(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367275
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ダンパー体およびダンパー体の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20180723BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20180723BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
F16F15/02 L
E04H9/02 321F
F16F7/12
F16F15/02 K
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-161350(P2016-161350)
(22)【出願日】2016年8月19日
(65)【公開番号】特開2018-28373(P2018-28373A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2018年2月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】笠井 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松田 和浩
【審査官】
大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−232234(JP,A)
【文献】
特開2015−017413(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3090789(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
F16F 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の骨組を構成する、平行する2本の柱と、その上下に平行する横架材と、からなる接合構造の制振に用いるダンパー体であって、
角形鋼管からなる弾塑性変形部を有し、
前記角型鋼管は、対向する両側面を前記角形鋼管の軸方向に垂直な方向のせん断力がかかるせん断力作用面とし、前記せん断力作用面と直交する面はそれぞれ、中央部から前記せん断力作用面にむけて漸次断面積が広くなる弾塑性変形面と
し、
前記弾塑性変形面は、中央に円孔を有し、
前記角型鋼管の軸方向の長さをLとし、前記弾塑性変形面のうち前記軸方向と直交する方向の一辺の長さをBとし、前記角形鋼管の厚さをtとしたとき、
前記円孔の直径が
よりも大きく、かつ、前記円孔の端部から前記せん断力作用面までの距離が0.05B+1.35t以上、前記円孔の端部から前記軸方向と直交する方向の一辺までの距離が0.05L以上であることを特徴とする、
ダンパー体。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパー体の製造方法であって、
前記弾塑性変形面は、一方の面から他方の面にかけて削孔具を貫通して前記円孔を設けて形成することを特徴とする、
ダンパー体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建物などの構造物の制振に用いるダンパー体およびダンパー体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震や強風等によって構造物に生じた振動を低減する手段として、建物の骨組みを構成する2本の柱A、Bおよび2本の横架材C、Dからなる接合構造に制振部材を適用して制振構造を構築することが一般的に行われている。
この制振部材は、一方の柱Aの高さ方向中間部に取り付けるダンパー体Eと、両端を他方の柱Bおよびダンパー体Eに取り付けるブレース材Fと、を備えている(
図6)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ダンパー体Eとしては、内包する粘弾性体により制振を行うもののほか、複数のH型鋼のウェブ部を柱A、Bの振動に合わせて弾塑性変形させて制振を行うものが知られている。
このとき、ウェブ部は変形時の応力集中を回避するために、中央部に向かって漸次幅が狭くなるように形成する(
図7)。
【0004】
上記したダンパー体には、次のような問題点がある。
(1)H型鋼のウェブ部を狭くする形状は削り出しにより作成するため、工数がかかりコストが高くなる。
(2)ウェブ部の変形によりエネルギーを吸収して制振を行うため、エネルギ−吸収能力を上げるためにはH型鋼の本数を増やす必要がある
【0005】
本発明は、上述のようなダンパー体の問題を解決するためになされたもので、安価でエネルギー吸収能力の高いダンパー体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のような課題を解決するために、本願の第1発明は、構造物の骨組を構成する、平行する2本の柱と、その上下に平行する横架材と、からなる接合構造の制振に用いるダンパー体であって、角形鋼管からなる弾塑性変形部を有し、前記角型鋼管は、対向する両側面を前記角形鋼管の軸方向に垂直な方向のせん断力がかかるせん断力作用面とし、前記せん断力作用面と直交する面はそれぞれ、中央部から前記せん断力作用面にむけて漸次断面積が広くなる弾塑性変形面と
し、前記弾塑性変形面は、中央に円孔を有
し、前記角型鋼管の軸方向の長さをLとし、前記弾塑性変形面のうち前記軸方向と直交する方向の一辺の長さをBとし、前記角形鋼管の厚さをtとしたとき、前記円孔の直径が
よりも大きく、かつ、前記円孔の端部から前記せん断力作用面までの距離が0.05B+1.35t以上、前記円孔の端部から前記軸方向と直交する方向の一辺までの距離が0.05L以上であることを特徴とする、ダンパー体を提供する。
本願の第
2発明は、第
1発
明のダンパー体の製造方法であって、前記弾塑性変形面は、一方の面から他方の面にかけて削孔具を貫通して前記円孔を設けて形成することを特徴とする、ダンパー体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のダンパー体およびその製造方法は、上記した課題を解決するための手段により、次のような効果のうちの少なくとも一つを得ることができる。
(1)ダンパー体を角型鋼管とすることで、弾塑性変形面が上面と下面の二面となり、少ない本数で高いエネルギー吸収能力を得られる。
(2)角型鋼管に孔を形成するのみであるため、容易に製造でき、コストが低減される。
(3)削孔具を一方の面から他方の面にかけて貫通して孔を形成するため、一工程で弾塑性変形面が形成され、コストが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のダンパー体を用いた制振構造の説明図
【
図5】その他実施例にかかる本発明のダンパー体を用いた制振構造の説明図
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0010】
(1)ダンパー体を用いる制振装置の設置条件
本発明のダンパー体1を用いる制振装置は、構造物の骨組を構成する、平行する2本の柱A、Bに生じた振動を吸収し、制振するためのものである。
柱A、Bはそれぞれ、上下に平行する2本の横架材、例えば梁Cと土台Dとに、回動可能に接合されている。
制振装置は、本発明のダンパー体1と、2本のブレース材2とを備えている(
図1、5、6)。
【0011】
(2)ダンパー体
ダンパー体1は、一方の柱、例えば柱Aに取り付ける柱取付部11と、ブレース材2を取り付けるブレース材取付部12と、柱取付部11とブレース材取付部12との間に高さ方向に並列に接合した弾塑性変形部13と、から構成する(
図1、2)。
柱取付部11は平板状である。
ブレース材取付部12は断面T字状であり、ウェブ面にブレース材2の端部を固定し、フランジ面に弾塑性変形部13を接合する。
【0012】
(2.1)弾塑性変形部
弾塑性変形部13は、角型鋼管131を高さ方向に所定の間隔をもって並列して構成する。
角型鋼管131は、対向する両側面132a、132bをそれぞれ、柱取付部11およびブレース材取付部12に溶接等により接合する。
角型鋼管131の上面133および下面134には、各面の中心を円心とする円孔135を形成する。
上面133および下面134は、円孔135を形成することにより、中央部から両端の側面132にむけて漸次面積が広くなる。
【0013】
(2.2)弾塑性変形部の寸法
弾塑性変形部13は、円孔135による欠損が小さすぎると前記せん断力作用面付近で脆性破壊が起こり、逆に大きすぎれば耐力が低下してしまう。
角形鋼管131の軸方向の長さLとし、円孔135を形成する面(上面133、134)のうち角形鋼管131の軸方向と直交する方向の一辺の長さをBとし、角形鋼管131の厚さをtとしたときに、円孔135の直径が
よりも大きく、かつ、円孔135の端部から側面132までの距離が0.05B+1.35t以上、円孔135の端部から角形鋼管131の軸方向と直交する方向の一辺までの距離が0.05L以上に構成するのが好適である(
図3)。
【0014】
(2.3)弾塑性変形部の変形
弾塑性変形部13の角型鋼管131は、側面132aは柱取付部11を介して柱Aに固定し、側面132bはブレース材取付部12およびブレース材2を介して柱Bに固定されている。
このため、振動により柱Aと柱Bが相対変位すると、側面132a、132bがせん断力作用面となり、側面132a、132b間に直交して位置する上面133および下面134が弾塑性変形し、振動のエネルギーを吸収して制振をおこなう(
図4)。上面133および下面134は、中央部から両側面132にむけて漸次面積が広くなっており、振動時の両側面付近が応力集中により破断することなく、弾塑性変形する。
そして、繰り返しの振動または相対変位が大きくなると、上面133および下面134は破断する。
このように、上面133および下面134は弾塑性変形面として機能する。
【0015】
(2.4)弾塑性変形面の形成
上面133および下面134には円孔135を形成するが、これは一方の面から他方の面、例えば上面133から下面134にかけて、コアドリルやホールソー、ドリル等を貫通して形成する。上面133と下面134を一度に加工して円孔135を形成するのみであるため、容易に製造でき、コストが低減される。
【0016】
(3)ブレース材
ブレース材2は、金属材料を柱状に形成したものである。
ブレース材2は、一方の端部にダンパー体取付部21を設け、他方の端部は柱Bに取り付ける柱取付部22を設けて構成する。
ダンパー体取付部21は平板状とし、ダンパー体1のブレース材取付部12と当接した状態でボルト等で固定して、ブレース材2をダンパー体1に取り付ける
【0017】
[その他実施例]
(1)その他の制振装置への適用
上記実施例においては、ダンパー体1を柱Aに取り付けて2本のブレース材2と連結して制振装置としたが、4本のブレース材2の中央にダンパー体1を取り付ける構成(
図5a)や、2枚の支持壁3の間にダンパー体1を取り付ける構成(
図5b、c)、支持壁3と柱A、B、梁C、土台Dの間にダンパー体1を取り付ける構成(
図5d)など、さまざまな構成に適用することができる。
【0018】
(2)その他の弾塑性変形面の形成
上記実施例においては、上面133および下面134は、円孔135を一つ形成して弾塑性変形面としたが、中央部から両端の側面132にむけて漸次面積が広くなるように、複数の円孔136を形成してもよい。
いずれの円孔136も、一方の面から他方の面、例えば上面133から下面134にかけて、コアドリルやホールソー、ドリル等を貫通して形成するため、容易に製造でき、コストが低減される。
【符号の説明】
【0019】
1 ダンパー体
11 柱取付部
12 ブレース材取付部
13 弾塑性変形部
131 角型鋼管
132 側面
133 上面
134 下面
135 円孔
136 円孔(複数)
2 ブレース材
21 ダンパー体取付部
22 柱取付部
3 支持壁