特許第6367187号(P6367187)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6367187N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニルエチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の多形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367187
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニルエチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の多形体
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/065 20060101AFI20180723BHJP
   C07C 237/22 20060101ALI20180723BHJP
   C07C 231/24 20060101ALI20180723BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 9/02 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C07K5/065
   C07C237/22
   C07C231/24
   A61K38/05
   A61P27/02
   A61P7/10
   A61P3/10
   A61P1/18
   A61P9/00
   A61P13/12
   A61P9/10
   A61P25/00
   A61P1/04
   A61P19/02
   A61P29/00
   A61P31/04
   A61P9/02
   A61P35/00
   A61P11/00
   A61P7/02
   A61P7/04
【請求項の数】13
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-519357(P2015-519357)
(86)(22)【出願日】2013年7月5日
(65)【公表番号】特表2015-528798(P2015-528798A)
(43)【公表日】2015年10月1日
(86)【国際出願番号】GB2013051781
(87)【国際公開番号】WO2014006414
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2016年6月22日
(31)【優先権主張番号】61/668,543
(32)【優先日】2012年7月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】1212081.2
(32)【優先日】2012年7月6日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515004935
【氏名又は名称】カルビスタ・ファーマシューティカルズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノーザン,ジュリアン・スコット
(72)【発明者】
【氏名】マイキーチク,ジョン
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/005045(WO,A1)
【文献】 特開平02−000226(JP,A)
【文献】 特表2008−521804(JP,A)
【文献】 特表2007−530652(JP,A)
【文献】 特表2010−507610(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/062829(WO,A1)
【文献】 特表平09−509937(JP,A)
【文献】 米国特許第05914319(US,A)
【文献】 特表2006−516277(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/094496(WO,A1)
【文献】 特表2008−502700(JP,A)
【文献】 特表2009−519967(JP,A)
【文献】 平山令明編,有機化合物結晶作製ハンドブック −原理とノウハウ−,丸善株式会社,2008年 7月25日,p.57-84
【文献】 芦澤 一英、他,医薬品の多形現象と晶析の科学,丸善プラネット株式会社,2002年 9月20日,第272−317頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 5/00
C07C 231/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の形態1の結晶質多形体であって、少なくとも、5.1±0.2、10.3±0.2、10.7±0.2、18.1±0.2及び18.6±0.2において、特徴的なX線粉末回折ピーク(Cu−Kα線、角度2θで表される)を示す、形態1の結晶質多形体。
【請求項2】
図1
【表1】

に示されるX線粉末回折パターンと実質的に同一のX線粉末回折パターンを有する、請求項1に記載の形態1の結晶質多形体。
【請求項3】
3274±1、3027±1、2976±1、2928±1、1651±1、1636±1、1536±1、1512±1、1243±1及び703±1において、cm−1で表されるピークを有するIRスペクトルを特徴とする、請求項1又は2に記載の形態1の結晶質多形体。
【請求項4】
図2
【表2】

に示されるIRスペクトルと実質的に同一のIRスペクトルを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の形態1の結晶質多形体。
【請求項5】
水和物である、請求項1〜のいずれか1項に記載の結晶質多形体。
【請求項6】
前記水和物が一水和物である、請求項に記載の結晶質多形体。
【請求項7】
医薬組成物であって、製薬上許容されるアジュバント、希釈剤又は担体と一緒に、請求項1〜のいずれか1項に記載の結晶質多形体又はその溶媒和物を含む、前記医薬組成物。
【請求項8】
治療において使用するための、請求項1〜のいずれか1項に記載の結晶質多形体又はその溶媒和物。
【請求項9】
血漿カリクレインが介在する疾患又は状態の処置において使用するための、請求項1〜のいずれか1項に記載の結晶質多形体又はその溶媒和物。
【請求項10】
血漿カリクレインが介在する前記疾患又は症状が、視力障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、遺伝性血管浮腫、糖尿病、膵臓炎、脳出血、腎症、心筋症、神経障害、炎症性腸疾患、関節炎、炎症、敗血症性ショック、低血圧、癌、成人呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群、心肺バイパス手術及び手術後の出血から選択される、請求項に記載の結晶質多形体。
【請求項11】
血漿カリクレインが介在する前記疾患又は症状が、糖尿病性網膜症又は糖尿病性黄斑浮腫である、請求項に記載の結晶質多形体。
【請求項12】
血漿カリクレインが介在する前記疾患又は症状が、糖尿病性網膜症及び糖尿病性黄斑浮腫に関連した網膜血管透過性であり、並びに、結晶質多形体が、患者の眼部位に注射するのに適した形態で、特に、硝子体内注射に適した形態で投与される、請求項に記載の結晶質多形体。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の形態1の結晶質多形体の製造方法であって、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩と溶媒若しくは溶媒混合物との混合物から形態1の結晶質多形体を結晶化させることを含む、方法であって、溶媒混合物が、アセトニトリルと水又はアセトニトリルとジメチルスルホキシドであり、及び前記混合物が、75〜80℃の温度に加熱された後に室温まで冷却される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿カリクレイン阻害薬の新規多形体、それらを含む医薬組成物及び治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血漿カリクレインの阻害薬は、多くの治療用途、特に、糖尿病性網膜症及び糖尿病性黄斑浮腫に関連した網膜血管透過性の処置における治療用途を有している。糖尿病の別の合併症、例えば、脳出血、腎症(nepropathy)、心筋症及び神経障害など(これらは、全て、血漿カリクレインに関連している)も、血漿カリクレイン阻害薬の標的であると考えられ得る。
【0003】
血漿カリクレインは、キニノーゲンからキニンを遊離させることができるトリプシン様セリンプロテアーゼである(以下のものを参照されたい:「K.D.Bhoola et al., “Kallikrein−Kinin Cascade”, Encyclopedia of Respiratory Medicine, p483−493」、「J.W.Bryant et al., “Human plasma kallikrein−kinin system:physiological and biochemical parameters” Cardiovascular and haematological agents in medicinal chemistry, 7, p234−250, 2009」、「K.D.Bhoola et al., Pharmacological Rev., 1992, 44, 1」、及び、「D.J.Campbell, “Towards understanding the kallikrein−kinin system:insights from the measurement of kinin peptides”, Brazilian Journal of Medical and Biological Research 2000, 33, 665−677」)。これは、内因性血液凝固カスケードの必須メンバーであるが、このカスケードにおけるその役割は、ブラジキニンの放出又は酵素的切断を伴わない。血漿プレカリクレインは、単一の遺伝子によってコード化されており、そして、肝臓で合成される。これは、肝細胞によって不活性な血漿プレカリクレインとして分泌され、その血漿プレカリクレインは、血漿中を、高分子量キニノーゲンに結合したヘテロ二量体複合体として循環し、活性化されて活性な血漿カリクレインがもたらされる。キニンは、Gタンパク質共役受容体を介して作用する強力な炎症メディエーターであり、そして、キニンの拮抗薬(例えば、ブラジキニン拮抗薬)が、これまでに、多くの種類の疾患を処置するための潜在的な治療用薬剤として研究されてきた(F.Marceau and D.Regoli,Nature Rev.,Drug Discovery, 2004, 3, 845−852)。
【0004】
キニンは、膵炎の病因において極めて重要な役割を果たしており、また、該疾患における浮腫性形態から壊死性形態への進行においても重要であり得る。膵炎の動物モデルにおいて、ブラジキニン拮抗薬による前処置は、浮腫の形成及び続発症(例えば、低血圧症、血液量減少(hypovalemia)、血液濃縮及び膵臓組織内における活性化消化酵素の蓄積)を予防することが示された(「T.Griesbacher and F. Lembeck F. Br. J. Pharmacol., 1992 107, 356−360」、「T. Griesbacher et al., Br. J. Pharmacol., 1993, 108, 405−411」)。しかしながら、ブラジキニン拮抗薬のさらなる開発は、それらが特異性に欠けていること及びそれらの効力によって、制限された。さらに、ブラジキニン拮抗薬が膵臓内においてhK1のレベルを上昇させることが示された(T. Griesbacher et al., Br. J. Pharmacol., 2003, 139, 299−308)。このことは、hK1阻害薬による処置がブラジキニン拮抗薬と比較して著しく有効であり得るということを示している。かくして、hK1を阻害することによるキニン形成の予防は、上記疾患を処置するための実行可能なキニン拮抗薬の代替を代表している。
【0005】
血漿カリクレインは、多くの種類の炎症性疾患の一因であると考えられている。血漿カリクレインの主な阻害物質は、セルピンC1エステラーゼ阻害物質である。C1エステラーゼ阻害物質における遺伝的欠損を示す患者は、顔面、手、喉、胃腸管及び生殖器の断続的な腫脹をもたらす遺伝性血管浮腫(HAE)を患う。急性エピソードに際して形成される水疱は高レベルの血漿カリクレインを含んでおり、この血漿カリクレインが高分子量のキニノーゲンを切断してブラジキニンを遊離させ、それによって、血管透過性の増大がもたらされる。巨大タンパク質血漿カリクレイン阻害薬による処置は、血管透過性の増大を引き起こすブラジキニンの放出を防止することにより、HAEを有効に処置することが示されている(A. Lehmann “Ecallantide (DX−88), a plasma kallikrein inhibitor for the treatment of hereditary angioedema and the prevention of blood loss in on−pump cardiothoracic surgery” Expert Opin. Biol. Ther. 8, p1187−99)。
【0006】
血漿カリクレイン−キニン系は、進行した糖尿病性黄斑浮腫を患っている患者に異常に大量に存在している。最近、血漿カリクレインが糖尿病ラットにおける網膜血管機能不全の一因となっているということが公表された(A. Clermont et al. “Plasma kallikrein mediates retinal vascular dysfunction and induces retinal thickening in diabetic rats” Diabetes, 2011, 60, p1590−98)。さらに、血漿カリクレイン阻害薬ASP−440を投与することにより、糖尿病ラットにおいて、網膜血管透過性と網膜の血流異常の両方が改善された。従って、血漿カリクレイン阻害薬は、糖尿病性網膜症及び糖尿病性黄斑浮腫と関連している網膜血管透過性を低減させるための処置としての有用性を有するはずである。
【0007】
合成小分子血漿カリクレイン阻害薬が、これまでに、例えば、Garrett et al.(“Peptide aldehyde….” J. Peptide Res. 52, p62−71 (1998))、T. Griesbacher et al.(“Involvement of tissue kallikrein but not plasma kallikrein in the development of symptoms mediated by endogenous kinins in acute pancreatitus in rats” British Journal of Pharmacology 137, p692−700 (2002))、Evans(“Selective dipeptide inhibitors of kallikrein” WO03/076458)、Szelke et al.(“Kininogenase inhibitors” WO92/04371)、D. M. Evans et al.(Immunolpharmacology, 32, p115−116 (1996))、Szelke et al.(“Kininogen inhibitors” WO95/07921)、Antonsson et al.(“New peptides derivatives” WO94/29335)、J. Sturzbecher et al.(Brazilian J. Med. Biol. Res 27, p1929−34 (1994))、Kettner et al.(US 5,187,157)、N. Teno et al.(Chem. Pharm. Bull. 41, p1079−1090 (1993))、W. B. Young et al.(“Small molecule inhibitors of plasma kallikrein” Bioorg. Med. Chem. Letts. 16, p2034−2036 (2006))、Okada et al.(“Development of potent and selective plasmin and plasma kallikrein inhibitors and studies on the structure−activity relationship” Chem. Pharm. Bull. 48, p1964−72 (2000))、Steinmetzer et al.(“Trypsin−like serine protease inhibitors and their preparation and use” WO08/049595)、Zhang et al.(“Discovery of highly potent small molecule kallikrein inhibitors” Medicinal Chemistry 2, p545−553 (2006))、Sinha et al.(“Inhibitors of plasma kallikrein” WO08/016883)、及び、Brandl et al.(“N−((6−amino−pyridin−3−yl)methyl)−heteroaryl−carboxamides as inhibitors of plasma kallikrein” WO2012/017020)によって記載されている。
【0008】
今日まで、小分子合成血漿カリクレイン阻害薬は、医療的使用に対して承認されていない。既知技術分野で記載されている分子は、関連する酵素(例えば、KLK1、トロンビン及び他のセリンプロテアーゼ)と比べて選択性が不充分である、及び、経口での有効性が不充分である、などの制限を欠点として有している。巨大タンパク質血漿カリクレイン阻害薬は、エカランチドに関して報告されている用に、アナフィラキシー反応のリスクを呈する。かくして、血漿カリクレインを選択的に阻害し且つアナフィラキシーを誘発せず且つ経口的に利用可能な化合物が依然として求められている。さらに、既知技術分野における分子の大部分は、極性が高いイオン性のグアニジン官能性又はアミジン官能性を特長としている。そのような官能性が、消化管透過性を制限し得ること、従って、経口的な有効性を制限し得ることは、よく知られている。
【0009】
医薬製剤の製造においては、商業的に実施可能な調製方法を達成するために、当該活性化合物が都合良く取扱い可能で且つ処理可能な形態にあることが重要である。従って、当該活性化合物の化学的安定性及び物理的安定性は、重要な要素である。当該活性化合物及びそれを含む製剤は、相当な期間にわたって、その活性化合物の物理化学的特性(例えば、化学的組成、密度、吸湿性及び溶解性など)における有意な変化を示すことなく、効果的に貯蔵可能でなければならない。
【0010】
医薬成分の特定の固体形態を製造することは、その固体特性の多くの面に影響を及ぼすことが可能であり、そして、溶解性、溶解速度、化学的安定性、機械的特性、技術的実現可能性、加工性、薬物動態学及び生物学的利用能において有利性を提供し得るということは、知られている。これらの一部は、「“Handbook of Pharmaceutical Salts; Properties, Selection and Use”, P. Heinrich Stahl, Camille G. Wermuth (Eds.) (Verlag Helvetica Chimica Acta, Zurich)」に記載されている。固体形態の製造方法は、「“Practical Process Research and Development”, Neal G. Anderson (Academic Press, San Diego)」及び「“Polymorphism: In the Pharmaceutical Industry”, Rolf Hilfiker (Ed) (Wiley VCH)」にも記載されている。医薬結晶の多形性については、「Byrn (Byrn, S.R., Pfeiffer, R.R., Stowell, J.G., “Solid−State Chemistry of Drugs”, SSCI Inc., West Lafayette, Indiana, 1999)」、「Brittain,H.G., “Polymorphism in Pharmaceutical Solids”, Marcel Dekker, Inc., New York, Basel, 1999」又は「Bernstein (Bernstein, J., “Polymorphism in Molecular Crystals”, Oxford University Press, 2002)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2003/076458号
【特許文献2】国際公開第92/04371号
【特許文献3】国際公開第95/07921号
【特許文献4】国際公開第94/29335号
【特許文献5】米国特許第5,187,157号明細書
【特許文献6】国際公開第2008/049595号
【特許文献7】国際公開第2008/016883号
【特許文献8】国際公開第2012/017020号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Encyclopedia of Respiratory Medicine, p483−493
【非特許文献2】Cardiovascular and haematological agents in medicinal chemistry, 7, p234−250, 2009
【非特許文献3】Pharmacological Rev., 1992, 44, 1
【非特許文献4】Brazilian Journal of Medical and Biological Research 2000, 33, 665−677
【非特許文献5】Nature Rev.,Drug Discovery, 2004, 3, 845−852
【非特許文献6】Br. J. Pharmacol., 1992 107, 356−360
【非特許文献7】Br. J. Pharmacol., 1993, 108, 405−411
【非特許文献8】Br. J. Pharmacol., 2003, 139, 299−308
【非特許文献9】Expert Opin. Biol. Ther. 8, p1187−99
【非特許文献10】Diabetes, 2011, 60, p1590−98
【非特許文献11】J. Peptide Res. 52, p62−71 (1998)
【非特許文献12】British Journal of Pharmacology 137, p692−700 (2002)
【非特許文献13】Immunolpharmacology, 32, p115−116 (1996)
【非特許文献14】Brazilian J. Med. Biol. Res 27, p1929−34 (1994)
【非特許文献15】Chem. Pharm. Bull. 41, p1079−1090 (1993)
【非特許文献16】Bioorg. Med. Chem. Letts. 16, p2034−2036 (2006)
【非特許文献17】Chem. Pharm. Bull. 48, p1964−72 (2000)
【非特許文献18】Medicinal Chemistry 2, p545−553 (2006)
【非特許文献19】Handbook of Pharmaceutical Salts; Properties, Selection and Use, P. Heinrich Stahl, Camille G. Wermuth (Eds.) (Verlag Helvetica Chimica Acta, Zurich)
【非特許文献20】Practical Process Research and Development, Neal G. Anderson (Academic Press, San Diego)
【非特許文献21】Polymorphism: In the Pharmaceutical Industry, Rolf Hilfiker (Ed) (Wiley VCH)
【非特許文献22】Byrn (Byrn, S.R., Pfeiffer, R.R., Stowell, J.G., Solid−State Chemistry of Drugs, SSCI Inc., West Lafayette, Indiana, 1999)
【非特許文献23】Brittain,H.G., Polymorphism in Pharmaceutical Solids, Marcel Dekker, Inc., New York, Basel, 1999
【非特許文献24】Bernstein (Bernstein, J., Polymorphism in Molecular Crystals, Oxford University Press, 2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本出願人は血漿カリクレインの阻害薬である一連の新規ベンジルアミン誘導体を開発した。それらは、WO2013/005045(PCT/GB2012/051588)の中に開示されている。これらの化合物は、血漿カリクレインに対して良好な選択性を示し、そして、視力障害、糖尿病性網膜症、黄斑浮腫、遺伝性血管浮腫、糖尿病、膵臓炎(pancreatitus)、脳出血、腎症、心筋症、神経障害、炎症性腸疾患(inflammaotory bowel disease)、関節炎、炎症、敗血症性ショック、低血圧、癌、成人呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群、心肺バイパス手術及び手術後の出血(bleeding from post−operative surgery)の処置において潜在的に有用である。そのような1種類のベンジルアミン誘導体は、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミドである。N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミドを調製する最初の試みでは、非晶質固体が生成された。しかしながら、本出願人は、該化合物の塩酸塩の安定な新規結晶質形態(これは、本明細書中においては、「形態1」及び「形態2」と称される)を開発した。該新規固体形態は、それらを開発に適したものとする有利な物理化学的特性を有している。
【0014】
例えば、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の「形態1」の重量蒸気吸着(Gravimetric Vapour Sorption)(GVS)データ(図4)は、水和が可逆的である(即ち、有意な履歴現象が存在しない)ことを示している。さらに、これらのデータは、標準状態(相対湿度20%〜80%)のもとでは含水量が比較的漸次的にしか増加しないことを示している。これは、サンプルの湿潤に起因する可能性があり、有意な吸湿性を有さないことと調和する。
【0015】
製薬的な開発のために該結晶質形態が適していることのさらなる証拠は、以下の安定性データによって与えられる。N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の形態1をポリプロピレン製容器の中の二重ポリエチレン製バッグの中に詰め、40℃、相対湿度75%で6ヶ月間貯蔵した。
・ XRPDディフラクトグラムに変化はなかった。
・ 含水量(Karl Fischer試験方法を使用)は、最初、調製(これは、乾燥操作を含んでいた)後、直ぐに上昇したが、安定化して、1ヶ月後には約2.5%−2.8%(w/w)の範囲になり、そして、その後は、この範囲内にとどまった。これらのデータは、GVSデータと一致しており、有意な吸湿性を有さないことをさらに実証している。
・ 有意な化学的分解はなかった。純度(HPLC)は、99.8面積%のままであった。
【課題を解決するための手段】
【0016】
かくして、本発明の1態様によれば、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質多形体が提供される。本出願においては、これらの多形体は、「形態1」及び「形態2」と称され得る。
【0017】
化学名「N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド」は、図Aにおいて表されている構造を意味する。
【0018】
図A
【0019】
【化1】
本発明は、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態の溶媒和物(例えば、水和物)を包含する。
【0020】
N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の2種類の結晶質多形体は、今日までに単離され、特徴付けされた。それらは、本明細書中においては、「形態1」及び「形態2」と称されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の形態1のX線粉末回折パターンを示す図である。
図2】N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の形態1のIRスペクトルを示す図である。
図3】N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の形態1のDSCサーモグラフを示す図である。
図4】N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の形態1の重量蒸気吸着等温線(吸着、脱着及び吸着)を示す図である。
図5】N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の形態2のX線粉末回折パターンを示す図である。
図6】N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の形態2のDSCサーモグラフを示す図である。
図7】Sprague Dawley ラットにおけるCA−I刺激RPVに対するN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(「被験化合物」と称されている)とCH−3457(陽性対照;血漿カリクレイン阻害薬)の阻害効果を示す図である。
図8】4.2μg/mL(210ng/眼)のIVT投与後におけるN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(「被験化合物」と称されている)の眼組織内濃度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
該結晶質形態の好ましい態様は、形態1である。本発明の好ましい態様においては、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態は、水和物、特に、一水和物又は半水和物である。
【0023】
本明細書中においては、X線粉末回折のピーク(これは、角度2θで表されている)は、Cu−Kα線を用いて測定する。
【0024】
本発明は、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態(形態1)を提供し、これは少なくとも以下の、約:
(1) 5.1、10.3、10.7、18.1、及び、18.6;又は、
(2) 5.1、10.3、10.7、14.9、17.9、18.1、及び、18.6;又は、
(3) 5.1、7.8、10.3、10.7、14.9、16.6、17.9、18.1、及び、18.6;
において、特徴的なX線粉末回折ピーク(Cu−Kα線、角度2θで表される)を示す。
【0025】
これに関連して、用語「約(approximately)」は、角度2θの測定において±0.2(角度2θで表される)の不確定さが存在していることを意味している。
【0026】
本発明は、さらにまた、約5.1、7.8、10.3、10.7、13.0、14.9、16.6、17.9、18.1及び18.6において、特徴的なピーク(角度2θで表される)を含むX線粉末回折パターンを有する、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態(形態1)も提供する。
【0027】
本発明は、さらにまた、少なくとも以下の、約:
(1) 17.32、8.61、8.23、4.89、及び、4.76;又は、
(2) 17.32、8.61、8.23、5.96、4.97、4.89、及び、4.76;又は、
(3) 17.32、11.28、8.61、8.23、5.96、5.34、4.97、4.89、及び、4.76;
の特徴的なd−間隔値(Å)を示すX線粉末回折パターンを有する、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態(形態1)も提供する。
【0028】
これに関連して、用語「約(approximately)」は、d−間隔値(Å)の測定において±0.2(Åで表される)の不確定さが存在していることを意味している。
【0029】
図1は、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の形態1のX線粉末回折パターンを示している。本発明は、さらにまた、図1において示されているX線粉末回折パターンと実質的に同一のX線粉末回折パターンを有するN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態(形態1)も提供する。
【0030】
図2は、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の形態1のIRスペクトルを示している。本発明は、さらにまた、約3274、3027、2976、2928、1651、1636、1536、1512、1243及び703においてcm−1で表される特徴的なピークを有する、IRスペクトルによって特徴付けられる、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態(形態1)も提供する。
【0031】
これに関連して、用語「約(approximately)」は、該cm−1値が、例えば最大で±1cm−1まで、変動し得ることを意味している。本発明は、さらにまた、図2において示されているIRスペクトルと実質的に同一のIRスペクトルを有するN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態(形態1)も提供する。
【0032】
本発明は、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態(形態2)も提供し、これは少なくとも以下の、約:
(1) 3.3、5.7、18.6、24.4、25.5;又は、
(2) 3.3、5.7、6.7、18.6、24.4、25.5;又は、
(3) 3.3、5.7、6.7、8.3、11.0、18.6、24.4、25.5;
において、特徴的なX線粉末回折ピーク(Cu−Kα線、角度2θで表される)を示す。
【0033】
本発明は、さらにまた、約3.3、4.7、5.7、6.0、6.7、8.3、11.0、18.6、24.4、25.5において、特徴的なピーク(角度2θで表される)を含むX線粉末回折パターンを有する、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態(形態2)も提供する。
【0034】
本発明は、さらにまた、少なくとも以下の、約:
(1) 26.72、15.52、4.77、3.65、3.49;又は、
(2) 26.72、15.52、13.26、4.77、3.65、3.49;又は、
(3) 26.72、15.52、13.26、10.66、8.04、4.77、3.65、3.49;
の特徴的なd−間隔値(Å)を示すX線粉末回折パターンを有する、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態(形態2)も提供する。
【0035】
図5は、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の形態2のX線粉末回折パターンを示している。本発明は、さらにまた、図5において示されているX線粉末回折パターンと実質的に同一のX線粉末回折パターンを有するN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態(形態2)も提供する。
【0036】
本発明の結晶質形態は、非溶媒和形態と溶媒和形態の両方で存在することができる。用語「溶媒和物」は、本明細書中においては、本発明の化合物と特定量の1種類以上の製薬上許容される溶媒(例えば、エタノール)を含む分子複合体を記述するために使用される。用語「水和物」は、該溶媒が水である場合に使用される。
【0037】
本発明は、さらにまた、本発明の形態1を調製する方法も包含し、ここで、該調製方法は、該結晶質形態を溶媒又は溶媒混合物の中のN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の溶液から結晶化させることを含む。本発明の1態様においては、該溶媒混合物は、アセトニトリルと水である。別の態様においては、該溶媒混合物は、アセトニトリルとジメチルスルホキシドである。別の態様においては、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩を溶媒又は溶媒の混合物(例えば、アセトニトリルと水、又は、アセトニトリルとジメチルスルホキシド)に添加し、及び、その組み合わされた混合物(化合物プラス溶媒(1種類又は複数種類))を約70〜85℃の温度まで加熱した後、室温まで冷却する。あるいは、この態様において、該組み合わされた混合物を75〜80℃の温度まで加熱した後、室温まで冷却する。あるいは、この態様において、該組み合わされた混合物を約75℃、76℃、77℃、78℃、79℃又は80℃の温度まで加熱した後、室温まで冷却する。あるいは、この態様において、該組み合わされた混合物を約77℃の温度まで加熱した後、室温まで冷却する。
【0038】
代替的に、該結晶質形態は、固体非晶質形態を温度サイクリング(例えば、245℃以下での示差走査熱量測定による当該サンプルの加熱/冷却サイクリング))に付すことによって、得ることができる。
【0039】
本発明の調製方法は、本発明の結晶質形態の結晶種を添加することも含み得る。
【0040】
1態様において、本発明は、本発明による調製方法で製造された場合の本発明の結晶質形態を提供する。
【0041】
先に記載したように、本発明の結晶質形態は、多くの治療用途、特に、血漿カリクレインが介在している疾患又は症状の処置における治療用途を有している。
【0042】
従って、本発明は、治療において使用するための、本明細書中で定義されているN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態を提供する。好ましい実施形態では、該結晶質形態は、形態1である。
【0043】
本発明は、さらにまた、血漿カリクレインが介在する疾患又は症状を処置するための医薬の製造における、本明細書中で定義されているN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態の使用も提供する。好ましい実施形態では、該結晶質形態は、形態1である。
【0044】
本発明は、さらにまた、血漿カリクレインが介在する疾患又は症状を処置する方法において使用するための本明細書中で定義されているN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態も提供する。好ましい実施形態では、該結晶質形態は、形態1である。
【0045】
本発明は、さらにまた、血漿カリクレインが介在する疾患又は症状を処置する方法も提供し、ここで、該方法は、そのような処置を必要とする哺乳動物に治療有効量の本明細書中で定義されているN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質形態を投与することを含む。好ましい実施形態では、該結晶質形態は、形態1である。
【0046】
1態様において、血漿カリクレインが介在する該疾患又は症状は、視力障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性黄斑浮腫、遺伝性血管浮腫、糖尿病、膵臓炎(pancreatitus)、脳出血、腎症、心筋症、神経障害、炎症性腸疾患(inflammaotory bowel disease)、関節炎、炎症、敗血症性ショック、低血圧、癌、成人呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群、心肺バイパス手術及び手術後の出血(bleeding from post−operative surgery)から選択される。
【0047】
1態様においては、血漿カリクレインが介在する疾患又は症状は、糖尿病性網膜症又は糖尿病性黄斑浮腫に関連した網膜血管透過性である。
【0048】
本発明に関連して、本明細書中において「処置(treatment)」について言及されている場合、それは、特に異なって示されていない限り、治療的処置、対症療法及び予防的処置に対する言及を包含する。用語「治療(therapy)」、「治療的な(therapeutic)」及び「治療的に(therapeutically)」は、同様に解釈されるべきである。
【0049】
本発明の結晶質形態は、単独で投与し得るか、又は、1種類以上の別の薬物と組合せて投与し得る。一般に、それは、1種類以上の製薬上許容される賦形剤と合わせられた製剤として投与される。用語「賦形剤(excipient)」は、本明細書中においては、機能的特性(即ち、薬物放出速度制御)及び/又は非機能的特性(即ち、加工助剤又は希釈剤)を当該製剤に付与し得る、本発明の化合物(1種類又は複数種類)以外の成分について記述するために使用される。賦形剤の選択は、特定の投与方法、溶解性及び安定性に対する賦形剤の効果並びに投与形態の種類などの要因に大きく依存する。
【0050】
別の態様において、本発明の化合物は、網膜のレーザー治療と組み合わせて投与することができる。糖尿病性黄斑浮腫を治療するための、レーザー療法とVEGF阻害薬の硝子体内注射との組合せは知られている(Elman M, Aiello L, Beck R, et al. “Randomized trial evaluating ranibizumab plus prompt or deferred laser or triamcinolone plus prompt laser for diabetic macular edema” .Ophthalmology. 27 April 2010)。
【0051】
本発明の結晶質形態を送達するのに適した医薬組成物及びそれらの調製方法については、当業者は容易に理解することができる。そのような組成物及びそれらの調製方法は、例えば、「Remington’s Pharmaceutical Sciences, 19th Edition (Mack Publishing Company, 1995)」の中に見いだすことができる。
【0052】
ヒト患者に投与する場合、本発明の結晶質形態の総1日用量は、典型的には、0.01mg〜1000mgの範囲、又は、0.1mg〜250mgの範囲、又は、1mg〜50mgの範囲であるが、もちろん、投与方法に依存する。硝子体内注射によって投与する場合、さらに低い、眼1つ当たり0.0001mg(0.1μg)〜0.2mg(200μg)の用量、又は、眼1つ当たり0.0005mg(0.5μg)〜0.05mg(50μg)の用量が想定される。
【0053】
該総1日用量は、単回投与又は分割投与で投与することができ、そして、医師の裁量によって、本明細書中に記載されている典型的な範囲の外も可能である。これらの用量は、約60kg〜70kgの体重を有する平均的なヒト被検者に基づいている。医師は、体重がこの範囲の外にある被検者(例えば、幼児及び高齢者)に対する用量を容易に決定することができる。
【0054】
従って、本発明は、上記で定義されているN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の結晶質固体形態及び製薬上許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。好ましい実施形態では、該結晶質固体形態は、形態1である。
【0055】
該医薬組成物は、例えば、点眼剤、クリーム剤、溶液剤、懸濁液剤、ヘプタフルオロアルカン(HFA)エーロゾル剤及び乾燥粉末製剤などの形態で、局所的に(例えば、眼に、皮膚に、又は、肺及び/若しくは気道に)投与し得る;又は、例えば、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、散剤又は顆粒剤の形態で経口投与することによって、全身的に投与し得る;又は、溶液剤又は懸濁液剤の形態で非経口投与することによって投与し得る;又は、皮下投与によって投与し得る;又は、坐剤の形態で直腸内投与することによって投与し得る;又は、経皮的に投与し得る。
【0056】
本発明の1実施形態では、該活性成分は、経口的に投与される。経口投与は、嚥下(これによって、該化合物は、胃腸管内に入る)、及び/又は、口腔投与、舌投与若しくは舌下投与(これによって、該化合物は、口から直接血流内に入る)を包含し得る。
【0057】
経口投与に適した製剤としては、以下のものなどがある:固体プラグ製剤(solid plugs)、固体微粒子製剤(solid microparticulates)、半固体製剤及び液体製剤(これは、多相系又は分散系を包含する)、例えば、錠剤;マルチ粒子若しくはナノ粒子、液体、エマルション又は粉末を含む軟カプセル剤又は硬カプセル剤;ロゼンジ剤(これは、液体が充填されているものを包含する);咀嚼剤(chews);ゲル剤;高速分散性投与形態;フィルム剤;オビュール剤(ovules);スプレー剤;及び、口腔内/粘膜付着性パッチ剤。
【0058】
経口投与に適した製剤は、該結晶質形態を即時放出性様式又は徐放性様式で送達するように設計することもでき、その際、その放出プロフィールは、遅延型、パルス型、制御型、持続型若しくは遅延且つ持続型であることが可能であるか、又は、当該結晶質形態の治療効果を最適化するように改変することが可能である。化合物を徐放性様式で送達する方法は当技術分野では知られており、そして、そのような方法としては、当該化合物と一緒に製剤してその化合物の放出を制御することが可能な低速放出性ポリマーなどがある。
【0059】
徐放性ポリマーの例としては、当該化合物を拡散によって又は拡散とポリマー浸食の組合せによって放出させるために使用され得る分解性ポリマー及び非分解性ポリマーなどがある。徐放性ポリマーの例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ポリメタクリレート、ポリエチレンオキシド及びポリエチレングリコールなどを挙げることができる。
【0060】
液体(これは、多相系及び分散系を包含する)製剤としては、エマルション剤、懸濁液剤、溶液剤、シロップ剤及びエリキシル剤などがある。そのような製剤は、軟カプセル剤又は硬カプセル剤(例えば、ゼラチン製又はヒドロキシプロピルメチルセルロース製)の中の充填剤として提供されることができ、そして、典型的には、担体(例えば、水、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルロース又は適切な油)並びに1種類以上の乳化剤及び/又は懸濁化剤を含む。液体製剤は、さらにまた、例えばサシェ剤から、固体を再構成することによって調製することもできる。
【0061】
本発明の結晶質形態は、速溶解性、速崩壊製投与形態の中で、例えば、「Liang and Chen, Expert Opinion in Therapeutic Patents, 2001, 11(6), 981−986」に記載されている速溶解性、速崩壊製投与形態の中で、使用することもできる。
【0062】
錠剤の製剤については、「Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, Vol.1, by H. Lieberman and L. Lachman (Marcel Dekker, New York, 1980)」の中で論じられている。
【0063】
本発明について、以下の非限定的な実施例によって例証する。該実施例の中では、以下の図が供されている。
【実施例】
【0064】
一般的な実験に関する詳細
H NMRスペクトルは、Brucker Avance III(400MHz)分光計で、重水素溶媒に関して室温で記録した。
【0065】
分子イオンはLCMSを用いて得たが、そのLCMSは、Chromolith Speedrod RP−18eカラム(50×4.6mm)を使用し、11分間にわたる0.1%HCOH/HOの中への10%から90%までの0.1%HCOH/MeCNの直線勾配、流速1.5mL/分で実施した。データは、Thermofinnigan Surveyor LCシステムに連結した、エレクトロスプレーイオン化によるThermofinnigan Surveyor MSQ質量分析計を用いて収集した。
【0066】
化学名は、ISIS drawパッケージ(MDL Information Systems製)の一部として提供されたAutonomソフトウェアを用いて作成した。
【0067】
全ての溶媒及び市販試薬は、受け取ったままの状態で使用した。
【0068】
赤外スペクトルは、標準的な吸光度の構成に設定されたシステムを使用して、臭化カリウムを用いて調製されたサンプルを用いて測定し、4000cm−1から400cm−1まで走査した。
【0069】
X線粉末回折パターンは、Cu−Kα線(45kV、40mA)、θ−θゴニオメーター、集束鏡、発散スリット(1/2”)、入射ビームと発散ビームの両方におけるソーラースリット(4mm)及びPIXcel検出器を使用するPANalytical回折計で収集した。データ収集に使用したソフトウェアは、「X’Pert Data Collector, version 2.2f」であり、データは、「X’Pert Data Viewer, version 1.2d」を用いて提供された。
【0070】
XRPDパターンは、PANalytical X’Pert PROを使用する周囲条件下でのトランスミッションフォイルサンプルステージ(transmission foil sample stage)(ポリイミド−Kapton、厚さ12.7μmのフィルム)によって、周囲条件下で得た。データ収集範囲は、連続走査速度0.202004°s−1で、2.994−35°2θであった。
【0071】
DSCデータは、45の位置のサンプルホルダーを備えたPerkinElmer Pyris 4000 DSCで収集した。その機器は、認定インジウムを用いて、エネルギーと温度の校正に関して校合した。所定量(0.5−3.0mg)のサンプルをアルミニウム製ピンホールパン(pin holed aluminium pan)の中に置き、そして、20℃×分−1で30℃から350℃まで加熱するか、又は、指示されている実験として変更した。全サンプルに対して、60mL×分−1での乾燥窒素のパージを維持した。当該機器の制御、データ収集及び解析は、Pyris Software v9.0.1.0203を用いて実施した。
【0072】
N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(形態1)
【0073】
方法
A. {(S)−1−[4−(tert−ブトキシカルボニルアミノ−メチル)−ベンジルカルバモイル]−2−フェニル−エチル}−カルバミン酸ベンジルエステル
(S)−2−ベンジルオキシカルボニルアミノ−3−フェニル−プロピオン酸2,5−ジオキソ−ピロリジン−1−イルエステル(4.25g、10.72mmol)をCHCl(100mL)に溶解させた。この溶液を0℃まで冷却した。1−(N−Boc−アミノメチル)−4−(アミノメチル)ベンゼン(2.79g、11.79mmol)を添加した後、トリエチルアミン(3.25g、32.16mmol)を添加した。0℃〜室温で18時間経過した後、反応混合物をクロロホルム(100mL)で希釈し、NaHCO(1×30mL)、水(1×30mL)、ブライン(1×30mL)で洗浄し、脱水し(NaSO)、減圧下で蒸発させて、黄色の油状物を得た。その残渣を石油エーテル(60−80℃)とEtOAcを用いて摩砕して、白色の固体〔これは、{(S)−1−[4−(tert−ブトキシカルボニルアミノ−メチル)−ベンジルカルバモイル]−2−フェニル−エチル}−カルバミン酸ベンジルエステル(3.88g、7.49mmol、70%)であると確認された〕を得た。
[M+H]=518.28、540.32(M+Na)。
【0074】
B. {4−[((S)−2−アミノ−3−フェニル−プロピオニルアミノ)−メチル]−ベンジル}−カルバミン酸tert−ブチルエステル
{(S)−1−[4−(tert−ブトキシカルボニルアミノ−メチル)−ベンジルカルバモイル]−2−フェニル−エチル}−カルバミン酸ベンジルエステル(3.66g、7.08mmol)をメタノール(200mL)に溶解させた。この溶液を、10%Pd/C(500mg)上で、大気圧下及び室温で1時間水素化し、その後、触媒をセライトを通して濾去した。その残渣をメタノール(30mL)で洗浄し、その濾液を合して減圧下で蒸発させて、白色の固体〔これは、{4−[((S)−2−アミノ−3−フェニル−プロピオニルアミノ)−メチル]−ベンジル}−カルバミン酸tert−ブチルエステル(2.627g、6.85mmol、97%)であると確認された〕を得た。
[M+H]=384.37。
【0075】
C. (R)−2−アミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオン酸
(R)−2−ブトキシカルボニルアミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオン酸(4.0g、12.93mmol)をジオキサン(150mL)の中の4M HClに溶解させた。室温で1時間経過した後、溶媒を減圧下で除去して、白色の固体〔これは、(R)−2−アミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオン酸塩酸塩(3.18g、12.9mmol、100%)であると確認された〕を得た。
[M+H]=210.18。
【0076】
D. (R)−2−ベンジルオキシカルボニルアミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオン酸
水酸化ナトリウム(1.14g、28.38mmol)を水(100mL)に溶解させた溶液に、(R)−2−アミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオン酸塩酸塩(3.17g、12.9mmol)を溶解させた。ジオキサン(100mL)の中のクロロギ酸ベンジル(2.64g、15.48mmol)を添加した。その反応混合物を室温で18時間撹拌し、その後、ジオキサンを減圧下で除去した。その水性残渣をジエチルエーテル(1×100mL)で洗浄し、1M HClで酸性化してpH2とし、クロロホルム(2×200mL)で抽出した。その抽出物を合して、水(1×50mL)、ブライン(1×50mL)で洗浄し、脱水し(NaSO)、減圧下で蒸発させて、白色の固体〔これは、(R)−2−ベンジルオキシカルボニルアミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオン酸(4.0g、11.65mmol、90%)であると確認された〕を得た。
[M+H]=344.20。
【0077】
E. [(R)−1−{(S)−1−[4−(tert−ブトキシカルボニルアミノ−メチル)−ベンジルカルバモイル]−2−フェニル−エチルカルバモイル}−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−カルバミン酸ベンジルエステル
{4−[((S)−2−アミノ−3−フェニル−プロピオニルアミノ)−メチル]−ベンジル}−カルバミン酸tert−ブチルエステル(2.63g、6.86mmol)をCHCl(100mL)とDMF(5mL)に溶解させた。この溶液を0℃まで冷却した。(R)−2−ベンジルオキシカルボニルアミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオン酸(2.59g、7.54mmol)を添加した後、HOBt(1.11g、8.23mmol)及びトリエチルアミン(2.08g,20.57mmol)を添加した。次いで、水溶性カルボジイミド(1.45g、7.54mmol)を添加した。0℃〜室温で18時間経過した後、反応混合物をクロロホルム(200mL)で希釈し、NaHCO(1×50mL)、水(1×50mL)、ブライン(1×50mL)で洗浄し、脱水し(NaSO)、減圧下で蒸発させて、黄色の油状物を得た。その残渣を酢酸エチル及び石油エーテル(60−80℃)を用いて磨砕して、白色の固体〔これは、[(R)−1−{(S)−1−[4−(tert−ブトキシカルボニルアミノ−メチル)−ベンジルカルバモイル]−2−フェニル−エチルカルバモイル}−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−カルバミン酸ベンジルエステル(3.55g、5.01mmol、73%)であると確認された〕を得た。
[M+H]=709.34。
【0078】
F. [4−({(S)−2−[(R)−2−アミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオニルアミノ]−3−フェニル−プロピオニルアミノ}−メチル)−ベンジル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル
[(R)−1−{(S)−1−[4−(tert−ブトキシカルボニルアミノ−メチル)−ベンジルカルバモイル]−2−フェニル−エチルカルバモイル}−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−カルバミン酸ベンジルエステル(3.55g、5.00mmol)をメタノール(200mL)に溶解させた。この溶液を10%Pd/C(500mg)上で、大気圧下及び室温で1時間水素化し、その後、触媒をセライトを通して濾去しした。残渣をメタノール(30mL)で洗浄し、その濾液を合してを減圧下で蒸発させて、白色の固体〔これは、[4−({(S)−2−[(R)−2−アミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオニルアミノ]−3−フェニル−プロピオニルアミノ}−メチル)−ベンジル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(2.8g、4.87mmol、97%)であると確認された〕を得た。
[M+H]+=575.37
【0079】
G. [4−({(S)−2−[(R)−2−ベンゾイルアミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオニルアミノ]−3−フェニル−プロピオニルアミノ}−メチル)−ベンジル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル
[4−({(S)−2−[(R)−2−アミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオニルアミノ]−3−フェニル−プロピオニルアミノ}−メチル)−ベンジル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(3.45g、5.99mmol)をジクロロメタン(150mL)に溶解させた。塩化ベンゾイル(1.01g、7.19mmol)を添加した後、トリエチルアミン(1.82g、17.98mmol)を添加した。その反応混合物を室温で5時間撹拌し、CHCl(150mL)で希釈し、その溶液を0.3M KHSO(1×50mL)、飽和NaHCO(1×50mL)、水(1×50mL)、ブライン(1×50mL)で洗浄し、脱水し(Na2SO)、減圧下で蒸発させた。その残渣を石油エーテル(60−80℃)及びEtOAcを用いて磨砕して、白色の固体〔これは、[4−({(S)−2−[(R)−2−ベンゾイルアミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオニルアミノ]−3−フェニル−プロピオニルアミノ}−メチル)−ベンジル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(3.06g、4.51mmol、75%)であると確認された〕を得た。
[M+H]=679.34。
【0080】
H. N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(形態1)
[4−({(S)−2−[(R)−2−ベンゾイルアミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオニルアミノ]−3−フェニル−プロピオニルアミノ}−メチル)−ベンジル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(10.0g、14.7mmol)を、室温で、塩化水素/酢酸エチル(3.7M、250mL)の中で撹拌した。2時間結果した後、その今後異物を濾過し、酢酸エチル(2×50mL)で洗浄し、脱水して、固体(7.9g)を得た。その固体の一部(0.106g)をアセトニトリル(2.1mL)と水(0.32mL)の混合物の中に懸濁させ、撹拌し、77℃まで加熱した。溶解したことが観察されるまで、その混合物に追加の水のアリコート(0.05mL)を連続して添加した。次いで、その撹拌下にある混合物を室温まで一晩冷却した。生じた固体を濾過することで単離し、減圧下で40℃で乾燥させて、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(形態1)(0.067g、3.41mmol、81%)を得た。
[M+H]=579.34;
H NMR:(CDOD),1.40(3H,t,J=6.9Hz),2.91−2.99(3H,m),3.14−3.19(1H,m),4.02(2H,q,J=6.9Hz),4.08(2H,s),4.41(1H,d,J=15.5Hz),4.51(1H,d,J=15.5Hz),4.66−4.69(2H,m),6.82(2H,d,J=8.4Hz),7.10(2H,d,J=8.2Hz),7.18−7.20(2H,m),7.25−7.38(7H,m),7.44−7.59(3H,m),7.72(2H,d,J=7.8Hz)。
【0081】
N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(形態1)のXRPDディフラクトグラムは、図1に示されている。
【0082】
【表1】
【0083】
赤外分光法
形態1のIRスペクトルは、約3274、3027、2976、2928、1651、1636、1536、1512、1243及び703cm−1の波長に、ピークを含む。そのスペクトルは、図2に示されている。
【0084】
示差走査熱量測定(DSC)
形態1に関するDSCデータは、図3に示されている。
【0085】
重量蒸気吸着
IGAsorp Systems Software V6.50.48によって制御されているHiden Isochema水分吸着分析計(モデル IGAsorp)を用いて、吸着等温線を得た。サンプルは、計器制御によって一定の温度(25℃)に維持した。湿度は、乾燥窒素流と湿潤窒素流を混合させることによって制御した(総流量 250mL×分−1)。その計器は、校正された3種類のRotronic塩溶液(10−50−88%)を測定することによって、相対湿気含有量に関して校合した。微量天秤(精度 +/−0.005mg)によって、サンプルの重量変化を湿度の関数としてモニターした。確定された量のサンプルを、周囲条件下で、風袋重量が量られているメッシュステンレス鋼バスケットの中に置いた。全実験サイクルは、一定温度(25℃)のもとで、10%RHインターバルで、0〜90%範囲にわたる3回の走査(吸着、脱着及び吸着)で構成された(各湿度レベルに対して60分)。
【0086】
形態1に関するGVSデータは、図4に示されている。
【0087】
N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(形態2)
【0088】
方法
[4−({(S)−2−[(R)−2−ベンゾイルアミノ−3−(4−エトキシ−フェニル)−プロピオニルアミノ]−3−フェニル−プロピオニルアミノ}−メチル)−ベンジル]−カルバミン酸tert−ブチルエステル(5.0g)を、窒素雰囲気下、酢酸エチル(15mL)に懸濁させた。乾燥塩化水素を酢酸エチルに溶解させた溶液(3.7M、60mL)をその懸濁液に装入し、その混合物を室温で撹拌した。合計で2時間撹拌した後、得られた懸濁液を濾過し、酢酸エチル(2×25mL)で洗浄した。その固体を、減圧下、40℃で60時間乾燥させて、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩をオフホワイト色の固体(4.14g、収率91%)として得た。アリコート(6mg)をアルミニウム製ピンホールパン(pin holed aluminium pan)の中に入れて密閉した。そのパンを、1分間当たり20℃で30℃から256℃までの熱サイクルを用いて加熱し、次いで、冷却して30℃まで戻した(1分間当たり50℃)。そのサイクルの間、サンプルへの60mL/分の窒素流量を維持した。DSCパンから白色の固体(6mg)を単離して、N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(形態2)を得た。
【0089】
N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(形態2)のXRPDディフラクトグラムは、図5に示されている。
【0090】
【表2】
形態2に関するDSCデータは、図6に示されている。
【0091】
生物学的活性
本発明の結晶質形態の、血漿カリクレインを阻害する能力は、以下の生物学的アッセイを用いて測定することができる。
【0092】
血漿カリクレインに対するKiの測定
インビトロにおける血漿カリクレイン阻害活性を、標準的な公表されている方法(例えば、以下のものを参照されたい:「Johansen et al., Int. J. Tiss. Reac. 1986, 8, 185」、「Shori et al., Biochem. Pharmacol., 1992, 43, 1209」、「Sturzebecher et al., Biol. Chem. Hoppe−Seyler, 1992, 373, 1025」)を用いて測定した。ヒト血漿カリクレイン(Protogen)を、37℃で、蛍光発生基質「H−DPro−Phe−Arg−AFC」及び種々の濃度の被験化合物と一緒にインキュベートした。410nmにおける吸光度(optical absorbance)の変化を測定することにより残留酵素活性(初期反応速度)を決定し、被験化合物に関するKi値を求めた。
【0093】
このアッセイにおいて試験した場合、形態1は、0.010μMのKi(ヒトPkal)を示した。
【0094】
該結晶質形態は、以下の生物学的アッセイを用いて、関連する酵素KLK1に対する阻害活性に関してスクリーニングすることもできる。
【0095】
KLK1に対するIC50の測定
インビトロでにおけるKLK1阻害活性を、標準的な公表されている方法(例えば、以下のものを参照されたい:「Johansen et al., Int. J. Tiss. Reac. 1986, 8, 185」、「Shori et al., Biochem. Pharmacol., 1992, 43, 1209」、「Sturzebecher et al., Biol. Chem. Hoppe−Seyler, 1992, 373, 1025)を用いて測定した。ヒトKLK1(Callbiochem)を、37℃で、蛍光発生基質「H−DVal−Leu−Arg−AFC」及び種々の濃度の被験化合物と一緒にインキュベートした。410nmにおける吸光度(optical absorbance)の変化を測定することにより残留酵素活性(初期反応速度)を決定し、被験化合物に関するIC50値を求めた。
【0096】
このアッセイにおいて試験した場合、形態1は、>10μMのIC50(ヒトKLK1)を示した。
【0097】
該結晶質形態は、以下の生物学的アッセイを用いて、関連する酵素プラスミン、トロンビン、トリプシン、第Xa因子及び第XIIa因子に対する阻害活性に関してスクリーニングすることもできる。
【0098】
酵素選択性の決定
ヒトセリンプロテアーゼ酵素プラスミン、トロンビン、トリプシン、第Xa因子及び第XIIa因子を、適切な蛍光発生基質を用いて、酵素活性に関してアッセイした。プロテアーゼ活性は、基質から放出される蛍光の蓄積を5分間にわたってモニタリングすることにより測定した。1分間当たりの蛍光増大の線形速度を、活性パーセント(%)として表した。各基質の切断に対するKmを、ミカエリス・メンテン式の標準的な変換によって求めた。化合物の阻害薬アッセイは、基質のKm濃度で実施し、阻害されていない酵素活性(100%)の50%阻害(IC50)をもたらす阻害薬の濃度として、活性を計算した。
【0099】
N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩をこれらのアッセイにおいて試験した場合、以下のデータが得られた。
【0100】
【表3】
【0101】
カルボニックアンヒドラーゼIによって誘発させた網膜血管透過性モデル
N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の活性は、ラットにおけるこのインビボモデルを用いて確立させた。ラットに対して、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、CH−3457(血漿カリクレイン阻害薬陽性対照)(10μM)又はN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(「被験化合物」)(1μM)の硝子体内注射(5μL)を、時間0において実施した。30分間経過した後、PBS又はCA−I(200ng/眼)の2回目の硝子体内注射(5μL)を行なった。15分間経過した後、10%フルオレセインナトリウムを注入し、そして、最初のIVT注射の75分後に、硝子体の蛍光光度分析によって、網膜血管透過性(RVP)を測定した。N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(「被験化合物」)に関するデータは、図7に示されている。この図において、下側の点線は、PBS/PBS後の基底RVPを示しており、上側の点線は、最大刺激を示している。1μMのN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩単独の硝子体内注射では、PBS単独と比べて、基底RVPに対して効果はなかった(3.29±0.21 対 3.64±0.48)。N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の硝子体内注射は、RVP(CA−I注射によって刺激された)を53±21%低減させた。
【0102】
薬物動態学
N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の薬物動態学的研究を実施して、有色(ダッチベルテッド)ウサギにおける単回IVT投与後の眼及び全身の薬物動態について評価した。1種類の用量レベル当たり6匹のウサギに対して、4.2μg/mLのN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の製剤(リン酸緩衝生理食塩水中)の50μL(眼1つ当たり210ng)の単回の両側IVT注射を行なった。各時間点(IVT投与の4時間後、8時間後、24時間後、48時間後、96時間後、及び、168時間後)において、1匹のウサギを安楽死させ、硝子体、網膜/脈絡膜及び房水の中のN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の眼組織濃度を測定した。逐次、血液試料を生存ウサギにおいて採取した。
【0103】
眼組織濃度データは、図8に示されている。この図において、各眼組織濃度に対する実線は、各ウサギの左眼と右眼の平均値である。N−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩(「被験化合物」)の眼組織濃度における減少は、7日間にわたって最小であった。IVT投与後のN−[(R)−1−[(S)−1−(4−アミノメチル−ベンジルカルバモイル)−2−フェニル−エチルカルバモイル]−2−(4−エトキシ−フェニル)−エチル]−ベンズアミド塩酸塩の血漿濃度は、すべての時間点において、1ng/mL未満であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8