく、湿式での作業に適さない。これに対し合成樹脂接着剤は耐熱性・耐水性に優れ、高速、高荷重での使用に適する。
また、基材としては、綿布、合繊布、PET(ポリエチレンテレフタレート)、不繊布等が挙げられる。本発明の研磨布の材料の種類については特に制限はなく、研磨布の用途に応じて適宜選択すればよい。
【実施例】
【0035】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における諸特性は以下に示す方法に従って求めた。
【0036】
(1)原料粉末の累積質量50%径(d50)測定
原料粉末の累積質量50%径(d50)は、レーザー回折法(日機装(株)製 マイクロトラック HRA)により測定した。
【0037】
(2)アルミナ焼結体の気孔率の測定
気孔率は以下の式により算出した。
気孔率(体積%)=(1−粒子嵩比重/真比重)×100
【0038】
(3)アルミナ焼結体の嵩比重の測定
嵩比重は以下の方法により測定した。アルミナ焼結体を粉砕し粉末状にした後、砥粒50gを秤量し、水に十分浸漬させた後、表面に付着した水分を拭き取った。その後、ビュレット等の液体の体積を測定できる容器の中に水を入れ、その中に砥粒を投入することにより、水の体積変化量から以下の式により算出した。
粒子嵩比重 = 水の体積変化量/50
【0039】
(4)アルミナ焼結体の真比重の測定
アルミナ焼結体を粉砕し粉末状にした後、装置としてmicromeritics社製、機種名「AccuPyc II 1340」を用い、その粉末の真比重を測定した。
【0040】
(5)アルミナ焼結体のビッカース硬度の測定
装置として(株)アカシ製、機種名「MVK-VL、Hardness Tester」を用い、測定は、荷重0.98 N、圧子の打ち込み時間10秒の条件とし、15点の測定値の平均値をビッカース硬度とした。
【0041】
(6)アルミナ焼結体のC係数の測定
C係数は、JIS R6128−1975人造研削材の靭性の試験方法(ボールミル法)に準拠した方法によって測定した。即ち、試料約250gをJIS R6001−1987に規定される標準篩を用いて、ロータップ試験機によって10分間篩分けた。3段目に留まった試料の全量を更に10分間篩分け、再び3段目の篩に留まった試料50gを供試試料とした。この試料をJIS R6128−1975に規定される方法でボールミル粉砕した。粉砕試料を標準篩を用いて5分間篩分け、4段目に留まった試料の重量を測り、R(X)とした。また、標準試料としてJIS R6128−1975に規定される黒色炭化けい素質研削材の#24約250gをJIS R6001−1987に規定される標準篩を用いて、ロータップ試験機によって10分間篩分けた。3段目に留まった試料の全量を更に10分間篩分け、再び3段目の篩に留まった試料100gを供試試料とした。この試料をJIS R6128−1975に規定される方法でボールミル粉砕した。粉砕試料を標準篩を用いて5分間篩分け、4段目に留まった試料の重量を測り、R(S)とし、次式によりC係数を算出した。
C係数=log(50/R(X))/log(100/R(S))
上記靱性により破砕特性を評価した。
【0042】
(7)研削動力の測定
砥粒とビトリファイドボンド、バインダーを2:1:1の割合(体積比)で混合して砥石を作製した。軽負荷における研削を行うため、装置として(株)岡本工作機械製作所製、機種名「PSG−63AN」を用い、作製した砥石により被削材(S45C)を、砥石周速度1800m/分、加工物速度15m/分、切込み量10μm、総切込み量10mmの条件で研削した。その際、必要であった装置の動力を研削動力とした。
【0043】
(8)化学成分の測定
装置としてSII Nano Technology社製、機種名「SII SPS3500 DD」を用い化学成分を測定した。
【0044】
(製造例1)
下記組成を有するアルミナ粉末(累積質量50%径(d50)は57μm)を、累積質量50%径(d50)が0.7μmとなるまで粉砕した。化学成分は表1に示す通りである。
【0045】
【表1】
【0046】
水酸化アルミニウム粉末は、水酸化アルミニウムA〜Dの4種類を使用した。それぞれの累積質量50%径(d50)と化学成分は表2に示す通りである。
【表2】
【0047】
(実施例1〜13、比較例1〜2)
累積質量50%径(d50)0.7μmの製造例1のアルミナ粉末と、上記水酸化アルミニウム粉末とを、表3に示す割合で混合して各種混合物を得た。この各種混合物に純水を加えニーダーを用いて混練した後、押出成形機を用いて各種成形体を作製した。その後、この各種成形体を、電気炉(大気雰囲気)にて1670℃で1時間保持し焼成することにより各種アルミナ焼結体を得た。これらについて、既述のような試験(評価)を行った。結果を表3に、化学成分を表4に示す。
【0048】
(実施例14〜15、比較例3)
表5に示すアルミナ焼結体を用いて、研削動力の試験を行なった。研削動力の測定結果を表5に示す。
【0049】
図1に実施例1〜13の結果に基づく、水酸化アルミニウムの添加量に対する気孔率、ビッカース硬度のプロット(A〜Dはそれぞれ水酸化アルミニウムの種類を示す。)を、図2に実施例14、15の結果に基づく、水酸化アルミニウムの添加量に対する研削動力のプロットを、図3に実施例1〜7の結果に基づく、気孔率に対するC係数、ビッカース硬度のプロットを、図4に実施例5のアルミナ焼結体のSEM画像を、図5に比較例1のアルミナ焼結体のSEM画像を示す。
実施例のアルミナ焼結体において、水酸化アルミニウムの添加量の増加により、気孔率の増加が確認された。またいずれの粒度の水酸化アルミニウムを添加したアルミナ焼結体で、気孔率の増加、ビッカース硬度の減少が確認された。また図4、5に示すように比較例1のアルミナ焼結体は実施例1〜13のアルミナ焼結体で確認されている気孔と同様の形状の気孔が形成されていないことが確認された。
実施例14、15と比較例3の研削動力を比較すると、水酸化アルミニウムを添加していない比較例3では、研削動力が装置の上限を超え、装置が停止したため、研削試験を実施することが出来なかった。これに対し実施例14、15では、水酸化アルミニウムの添加量の増加に伴い、研削動力が減少することが確認された。いずれの実施例も、比較例1と比べてC係数の値の増加が確認された。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のアルミナ焼結体は、破砕性に優れ、研削動力が小さいため、砥粒、砥石、研磨布として利用される。
図1
図2
図3
図4
図5