特許第6367285号(P6367285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367285
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】抗菌組成物及び菌の発育抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 65/10 20090101AFI20180723BHJP
   A01N 35/04 20060101ALI20180723BHJP
   A01N 43/78 20060101ALI20180723BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20180723BHJP
   A23L 3/3472 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   A01N65/10
   A01N35/04
   A01N43/78 A
   A01P3/00
   A23L3/3472
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-179108(P2016-179108)
(22)【出願日】2016年9月14日
(62)【分割の表示】特願2012-151749(P2012-151749)の分割
【原出願日】2012年7月5日
(65)【公開番号】特開2017-19849(P2017-19849A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年10月11日
【審判番号】不服2017-16089(P2017-16089/J1)
【審判請求日】2017年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000223090
【氏名又は名称】三菱商事フードテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(74)【代理人】
【識別番号】100141575
【弁理士】
【氏名又は名称】慶田 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】森川 瑤子
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 齊藤 真由美
【審判官】 守安 智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−183273(JP,A)
【文献】 特開2005−245270(JP,A)
【文献】 特開2005−80560(JP,A)
【文献】 特願2012−151749号(特許第6063156号公報)
【文献】 特願2012−151749号の審査において平成27年9月30日付けで提出された刊行物提出書
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00-65/48, A01P 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
明日葉抽出物およびビタミンB1を有効成分として含む抗菌組成物。
【請求項2】
前記明日葉抽出物が明日葉ポリフェノールであることを特徴とする、請求項1に記載の抗菌組成物。
【請求項3】
前記明日葉抽出物が明日葉カルコンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗菌組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌組成物及び菌の発育抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、菌、特に乳酸菌に対して抗菌活性のある物質として、ビタミンB1や、カテキン類などの植物由来のポリフェノールが知られていた(特開2008−173050号公報、月刊フードケミカル、2009−6、32〜37頁)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ビタミンB1は、独特のにおいや味を有するため、飲食物に対して抗菌活性を示す濃度で添加することが難しかった。
【0004】
また、植物由来のポリフェノールは、独特のにおいや味に加えて、低い水溶性、高い単価のため、飲食物に対して抗菌活性を示す濃度で添加することが難しかった。
【0005】
本発明は、有効成分が飲食物の風味などに影響を与えない程の低濃度であっても飲食物に対して十分な抗菌活性を示す抗菌組成物を提供することを目的とする。同時に、微生物や菌が増殖しやすい比較的高いpH領域であっても静菌効果を有する抗菌組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、明日葉抽出物を用いることにより、抗菌活性のあるビタミンB1の添加量が少なくても、効果的に乳酸菌に代表される菌の発育を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、第一に、明日葉抽出物およびビタミンB1を有効成分として含む抗菌組成物である。
第二に、前記明日葉抽出物が明日葉ポリフェノールであることを特徴とする、上記第一に記載の抗菌組成物である。
第三に、前記明日葉抽出物が明日葉カルコンであることを特徴とする、上記第一又は第二に記載の抗菌組成物である。
第四に、明日葉抽出物およびビタミンB1を用いて菌の発育を抑制する方法である。
第五に、前記菌が飲食物(キムチを除く)における菌であることを特徴とする、上記第四に記載の方法である。
第六に、前記菌がpH5.8〜6.7の飲食物における菌であることを特徴とする、上記第四に記載の方法である。
第七に、前記菌が乳酸菌であることを特徴とする、上記第四から第六のいずれか一つに記載の方法である。
【0008】
明日葉とは、セリ科シシウド属の植物(学名:Angelica keiskei)である。明日葉抽出物は、明日葉から抽出した物質であり、搾汁を使用してもよい。また、エタノールなどの有機溶媒で抽出される物質を濃縮・精製することにより得ることもできる。
【0009】
明日葉抽出物において抗菌有効成分は、明日葉ポリフェノールであり、当該ポリフェノールは、主成分であるカルコンの他、フラボン類、フラボノール類を含有する。
【0010】
本発明においてカルコンとは、植物ポリフェノール類であるカルコン誘導体を意味する。
【0011】
本発明において、明日葉抽出物は製剤化したものも用いることができる。たとえば、デキストリン、サイクロデキストリンなどの賦形剤を加えたもの、賦形剤とともに造粒したものも好適に利用できる。
【0012】
本発明においてビタミンB1とはチアミン、およびチアミンの塩を意味し、例えば、チアミン塩酸塩、チアミン硝酸塩、チアミン二リン酸塩、チアミンラウリル硫酸塩などが挙げられ、特にチアミンラウリル硫酸塩が好適に使用できる。
【0013】
本発明は、食品の保存において発生する微生物や菌を対象とするが、低いpHでも増殖し、効果的に静菌するのが困難な乳酸菌に対して特に有効である。
【0014】
本発明において特に有効である乳酸菌に関しては、桿菌と球菌、ホモとヘテロ等の種別は問わない。
【0015】
また、本発明では、抗菌活性を阻害しない範囲において、明日葉抽出物とビタミンB1以外に、有機酸や有機酸塩、他の静菌剤、pH調整剤を含有することができる。
【0016】
本発明における抗菌組成物の剤形は問わないが、粉末のものが輸送、保存安定性の面から好ましい。
【0017】
本発明における抗菌組成物にはデキストリン、サイクロデキストリンなどの賦形剤を加える事ができ、これら賦形剤と造粒することもできる。
【0018】
本発明における明日葉カルコンとビタミンB1の配合比には特に制限は無いが、好ましくは明日葉カルコン:ビタミンB1=1:0.25〜150であり、より好ましくは1:0.5〜100であり、最も好ましくは1:1〜75である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、低濃度のビタミンB1であっても、明日葉抽出物と併用することで、微生物や菌に対して相乗的な静菌効果を発揮し、ビタミンB1特有のにおいや味により飲食物の風味を損なうことがない。また、本発明によると、ビタミンB1単独では静菌効果が得にくい比較的高いpH領域であっても、十分な静菌効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
以下のように試料を調製した。
明日葉抽出物(「明日葉ポリフェノールCHALSAP−P8」(明日葉カルコン含量8%)、株式会社日本生物.科学研究所製)を、明日葉カルコンの最終濃度が1.6ppmになるように滅菌水で希釈して、明日葉カルコン溶液を調製した。
また、ビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩、「バイタミンSK」、シンコーサイエンス社製)の最終濃度が90ppmになるように滅菌水で希釈して、ビタミンB1溶液を調製した。
さらに、試験菌(乳酸菌:Lactobacillus Pentosus)を培地(酵母エキス0.5%(日本製薬(株)製)、ペプトン1%(日本製薬(株)製)、グルコース1%(和光純薬工業(株)製))にて30℃で24時間静置培養し、当該培養液を滅菌水で希釈して105CFU/mLに調製した菌液を作製した。
【0022】
以下のように接触試験を実施した。
滅菌した8mLの液体培地(酵母エキス0.5%、ペプトン1%、グルコース1%)に上記の各濃度に調製したビタミンB1溶液及び明日葉カルコン溶液を1mLずつ添加した。そして、105CFU/mLに調製した菌液100μLを添加(菌の終濃度103CFU/mL)後、30℃で96時間静置培養した。培地のpHは5.8であった。培養後の濁度(OD660)を測定し、0日目より0.1(107CFU/mL)以上数値が上がった場合を静菌効果なしとした。結果を表1に示す。
【0023】
なお、培養には、恒温槽として、インキュベーターMIR−154(三洋電機(株)製)を、容器として、直径18mm、長さ18cmの試験管をそれぞれ使用した。また、濁度測定には、分光光度計BACT−550(株式会社ジコー製)を用いた。
【実施例2】
【0024】
明日葉抽出物(「明日葉ポリフェノールCHALSAP−P8」(明日葉カルコン含量8%)、株式会社日本生物.科学研究所製)を、明日葉カルコンの最終濃度が4.8ppmになるように滅菌水で希釈して、明日葉カルコン溶液を調製し、ビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩、「バイタミンSK」、シンコーサイエンス社製)の最終濃度が40ppmになるように滅菌水で希釈して、ビタミンB1溶液を調製した以外は、実施例1と同じように、菌液を作製し、接触試験を実施した。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0025】
明日葉抽出物(「明日葉ポリフェノールCHALSAP−P8」(明日葉カルコン含量8%)、株式会社日本生物.科学研究所製)を、明日葉カルコンの最終濃度が8.8ppmになるように滅菌水で希釈して、明日葉カルコン溶液を調製し、ビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩、「バイタミンSK」、シンコーサイエンス社製)の最終濃度が10ppmになるように滅菌水で希釈して、ビタミンB1溶液を調製した以外は、実施例1と同じように、菌液を作製し、接触試験を実施した。結果を表1に示す。
【実施例4】
【0026】
明日葉抽出物(「明日葉ポリフェノールCHALSAP−P8」(明日葉カルコン含量8%)、株式会社日本生物.科学研究所製)を、明日葉カルコンの最終濃度が6.0ppmになるように滅菌水で希釈して、明日葉カルコン溶液を調製し、ビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩、「バイタミンSK」、シンコーサイエンス社製)の最終濃度が75ppmになるように滅菌水で希釈して、ビタミンB1溶液を調製した以外は、実施例1と同じように、菌液を作製し、接触試験を実施した。なお、培地のpHは水酸化ナトリウム(関東化学(株)製)を6mol/Lとした溶液で調整して6.7とした。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
[比較例1〜4]
以下のように試料を調製した。
明日葉抽出物(「明日葉ポリフェノールCHALSAP−P8」(明日葉カルコン含量8%)、株式会社日本生物.科学研究所製)を、明日葉カルコンの最終濃度が10.4ppmになるように滅菌水で希釈して、明日葉カルコン溶液を調製した。
また、ビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩、「バイタミンSK」、シンコーサイエンス社製)の最終濃度がそれぞれ120、130または150ppmになるように滅菌水で希釈して、3種類のビタミンB1溶液を調製した。
菌液は、実施例1と同様に作製した。
【0029】
以下のように接触試験を実施した。
滅菌した9mLの液体培地(酵母エキス0.5%、ペプトン1%、グルコース1%)に上記の各濃度に調製したビタミンB1又は明日葉カルコン液を1mLずつ添加した。そして、105CFU/mLに調製した菌液100μLを添加(菌の終濃度103CFU/mL)後、30℃で96時間静置培養した。培養後の濁度(O.D.660)を測定し、0日目より0.1(107CFU/mL)以上数値が上がった場合を静菌効果なしとした。なお、培地のpHは表2に記載のとおりであり、比較例4については水酸化ナトリウム(関東化学(株)製)を6mol/Lとした溶液で調整して6.4とした。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】
【0031】
表1と表2から、明日葉カルコンは、極めて少ない添加量でも、ビタミンB1との相乗効果が認められる。また、ビタミンB1の添加量が極めて少ない場合でも、明日葉カルコンを併用することにより、静菌効果を有することが分かる。
【0032】
一方、明日葉カルコンまたはビタミンB1を単独で用いた場合には、ある程度の添加量でも静菌効果がないことが分かる。さらに、ビタミンB1を単独で用いた場合には、静菌効果が得られる含有量では、ビタミンB1特有のにおいや味の課題を解決できない。
【0033】
また、明日葉カルコンとビタミンB1を併用することにより、ビタミンB1単独では抗菌効果が認められないpHの比較的高い領域においても抗菌活性が認められる。
【0034】
[比較例5〜7]
以下のように試料を調製した。
緑茶カテキン類(おいしいカテキンPF−TP80、(株)ファーマフーズ製)の最終濃度がそれぞれ350ppm、700ppm、1400ppmになるように滅菌水で希釈して、3種類の緑茶カテキン類溶液を調製した。
また、ビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩、「バイタミンSK」、シンコーサイエンス社製)の最終濃度がそれぞれ100ppm、50ppmになるように滅菌水で希釈して、2種類のビタミンB1溶液を調製した。
菌液は、実施例1と同様に作製した。
【0035】
以下のように接触試験を実施した。
滅菌した8mLの液体培地(酵母エキス0.5%、ペプトン1%、グルコース1%)に対し、比較例5と6については上記の各濃度に調製したビタミンB1溶液及び緑茶カテキン類溶液を1mLずつ添加し、比較例7については前記液体培地及び緑茶カテキン類溶液を1mLずつ添加した。そして、105CFU/mLに調製した菌液100μLを添加(菌の終濃度103CFU/mL)後、30℃で96時間静置培養した。培地のpHは5.8であった。培養後の液をバクテリアカウンター血球計算盤(サンリード硝子(有)製)でカウントし、107CFU/mL以上であった場合を静菌効果なしとした。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
表3から、緑茶カテキン類は、明日葉カルコンに比べて抗菌活性が極めて弱く、高濃度で添加してもビタミンB1との相乗効果は認められない。
【0038】
[比較例8〜9]
以下のように試料を調製した。
グアバポリフェノール(グアバエキス末、(株)サウスプロダクト製)の最終濃度が300ppmになるように滅菌水で希釈して、グアバポリフェノール溶液を調製した。
また、ビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩、「バイタミンSK」、シンコーサイエンス社製)の最終濃度がそれぞれ200ppm、100ppmになるように滅菌水で希釈して、2種類のビタミンB1溶液を調製した。
菌液は、実施例1と同様に作製した。
【0039】
以下のように接触試験を実施した。
滅菌した8mLの液体培地(酵母エキス0.5%、ペプトン1%、グルコース1%)に上記の各濃度に調製したビタミンB1溶液及びグアバポリフェノール溶液を1mLずつ添加した。そして、105CFU/mLに調製した菌液100μLを添加(菌の終濃度103CFU/mL)後、30℃で96時間静置培養した。培地のpHは5.8であった。培養後の液をバクテリアカウンター血球計算盤(サンリード硝子(有)製)でカウントし、107CFU/mL以上であった場合を静菌効果なしとした。結果を表4に示す。
【0040】
【表4】
【0041】
表4から、グアバポリフェノールには、ビタミンB1との相乗効果が認められない。
【0042】
[比較例10〜11]
以下のように試料を調製した。
オリーブ果実ポリフェノール(Olivex CE010、サンブライト(株)製)の最終濃度が900ppmになるように滅菌水で希釈して、オリーブ果実ポリフェノール溶液を調製した。
また、ビタミンB1(チアミンラウリル硫酸塩、「バイタミンSK」、シンコーサイエンス社製)の最終濃度がそれぞれ200ppm、100ppmになるように滅菌水で希釈して、2種類のビタミンB1溶液を調製した。
菌液は、実施例1と同様に作製した。
【0043】
以下のように接触試験を実施した。
滅菌した8mLの液体培地(酵母エキス0.5%、ペプトン1%、グルコース1%)に上記の各濃度に調製したビタミンB1溶液及びオリーブ果実ポリフェノール溶液を1mLずつ添加した。そして、105CFU/mLに調製した菌液100μLを添加(菌の終濃度103CFU/mL)後、30℃で96時間静置培養した。培地のpHは5.8であった。培養後の液をバクテリアカウンター血球計算盤(サンリード硝子(有)製)でカウントし、107CFU/mL以上であった場合を静菌効果なしとした。結果を表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
表5から、オリーブ果実ポリフェノールには、ビタミンB1との相乗効果が認められない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【特許文献1】特開2008−173050号公報
【非特許文献】
【0047】
【非特許文献1】月刊フードケミカル、2009−6、32〜37頁