(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367140
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】レーダ装置及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/32 20060101AFI20180723BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
G01S7/32 250
G01S13/28 200
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-49598(P2015-49598)
(22)【出願日】2015年3月12日
(65)【公開番号】特開2016-170023(P2016-170023A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2017年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
(72)【発明者】
【氏名】白坂 知彦
【審査官】
安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−130410(JP,A)
【文献】
国際公開第2015/001892(WO,A1)
【文献】
特開2010−038832(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0189512(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42,
G01S 13/00−13/95,
G01S 15/02,
CSDB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N(N>1)個のパルスを任意の方向に送受信し、その受信信号から目標を検出するレーダ装置において、
前記パルスの受信信号をPRI(Pulse Repetition Interval)軸に対して周波数領域に変換する変換手段と、
前記変換手段により変換された周波数領域の受信信号からFRデータ(ドップラ−レンジデータ)を時間をずらせてP(P≧2)回分取得する取得手段と、
前記P回分のFRデータよりオプティカルフロー図と振幅強度図を作成する作成手段と、
前記作成手段で作成されたオプティカルフロー図及び振幅強度図に基づいて速度ベクトルと振幅強度による特徴量を算出する算出手段と、
前記特徴量が所定のスレショルドを超える場合に、目標として検出する検出手段と
を具備するレーダ装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記特徴量として、振幅強度図の極値を中心に、所定のセル範囲の振幅強度の加算値と速度ベクトルの加算値の絶対値を算出し、
前記検出手段は、前記所定のセル範囲の振幅強度の加算値と速度ベクトルの加算値の絶対値が各々所定のスレショルドを超える場合に目標として検出する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
取得手段は、前記周波数領域の信号から取得したFRデータを2次元FFT(Fast Fourier Transform)で周波数領域に変換し、2次元の軸にゼロ埋めした後、2次元逆FFTで時間領域に変換しておく請求項1または2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記取得手段は、前記周波数領域の信号から取得したFRデータか、または前記FRデータを2次元FFT(Fast Fourier Transform)で周波数領域に変換し、2次元の軸にゼロ埋めした後、2次元逆FFTで時間領域に変換したFRデータを取得し、
前記検出手段は、前記取得手段で取得されたFRデータまたはゼロ埋め後のFRデータから所定のスレショルドを超える振幅極値を抽出し、極値の周囲のセルに極値の振幅値に所定の係数を乗算した振幅値に置き換えてストレッチした後に前記目標を検出する請求項1乃至3のいずれか記載のレーダ装置。
【請求項5】
N(N>1)個のパルスを任意の方向に送受信し、その受信信号から目標を検出するレーダ装置のレーダ信号処理方法において、
前記パルスの受信信号をPRI(Pulse Repetition Interval)軸に対して周波数領域に変換し、
前記周波数領域に変換された受信信号からFRデータ(ドップラ−レンジデータ)を時間をずらせてP(P≧2)回分取得し、
前記P回分のFRデータよりオプティカルフロー図と振幅強度図を作成し、
前記オプティカルフロー図及び振幅強度図に基づいて速度ベクトルと振幅強度による特徴量を算出し、
前記特徴量が所定のスレショルドを超える場合に、目標として検出するレーダ装置のレーダ信号処理方法。
【請求項6】
前記振幅強度図の極値を中心に、所定のセル範囲の振幅強度の加算値と速度ベクトルの加算値の絶対値を前記特徴量として算出し、
前記所定のセル範囲の振幅強度の加算値と速度ベクトルの加算値の絶対値が各々所定のスレショルドを超える場合に目標として検出する請求項5記載のレーダ装置のレーダ信号処理方法。
【請求項7】
前記周波数領域の信号から取得したFRデータを2次元FFT(Fast Fourier Transform)で周波数領域に変換し、2次元の軸にゼロ埋めした後、2次元逆FFTで時間領域に変換しておく請求項5または6記載のレーダ装置のレーダ信号処理方法。
【請求項8】
前記周波数領域の信号から取得したFRデータか、または前記FRデータを2次元FFT(Fast Fourier Transform)で周波数領域に変換し、2次元の軸にゼロ埋めした後、2次元逆FFTで時間領域に変換したFRデータを取得し、
前記周波数領域の信号から取得したFRデータまたはゼロ埋め後のFRデータから所定のスレショルドを超える振幅極値を抽出し、極値の周囲のセルに極値の振幅値に所定の係数を乗算した振幅値に置き換えてストレッチした後に前記目標を検出する請求項5乃至7のいずれか記載のレーダ装置のレーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダ装置及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置では、熱雑音やクラッタ等の不要波環境の中で、小目標を検出する場合、一般にクラッタの抑圧にCFAR(Constant False Alarm Rate)処理を用いることが多い。しかしながら、CFAR処理では、小目標を検出する際に、その小目標の振幅強度がCFARのスレショルドを超えず、非検出になる場合があった。また、メインローブが地表面や海面等を向く場合には、固定クラッタを受信してしまい、検出性能が劣化する課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】パルス圧縮、大内、“リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎”、東京電機大学出版局、pp.131-149(2003)
【非特許文献2】CFAR(Constant False Alarm Rate)、吉田、‘改定レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89(1996)
【非特許文献3】位相モノパルス測角、吉田、‘改定レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.260-264(1996)
【非特許文献4】オプティカルフロー、田村、‘コンピュータ画像処理’、オーム社、pp.245-247(2002)
【非特許文献5】MPRF方式、Guy Morris,‘AIRBORNE PULSE DOPPLER RADAR 2nd edition’、pp.264-270(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上述べたように、従来のレーダ装置では、クラッタ抑圧のためにCFAR(Constant False Alarm Rate)処理を採用した場合に、RCS(Radar Cross Section)が小さい小目標の検出の際にその信号強度がスレショルドを超えず、非検出になる場合があった。また、メインローブが地表面や海面等を向く場合には、固定クラッタ成分を抑圧することができず、検出性能が劣化する課題があった。
【0005】
本実施形態は上記課題に鑑みなされたもので、クラッタ等の不要環境下でCFAR等により検出できないような、RCS(Radar Cross Section)が小さい目標を検出可能とする、高い検出能力を発揮することのできるレーダ装置とそのレーダ信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本実施形態は、N(N>1)個のパルスを任意の方向に送受信し、その受信信号から目標を検出するレーダ装置において、前記パルスの受信信号をPRI軸に対して周波数領域に変換し、前記周波数領域に変換された受信信号からFRデータを時間をずらせてP(P≧2)回分取得し、前記P回分のFRデータよりオプティカルフロー図と振幅強度図を作成し、前記オプティカルフロー図及び振幅強度図に基づいて速度ベクトルと振幅強度による特徴量を算出し、前記特徴量が所定のスレショルドを超える場合に、目標として検出する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
【
図2】
図1に示すレーダ装置のレーダ信号処理における目標検出の流れを示す概念図。
【
図3】
図1に示すレーダ装置の目標距離測定方法を説明するための波形図。
【
図4】
図1に示すレーダ装置の目標速度測定方法を説明するための波形図。
【
図5】第2の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
【
図6】
図5に示すレーダ装置のレーダ信号処理における目標検出の流れを示す概念図。
【
図7】第3の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
【
図8】
図7に示すレーダ装置のレーダ信号処理における高分解能化を説明するための概念図。
【
図9】第4の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図。
【
図10】
図9に示すレーダ装置のレーダ信号処理における高分解能化及びストレッチを説明するための概念図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。尚、各実施形態の説明において、同一部分には同一符号を付して示し、重複する説明を省略する。
【0009】
(第1の実施形態)
以下、
図1乃至
図4を参照して、第1の実施形態に係るレーダ装置について説明する。
【0010】
図1は第1の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すレーダ装置において、アンテナ1は複数のアンテナ素子を配列して大開口アレイを形成してなるフェーズドアレイアンテナであり、送受信器2の送受信部21から特定の周期で繰り返し供給される特定周波数の送信パルス信号(以下、PRF(Pulse Repetition Frequency)信号)を指定方向に送出してその反射波を受信する。送受信器2は、送受信部21において、アンテナ1の複数のアンテナ素子でそれぞれ受信された信号をビーム制御部22からの指示に従って位相制御を施し合成することで、任意の方向に受信ビームを形成してPRF受信信号を取得する。ここで、ビーム制御部22は指定された目標方向の測角値に基づいてΣビーム、Δビームを形成するように、送受信部21に対して各ビームに対応する位相制御を施す。これにより、送受信部21はΣ信号、Δ信号を生成して信号処理器3に出力する。
【0011】
上記信号処理器3に入力されたΣ信号、Δ信号は、それぞれの系統において、AD(Analog-Digital)変換部A11,B11で系統別にデジタル信号に変換された後、レンジ軸フーリエ変換部(FFTx)A12,B12に送られる。レンジ軸フーリエ変換部(FFTx)A12,B12は、入力されたΣ信号、Δ信号について、時間軸に対するフーリエ変換を行うことで、レンジ軸に沿った周波数領域信号に変換する。レンジ参照信号乗算部A13,B13は、Σ信号、Δ信号のレンジ軸の周波数領域信号にレンジ圧縮用の参照信号を乗算することでパルス圧縮を施す。逆フーリエ変換部(IFFTx)A14,B14は、レンジ参照信号が乗算された周波数領域のΣ信号、Δ信号について逆フーリエ変換を施すことで時間領域の信号に戻す。PRI(Pulse Repetition Interval)軸フーリエ変換部(FFTy)A15,B15は、時間領域に戻されたΣ信号、Δ信号をPRI軸上の周波数領域の信号に変換する。尚、FFTxとFFTyの処理は順番が逆であってもよい。
【0012】
上記参照信号によるパルス圧縮について、例えばリニアチャープの場合で定式化すると次の通りである(非特許文献1参照)。パルス圧縮は、入力信号とレンジ圧縮用の参照信号との相関処理であり、これを周波数領域で行う。
【数1】
【0013】
パルス圧縮の出力fpは、fcsのω軸に関するIFFTにより算出できる。
【数2】
【0014】
これを用いて、PRI軸でFFTy処理して信号fcs(t,fd)を得る。
【数3】
【0015】
時間とレンジの関係は、次式となる。
【数4】
【0016】
続いて、FRデータ保存部A16,B16は、複数CPI(coherent Processing Interval)による処理のために、FFTx処理及びFFTy処理されたΣ信号、Δ信号をそれぞれドップラ−レンジ軸のデータ(以下、FRデータ)として保存する。CPI処理のために保存されたFRデータの例を
図2(a)に示す。ここでは、FRデータを時間をずらせてP回(P≧2)取得した様子を示している。
【0017】
ここで、Σ系において、振幅強度算出部A17は上記FRデータ保存部A16に保存されているFRデータについて振幅強度の絶対値を算出する。オプティカルフロー処理部A18は、上記FRデータ保存部A16に保存された複数のCPI信号によるFRデータを用いて、振幅強度図とオプティカルフロー図(非特許文献4参照)を作成する。オプティカルフロー図は、時間の異なる複数のFRデータ等(一般には画像振幅強度データを用い、レーダの場合はCPI毎のFRデータ)の振幅強度図を作成し、この振幅強度図から対応するセルの移動量を求め、その移動量から速度ベクトルを算出したベクトル分布図である。CPI毎の振幅強度図の例を
図2(b)に示し、オプティカルフロー図を
図2(c)に示す。FRデータの場合は、2次元表示がドップラ−レンジ軸であるので、ドップラ軸が目標とレーダの相対速度変化、レンジ軸が目標とレーダの相対距離の変化を表し、両者の変化を速度ベクトルと呼ぶ。
【0018】
特徴量抽出部A19は、上記のオプティカルフローによって作成される速度ベクトルの特徴量を抽出する。すなわち、熱雑音は速度ベクトルがランダム方向に向き、クラッタも目標に比べて各反射点の強度変化が大きく速度ベクトルの向きが揃いにくい。これに対して、目標は剛体であり、異なる時間でも比較的反射点の変動が小さく、速度ベクトルが揃いやすい。そこで、両者の特性を利用することで、オプティカルフローから速度ベクトルの特徴量を抽出することができる。
【0019】
具体的には、上記特徴量抽出部A19において、複数CPIのFRデータのうち、少なくとも1つのデータか、複数のFRデータの振幅強度の最大値か平均値等を用いて、その値が所定のスレショルド以上になるセルCell(n)(n=1〜N)を抽出する。振幅強度に基づくセルの信号抽出結果の一例を
図2(d)に示す。さらに、Cell(n)を中心に、所定のゲート範囲Cell-gate(n)(n=1〜N)のセル内の速度ベクトルを抽出し、その速度ベクトルの最大値または平均値等を特徴量として出力する。速度ベクトル抽出の一例を
図2(e)に示す。目標検出部A20は、特徴量抽出部A19で抽出された特徴量の値が所定のスレショルドを超える場合に目標検出結果として出力する。目標検出結果を一例を
図2(f)に示す。
【0020】
ここで、目標検出部A20の目標検出結果はセル検出部B17に送られる。セル検出部B17は、Δ系列のFRデータ保存部B16に保存されているFRデータからΣ系列の目標検出セルに対応するセルのFRデータを検出する。
【0021】
次に、測距・測速処理部A21は、目標検出部A20で得られたPRIの異なる複数CPIのFRデータのセル番号を用いて、MPRF処理(非特許文献5参照)によりアンビギュイティの抑圧を行うレゾルバ処理を行う。時間軸(レンジ軸)でアンビギュイティがある場合の目標距離は、
図3に示すように、複数PRI方向に反射点を配列し、複数PRI間で同じ時間(レンジ)になるレンジを抽出すればよい。測速についても、
図4に示すように、複数PRF方向に反射点を配列し、複数PRF間で同じドップラ(速度)になるドップラを抽出し、速度に換算すればよい。この処理は、レンジ−ドップラ軸の2次元の面で処理することにより、レンジ及び速度を同時に算出できる。
【0022】
次に、測角処理部A22の測角手法について述べる。まず、セル検出部B17において、アンテナのΔビーム(ΔAZ、ΔEL)の出力からΣビームと同様にレンジ−ドップラ画像を得る。次にΣビームで、前述のオプティカルフローを用いて検出したセル(レンジ−ドップラ軸のセル)と同様のΔビームのセルを抽出し、次式の誤差電圧を算出する。
【数5】
【0023】
ΣとΔのビームパターンにおいて、予め取得した角度特性により、基準となる誤差電圧εrefと角度の関係をテーブル化しておき、εを観測し、テーブルを引用して角度を抽出すれば、測角値が得られる。AZ角、EL角について同様の処理を行うことで、両者の軸の測角を実施することができる(非特許文献3参照)。
【0024】
以上のように、第1の実施形態に係るレーダ装置によれば、PRI軸に対してFFT処理し、パルス圧縮したドップラ−レンジデータ(FRデータ)を時間をずらせてP回(P≧2)取得し、P個のFRデータよりオプティカルフロー図と振幅強度図を作成し、速度ベクトルと振幅強度による特徴量を算出し、所定のスレショルドを超える場合に、目標検出する。このように、ドップラ−レンジの振幅強度であるFRデータを用いて、各目標の複数反射点を利用して、オプティカルフロー図と振幅強度図を作成し、特徴量を抽出することにより、クラッタ等の不要環境下でCFAR等により検出できないような、RCSが小さい目標であっても、その目標を検出して距離・速度・角度を取得することができる。
【0025】
(第2の実施形態)
以下、
図5及び
図6を参照して、第2の実施形態に係るレーダ装置について説明する。
【0026】
図5は第2の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図、
図6はその処理の流れを示す概念図である。尚、
図5において
図1と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは重複する説明を省略する。
【0027】
図5に示すレーダ装置において、
図1に示した第1の実施形態との違いは、信号処理器3のオプティカルフロー処理部A18と特徴量抽出部A19との間に加算部A23を介在させたことにある。すなわち、この実施形態では、オプティカルフロー処理部A18において、FRデータ保存部A16に保存された複数のCPI信号によるFRデータ(
図6(a))を用いて、振幅強度図(
図6(b))とオプティカルフロー図(
図6(c))を作成した後、加算部A23により、Cell−gate内の振幅強度の加算値Amp-sum(n)(n=1〜N)(
図6(d))と、オプティカルフローの中で、前述のCell−gate内の速度ベクトルの加算ベクトルVel-sum(n)(n=1〜N)(
図6(e))を得る。このAmp-sumとVel-sumを特徴量として、目標検出部A20において、両者が各々の所定スレショルドを超える場合に目標を検出したものとする。
【0028】
以上のように、第2の実施形態によれば、特徴量として、振幅強度図の極値を中心に、所定のセル範囲の振幅強度の加算値と速度ベクトルの加算値の絶対値が、各々所定のスレショルドを超える場合に目標検出とする。すなわち、ドップラ−レンジの振幅強度であるFRデータを用いて、各目標の複数反射点を利用して、オプティカルフロー図と振幅強度図を作成し、振幅極値の周囲の速度ベクトルと振幅強度の加算値による特徴量を抽出する。これにより、クラッタ等の不要環境下でCFAR等により検出できないような、RCSが小さい目標であっても、その目標を検出して距離・速度・角度を取得することができる。
【0029】
(第3の実施形態)
第1の実施形態では、パルスヒット数が少ない場合や周波数帯域が狭くレンジ分解能が低い場合に、FRデータのセル数が少なく、オプティカルフローによる速度ベクトルが正しく算出できない場合も考えられる。第3の実施形態では、この対策として、FRデータのセル数を増加する方式を提案する。
【0030】
以下、
図7及び
図8を参照して、第3の実施形態に係るレーダ装置について説明する。
【0031】
図7は第3の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図、
図8はその処理の流れを示す概念図である。尚、
図7において
図1と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは重複する説明を省略する。
【0032】
本実施形態では、Σ信号、Δ信号それぞれの系列で、FFTy処理後に、FFTxy処理部A24,B18において、レンジ軸、ドップラ軸それぞれのフーリエ変換によって周波数領域の信号に変換し、ゼロ埋め部A25,B19において周波数軸上のゼロ埋めを施し、IFFTxy処理部A26,B20において、レンジ軸、ドップラ軸それぞれの逆フーリエ変換によって時間領域の信号に変換する。以下に定式化を行う。
まず、FRデータを
【数6】
【0033】
これを2次元IFFTして、参照信号の周波数軸の信号を得る。
【数7】
【0034】
このFR_allをFRデータ(
図8(a))として、第1の実施形態と同様の処理を行えば、
図8(b)に示すように、極値周囲で高分解能化されたセル数の多い状態で処理することができ、振幅強度とオプティカルフローの速度ベクトルの特徴量を抽出しやすくなって、目標検出の感度が向上する。
【0035】
このように、第3の実施形態によれば、FRデータを2次元FFTした後、2次元の軸にゼロ埋めし、再度2次元逆FFTしたFRデータに第1の実施形態または第2の実施形態の処理を行う。この場合、各目標の反射点数が少ない場合にも、周波数軸のゼロ埋め後、逆FFTすることにより、反射点数を増やすことができるので、振幅強度と速度ベクトルによる特徴量を効率よく抽出して、目標検出性能を向上させることができる。
【0036】
(第4の実施形態)
第3の実施形態では、周波数軸におけるゼロ埋めによりFRデータを高分解能化してセル数を増やす手法について述べた。ゼロ埋めの手法では、目標反射点の付近の反射点が増えるが、
図8(b)の極値周囲内の中央に反射点の間の空隙も増える場合があり、速度ベクトルが正しく算出できない可能性もある。そこで、第4の実施形態では、オプティカルフローによる速度ベクトルが、反射点が固まって多い場合に正しく算出しやすいことに鑑みて、反射点数を増やす手法を提案する。
【0037】
以下、
図9及び
図10を参照して、第4の実施形態に係るレーダ装置について説明する。
【0038】
図9は第4の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図、
図10はその処理の流れを示す概念図である。尚、
図9において
図7と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは重複する説明を省略する。
【0039】
本実施形態では、Σ信号、Δ信号それぞれの系列で、FFTxy処理(A24,B18)、ゼロ埋め(A25,B19)、IFFTxy処理(A26,B20)を施した後、ストレッチ処理部A27,B21にて反射点をストレッチしてFRデータ保存部A16,B16へ出力する。
【0040】
上記ストレッチ処理部A27,B21は、FRデータの振幅強度(
図10(a))において、所定のスレショルドを超える極値を抽出する(
図10(b))。その極値を中心に所定のゲート範囲の振幅強度を極大値と同一の値か、それに係数を乗算した値に設定する(
図10(c))。
【0041】
この極大値をストレッチしたFRデータを用いて、第3の実施形態のゼロ埋め処理を実施する。尚、第3の実施形態に限らず、第1または第2の実施形態の処理のみでもよい。
【0042】
このように、第4の実施形態によれば、FRデータか、またはFRデータを2次元FFT後、2次元の軸にゼロ埋めした後、2次元逆FFTしたFRデータより、所定のスレショルドを超える振幅極値を抽出し、極値の周囲のセルに極値の振幅値に所定の係数を乗算した振幅値に置き換えてストレッチした後に、第1乃至第3の実施形態のいずれかの処理を行うことで、各目標の反射点数が少ない場合にも、振幅極値の周囲のセル数をストレッチ処理により増やし、振幅強度と速度ベクトルによる特徴量を効率よく抽出することができるので、目標検出性能を向上させることができる。
【0043】
本実施形態は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…アンテナ、2…送受信器、21…送受信部、22…ビーム制御部、3…信号処理器、A11,B11…AD(Analog-Digital)変換部、A12,B12…レンジ軸フーリエ変換部(FFTx)、A13,B13…レンジ参照信号乗算部、A14,B14…逆フーリエ変換部(IFFTx)、A15,B15…PRI(Pulse Repetition Interval)軸フーリエ変換部(FFTy)、A16,B16…FRデータ保存部、A17…振幅強度算出部、A18…オプティカルフロー処理部、A19…特徴量抽出部、A20…目標検出部、B17…セル検出部、A21…測距・測速処理部、A22…測角処理部、A23…加算部、A24,B18…FFTxy処理部、A25,B19…ゼロ埋め部、A26,B20…IFFTxy処理部、A27,B21…ストレッチ処理部。