(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態の塗工装置1について
図1〜
図5に基づいて説明する。塗工装置1は、ウエブWへ上下二層の塗工部と未塗工部とを間欠塗工する。長尺状のウエブWとしては、フィルム、金属箔、金属網、布帛などであって、例えばリチウムイオン電池の電極部材の材料となる金属箔である。
【0011】
(1)ダイ100の構造
まず、塗工装置1に用いられるダイ100について
図1と
図2に基づいて説明する。塗工ヘッドであるダイ100は、金属製の第1本体202、第2本体204、第3本体206とを上下方向に組み合わせたものである。
【0012】
第1本体202は、上面が平らであって、この上面には幅方向に沿って第1液溜め部208が形成されている。第1液溜め部208から前方に向かって第1流出路210の下面が幅方向に沿って設けられている。第1液溜め部208の後部の中央部からは第1塗工液の第1流入路214が設けられ、第1流入路214は第1本体202の後面に開口している。
【0013】
第1本体202の上部には、第2本体204が配され、第2本体204の下面と第1本体202の上面との間に前記した第1流出路210が幅方向に沿って形成される。この第1流出路210の先端部には、スリット状の第1吐出口212が幅方向に沿って開口している。第2本体204の上面には第2液溜め部216が形成され、第2液溜め部216の前方に向かって第2流出路218の下面が幅方向に沿って設けられている。第2液溜め部216の後部の中央部からは第2塗工液の第2流入路222が設けられ、第2流入路222は第2本体204の後面に開口している。
【0014】
第2本体204の上部には、第3本体206が配され、第3本体206の下面と第2本体204の上面との間に前記した第2流出路218が幅方向に沿って形成される。この第2流出路218の先端部には、スリット状の第2吐出口220が幅方向に沿って開口している。
【0015】
第1流出路210と第2流出路218は、
図1と
図3に示すように第1吐出口212と第2吐出口220が接近するように傾斜して設けられ、第1吐出口212と第2吐出口220の距離を「J」とする。
【0016】
(2)バルブ10の構造
次に、塗工装置1に用いられる三方弁のバルブ10の構造について
図3に基づいて説明する。
【0017】
本実施形態の三方弁のバルブ10は、バルブ本体12の側部に流体である塗工液の入口14が開口し、バルブ本体12の上部には、円筒状の第1出口16と円筒状の第2出口18とが並んで形成され開口している。バルブ本体12内部は、入口14と第1出口16と第2出口18とを繋ぐ空間20が形成されている。この空間20内部であって、第1出口16の基部には、ゴム製、又は、シリコン製の第1弁座22が形成され、第2出口18の基部にはゴム製の第2弁座24が形成されている。
【0018】
第1弁座22を開閉するための第1弁体26が、第1出口16の基部内部に配されている。第2弁座24を開閉するための第2弁体28が、第2出口18の基部内部に配されている。
【0019】
バルブ本体12の下部には、第1ボイスコイルモータ30、第2ボイスコイルモータ32とが並んで取り付けられている。
【0020】
第1ボイスコイルモータ30の上部から突出した第1摺動シャフト34は、バルブ本体12を貫通し、その先端に第1弁体26が取り付けられている。この第1摺動シャフト34が摺動することにより、この第1弁体26が第1弁座22を開閉する。第1ボイスコイルモータ30の下部から突出した第1摺動シャフト34には、第1位置センサ38が取り付けられている。この第1位置センサ38は、リニアスケールより構成され、第1摺動シャフト34の位置を1μm単位で検出できる。
【0021】
第2ボイスコイルモータ32の上部から突出した第2摺動シャフト36は、バルブ本体12を貫通し、その先端に第2弁体28が取り付けられている。この第2摺動シャフト36が摺動することにより、この第2弁体28が第2弁座24を開閉する。第2ボイスコイルモータ32の下部から突出した第2摺動シャフト36には、第2位置センサ40が取り付けられている。この第2位置センサ40もリニアスケールから構成され、第2摺動シャフト36の位置を1μm単位で検出できる。
【0022】
次に、第1ボイスコイルモータ30の構造について説明する。
【0023】
円筒形に形成されたケーシング31内部には、円筒形の鉄製のアウターヨーク42が配され、このアウターヨーク42の内周面には、リング状のマグネット44が固定されている。この円筒形のアウターヨーク42の内側には、円柱型の鉄製のインナーヨーク46が配され、アウターヨーク42とインナーヨーク46とは下面で固定されている。
【0024】
アウターヨーク42とインナーヨーク46との間には、間隙が設けられている。円筒形の非磁性のコイルボビン48が、この間隙を軸方向に摺動自在に配されている。コイルボビン48の外周面にはコイル50が巻回され、リング状のマグネット44の位置に対応している。
【0025】
コイルボビン48の軸方向の中央部には、第1摺動シャフト34が貫通して固定されている。
【0026】
第2ボイスコイルモータ32も、第1ボイスコイルモータ30と同様の構造を有している。
【0027】
第1ボイスコイルモータ30の動作状態について説明する。
【0028】
第1ボイスコイルモータ30のコイル50に、直流電流を流すことにより、リング状のマグネット44との間に磁界が発生し、ファラデーの法則により、コイルボビン48が第1ボイスコイルモータ30と第1摺動シャフト34が軸方向に移動する。この軸方向に移動する摺動速度は、コイル50に流す直流電流の強さによって決定される。また、第1摺動シャフト34がどの位置まで突出させるかは、第1位置センサ38で第1摺動シャフト34の位置を検出し、所定の位置まで第1摺動シャフト34が移動すると、コイル50に流れる直流電流をOFFし、第1摺動シャフト34の摺動を停止させる。
【0029】
第2ボイスコイルモータ32も、第1ボイスコイルモータ30と同様の動作を行う。
【0030】
(3)塗工装置1の構造
次に、上記で説明したダイ100とバルブ10を用いた塗工装置1の構造について説明する。
【0031】
ウエブWは、バックアップロール102によって所定の走行速度Vで走行する。バックアップロール102の側方には、上記で説明したダイ100が配され、第1吐出口212の下流側に第2吐出口220が位置している。バックアップロール102の走行路の前後には、ウエブWを案内する案内ロール130と案内ロール132が回転自在に設けられている。
【0032】
ダイ100には、ウエブWへ下層の塗工部を形成する第1塗工液を供給する第1供給手段104と、上層の塗工部を形成する第2塗工液を供給する第2供給手段106とが接続され、制御部108によって制御されている。
【0033】
第1供給手段104について説明する。第1供給手段104には、第1塗工液を貯留する第1の塗工タンク110が配され、第1の塗工タンク110から第1塗工液を圧送する第1のポンプ112が設けられている。第1のポンプ112は、第1のポンプモータ114によって駆動する。
【0034】
第1のポンプ112から圧送された第1塗工液を供給する第1の圧送管116が、三方弁の第1のバルブ10の入口14に接続されている。第1出口16には、第1の給液管118の一端部が接続され、この第1の給液管118の他端部は、ダイ100の第1流入路214に接続されている。第2出口18には、第1の循環管122の一端部が接続され、第1の循環管122の他端部は、第1の塗工タンク110に設けられている。この第1の循環管122の途中には第1の絞り弁124が設けられている。
【0035】
ウエブWの上層の塗工部を形成する第2塗工液をダイ100に供給する第2供給手段106も、第1供給手段104の同じ構造であり、第2の塗工タンク110、第2のポンプ112、第2のポンプモータ114、第2のバルブ10、第2の圧送管116、第2の給液管118、第2の循環管122及び第2の絞り弁124から構成され、第2の塗工タンク110には、第2塗工液が貯留され、第2の給液管118の他端部は、ダイ100の第2流入路218に接続されている。
【0036】
(4)塗工装置1の電気的構成
塗工装置1の電気的構成について
図1に基づいて説明する。
【0037】
コンピュータよりなる制御部126には、バックアップロール102を回転させるための走行モータ128、第1供給手段104のポンプモータ114、バルブ10の第1ボイスコイルモータ30、第2ボイスコイルモータ32が接続され、また、第2供給手段106のポンプモータ114、バルブ10の第1ボイスコイルモータ30、第2ボイスコイルモータ32がそれぞれ接続されている。
【0038】
(5)塗工装置1の動作状態
次に、塗工装置1が、ウエブWに上下二層の塗工部と未塗工部を間欠塗工する動作状態について説明する。
【0039】
まず、制御部126が、ウエブWを走行速度Vで走行させる。
【0040】
次に、制御部126が、第1供給手段104の第1のバルブ10の第1出口16を開状態にし、第2出口18を閉状態にし、第1のポンプ112から第1塗工液を圧送し、第1のバルブ10を経てダイ100に塗工液を圧送する。ダイ100に圧送された第1塗工液は、第1液溜め部208から第1流出路210を経て第1吐出口212に至り、第1塗工液を走行するウエブWの幅方向に塗工する。ここで第1塗工液を供給する単位時間当たりの量は、下層の塗工部の塗工厚さA1と塗工幅Bと走行速度Vの積に対応する。
【0041】
次に、制御部126は、第2供給手段106の第2のバルブ10の第1出口16を開状態にし、第2出口18を閉状態にして、第2のポンプ112から第2塗工液を圧送し、第2のバルブ10を経てダイ100に第2塗工液を圧送する。ダイ100に圧送された第2塗工液は、第2液溜め部216から第2流出路218を経て第2吐出口220に至り、第2塗工液を第1塗工液の上に塗工する。ここで第2塗工液を供給する単位時間当たりの量は、上層の塗工部の塗工厚さA2と塗工幅Bと走行速度Vの積に対応する。
【0042】
次に、制御部126は、走行速度VからウエブWの二層の塗工部の長さを測定し、二層の塗工部が所定の長さになると未塗工部を形成するために、第1供給手段104の第1のバルブ10の第1出口16と、第2供給手段106の第2のバルブ10の第1出口16とを閉状態にし、同時に各バルブ10の第2出口18を開状態にする。この未塗工部を形成している場合に、2つのバルブ10の第1出口16が閉状態であり、第2出口18が開状態であるため、各ポンプ112,112から圧送された2種類の塗工液は、各循環管122,122によって各塗工タンク110,110にそれぞれ循環させる。この循環量は、各絞り弁124,124によって決定する。
【0043】
次に、制御部126は、走行速度VからウエブWの未塗工部の長さを測定し、未塗工部の形成が終了すると、上記と同様の制御によって上下二層の塗工部を形成し始める。
【0044】
(6)始端部の形成方法
上下二層の塗工部の始端部を形成する場合について説明する。
【0045】
上下二層の塗工部の始端部を形成する場合に、
図4に示すように、上下二層の塗工部を滑らかに水平に形成するのが理想である。しかし、ダイ100によって第1塗工液を塗工すると、現実的には第1塗工部の始端部は盛り上がり部分が形成される。そのため、第2塗工液を第1塗工液の上に被さるように塗工すると、塗工部の始端部は、2重の盛り上がりとなり、所定の塗工厚さ(A1+A2)を超えてしまう。これを防止するために本実施形態では、次のような2つの制御方法を実施する。
【0046】
第1制御方法について説明する。
図2の拡大図に示すように第1吐出口212と第2吐出口220の間には距離Jが存在する。そのため、制御部126が第1供給手段104の第1のバルブ10と第2供給手段106の第2のバルブ10とを同時に開状態にすると、二層の塗工部の始端部において第1塗工液の前方に第2塗工液が被さるように塗工される。そのため、制御部126は、距離JをウエブWが走行速度Vで走行する時間だけ、第2供給手段106の第2のバルブ10を開状態にする時間を遅延させる。これによって、第1塗工液によって形成された下層の塗工部の始端部の真上から上層の塗工部が形成される。
【0047】
次に、第2制御方法について説明する。上記で説明したように下層の塗工部の始端部は
図5に示すように盛り上がり部分が形成される。そのため、制御部126は、上層の塗工部を形成する場合に、この盛り上がり部分だけ上層の塗工部を薄くするように、第2塗工液の吐出量を、最初の部分だけ少なくする。これにより、始端部から終端部に向かって同じ高さで二層の塗工部を形成できる。このように第2供給手段106の第2のバルブ10を制御するために、第2のバルブ10の第1出口16を開状態にする摺動速度vを制御部126が制御する。制御部126は、ウエブWが走行速度Vで走行した場合に、第2塗工液を上層の塗工部の厚さA2で塗工できる基準摺動速度v0を記憶している。この基準摺動速度v0は、第1摺動シャフト34の速度であって、実験によって予め求めておく。制御部126は、第2供給手段106の第2のバルブ10の第1出口16を開状態にするときは、第1摺動シャフト34を基準摺動速度v0で移動させるのでなく、最初は基準摺動速度v0よりも遅い速度で移動させ、次第に基準摺動速度v0に近づけることにより、第1出口16の開度がいきなり全開状態になるのでなく次第に大きく開いていき、吐出される第2塗工液の吐出量が次第に増えていく状態となる。そのため第1塗工液の盛り上がり部分では第2塗工液の供給量が少なく、その後に所定の量になるため、
図5に示すように上下二層の塗工厚さ(A1+A2)が一定となる。
【0048】
(7)終端部の形成方法
上下二層の塗工部の終端部を形成する場合について説明する。
【0049】
制御部126は、上下二層の塗工部の終端部を形成する場合に2つのバルブ10の第1ボイスコイルモータ30のコイル50に流す直流電流の強さを制御して、第1出口16を閉状態にする第1摺動シャフト34の第1摺動速度を最大摺動速度で行い、第2ボイスコイルモータ32のコイル50に流す直流電流の強さを制御して第2出口18を開状態にする場合も第2摺動シャフト36の第2摺動速度を最大速度で行う。
【0050】
このように制御する理由は、塗工液の吐出が迅速に終了すればするほど塗工部の終端部がエッジ状になって盛り上がりを防止できるからである。
【0051】
(8)効果
本実施形態によれば、1つのダイ100によって上下二層の塗工部を間欠塗工できる。
【0052】
また、下層の第1塗工液を供給するバルブ10の開時間に対し、上層の塗工部を形成する第2塗工液を供給するバルブ10の開時間を、第1吐出口212と第2吐出口220の距離Jに対応した時間だけ遅延させることにより上下二層の塗工部の始端部を同じ位置に形成できる。
【0053】
また、第2塗工液を供給するバルブ10の開状態を、次第に開状態にすることで第2塗工液の最初の塗工部分が薄くなり、第1塗工液の盛り上がり部分に塗工された場合でも、上下二層の塗工部が同じ厚さに形成できる。
【0054】
次に、上記実施形態の変更例について説明する。
【0055】
(1)変更例1
上記各実施形態では、上下二層の塗工部を形成する第1塗工液と第2塗工液は異なる種類の塗工液であったが、同じ種類の塗工液を上下二層で塗工してもよい。この場合には、上記したように下層の塗工液の盛り上がり部分を上層の塗工部を薄く塗ることにより、塗工部の塗工厚が同じ塗工厚になる。
【0056】
(2)変更例2
上記実施形態では、ダイ100内部には、2つの液溜め部と流出路と吐出口とを設けたが、これに代えてn個(例えば3個以上)の液溜め部、流出路、吐出口を設ければ、3層以上の塗工部を1台のダイ100によって塗工できる。この場合にも、塗工液毎に供給手段を設け、各供給手段は上記実施形態と同様の構成にすればよい。
【0057】
(3)変更例3
上記実施形態では、上下二層の塗工部を形成したが、
図6に示すように第1塗工液の塗工部と第2塗工液の塗工部を交互に形成するようにしてもよい。この場合には、第1供給手段104の第1のバルブ10と第2供給手段106の第2のバルブ10の開閉制御を交互に行うことにより実施できる。すなわち、第1塗工液を塗工する場合には、第1供給手段104の第1のバルブ10を開状態にし、第2供給手段106の第2のバルブ10を閉状態にする。次に、第1塗工液の塗工部の形成が終わると第1供給手段104の第1のバルブ10を閉状態にし、第2供給手段106の第2のバルブ10を開状態にする。
【0058】
ダイ100内部に3個以上の液溜め部16が設けられている場合には、各供給手段のバルブは順番に開閉させることにより、3種類以上の塗工部を順番に形成できる。
【0059】
(4)その他
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。