(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367128
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】オートテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
F16H7/12 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-12937(P2015-12937)
(22)【出願日】2015年1月27日
(65)【公開番号】特開2016-138577(P2016-138577A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 弘好
【審査官】
岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−112549(JP,A)
【文献】
特開2009−180245(JP,A)
【文献】
実開平05−083516(JP,U)
【文献】
実開平05−069438(JP,U)
【文献】
特開平06−193695(JP,A)
【文献】
特開2002−039299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と、前記軸部の外側に筒状に設けられ、前記軸部とともに保持部を形成する外筒部とを有するブラケットと、
前記軸部に嵌合された筒状部と、前記筒状部の上部から径外方向に延在する端部とを有し、前記軸部の軸回り方向に揺動可能に設けられたアームと、
前記アームの端部に取り付けられたプーリと、
前記軸部の外側を囲み、前記軸部の軸回り方向に前記アームを付勢する捩りコイルばねと、
前記捩りコイルばねの外方に配置され、前記外筒部の内周面又は前記軸部の表面を摺動するダンピング部材とを備え、
前記捩りコイルばねの一端はスプリング押し当て部において前記アームに係止されており、
前記ダンピング部材は、上部に前記アーム又は前記軸部と接触するテーパー面が形成され、前記アームと前記捩りコイルばねとの間に設けられた摺動材を有しており、
前記摺動材は、前記軸部の軸方向に圧縮される前記捩りコイルばねの伸長によって上方又は下方へ付勢されるとともに、前記テーパー面と前記アーム又は前記軸部との接触によって上方又は下方への付勢力が径方向外方への押し力に変換されるオートテンショナ。
【請求項2】
請求項1に記載のオートテンショナにおいて、
前記テーパー面は、前記スプリング押し当て部から90°ずれた位置を中心として±90°以下の位置に形成されるオートテンショナ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のオートテンショナにおいて、
前記プーリはベルトに張力を与え、
前記テーパー面は、前記ベルトから軸荷重を受ける位置と反対側の位置に設けられているオートテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示された技術は、自動車等に用いられるオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化への対策として行われる炭酸ガス排出量の削減や、燃費の向上への要求などにより、エンジンの回転変動が大きくなっており、オートテンショナのアームの振幅も増大している。このため、オートテンショナが安定した張力を付与することが困難になりつつあり、異音やベルトスリップ等の不具合が発生しやすい状況となっている。
【0003】
アームの振幅を低減させるために、オートテンショナには高い減衰力が求められており、摩擦摺動材をテンショナの中心(ベース部材の中心軸)から離れた位置に配置することによって減衰力を増加させることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、特許文献2には、スプリングの外周部に摩擦材を設置するアウターダンピング構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−533619号公報
【特許文献2】特開2006−118668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載された方法では減衰力を増大させることが可能であるものの、近年のエンジンの回転変動の増大に対応するには不十分な場合があり、減衰力のさらなる増大が求められている。
【0007】
本発明の目的は、より優れた減衰力を有するオートテンショナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示されたオートテンショナは、軸部と、前記軸部の外側に筒状に設けられ、前記軸部とともに保持部を形成する外筒部とを有するブラケットと、前記軸部に嵌合された筒状部と、前記筒状部の上部から径外方向に延在する端部とを有し、前記軸部の軸回り方向に揺動可能に設けられたアームと、前記アームの端部に取り付けられたプーリと、
前記軸部の外側を囲み、前記軸部の軸回り方向に前記アームを付勢する捩りコイルばねと、前記捩りコイルばねの外方に配置され、前記外筒部の内周面又は前記軸部の表面を摺動するダンピング部材とを備える。前記捩りコイルばねの一端はスプリング押し当て部において前記アームに係止されており、前記ダンピング部材は、上部に前記アーム又は前記軸部と接触するテーパー面が形成され、前記アームと前記捩りコイルばねとの間に設けられた摺動材を有しており、前記摺動材は、前記軸部の軸方向に圧縮される前記捩りコイルばねの伸長によって上方又は下方へ付勢されるとともに、前記テーパー面と前記アーム又は前記軸部との接触によって上方又は下方への付勢力が径方向外方への押し力に変換される。
【発明の効果】
【0009】
本明細書に開示されたオートテンショナによれば、優れた減衰力を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係るオートテンショナ1の構成を示す平面図であり、(b)は、当該オートテンショナ1の断面図である。
【
図2】
図2は、オートテンショナ1に用いられるダンピングリング21を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1(a)、(b)に示すオートテンショナ1及びベルト駆動装置を概略的に示す図である。
【
図4】
図4は、オートテンショナ1の変形例の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
−オートテンショナの構成−
図1(a)は、本発明の一実施形態に係るオートテンショナ1の構成を示す平面図であり、(b)は、当該オートテンショナ1の断面図である。
図1(a)は、ブラケット9側(下方)からオートテンショナ1を見た図であるが、摺動材17とスプリング押し当て部20とを透視して示している。
図1(b)は、プーリ7の軸とブラケット9の軸及び摺動材17を通る断面を示している。なお、本明細書では便宜上、軸部9aの軸方向を上下方向とし、ブラケット9側を下方、プーリ7側を上方として説明する。
【0012】
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態のオートテンショナ1は、ブラケット9と、アーム5と、プーリ7とを備えている。
【0013】
ブラケット9は、軸部9aと、軸部9aの外側に筒状に設けられ、軸部9aとともに保持部12を形成する外筒部9bとを有している。ブラケット9は、エンジン等に固定される。ブラケット9は例えばアルミニウム等の金属で構成され、その全体は公知の方法により一体的に成型可能である。
【0014】
アーム5は、軸部9aに嵌合された筒状部5aと、筒状部5aの上部から径外方向に延在する端部5bとを有している。アーム5は、軸部9aの軸回り方向に揺動可能にブラケット9に取り付けられている。アーム5はアルミニウム等の金属で構成され、公知の方法で成型可能である。
【0015】
プーリ7は、アーム5の端部5b上にボルト23を用いて回転自在に支持されており、ボールベアリングやダストシールド等を有している。プーリ7には、車両等の補機を駆動するためのベルトが巻き掛けられている。オートテンショナ1からベルトへは、プーリ7を介して所定の張力が付与される。
【0016】
軸部9aと外筒部9bとで形成される空間(保持部12)には、捩りコイルばね11が設置される。捩りコイルばね11は、軸部9a及び筒状部5aの外側を囲み、軸部9aの軸回り方向にアーム5を付勢する。捩りコイルばね11の一端はスプリング押し当て部20においてアーム5に係止され、他端がブラケット9に係止されている。この構成により、捩りコイルばね11は、プーリ7を通してベルトに張力を与えることができる。捩りコイルばね11の軸は、軸部9aの軸とほぼ一致している。捩りコイルばね11は、シリコンクロム銅等の金属又は金属化合物で構成されていることが好ましい。
【0017】
また、捩りコイルばね11の外方には、外筒部9bの内周面又は軸部9aの表面を摺動するダンピングリング(ダンピング部材)21が配置されている。
図1では、ダンピングリング21が外筒部9bの内周面を摺動する例を示している。ダンピングリング21としては、例えばナイロン、ポリエチレン、ポリエーテルサルフォン(PES)等の熱可塑性樹脂等で構成されたスプリングサポートが用いられる。
【0018】
図2は、オートテンショナ1に用いられるダンピングリング21を示す斜視図である。同図に示すように、ダンピングリング21は筒状または一部が欠けた筒状をしており、捩りコイルばね11の上部を囲む側壁部21aと、アーム5と接触するテーパー面10が上部に形成され、アーム5と捩りコイルばね11との間に設けられた摺動材17とを有している。ダンピングリング21は、捩りコイルばね21を自然状態から下方に向かって圧縮するように設置される。なお、後述のように、摺動材17のテーパー面10がアーム5のテーパー面ではなく、軸部9aの表面のテーパー面と接触する構成を採用することもできる。
【0019】
摺動材17の下面は捩りコイルばね11の上端と接している。摺動材17は、軸部9aの軸方向に圧縮される捩りコイルばね11の伸長によって上方へ付勢される。摺動材17にテーパー面10が形成されていることで、テーパー面10とアーム5との接触によって上方への付勢力が径方向外方への押し力に変換される。
【0020】
テーパー面10及び摺動材17が設けられる範囲は特に限定されないが、スプリング押し当て部20から90°ずれた位置を中心として±90°以下の位置に形成されていれば好ましい。特に、テーパー面10は、ベルトから軸荷重を受ける位置(
図1(a)参照)と反対側の位置に設けられていれば後述のようにより高いダンピング力を生じさせることができるので、好ましい。
【0021】
テーパー面10のテーパー角は特に限定されないが、荷重F2を荷重F3へと効果的に変換できる角度であればよい。アーム5のうちテーパー面10と接する部分は、テーパー面10と十分に接触できるようにテーパー面10に対応するテーパー面を有していてもよい。
【0022】
また、ダンピングリング21と捩りコイルばね11の上部との間にはダンピング補助部材15が設けられている。ダンピング補助部材15は、捩りコイルばね11から加わる力がダンピングリング21に均一に伝わるように設けられた部材であり、例えば、金属(アルミニウム、鉄等)あるいは樹脂(ナイロン、ポリアミド、変成ポリアミド等)で構成されていてもよい。
【0023】
本実施形態のオートテンショナ1において、アーム5が捩り方向(
図1(a)に示す筒状部5aにおける反時計回りの方向)に移動した場合、アーム5の係止部を支点として捩りコイルばね11が当該端部からある角度(例えば90°)ずれた方向に移動する。すると、捩りコイルばね11はダンピング補助部材15と当接し、ダンピング補助部材15を介して捩りコイルばね11からダンピングリング21へと荷重F1+F1’が加わる。
【0024】
ここで、荷重F1は、スプリング押し当て部20を中心とした捩りコイルばね11の回転力による押し力であり、荷重F1’は捩りコイルばね11の径が大きくなることにより生じる押し力である。
【0025】
また、捩りコイルばね11からダンピングリング21へは上方に向かって荷重F2が加わるが、摺動材17の上部にテーパー面10が形成されていることにより、荷重F2は径方向外方への荷重F3に変換される。
【0026】
以上のように、本実施形態のオートテンショナ1では、ベルトから軸荷重を受けた場合にダンピングリング21にF1+F1’+F3の押し力が加わることになり、ダンピングリング21とブラケット9との間に生じる摩擦力を従来のオートテンショナに比べて大きくすることができる。そのため、本実施形態のオートテンショナ1では、従来よりも高い減衰力を得ることができる。また、本実施形態のオートテンショナ1は、従来のオートテンショナの形状を大きく変更することなく、アーム5の変位を低減し、高ダンピング化が可能になっている。
【0027】
また、テーパー面10が、スプリング押し当て部20から90°ずれた位置を中心として±90°以下の位置に形成されていることにより、より効果的に減衰力を向上させることができる。
【0028】
また、テーパー面10の位置を、ベルトからオートテンショナ1に加わる軸荷重の反対側とすることで、荷重F3の方向と荷重F1、F1’の方向とを一致させることができ、アーム5の傾きを防止することができる。従って、この構成によれば、摺動材17の偏摩耗を防止してオートテンショナ1の長寿命化を図ることができる。また、ベルトの偏りにより生じる音(ミスアラインメント異音)を防止することもできる。
【0029】
−ベルト駆動装置の構成−
図3は、本実施形態に係るオートテンショナ1及びベルト駆動装置を概略的に示す図である。
【0030】
オートテンショナ1は、捩りコイルばね11(
図1(b)参照)によって生じたトルクをプーリ7を介して補機駆動用のベルト22に伝える。ベルト駆動装置は、例えば駆動プーリ4、プーリ2a、2bを有している。オートテンショナ1のアーム5は、ベルト22の張力が一定になるように回動する。つまり、ベルト22の張力が増大したときには、捩りコイルばね11の捩りトルクに抗して付勢方向と逆の方向(アーム5の捩り方向)に回動する。一方、ベルト22の張力が減少したときには、アーム5が捩りコイルばね11の捩りトルクにより、捩りコイルばね11の付勢方向に回動する。
【0031】
本実施形態のオートテンショナ1は高いダンピング性能を有しており、ベルト22の張力が増大した場合には、ダンピングリング21と外筒部9bとの間の摺動抵抗が大きくなるので、アーム5の回動が効果的にダンピングされる。このため、エンジンの回転変動が増大した場合であっても、アーム5の振幅を効果的に低減させ、ベルト22に安定した張力を与えることが可能となっている。
【0032】
なお、以上で説明したオートテンショナ1及びベルト駆動装置の構成は、実施形態の一例であって、各部材の構成、形状、配置、構成材料等は本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0033】
例えば、
図1では筒状部5aが軸部9aの外側を覆うように軸部9aに嵌め込まれているが、
図4に示すように、筒状の軸部9aがアーム5の筒状部5aの外側を覆うように筒状部5aに嵌め込まれていてもよい。この場合、アーム5は捩りコイルばね11の外側を覆う部分5cを有している。
【0034】
図4に示すオートテンショナの変形例において、ダンピングリング21は、部分5cと捩りコイルばね11との間に設けられるとともに、捩りコイルばね11の下方(軸部9aの軸方向のうちプーリ7と逆側の方向)に位置する摺動材17を有する。摺動材17の一部(下部)にはテーパー面10xが形成されており、テーパー面10xは、テーパー面10xに対応する軸部9aの表面と接触する。
【0035】
この変形例では、摺動材17のテーパー面10と軸部9aとの接触によって下方への付勢力が径方向外方への押し力に変換されるので、
図1に示す構成と同様のダンピング性能を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上説明したように、本発明の一例に係るオートテンショナは、各種車両等に適用されうる。
【符号の説明】
【0037】
1 オートテンショナ
2a、2b プーリ
4 駆動プーリ
5 アーム
5a 筒状部
5b 端部
7 プーリ
9 ブラケット
9a 軸部
9b 外筒部
10 テーパー面
11 捩りコイルばね
12 保持部
15 ダンピング補助部材
17 摺動材
20 スプリング押し当て部
21 ダンピングリング
21a 側壁部
22 ベルト
23 ボルト
F1、F1’、F2、F3 荷重