【文献】
J. Neurochem. (1997) Vol.69, pp.868-874
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0001】
背景
細胞培養培地は、制御された人工的なインビトロ環境下において細胞を維持し増殖させるのに必要な栄養素を提供する。細胞培養培地の栄養素配合、pH、および浸透圧は、細胞型、細胞密度、および使用する培養システムなどのパラメータに従って異なる。
【0002】
培地配合物は、動物細胞、植物細胞、および細菌細胞を含む多くの細胞型を培養するために使用されてきた。培養細胞は、生理的過程の研究および有用な生物学的物質の産生を含む多くの用途を有する。このような有用な産物の例には、モノクローナル抗体、ホルモン、増殖因子、酵素、および関心対象のその他のポリペプチドなどのポリペプチドが含まれる。このような産物は多くの商業的および治療的な適用を有し、組換えDNA技術の出現により、これらの産物を大量に産生するように細胞を操作することができる。培養細胞はまた、ベクターおよび/またはワクチンとして使用され得るウイルスの単離、同定、および増殖のために日常的に用いられる。したがって、インビトロで細胞を培養する能力は、細胞生理学の研究に重要であるだけでなく、そうでなければ費用対効果の高い手段によって得られ得ない有用な物質の産生にも必要である。
【0003】
細胞培養培地配合物は文献において十分に実証されており、多くの培地が市販されている。初期の細胞培養研究では、培地配合物は血液の化学組成および物理化学的特性(例えば、浸透圧、pHなど)に基づいており、「生理的溶液」と称された Ringer, S., J. Physiol. 3:380-393 (1980) (非特許文献1);Waymouth, C., Cells and Tissues in Culture, Vol. 1, Academic Press, London, pp. 99-142 (1965) (非特許文献2);Waymouth, C., In Vitro 6:109-127 (1970) (非特許文献3)。しかしながら、哺乳動物体の異なる組織内の細胞は、酸素/二酸化炭素分圧、ならびに栄養素、ビタミン、および微量元素の濃度に関して異なる微小環境に曝され、したがって異なる細胞型のインビトロ培養の成功には異なる培地配合物の使用が必要である場合が多い。細胞培養培地の典型的な構成成分には、アミノ酸、有機塩および無機塩、ビタミン、ミネラル、微量金属、糖、脂質、および核酸が含まれ、その型および量は、所与の細胞または組織型の特定の要求に応じて異なり得る。
【0004】
グルタミンは、培養細胞の主要なエネルギー源であることが示されているため、細胞培養培地中で日常的に用いられる。1959年にEagleは、哺乳動物細胞培養物の最適な増殖に必要なグルタミンの量が、他のアミノ酸の量よりも3〜10倍多いことを示した。Eagle et al., Science 130:432-37 (1959) (非特許文献4)。しかしながら、グルタミンは水溶液中および高温で不安定であり、ピログルタミン酸およびアンモニアを形成し、これはある種の細胞にとって毒性を示し得る。Roth et al., In Vitro Cellular & Developmental Biology 24(7):696-98 (1988) (非特許文献5)。したがって、グルタミンは典型的には、使用する直前に細胞培養培地に添加される。
【0005】
あるいは、ピログルタミン酸およびアンモニアなどの毒性物質の形成を回避するために、グルタミンの代わりに、アラニルグルタミンまたはグリシルグルタミンなどのグルタミン含有ジペプチドが細胞培養培地中で使用され得る Roth et al., In Vitro Cellular & Developmental Biology 24(7):696-98 (1988) (非特許文献5)。細胞培養培地中でのアンモニアの蓄積を減少させるために、グルタミンの代わりにグルタミン酸も用いられている Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies, 52, Sadettin Ozturk and Wei-Shou Hu eds., Taylor and Francis Group (2006) (非特許文献6)を参照されたい。
【0006】
アラニルグルタミンなどのジペプチドをアシル化して、該ジペプチドを加熱滅菌条件下でより安定させることを提唱する者もいた。例えば、米国特許第5,534,538号(特許文献1)は、経腸栄養法または非経口栄養法で使用するためのN-アシルジペプチドについて記載しており、この場合、N-アシルジペプチドは、対応する非アシル化ジペプチドよりも加熱滅菌条件下でより安定しており、N-アシル基はジペプチドが腎臓に到達するまでその分割を有利に遅らせる。米国特許第5,534,538号(特許文献1)はまた、N-アシルアラニルグルタミンが、細胞培養培地の公知の構成成分である(上記のRoth et al.を参照されたい)対応する非アシル化ジペプチド(アラニルグルタミン)と同様に、細胞培養培地の適切なグルタミン源であることを見出した。米国特許第5,534,538号(特許文献1)はさらに、少なくとも一つには、加熱滅菌条件下におけるN-アシルジペプチドの安定性の増加という理由で、N-アシルジペプチドが遊離ジペプチドよりも有利であると記載している。このように、米国特許第5,534,538号(特許文献1)は実際に、N末端アミノ酸が遊離アミノ基を有するジペプチドの使用の回避を教示している。
【0007】
本出願人らは、チロシンなどのある種のアミノ酸が、最大の細胞増殖またはタンパク質産生のための望ましい濃度において、溶解度が限られていることを見出した。本出願人らはまた、システインなどの他のアミノ酸が、水性細胞培養培地中で、特に細胞培養濃縮培地中で不安定であり、時間と共に沈殿を起こしやすいことを見出した。具体的には、システインはチオール基を有するため、2つのシステイン残基がジスルフィド結合によって連結されてシスチン(SCH
2CH(NH
2)CO
2H)
2を形成する酸化反応の影響を受けやすい。システインは水中で溶解度が低く、溶液から容易に沈殿する。結果として、最大の細胞増殖および/またはタンパク質産生に必要なチロシンおよびシステインの濃度を含む、常温保存可能な液体細胞培養培地を作製することは不可能なままである。
【0008】
本出願人らはまた、水性細胞培養培地中でチロシンまたはシステインの望ましい濃度よりも低い濃度を使用することにより、この問題に対処しようと試みた。そうすることにより、許容可能な水性保存期間を達成することが可能になる。しかしながら、これは、最適な細胞増殖、タンパク質産生、またはウイルス産生を犠牲にして達成される。言い換えれば、低濃度のチロシンおよびシステインを含む細胞培養培地は、最適濃度のチロシンおよびシステインを含む細胞培養培地と比較して、減少した細胞増殖および/またはタンパク質産生を支援する。
【0009】
したがって、チロシンの限られた溶解度、またはシステインが時間と共に溶液から沈殿する傾向を含む、システインの限られた安定性によって生じる問題を回避しつつ、最大の細胞増殖および/またはタンパク質もしくはウイルス産生を支援するのに十分なチロシンおよびシステインの量を含む培地、濃縮培地、または濃縮供給補充物が現在必要である。加えて、その添加が最終的な細胞培養システムのかさを大きく増大させることのないような、濃縮形態の供給補充物が必要である。そのような栄養素供給物が添加された場合に、結果として生じるシステムのpHおよび浸透圧が自動的に平衡化されること、ならびに培地または濃縮供給物が液体または乾燥の形式で得られることもまた必要である。最後に、最大の細胞増殖および/もしくはタンパク質産生、ならびに/または高品質の発現タンパク質を支援するのに十分なシステインおよびチロシンの量を含む単一レジメンの濃縮供給補充物が必要である。
【発明の概要】
【0012】
概要
本発明の組成物は、一つには、システインおよびチロシンの限られた溶解度および安定性によって生じる問題を回避しつつ、最大の細胞増殖および/またはタンパク質もしくはウイルス産生を支援するシステインおよびチロシンの濃度を含む細胞培養培地、濃縮培地、または濃縮供給補充物に関する。1つの局面において、培地、濃縮供給補充物、または濃縮培地は無血清組成物であってよい。1つの局面において、組成物は、ヒト血清アルブミンなどのヒト血清構成成分を含み得る。さらなる局面において、ヒト血清アルブミンは、組換え供給源に由来する、いくつかの好ましい事例ではコメ、トウモロコシ、コムギ、ジャガイモなどの植物供給源、または真菌供給源、または酵母もしくは当技術分野で用いられることが周知であるその他の同等の微生物に由来する組換え体(r-ヒト血清アルブミン)であってよい(異物不含培養)。別の局面において、培地、濃縮供給補充物、または濃縮培地はタンパク質不含組成物であってよい。さらに別の局面において、培地、濃縮供給補充物、または濃縮培地は、タンパク質加水分解物不含組成物であってよく、さらにタンパク質加水分解物の一部を含まなくてよい。特定の局面において、培地、濃縮供給補充物、または濃縮培地は、無血清で、タンパク質不含で、かつタンパク質加水分解物不含である組成物であってよい。好ましい局面において、これらの組成物は、既知組成であり、無血清であり、タンパク質不含であり、かついかなるタンパク質加水分解物もおよびその一部も含まない、構成成分を含み得る。特定の態様において、1つもしくは複数の小ペプチドまたは1つもしくは複数のジペプチドを有する細胞培養培地、濃縮培地、または細胞培養供給補充物はさらに、以下のうちの1つまたは複数を含まない:脂質、加水分解物もしくはその一部、または増殖因子。
【0013】
本発明はまた、一つには、システインまたはチロシンを含む短いペプチドの存在または非存在について上記の組成物を解析するための方法に関する。培地の解析は、当技術分野における任意の公知の手法によって、例えば、質量分析(LCMS)、キャピラリー電気泳動、またはHPLCによって行われる。
【0014】
特に、本開示は、本出願において後に定義するとおりの、2〜6個のアミノ酸を有する1つまたは複数の小ペプチドを含む細胞培養培地、濃縮供給物、または細胞培養補充物に関する。したがって、本開示は、X
1-5-チロシン、X
1-5-システイン、チロシン-X
1-5、およびシステイン-X
1-5、またはシステインもしくはチロシンが1〜6個のアミノ酸の短いペプチド内のどこかに存在する任意の小ペプチド(例えば、X-システイン-X
1-4、X-チロシン-X
1-4-チロシンなど)、またはそれらの塩より選択される1つまたは複数の小ペプチドを含む細胞培養培地、濃縮供給物、または細胞培養補充物を提供し、ここでXは任意のアミノ酸であり、短いペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。1つの態様において、Xはアラニンまたはグリシンである。別の態様において、Xはセリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、またはグルタミン酸である。特定の態様において、本開示は、X-チロシン、X-システイン、チロシン-X、およびシステイン-X、もしくはそれらの塩より選択される1つまたは複数のジペプチドを含む細胞培養培地、濃縮供給物、または細胞培養補充物を提供し、ここでXは任意のアミノ酸であり、ジペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。1つの態様において、Xはアラニンまたはグリシンである。別の態様において、Xはセリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、またはグルタミン酸である。さらに別の態様において、1つまたは複数のジペプチドはアラニルチロシンおよび/またはアラニルシステインである。細胞培養培地、濃縮供給物、または細胞培養補充物は、液体、または乾燥粉末培地(DPM)もしくは凝集粉末(AGT(商標))などの乾燥粉末であってよい。1つの態様において、液体は2〜8℃で保存され、12ヵ月超の間沈殿物のない状態のままである。
【0015】
本発明の1つの態様において、培地、供給物、または補充物における溶液中のチロシン(小ペプチド内に含まれる)の濃度は、チロシンが単量体として存在する場合に、同一の溶液中で可溶性の状態のままであるチロシンの濃度よりも高い(すなわち、小ペプチド内のチロシンは、溶液を「チロシンについて過飽和」にし得る)。1つの態様において、溶液は、単量体で可能な場合の可溶性チロシン濃度の約1倍〜少なくとも約100倍または約1倍〜少なくとも約25倍を有する。例えば、いくつかの細胞培養培地、濃縮供給物、または濃縮補充物中の小ペプチドまたはジペプチドの濃度は、単量体で可能な場合の可溶性チロシン濃度の約1倍〜少なくとも約5倍、約1倍〜少なくとも約10倍、約1倍〜少なくとも約15倍、約1倍〜少なくとも約20倍、約1倍〜少なくとも約30倍、約1倍〜少なくとも約40倍、約1倍〜少なくとも約50倍、約1倍〜少なくとも約60倍、約1倍〜少なくとも約70倍、約1倍〜少なくとも約80倍、約1倍〜少なくとも約90倍、約1倍〜少なくとも約100倍、約10倍〜少なくとも約20倍、約10倍〜少なくとも約30倍、約10倍〜少なくとも約40倍、約10倍〜少なくとも約50倍、約10倍〜少なくとも約60倍、約10倍〜少なくとも約70倍などであってよい。
【0016】
本発明の1つの態様において、培地、供給物、または補充物における溶液中のシステイン(小ペプチド内に含まれる)の濃度は、システインが単量体として存在する場合に、同一の溶液中で可溶性の状態のままであるシステインの濃度よりも、溶液中で高い(すなわち、小ペプチド内のシステインは、溶液を「システインについて過飽和」にし得る)。1つの態様において、システインの溶解度(またはその欠如)には、例えばシステインからシスチンへの変換によって生じる溶解度の喪失が含まれる。1つの態様において、溶液は、単量体で可能な可溶性システイン濃度の少なくとも約1倍〜約25倍を含む。例えば、いくつかの細胞培養培地、濃縮供給物、または濃縮補充物中の小ペプチドまたはジペプチドの濃度は、単量体で可能な場合の可溶性システイン濃度の約1倍〜少なくとも約5倍、約1倍〜少なくとも約10倍、約1倍〜少なくとも約15倍、約1倍〜少なくとも約20倍、約1倍〜少なくとも約30倍、約1倍〜少なくとも約40倍、約1倍〜少なくとも約50倍、約1倍〜少なくとも約60倍、約1倍〜少なくとも約70倍、約1倍〜少なくとも約80倍、約1倍〜少なくとも約90倍、約1倍〜少なくとも約100倍、約1倍〜少なくとも約110倍、約10倍〜少なくとも約20倍、約10倍〜少なくとも約30倍、約10倍〜少なくとも約40倍、約10倍〜少なくとも約50倍、約10倍〜少なくとも約60倍、約10倍〜少なくとも約70倍、約10倍〜少なくとも約80倍、約10倍〜少なくとも約90倍、約10倍〜少なくとも約100倍、約10倍〜少なくとも約110倍などであってよい。1つの態様において、溶液はチロシンおよびシステインの両方について過飽和である。
【0017】
1つの態様において、溶液は、例えばチロシンまたはシステイン単独のそれぞれについて上記した範囲内で、チロシンおよびシステインの両方について過飽和である。
【0018】
1つの態様において、上記の濃縮供給物、濃縮培地、または濃縮補充物の添加は、例えば既に進行中であってよい流加培養のために、培養システムへの補充の量を減少させることができる。培養は、数時間〜数日間にわたって進行中であってよい。別の態様において、小ペプチド内に含まれるシステインおよびチロシンの溶解度の増加により、やはりpH中性であってよい単一部分濃縮供給物の設計が可能になり、これは本発明の一部である。本発明は、一つには、組成物内のシステインおよびチロシンの溶解度および安定性を高めるために、小ペプチド内に含まれるシステインおよびチロシンを含む、単一レジメンの濃縮供給物、濃縮培地、および濃縮補充物の調製に関する。
【0019】
1つもしくは複数の小ペプチドまたは1つもしくは複数のジペプチドを有する細胞培養培地、濃縮供給物、または細胞培養補充物は、任意に以下のうちの1つまたは複数を含む:炭水化物、ビタミン、塩、無機元素、緩衝剤、およびアミノ酸またはその塩。1つの態様において、炭水化物はヘキソース糖である。あるいは、ペントース、ヘキソース、もしくはそれらの誘導体、または他の同等物が使用され得る。場合によっては、オリゴ糖もしくはそれらの誘導体が使用され得るか;またはヘキソースは、グルコース、ガラクトース、フルクトース、およびマルトースからなる群より選択され得る。特定の態様において、炭水化物はグルコースである。
【0020】
1つの態様において、アミノ酸またはその塩は、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンのうちの1つまたは複数である。
【0021】
1つの態様において、細胞培養培地、濃縮供給物、または細胞培養補補充物は、(1) 第1ジペプチドであるX-チロシンまたはその塩、および第2ジペプチドであるX-システインまたはその塩を含み、ここでXはアラニンまたはグリシンであり、アラニンまたはグリシンは遊離アミノ基を有し、(2) グルコースなどの炭水化物を含み、かつ(3) アミノ酸またはその塩を含む。アミノ酸またはその塩は、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンのうちの1つまたは複数を含み得る。
【0022】
1つの態様において、細胞培養培地、濃縮供給物、または細胞培養補充物は、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞、または動物細胞、例えば昆虫細胞(例えば、ショウジョウバエ(Drosophila)細胞、スポドプテラ(Spodoptera)細胞、またはトリコプルシア(Tricoplusia)細胞)、線虫細胞(例えば、C. エレガンス(C. elegans)細胞)、もしくは哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、VERO細胞、BHK細胞、AE-1細胞、SP2/0細胞、L5.1細胞、PerC6、ハイブリドーマ細胞、HEK 293、ヒト細胞を含む)などの培養に適した1つもしくは複数の小ペプチドまたは1つもしくは複数のジペプチドを有する。
【0023】
特定の態様において、1つもしくは複数の小ペプチドまたは1つもしくは複数のジペプチドを有する細胞培養培地は、1×配合物である。他の態様において、細胞培養培地は、本出願において他所に考察されるとおり、2×または2×超の配合物として濃縮される。特定の態様において、X-チロシン、X-システイン、チロシン-X、またはシステイン-Xなどの1つまたは複数の小ペプチドまたはジペプチドは、約1 g/L〜約16 g/L、約1 g/L〜約10 g/L、約1 g/L〜約5 g/L、約2.5 g/L〜約16 g/L、約2.5 g/L〜約10 g/L、約2.5 g/L〜約5 g/L、または約2.5 g/L〜約8.5 g/Lの濃度で細胞培養培地中に存在する。
【0024】
別の局面において、本開示は、細胞を培養する方法であって、該細胞の培養を支援する条件下で、本明細書に記載される小ペプチドまたはジペプチド含有細胞培養培地と該細胞を接触させる段階を含む方法を提供する。任意の細胞、特に細菌細胞、酵母細胞、植物細胞、または動物細胞を、本方法に従って培養することができる。1つの態様において、本法に従って培養するための動物細胞は、昆虫細胞(例えば、ショウジョウバエ細胞、スポドプテラ細胞、またはトリコプルシア細胞)、線虫細胞(例えば、C. エレガンス細胞)、または哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、VERO細胞、BHK細胞、AE-1細胞、SP2/0細胞、L5.1細胞、PerC6、ハイブリドーマ細胞、HEK 293、またはその他のヒト細胞)である。
【0025】
別の態様において、細胞を培養する方法は、細胞の培養を支援する条件下で細胞培養基礎培地と細胞を接触させる段階、および本明細書に記載される、1つもしくは複数の小ペプチドまたは1つもしくは複数のジペプチドを有する細胞培養培地、細胞培養補充物、または細胞培養供給物を該細胞培養基礎培地に補充する段階を含む。1つの態様において、1つまたは複数のジペプチドは、X-チロシン、X-システイン、チロシン-X、もしくはシステイン-X、またはそれらの塩より選択され、ここでXは、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、またはグルタミン酸より選択され、1つまたは複数のジペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。別の態様において、1つまたは複数のジペプチドはアラニルチロシンおよび/またはアラニルシステインである。
【0026】
1つの態様において、細胞培養基礎培地は、2日目以降に、小ペプチド内にシステインおよびチロシンを含む溶液が補充され、該溶液は濃縮培地または濃縮供給補充物であってよい。特定の態様において、本出願人らは、小ペプチドを含む培地、供給物、補充物、またはその他の溶液(例えば、チロシンまたはシステイン残基を少なくとも1つ含むジペプチドを含む溶液)の使用に言及し得る。実際に、本出願人らの発明の1つの態様は、細胞の培養におけるそのような溶液の使用である。その点において、当業者は、本明細書における特定の記述において、本出願人らが、本明細書に記載される溶液の種類のいずれにも同等に適用され得る態様の単に一例として、特定の補充物、培地、供給物、または溶液に言及し得ることを理解するであろう。例えば、当業者は、特定のアミノ酸組成を有する「補充物」の記述が、類似の組成を有する「供給物」を同等に表すことができ、その逆も同様であることを理解するであろう。
【0027】
細胞培養基礎培地、濃縮培地、濃縮供給物、または補充物は、細胞培養の開始後0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、または5日目において、小ペプチドまたはジペプチド含有培地または供給物を含んでよく、かつ、その後13日目もしくは14日目まで、または培養物の生存度が所定のレベル(例えば、50%)を下回るまで、毎日補充される。細胞培養基礎培地は任意に、該細胞培養基礎培地の全量の約2%で、小ペプチドまたはジペプチド含有細胞培養培地が補充される。1つの態様において、細胞はタンパク質、ペプチド、低分子RNA(例えば、miRNA、siRNAなど)を産生する。タンパク質とは、組換えタンパク質または天然タンパク質を意味する。タンパク質とはまた、組換え体であろうと天然であろうと、全長タンパク質または(ドメイン、モチーフ、ポリペプチド鎖、またはポリペプチド断片などの)その一部を意味する。タンパク質とはまた、組換え体であろうと天然であろうと、細胞内タンパク質、細胞外タンパク質、分泌タンパク質、ホルモン、サイトカイン、受容体、細胞外基質タンパク質、免疫グロブリンもしくは免疫グロブリンの一部、またはそれらの断片を意味する。好ましくは、タンパク質収量は、本発明の短いペプチドまたはジペプチドを含む細胞培養培地、細胞培養供給物、または細胞培養補充物を用いて、より高くなり得る。特定の局面において、例えば、免疫グロブリンのタンパク質収量は、培養して少なくとも14日間後に、3000 mg/L超の免疫グロブリンであってよい。別の態様において、細胞はウイルスまたはVLP(ウイルス様粒子)を産生し得る。さらに別の態様において、細胞は、ビタミン、代謝物、糖タンパク質、炭水化物、脂質、またはリポタンパク質などの所望の細胞産物を産生し得る。別の態様では、細胞自体が増殖されて回収される。本発明の培地および供給補充物組成物は、システインおよびチロシンの限られた溶解度によって生じる問題を回避しつつ、ウイルスもしくはVLP産生のための最大の細胞増殖、または最大のビタミン産生もしくは糖タンパク質もしくはワクチン産生などを支援するシステインおよびチロシンの濃度を含む。
【0028】
例えば、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞、昆虫細胞、または哺乳動物細胞を含む動物細胞などの任意の細胞を、本方法に従って培養することができる。1つの態様において、本方法に従って培養するための動物細胞は、昆虫細胞(例えば、ショウジョウバエ細胞、スポドプテラ細胞、またはトリコプルシア細胞)、線虫細胞(例えば、C. エレガンス細胞)、または哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞、COS細胞、VERO細胞、BHK細胞、AE-1細胞、SP2/0細胞、L5.1細胞、PerC6、ハイブリドーマ細胞、またはその他のヒト細胞)である。1つの態様において、細胞はCHO細胞である。
【0029】
別の局面は、グルコースなどの炭水化物、ならびにアルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、グルタミン、およびバリンなどの少なくとも1つのアミノ酸またはその塩と、本明細書に記載される1つまたは複数の小ペプチドまたはジペプチドを混合する段階を含む、細胞培養培地を調製する方法を提供する。1つの態様において、1つまたは複数のジペプチドは、X-チロシン、X-システイン、チロシン-X、もしくはシステイン-X、またはそれらの塩より選択され、ここでXは、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、またはグルタミン酸より選択され、1つまたは複数のジペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。別の態様において、1つまたは複数のジペプチドはアラニルチロシンおよび/またはアラニルシステインである。
【0030】
他の態様において、本方法に従って調製される細胞培養培地は、本出願において他所に考察されるとおり、2×または2×超の配合物として濃縮される。特定の態様においては、アラニルチロシンおよび/またはアラニルシステインなどの1つまたは複数の小ペプチドまたはジペプチドが、本方法に従って調製される細胞培養培地中に存在する。
【0031】
例えば、いくつかの細胞培養培地または濃縮培地もしくは濃縮供給物中の小ペプチドまたはジペプチドの濃度は、約0.5 g/L〜約30 g/L、約0.5 g/L〜約25 g/L、約0.5 g/L〜約20 g/L、約0.5 g/L〜約16 g/L、約0.5 g/L〜約10 g/L、約0.5 g/L〜約5 g/L、約0.5 g/L〜約4 g/L、約1 g/L〜約30 g/L、約1 g/L〜約20 g/L、約1 g/L〜約16 g/L、約1 g/L〜約10 g/L、約1 g/L〜約5 g/L、約2.5 g/L〜約30 g/L、約2.5 g/L〜約20 g/L、約2.5 g/L〜約16 g/L、約2.5 g/L〜約10 g/L、約2.5 g/L〜約5 g/L、または約2.5 g/L〜約4.5 g/L、約5 g/L〜約30 g/L、約5 g/L〜約25 g/L、約5 g/L〜約20 g/L、約5 g/L〜約16 g/L、約5 g/L〜約10 g/L、約5 g/L〜約5 g/L、約5 g/L〜約4 g/Lなどであってよい。
【0032】
別の局面は、本明細書に記載される小ペプチドまたはジペプチド含有細胞培養培地と、上記の少なくとも1つの細胞とを含む組成物を提供する。1つの態様において、少なくとも1つの細胞はCHO細胞である。
【0033】
さらに別の局面は、細胞の培養において使用するためのキットに関する。キットは、本明細書に記載される小ペプチドまたはジペプチド含有細胞培養培地を含む1つまたは複数の容器を含み得る。キットは任意に、少なくとも1つの増殖因子、少なくとも1つの動物組織抽出物、少なくとも1つの動物器官抽出物、少なくとも1つの動物腺抽出物、少なくとも1つの酵素、少なくとも1つのタンパク質、少なくとも1つのビタミン、少なくとも1つのサイトカイン、少なくとも1つの脂質、少なくとも1つの微量元素、少なくとも1つの細胞外基質構成成分、少なくとも1つの緩衝液、少なくとも1つの抗生物質、および少なくとも1つのウイルス阻害剤より選択される少なくとも1つの付加的構成成分を含む。キットはまた、1つまたは複数の細胞または細胞型を含み得る。
【0034】
別の局面は、本明細書に記載される小ペプチドまたはジペプチド含有細胞培養培地を用いて、ウイルスまたはVLPを産生する方法に関する。具体的には、本方法は、(a) ウイルスによる細胞の感染を促進するのに適した条件下で、細胞(例えば、哺乳動物細胞)をウイルスと接触させる段階;および(b) 細胞によるウイルスの産生を促進するのに適した条件下で、本明細書に記載される培養培地中で該細胞を培養する段階を含む。1つの態様において、ウイルスまたはVLPを産生する細胞は、CHO細胞などの哺乳動物細胞、または昆虫細胞、または植物細胞、または真菌細胞である。別の態様においては、非哺乳動物ウイルスまたはVLPが、哺乳動物宿主細胞、例えばヒト細胞に感染し得るように操作される。
【0035】
さらに別の局面において、本開示は、本明細書に記載される小ペプチドまたはジペプチド含有細胞培養培地を用いて、免疫グロブリンまたはその断片などのポリペプチドを産生する方法を提供する。具体的には、本方法は、ポリペプチドを産生するように遺伝子操作された細胞を、細胞によるポリペプチドの発現に適した条件下において、ジペプチド含有培養培地中で培養する段階を含む。1つの態様において、細胞は、CHO細胞などの哺乳動物細胞である。
【0036】
したがって、本発明の1つの局面は、少なくとも1つの小ペプチドを含む細胞培養培地、濃縮供給物、または濃縮供給補充物に関し、該ペプチドは少なくとも2つのアミノ酸を含み、アミノ酸の少なくとも1つはシステインまたはチロシンである。本発明の別の局面は、小ペプチドの残りのアミノ酸の少なくとも1つが、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸からなる群より選択される、上記の細胞培養培地、濃縮供給物、または濃縮供給補充物に関する。本発明のさらに別の局面において、小ペプチドの残りのアミノ酸の少なくとも1つはアラニンまたはグリシンである。本発明の別の局面は、小ペプチドの少なくとも1つが、X-チロシン、X-システイン、チロシン-X、およびシステイン-X、もしくはそれらの塩からなる群より選択されるジペプチドである、上記の細胞培養培地、濃縮供給物、もしくは濃縮供給補充物に関し、ここでXは、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸からなる群より選択され、かつ/または、1つもしくは複数の小ペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。1つの局面において、Xはアラニンまたはグリシンである。
【0037】
本発明のいくつかの局面において、小ペプチドは、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド、ヘキサペプチド、ヘプタペプチド、オクタペプチド、ノナペプチド、もしくはデカペプチドのいずれかであってよいか;または小ペプチドは少なくとも約2〜10アミノ酸長であってよいか;またはいくつかの局面において、小ペプチドは少なくとも約10アミノ酸長である。いくつかの局面において、短いペプチドは、2個、3個、4個、5個、または6個のアミノ酸を含み得る。
【0038】
他の局面において、細胞培養培地は液体である。
【0039】
上記の細胞培養培地のいずれか1つにおいて、細胞培養培地、濃縮供給物、または濃縮供給補充物は、乾燥粉末または粒状乾燥粉末である。
【0040】
さらなる局面において、上記の細胞培養培地のいずれか1つは、炭水化物、およびアミノ酸またはその塩を含み得る。1つの態様において、炭水化物はヘキソース糖である。他の態様において、アミノ酸またはその塩は、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンのうちのいずれか1つまたは複数である。さらなる態様において、培地は、ビタミン、塩、緩衝剤、または無機元素をさらに含む。
【0041】
上記のいくつかの局面において、細胞培養培地、濃縮供給物、または濃縮供給補充物は、脂質、加水分解物もしくはその一部、または増殖因子を含まない、上記の他の局面において、細胞培養培地、濃縮供給物、または濃縮供給補充物はタンパク質を含まない、したがっていくつかの好ましい局面において、小ペプチドを含む細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地は、無血清、タンパク質不含、かつ/または加水分解物不含であってよい。
【0042】
特定の局面において、細胞培養培地、濃縮供給物、または濃縮供給補充物は、2×または2×超の配合物として濃縮される。好ましい局面において、上記の細胞培養培地、濃縮供給物、または濃縮供給補充物は1つまたは複数のジペプチドを含み、ジペプチドはアラニルチロシンおよび/またはアラニルシステインおよび/またはアラニルシスチン二量体のいずれかであってよい。好ましい局面において、1つもしくは複数のジペプチドは約1 g/L〜約16 g/Lの濃度で存在してよいか;または1つもしくは複数のジペプチドは約2.5 g/L〜約8.5 g/Lの濃度で存在してよい。1つの局面において、2〜8℃で保存された液体は、12ヵ月超の間沈殿物のない状態のままである。
【0043】
本発明はまた、細胞を培養する方法であって、該細胞の培養を支援する条件下で細胞培養基礎培地と該細胞を接触させる段階、および上記の濃縮供給物または濃縮培地を、該細胞培養基礎培地に補充する段階を含む方法に関する。補充は、流加培養中に行われ得るか;もしくは既存の供給スケジュールに加えて行われ得るか;または補充は、ボーラス添加により増加的に行われるのとは対照的に、連続して行われ得る。場合によっては、細胞培養基礎培地は、2日目以降に濃縮供給物もしくは濃縮培地が補充されてよいか;または細胞培養基礎培地への補充は、単一の濃縮供給物を用いて、もしくは複数の濃縮供給物を用いて行われてよいか;または補充は、細胞培養の開始後0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、もしくは5日目から行われてよく、かつその後13日目もしくは14日目まで毎日補充されるか;または各補充は、該細胞培養基礎培地の全出発量の約1〜10%もしくは約5〜20%であってよい。
【0044】
本明細書において用いられる方法のすべての局面において、細胞は操作されて細胞であってよいか;または細胞は組換え細胞であってよいか;または細胞は植物細胞であってよく、もしくは細胞は、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、鳥類細胞、酵母細胞、藻類細胞、もしくは魚類細胞のうちのいずれか1つであってよい。動物細胞は、哺乳動物、昆虫、ウシ、霊長類細胞、または多能性幹細胞であってよい。1つの局面において、動物細胞は哺乳動物細胞であってよく;哺乳動物細胞は、ケラチノサイト、子宮頸部上皮細胞、気管支上皮細胞、気管上皮細胞、腎臓上皮細胞、および網膜上皮細胞)、ならびに樹立細胞株およびそれらの株(例えば、293胎児腎臓細胞、BHK細胞、HeLa子宮頸部上皮細胞、およびPER-C6網膜細胞、MDBK(NBL-1)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、CHO細胞、BeWo細胞、Chang細胞、Detroit 562細胞、HeLa 229細胞、HeLa S3細胞、Hep-2細胞、KB細胞、LS180細胞、LS174T細胞、NCI-H-548細胞、RPMI 2650細胞、SW-13細胞、T24細胞、WI-28 VA13、2RA細胞、WISH細胞、BS-C-I細胞、LLC-MK
2細胞、クローンM-3細胞、1-10細胞、RAG細胞、TCMK-1細胞、Y-1細胞、LLC-PK
1細胞、PK(15)細胞、GH
1細胞、GH
3細胞、L2細胞、LLC-RC 256細胞、MH
1C
1細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、およびTH-I、B1細胞、またはそれらの誘導体)、任意の組織または器官(心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道、胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細血管)、リンパ組織(リンパ腺、咽頭扁桃腺、扁桃腺、骨髄、および血液)、脾臓を含むがこれらに限定されない)に由来する線維芽細胞、ならびに線維芽細胞および線維芽細胞様細胞株(例えば、CHO細胞、TRG-2細胞、IMR-33細胞、Don細胞、GHK-21細胞、シトルリン血症細胞、Dempsey細胞、Detroit 551細胞、Detroit 510細胞、Detroit 525細胞、Detroit 529細胞、Detroit 532細胞、Detroit 539細胞、Detroit 548細胞、Detroit 573細胞、HEL 299細胞、IMR-90細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、WI-26細胞、MiCl
1細胞、CHO細胞、CV-1細胞、COS-1細胞、COS-3細胞、COS-7細胞、Vero細胞、DBS-FrhL-2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV-T2細胞、M-MSV-BALB/3T3細胞、K-BALB細胞、BLO-11細胞、NOR-10細胞、C
3H/IOTI/2細胞、HSDM
1C
3細胞、KLN
20
5細胞、McCoy細胞、マウスL細胞、株2071(マウスL)細胞、L-M株(マウスL)細胞、L-MTK
-(マウスL)細胞、NCTCクローン2472および2555、SCC-PSA1細胞、Swiss/3T3細胞、ホエジカ(Indian muntjac)細胞、SIRC細胞、C
II細胞、ならびにJensen細胞、Sp2/0、NSO、NS1細胞、または操作されたそれらの細胞であってよい。1つの局面において、哺乳動物細胞はCHO細胞であってよい。
【0045】
本明細書において用いられる方法のすべての局面において、細胞は免疫グロブリンまたはその断片を産生することができ;細胞は、3000 mg/L超の免疫グロブリンまたはその断片を産生し得る。
【0046】
あるいは、本明細書において用いられる方法のすべての局面において、細胞はウイルスまたはウイルス様粒子(VLP)を産生することができ;ウイルスは組換えウイルスであってよい。ウイルスは、アデノウイルス、レンチウイルス、バキュロウイルス、センダイウイルス、ワクシニアウイルス、または操作されたそれらのウイルス誘導体であってよいが、これらに限定されない。本明細書において記載される局面において、VLPは核酸を保有し得るか、またはこれはRNAを保有し得る。
【0047】
さらに別の局面において、本発明はまた、炭水化物、および少なくとも1つのアミノ酸またはその塩と、1つまたは複数の小ペプチドを混合する段階を含む、細胞培養培地、濃縮供給物、または細胞培養補充物を調製する方法に関し、ここで1つまた複数の小ペプチドはそれぞれシステインまたはチロシンを含む。1つの態様において、システインまたはチロシン以外の、1つまた複数の小ペプチドのアミノ酸(または残りのアミノ酸と称される)は、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン、またはグルタミン酸からなる群より選択され得る。1つの好ましい局面において、システインまたはチロシン以外のアミノ酸は、アラニンまたはグリシンである。別の組において、残りのアミノ酸はまた、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンのうちの1つまたは複数であってよい。上記方法の別の好ましい局面において、1つまたは複数のジペプチドは、X-チロシン、X-システイン、チロシン-X、もしくはシステイン-X、またはそれらの塩より選択されてよく、ここでXは、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、アルギニン、またはグルタミン酸より選択され、1つまたは複数のジペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。最も好ましい局面において、Xはアラニンまたはグリシンである。最も好ましい局面において、炭水化物はグルコースであってよい。加えて、細胞培養培地は、ビタミン、塩、緩衝剤、もしくは無機元素をさらに含み得るか;または脂質、加水分解物もしくはその一部、または増殖因子を含まなくてよいか;またはタンパク質を含まなくてよいか;または細胞培養培地は、2×もしくは2×超の配合物として濃縮されてよいか;または1つもしくは複数のジペプチドは、アラニルチロシンおよび/もしくはアラニルシステインであってよいか;または1つもしくは複数のジペプチドは、約1 g/L〜約16 g/Lの濃度で細胞培養培地中に存在するか;または好ましくは、1つもしくは複数のジペプチドは約2.5 g/L〜約8.5 g/Lの濃度で存在する。大部分の局面において、2〜8℃で保存された細胞培養培地は、12ヵ月超の間沈殿物のない状態のままである。
【0048】
本発明はまた、細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地を解析するための方法に関し、本方法は、該培地中において、システインまたはチロシンを含む短いペプチドの存在または非存在を判定する段階を含む。1つの局面において、細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地は、無血清、タンパク質不含、加水分解物不含であってよく、解析は、質量分析(LCMS)、キャピラリー電気泳動、およびHPLCによって行われ得るが、これらに限定され得ない。
【0049】
本発明はまた、上記の細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地と、細胞とを含む組成物に関する。
【0050】
本発明はまた、細胞培養培地中で組換えタンパク質を作製する方法であって、上記の細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地と細胞を接触させる段階;ならびに該細胞の増殖および/または該組換えタンパク質の発現に適した条件下で該細胞を培養する段階を含む方法に関する。
【0051】
本発明はまた、1つまたは複数の容器を含む、インビトロで細胞を培養するためのキットに関し、第1容器は、上記の少なくとも1つのジペプチドを含む培地を含み、該培地は、培養中の細胞の増殖、および/または組換えタンパク質の発現を支援する。細胞の培養は、懸濁培養における培養であってもまたは接着培養における培養であってもよい。増殖は高密度増殖であってよい。
【0052】
本発明はまた、上記の細胞培養培地、濃縮供給物、または再構成された培地中でウイルスまたはウイルス粒子を作製する方法であって、該細胞培養培地中で組換え細胞を培養する段階を含む方法に関し、該培地は、該ウイルスまたはウイルス粒子の発現に適した条件下で該細胞の増殖を支援する。
【0053】
本発明はまた、上記の方法によって産生された組換えタンパク質;または上記の方法によって産生されたウイルスもしくはウイルス粒子;またはウイルスもしくは組換えタンパク質を産生するための、上記の細胞培養培地、濃縮供給物、もしくは再構成された培地の使用;または上記の方法によって作製された培養培地、濃縮供給物、もしくは再構成された培地に関する。
[本発明1001]
少なくとも1つの小ペプチドを含む細胞培養培地であって、該ペプチドが少なくとも2つのアミノ酸を含み、該アミノ酸の少なくとも1つがシステインまたはチロシンである、細胞培養培地。
[本発明1002]
前記小ペプチドの残りのアミノ酸の少なくとも1つが、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸からなる群より選択される、本発明1001の細胞培養培地。
[本発明1003]
前記小ペプチドの残りのアミノ酸の少なくとも1つが、アラニンまたはグリシンである、本発明1002の細胞培養培地。
[本発明1004]
前記小ペプチドの少なくとも1つが、X-チロシン、X-システイン、チロシン-X、およびシステイン-X、もしくはそれらの塩からなる群より選択されるジペプチドであり、かつXが、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、およびグルタミン酸からなる群より選択され、かつ/または、1つもしくは複数の該小ペプチドのN末端アミノ酸が遊離アミノ基を有する、本発明1001の細胞培養培地。
[本発明1005]
Xがアラニンまたはグリシンである、本発明1001の細胞培養培地。
[本発明1006]
液体である、本発明1001〜1005のいずれかの細胞培養培地。
[本発明1007]
乾燥粉末または粒状乾燥粉末である、本発明1001〜1005のいずれかの細胞培養培地。
[本発明1008]
炭水化物、およびアミノ酸またはその塩をさらに含む、本発明1001〜1007のいずれかの細胞培養培地。
[本発明1009]
前記炭水化物がヘキソースである、本発明1008の細胞培養培地。
[本発明1010]
前記アミノ酸またはその塩が、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンのうちの1つまたは複数である、本発明1008または1009の細胞培養培地。
[本発明1011]
ビタミン、塩、緩衝剤、または無機元素をさらに含む、本発明1001〜1010のいずれかの細胞培養培地。
[本発明1012]
脂質、加水分解物もしくはその一部、または増殖因子を含まない、本発明1001〜1011のいずれかの細胞培養培地。
[本発明1013]
タンパク質を含まない、本発明1001〜1012のいずれかの細胞培養培地。
[本発明1014]
2×または2×超の配合物として濃縮される、本発明1001〜1013のいずれかの細胞培養培地。
[本発明1015]
1つまたは複数の前記ジペプチドが、アラニルチロシンおよび/またはアラニルシステインおよび/またはアラニルシスチン二量体である、本発明1004〜1014のいずれかの細胞培養培地。
[本発明1016]
1つまたは複数の前記ジペプチドが、約1 g/L〜約16 g/Lの濃度で存在する、本発明1004〜1006または1008〜1014のいずれかの細胞培養培地。
[本発明1017]
1つまたは複数の前記ジペプチドが、約2.5 g/L〜約8.5 g/Lの濃度で存在する、本発明1004〜1006または1008〜1014のいずれかの細胞培養培地。
[本発明1018]
2〜8℃で保存された前記液体が、12ヵ月超の間沈殿物のない状態のままである、本発明1006または1008〜1017のいずれかの細胞培養培地。
[本発明1019]
細胞を培養する方法であって、
該細胞の培養を支援する条件下で、細胞培養基礎培地と該細胞を接触させる段階、および
本発明1001〜1018のいずれかの濃縮供給物または濃縮培地を、該細胞培養基礎培地に補充する段階
を含む方法。
[本発明1020]
前記細胞培養基礎培地に、2日目以降に前記濃縮供給物または前記濃縮培地を補充する、本発明1019の方法。
[本発明1021]
前記細胞培養基礎培地への前記濃縮供給物または前記濃縮培地の補充を、細胞培養の開始後0日目、1日目、2日目、3日目、4日目、または5日目のいずれかから行い、かつ、その後13日目または14日目まで毎日補充する、本発明1020の方法。
[本発明1022]
前記細胞培養基礎培地への補充が、該細胞培養基礎培地の全出発量の約1〜10%または約5〜20%である、本発明1019〜1021のいずれかの方法。
[本発明1023]
前記細胞が、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、鳥類細胞、酵母細胞、藻類細胞、または魚類細胞である、本発明1019〜1022のいずれかの方法。
[本発明1024]
前記細胞が免疫グロブリンまたはその断片を産生する、本発明1022の方法。
[本発明1025]
前記細胞が、3000 mg/L超の免疫グロブリンまたはその断片を産生する、本発明1024の方法。
[本発明1026]
炭水化物、および少なくとも1つのアミノ酸またはその塩と、1つまたは複数の小ペプチドを混合する段階を含む、細胞培養培地を調製する方法であって、1つまたは複数の該小ペプチドがそれぞれシステインまたはチロシンを含む方法。
[本発明1027]
システインまたはチロシン以外の、1つまたは複数の前記小ペプチドのアミノ酸が、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン、またはグルタミン酸より選択される、本発明1026の方法。
[本発明1028]
システインまたはチロシン以外の、1つまたは複数の前記小ペプチドのアミノ酸が、アラニンまたはグリシンである、本発明1027の方法。
[本発明1029]
1つまたは複数の前記小ペプチドが、X-チロシン、X-システイン、チロシン-X、もしくはシステイン-X、またはそれらの塩より選択される1つまたは複数のジペプチドであり、Xが、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、アルギニン、またはグルタミン酸より選択され、かつ1つまたは該ジペプチドのN末端アミノ酸が遊離アミノ基を有する、本発明1026の方法。
[本発明1030]
Xがアラニンまたはグリシンである、本発明1029の方法。
[本発明1031]
前記炭水化物がグルコースである、本発明1026〜1030のいずれかの方法。
[本発明1032]
少なくとも1つの前記アミノ酸またはその塩が、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、ヒスチジン、イソロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、ヒドロキシプロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンのうちの1つまたは複数である、本発明1026〜1031のいずれかの方法。
[本発明1033]
前記細胞培養培地が、ビタミン、塩、緩衝剤、または無機元素をさらに含む、本発明1026〜1032のいずれかの方法。
[本発明1034]
前記細胞培養培地が、脂質、加水分解物もしくはその一部、または増殖因子を含まない、本発明1026〜1033のいずれかの方法。
[本発明1035]
前記細胞培養培地がタンパク質を含まない、本発明1026〜1034のいずれかの方法。
[本発明1036]
前記細胞培養培地が2×または2×超の配合物として濃縮される、本発明1026〜1035のいずれかの方法。
[本発明1037]
1つまたは複数の前記ジペプチドが、アラニルチロシンおよび/またはアラニルシステインである、本発明1029〜1036のいずれかの方法。
[本発明1038]
1つまたは複数の前記ジペプチドが、約1 g/L〜約16 g/Lの濃度で前記細胞培養培地中に存在する、本発明1029〜1037のいずれかの方法。
[本発明1039]
1つまたは複数の前記ジペプチドが約2.5 g/L〜約8.5 g/Lの濃度で存在する、本発明1029〜1037のいずれかの方法。
[本発明1040]
2〜8℃で保存された前記細胞培養培地が、12ヵ月超の間沈殿物のない状態のままである、本発明1029〜1039のいずれかの方法。
[本発明1041]
細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地を解析するための方法であって、該培地中において、システインまたはチロシンを含む短いペプチドの存在または非存在を判定する段階を含む方法。
[本発明1042]
質量分析(LCMS)、キャピラリー電気泳動、およびHPLCを含む群より選択される手法によって解析を行う、無血清で、タンパク質不含で、加水分解物不含である細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地を解析するための本発明1041の方法。
[本発明1043]
前記短いペプチドが2個、3個、4個、5個、または6個のアミノ酸を含む、無血清で、タンパク質不含で、加水分解物不含である細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地を解析するための本発明1041の方法。
[本発明1044]
前記短いペプチドがジペプチドである、培地を解析するための本発明1041の方法。
[本発明1045]
前記CHO細胞がウイルスを産生する、本発明1023の方法。
[本発明1046]
前記ウイルスが、組換えウイルスまたはウイルス様粒子(VLP)である、本発明1045の方法。
[本発明1047]
前記ウイルスが、アデノウイルス、レンチウイルス、バキュロウイルス、センダイウイルス、ワクシニアウイルス、または操作されたそれらのウイルス誘導体である、本発明1046の方法。
[本発明1048]
前記VLPが核酸を保有する、本発明1046の方法。
[本発明1049]
前記核酸がRNAである、本発明1048の方法。
[本発明1050]
前記ヘキソースが、グルコース、ガラクトース、フルクトース、およびマルトースからなる群より選択される、本発明1009の細胞培養培地。
[本発明1051]
システインまたはチロシンを含む小ペプチドを含み、無血清で、タンパク質不含で、かつ/または加水分解物不含である、細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地。
[本発明1052]
前記小ペプチドが2個、3個、4個、5個、または6個のアミノ酸を含む、本発明1051の細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地。
[本発明1053]
組換えタンパク質の産生を支援する、本発明1001の細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地。
[本発明1054]
前記組換えタンパク質が免疫グロブリンまたはその断片である、本発明1053の細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地。
[本発明1055]
本発明1001の細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地と、細胞とを含む、組成物。
[本発明1056]
細胞培養培地中で組換えタンパク質を作製する方法であって、
本発明1001の細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地と、細胞を接触させる段階;ならびに
該細胞の増殖および/または該組換えタンパク質の発現に適した条件下で、該細胞を培養する段階
を含む方法。
[本発明1057]
1つまたは複数の容器を含む、インビトロで細胞を培養するためのキットであって、第1容器が、少なくとも1つのジペプチドを含む本発明1001の培地を含み、かつ該培地が、培養中の該細胞の増殖、および/または組換えタンパク質の発現を支援する、キット。
[本発明1058]
前記培養が懸濁培養であるかまたは接着培養である、本発明1057のキット。
[本発明1059]
前記増殖が高密度増殖である、本発明1057のキット。
[本発明1060]
本発明1001の細胞培養培地、濃縮供給物、または再構成された培地中でウイルスまたはウイルス粒子を作製する方法であって、本発明1001の細胞培養培地中で組換え細胞を培養する段階を含み、該培地が、該ウイルスまたは該ウイルス粒子の発現に適した条件下で該細胞の増殖を支援する、方法。
[本発明1061]
本発明1056の方法によって産生された、組換えタンパク質。
[本発明1062]
本発明1060の方法によって産生された、ウイルスまたはウイルス粒子。
[本発明1063]
ウイルスまたは組換えタンパク質を産生するための、本発明1001の細胞培養培地、濃縮供給物または再構成された培地の使用。
[本発明1064]
本発明1026の方法によって作製された、培養培地、濃縮供給物または再構成された培地。
[本発明1065]
前記小ペプチドが、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド、ペンタペプチド、ヘキサペプチド、ヘプタペプチド、オクタペプチド、ノナペプチド、またはデカペプチドのいずれかである、本発明1001または1064の細胞培養培地。
[本発明1066]
前記小ペプチドが少なくとも約2〜10アミノ酸長である、本発明1001または1064の細胞培養培地。
[本発明1067]
前記小ペプチドが少なくとも約10アミノ酸長である、本発明1001または1064の細胞培養培地。
[本発明1068]
流加培養中に前記補充を行う、本発明1022の方法。
【発明を実施するための形態】
【0055】
詳細な説明
これより、様々な例示的態様について詳細に言及する。以下の詳細な説明は、読者に本発明の特定の態様、特徴、および局面の詳細をより十分に理解してもらうために提供されており、本発明の範囲の限定であると解釈されるべきでないことを理解されたい。
【0056】
1. 定義
本発明がより容易に理解され得るように、特定の用語をまず定義する。さらなる定義は、詳細な説明を通して記載する。
【0057】
本明細書で用いられる「細胞培養」または「培養」とは、人工的な(例えば、インビトロの)環境における細胞の維持を指す。しかしながら、「細胞培養」という用語は一般名称であり、個々の原核(例えば、細菌)細胞または真核(例えば、動物、植物、および真菌)細胞のみならず、組織、器官、器官系、または全生物体の培養も包含するように用いられてよく、「組織培養」、「器官培養」、「器官系培養」、または「器官型培養」という用語は、「細胞培養」という用語と互換的に使用され得る場合もあることが理解されるべきである。
【0058】
本明細書で用いられる「培養」とは、細胞の活性状態または静止状態における、増殖、分化、または持続的な生存に好ましい条件下での、人工的な環境における細胞の維持を指す。したがって、「培養」は、「細胞培養」または上記のその同義語のいずれとも互換的に使用され得る。
【0059】
本明細書で用いられる「細胞培養培地」、「培養培地」、または「培地(medium)」(およびそれぞれの場合において複数形の培地(media))とは、細胞の培養および/または増殖を支援する栄養組成物を指す。細胞培養培地は、完全な配合物、すなわち細胞を培養するために補充を必要としない細胞培養培地であってよく、不完全な配合物、すなわち補充を必要とする細胞培養培地であってよいか、または不完全な配合物を補充し得るか、もしくは完全な配合物である場合には培養もしくは培養結果を改善し得る培地であってよい。「細胞培養培地」、「培養培地」、または「培地」(およびそれぞれの場合において複数形の培地)という用語は、文脈により他に示されない限り、細胞と共にインキュベートされていない非馴化細胞培地を指す。したがって、「細胞培養培地」、「培養培地」、または「培地」(およびそれぞれの場合において複数形の培地)という用語は、培地の元の構成成分の多く、ならびに様々な細胞代謝物および分泌タンパク質を含み得る「使用済み」または「馴化」培地とは区別される。
【0060】
本明細書で用いられる「小ペプチド」とは、アミノ酸の少なくとも1つがチロシンまたはシステインである、1つまたは複数のペプチド結合または同等の結合によって結合された2〜6個のアミノ酸の鎖を指す。好ましくは、チロシンまたはシステイン以外の、小ペプチド中のアミノ酸は、中性pHにおいて良好な溶解度特性を示す。したがって、1つの態様において、チロシンまたはシステイン以外の、小ペプチド中のアミノ酸は、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、およびアルギニンより選択される。別の態様において、小ペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。本発明の1つの態様において、小ペプチドは、エタノールアミンなどの遊離アミノ基を、もしくは遊離カルボキシル基を含む非アミノ酸、または類似の化合物を含み得る。
【0061】
本明細書で用いられる「抽出物」とは、典型的には機械的(例えば、加圧処理による)または化学的(例えば、蒸留、沈澱、酵素作用、または高塩処理による)のいずれかでの物質の処理によって形成された、物質の構成成分または物質のサブグループの濃縮調製物を含む組成物を指す。
【0062】
本明細書で用いられる「成分」という用語は、化学的起源のものであろうと生物学的起源のものであろうと、細胞の増殖の成長を維持または促進するために、細胞培養培地中で使用され得る任意の化合物を指す。「構成成分」、「栄養素」、および「成分」という用語は互換的に使用され得、いずれもそのような化合物を指すことが意図されている。細胞培養培地中で使用され得る典型的な成分には、アミノ酸、塩、金属、糖、炭水化物、脂質、核酸、ホルモン、ビタミン、脂肪酸、タンパク質などが含まれる。エクスビボで細胞の培養を促進または維持するその他の成分は、特定の必要性に従って当業者によって選択され得る。
【0063】
「1×配合物」とは、細胞培養培地中に見出されるいくつかまたはすべての成分を作用濃度で含む任意の水溶液を指す。「1×配合物」とは、例えば、細胞培養培地、またはその培地のための成分の任意のサブグループを指し得る。1×溶液中の成分の濃度は、インビトロで細胞を維持または培養するために用いられる細胞培養配合物中に見出されるその成分の濃度とほぼ同じである。細胞のインビトロ培養のために用いられる細胞培養培地は、定義により1×配合物である。多くの成分が存在する場合、1×配合物中の各成分は、細胞培養培地中のそれらの成分の濃度にほぼ等しい濃度を有する。例えば、RPMI-1640培養培地は、成分の中でとりわけ、0.2 g/L L-アルギニン、0.05 g/L L-アスパラギン、および0.02 g/L L-アスパラギン酸を含む。これらのアミノ酸の「1×配合物」は、溶液中ほぼ同じ濃度のこれらの成分を含む。したがって、「1×配合物」に言及する場合、溶液中の各成分が、記載される細胞培養培地中に見出される濃度と同じか、またはほぼ同じ濃度を有することが意図される。細胞培養培地の1×配合物中の成分の濃度は、当業者に周知である。その全体が参照により本明細書に組み入れられる、Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies, 42-50 (Sadettin Ozturk and Wei-Shou Hu eds., Taylor and Francis Group 2006)を参照されたい。しかしながら、浸透圧および/またはpHは、特により少数の成分が1×配合物中に含まれる場合、培養培地と比較して1×配合物において異なり得る。
【0064】
「10×配合物」は、その溶液中の各成分が、細胞培養培地中の同じ成分よりも約10倍濃縮されている溶液を指すことが意図される。例えば、RPMI-1640培養培地の10×配合物は、成分の中でとりわけ、2.0 g/L L-アルギニン、0.5 g/L L-アスパラギン、および0.2 g/L L-アスパラギン酸を含み得る(上記の1×配合物と比較されたい)。「10×配合物」は、1×培養培地中に見出される濃度の約10倍の濃度で、多くのさらなる成分を含み得る。容易に明らかなとおり、「5×配合物」、「25×配合物」、「50×配合物」、「100×配合物」、「500×配合物」、および「1000×配合物」は、1×細胞培養培地と比較して、それぞれ約5倍、25倍、50倍、100倍、500倍、または1000倍濃度の成分を含む溶液を示す。ここでも同様に、培地配合物および濃縮溶液の浸透圧およびpHは異なり得る。配合物は、特定の細胞培養プロトコールに関して1×で、しかし異なる培養プロトコールまたは異なる基礎培地に関しては、例えば2×、2.5×、5×、6.7×、9×、12×などの濃度で、構成成分または成分を含み得る。
【0065】
二量体は2つのジペプチドからなる。したがって、例えばAla-Cysの二量体はAla-Cys-Cys-Alaを構成し、ここでcys-cysはジスルフィド結合によって結合されている。Ala-Cys-Cys-Alaはまた、N,N',-ジ-L-アラニル-Lシステインとも称され得る。
【0066】
1. 小ペプチド
本開示は、細胞培養培地中での、ジペプチドを含む小ペプチドの使用に関する。本出願人らは、チロシンおよびシステインなどの特定のアミノ酸の所望の濃度を含む細胞培養培地の調製が、チロシンの低溶解度およびシステインの低安定性のために不可能なままであることを見出した。チロシンおよびシステインの溶解度および安定性の問題は、水性細胞培養培地中でチロシンまたはシステインの所望の濃度よりも低い濃度を用いることによって対処したが、これにより、細胞培養中に栄養素が使用されるという理由で、それらは最適な細胞増殖および/またはタンパク質産生の律速アミノ酸となる。チロシンおよびシステインの所望の濃度よりも低い濃度を用いることで、許容可能な水性保存期間、溶解度、および安定性をもたらすことができるが、所望の生産性を達成するためには、例えば流加培養システムにおいて、細胞培養補充中により大量の培地を添加することも必要となり得る。その上、システムの化学量論的な平衡、pH、および/または浸透圧も再調整される必要があるため、これは望ましくない。
【0067】
大量補充による問題は、濃縮供給補充物を用いることによって対処することができる。望ましい濃縮供給補充物は、流加培養システムにおいて栄養素枯渇培養システムを補充し、加えておよび望ましくは自動pH平衡特徴および自動浸透圧平衡特徴を有し得る、栄養的に複雑で化学量論的に平衡な栄養素添加物である。しかしながら、チロシンの低溶解度またはシステインの低安定性のために、高レベルのシステインおよびチロシンを含む濃縮供給組成物は、調製することが困難であった。このために、一般的には、システインまたはチロシンが時間と共に溶液から出現してくる。したがって、安定している単一部分のpH中性で既知組成の濃縮供給物は、合成が困難であった。この問題を回避するために、酸性またはアルカリ性の複数部分濃縮供給物が調製された。
【0068】
本出願人らは、細胞培養培地中の遊離アミノ酸、チロシンおよびシステインを、ジペプチドであるアラニル-チロシン、グリシル-チロシン、アラニル-システイン(ジスルフィド二量体、[AlaCys]
2を形成する)、もしくはグリシル-システイン(ジスルフィド二量体、[GlyCys]
2を形成する)などの小ペプチド、または1つもしくは複数のチロシンもしくはシステインを含むその他の小ペプチドで置換することが可能であることを発見した。これらのジペプチドまたはその他の小ペプチドを含む細胞培養培地は、遊離のチロシンおよび/またはシステインに関連した溶解度および安定性の問題を回避しつつ、最大の細胞増殖および/またはタンパク質産生を支援するのに十分なチロシンおよび/またはシステインの濃度を細胞に提供する。
【0069】
本発明の小ペプチドは2〜6個のアミノ酸を有し、アミノ酸の少なくとも1つはシステインまたはチロシンであり、残りのアミノ酸は任意のアミノ酸であってよい。好ましくは、チロシンまたはシステイン以外の、小ペプチド中のアミノ酸は、中性pHにおいて良好な溶解度特性を示す。1つの態様において、チロシンまたはシステイン以外の、小ペプチド中のアミノ酸は、アラニン、グリシン、セリン、バリン、プロリン、グルタミン酸、またはアスパラギン酸より選択される。別の態様において、小ペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。本発明の1つの態様において、小ペプチド(2個、3個、4個、5個、または6個のアミノ酸)は、エタノールアミンなどの遊離アミノ基を、もしくは遊離カルボキシル基を含む非アミノ酸、またはペプチド結合に寄与し得る類似の化合物を含み得る。別の態様において、小ペプチドは、スルフィド結合を介して二量体化されたシステインを含み得る。システイン-システイン二量体化(cys-cys)二量体化のために、本発明の小ペプチドは2〜6個のアミノ酸の長さを有すると定義されるものの、本発明の培地または供給物内で起こり得る自発的なシステイン-システイン二量体化のために、より長いペプチドをもたらす組成物も存在し得る。そのような化合物は、高濃度であってもやはり可溶性であり、したがって完全に本発明の範囲内である。
【0070】
他の態様において、小ペプチドは、2アミノ酸を有し、式:X-チロシン、X-システイン、チロシン-X、もしくはシステイン-X、またはそれらの塩によって示されるジペプチドであり、ここでXは任意のアミノ酸であり、ジペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。したがって、このジペプチドは、N末端アミノ酸のアミノ基に共有結合しているアシル基を必要とする、米国特許第5,534,538号において開示されているN-アシルジペプチドとは異なる。米国特許第5,534,538号によれば、優れた安定性特性をジペプチドに付与するのはアシル基の存在である。好ましくは、Xは、良好な溶解度特性を有するアミノ酸である。1つの態様において、Xはアラニンまたはグリシンである。別の態様において、Xはセリン、バリン、プロリン、グルタミン酸、またはアスパラギン酸である。
【0071】
1つの態様において、小ペプチドは、2アミノ酸を有するジペプチドであり、本発明の1つまたは複数のジペプチドは、X-チロシン、X-システイン、チロシン-X、およびシステイン-X、またはそれらの塩より選択され、ここでXは任意のアミノ酸であり、ジペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。1つの態様において、Xはアラニンまたはグリシンである。別の態様において、Xは、任意のアミノ酸、アミノ酸の誘導体、エタノールアミンなどのアミノ基を有する非アミノ酸である。この態様の1つの局面において、好ましいアミノ酸は、群:セリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン、またはグルタミン酸より選択される。
【0072】
別の態様において、小ペプチドは、3アミノ酸を有するトリペプチドであり、これには以下のトリペプチド:X-X-チロシン、X-X-システイン、X-チロシン-X、X-システイン-X、チロシン-X-X、システイン-X-X、またはそれらの塩が含まれ、ここでXは任意のアミノ酸である。1つの態様において、トリペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。好ましくは、Xは、良好な溶解度特性を有するアミノ酸である。1つの態様において、Xはアラニンまたはグリシンである。別の態様において、Xはセリン、バリン、プロリン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、またはアスパラギン酸である。本発明の特定の局面において、小ペプチド内にシステインおよびチロシンを含む上記の組成物は、細胞株におけるタンパク質産生を増加させるために用いられる。本発明の好ましい局面において、増加されるタンパク質は、小ペプチドを含まない培地中よりも高い力価で産生される抗体である。より高い抗体産生とは、約0.1 g/L〜約10 g/L、約0.1 g/L〜約5 g/L、約0.1 g/L〜約2.5 g/L、約0.1 g/L〜約1 g/L、好ましくは約1 g/L〜約10 g/L、より好ましくは約2 g/L〜約8 g/Lなどを意味する。
【0073】
細胞および細胞の意図される用途に応じて、細胞培養培地、供給物、濃縮培地もしくは濃縮供給物などの1つまたは複数の小ペプチドまたはジペプチドは、細胞培養の性能を最適化するように化学量論的に平衡化された濃度で最適に存在する。例えば、いくつかの細胞培養培地中または濃縮供給物中の1つまたは複数の小ペプチドまたはジペプチドの濃度は、約0.5 g/L〜約30 g/L、約0.5 g/L〜約25 g/L、約0.5 g/L〜約20 g/L、約0.5 g/L〜約16 g/L、約0.5 g/L〜約10 g/L、約0.5 g/L〜約5 g/L、約0.5 g/L〜約4 g/L、約1 g/L〜約30 g/L、約1 g/L〜約20 g/L、約1 g/L〜約16 g/L、約1 g/L〜約10 g/L、約1 g/L〜約5 g/L、約2.5 g/L〜約30 g/L、約2.5 g/L〜約20 g/L、約2.5 g/L〜約16 g/L、約2.5 g/L〜約10 g/L、約2.5 g/L〜約5 g/L、または約2.5 g/L〜約4.5 g/L、約5 g/L〜約30 g/L、約5 g/L〜約25 g/L、約5 g/L〜約20 g/L、約5 g/L〜約16 g/L、約5 g/L〜約10 g/L、約5 g/L〜約5 g/L、約5 g/L〜約4 g/Lなどであってよい。いくつかの培地配合物または原型培地配合物において、1つもしくは複数の小ペプチドおよび/または1つもしくは複数のジペプチドは、培地または原型培地中で約2.5 g/L〜約8.5 g/Lの濃度で存在し得る。加えて、本発明のいくつかの態様は、溶媒による再水和/再構成に際して自動的に所望のpHになる「自動pH培地」または供給物粉末を調製する方法を提供する。本発明に従って、そのような培地または供給物は、粉末形態(乾燥粉末(DPM)、高性能粉末(APM)、または高度造粒技術(AGT))、または液体形態であってよい。
【0074】
本方法によって調製される動物細胞培養培地または動物細胞培養供給物は、再構成に際して、好ましくは約6〜8もしくは約7〜8または約6.0〜6.3(昆虫細胞用)、より好ましくは約7〜7.5または約7.2〜7.4、最も好ましくはおよそ7.0のpHを有し;本方法によって調製される植物細胞培養培地または植物細胞培養供給物は、再構成に際して、好ましくは約4〜8、好ましくは約4.5〜7、5〜6、もしくは5.5〜6、または好ましくは約6.0〜6.3のpHを有する。当然のことながら、特定の細胞型において用いられるべき所与の培養培地の最適pHはまた、当技術分野で公知の方法を用いて当業者によって経験的に決定され得る。
【0075】
2. 細胞培養培地
細胞培養培地は多くの成分から構成され、これらの成分は培養培地ごとに異なる。上記のとおり、細胞培養培地は、完全な配合物、すなわち細胞を培養するために補充を必要としない細胞培養培地であってよく、不完全な配合物、すなわち補充を必要とする細胞培養培地であってよいか、または不完全な配合物を補充し得るか、もしくは完全な配合物である場合には培養もしくは培養結果を改善し得る補充物であってよい。
【0076】
一般的に、細胞培養培地は溶媒中に溶解している溶質を有する。溶質は浸透力を提供して、細胞膜(または壁)を介した浸透圧の平衡を保つ。加えて、溶質は細胞に栄養素を提供する。いくつかの栄養素は、細胞の働きのための化学燃料であり;いくつかの栄養素は、同化作用において使用するための細胞の原材料であってよく;いくつかの栄養素は、細胞代謝を促進する酵素または担体などの機構であってよく;いくつかの栄養素は、細胞使用のための成分と結合し、これを緩衝するか、または有害な細胞産物と結合するもしくはこれを隔離する結合剤であってよい。
【0077】
細胞および細胞の意図される用途に応じて、細胞培養培地の成分は、最適には、細胞培養の性能を最適化するように平衡化された濃度で存在する。性能は、1つまたは複数の所望の特徴、例えば、細胞数、細胞量、細胞密度、O
2消費、グルコースまたはヌクレオチドなどの培養成分の消費、生体分子の産生、生体分子の分泌、例えば代謝物といった老廃物または副産物の形成、指標またはシグナル分子に及ぼす作用などに従って測定される。したがって、それぞれのまたは選択された成分は、好ましくは、意図される目的のための作用濃度になるよう最適化される。
【0078】
本発明の培養培地または供給補充物は、水などの溶媒の添加のみを必要とする乾燥形式で得られ得る。好ましくは、乾燥形式粉末は、製粉、衝突、押し出しおよび切断または破壊、湿式造粒、高剪断造粒、パン造粒、ならびに流動床凝集からなる群より選択される少なくとも1つの方法によって調製される。乾燥形式には、乾燥粉末形式(DPM)、凝集(AGT(商標))形式、高性能粉末培地(APM)、またはその他の適切な乾燥形式が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、ひとたび水が添加されたならば、直ちに溶解が起こるべきであり、結果として得られた溶液をろ過し、pH調整をすることなく細胞に直接添加することができる。再構成される培地または濃縮補充物は、可変のバルク量で調製されてよく、特にイオン化または紫外線照射による滅菌が可能である。
【0079】
a. 炭水化物
細胞培養培地成分は典型的に、炭水化物、アミノ酸、塩、微量元素、およびビタミンを含む。哺乳動物細胞に関しては、細胞培養培地中で用いられる主要な炭水化物は、5〜25 nMで日常的に補充されるグルコースである。Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies, 51 (Sadettin Ozturk and Wei-Shou Hu eds., Taylor and Francis Group 2006)を参照されたい。グルコースに加えて、ガラクトース、フルクトース、もしくはマンノース、またはこれらの組み合わせなどの任意のヘキソースも使用され得る。加えて、哺乳動物はまた主要なエネルギー源としてグルタミンを使用し得る。グルタミンは、他のアミノ酸よりも高い濃度で含まれる場合が多い(2〜8 mM)。しかしながら、上記のとおり、グルタミンは自発的に分解してアンモニアを形成し得、ある種の細胞株はアンモニアをより速く産生し、これは毒性がある。したがって、細胞培養培地中の毒性アンモニアの蓄積を減少させるために、グルタミンの代替物としてグルタミン酸およびグルタミンジペプチドが使用されている。
【0080】
b. アミノ酸
アミノ酸は、培養細胞の代謝機能を維持するために、細胞培養培地中で重要である。細胞培養培地は典型的に、必須アミノ酸(すなわち、哺乳動物によってインビボで通常合成されないアミノ酸)およびある種の非必須アミノ酸を含む。非必須アミノ酸は典型的に、細胞株が該アミノ酸を合成することができない場合、または細胞株が最大の増殖を支援するのに十分な量の該アミノ酸を産生することができない場合に、細胞培養培地中に含められる。例示的なアミノ酸には、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-ヒドロキシプロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、およびL-バリンが含まれる。
【0081】
c. 塩
塩は、等張状態を維持し、浸透圧の不均衡を妨げるために、細胞培養培地に添加される。標準的な哺乳動物細胞培養培地の浸透圧は約 300 mOsm/kgであるが、多くの細胞株はこの値のおよそ10%の変動を許容し得る。いくつかの昆虫細胞培養物の浸透圧は300 mOsm/kgよりも高い傾向があり、これは300 mOsm/kgよりも0.5%、1%、2〜5%、5〜10%、10〜15%、15〜20%、20〜25%、25〜30%高くてよい。細胞培養培地中で最も一般的に使用される塩には、Na
+、K
+、Mg
2+、Ca
2+、Cl
-、S0
42-、P0
43-、およびHC0
3-(例えば、CaCl
2、KCl、NaCl、NaHC0
3、Na
2HP0
4)が含まれる。したがって、特定の細胞型を培養するための細胞培養培地の所望の浸透圧はまた、当技術分野で公知の方法を用いて当業者によって経験的に決定され得る。
【0082】
d. 無機元素
全体が参照により本明細書に組み入れられるUS 2005/0287666に記載されているとおり、血清中に微量で存在するその他の無機元素を細胞培養培地中に含めることができる。それらには、Mn、Cu、Zn、Mo、Va、Se、Fe、Ca、Mg、Si、およびNiが含まれる。それほど頻繁ではないが、細胞培養培地に添加されているその他の無機元素には、Al、Ag、Ba、Br、Cd、Co、Cr、F、Ge、J、Rb、およびZrが含まれる。これらの元素の多くは、酵素活性に関与する。それらは、CaCl
2、Fe(N03)
3、MgCl
2、MgS0
4、MnCl
2、NaCl、NaHC03、Na2HP04などの塩、ならびにセレン、バナジウム、および亜鉛などの微量元素のイオンの形態で提供され得る。これらの微量元素は、様々な形態で、好ましくはNa
2Se0
3、NH
4V0
3などの塩の形態で提供され得る。これらの無機塩および微量元素は、例えばSigma(Saint Louis, Missouri)から商業的に入手することができる。
【0083】
e. ビタミン
ビタミンは典型的に、補助因子として細胞によって使用される。各細胞株のビタミン要求は大きく異なるが、細胞培養培地が血清をほとんど含まない場合、または細胞を高密度で増殖させる場合には、一般的に余分のビタミンが必要とされる。例示的なビタミンには、ビオチン、塩化コリン、葉酸、i-イノシトール、ニコチンアミド、D-Ca
++-パントテン酸、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、ピリドキシン、ナイアシンアミド、A、B
6、B
12、C、D
3、E、K、およびp-アミノ安息香酸(PABA)が含まれる。
【0084】
f. 血清
凝固した血液の上清である血清は、細胞の増殖および/または生産性を促進する構成成分を提供するために、細胞培養培地地中で使用され得る。これらの血清構成成分には、接着因子、微量栄養素(例えば、微量元素)、増殖因子(例えば、ホルモン、プロテアーゼ)、および保護エレメント(例えば、抗毒素、抗酸化物質、抗プロテアーゼ)が含まれる。血清は、ウシまたはウマを含む様々な動物源から入手可能である。細胞培養培地中に含める場合、血清は典型的には5〜10%の濃度で添加される。特定の細胞培養培地は無血清である。
【0085】
g. 増殖因子
血清の非存在下または血清低減培地中での細胞増殖を促進するために、以下のポリペプチドのうちの1つまたは複数を細胞培養培地に添加することができる:例えば、酸性FGFおよび塩基性FGFを含む線維芽細胞増殖因子(FGF)、インスリン、インスリン様増殖因子(IGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、神経成長因子(NGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、ならびにTGFαおよびTGFβを含むトランスフォーミング増殖因子(TGF)、インターロイキン1、2、6、顆粒球刺激因子、白血病抑制因子(LIF)などの任意のサイトカイン。
【0086】
特定の態様において、細胞培養培地は増殖因子を含まない。タンパク質不含培地では、その全体が参照により本明細書に組み入れられるWO 98/08934に記載されているとおり、インスリンが亜鉛または亜鉛含有化合物で置換され得る。
【0087】
h. 脂質
1つまたは複数の脂質を細胞培養培地に添加することもできる。血清は典型的に、脂肪酸(例えば、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ポリエン酸、および/または各炭素原子が分枝状もしくは非分枝状である、12個、14個、16個、18個、20個、もしくは24個の炭素原子の脂肪酸)、リン脂質、レシチン(ホスファチジルコリン)、およびコレステロールなどの脂質を含む。あるいは、これらの脂質のうちの1つまたは複数を、無血清培地中に補充物として含めることもできる。ホスファチジン酸およびリゾホスファチジン酸は、MDCK、マウス上皮、およびその他の腎臓細胞株などのある種の足場依存性細胞の増殖を促進し、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、およびホスファチジルイノシトールは、無血清培地中でヒト線維芽細胞の増殖を促進する。エタノールアミンおよびコレステロールもまた、ある種の細胞株の増殖を促進することが示されている。特定の態様において、細胞培養培地は脂質を含まない。
【0088】
i. 担体タンパク質
ウシ血清アルブミン(BSA)またはトランスフェリンなどの1つまたは複数の担体タンパク質を細胞培養培地に添加することもできる。担体タンパク質は、ある種の栄養素または微量元素の輸送に役立ち得る。BSAは典型的には、水溶液中で不溶性である、リノール酸およびオレイン酸などの脂質担体として用いられる。加えて、BSAはまた、Fe、Cu、およびNiなどのある種の金属の担体としても役立ち得る。タンパク質不含配合物では、シクロデキストリンなどの、BSAの非動物由来代替物が脂質輸送体として使用され得る。トランスフェリンは、細胞膜を介した鉄の輸送に関与する。場合によっては、下流の治療用途のために生成される産物にとって望ましい(例えば、異物不含(XF)培養においてなど)細胞の培養には、ヒト血清アルブミンが必要である場合がある。他の例では、組換えヒト血清アルブミンが、細胞を培養するための細胞培養培地中で使用され得る。特定の事例では、細胞の動物起源不含(AOF)培養を提供するために、組換えヒト血清アルブミンは、コメ、トウモロコシ、ジャガイモ、コムギ、さらには酵母などのような植物、藻類、または真菌供給源に由来し得る。タンパク質不含配合物では、トランスフェリンは、その全体が参照により本明細書に組み入れられるWO 98/08934に記載されているとおり、三価鉄および/もしくは二価鉄塩と、またはその全体が参照により本明細書に組み入れられるUS 2007/0254358に記載されているとおり、ヒドロキシピリジン誘導体と置換され得る。加えて、タンパク質不含配合物では、インスリンは、亜鉛、バナジウム、またはその他の適切な二価塩と置換され得る。
【0089】
j. 接着タンパク質
足場依存性細胞の基材への接着を促進するのを助けるために、フィブロネクチン、ラミニン、およびプロネクチンなどの1つまたは複数の接着タンパク質を細胞培養培地に添加することもできる。
【0090】
k. 緩衝剤
細胞培養培地は任意に、1つまたは複数の緩衝剤を含み得る。適切な緩衝剤には、N-[2-ヒドロキシエチル]-ピペラジン-N'-[2-エタンスルホン酸](HEPES)、MOPS、MES、リン酸、炭酸水素、および細胞培養適用において使用するのに適したその他の緩衝剤が含まれるが、これらに限定されない。適切な緩衝剤は、培養される細胞に対する実質的な細胞毒性なしに緩衝能力を提供するものである。適切な緩衝剤の選択は、細胞培養の技術分野における通常の技術の範囲内である。
【0091】
l. ポリアニオン化合物またはポリカチオン化合物
ポリアニオン化合物またはポリカチオン化合物は、細胞が凝集するのを防ぎ、懸濁液中で細胞の増殖を促進し得る。その全体が参照により本明細書に組み入れられるWO 98/08934を参照されたい。例示的なポリアニオン化合物には、ヘパリン、デキストラン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、ペント酸ポリ硫酸、プロテオグリカンなどのようなポリスルホン化化合物またはポリ硫酸化化合物が含まれる。
【0092】
本明細書に記載される小ペプチドまたはジペプチドに加えて、細胞培養培地は、上記したものなどの1つまたは複数の成分を含む。1つの態様において、細胞培養培地は、上記のとおりの1つもしくは複数の小ペプチドまたは1つもしくは複数のジペプチドを含み、および任意に以下の成分のうちの1つまたは複数を含む:エタノールアミン、D-グルコース、HEPES、インスリン、サイトカイン(例えば、IL-6)、ヘパリン、デキストラン硫酸、リノール酸、リポ酸、フェノールレッド、PLURONIC(登録商標) F68、プトレシン、ピルビン酸ナトリウム、トランスフェリン、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、ビオチン、塩化コリン、D-Ca
++-パントテン酸、葉酸、i-イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、ビタミンB
12、1つまたは複数のカルシウム塩、Fe(NO
3)
3、KCl、1つまたは複数のマグネシウム塩、1つまたは複数のマンガン塩、NaCl、NaHCO
3、Na
2HP0
4、1つまたは複数のセレン塩、1つまたは複数のバナジウム塩、および1つまたは複数の亜鉛塩。1つの態様において、1つまたは複数のジペプチドは、X-チロシン、X-システイン、チロシン-X、およびシステイン-X、またはそれらの塩より選択され、ここでXは任意のアミノ酸であり、ジペプチドのN末端アミノ酸は遊離アミノ基を有する。1つの態様において、Xはアラニンまたはグリシンである。別の態様において、Xはセリン、バリン、プロリン、アスパラギン酸、またはグルタミン酸である。
【0093】
本明細書に記載される培地は1×配合物であってよいか、または個々の構成成分の溶解度が許す限り、1×配合物よりも濃いものとして、例えば2×、5×、10×、20×、50×、500×、もしくは1000×培地配合物として濃縮され得る。個々の培地成分が別々の濃縮溶液として調製される場合には、1×培地配合物を作製するために、各濃縮物の適量(十分量)が希釈剤と混合される。典型的には、使用される希釈剤は水であるが、水性緩衝液、水性生理食塩水、またはその他の水溶液を含むその他の溶液も使用され得る。
【0094】
本明細書に記載される培地はまた、乾燥粉末培地、粒状調製物(水の添加を必要とするが、pH調整(pHing)などの他の処理は必要としない)、液体培地、または培地濃縮物などの異なる形態で調製され得る。
【0095】
3. 無血清培地
バッチ間の変動、高タンパク質含量、汚染(例えば、ウイルス、マイコプラズマ、プリオン)のリスク、限られた利用能、および高コストを含む、血清に関連した潜在的問題により、無血清培地の作製が推進された。さらに、血清が補充された培地中で増殖された細胞において見られる発現のレベルと比較して、無血清培地中で増殖された細胞から、組換えタンパク質発現のレベルの向上が得られ得る(Battista, P. J. et al., Am. Biotech Lab. 12: 64-68 (1994))。
【0096】
これらの無血清培地において、血清は、明確なホルモンで、またはヒドロコルチゾン、インスリン、トランスフェリン、エタノールアミン、および亜セレン酸を含む、HITESもしくはITESなどのホルモン混合物で置換され得る。あるいは、無血清培地は、上皮細胞増殖因子または線維芽細胞増殖因子などの、内分泌腺からの増殖因子抽出物を含み得る。無血清培地はまた、血清の代替物として、精製タンパク質(動物または組換え体)、ペプトン、アミノ酸、無機塩、および動物または植物加水分解物(またはその一部)を含むその他の構成成分を含み得る。
【0097】
無血清培地は、既知組成であっても非既知組成であってもよい。既知組成培地では、構成成分の同一性およびそれらの量がわかっているのに対して、非既知組成培地ではその逆である。したがって、既知組成培地は、一つには、汚染のリスクを減少させるため、およびバッチ間の変動を減少させるために設計される。細胞培養培地に添加され得る既知組成補充物は、増殖因子、ホルモン、担体タンパク質、および/または接着因子を含む。好ましい態様において、小ペプチドを含む培地または供給物と共に用いられる基礎培地は、既知組成培地である。別の好ましい態様において、小ペプチドを含む本発明の濃縮細胞培養培地または濃縮供給物もまた、既知組成組成物である。さらに別の好ましい態様において、システインおよびチロシンを含む小ペプチドを含む本発明の濃縮供給物または濃縮培地は、単一部分供給物であり、かつ既知組成である。別の局面において、システインおよびチロシンを含む小ペプチドを含む上記組成物はすべて、自動的にpHが平衡化され、かつ自動的に浸透圧が平衡化される。さらに別の局面において、システインおよびチロシンを含む小ペプチドを含む上記組成物はすべて、化学量論的に平衡化される。
【0098】
4. タンパク質不含培地
無血清培地は、血清を含む細胞培養培地と比較して少量のタンパク質を含む。しかしながら、無血清培地は、アルブミン、フェチュイン、様々なホルモン、およびその他のタンパク質を含む様々な動物由来構成成分のうちの1つまたは複数をなお含み得る。タンパク質の存在により、組換えタンパク質の精製は困難になり、時間を要し、かつ高価になり、また産物の収量および/または純度の減少をもたらし得る。したがって、1つの態様において、細胞培養培地はタンパク質不含である。
【0099】
タンパク質不含培地は、無血清培地からいかなる残存タンパク質も除去するなどして、当技術分野で公知の方法によって得ることができる。細胞培養培地からそのようなタンパク質を除去することは、細胞増殖を支援する培地の能力を損ない得るが、培地からタンパク質を除去する影響を軽減するために、その他の構成成分が培地に添加され得る。例えば、上記のとおり、シクロデキストリンはBSAに取って代わることができ、鉄塩またはヒドロキシピリジン誘導体はトランスフェリンに取って代わることができる。その他の事例では、タンパク質不含培地を補充するために、動物組織または植物加水分解物(またはその一部)が用いられている。
【0100】
5. 流加培養
細胞の流加培養は典型的には、高い産物濃度および容積生産性を目的として、細胞濃度を増加させるためおよび培養寿命を延ばすために、タンパク質などの生体分子の産業生産に用いられる。流加培養は、基礎培地への、グルコース、アミノ酸などの、細胞によってすぐに利用される栄養素を含み得る供給物の形態の、1つまたは複数の栄養素の制御された添加を含む。栄養素は、栄養素の枯渇および副産物の蓄積を妨げようとすることによって細胞培養物の増殖を制御するのに、pH、浸透圧、およびCO
2濃度などの重要なパラメータを、最適な産物発現のために細胞増殖を促進するかまたは細胞死を最小限にするレベル内に制御するのに役立つ。Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies, 349-386 (Sadettin Ozturk and Wei-Shou Hu eds., Taylor and Francis Group 2006)を参照されたい。その場合でさえ、流加培養は、最終的に細胞生存度と適合しない高濃度の阻害性代謝物および高浸透圧をもたらす場合が多い。
【0101】
基礎培地は典型的には細胞培養を維持するために用いられ、アミノ酸、ビタミン、有機および無機塩、糖、ならびにその他の構成成分を含む多くの成分を含んでよく、各成分はインビトロで細胞の培養を支援する量で存在する。細菌および古細菌培養を含む原核細胞培養、ウイルス培養、植物細胞培養、昆虫細胞培養、哺乳動物細胞培養に有用な基礎培地は、小ペプチドと共に使用することができる。基礎培地の例には、イーグル基礎培地(BME)、イーグル最小必須培地(EMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、グラスゴー改変イーグル培地(GMEM)、ジョクリック改変イーグル培地、α改変イーグル培地、ロズウェルパーク記念研究所(Roswell Park Memorial Institute)(RPMI)培地、フィッシャー培地、リーボビッツL-15培地、トロウェルT-8培地、ウィリアムズ培地E、ビガーズ(Biggers)培地、コンノート医学研究所(Connaught Medical Research Laboratories)(CMRL) 1066培地、ハムF10培地、ハムF12培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、MCDB 104、MCDB 110、MCDB 153、培地199、NCTC 135培地、およびウェイマウス培地MB 752/1が含まれる。CHO細胞については、好ましい基礎培地には、CD CHO、CD OptiCHO(商標)、およびCD FortiCHO(商標)(すべてLife Technologies, Corp.、Carlsbad, CAによる)が含まれる。CHO細胞のための好ましい濃縮供給補充物には、CHO CD EfficientFeed(商標) A(Invitrogen Cat. No. A1023401)、CHO CD EfficientFeed(商標) B(Invitrogen Cat. No. A1024001)、CHO CD EfficientFeed(商標)キット(Invitrogen Cat. No. A1024101)、CD EfficientFeed(商標) C AGT(商標)(Invitrogen Cat. No. A1327501、Life Technologies Corp.、Carlsbad, CA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0102】
流加培養では、典型的には、基礎培地を用いてバッチ様式で、細胞をある時点まで増殖させる。その後、量の増加または培養物の希釈を最小限にしつつ、栄養素を提供するために、単一または複数の栄養素の濃縮溶液を含む培地補充物(濃縮供給物)を添加する。培地補充物が基礎培地に添加される場合、これにより、例えば、より迅速な細胞増殖、倍加時間の短縮、より高く達成可能な細胞密度、または例えば抗体もしくは治療的関心対象のその他のタンパク質といったタンパク質などの生体分子のより高い産生もしくは収量によって示されるとおり、細胞培養が改善される。
【0103】
基礎培地への補充に使用するのに適した本発明の細胞培養培地または濃縮供給物は、本明細書に記載されるとおりの、1つまたは複数のジペプチドを含む1つまたは複数の小ペプチドを含む。システインおよびチロシンを含む細胞培養培地または濃縮供給物は、任意に、別の供給物、例えば以下の成分のうちの1つまたは複数を含み得るアミノ酸の濃縮混合物と併用して使用され得る:アデニン、エタノールアミン、炭水化物源(グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、またはさらにはそれらの組み合わせのいずれかのようなヘキソースなど)、ヘパリン、緩衝剤、ヒドロコルチゾン、リポ酸、フェノールレッド、ホスホエタノールアミン、プトレシン、ピルビン酸ナトリウム、トリヨードチロニン、チミジン、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-グルタミン酸、L-グルタミン、グリシン、L-ヒスチジン、L-ヒドロキシプロリン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、N-アセチル-システイン、ビオチン、塩化コリン、D-Ca
++-パントテン酸、葉酸、i-イノシトール、ナイアシンアミド、ピリドキシン、リボフラビン、チアミン、ビタミンB
12、Pluronic F68、組換えインスリン、カルシウム塩、CuS0
4、FeS0
4、FeCl
3、Fe(NO
3)
3、KCl、マグネシウム塩、マンガン塩、酢酸ナトリウム、NaCl、NaHCO
3、Na
2HP0
4、Na
2S0
4、セレン塩、ケイ素塩、モリブデン塩、バナジウム塩、ニッケル塩、スズ塩、ZnCl
2、ZnS0
4、またはその他の亜鉛塩。
【0104】
したがって、基礎培地を補充するために用いられるアミノ酸の濃縮混合物は、アミノ酸の化学量論的に平衡化された混合物から構成されてよく、システインおよびチロシンを含んでも含まなくてもよく、以下のもの:炭素源、ビタミン、微量元素のうちの1つまたは複数を任意に含んでよく、さらに脂質、加水分解物、または増殖因子を全く含まないという点で既知組成であってよい。場合によっては、アミノ酸の濃縮混合物は、動物起源不含加水分解物または加水分解物の一部、例えば植物加水分解物を含み得る。例えば、CHO CD EfficientFeed(商標) A(Invitrogen Cat. No. A1023401)、CHO CD EfficientFeed(商標) B(Invitrogen Cat. No. A1024001)、CHO CD EfficientFeed(商標)キット(Invitrogen Cat. No. A1024101)、CD EfficientFeed(商標) C AGT(商標)(Invitrogen Cat. No. A1327501,、Life Technologies Corp.、Carlsbad, CA)といった、任意の市販のアミノ酸の濃縮混合物が使用され得る。
【0105】
1つの態様において、基礎培地への補充に使用するのに適した、本発明のシステインおよびチロシン含有細胞培養培地または濃縮供給物は、タンパク質不含である。別の態様において、基礎培地への補充に使用するのに適した本発明の細胞培養培地または濃縮供給物は、タンパク質不含であり、加えて、脂質、加水分解物もしくはその一部、または増殖因子を含まず、したがって既知組成(CD)と見なされる。この態様の1つの局面において、本発明のシステインおよびチロシン含有細胞培養培地または濃縮供給物は、炭素源、ビタミン、微量元素のうちの1つまたは複数を任意に含んでよく、さらに脂質、加水分解物、または増殖因子を全く含まないという点で既知組成であってよい。
【0106】
6. 細胞
本明細書に記載されるシステインおよびチロシン含有小ペプチドまたはジペプチドを含む培地は、様々な細胞を培養するために使用することもできる。本明細書に記載される培養培地および供給物を用いて増殖される細胞は、古細菌を含む任意の原核生物、藻類、酵母、真菌、植物、昆虫、動物、好ましくは哺乳動物、および最も好ましくはマウスまたはヒトに由来し得る。1つの態様において、培地は、植物細胞、または哺乳動物細胞、魚類細胞、昆虫細胞、両生類細胞、もしくは鳥類細胞などの動物細胞を含む真核細胞を培養するために用いられる。
【0107】
本明細書に記載される培地を用いて培養され得る哺乳動物細胞には、初代上皮細胞(例えば、ケラチノサイト、子宮頸部上皮細胞、気管支上皮細胞、気管上皮細胞、腎臓上皮細胞、および網膜上皮細胞)、ならびに樹立細胞株およびそれらの株(例えば、293胎児腎臓細胞、BHK細胞、HeLa子宮頸部上皮細胞、およびPER-C6網膜細胞、MDBK(NBL-1)細胞、911細胞、CRFK細胞、MDCK細胞、CHO細胞、BeWo細胞、Chang細胞、Detroit 562細胞、HeLa 229細胞、HeLa S3細胞、Hep-2細胞、KB細胞、LS180細胞、LS174T細胞、NCI-H-548細胞、RPMI 2650細胞、SW-13細胞、T24細胞、WI-28 VA13、2RA細胞、WISH細胞、BS-C-I細胞、LLC-MK
2細胞、クローンM-3細胞、1-10細胞、RAG細胞、TCMK-1細胞、Y-1細胞、LLC-PK
1細胞、PK(15)細胞、GH
1細胞、GH
3細胞、L2細胞、LLC-RC 256細胞、MH
1C
1細胞、XC細胞、MDOK細胞、VSW細胞、およびTH-I、B1細胞、またはそれらの誘導体)、任意の組織または器官(心臓、肝臓、腎臓、結腸、腸、食道、胃、神経組織(脳、脊髄)、肺、血管組織(動脈、静脈、毛細血管)、リンパ組織(リンパ腺、咽頭扁桃腺、扁桃腺、骨髄、および血液)、脾臓を含むがこれらに限定されない)に由来する線維芽細胞、ならびに線維芽細胞および線維芽細胞様細胞株(例えば、CHO細胞、TRG-2細胞、IMR-33細胞、Don細胞、GHK-21細胞、シトルリン血症細胞、Dempsey細胞、Detroit 551細胞、Detroit 510細胞、Detroit 525細胞、Detroit 529細胞、Detroit 532細胞、Detroit 539細胞、Detroit 548細胞、Detroit 573細胞、HEL 299細胞、IMR-90細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、WI-26細胞、MiCl
1細胞、CHO細胞、CV-1細胞、COS-1細胞、COS-3細胞、COS-7細胞、Vero細胞、DBS-FrhL-2細胞、BALB/3T3細胞、F9細胞、SV-T2細胞、M-MSV-BALB/3T3細胞、K-BALB細胞、BLO-11細胞、NOR-10細胞、C
3H/IOTI/2細胞、HSDM
1C
3細胞、KLN
20
5細胞、McCoy細胞、マウスL細胞、株2071(マウスL)細胞、L-M株(マウスL)細胞、L-MTK
-(マウスL)細胞、NCTCクローン2472および2555、SCC-PSA1細胞、Swiss/3T3細胞、ホエジカ細胞、SIRC細胞、C
II細胞、ならびにJensen細胞、Sp2/0、NSO、NS1細胞、またはそれらの誘導体)が含まれる。
【0108】
本明細書において開示される方法に従って培養される細胞は、正常細胞、罹患細胞、形質転換細胞、変異細胞、体細胞、遺伝子操作された細胞、生殖細胞、幹細胞、前駆細胞、または胚細胞であってよく、これらはいずれも樹立細胞株もしくは形質転換細胞株であってよいか、または天然源から得られてもよい。細胞は、実験目的のために、または有用な構成成分の産生のために使用され得る。場合によっては、培養された細胞自体が産物であり、細胞療法における細胞に役立つ。細胞はまた、抗体産生を含むタンパク質産生、(miRNAまたはsiRNAなどの)低分子RNA産生、ウイルスまたはVLP(ウイルス様粒子)産生、DNAまたはウイルスベクターの作製および単離、核酸産生、ビタミン産生、所望の代謝物、バイオ燃料合成などのために培養され得る。1つの態様において、本明細書に記載される培地は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を培養するために用いられる。CHO細胞は、チャイニーズハムスター卵巣に由来する上皮細胞および線維芽細胞の両方として分類されている。チャイニーズハムスター卵巣から出発した細胞株(CHO-K1)(Kao, F.-T. And Puck, T. T., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 60: 1275-1281 (1968)は、何年にもわたって培養されている。ほとんどのバイオ製薬会社は現在のところ、該細胞株が、ヒト様グリコシル化パターンなどの正確な翻訳後修飾を有し、ヒトウイルスの感染のリスクが低いという多くの利点から、CHO細胞においてタンパク質を産生している。
【0109】
7. 細胞の培養
本明細書に記載される培養培地によって支援される細胞は、研究者によって決定される実験条件に従って培養することができる。以下の例は、ある種の哺乳動物細胞の培養に有用な培養条件の少なくとも1つの機能的セットを実証する。しかしながら、所与の動物細胞型の最適なプレーティングおよび培養条件は、日常的な実験のみを用いて当業者によって決定され得ることが理解されるべきである。本明細書に記載される細胞培養培地を用いた日常的な単層培養条件に関して、細胞は、接着因子なしで培養容器の表面上にプレーティングすることができる。あるいは、容器を天然、組換え、または合成の接着因子またはペプチド断片(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンなど、またはそれらの天然もしくは合成の断片)で予めコーティングすることもでき、それらは、例えば、Life Technologies, Corp.(Carlsbad, CA)、R&D Systems, Inc.(Rochester, Minnesota)、Genzyme(Cambridge, Massachusetts)、およびSigma(St. Louis, Missouri)から市販されている。細胞はまた、予め形成されたコラーゲンゲルまたは合成生体高分子材料などの天然または合成の三次元支持基質内または該基質上に播種することもできる。懸濁培養に関しては、細胞を典型的には、本明細書に記載される培養培地中に懸濁し、スピナーフラスコ、潅流装置、またはバイオリアクターなどの、懸濁液中での細胞の培養を容易にする培養容器中に導入する。Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies, 156-174 (Sadettin Ozturk and Wei-Shou Hu eds., Taylor and Francis Group 2006)を参照されたい。場合によっては、培地および懸濁細胞のいくらかのレベルの撹拌が必要である。撹拌は、培養中の培地構成成分の変性および細胞の剪断を回避するように、最小限にされ得る。
【0110】
各実験条件についての細胞播種密度は、用いられる特定の培養条件に関して最適化され得る。プラスチック培養容器中での日常的な単層培養については、1〜5×10
5個の細胞/cm
2の開始播種密度が好ましいと考えられ、懸濁培養ついては、より高い播種密度(例えば、5〜20×10
5個の細胞/ml)が使用され得る。
【0111】
哺乳動物細胞は典型的には、好ましくは約37℃の細胞インキュベーター内で培養されるが、これは30℃〜39℃の範囲であってもよい。非哺乳動物細胞は、培養に関してその他の好ましい温度を有し得る。哺乳動物細胞および非哺乳動物細胞の培養は、例えば、最適な細胞増殖のためのある温度において、および最適なタンパク質/ペプチド/断片またはウイルス産生のための別の温度において、段階的に行われ得る。インキュベーター雰囲気は加湿されてよく、空気中の約3〜10%の二酸化炭素、より好ましくは空気中の約5〜10%の二酸化炭素、および最も好ましくは空気中の約3〜8%の二酸化炭素を含み得るが、ある種の細胞株の培養は、最適な結果を得るために空気中の20%もの二酸化炭素を必要とし得る。培養培地pHは、細胞型に応じた好ましい範囲内、例えば約6〜8.5、好ましくは約7.1〜7.6、もしくは好ましくは約7.1〜7.4、もしくはより好ましくは約7.1〜7.3、または昆虫細胞については好ましくは約6〜6.3であってよい。
【0112】
閉鎖培養中またはバッチ培養中の細胞は、細胞が約1.5〜2.0×10
6個の細胞/mlの密度に達した時点で、完全な培地交換(すなわち、消費された培地を新鮮な培地と交換すること)を受けるべきである。潅流培養における(例えば、バイオリアクターまたは発酵槽内の)細胞は、持続的な再循環基準で新鮮な培地を受け取る。
【0113】
8. ウイルス産生
懸濁培養または単層培養における細胞の培養に加えて、本培地は、哺乳動物細胞からウイルスを産生させる方法において使用することもできる。そのような方法は、(a) ウイルスによる細胞の感染を促進するのに適した条件下で、細胞(例えば、哺乳動物細胞)をウイルスと接触させる段階;および(b) 細胞によるウイルスの産生を促進するのに適した条件下で、本明細書に記載される小ペプチドまたはジペプチド含有細胞培養培地中で該細胞を培養する段階を含む。細胞は、培養培地中での細胞の培養前、培養中、または培養後のいずれかに、ウイルスと接触させることができる。哺乳動物細胞にウイルスを感染させるための最適な方法は当技術分野で周知であり、当業者によく知られている。本明細書に記載される培養培地中で培養されたウイルス感染哺乳動物細胞は、本明細書に記載される細胞培養培地以外の細胞培養培地中で培養された細胞よりも高いウイルス力価(例えば、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、25倍、50倍、100倍、250倍、500倍、または1000倍高い力価)を生じることが予測され得る。
【0114】
これらの方法は、アデノウイルスおよびその誘導体、アデノ随伴ウイルスおよびその誘導体、レトロウイルスおよびその誘導体、レンチウイルスおよびその誘導体、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスおよびその誘導体、センダイウイルスおよびその誘導体などを含むがこれらに限定されない、様々な哺乳動物ウイルスまたは哺乳動物細胞に感染するように適合化されたウイルス、ウイルス様粒子、およびウイルスベクターを産生するために使用することができる。本明細書に記載される培養培地中で感染細胞を培養した後、組換えウイルスであってよいウイルス、ウイルスベクター、ウイルス粒子、またはそれらの構成成分(タンパク質および/または核酸(DNAおよび/またはRNA))を含む使用済みの培地を、ワクチン産生、miRNA、siRNAなどのような阻害性RNA分子の産生、細胞トランスフェクションまたは遺伝子療法で使用するためのウイルスベクターの産生、動物または細胞培養物の感染、ウイルスタンパク質および/または核酸の研究などを含む、様々な目的のために使用することができる。または、ウイルス、ウイルスベクター、ウイルス粒子またはそれらの構成成分は任意で、当業者によく知られている、タンパク質単離および/または核酸単離のための技術によって、使用される培養培地から単離されてもよい。
【0115】
1つの態様において、細胞はVLPを産生する。「VLP」または「ウイルス様粒子」とは、脂質、炭水化物、タンパク質、および核酸などの生体物質を含む1つまたは複数の化合物を細胞内に送達するための媒体である。VLPを用いて送達され得るその他の化合物には、色素(例えば、蛍光色素)、標識(例えば、蛍光または放射性標識)、および薬物(例えば、抗生物質または抗ウイルス剤)が含まれる。VLPは一般的に、少なくとも1つのウイルスタンパク質を含む。典型的には、ウイルスタンパク質は化合物を取り囲む。しかしながら、特定の事例では、送達されるべき化合物を、VLP内への封入以外の手段によってVLPと会合させることができる。例えば、化合物をウイルスタンパク質に結合させる(例えば、共有結合または非共有結合させる)ことができ、または存在する場合には外被に組み込むことができる。1つの局面においては、VLPを、DNA、RNA,RNAおよびDNAの両方、もしくはRNA/DNAハイブリッド、または当技術分野で公知の誘導体などの様々な型の核酸(例えば、異種核酸)と会合させることができる。VLPの例には、VIRAPOWER(商標)アデノウイルスおよびレンチウイルスベクターキット(例えば、Invitrogen Corporation、cat. no. K4930-00、K4940-00、K4950-00、K4955-00、K4960-00、K4965-00、K4967-00、およびK4985-00を参照されたい)を用いて産生されるウイルス粒子産物が含まれる。
【0116】
VLPを調製するために使用され得るウイルスには、例えば、ファージ(例えば、T偶数系ファージ(例えば、T4ファージなど)、T奇数系ファージ(例えば、T7ファージなど)、バクテリオファージφ29、λファージなど)、バキュロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス(例えば、Moloneyマウス白血病ウイルス、HIV1、HTLV-IIIなど)、センダイウイルス、ポックスウイルス、およびアルファウイルス(例えば、セムリキ森林ウイルス、シンドビスウイルスなど)が含まれる。VLPを調製するために使用され得るウイルスのさらなる例、およびVLPを調製する方法は、本明細書の他所に記載されている。
【0117】
9. 組換えタンパク質産生
本培養培地はまた、上記の細胞、好ましくは哺乳動物細胞、および特に懸濁液中で増殖された哺乳動物細胞から、組換えタンパク質を産生させる方法において使用することもできる。本培養培地は、哺乳動物細胞の迅速で高密度の懸濁培養を提供するため、本方法によって組換えタンパク質の産生向上が容易になる。タンパク質とは、全長タンパク質、タンパク質断片、ペプチド、切断タンパク質産物、架橋タンパク質産物、タグ化ペプチドまたはタンパク質などのいずれかを意味する。タンパク質とはまた、組換えタンパク質、変異タンパク質、操作されたタンパク質、キメラタンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、活性タンパク質、プロセシングされたタンパク質などを含む、天然および改変タンパク質のすべての型を意味する。タンパク質は細胞もしくは細胞株によって天然で発現されてもよいし、または細胞株が、トランスフェクション、形質導入、エレクトロポレーションなどを含むがこれらに限定されない、当技術分野で公知の標準的な遺伝子操作法を用いて、これを発現するように操作されてもよい。結果として得られたタンパク質またはペプチドは、所望のレベルの純度まで精製または単離され得る。本発明の培地および/または供給物組成物を用いて産生または発現され得るタンパク質もしくはペプチドまたはそれらの断片には、ラミニン、フィブロネクチン、インテグリンなどのような細胞外タンパク質、カスパーゼ、プロテアーゼ、スブチリシン、キナーゼ、RNAse、DNAseなどのような酵素、インスリン、PTHrPなどのようなペプチドホルモン、膜タンパク質、受容体、核タンパク質、小胞体タンパク質などを含む細胞内タンパク質、抗体、抗体の重鎖または軽鎖などの抗体断片、抗原結合部位またはモチーフ、キメラ抗体などが含まれるが、これらに限定されない。キメラ抗体は、種/種キメラまたはクラス/クラスキメラであってよい。本発明の組成物および培地/供給物を用いて産生され得る発現されたタンパク質またはポリペプチドは、治療における下流の用途のために外来性作用物質を含まない動物起源不含タンパク質を産生するために、植物細胞などの非動物細胞株において発現されるヒトまたは哺乳動物由来タンパク質配列であってよい。
【0118】
本発明に従ってポリペプチドを産生する方法は、細胞によるポリペプチドの発現に適した条件下で、本明細書に記載される小ペプチドまたはジペプチド含有細胞培養培地中で、ポリペプチドを産生するように遺伝子操作された細胞(例えば、哺乳動物細胞)を培養する段階を含む。関心対象のポリペプチドを発現するように哺乳動物細胞を遺伝子操作するための最適な方法は、当技術分野で周知であり、したがって当業者によく知られている。例えば、Cell Culture Technology for Pharmaceutical and Cell-Based Therapies, 15-40 (Sadettin Ozturk and Wei-Shou Hu eds., Taylor and Francis Group 2006)を参照されたい。本発明の培地中で培養する前に、細胞を遺伝子操作することができ、または該培地中での培養に供した後に、細胞に1つもしくは複数の外因性核酸分子をトランスフェクトすることもできる。遺伝子操作された細胞は、上記の方法に従って、単層培養として、またはより好ましくは懸濁培養として、本培養培地中で培養することができる。細胞の培養後、当業者によく知られているタンパク質単離の技法に従って、関心対象のポリペプチドを細胞および/または使用済みの培養培地から任意に精製することができる。
【0119】
10. 培養培地中または濃縮供給物中の小ペプチドの検出
本明細書に記載される小ペプチドおよびジペプチドは、酸加水分解、液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動(Brown et al., J. Chrom. (1994) A, 661: 279-285)、HPLC(van Wandelen et al., J. Chrom. (1997) A, 763: 11-22)、または質量分析を含むがこれに限定されない、アミノ酸および/または小ペプチドを検出するための、当技術分野で公知の任意の技法を用いて検出することができる。アミノ酸組成物および濃縮物のクロマトグラフィー解析のためのペプチドの酸加水分解は、当技術分野で周知である。酸加水分解の前と後のアミノ酸ピークのクロマトグラフィープロファイルの比較から、培地、供給物、または補充物中のアミノ酸の組成および濃度、ならびにひいては小ペプチドが示され得る。例えば、培地中の小ペプチド内にチロシンが存在する場合には、その濃度は培地試料の酸加水分解物中で(例えば、チロシンピーク高および/またはピークの領域)、酸加水分解の前の同一培地試料のピーク高/領域と比較して増加する。
【0120】
例として、本明細書に記載されるアラニルチロシンおよびアラニルシステインジペプチドを、AccQ-Tag Ultra(商標)(Waters Corp.、Milford, MA)カラム(2.1×100 mm、1.7μm)における6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシンイミジルカルバメート(AQC)誘導体化アミノ酸混合物のHPLC(高速液体クロマトグラフ)分離を含む、van Wandelen et al., J. Chrom. (1997) A, 763: 11-22に記載されている方法論を用いて検出した。検出器のパラメータは以下のとおり設定した:波長モード:単一波長;波長:260 nm;サンプリング速度:20(点/秒);時定数:0.4000(秒)。例示的な実行においてこれらのパラメータを用いて、アラニルチロシンジペプチドの試料は、内部標準(AABA)の直後の約6.172分のピーク溶出時間を有し(
図2を参照されたい)、別の例示的な実行において、アラニルシステインジペプチドの試料は、リジンとチロシンの間の6.631分のピーク溶出速度を有した(
図3を参照されたい)。
【0121】
したがって、超高速液体クロマトグラフ(UPLC)を用いるこのAccQ-Tag(商標) Ultra(Waters Corp.、Milford, MA)プレカラム誘導体化法は、任意の試料培地または供給補充物が、システインまたはチロシンを含む小ペプチド、例えばジペプチドであるアラニルチロシンまたはアラニルシステインを含むかどうかを見るためにこれを試験するための1つの方法を提供する。これと同じ方法はまた、関心対象の他のジペプチドを含むその他の小ペプチドを検出するために使用することもできる。
【0122】
加えて、本明細書に記載されるジペプチドは、液体クロマトグラフィーと質量分析検出(LC/MS)によって定量することもできる。四重極時間飛行型質量分析計(Waters(登録商標) SYNAPT(商標) HDMS(商標)システム、Milford, MA)と連結された逆相液体クトマログラフィーカラム(40℃でのAcquity UPLC(登録商標) HSS T3 1.8-μm、内径2.1-mm×150-mm)を用いて、分離を行った。極性化合物の最適な分離のためのイオン対形成剤として、全フッ素置換カルボン酸(例えば、パーフルオロペンタン酸)を使用した(Jun Qu, Yiming Wang, Guan Luo, Zhuping Wu, and Chengdui Yang, Anal. Chem., 2002, 74, 2034-2040;その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。移動相Aは、水中の0.1%ギ酸および0.05%パーフルオロペンタン酸であり、移動相Bは、80%アセトニトリル中の0.1%ギ酸および0.05%パーフルオロペンタン酸であった。試薬はすべてLC/MS等級であった。超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)勾配は、15分間にわたり0.4-mL/分の流速で、移動相Bの1〜45%にわたって直線的であった。質量スペクトルを、連続体の、正エレクトロスプレー(+ES)、かつVモードにおいて、70〜1000 Da内で0.5秒ごとに収集した。プロトン化L-アラニル-L-システイン二量体およびプロトン化L-アラニル-L-チロシンイオンは、全イオンクロマトグラムからそれぞれ383.105(±0.03) Daおよび253.118(±0.03) Daとして抽出された。プロトン化L-アラニル-L-システイン二量体およびプロトン化L-アラニル-L-チロシンイオンの保持時間は、それぞれ9.60(±0.03)分および8.75(±0.03)分であった(
図4〜7)。
【0123】
特に定義されていない限り、本明細書で用いられる技術用語および科学用語はすべて、当業者によって共通して理解されている意味と同じ意味を有する。矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が優先する。本明細書に記載される方法および適用に対するその他の適切な修正および適合化が明らかであり、本発明またはその任意の態様の範囲から逸脱することなくそれらがなされ得ることは、当業者には容易に明白であろう。加えて、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定を意図するものではない。本明細書において引用される出版物、特許出願、特許、およびその他の参考文献はすべて、その全体が参照により組み入れられる。
【実施例】
【0124】
実施例1:ジペプチド含有培養培地の作製
ジペプチドであるアラニルチロシン(AlaTyr)およびアラニルシステイン(ジスルフィド二量体、[AlaCys]
2を形成する)を含む例示的な細胞培養培地を調製した。具体的には、グルコースおよび濃縮アミノ酸の混合物を含む水性細胞培養基礎培地に、ジペプチドであるアラニルチロシンおよびアラニルシステインを乾燥粉末として添加し、溶解するまで混合した。アラニルチロシンは、約4.0 g/Lの濃度で細胞培養培地に添加した。アラニルシステインは、約3.0 g/Lの濃度で細胞培養培地に添加した。水中で観察されるジペプチドの溶解度は、AlaTyrについては約15.4 g/L、AlaCysについては>100 g/L、および[AlaCys]
2二量体については約8.7 g/Lであった。比較として、水中でのL-チロシンの溶解度は、20℃で約0.38 g/Lである。遊離のL-システインは容易に酸化されてシスチンになる。塩酸L-システインは酸性水溶液中でかなり安定しているが、中性またはアルカリ性水溶液中では、これはまた好気的酸化によりL-シスチンに変換される。水中でのL-シスチンの溶解度は、25℃で約0.11 g/Lであった。
【0125】
実施例2:流加試験
細胞培養基礎培地CD FortiCHO(商標)(Invitrogen Cat. No. A-1148301およびCustom Stock A-11437DK;Life Technologies Corp.、Carlsbad, CA)中で増殖され、グルコース(CD FortiCHO(商標)+グルコース;
図1:黒四角の曲線
およびフォワードスラッシュのバー
)、または低レベルのシステインもしくはチロシンを含む濃縮アミノ酸混合物で、グルコースの混合物+実施例1に記載されるジペプチド(DP)含有培養培地もしくは供給物(CD FortiCHO(商標)+aa+DP供給物FP2およびFP3;
図1を参照されたい:(FP2) 黒丸の曲線
および白いバー
;(FP3) 黒菱形の曲線
およびバックワードスラッシュのバー
)のいずれかで補充された、IgG産生CHO細胞を用いて、統合流加試験を行った。
図1中の「aa」は、低レベルのシステインおよびチロシンを含む濃縮アミノ酸混合物とグルコースの混合物を指す。
【0126】
試験したその他の細胞培養基礎培地は、CD OptiCHO(商標)、CD CHOであった。いずれもLife Technologies Corp.、Carlsbad, CAによる(データは示さず)。使用された好ましい培地は、CD FortiCHO(商標)であった。濃縮アミノ酸の例示的な混合物は、例えば、CHO CD EfficientFeed(商標) A(Invitrogen Cat. No. A1023401)、CHO CD EfficientFeed(商標) B(Invitrogen Cat. No. A1024001)、CHO CD Efficient Feed(商標)キット(Invitrogen Cat. No. A1024101)、CD Efficient Feed(商標) C AGT(商標)(Custom Stock A-11525SA、Life Technologies Corp.、Carlsbad, CA)である。本発明の細胞培養培地または補充供給物中のシステインおよびチロシン含有小ペプチドは、当業者によって判断され得るとおり、任意の例示的な細胞培養基礎培地と、所望の細胞型の増殖に適したグルコース、ビタミン、微量元素などを任意に含む任意の例示的な化学量論的に平衡化された濃縮アミノ酸の混合物(aa)と共に使用されるように設計されている。
【0127】
pH制御設定点を7.0 +/- 0.05とし、かつpO2制御設定点を30%として、作用量500 mLのDasGipバイオリアクター中で細胞を増殖させた。グルコースが補充されるCHO細胞には、グルコースレベルが2 g/Lに達した際にはいつでも3 g/Lのグルコースが自動的に供給された。ジペプチド(DP)が補充されるCHO細胞は、2つの供給スケジュールに供した。第1の供給スケジュールでは(
図1、赤色の曲線およびバー:FP2を参照されたい)、CHO細胞に、4日目から13日目まで毎日、2%のジペプチド含有培地が供給された。第2の供給スケジュールでは(
図1、緑色の曲線およびバー:FP3を参照されたい)、CHO細胞に、5日目から14日目まで毎日、2%のジペプチド含有培地が供給された。
【0128】
CD FortiCHO(商標)培地中で増殖され、かつグルコースが補充された細胞は、CD OptiCHO(商標)(Life Technologies Corp.、Carlsbad, CA)またはCD CHO(Life Technologies Corp.、Carlsbad, CA Carlsbad, CA)に基づく流加工程(データは示さず)に匹敵するか、またはそれよりも優れたIgG生産性(1600 mg/L)を有した。CD FortiCHO(商標)中で増殖され、かつ濃縮アミノ酸および実施例1のジペプチド含有培地が補充されたCHO細胞は、12日後の生存度が向上し、また15日目におけるCD FortiCHO(商標)+グルコースの約1600 mg/LのIgG力価と比較して、15日目までに約3200 mg/LのIgG力価となり、生産性レベルが倍増した(
図1)。CD FortiCHO(商標)+aa+ジペプチド(DP)供給物に関する2つの供給スケジュールのうち、両者ともが良好に働き、IgG産生の匹敵するレベルを示した。FP3プロファイルは、FP2よりもより良好に維持されたグルコースレベルおよびIgG産生のより一定したレベルを有したが、FP2プロファイルはより高いピーク細胞密度を促進した。注目すべきは、ジペプチド含有細胞培養培地は、著しく減少した容積供給率で、増強された細胞密度および生産性レベルをもたらし、本明細書に記載されるジペプチド含有細胞培養培地を使用することのさらに別の利点を提供する。
【0129】
ジペプチドであるアラニルチロシンおよびアラニルシステインを含む液体細胞培養培地または供給物溶液は、2〜8℃で保存することができ、10ヵ月超の間沈殿物のない状態のままであり、したがってそのような濃縮溶液について予測される液体安定性よりも、有意により長い液体安定性を実証する。
【0130】
本明細書において引用される特許、特許出願、および公開された参考文献はすべて、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本発明をその好ましい態様を参照して詳細に示し、記載してきたが、添付の特許請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱することなく、本発明において形式および詳細における様々な変更がなされ得ることが当業者によって理解されよう。