特許第6367147号(P6367147)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6367147並列データ処理方法、及びその方法を利用した並列データ処理回路、その並列データ処理回路を組み込んだオーディオミキサー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367147
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】並列データ処理方法、及びその方法を利用した並列データ処理回路、その並列データ処理回路を組み込んだオーディオミキサー
(51)【国際特許分類】
   G06F 9/38 20060101AFI20180723BHJP
   G06F 9/54 20060101ALI20180723BHJP
   G06F 15/78 20060101ALI20180723BHJP
   H03K 19/177 20060101ALI20180723BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20180723BHJP
   H03H 17/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   G06F9/38 310J
   G06F9/54 B
   G06F15/78 560
   H03K19/177 128
   H04R3/00
   H03H17/00 601H
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-105937(P2015-105937)
(22)【出願日】2015年5月26日
(65)【公開番号】特開2016-218930(P2016-218930A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年5月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】515141827
【氏名又は名称】株式会社ATL−SD
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】北條 育男
【審査官】 清木 泰
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−545174(JP,A)
【文献】 特開2012−168821(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/078428(WO,A1)
【文献】 特開2002−032233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 9/38
G06F 9/455− 9/54
G06F15/16 −15/177
G06F15/78
G06F15/80
H04R 3/00 − 3/14
H04N 5/91 − 5/956
H04S 1/00 − 7/00
H03H17/00 −17/08
H03K19/098−19/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチャンネルからのデータを複数のデータ処理系統で並列的に処理する並列データ処理方法であって、前記データ処理系統をそれぞれ小論理回路であるアクターを組み合わせて形成し、
前記データにルーティング先のアドレスを付与してメッセージとし、
前記アクターのそれぞれに前記メッセージを逐次蓄積するメッセージキューと、前記メッセージをルーティングするルータとを設け、
前記アクターは、前記メッセージキューから、逐次、前記メッセージを読出し処理を実行し、前記アドレスを次のルーティング先のアドレスに書き換え、
前記ルータは、前記メッセージを前記アドレスに基づいて次の処理を行うアクターにルーティングし、複数のチャンネルからのデータを並列的に処理することを特徴とする並列データの処理方法。
【請求項2】
前記複数のチャンネルからのデータは、音声信号であることを特徴とする請求項1に記載の並列データの処理方法。
【請求項3】
前記データ処理系統を形成する前記アクターのうち少なくとも一つは、バイクワッドフィルターを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の並列データの処理方法
【請求項4】
前記データ処理系統は、FPGAで形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の並列データの処理方法
【請求項5】
前記データ処理系統を形成する前記アクターとして、少なくとも、デコーダを含む前記アクターと、パラメトリックエコライザーを含む前記アクターと、ソフトボリュームを含む前記アクターと、エンコーダを含む前記アクターが存在することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の並列データの処理方法
【請求項6】
複数のチャンネルからのデータを複数のデータ処理系統で並列的に処理する並列データの処理回路であって、前記データ処理系統は小論理回路であるアクターの組み合わせからなり、前記アクターは、前記データにアドレスが付与されたメッセージを逐次蓄積するメッセージキューと、前記アドレスを参照し、処理後の前記メッセージをルーティングするルータとを備えたことを特徴とする並列データの処理回路
【請求項7】
前記複数のチャンネルからのデータは、音声信号であることを特徴とする請求項6に記載の並列データの処理回路
【請求項8】
前記データ処理系統を形成する前記アクターのうち少なくとも一つは、バイクワッドフィルターを含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の並列データの処理回路
【請求項9】
前記データ処理系統は、FPGAで形成されていることを特徴とする請求項6から8のいずれかに記載の並列データの処理回路
【請求項10】
前記データ処理系統を形成する前記アクターとして、少なくとも、デコーダを含む前記アクターと、パラメトリックエコライザーを含む前記アクターと、ソフトボリュームを含む前記アクターと、エンコーダを含む前記アクターが存在することを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の並列データの処理回路
【請求項11】
請求項6から10のいずれかに記載の並列データの処理回路を備えたオーディオミキサー
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル信号処理方法に関し、例えば、多数の入力信号(チャンネル信号)が処理及び合成され、様々な出力が生成されるオーディオミキサーに適用することができる。より具体的には、FPGA(Field Programmable Gate Array)を用いた並列データ処理方法、及びその方法を利用した並列データ処理回路、そして、その並列データ処理回路を組み込んだオーディオミキサーに関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオミキサーはライブコンサートや劇場における音楽の録音、音響の増幅及び拡声装置の編集などの用途において用いられるが、従来、オーディオミキサーにおけるデジタル信号処理は、専用のデジタル信号処理装置、例えばDSP(Digital Signal Processor)を用いて行われるのが一般的である。DSPで行われるデジタル信号の処理とは積和演算の実行であり、DSP が得意とするデジタル信号処理は、複数の入力デジタル信号の乗算、加算である。
【0003】
DSPはデジタル信号処理に特化した専用プロセッサーであり、命令シーケンスを超高速で処理することができる。このためDSPは、オーディオミキサーに汎用的に用いられており、48KHz〜192KHzのサンプリングレートにおいて、20KHzまでの音声信号を処理することができ、DSPを用いたオーディオミキサーが考案されている(特許文献1)。
【0004】
オーディオミキサーには、多数のマイク信号が入力され、それぞれの音声信号は加工、合成(ミックス)され、様々な音声信号として出力される。このような多数の入力信号が並列に入力されてくる場合の信号処理においては、いかに効率的に並列処理を行うかが最重要課題となる。
【0005】
しかし、DSPは多種多様なタスクの実行を可能とする自由度があるものの、単一のタスクを何度も実行することは、必ずしも得意でなく効率的ではない。またオーディオミキサーにおいては、少数のタスクを何度も繰り返し実行する必要があることから、DSPを用いてオーディオミキサーの音声信号処理を行うには、オーディオミキサーの入力数に応じた多数のDSPのアレイが必要となる。
【0006】
そのような多数のDSP構成は、複雑で相対的な多数の相互接続とを含むので、オーディオミキサーのコストが高くなる。また、大きなエネルギーの消費量となり、大量の熱を生成することになる。また、複雑な相互接続はそのシステムの信頼性の確保に多大な労力を必要とする。
【0007】
一方において、FPGAは使用者がプログラムを組むことで、使用者が自由にその要件に合うように論理回路を形成することができる集積回路であることから、FPGAで作りだされる論理回路は、使用者によってカスタム化することができる。
【0008】
このため、多数の入力信号(チャンネル信号)の処理や合成を行う論理回路を、FPGAに形成することができ、FPGAを用いたオーディオミキサーが考案されている(特許文献2)。
【0009】
図10に従来のFPGAを用いたデジタル信号処理のブロック図の一例を示す。図10において、並列に入力する複数の入力信号(入力データ)は複数のレジスター(Register)に一旦蓄積される。マルチプレクサ-(Multiplexer)は、各レジスターからの入力データを選択・統合し、論理回路(Signal Logic)、例えばオーディオミキサーの場合、バイクワッド・フィルター(Biquad Filter)に送る。論理回路は所定の処理を実行し出力側のレジスター(Register)にデータを出力する。このようなデジタル信号処理は、クロックタイミングに応じて適切にデータを受け渡す必要があり、その全体制御を行うのがコントロールロジック(Control Logic)である。
【0010】
こうした論理回路をFPGAに形成し音声信号処理を行う場合、入力信号(チャンネル信号)数が増大し、かつクロックが高速になると適切にデータを受け渡すための回路構成が急激に複雑化する。また、各データ処理回路をすべて制御するコントロールロジックの処理タイミングが極めて複雑化し、その設計、検証に多大な労力が必要となる。このため、FPGAを多数の入力のあるオーディオミキサーに適用することは極めて困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−278951
【特許文献2】特開2008−15869
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の課題は、多数の入力信号(多チャンネルの入力データ)を効率的に並行処理可能な並列データ処理方法を提供することにある。またその方法を利用した並列処理回路、並びにその並列処理回路を組み込んだオーディオミキサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、複数のチャンネルからのデータを複数のデータ処理系統で並列的に処理する並列データ処理方法であって、前記データ処理系統をそれぞれ小論理回路であるアクターを組み合わせて形成し、
前記データにルーティング先のアドレスを付与してメッセージとし、
前記アクターのそれぞれに前記メッセージを逐次蓄積するメッセージキューと、前記メッセージをルーティングするルータとを設け、
前記アクターは、前記メッセージキューから、逐次、前記メッセージを読出し処理を実行し、前記アドレスを次のルーティング先のアドレスに書き換え、
前記ルータは、前記メッセージを前記アドレスに基づいて次の処理を行うアクターにルーティングし、複数のチャンネルからのデータを並列的に処理することを特徴とする並列データの処理方法である。
【0014】
従来技術においては多数のチャネルからのデータを並列的に処理するには、コントロールロジック回路を設け、それにより全てのアクターの処理動作を制御する必要があった。しかし本発明によれば、各アクターにFIFO(First IN First Out)メモリであるメッセージキューとルータとが設けられている。各アクターはメッセージキューに入力するメッセージを逐次処理し、その処理が完了したら、そのメッセージのアドレスをルーティング先のアドレスに書き換え、そのメッセージを次の処理を行うアクターにルーティングする。このように本発明によれば、各データ処理系統を構成する各アクターが自律的にデータを処理する。このため、従来のようなコントロールロジック回路を必要とせずに、多チャンネルのデータを並列的に処理することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の並列データの処理方法であって、前記複数のチャンネルからのデータは、音声信号であることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の並列データの処理方法であって、処理系統を形成する前記アクターのうち少なくとも一つは、バイクワッドフィルターを含むことを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載の並列データの処理方法であって、処理系統は、FPGAで形成されていることを特徴とする。
【0018】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれかに記載の並列データの処理方法であって、前記データ処理系統を形成する前記アクターとして、少なくとも、デコーダを含む前記アクターと、パラメトリックエコライザーを含む前記アクターと、ソフトボリュームを含む前記アクターと、エンコーダを含む前記アクターが存在することを特徴とする
【0019】
請求項6に記載の発明は、複数のチャンネルからのデータを複数のデータ処理系統で並列的に処理する並列データの処理回路であって、前記データ処理系統は小論理回路であるアクターの組み合わせからなり、前記アクターは、前記データにアドレスが付与されたメッセージを逐次蓄積するメッセージキューと、前記アドレスを参照し、処理後の前記メッセージをルーティングするルータとを備えたことを特徴とする並列データの処理回路である。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の並列データの処理回路であって、前記複数のチャンネルからのデータは、音声信号であることを特徴とする。
【0021】
請求項8に記載の発明は、請求項6又は7に記載の並列データの処理回路であって、前記データ処理系統を形成する前記アクターのうち少なくとも一つは、バイクワッドフィルターを含むことを特徴とする
【0022】
請求項9に記載の発明は、請求項6から8のいずれかに記載の並列データの処理回路であって、前記データ処理系統は、FPGAで形成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項10に記載の発明は、請求項6から9のいずれかに記載の並列データの処理回路であって、前記データ処理系統を形成する前記アクターとして、少なくとも、デコーダを含む前記アクターと、パラメトリックエコライザーを含む前記アクターと、ソフトボリュームを含む前記アクターと、エンコーダを含む前記アクターが存在することを特徴とする。
【0024】
請求項11に記載の発明は、請求項6から10のいずれかに記載の並列データの処理回路を備えたオーディオミキサーである。
【発明の効果】
【0028】
上述したように本発明によれば、多数の入力信号(多チャンネルの入力データ)を効率的に並行処理可能な並列データ処理方法を提供することができる。またその方法を利用した並列処理回路、並びにその並列処理回路を組み込んだオーディオミキサーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】FPGAを用いたオーディオミキサー1のブロックを示した図である。
図2図1に示したFPGA11に形成される並列データ処理回路のデータ処理系統を示すブロック図である。
図3】並列データ処理回路11−1内で実行されるデータの処理経路を示した図である。
図4】本発明の一実施の形態である並列データ処理回路の構成を示した図である。
図5】アクターに入力するメッセージのデータ構造を示した図である。
図6】アクターの構成と、各アクター間のメッセージのルーティングを示した図である。
図7】一実施例であるオーディオミキサー2のブロック図である
図8】本発明の一実施例であるオーディオミキサー2における入力データの処理経路を示した図である。
図9】各アクターが書き換えるアドレス(経路情報)を示した図である。
図10】従来技術で多数の入力信号を並列的に処理するためのデータ処理回路のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。FPGA(Field Programmable Gate Array)は、複数の論理回路を含み、各論理回路間はプログラムにより相互接続することができる。このため単純な論理回路から、ミキサーで使われるバイクワッドフィルター(Biquad Filter)、ソフトボリューム(Soft Volume)、ディレイ(Delay)等の論理回路をプログラマブルに構成することができる。そこで本実施の形態ではオーディオミキサーに適用可能なFPGAを用いた並列データ処理回路について説明する。なお、本実施の形態においてはFPGAを用いた並列データ処理方法、並列データ処理回路について記載しているが、本発明はFPGAに限定されるものではなく、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路にも適用できる。
【0031】
本発明の一実施の形態について、以下、図面を参照にして説明するが、実施の形態の説明にあたり、オーディオミキサーにおけるデジタル信号処理(データ処理)の流れについて最初に説明する。図1にFPGAを用いたオーディオミキサー1のブロックを示す。ミキサー1は、アナログ音声信号(Lch、Rch)を標本化してデジタル信号に変換するAD10(Analog Digital Converter10)と、AD10からの出力信号であるI2S(Inter-IC Sound)信号を並列処理するFPGA11(Field Programmable Gate Allay11)、ボリューム13(Volume13)の命令によりUART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)信号を生成し、FPGA11に命令を出力するMPU14(Micro Processor Unit14)、そしてFPGA11からのI2S信号をアナログ音声信号に変換し出力するDA12(Digital Analog Converter12)とから構成されている。
【0032】
ボリューム13からの制御信号等は、MPU14を介してデジタル信号処理のパラメータとしてFPGA11に送られる。FPGA11はMPU14からの音声信号処理パラメータとして入力信号(制御データ)を処理する。
【0033】
図2は2系統の並列データ処理回路をFPGA11に形成したときのブロック図である。図2においては説明を簡略化するため、並列データ処理回路11−1は4チャンネル(Ch.1〜Ch.4)の入力を2系統4バンド(HI,HI・MID,LOW・MID,LOW)のPEQ(Parametric Equalizer)と、一つのソフトボリューム30(Soft Volume30)により形成している。図2において、PEQはPEQ20とPEQ21の2系統構成であり、4チャンネルの入力信号を2系統のPEQで並列処理する。第1系統であるPEQ20はHI・PEQ20−1、HIMID・PEQ20−2、LOWMID・PEQ20−2、LOW・PEQ20−4で構成されている。
【0034】
第2系統のPEQ21は、HI・PEQ21−1,HIMID・PEQ21−2、LOWMID・PEQ21−2、LOW・PEQ21−4で構成されている。なお、ソフトボリューム30はPEQ20とPEQ21とで共有している。
【0035】
ここで、AD変換されたデータは、例えばクロック周波数が96KHzのオーディオミキサーであれば、1/96000秒以内に4チャンネルの入力信号を並列データ処理回路11−1内で処理し出力信号として生成しなければならない。そのためには、図3に示すような並列処理を実行することになる。
【0036】
図3において横軸は時間であり、縦軸は時間軸に応じたデータ処理の内容を示している。AD10からのCh1の出力信号I2Sは、FPGA11内に形成されたI2Sデコーダ1(I2S Decoder1)によりデコードされた後、第1系統のPQE20であるバイクワッドフィルター20(Biquard IIS Filter 1)に送られる。バイクワッドフィルター20において、Ch1のデジタル信号はHI・PEQ20−1,HIMID・PEQ20−2,LOWMID・PEQ20−2,LOW・PEQ20−4の順で処理された後、ソフトボリューム30で音量調節され、FPGA11に形成されているI2Sエンコーダ1(I2S Encorder1)に送られる。
【0037】
次にCh2のI2S信号は、Ch1のデジタル信号が処理された後、I2Sデコーダ1でデコードされ、第2系統であるPEQ21のバイクワッドフィルター21(Biquard IIS Filter 2)に送られる。バイクワッドフィルター21において、Ch2のデジタル信号は、HI・PEQ21−1,HIMID・PEQ21−2,LOWMID・PEQ21−2,LOW・PEQ21−4と処理された後、ソフトボリューム30に送られ、Ch1のデジタル信号が処理された後、ソフトボリューム30で処理される。そしてCh1のデジタル信号がI2Sエンコーダ1(I2S Encorder1)で処理された後、I2Sエンコーダ1でエンコードされ出力される。
【0038】
次にCh3のI2S信号は、I2Sデコーダ2(I2S Encorder2)により処理された後、Ch1のデジタル信号がバイクワッドフィルター20で処理された後、バイクワッドフィルター20により処理される。そして、バイクワッドフィルター20での処理が終わると、Ch1とCh2のデジタル信号がソフトボリューム30で処理された後にソフトボリューム30で処理され、I2S2エンコーダ2に送られエンコードされ出力される。
【0039】
次にCh4のI2S信号は、Ch3のデジタル信号がI2Sデコーダ2でデコードされた後、Ch2のデジタル信号がバイクワッドフィルター21で処理されるのを待って、バイクワッドフィルター21で処理される。そして、Ch3のデジタル信号の処理が完了した後、ソフトボリューム30で処理され、その後Ch3がI2Sエンコーダ2で処理された後、I2Sエンコーダ2でエンコードされ出力される。
【0040】
以上説明したように、4チャンネルの信号を2系統のPEQにより、所定の時間内で処理するには、デコーダ、バイクワッドフィルター、ソフトボリューム、エンコーダにおいてデジタル信号を処理するタイミングや、動作するパラメータを詳細に決定する必要がある。これが32チャンネル、64チャンネルと増えるに従い、論理回路やバイクワットフィルターの系統数が増加する。
【0041】
そうした多数の入力信号を図8に示すような従来技術で実行するには、全てのデジタル信号(データ)を並列処理できるように処理タイミングに沿って個別のデジタル信号処理の入出力を適切に制御する必要がある。そのためには、巨大なコントロールロジック(Control Logic)の構成が必要となる。例えば、デジタル信号の処理タイミングとして、I2Sデコードは、Ch1のデータをロードし、それが終了したらCh2のデータをラッチして、その間にバイククワッドフィルターはCh3のデータをラッチしてデータ処理を行う等である。
【0042】
こうした複雑なシーケンスを64チャンネルについてつくらなければならず、かつ、それらの全ての処理を、例えば1/96000秒内にキチンと完了できるようにしなければならない。これは極めて複雑な作業であり、多大な時間や労力が必要となる。また、それを検証する上でも多大な時間と労力が必要であり、その信頼性の確保は極めて難しい。このため192KHzのオーディオミキサーは現在のところ存在しない。
【0043】
これに対して本発明によれば、並列データ処理回路を制御するコントロールロジック回路や複雑なタイムシェアリング、そして処理シーケンスが不要である。このため、従来に比較し短時間、小労力で並列的にデータ処理可能な並列データ処理回路をつくることができる。以下、本発明の一実施の形態について説明する。
【0044】
本発明の特徴とするところは、例えばFPGAを用いた並列データ処理回路において、それを構成する小論理回路(以下、アクター(Actor)と称する)に入力するメッセージ(デジタル信号)を蓄積するメッセージキュー(Message Queue)と、そのアクターにおいてデータ処理が完了した後、その処理データをルーティングするルータ(Router)を設けたところにある。またメッセージにルーティング先のアドレス(Address)をつけたところにある。
【0045】
図4は、本発明の一実施の形態である並列データ処理回路11−2の構成を示した図である。本発明の特徴とするところは、個々の小論理回路である信号処理モジュール(アクター)、I2Sデコーダ10−1(I2S Decoder10-1)、バイクワッドフィルター20(Biquad Filter20)、ソフトボリューム30(Soft Volume30)、I2Sエンコーダ12−1(I2S Encoder12-1)の間に、図5に示すメッセージを蓄積するメッセージキュー(バッファ)を設け、到着したメッセージを順次処理する形で、時間軸上の処理シーケンスが自動的に定まるようしているところにある。
【0046】
図5は、アクターに入力するメッセージのデータ構造を示した図である。図5に示すようにメッセージ50には、処理後のメッセージをルーティングする先のアドレスと、データとしての音声信号とが含まれている。アドレスは例えば64チャンネルの入力であれば6ビットに経路情報用の幾つかのビットを追加したものとなり、音声データは標本化により決まるビット数となる。
【0047】
アクターはメッセージ50を処理すると、メッセージのアドレス51を参照し、ルータはアドレス51により次に処理を行うアクターに、処理後のメッセージを適切にルーティングする。このように各系統において、並行動作する各アクターが自律的にメッセージを処理する事で、求められたタイミング内、例えばバイクワッドフィルター20においては1/192000秒以内で必要な計算処理を行えるような設計を可能としている。
【0048】
全体の処理に要する時間(全体処理時間)は、全てのアクターのデータ(デジタル信号)処理に必要なクロック周波数と、全ての信号経路に存在するメッセージキューおよびルータでの処理時間の総計となる。信号経路によって必要な総クロック周波数が異なるため、必要なクロック周波数が最も大きい信号経路がボトルネックとなり、その経路が全体の処理時間(必要クロック周波数)となる。
【0049】
図6は、アクターの構成と、各アクター間のメッセージのルーティングを示した図である。図6において、アクターであるAD10に到着したメッセージ50は、逐次メッセージキューに蓄積され、論理回路(Signal Logic)でI2Sデコードされた後、メッセージのアドレスに従いルータにより適切にルーティングされる。例えば、メッセージ50のアドレスがPEQ20であれば、HI・PED20−1にルーティングされる。アクターであるPEQ20は、アドレスに従い、4回の処理を実行した後、次のルーティング先をアドレスに書き込み、ルータはそのアドレスに従って処理後のメッセージをルーティングする。
【0050】
AD10において、メッセージ50のアドレスがPEQ21であれば、HI・PEQ21−1にルーティングされる。アクターであるPEQ21は、アドレスに従い、4回の処理を実行した後、次のルーティング先をアドレスに書き込み、ルータはそのアドレスに従って処理後のメッセージをルーティングする。
【0051】
このように本方式ではアクター間で受け渡されるメッセージに、ルーティング先のアドレスを付加し、均一に扱えるようにした。また、処理タイミングを調整出来るように、各アクターにメッセージキューとルータとを設けた。これにより、従来技術においては必要であった並列処理タイミングに沿って個別のデジタル信号処理の入出力を適切に制御する巨大なコントロールロジック(Control Logic)の構成が不必要となり、全体の構造を単純化することができる。
【実施例】
【0052】
図7は、本発明をオーディオミキサー2に適用した場合のブロック図である。このオーディオミキサー2は、入力系統としてモノラル入力が12Ch、ステレオ入力が2Ch×2系統の合計16Chの構成である。なお、実際にはStereo out(L,R)/Monitor out(L,R)/Group out(1-4)/AUX out(1-8)に対応するBUS INが付くので、左側の入力(ADCまわり)が倍の32Ch分必要となるが図が煩雑になるので、図7においては省略してある。
【0053】
図7において入力系にはAD10(ADC01〜ADC08)後のデジタル信号に対して、FPGA11には4バンド(HI・PEQ,HI・MID・PEQ,LOW・MID,LOW)のPEQが8系統(1系統で2Chを処理)とゲート(GATE)、コンプレッサ(COMP)、ディレイ(DELAY)が実装されている。MPU14は制御信号(Control signal)をUARTに変換しFPGA11に送る。
【0054】
FPGA11において、これらの処理が終了した後、DA12(DAC01〜DAC08)でデジタル・アナログ変換され、音量調整用のフェーダ(制御信号としてUART経由でFPGAに伝達される)やパン等もFPGA内にアクターとして形成することが好ましい。これらの処理が終了した後、DA12(DAC01〜DAC08)でデジタル・アナログ変換され、ステレオアウト(Stereo out L, Stereo out R )に送られる。
【0055】
図8はオーディオミキサー2における入力データ(Ch1からCh4)が2系統のデータ処理回路により処理される場合の流れを示した図である。Ch5からCh8、Ch9から12、Ch13からCh16についても、それぞれ2系統のデータ処理回路により同様に処理される。
【0056】
図9は、入力データ(Ch1からCh4)を2系統のデータ処理回路で処理する際の各アクター(I2S Decoder,Biquad Filter,Soft Volume,I2S Encoder)が書き換えるアドレス(経路情報)を示した図である。
【0057】
図8において、丸数字はアクター間の経路を識別するための経路番号を示す。I2S Decoder01は、Ch1のL信号、Ch2のR信号を受信しAD変換後、Ch1のメッセージのアドレスにルーティング先としてBiquad Filter01を書き込む。また、Ch2のメッセージのアドレスにルーティング先としてBiquad Filter01を書き込む。I2S Decoder01は、Ch1のL信号、Ch2のR信号を受信しAD変換後、Ch1のメッセージのアドレスにルーティング先として経路番号1を書き込む。また、Ch2のメッセージのアドレスにルーティング先として経路番号2を書き込む。I2S Decoder01のルータは、それらのアドレスに従い、メッセージをBiquad Filter01にルーティングし、それらのメッセージはBiquad Filter01のメッセージキューに蓄積される。
【0058】
I2S Decoder02は、Ch3のL信号、Ch4のR信号を受信しAD変換後、Ch3のメッセージのアドレスにルーティング先として経路番号11を書き込む。また、Ch4のメッセージのアドレスにルーティング先として経路番号12を書き込む。I2S Decoder02のルータは、それらのアドレスに従い、メッセージをBiquad Filter01にルーティングし、それらのメッセージはBiquad Filter01のメッセージキューに蓄積される。
【0059】
Biquad Filter01は、メッセージキューに蓄積されているメッセージを逐次読出し、Ch1のメッセージをHI・PEQで処理した後、そのアドレスに経路番号3を書き込み、再度、Biquad Filter01にルーティングされ、HI・MID・PEQの処理後、次のルーティング先である経路番号4をアドレスに書き込む。Biquad Filter01のルータは、アドレスに基づきBiquad Filter02にルーティングする。
【0060】
Biquad Filter02はメッセージキューからそのメッセージを読出し、LOW・MID・PEQ、LOW・PEQでそのメッセージを処理した後、そのアドレスに経路番号5を書き込み、Biquad Filter02のルータは、そのアドレスに従い、そのメッセージをSoft Volumeにルーティングする。
【0061】
以下同様にして、各アクターは自身のメッセージキューに蓄積されたメッセージを逐次読出し処理し、次にルーティングするアクターのアドレスを書き込む。メッセージ50はルータによりアドレス51に従って、次のアクターへとルーティングされる。
【0062】
図8、9において、メッセージ50がI2S Decoder からBiquad Filterのメッセージキュー入ってから、I2S Encoderに到着するまでの最大経路長(最大サイクル)は、5サイクル(Biquad01)+5サイクル(Biquad02)+1サイクル(Soft volume)の計11サイクルである。
【0063】
これは、最大経路長が各アクターのメッセージキューに蓄積されるメッセージ数(入力多重度)にループバック分の回数を掛けたものに1を加算し、各アクターの固定的なルーティング時間、バッファリング時間を加味した処理サイクル(クロック周波数)を経路別に加算することで求められるからである。
すなわちこの実施例においてはBiquad01 のメッセージキューには4つのメッセージが蓄積され(入力多重度=4)、ループバック回数が1であるから五サイクルである。Biquad02についても同様にして5サイクルとなる。Soft Volumeについては、そのメッセージキューには4つのメッセージが蓄積され(入力多重度4)、ループバックは0だから1サイクルとなり、計11サイクルとなる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、多数の入力信号(チャンネル信号)を効率的に並行処理可能な並列処理回路、並びにその並列処理回路を組み込んだオーディオミキサーを製造することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 オーディオミキサー
10 AD(Analog Digital Converter)
11 FPGA(Field Programmable Gate Allay11)
12 DA(Digital Analog Converter)
13 ボリューム
14 MPU(Micro Processor Unit)
20 21 PEQ(Parametric Equalizer)
50 メッセージ
51 アドレス
52 データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10