(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367182
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】量子クラスタを使用する水流の量の検出
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20180723BHJP
G01F 1/00 20060101ALI20180723BHJP
C02F 1/00 20060101ALI20180723BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
G01N21/78 Z
G01F1/00 J
C02F1/00 V
C02F1/28 F
【請求項の数】22
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-506324(P2015-506324)
(86)(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公表番号】特表2015-525337(P2015-525337A)
(43)【公表日】2015年9月3日
(86)【国際出願番号】IB2013001244
(87)【国際公開番号】WO2013156870
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年4月15日
(31)【優先権主張番号】1521/CHE/2012
(32)【優先日】2012年4月17日
(33)【優先権主張国】IN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512312381
【氏名又は名称】インディアン インスティテュート オブ テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】プラディープ タラッピル
(72)【発明者】
【氏名】アンナーマライ リーラバティ
(72)【発明者】
【氏名】シャンカル モハン ウダヤ
(72)【発明者】
【氏名】アムリタ チャウダーリー
(72)【発明者】
【氏名】アンシュップ
(72)【発明者】
【氏名】ラオ サム ウダヤバースカラ
【審査官】
吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/151725(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/028964(WO,A1)
【文献】
特表2014−509938(JP,A)
【文献】
特表2014−513198(JP,A)
【文献】
特表2011−530699(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/042388(WO,A1)
【文献】
特開平06−182332(JP,A)
【文献】
特開昭52−068868(JP,A)
【文献】
特開昭61−128142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−74
C02F 1/00
C02F 1/28
G01F 1/00
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染された水流の量を検出するための方法であって、
ある部位にセンサを提供する工程と、
前記部位に汚染された水を通す工程と、
光の中で前記センサの色を観測する工程と
を含み、
前記センサが、有機テンプレート化ナノメタルオキシ水酸化物内に埋め込まれた量子クラスタを有し、前記有機テンプレート化ナノメタルオキシ水酸化物内への埋め込みが、前記汚染された水に存在するイオンから量子クラスタを保護し、
第1の色から第2の色への前記色の変化は、特定量の汚染された水が前記部位を通過したことを示すことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記光が、可視光または紫外光の1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機テンプレート化ナノメタルオキシ水酸化物が、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造(OTBN)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記量子クラスタが、銀量子クラスタである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記銀量子クラスタが、ゲル状態のOTBNに複数の銀イオンを含浸させることによってOTBN内に埋め込まれ、前記銀イオンが、還元剤の使用および表面保護剤による保護によってゼロ価の状態に還元されている、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
銀量子クラスタは、外部で調製された銀量子クラスタをゲル状態のOTBNと接触させることによってOTBN内に埋め込まれる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
銀量子クラスタは、外部で調製された銀量子クラスタを固体状態のOTBNと接触させることによってOTBN内に埋め込まれる、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
銀イオンまたは銀量子クラスタの1つを、OTBNに一滴ずつ添加する工程を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
約30分から約12時間までの間のOTBN内への銀量子クラスタの浸漬を更に含む、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記有機テンプレートが、キトサン、バナナシルクおよびセルロースの少なくとも1つから調製される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記還元剤が、水素化ホウ素ナトリウムである、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
銀量子クラスタの調製のために使用される銀前駆体を更に含み、前記銀前駆体が、硝酸銀、フッ化銀、酢酸銀、硫酸銀および亜硝酸銀の少なくとも1つでできている、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
OTBNに対する銀量子クラスタの質量比が、約0.01%〜約10%である、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
OTBNに対する銀量子クラスタの質量比が、約0.01%〜約5%である、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
前記還元剤の濃度が、約0.005M〜約1Mの範囲である、請求項5に記載の方法。
【請求項16】
量子クラスタは、銀、金、銅、鉄、ニッケル、白金およびパラジウムの少なくとも1つに基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記ナノメタルが、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、ランタン、セリウムおよびジルコニウムの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
重力送りの浄水デバイスであって、
水をフィルタにかけるように構成された粒子フィルタと、
前記粒子フィルタ内を水が移動することを可能にする第1の入口と、
前記粒子フィルタから前記水を出すように構成された第1の出口と、
前記粒子フィルタから前記水を受け取るように構成された水流計と
を備え、
前記水流計が、前記水流計の内側に存在するセンサと、前記水が流れているときの前記センサの色の変化を観測することを可能にする透明ケースとを備え、
前記センサが、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造(OTBN)内に埋め込まれた銀量子クラスタを有し、前記OTBN内への銀量子クラスタの埋め込みが、水中に存在するイオンから銀量子クラスタを保護し、
第1の色から第2の色への前記色の変化が、特定量の汚染された水が前記水流計を通過したことを示すことを特徴とする、浄水デバイス。
【請求項19】
水流計であって、
前記水流計の内側に水を流すための第2の入口と、
前記水流計の外側に水を流すための第2の出口と、
前記水流計の内側に存在するセンサと、
前記水が流れているときの前記センサの色を観測することを可能にする透明ケースとを備え、
前記センサが、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造(OTBN)内に埋め込まれた銀量子クラスタを有し、前記OTBN内への銀量子クラスタの埋め込みが、汚染された水に存在するイオンから銀量子クラスタを保護し、
第1の色から第2の色への前記色の変化が、特定量の汚染された水が前記水流計を通過したことを示すことを特徴とする、水流計。
【請求項20】
前記OTBNが、複数の微粒子の形態にある、請求項19に記載の水流計。
【請求項21】
前記複数の微粒子の粒子サイズが、約0.3mm〜約5mmである、請求項19に記載の水流計。
【請求項22】
前記複数の微粒子の粒子サイズが、約0.3mm〜約1mmである、請求項19に記載の水流計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造(organic−templated−boehmite−nanoarchitecture)(OTBN)内に埋め込まれた銀量子クラスタの調製と、浄水デバイスを通過した水の量を評価するための可視光またはUV光における色変化センサとしてのそれの使用と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
安全で値段が手頃な飲料水を提供する目的は、世界的規模の任務であり、それは、国際連合ミレニアム開発目標2015、国際連合総会決議(64/292および65/154)ならびにIndian Constitutionのarticle47に雄弁に明確に示されている。これに対する主な貢献は、使用時に値段が手頃で安全な飲料水を提供することによって行われ得、それは、環境を意識した技術の非利用可能性に起因して今までのところ大きく制限されている。
【0003】
過去数年間、さまざまな調査グループが、浄水のための新規材料の開発に取り組んでいる。殺虫剤などの汚染物質の広範囲を除去する値段が手頃で全てを含んだ浄水器は、インド国特許200767および米国特許7968493によって開示されており、微生物の除去については、インド国特許20070608およびインド国特許出願947/CHE/2011や4300/CHE/2011によって開示されており、フッ化物の除去については、インド国特許出願2089/CHE/2009、1529/CHE/2010や4062/CHE/2011によって開示されており、重金属の除去については、インド国特許出願169/CHE/2009、2433/CHE/2010や2563/CHE/2010によって開示されている。浄水デバイスは、インド国特許出願2892/CHE/2010および1522/CHE/2011に更に説明される。
【0004】
浄水器の重要な態様は、浄化器の規定された寿命全体を通して良質の出力水の供給を確保することである。通常、消費者が浄水器を通過した水の量を記録することはかなり困難である。冷蔵庫、洗濯機などのような他の消費財とは異なり、浄水器は、それの性能が著しく下がっている可能性があるものの、依然として機能し続き得る。出力水の質は、消費者の健康に直接的に関わる。それ故、出力水の質についての妥当な検査を確保することが必要である。
【0005】
先行技術から明らかであろうように、出力水の質についてのそのような検査は、典型的に、通過した水の量を測定する流量計を使用して実施される。現場における実際の水質測定の欠如のために、出力水の質のための防御が第一線である。しかしながら、周知であろうように、インドにわたる水質は、浄水デバイスの性能もまた変動することに起因して、著しく変動する。それ故、入力水の質に加えて通過した水の量の同時測定のような防御といった第2線を有することが重要である。入力水の質に依存して、水の量の測定は、浄水デバイスが消耗されたかどうかを示すべきである。これは、この出願に明確に示された発明の重要な前提である。
【0006】
貴金属の量子クラスタは、電子のフェルミ波長にほぼ等しい、コア寸法が1nmよりも少ない新たな材料の部類である(銀の場合、約0.5nm、M.A.H.Muhammed、T.Pradeep、in Advanced fluorescence reporters in chemistry and biology II:Molecular constructions、polymers and nanoparticles、Alexander P.Demchenko(ed.)、2010、Springer、Heidelberg)。これらは、ナノ粒子とは明確に異なる。それらにおいて、帯域構造は離散的エネルギー準位に割り込み、それらは、電子構造において非常に高い閉じ込めを有し、それらは、ルミネッセンスなどの分子特性を呈し、通常、ナノ粒子で見付けられるプラズモン共鳴は無い。これらの特性に起因して、量子クラスタは、光記憶装置、生体標識、触媒作用、センサ、磁気作用、光吸収同調性などのいくつかの用途において新たな有用性を有する。
【0007】
金属イオンに対するクラスタの感度は、そのグループによって報告されている(Reactivity of Au
25clusters with Au
3+、M.A.Habeeb Muhammed、T.Pradeep、Chem.Phys.Lett.、2007、449、186−190)。蛍光クラスタは、蛍光ターンオン機構による池の水や土などの環境サンプルにおける重金属イオンのための感度のよい簡単なプローブとして使用される(G.−Y.Lan、C.−C.Huang、H.−T.Chang、Chem.Commun.、2010、46、1257−1259)。励起および発光波長の同調性を提供する高い2光子励起断面を伴う新たな部類の水溶性銀クラスタは、高感度の生体標識として使用され得る(S.A.Patel、C.I.Richards、J.−C.Hsiang、R.M.Dickson、J.Am.Chem.Soc、2008、130、11602−11603)。DNAテンプレートを変動することによって蛍光発光波長について同調され得るDNA配列テンプレート化銀クラスタが合成されており、有用な生体用途を含む(J.Sharma、H.−C.Yeh、H.Yoo、James H.Werner、J.S.Martinez、Chem.Commun.、2010、46、3280−3282)。水溶性蛍光銀クラスタの特性は、異なる合成経路およびそれらの安定化ポリマー配位子を採用することによって変動され得る(H.Xu、K.S.Suslick、Adv.Mater.、2010、22、1078−1082)。水溶性Ag−チオフラビンTナノクラスタは、生体外と生体内の両方で極めて感度のよい生物検定の追跡における使用について実証されている(N.Makarava、A.Parfenov、l.V.Baskakov、Biophys.J.、2005、89、572−580)。重要な生物検体、システインは、特定の蛍光消光機構を伴うポリ(メタクリル酸)テンプレート化銀クラスタによって低濃度で検知され得る(L.Shang、S.Dong、Biosens.Bioelectron、2009、24、1569−1573)。量子光電子論理操作は、室温における個別の銀ナノクラスタのエレクトロルミネッセンスを用いて作り出され得る(T.−H.Lee、J.I.Gonzalez、J.Zheng、R.M.Dickson、Acc.Chem.Res.、2005、38、534−541)。DNAを包み込んだAgナノクラスタは、近赤外において高い蛍光を呈し、単一分子の特定の集群特徴を可能にする(T.Vosch、Y.Antoku、J.−C.Hsiang、C.I.Richards、J.I.Gonzalez、R.M.Dickson、PNAS、2007、104、12616−12621)。金属酸化物担持銀量子クラスタは、触媒として使用される(A.Leelavathi、T.U.B.Rao、T.Pradeep、Nanoscale Res.Lett、2011、6、123−132)。担持銀クラスタによるカルボニル化合物に対するアルコールの脱水素もまた、報告されている(K.Shimizu、K.Sugino、K.Sawabe、A.Satsuma、Chem.Eur.J.2009、15、2341−2351)。アルミナ担持銀クラスタは、高い選択性でのアルコールとアミンからの直接アミド合成のために使用されている(K.Shimizu、K.Ohshima、A.Satsuma、Chem.Eur.J.2009、15、9977−9980)。ポリ(メタクリル酸)安定化銀ナノクラスタは、分子センシングに有用なソルバトクロミックおよびソルバト−フルオロクロミック(すなわち、吸収および発光特性)反応があることによって環境に反応する(I.Diez、M.Pusa、S.Kulmala、H.Jiang、A.Walther、A.S.Goldmann、A.H.E.Muller、O.Ikkala、R.H.A.Ras、Angew.Chem.Int.Ed.2009、48、2122−2125)。
【0008】
音響化学方法によって調製されたポリ(メタクリル酸)安定化銀ナノクラスタは、バイオイメージング、化学およびバイオセンシング、単一分子研究、ならびに場合によっては触媒作用のために使用され得る(H.Xu、K.S.Suslick、ACS Nano、2010、4、3209−3214)。サブナノメートルクラスタは、単一分子についての真の化学情報を識別するためのラマン標識として使用される(L.P.−Capadona、J.Zheng、J.I.Gonzalez、T.−H.Lee、S.A.Patel、R.M.Dickson、Phys.Rev.Lett.、2005、94、058301)。マイクロエマルジョン法によって合成された銀クラスタは、常磁性挙動を示す(A.L.−Suarez、J.Rivas、C.F.R.−Abreu、M.J.Rodriguez、E.Pastor、A.H.−Creus、S.B.Oseroff、M.A.L.−Quintela、Angew.Chem.Int.Ed.、2007、46、8823−8827)。水溶性蛍光銀クラスタはまた、金属イオンセンシングのために使用されている(K.V.Mrudula、T.U.B.Rao、T.Pradeep、J.Mater.Chem.、2009、19、4335−4342;B.Adhikari、A.Banerjee、Chem.Mater.、2010、22、4365)。
【0009】
銀量子クラスタはまた、さまざまな観点、すなわち、合成(さまざまな種類の分子クラスタ)、特性付けおよび有用性(センシングや触媒作用)から研究されている。金属イオンセンシングやセルイメージングなどのいくつかの他の用途は、金クラスタでも同様に行われた。銀クラスタについての代表的なリストは、以下のように与えられる。
【0010】
合成
(i)Ag
7Au
6:A13 atom alloy quantum cluster、T.U.B.Rao、Y.Sun、N.Goswami、S.K.Pal、K.Balasubramanian、T.Pradeep、Angew.Chem.Int.Ed.、2012、51、2155−2159
(ii)Conversion of double layer charge−stabilized Ag@citrate colloids to thiol passivated luminescent quantum clusters、L.Dhanalakshmi、T.U.B.Rao、T.Pradeep、Chem.Commun.、2012、48、859−861
(iii)A fifteen atom silver cluster confined in bovine serum albumin、A.Mathew、P.R.Sajanlal、T.Pradeep、J.Mater.Chem.、2011、21、11205−11212
(iv)Ag
9quantum cluster through a solid state route、T.U.B.Rao、B.Nataraju、T.Pradeep、J.Am.Chem.Soc.、 2010、132、16304−16307
(v)Luminescent Ag
7and Ag
8Clusters by interfacial synthesis、T.U.B.Rao、T.Pradeep、Angew.Chem.Int.Ed.、2010、49、3925−3929
【0011】
特性付け
(i)First principle studies of two luminescent molecular quantum clusters of silver、Ag
7(H
2MSA)
7and Ag
8(H
2MSA)
8based on experimental fluorescence spectra、Y.Sun、K.Balasubramanian、T.U.B.Rao、T.Pradeep、J.Phys.Chem、C、 2011、115、42、20380−20387
【0012】
有用性
(i)Supported quantum clusters of silver as enhanced catalysts for reduction、A.Leelavathi、T.U.B.Rao、T.Pradeep、Nanoscale Research Letters、 2011、6、123−132
(ii)Investigation into the reactivity of unsupported and supported Ag
7and Ag
8clusters with toxic metal ions、M.S.Bootharaju、T.Pradeep、Langmuir、 2011、27、8134−8143
(iii)Luminescent sub−nanometer clusters for metal ion sensing:a new direction in nanosensors、I.Chakraborty、T.U.B.Rao、T.Pradeep、J.Haz.Mater.、2012、211−212、396−403
【0013】
きれいで値段が手頃な飲料水を大衆に提供する重要な目的は、使用時に純水の供給を確保するためである。きれいな飲料水の消費を確保することは、きれいな水が認可された要素であるという、基本的な生存権の現実化を容易にするであろう。これはまた、国際連合ミレニアム開発目標2015の重要な要素である。
【0014】
使用時に良質の飲料水を確保するために、技術的に2つの可能なアプローチがある。第1は、飲料水の汚染物質、特に、微生物の微量濃度の検出のための値段が手頃なセンサを開発することである。このアプローチは、世界中にわたるさまざまな調査研究所で依然として開発中である。第2は、既知の寿命を有する厳しく試験された浄水器と流量計を統合することである。流量計は、浄水器の既知の寿命が過ぎたときをユーザに知らせることになり、カートリッジなどの消耗品は交換を必要とする。実際、第1のアプローチは、より信頼できるが、技術は依然として開発中であるので、信頼できる解決策が準備できるまで流量計に注目するのは賢明である。
【0015】
なお、重力送りの貯蔵浄水器は、高い圧力(P<0.5psi)の利用不能性に起因して典型的な流量計と動作できない。そのような場合において、少数のアプローチが、通過した水の量の検出について報告されている。
【0016】
WO2011/013142においてAhmad et al.は、水にやや溶けにくい塩でできたタブレットと共に機械的デバイスの使用を報告している。意図は、予め決定した量の水の通過後にタブレットをゆっくりと溶解させることにある。タブレットが一旦溶解されると、液体の流れを阻止する機械的作用が始められる。
【0017】
別の試みは、WO2007/144256においてJambekar et al.によって報告されており、使用された殺生剤は、水にやや溶けにくく、それの溶解後、機械的作用は、水流の閉鎖を始める。
【0018】
米国特許番号5458766においてEhara et al.は、フィルタの寿命の決定のためにLEDと共にバッテリを使用している。米国特許番号7249524においてWilliams et al.は、カートリッジを通過する水の流れや量を決定するためのセンサとしてインペラデバイスを使用している。米国特許番号6585885においてLarkner et al.は、水の量を正確に示すために電子制御部と結合されたセンシング素子を含む浄水システムを報告している。米国特許番号4918426においてButts et al.は、フィルタにかけられた流体の総量を測定するために可動部を有さない流量計から成る直列フィルタを報告している。米国特許7107838においてChai et al.は、分配された水の量を検知するための電極対から成る水フィルタを報告している。米国特許番号6613236においてGuess et al.は、フィルタを通過した水の量を示すために三色LED発光を使用している。
【0019】
この発明は、通常、飲料水において見付けられる塩との連続的な相互作用後に色の変化を受ける新規な組成物の使用によって、浄水デバイスを通過した水の量の検出を報告する。イオン性塩との相互作用後のナノ材料、特に、貴金属ナノ粒子における色変化の態様は、よく研究されている。先行技術からの結論は、ナノ粒子が、塩の軽濃度への露出後に即時の凝集を経ることである。これは、対イオンとの相互作用後の金属ナノ粒子の表面エネルギーの低減に起因する。通常、金属ナノ粒子、特に銀の凝集は、100ppm以上の塩濃度でほぼ瞬時に起こる。
【0020】
上述に鑑みて、上記問題および先行技術の方法や構成と関連付けられた他の欠点に取り組む必要性が存在する。これらの必要性および他の必要性は、本開示に説明される方法やデバイスによって満たされる。
【発明の概要】
【0021】
発明の(複数の)目的に従って、本明細書に具体化され広く説明されるように、この開示は、一態様では、浄水に関する。詳細には、開示は、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造(OTBN)内に埋め込まれた銀量子クラスタの調製と、浄水デバイスを通過した水の量を評価するための可視光またはUV光における色変化センサとしてのそれの使用と、に関する。
【0022】
本発明の目的は、飲料水に存在する共通イオンの分離から銀量子クラスタを保護するためにOTBNマトリックスにおいて銀クラスタを合成することである。
【0023】
本発明の別の目的は、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造(OTBN)内に埋め込まれた銀量子クラスタを調製するための方法を提供することである。
【0024】
発明の更に別の目的は、浄水器の寿命を検出するようにカートリッジを通過した水の量のための低コストの可視センサを考案することである。
【0025】
本発明の更に別の目的は、流れている水の量を検出するためにOTBN内に埋め込まれた銀量子クラスタを有する水流計を備える浄水デバイスを提供することである。
【0026】
発明の更に別の目的は、浄水デバイスの寿命のインジケータとして、通過した水の量で吸収された可視光における色の変化を利用することである。
【0027】
発明の更に別の目的は、浄水デバイスの寿命のインジケータとして、通過した水の量で吸収されたUV光におけるルミネッセンスの変化を利用することである。
【0028】
一態様では、本開示は、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造内に埋め込まれた銀量子クラスタ(AgQC−OTBN)を使用して水流の量を検出するための方法を提供する。OTBNマトリックスは、銀量子クラスタを保護するために使用される。方法は、ある光における銀量子クラスタの色を観測することを含む。第1の色から第2の色への銀量子クラスタの色の変化は、特定量の汚染された水が通過したことを示す。
【0029】
本開示の別の態様では、水流計が設けられている。水流計は、それぞれ、流量計の中や外への水の流れのための水入口および水出口と、センサと、透明ケースと、を含む。センサは、流量計の内側に存在する。センサは、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造(OTBN)内に埋め込まれた銀量子クラスタを有する。OTBN内への銀量子クラスタの埋め込みは、汚染された水に存在するイオンの分離から銀量子クラスタを保護する。透明ケースは、水が流れているときにセンサの色を観測することを可能にする。第1の色から第2の色へのセンサの色の変化は、特定量の汚染された水が水流計を通過したことを示す。
【0030】
この明細書に組み込まれ、この明細書の一部を構成する添付の図面は、いくつかの態様を例示し、その記載と共に発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明のある態様に従って、浄水デバイスの斜視図を示す。
【
図2】本発明のある態様に従って、水流の量を検出する方法を示すフローチャートを示す。
【
図3】本発明のある態様に従って、UVランプの下でOTBN内に埋め込まれグルタチオンで保護されたAgQC(調製は実施例1に詳述)のルミネッセンスを示す。
【
図4】OTBN内に埋め込まれたAgQCを通る合成チャレンジ(challenge)水の通過の間に観察された色変化を示す(第1の列:可視光におけるディスクの写真、第2の列:UV光におけるディスクの写真)。可視光におけるここで述べた色変化は、0L:ピンク、50L:薄い茶色、100L:濃い茶色、150L:濃い黄色、200L:黄緑色、250L:黒色である。UV光におけるここで述べた色変化は、0L:赤色、50L:紫色、100L:くすんだ紫色、150L:濃い青色、200L:青色、250L:黒色である。画像は、本発明のある態様に従って黒と白の色合いで示される。
【
図5】本発明のある態様に従って、(a)OTBNマトリックス内に埋め込まれたAgQCのTEM画像と(b)20分間の電子ビーム照射後の、AgQC−OTBNのTEM画像を示す。
【
図6】本発明のある態様に従って、(a)OTBN、(b)OTBN内に埋め込まれたAgQCおよび(c)250Lの合成チャレンジ水の通過後のOTBN内に埋め込まれたAgQCのFTIRスペクトルを示す。
【
図7】本発明のある態様に従って、450nmで励起された、(a)OTBN内に埋め込まれたAgQCと、(b)50L、(c)150Lおよび(d)250Lの水の通過後のものとのルミネッセンススペクトルを示す。
【
図8】本発明のある態様に従って、(a)AIOOH(JCPDS PDF#832384)、(b)キトサン、(c)OTBN、(d)OTBN内に埋め込まれた銀量子クラスタ、(e)250Lの合成チャレンジ水の通過後のOTBN内に埋め込まれた銀クラスタおよび(f)硫化銀(JCPDS PDF#893840)のX線ディフラクトグラムを示す。
【
図9】OTBN内に埋め込まれたAgQCのEDAXスペクトル。挿入:サンプルのAlKα、OKα、CKα、AgLαおよびSKαの元素X線画像。対応するSEM画像もまた、本発明のある態様に従って、挿入に図示される。
【
図10】250Lの水の通過後のOTBN内に埋め込まれたAgQCのEDAXスペクトル。挿入:サンプルのAlKα、OKα、CKα、AgLα、SiKα、CaKα、ClKαおよびSKαの元素X線画像。対応するSEM画像もまた、本発明のある態様に従って、挿入に図示される。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、発明の以下の発明を実施するための形態およびそれに含まれる実施例を参照することによってより容易に理解され得る。
【0033】
本化合物、組成物、物品、システム、デバイス、および/または方法が開示され説明される前に、それらは、他に規定されない限り、特定の合成方法に限定されない、あるいは、他に規定されない限り、特定の試薬に限定されず、それ自体は、もちろん、変動し得ることが理解されることになる。また、本明細書に使用される用語は、特定の態様だけを説明する目的のためのものであり、限定することを意図されないことが理解されることになる。本明細書に説明したものに類似のまたは等しい任意の方法および材料が、本発明の実施あるいは試験において使用され得るが、方法および材料例は、ここで説明される。
【0034】
本明細書に記述された全ての刊行物は、刊行物が引用されるものに関して方法および/または材料を開示し説明するために参照により組み込まれる。
【0035】
ここで報告された組成物の新規性は、合成チャレンジ水に存在するさまざまなイオンからの銀表面の保護を可能にする、ナノ構造マトリックス内に銀クラスタを埋め込む態様にある。
【0036】
本発明は、銀量子クラスタを含浸させた有機テンプレート化ベーマイトナノ構造(AgQC−OTBN)の合成、特性付けおよび適用を開示する。合成したままのAgQC−OTBN組成物は、多数の分光学的および微視的技法によって特性付けられる。浄水デバイスを通過した水の量の可視センサとしてのAgQC−OTBNの有用性は、実証されている。
【0037】
合成されたAgQC−OTBNは、通常、浄水デバイスにおいて使用される。より具体的には、AgQC−OTBNは、流れている水の量を検出するために水流計において使用される。
【0038】
開示のある実施形態に従う重力送りの浄水デバイス100の斜視図が、
図1に示される。
図1に示されるさまざまな要素は、代表的な目的のためのものである。重力送りの浄水デバイス100およびそれらの要素の寸法や設計は、要求に従って変動することが認識されるべきである。重力送りの浄水デバイス100は、粒子フィルタ102および水流計104を主に含む。重力送りの浄水デバイス100は、汚染された水を浄化するように構成される。
【0039】
開示のある実施形態では、水流計104は、
図1に示されるように水フィルタ102の後に存在する。開示の別の実施形態では、水流計は、水フィルタの前に存在する(図面には示されない)。水流計104はまた、水フィルタ104の存在に関わらず使用され得ることが認識されるべきである。水流計104の使用は、粒子水フィルタ102に限定されない。市場において利用可能な任意の他の種類の水フィルタの使用は、この開示の範囲内に十分にある。
【0040】
汚染された水は、第1の入口106を通って粒子フィルタ102に供給される。汚染された水は、粒子フィルタ102内でフィルタにかけられ、第1の出口108を通って水流計104の上を通過される。水流計104の内側には、部位110が設けられている。部位110は、センサ112を含む。センサ112は、開示のある実施形態に従うOTBN内に埋め込まれた銀量子クラスタである。OTBN内への銀量子クラスタの埋め込みは、水に存在するイオンの分離から銀量子クラスタを保護する。水は、
図1に示されるように、第2の入口114を通って部位110に入り、第2の出口116から部位110の外に出る。水流計104は、透明ケース118または透明窓118を更に含む。水は、銀量子クラスタにわたって流れるので、銀量子クラスタの色は、第1の色から第2の色に変化する。透明ケース118は、ユーザが、OTBN内に埋め込まれた銀量子クラスタの色を観測することを可能にする。色の変化は、特定量の水が水流計から通過され、同じ量の水が浄水デバイス100を使用して浄化されたことを示す。
【0041】
銀量子クラスタの色の変化は、可視光または紫外光の1つを使用することによって検出される。可視光または紫外光における銀量子クラスタの色のさまざまな変化は、開示のある実施形態に従う
図4に示される。
【0042】
水流計104を使用して汚染された水の量を検出するための方法は、
図1の実施形態に従って
図2のフローチャート200に示される。ステップ202で、センサ112が部位110に設けられる。センサ112は、OTBN内に埋め込まれた銀量子クラスタである。OTBN内への銀量子クラスタの埋め込みは、水に存在するイオンの分離から銀量子クラスタを保護する。ステップ204で、水は、部位112を通過される。そして、最終的に、ステップ206で、銀量子クラスタの色は、透明ケース118を通して観測される。色の変化は、特定量の水が水流計104を通過したことを示す。
【0043】
開示において報告された銀量子クラスタの組成物の新規性は、AgQC−OTBNに基づく可視センサが、機械的流量計が行うように通過した水の量を評価することのみならず、それが、入力水の質に基づいてカートリッジの寿命を評価することである。入力水の質の測定は、入力水のイオン強度として行われ得る。
【0044】
開示のある実施形態では、センサ112の出力読み取りは、ユーザの要求に従って調整される。センサ112は、固定位置に存在する。水が流量計104の内側を流れると、(流量計104に入ってくる)水の総量を超える一定量V1の水だけがセンサ112を通過する。それ故、一定量V1だけの通過が、ピンクから黒色へのAgQC−OTBNセンサの色変化を結果としてもたらす。例えば、仮に、センサが、流量計104に入ってくる水の10%だけがセンサ112を通過するような手法で配置されるとする。センサ112の色は、250Lの通過後に変化したことに留意する。10%だけがセンサを通って流れるので、我々は、合計2500Lが流量計104を通過したと計算する。従って、センサ112の出力読み取りを調整することが必要である。
【0045】
例示的な実施形態では、本発明は、ピンクから黒色へのAgQC−OTBNの可視色変化は、定義された量の任意の入力水が通過した後に起こらないことを説明する。色変化は、入力水のTDSが1,000ppmよりも大きい場合に減らされた量の水で起こり、入力水のTDSが100ppmよりも少ない場合にかなり大きな量の水の後に起こることになる。
【0046】
吸着をベースとした汚染物質の除去の効率は、入力水のイオン組成物に依存する。水における妨害イオンは、吸着をベースとしたフィルタの性能/寿命を減らすことが知られている。従って、フィルタの寿命は、高イオン強度の入力水が通過される場合、期待性能から激しく低減されることになる。それ故、任意の吸着をベースとしたフィルタの場合、入力水の質に基づいて機能する寿命センサを有することが非常に重要である。以下の実験的な方法およびそれらの結果は、そのような色変化センサを詳細に説明する。
実験的な方法
材料特性付け
【0047】
調製したままのサンプルの(複数の)相の識別は、λ=1.5418ÅでのCu−Kα照射を使用するX線粉末回折(Bruker AXS、D8 Discover、USA)によって実行した。表面モルホロジー、元素分析および元素マッピング研究は、X線のエネルギー分散解析(EDAX)(FEI Quanta200)を備える走査電子顕微鏡(SEM)を使用して行った。これについて、ゲル形態のサンプルは、10分間の音波処理によって水内で再懸濁し、インジウムスズ酸化物(ITO)導電性ガラス上に落とされた液滴は、乾燥させた。高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)は、JEM3010(JEOL、Japan)を使用して行った。サンプルは、非晶質炭素被膜銅格子上に点在させ、室温で乾燥させた。FT−IRスペクトルは、Perkin Elmer Spectrum One計器を使用して測定し、KBr結晶は、サンプルを調製するためのマトリックスとして使用した。ルミネッセンス測定は、Jobin Vyon NanoLog計器を使用することによって実行した。励起および発光のための帯域通過は、2nmとして設定した。
【0048】
この明細書に組み込まれ、この明細書の一部を構成する付随例および図面や実施例は、いくつかの態様を例示し、その記載と共に発明の原理を説明するのに役立つ。しかしながら、これは、発明の範囲を限定するものとして解釈されないものとする。
実施例1
【0049】
この実施例は、OTBNゲル内にグルタチオンによって保護された銀量子クラスタのその場での調製を説明する。OTBNは、以前の特許出願(1529/CHE/2010)に報告されるように調製した。フィルタにかけられたOTBNゲルは、銀量子クラスタのその場での調製のためのマトリックスとして使用した。調製したOTBNゲルは、水内で再懸濁し、それに対して銀前駆体(硝酸銀、フッ化銀、酢酸銀、過マンガン酸銀、硫酸銀、亜硝酸銀、サリチル酸銀またはそれらの組み合わせ)を一滴ずつ添加した。OTBNゲル内の銀荷重の割合は3%であった。1時間ゲルを撹拌した後、表面保護剤(グルタチオン)は一滴ずつ添加し、その後、溶液は1時間の撹拌を許した。水素化ホウ素ナトリウムは、氷のように冷たい条件で上記溶液に一滴ずつ添加した(還元剤に対する銀前駆体の割合のモル比は1:4であった)。その後、溶液は、1時間の撹拌を許され、フィルタにかけ、室温(28℃)で乾燥させた。
実施例2
【0050】
実施例1において説明した方法は、OTBNゲル材料内にグルタチオンで保護された蛍光銀量子クラスタを調製するように修正した。グルタチオンに対する銀の比率は、1:1から1:10に変動させた。
実施例3
【0051】
実施例1において説明した方法は、1:4や1:8などの水素化ホウ素ナトリウムに対する銀のさまざまなモル比でOTBNゲル材料上にグルタチオンで保護された蛍光銀量子クラスタを調製するように修正した。
実施例4
【0052】
実施例1において説明した方法は、OTBNゲル内にメルカプトコハク酸、ポリビニルピロリドンおよびクエン酸三ナトリウムのような異なる表面保護剤でクラスタを調製するように修正した。
実施例5
【0053】
この実施例は、OTBN粉末上のグルタチオンで保護された銀量子クラスタのその場での調製を説明する。乾燥したOTBN粉末は、100〜150μmの粒子サイズに粉砕した。粉末は、シェーカーを使用して水内で振り混ぜ、それに対して銀前駆体(硝酸銀、フッ化銀、酢酸銀、過マンガン酸銀、硫酸銀、亜硝酸銀、サリチル酸銀またはそれらの組み合わせ)は一滴ずつ添加した。OTBN粉末内の銀荷重の割合は3%であった。分散物を1時間振り混ぜた後、グルタチオンは一滴ずつ添加し、その後、分散物は1時間振り混ぜた。水素化ホウ素ナトリウムは、氷のように冷たい条件で上記分散物に一滴ずつ添加した(還元剤に対する銀の割合のモル比は1:4であった)。その後、分散物は、1時間振り混ぜ、フィルタにかけ、室温(28℃)で乾燥させた。
実施例6
【0054】
この実施例は、さまざまなキトサン−金属酸化物/水酸化物/オキシ水酸化物複合ゲルにおける銀量子クラスタの調製を説明する。金属酸化物/水酸化物/オキシ水酸化物は、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、ランタン、セリウム、ジルコニウムまたはそれらの組み合わせに基づき得る。そのような組成物のための合成手順は、以下のようなものである。すなわち、選んだ塩溶液は、60分間の強烈な撹拌の下で(1〜5%の氷酢酸もしくはHClまたはそれの組み合わせ内に溶解した)キトサン溶液にゆっくりと添加し、一晩中、静止状態を保った。アンモニア水またはNaOH溶液は、金属−キトサン複合物を沈殿させるために強烈な撹拌の下で金属−キトサン溶液にゆっくりと添加した。これらのゲルは、配位子で保護された銀量子クラスタのその場の調製のためのマトリックスとして使用した。
実施例7
【0055】
この実施例は、磁性材料上への蛍光銀量子クラスタの調製を説明する。超常磁性 Fe
3O
4 は、先行技術(M.T.Lopez−Lopez、J.D.G.Duran、A.V.Delgado、F.Gonzalez−Caballero、J.Colloid Interface Sci.、2005、291、144−151)に報告されたような方法によって調製した。新たに調製した超常磁性粒子は、キトサン溶液に添加し、2時間の撹拌を許し、NaOHまたはアンモニア水を使用してpH9で沈殿し、塩分を除去するためにフィルタにかけた。超常磁性複合物は、水内で再懸濁し、それに対して銀前駆体(硝酸銀、フッ化銀、酢酸銀、過マンガン酸銀、硫酸銀、亜硝酸銀、サリチル酸銀またはそれらの組み合わせ)は一滴ずつ添加した。Fe
3O
4−キトサンゲルにおける銀荷重の割合は3%であった。溶液を1時間撹拌した後、表面保護剤(グルタチオン)は一滴ずつ添加し、その後、溶液は1時間の撹拌を許した。水素化ホウ素ナトリウムは、氷のように冷たい条件で上記ゲルに一滴ずつ添加した(還元剤に対する銀の割合のモル比は1:4であった)。その後、溶液は、1時間の撹拌を許し、フィルタにかけ、室温(28℃)で乾燥させた。
実施例8
【0056】
この実施例は、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造内の銀量子クラスタ(AgQC−OTBN)を使用してカラムを通過した水の量のための可視センサを説明する。既知の量のAgQC−OTBNは、カラム内のどこででも35mmから55mmの間の直径のディスクとして詰めた。汚染物質除去を試験するためにUS NSFによって規定されたようなイオン濃度を有するチャレンジ水は、研究に使用した。標準炭素片からの出力水は、60から120mL/分の流量でAgQC−OTBNディスクを通過させた。定期的な間隔で、ディスクの色を撮影し、材料の発光スペクトルを集めた。ピンクから黒色への色の変化は、250Lの水の通過後に観察した。材料は、集め、乾燥し、さまざまな技法を使用して分析した。実験は、同様にAgQC−OTBNディスクの出力における炭素片で行った。
実施例9
【0057】
この実施例は、カラムを通過した水の量を定量化するためにAgQC−OTBNの蛍光消光に基づく可視センサを説明する。既知の量のAgQC−OTBNは、どこででも35mmから55mmまでの間の直径のディスクの形態で詰めた。供給水は、80mL/分の流量でこのディスクを通過させた。周期的な間隔で、ディスクの色を撮影し、材料の発光スペクトルを集めた。ピンクから黒色への色の変化は、250Lの水の通過後に観察した。黒色材料は、集め、乾燥し、XRDおよびEDAXを使用して分析した。
結果
【0058】
図3は、本発明のある態様に従って、AgQC−OTBNがUV光の下で強発光性であり、ルミネッセンスが低UV強度(8Wの低圧Hgランプ)の下でさえも観察され得ることを灰色の色合いで描写する。実験は、UV光の下でのAgQC−OTBNのピンクのルミネッセンスを結果としてもたらす。20gのグルタチオン−AgQC−OTBNは、ペトリ皿に取られ、8Wの低圧HgUVランプの下で保持した。ここで示す組成物は、安定しており、それは、周囲の条件下での数か月の貯蔵後でさえもピンクのルミネッセンス強度を呈した。
図3は、ペトリ皿の中央領域におけるルミネッセンスとして黒と白のさまざまな色合いを示す。これは、それらが周囲の条件下で不十分な安定性を呈するとして文献に報告された他の単一層で保護されたAgクラスタとは対照的である。OTBN内のAgQCの安定性は、量子クラスタ周りで高度に保護するOTBN環境の存在に起因する。安定化ナノ粒子におけるOTBNマトリックスの役割は、我々の以前の特許出願(947/CHE/2011)において既に実証されている。OTBNマトリックスの存在は、合成チャレンジ水条件における銀ナノ粒子の安定性を確保し、水処理用途のためにうまく使用され得ることが分かっている。実施例6に説明したような他のマトリックス、特に、チタン、亜鉛、セリウム、およびジルコニウムのもの内に調製されたAgQCもまた、発光性であった。
【0059】
図4は、本発明のある態様に従って、OTBN内に埋め込まれたAgQCが、水濾過部によってフィルタにかけられ得る水の量を検出するためのセンサとして使用されることを示す。図面は、OTBN内に埋め込まれたAgQCの色が、特定量の水の通過後に402における灰色の明るい色合いから404における灰色の暗い色合いに変化することを示す。任意の浄水器の寿命は入力水の質に依存するので、AgQC−OTBNセンサは、フィルタを通過され得る水の量を示すべきであり、また、浄水デバイスが消耗されたか否かを示すべきである。これを実現するために、水濾過部からの出力水は、センサ材料を通過され、貯蔵容器内に集められる。水の通過後、AgQC−OTBNの色は、
図4に示されるように変化する。
図4における第1の列は、可視光におけるAgQC−OTBNディスクの色を示し、第2の列は、UV光におけるAgQC−OTBNディスクのルミネッセンスを示す。水の通過前、材料は、ピンク色であり(402における灰色の明るい色合いは
図4に示される)、高いルミネッセンスを呈する。水の通過後、材料は、徐々の変化を受け、ルミネッセンスの消光で最終的に黒色に変わる(404における灰色の暗い色合いは
図4に示される)。可視光におけるここで述べた色変化は、0L:ピンク、50L:薄い茶色、100L:濃い茶色、150L:濃い黄色、200L:黄緑色、250L:黒色である。UV光におけるここで述べた色変化は、0L:赤色、50L:紫色、100L:くすんだ紫色、150L:濃い青色、200L:青色、250L:黒色である。画像は、本発明のある態様に従って黒と白の色合いで示される。OTBNマトリックスを単独で有する空の試みは、OTBNマトリックスが、水の通過後に色変化に貢献しないことを示した。これは、材料の色の変化は、銀量子クラスタに起因することを裏付ける。類似の色の変化は、チタン、亜鉛、セリウム、およびジルコニウムを含有するマトリックスにおいて調製したAgQCに見られた。
【0060】
図5(a)は、本発明のある態様に従って、OTBN内に埋め込まれたAgQCのTEM画像を示す。OTBN内のクラスタは、TEM画像では観察できない。これは、AgQCのサブナノメートルサイズに起因する。先行の報告において、むき出しのグルタチオンで保護された銀クラスタ上への電子の露出後の大きなサイズの銀ナノ粒子の形成が観察された(T.U.B.Rao、B.Nataraju、T.Pradeep、J.Am.Chem.Soc.、2010、132、16304‐16307)。むき出しのクラスタとは異なり、この発明において説明されたOTBN内のAgQCは、電子ビームの下で安定した(
図5b)。電子ビームの下でのOTBN内のAgQCの安定性は、AgクラスタがOTBNマトリックスによって高度に保護されることを裏付ける。ここで、電子ビームで誘発される銀クラスタの凝集は、クラスタがOTBNマトリックスの内側に埋め込まれたので起こらなかった。
【0061】
図6は、本発明のある態様に従って、(a)OTBN、(b)OTBN内に埋め込まれたAgQC、および(c)250Lの合成チャレンジ水の通過後のOTBN内に埋め込まれたAgQCのFTIRスペクトルを描写する。OTBN内へのAgQCの含浸は、(曲線bに示される)1402cm
−1あたりのN−H伸縮帯域の変化につながる。250Lの合成チャレンジ水の通過後、N−H帯域は、OTBNのものと同じように類似する。2000〜500cm
−1の範囲内に存在する特徴は、グルタチオンの存在を裏付ける(M.A.Habeeb Muhammed、S.Ramesh、S.S.Sinha、S.K.PalおよびT.Pradeep、Nano Res.、2008、1、333−340)。スペクトルは、水和水に起因して3450cm
−1で強い帯域を示す。
【0062】
図7は、本発明のある態様に従って、(a)OTBN内に埋め込まれたAgQCの、また、(b)50L、(c)150Lおよび(d)250Lの水の通過後のそれらのものの、ルミネッセンススペクトルを示す。励起スペクトルは450nmで測定したのに対して、対応する発光スペクトルは650nmあたりで測定した。AgQC−OTBNのルミネッセンスは、合成チャレンジ水の通過後に徐々に減少することが観察され得る。250Lの通過後、発光は、完全に消光した。なお、λ=400nmと475nmで観察されたピークは、励起源の不純線である。
【0063】
図8は、本発明のある態様に従って、(a)AlOOH(JCPDS PDF#832384)、(b)キトサン、(c)OTBN、(d)OTBN内に埋め込まれた銀量子クラスタ、(e)250Lの合成チャレンジ水の通過後のOTBN内に埋め込まれた銀クラスタ、および(f)硫化銀のJCPDS PDF#893840のX線ディフラクトグラムである。Ag
2Sに帰するピークは(e)に示される。合成したままのOTBNのXRDは、(120)、(013)、(051)、(151)、(200)、(231)および(251)面に対応するピークを示した(
図8c)。全てのこれらのピークは、斜方晶系−AlOOH(JCPDS PDF#832384)に索引付けされ得る(
図8a)。広がったXRDピークは、OTBN結晶子サイズが非常に小さいことを暗示する。シェラーの式から計算された平均結晶子サイズは、ナノ結晶が約3.5nmのものであることを示す。有機テンプレート(キトサン)の存在もまた、XRDデータから明らかである。
図8cにおける2θ(度単位)の18.7°、20.6°、41.2°に対応するピークは、有機テンプレートの存在に帰する。AgQC−OTBNのXRD(
図8d)は、OTBN(
図8c)と変わらない。これは、クラスタが、ごく少数の原子から成り、また、使用されるX線の波長よりも小さいという事実に起因する。
図8eは、250リットルの水の通過後に、新たなピークが硫化銀に対応して現れたことを示す。新たなピークは、標準硫化銀(JCPDS PDF#893840)のパターンに基づいて索引付けされる(
図8f)。(■)で印を付けたラベル付けされたピークは、それぞれ(−121)や(−112)として指定される。
【0064】
図9や
図10は、本発明のある態様に従って、OTBN内に埋め込まれた合成したままのQCのEDAXスペクトルを示す。これは、Ag、S、CおよびOなどの予想した元素全ての存在を裏付ける。挿入は、水の通過前のSEMとそれの元素マッピングを示す。250Lの合成チャレンジ水の通過後のEDAXスペクトルは、
図10に示され、それは、Al、OK、CK、AgL、SiK、CaK、ClKおよびSKなどの予想した元素全ての存在を裏付ける。Ca、SiおよびClは水からのものである。挿入は、水の通過後の材料のSEMと元素マップを示す。AgQC−OTBN上のCa、SiおよびClの存在は、ルミネッセンスの消光と色の変化が、銀量子クラスタの塩誘発性凝集に起因することを示す。
図9や
図10における画像は、本発明のある態様に従って、黒と白の色合いで示される。
【0065】
記載された態様は、発明の例示的なものであり、限定的なものではない。従って、それの趣旨または本質的な特性から逸脱すること無く、この発明の原理を使う、この発明において説明した任意の修正は、発明の範囲内に依然としてあることは自明である。その結果として、設計、方法、構造、順序、材料および同様のものの修正は、発明の範囲内に更に依然としてあることが、当業者に明らかであろう。
【0066】
さまざまな修正や変形が、発明の範囲や趣旨から逸脱すること無く、本発明においてなされ得ることは当業者に明らかであろう。発明の他の実施形態は、明細書と本明細書に開示した発明の実施の考察から当業者に明らかであろう。明細書および実施例は、以下の特許請求の範囲によって示される発明の真の範囲や趣旨を用いて、例示的なものだけであるとしてみなされることが意図される。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕汚染された水流の量を検出するための方法であって、
ある部位にセンサを提供する工程と、
前記部位に汚染された水を通す工程と、
光における前記センサの色を観測する工程と
を含み、
前記センサが、有機テンプレート化ナノメタルオキシ水酸化物内に埋め込まれた量子クラスタを有し、前記有機テンプレート化ナノメタルオキシ水酸化物内への埋め込みが、前記汚染された水に存在するイオンから量子クラスタを保護し、
第1の色から第2の色への前記色の変化は、特定量の汚染された水が前記部位を通過したことを示すことを特徴とする、方法。
〔2〕前記光が、可視光または紫外光の1つである、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記有機テンプレート化ナノメタルオキシ水酸化物が、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造(OTBN)である、前記〔1〕に記載の方法。
〔4〕前記量子クラスタが、銀量子クラスタである、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕前記銀量子クラスタが、ゲル状態のOTBNに複数の銀イオンを含浸させることによってOTBN内に埋め込まれ、前記銀イオンが、還元剤の使用および表面保護剤による保護によってゼロ価の状態に還元されている、前記〔4〕に記載の方法。
〔6〕銀量子クラスタは、外部で調製された銀量子クラスタをゲル状態のOTBNと接触させることによってOTBN内に埋め込まれる、前記〔4〕に記載の方法。
〔7〕銀量子クラスタは、外部で調製された銀量子クラスタを固体状態のOTBNと接触させることによってOTBN内に埋め込まれる、前記〔4〕に記載の方法。
〔8〕銀イオンまたは銀量子クラスタの1つを、OTBNに一滴ずつ添加する工程を更に含む、前記〔4〕に記載の方法。
〔9〕約30分から約12時間までの間のOTBN内への銀量子クラスタの浸漬を更に含む、前記〔4〕に記載の方法。
〔10〕前記有機テンプレートが、キトサン、バナナシルクおよびセルロースの少なくとも1つから調製される、前記〔1〕に記載の方法。
〔11〕前記還元剤が、水素化ホウ素ナトリウムである、前記〔5〕に記載の方法。
〔12〕銀量子クラスタの調製のために使用される銀前駆体を更に含み、前記銀前駆体が、硝酸銀、フッ化銀、酢酸銀、硫酸銀および亜硝酸銀の少なくとも1つでできている、前記〔1〕に記載の方法。
〔13〕OTBNに対する銀量子クラスタの質量比が、約0.01%〜約10%である、前記〔1〕に記載の方法。
〔14〕OTBNに対する銀量子クラスタの質量比が、約0.01%〜約5%である、前記〔1〕に記載の方法。
〔15〕前記還元剤の濃度が、約0.005M〜約1Mの範囲である、前記〔5〕に記載の方法。
〔16〕量子クラスタは、銀、金、銅、鉄、ニッケル、白金およびパラジウムの少なくとも1つに基づく、前記〔1〕に記載の方法。
〔17〕前記ナノメタルが、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、銀、亜鉛、ランタン、セリウムおよびジルコニウムの少なくとも1つである、前記〔1〕に記載の方法。
〔18〕重力送りの浄水デバイスであって、
水をフィルタにかけるように構成された粒子フィルタと、
前記粒子フィルタ内を水が移動することを可能にする第1の入口と、
前記粒子フィルタから前記水を出すように構成された第1の出口と、
前記粒子フィルタから前記水を受け取るように構成された水流計と
を備え、
前記水流計が、前記流計の内側に存在するセンサと、前記水が流れているときの前記センサの色の変化を観測することを可能にする透明ケースとを備え、
前記センサが、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造(OTBN)内に埋め込まれた銀量子クラスタを有し、前記OTBN内への銀量子クラスタの埋め込みが、水中に存在するイオンの分離から銀量子クラスタを保護し、
第1の色から第2の色への前記色の変化が、特定量の汚染された水が前記水流計を通過したことを示すことを特徴とする、浄水デバイス。
〔19〕水流計であって、
前記流計の内側に水を流すための第2の入口と、
前記流計の外側に水を流すための第2の出口と、
前記流計の内側に存在するセンサと、
前記水が流れているときの前記センサの色を観測することを可能にする透明ケースとを備え、
前記センサが、有機テンプレート化ベーマイトナノ構造(OTBN)内に埋め込まれた銀量子クラスタを有し、前記OTBN内への銀量子クラスタの埋め込みが、汚染された水に存在するイオンの分離から銀量子クラスタを保護し、
第1の色から第2の色への前記色の変化が、特定量の汚染された水が前記水流計を通過したことを示すことを特徴とする、水流計。
〔20〕前記OTBNが、複数の微粒子の形態にある、前記〔19〕に記載の水流計。
〔21〕前記複数の微粒子の粒子サイズが、約0.3mm〜約5mmである、前記〔19〕に記載の水流計。
〔22〕前記複数の微粒子の粒子サイズが、約0.3mm〜約1mmである、前記〔19〕に記載の水流計。