(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367352
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】車両の音声プラットホームにおける電話および娯楽オーディオの管理
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20180723BHJP
H04R 3/02 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
H04R3/00 310
H04R3/02
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-555654(P2016-555654)
(86)(22)【出願日】2015年3月2日
(65)【公表番号】特表2017-507612(P2017-507612A)
(43)【公表日】2017年3月16日
(86)【国際出願番号】US2015018276
(87)【国際公開番号】WO2015134370
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2016年11月4日
(31)【優先権主張番号】14/199,799
(32)【優先日】2014年3月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591009509
【氏名又は名称】ボーズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・アール・ヴォーティン
(72)【発明者】
【氏名】エドゥアルド・ティー・サルヴァドール
(72)【発明者】
【氏名】毎熊 亮
(72)【発明者】
【氏名】トーブ・ゼッド・バークスデイル
(72)【発明者】
【氏名】ダグラス・ジェイ・ホルミ
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・オズワルド
(72)【発明者】
【氏名】ズクイ・ソン
(72)【発明者】
【氏名】シウフン・チュン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・エス・ダブリン
【審査官】
大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−249996(JP,A)
【文献】
特開2005−159913(JP,A)
【文献】
特開2013−141235(JP,A)
【文献】
特開2008−306372(JP,A)
【文献】
特開2003−263872(JP,A)
【文献】
特表2009−540686(JP,A)
【文献】
特開2010−042813(JP,A)
【文献】
特表2010−526484(JP,A)
【文献】
米国特許第08190438(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0262935(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
H04R 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の音響回路からの娯楽オーディオ信号および電話音声信号のうち少なくとも1つを受け取るための信号入力モジュールと、
比率に従って前記娯楽オーディオ信号と前記電話音声信号のバランスをとるために利得レベルの制御論理を実行し、前記娯楽オーディオ信号および前記電話音声信号のうち少なくとも1つに対して利得制御信号を適用するためのレベル制御モジュールと、
前記娯楽オーディオ信号と前記電話音声信号を混合して、スピーカに関連した出力チャネルへ前記混合された信号をルーティングするためのルーティングモジュールと
を備え、
前記レベル制御モジュールが、前記娯楽オーディオ信号とアップミックスされた娯楽オーディオ信号との加重平均を求めて、娯楽の基準信号を生成し、前記電話音声信号とアップミックスされた電話音声信号との加重平均を求めて、電話の基準信号を生成し、娯楽の基準信号および電話の基準信号のうち少なくとも1つに対して周波数の重み付けを適用して前記利得制御信号を生成する、装置。
【請求項2】
前記レベル制御モジュールが、前記娯楽オーディオ信号、前記電話音声信号、アップミックスされた娯楽オーディオ信号、およびアップミックスされた電話音声信号を含む入力を使用して前記比率を決定する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記娯楽オーディオ信号および前記電話音声信号のうち少なくとも1つをアップミックスするように構成されたアップミックスモジュールをさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記信号入力モジュールが、車両の乗員由来の音声信号をさらに受け取る請求項1に記載の装置。
【請求項5】
車両の乗員由来の音声信号から不要な娯楽オーディオを除去するための適応フィルタをさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項6】
エコーキャンセルするための適応フィルタをさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記スピーカがヘッドレストスピーカである請求項1に記載の装置。
【請求項8】
車両の乗員由来の音声信号の検知に応答して前記電話の基準信号を更新するための音声検知器モジュールをさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記ルーティングモジュールが、前記娯楽オーディオ信号と前記電話音声信号をさらに結合する請求項1に記載の装置。
【請求項10】
装置であって、
利得レベル制御論理を記憶するメモリと、
前記メモリにアクセスして、ある比率に従って娯楽オーディオ信号と電話音声信号のバランスをとる前記利得レベル制御論理を実行するように構成されたコントローラであって、前記娯楽オーディオ信号および前記電話音声信号のうち少なくとも1つに対して利得制御信号を適用するようにさらに構成されているコントローラと
を備え、
前記コントローラが、前記娯楽オーディオ信号とアップミックスされた娯楽オーディオ信号との加重平均を求めて、娯楽の基準信号を生成し、前記電話音声信号とアップミックスされた電話音声信号との加重平均を求めて、電話の基準信号を生成し、娯楽の基準信号および電話の基準信号のうち少なくとも1つに対して周波数の重み付けを適用して前記利得制御信号を生成する、装置。
【請求項11】
前記コントローラが、前記娯楽オーディオ信号と前記電話音声信号の混合を開始して、ヘッドレストスピーカに関連した出力チャネルへ前記混合された信号をルーティングする請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記コントローラが、前記娯楽オーディオ信号、前記電話音声信号、アップミックスされた娯楽オーディオ信号、およびアップミックスされた電話音声信号を含む入力を使用して前記比率を決定する請求項10に記載の装置。
【請求項13】
娯楽オーディオ信号および電話音声信号を受け取るステップと、
ある比率に従って前記娯楽オーディオ信号と前記電話音声信号のバランスをとるように構成された利得レベル制御論理を使用して利得制御信号を生成するステップと、
前記娯楽オーディオ信号および前記電話音声信号のうち少なくとも1つに対して前記利得制御信号を適用するステップと、
前記娯楽オーディオ信号と前記電話音声信号を結合して、前記結合され信号を出力チャネルへルーティングするステップと
を含み、
前記利得制御信号を生成するステップは、前記娯楽オーディオ信号とアップミックスされた娯楽オーディオ信号との加重平均を求めて、娯楽の基準信号を生成し、前記電話音声信号とアップミックスされた電話音声信号との加重平均を求めて、電話の基準信号を生成し、娯楽の基準信号および電話の基準信号のうち少なくとも1つに対して周波数の重み付けを適用して前記利得制御信号を生成することを含む、音声管理の方法。
【請求項14】
前記出力チャネルをヘッドレストスピーカへルーティングするステップをさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記娯楽オーディオ信号、前記電話音声信号、アップミックスされた娯楽オーディオ信号、およびアップミックスされた電話音声信号を含む入力を使用して前記比率を求めるステップをさらに含む請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に車両の音響システムに関し、より詳細には、電話音声に対応する車両の音響システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のスピーカは、車両の乗員に、音楽および他の娯楽オーディオを供給する。同じスピーカが、電話で会話している運転者に電話音声を供給するように配線され得る。会話中、電話の会話に適合するように、電話音声が娯楽オーディオに取って代わる。結果的に、乗客のリスニング体験が、通話に従って中断される。その上に、運転者の密談が車両の乗員のすべてにブロードキャストされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
一態様では、装置に含まれる信号入力モジュールは、車両の音響回路から娯楽オーディオ信号および電話音声信号の少なくとも1つを受け取る。レベル制御モジュールは、利得レベルの制御論理を実行し、ある比率に従って娯楽オーディオ信号と電話音声信号のバランスをとる。娯楽オーディオ信号および電話音声信号のうち少なくとも1つに対して、利得制御信号が適用される。ルーティングモジュールは、娯楽オーディオ信号と電話音声信号を混合して、スピーカに関連した出力チャネルへ混合信号をルーティングする。
【0004】
レベル制御モジュールが、娯楽オーディオ信号、電話音声信号、アップミックスされた娯楽オーディオ信号、およびアップミックスされた電話音声信号を含む入力を使用して比率を決定する。アップミックスモジュールは、娯楽オーディオ信号および電話音声信号のうち少なくとも1つをアップミックスするように構成されている。信号入力モジュールは、車両の乗員由来の音声信号をさらに受け取る。適応フィルタは、車両の乗員由来の音声信号から不要な娯楽オーディオを取り除く。適応フィルタがエコーキャンセルをもたらす。スピーカはヘッドレストスピーカを含む。レベル制御モジュールは、娯楽オーディオ信号とアップミックスされた娯楽オーディオ信号との加重平均を求めて、娯楽の基準信号を生成する。レベル制御モジュールは、電話音声信号とアップミックスされた電話音声信号との加重平均を求めて、電話の基準信号を生成する。音声検知器モジュールは、車両の乗員由来の音声信号の検知に応答して、電話の基準信号を更新する。レベル制御モジュールは、娯楽の基準信号および電話の基準信号のうち少なくとも1つに対して周波数の重み付けを適用して、利得制御信号を生成する。ルーティングモジュールは、娯楽オーディオ信号と電話音声信号を結合する。
【0005】
別の特定の実装形態では、装置は、利得レベルの制御論理を記憶するメモリと、メモリにアクセスし、利得レベルの制御論理を実行して、ある比率に従って娯楽オーディオ信号と電話音声信号のバランスをとるように構成されたコントローラとを含む。コントローラは、娯楽オーディオ信号および電話音声信号のうち少なくとも1つに対して利得制御信号を適用するようにさらに構成されている。
【0006】
コントローラは、娯楽オーディオ信号と電話音声信号の混合を開始して、ヘッドレストスピーカに関連した出力チャネルへ混合信号をルーティングする。コントローラによって比率を決定するのに使用される入力は、娯楽オーディオ信号、電話音声信号、アップミックスされた娯楽オーディオ信号、およびアップミックスされた電話音声信号を含む。コントローラは、娯楽オーディオ信号とアップミックスされた娯楽オーディオ信号との加重平均を求めて、娯楽の基準信号を生成する。コントローラは、電話音声信号とアップミックスされた電話音声信号との加重平均を求めて、電話の基準信号を生成する。
【0007】
別の特定の実装形態では、音声管理の方法は、娯楽オーディオ信号および電話音声信号を受け取るステップを含む。ある比率に従って娯楽オーディオ信号と電話音声信号のバランスをとるように構成された利得レベル制御アルゴリズムを使用して、利得制御信号が生成される。娯楽オーディオ信号および電話音声信号のうち少なくとも1つに対して、利得制御信号が適用される。娯楽オーディオ信号が電話音声信号と混合され、結合された信号が出力チャネルへルーティングされる。
【0008】
出力チャネルはヘッドレストスピーカへルーティングされてよい。比率は、娯楽オーディオ信号、電話音声信号、アップミックスされた娯楽オーディオ信号、およびアップミックスされた電話音声信号を含む入力を使用して決定され得る。
【0009】
電話音声信号と娯楽オーディオ信号の間の音声漏れを明瞭に低減することにより、車両のすべての乗員のリスニング体験が改善される。音響の構成により、ヘッドレストスピーカのハードウェアが、より明瞭な電話体験をもたらす。同時に、電話通話に関与しない同乗者は、電話通話からの望ましくない音声漏れなしで娯楽オーディオを享受する。
【0010】
本開示の他の態様、利点および特徴は、以下の各段落を含む全体の出願を検討した後に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】電話音声と娯楽オーディオを同時に再生するように構成された音声システムを有する自動車の乗員室の上面図である。
【
図2】電話音声と娯楽オーディオを同時に再生するように構成された車両の音声再生システムの構成要素および処理の流れを示す流れ図である。
【
図3】マイクロホンおよび適応フィルタの信号処理経路を使用して電話音声と娯楽オーディオを同時に再生するように構成された車両の音声再生システムの構成要素および処理の流れを示す流れ図である。
【
図4】娯楽オーディオと電話音声がどちらも選択的に分かりやすく聞こえるように両者のバランスをとる利得レベル制御アルゴリズムに関連した構成要素およびプロセスを示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この文献は、一般に、電話音声と娯楽オーディオを同時に再生する車内再生システムに関するものである。音響の構成により、ヘッドレストスピーカのハードウェアが、より明瞭な電話体験をもたらす。同時に、電話通話に関与しない同乗者は、電話通話からの望ましくない音声漏れなしで娯楽オーディオを享受する。この目的のために、運転者が主としてコヒーレントな音声を体験する一方で、同乗者が主として娯楽オーディオを高級なレベルで体験するように、レベルアルゴリズムが、電話音声と娯楽オーディオの両方の態様を制御する。
【0013】
電話で会話する運転者の必要性と、娯楽オーディオに傾聴する同乗者の必要性が、利得レベル制御アルゴリズムに従ってそれぞれの信号利得を生成することにより、バランスをとられる。運転者が大きな音楽の下で話を聞き取り損うことのないように、レベルアルゴリズムが、娯楽オーディオと電話音声の相対レベルを制御する。同様に、電話通話からの、通話に関与しない同乗者への漏れを最小限にするように、相対レベルが制御される。音声性能の所望のレベルの一例には、電話参加者の体験と他の同乗者の体験の間のある程度のレベルの音声流出が含まれる。別の例には、電話参加者の体験と同乗者の体験の間に音声流出がないことが含まれる。
【0014】
電話通話中、運転者と同乗者の両方に対して音声を管理するために、ヘッドレストの配列が、車内のどこか他の場所の固定スピーカと組み合わせて使用される。電話音声は、運転者と1人もしくは複数の同乗者の一方または両方に制限され、同時に、システムは、通話に関与していない者には娯楽オーディオを供給し続ける。娯楽オーディオは、通話参加者の気を散らすことのないやり方、または音声マイクロホンの信号対雑音比を劣化させないやり方で供給される。一例ではフロントスピーカがもっぱら使用される。スピーカは前方に向けられている。しかしながら、別の構成には、上に向けられたスピーカが含まれる。座席間の通信は、プライバシーを伴って、または少なくとも他の座席の同乗者の気を散らすことのないように提供される。このシステムによって、電話音声信号と娯楽オーディオ信号の間の音声漏れを明瞭に低減することにより、車両のすべての乗員のリスニング体験が改善される。
【0015】
娯楽オーディオは、音声処理されて、ヘッドレストスピーカを含むスピーカへルーティングされる。電話音声は、空間的表現を制御するように処理することによってルーティングされる。一般に、音響システムは、娯楽オーディオ信号および電話音声信号を受け取る。レベル制御情報(たとえば利得レベル)が与えられ、娯楽オーディオ信号と電話音声信号のバランスをとるため、または両者の関係を管理するために、これらの信号に対して利得が適用される。バランスをとった音声信号がスピーカへルーティングされる。
【0016】
利得レベル制御アルゴリズムは、未処理のアップミックスされた娯楽オーディオ信号および電話音声信号を受け入れる。利得レベル制御アルゴリズムは、娯楽オーディオレベルと電話音声レベルの比較演算を遂行して利得値を生成する。利得レベルは、娯楽オーディオ信号および電話音声信号に適用すべき利得を決定するために使用される。利得レベルは、利得を適用して、スケーリングされた音声信号を生成するために使用される。娯楽オーディオ信号および電話音声信号を互いに対してスケーリングするために、利得値が利得制御モジュールに供給される。利得レベルをチェックして決定された比率に保つために、非線形の圧縮アルゴリズムが使用され得る。
【0017】
一例では、レベル制御値を決定して利得をスケーリングするために、線形の娯楽オーディオ信号が基準として使用される。あるいは、利得値を決定するために、車両の娯楽オーディオのすべての様々な非線形出力が使用され得る。未処理の娯楽オーディオと処理された娯楽オーディオの両方が、利得レベル制御アルゴリズムに対する入力として使用される。同様に、未処理の電話音声と処理された電話音声の両方が、レベル制御アルゴリズムに供給される。
【0018】
適用される利得は、処理された娯楽オーディオ出力に従って変化する。たとえば、突発的なサラウンド音響成分に適用される利得は、処理された娯楽オーディオ信号の中心成分に適用される利得レベルよりも軽微である。そのような例では、利得レベルの制御アプリケーションは、非線形であって時間的に変化する。
【0019】
音声を感知するとともに不要な娯楽オーディオを除去するために、車内の1つまたは複数のマイクロホンが、音声処理に関係する。マイクロホン信号は適応フィルタによって処理される。フィルタは、娯楽オーディオならびに車内の他の不要な音声を相殺するようなやり方で適合する。複数のマイクロホンおよび関連する信号は、娯楽オーディオの除去を支援するために、より指向性のあるマイクロホンのピックアップパターンをもたらすのに使用される。可能性のあるマイクロホン位置には、車両の天井およびヘッドレストが含まれる。
【0020】
娯楽オーディオは、車両の娯楽のプレーヤに由来する未処理の音声信号を含んでいる。娯楽オーディオは、音響のバランスおよび他の処理のために増幅器へ送られる。娯楽の処理モジュールはスペクトルを調整する。娯楽の処理モジュールは、非線形信号処理に基づいて空間的変化を管理する。一例では、スピーカを保護するためにリミッタが含まれる。レベル制御モジュールは、2つのソースの表現を受容できるように、それぞれの出力信号に適用するための利得を決定するように構成されたアルゴリズムを含む。利得モジュールは、レベル制御モジュールから利得信号を受け取り、それぞれのスピーカに対してルーティングされた利得をマッピングする。ルーティングモジュールは、それぞれの信号を適切なスピーカへルーティングする。
【0021】
図1は、電話音声と娯楽オーディオを同時に再生するように構成された音声システムを有する自動車の乗員室100の上面図である。乗員室100は、スピーカ118、120、122、124、126、128、130、および132が取り付けられているヘッドレスト110、112、114、116を有する4つの座席102、104、106、108を含む。一実装形態では、乗員室のまわりに配置されたスピーカによってサラウンド音響チャネルが放射される。たとえば、中心チャネル(C)は、ダッシュボードに配置された第1のスピーカ134と、センターコンソール138の後部に接近して配置された第2のスピーカ136とによって放射される。センターコンソール138は、前座席102と104の間に配置されている。
【0022】
第2のスピーカ136は、音響を主に乗員室100の後部の方へ放射するように配向されている。右(R)チャネルおよび左(L)チャネルの高周波の(たとえば約150Hzを上回る)部分は、第3のスピーカ140および第4のスピーカ142によって放射される。第3のスピーカ140はダッシュボードの右側に置かれ、第4のスピーカ142はダッシュボードの左側に置かれている。右チャネルおよび左チャネルの低周波の(たとえば約150Hz未満の)部分は、それぞれ第5のスピーカ144および第6のスピーカ146によって放射される。第5のスピーカ144は前座席102の前方の右前ドアに配置されており、第6のスピーカ146は前座席104の前方の左前ドアに配置されている。左チャンネルおよび右チャンネルのスペクトル成分(たとえば約100Hzを上回るもの)は、それぞれ第7のスピーカ148および第8のスピーカ150によって放射される。第7のスピーカ148は後座席108の前方の左後ドアに配置されており、第8のスピーカ150は後座席106の前方の右後ドアに配置されている。
【0023】
低周波効果(LFE)を含んでいる低音チャネルは、乗員室100の荷物棚において、2つの後座席106および108の後ろに配置された第9のスピーカ152、ならびに第3のスピーカ140および第4のスピーカ142によって放射される。左サラウンドチャネル(LS)は、4つの座席102、104、106、108のヘッドレスト110、112、114、116内の4つのスピーカ120、124、128、132によって放射される。右サラウンドチャネル(RS)は、ヘッドレスト110、112、114、116内の4つのスピーカ118、122、126、130によって放射される。
【0024】
運転者または同乗者による音声を感知するために、乗員室100のヘッドレストおよびダッシュボードには、マイクロホン158、160、162、164、166の配列が配置されている。増幅器プラットホームのデジタル信号プロセッサ(DSP)154またはコントローラは、記憶されたレベル利得アルゴリズム156を実行するためにメモリにアクセスする。レベル利得アルゴリズム156は、電話音声と娯楽オーディオの両方の相対レベルを同時に再生して制御するように構成されている。DSP 154が生成する利得は、電話通話中、運転者と同乗者の両方に対して音声のバランスをとるように、そうでなければ音声を管理するように、娯楽オーディオ信号および電話音声信号に適用される。バランスをとる音声信号は、スピーカ118、120、122、124、126、128、130、132、134、136、140、142、144、146、148、150、152へルーティングされる。
【0025】
図2は、電話音声と娯楽オーディオを同時に再生するように構成された車両の音声再生システムの構成要素および処理の流れを示す流れ
図200である。車両によって、未処理の娯楽オーディオ202および未処理の電話音声204が供給される。より詳細には、娯楽オーディオ202は、車両の娯楽のプレーヤ由来の未処理の音声信号を含み、電話信号204は、車両の電話通信成分からの未処理の信号である。娯楽オーディオ202および未処理の電話音声204が、増幅器プラットホームのDSPによって受け取られる。たとえば、娯楽オーディオ202および未処理の電話音声204が、
図1のシステム100などのDSP 154によって受け取られる。
【0026】
娯楽オーディオ202は娯楽のアップミックスモジュール206においてアップミックスされ、未処理の電話音声204は電話のアップミックスモジュール208においてアップミックスされる。アップミックスによって、未処理の娯楽オーディオ202および未処理の電話音声204のステレオ音成分が複数の信号に分離されて、最終的に、空間的表現を制御するために様々なスピーカへ向けられる。言い換えれば、アップミックスすることによって、それぞれのスピーカ向けに固有の音声信号が生成される。娯楽のアップミックスモジュール206および電話のアップミックスモジュール208は、アップミックスされた音声信号をどのスピーカへルーティングすべきか、さらに判断する。
【0027】
レベル制御モジュール210は、未処理の娯楽オーディオ202、未処理の電話音声204のうち少なくとも1つを受け取って、娯楽のアップミックスモジュール206および電話のアップミックスモジュール208から出力する。レベル制御モジュール210は、電話音声と娯楽オーディオの両方が分かりやすく聞こえて、しかも適切な受信者向けに選択的に提供されるようなやり方で、娯楽オーディオと電話音声のバランスをとる。レベル制御モジュール210は、2つのソースの表現を受容できるように、それぞれの出力信号に適用するための利得を決定するように構成されたアルゴリズムを含む。受容できる表現は、音声伝送インデックス(STI)パラメータを満たす、利得レベルの所定の比率を含む。1つのシナリオでは、この比率は、運転者が依然として音声を意識して、同乗者がある程度のレベルの電話を聞くことができるように設定される。
【0028】
レベル制御モジュール210への複数の入力が含まれている場合、音声プレイバック信号のバランスをとるために非線形のアップミックスプロセスが考慮に入れられる。レベル制御モジュール210が生成する利得制御信号212、214が、アップミックスされた信号出力に適用される。したがって、利得制御信号212、214は、レベル制御モジュール210による利得を適用する。利得制御信号212、214は、互いに関連する電話音声信号と娯楽オーディオ信号のバランスをとるために使用される。
【0029】
アップミックスされてバランスのとれた電話音声信号と娯楽オーディオ信号が、信号ルーティングモジュール216において互いに合計される。合計された出力は、出力チャネルの処理へルーティングされる。信号ルーティングモジュール216は、特定のスピーカ向けに予定されている娯楽オーディオおよび電話音声を受け取って合計するように構成されている。合計された信号は、特にそのスピーカ用に設計されたスピーカ処理218、220、222にともに渡される。すなわち、信号ルーティングモジュール216は信号を互いに混合して、それらを適切な出力チャネルへルーティングする。ルーティングプロセスは、それぞれのスピーカ出力224、226、228に対して繰り返される。スピーカ出力プロセスには、等化することはもちろん、スピーカを保護するための制限的な処理を含む非線形要素も含まれる。コントローラは、処理された信号を、スピーカを駆動する増幅器マイクロチップへ伝送する。
【0030】
図3は、電話音声と娯楽オーディオを同時に再生するように構成された車両の音声再生システムの構成要素および処理の流れを示す流れ
図300である。
図3の流れ
図300は、
図2の流れ
図200に似ているが、マイクロホンおよび適応フィルタの信号処理経路が追加されている。
図3に示されるように、適応フィルタの信号処理経路は、ブロック330、332、334、および336を含む。1つまたは複数の車内マイクロホンが、車両内のスピーカからの音声330を感知する。娯楽の適応フィルタモジュール332は、電話の適応フィルタモジュール334へ伝送される音声信号から娯楽オーディオを取り除くように構成されている。電話の適応フィルタモジュール334は、エコーキャンセルをもたらすように構成されている。エコーキャンセルは、話者に、自分の声がエコーバックして聞こえるインスタンスを低減する。このように、フィルタモジュール332、334は、どちらも、検知された音声から不要信号を除く。
【0031】
流れ
図300をより詳細に見ると、未処理の娯楽オーディオ302および未処理の電話音声304が、増幅器プラットホームの入力モジュールにおいてDSPによって受け取られる。娯楽オーディオ202および未処理の電話音声204は、それぞれ娯楽のアップミックスモジュール306および電話のアップミックスモジュール308においてアップミックスされる。娯楽のアップミックスモジュール306からの出力が、娯楽の適応フィルタモジュール332において受け取られる。電話のアップミックスモジュール308からの出力が、電話の適応フィルタモジュール334において受け取られる。娯楽のアップミックスモジュール306および電話のアップミックスモジュール308から除かれた出力が、車内の音声出力336として供給される。
【0032】
レベル制御モジュール310は、未処理の娯楽オーディオ302、未処理の電話音声304のうち少なくとも1つを受け取って、娯楽のアップミックスモジュール306および電話のアップミックスモジュール308から出力する。レベル制御モジュール210の利得制御モジュールが生成する利得制御信号312、314は、アップミックスされた信号出力に利得を適用するのに使用される。利得制御信号312、314は、互いに関連する電話の信号と娯楽オーディオ信号のバランスをとるために使用される。
【0033】
アップミックスされてバランスのとれた電話音声信号と娯楽オーディオ信号が、信号ルーティングモジュール316において互いに合計される。合計された出力は、出力チャネルの処理へルーティングされる。信号ルーティングモジュール316は、娯楽オーディオと電話音声とを受け取って合計し、それを、特にそのスピーカ用に設計されたスピーカ処理318、320、322へともに渡す。ルーティングプロセスは、それぞれのスピーカ出力324、326、328に対して繰り返される。コントローラは、処理された信号を、スピーカを駆動する増幅器マイクロチップへ伝送する。娯楽のアップミックスモジュール306および電話のアップミックスモジュール308からの出力が、伝送のために携帯電話のように中継される。
【0034】
音声システムは、単一の車内マイクロホンとともに動作するが、複数のマイクロホンの配列は、より指向性のピックアップをもたらす。複数のマイクロホンの配列の音響は、適応フィルタに達する前でさえ、電話音声から不要な娯楽オーディオおよびエコーを除去するために使用される。
【0035】
図4は、利得レベル制御アルゴリズムに関連した構成要素およびプロセスを示す流れ
図400である。利得レベル制御アルゴリズムは、コントローラによって、
図2および
図3のレベル制御モジュールにおいて実行される。レベル制御モジュールは、娯楽オーディオと電話音声の両方が選択的に分かりやすく聞こえるようにバランスをとる。
図4に示されるように、利得レベル制御アルゴリズムは4つの入力を受け取る。4つの入力は、未処理の娯楽オーディオ402、アップミックスされた娯楽オーディオ404、未処理の電話音声406、およびアップミックスされた電話音声408を含む。
【0036】
未処理の娯楽オーディオ402およびアップミックスされた娯楽オーディオ404が、娯楽の基準信号の混合モジュール410において受け取られる。娯楽の基準信号の混合モジュール410は、未処理の娯楽オーディオ402とアップミックスされた娯楽オーディオ404の加重平均を求めて、娯楽の基準信号を生成する。並行して、未処理の電話音声406およびアップミックスされた電話音声408が、電話の基準信号の混合モジュール412において受け取られる。電話の基準信号の混合モジュール412は、未処理の電話音声406とアップミックスされた電話音声408の加重平均を求めて、電話の基準信号を生成する。
【0037】
第1のレベル検出器416によって検知された娯楽の基準信号のレベルおよび第2のレベル検出器418によって検知された電話の基準信号のレベルが、推測値として使用されることになる。より詳細には、第1のレベル検出器416は、娯楽の基準信号の推定レベルを出力する。第2のレベル検出器418は、電話の基準信号の推定レベルを出力する。
【0038】
音声検知器モジュール420は、電話の基準信号の推定を更新する。音声検知器モジュール420は、電話通話の遠端の人が話していないときの過補償を避けるように、音声が存在するときのみ更新信号を送信する。
【0039】
娯楽の基準信号の推定レベルおよび電話の基準信号の推定レベルを含むレベル検出器416、418の出力が、レベル比較器422において受け取られる。レベル比較器422が生成する利得制御信号は、娯楽オーディオ源と電話音声源の間の、最低レベルの比を維持し、周波数の重み付けがなされたものである。出力制御信号は、長い時定数と短い時定数の両方を伴って変化し、音量調節およびダイナミックレンジ圧縮をもたらす。長い時定数の成分は音量調節を徐々にシフトするように機能し、短い時定数の成分はダイナミックレンジ圧縮をもたらすように機能する。
【0040】
レベル比較器422は、両者のレベルの比を見て制御信号を生成し、最低のレベル比を維持する。最低のレベル比の実装形態は、周波数の重み付けがなされた成分を含み、システムに存在する実際の音声源に基づいて変化するものである。出力制御信号は、娯楽オーディオチェーンおよび電話音声チェーンに戻される利得である。より詳細には、娯楽オーディオチェーンは、娯楽オーディオにおける短時間ピークを低減するかまたは取り除くように娯楽の利得424を使用して、電話通話に関与している運転者または同乗者に役立つ。同様に、電話音声チェーンは、電話音声における短時間ピークを低減するかまたは取り除くように電話の利得426を使用する。
【0041】
本明細書で説明された特定の実装形態は、もっぱらハードウェアの実装形態、もっぱらソフトウェアの実装形態、またはハードウェア要素とソフトウェア要素の両方を含有する実装形態の形をとり得る。特定の実装形態では、開示された方法は、プロセッサ可読記憶媒体に組み込まれてプロセッサによって実行されるソフトウェアにおいて実現され、ソフトウェアには、それだけではないが、ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどが含まれる。
【0042】
さらに、1つまたは複数の実装形態などの本開示の実装形態は、コンピュータが使える記憶媒体またはコンピュータ可読記憶媒体からアクセス可能な、コンピュータまたは任意の命令実行システムによって使用されるかまたはそれに関連して使用されるプログラムコードをもたらす、コンピュータプログラム製品の形をとり得る。この説明のために、非一時的な、コンピュータが使える記憶媒体またはコンピュータ可読記憶媒体は任意の装置でよく、この装置は、コンピュータプログラムを実体的に具現し得るものであり、命令実行システム、装置、またはデバイスによって使用されるプログラムもしくはそれに関連して使用されるプログラムを包含してよく、記憶してよく、伝達してよく、伝搬してよく、または搬送してもよい。
【0043】
様々な実装形態において、媒体は、電子、磁気、光、電磁気、赤外線、もしくは半導体のシステム(または装置またはデバイス)あるいは伝搬媒体を含み得る。コンピュータ可読記憶媒体の例には、半導体メモリ又はソリッドステートメモリ、磁気テープ、取外し可能なフロッピーディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、ハードディスクおよび光ディスクが含まれる。光ディスクの現在の例には、コンパクトディスクの読み取り専用メモリ(CD-ROM)、読み書きできるコンパクトディスク(CD-R/W)およびデジタル多用途ディスク(DVD)が含まれる。
【0044】
プログラムコードを実行し、かつ/または記憶するのに適切なデータ処理システムは、システムバスを通じて記憶要素に直接的または間接的に結合された少なくとも1つのプロセッサを含み得る。記憶要素には、プログラムコードの実際の実行中に利用されるローカルメモリと、大容量記憶装置と、実行中に大容量記憶装置からコードを回復する必要回数を減らすために少なくともいくつかのプログラムコードを一時的に記憶するキャッシュメモリとが含まれ得る。
【0045】
入出力デバイスすなわちI/Oデバイス(それだけではないが、キーボード、表示器、ポインティングデバイスなどを含む)は、データ処理システムに対して直接的に、または介在するI/Oコントローラによって、結合され得る。データ処理システムが、介在する私的ネットワークまたは公衆ネットワークによって、他のデータ処理システム、遠隔プリンタ、または記憶デバイスに結合され得るように、データ処理システムにはネットワークアダプタも結合され得る。モデム、ケーブルモデム、およびイーサネット(登録商標)カードは現在利用可能なタイプのネットワークアダプタのほんの数例にすぎない。
【0046】
開示された実装形態の先の説明は、あらゆる当業者が、開示された実装形態を作製すること、または利用することができるように提供されたものである。これらの実装形態に対する種々の変更は、当業者には容易に明らかになるはずであり、本明細書で定義された一般的な原理は、本開示の範囲から逸脱することなく他の実装形態に適用され得る。したがって、本開示は、本明細書で示された実装形態に限定されるようには意図されておらず、以下の特許請求の範囲で定義される原理および機能と一致する最も広い可能な範囲を認められることになっている。
【符号の説明】
【0047】
100 自動車の乗員室
102 座席
104 座席
106 座席
108 座席
110 ヘッドレスト
112 ヘッドレスト
114 ヘッドレスト
116 ヘッドレスト
118 スピーカ
120 スピーカ
122 スピーカ
124 スピーカ
126 スピーカ
128 スピーカ
130 スピーカ
132 スピーカ
134 第1のスピーカ
136 第2のスピーカ
138 センターコンソール
140 第3のスピーカ
142 第4のスピーカ
144 第5のスピーカ
146 第6のスピーカ
148 第7のスピーカ
150 第8のスピーカ
152 第9のスピーカ
154 DSP
156 レベル利得アルゴリズム
158 マイクロホン
160 マイクロホン
162 マイクロホン
164 マイクロホン
166 マイクロホン
200 流れ図
202 娯楽オーディオ
204 電話音声
206 娯楽のアップミックスモジュール
208 電話のアップミックスモジュール
210 レベル制御モジュール
212 利得制御信号
214 利得制御信号
216 信号ルーティングモジュール
218 スピーカAの処理
220 スピーカBの処理
222 スピーカCの処理
224 スピーカAの出力
226 スピーカBの出力
228 スピーカCの出力
300 流れ図
302 未処理の娯楽オーディオ
304 未処理の電話音声
306 娯楽のアップミックスモジュール
308 電話のアップミックスモジュール
310 レベル制御モジュール
312 利得制御信号
314 利得制御信号
316 信号ルーティングモジュール
318 スピーカAの処理
320 スピーカBの処理
322 スピーカCの処理
324 スピーカAの出力
326 スピーカBの出力
328 スピーカCの出力
330 音声
332 娯楽の適応フィルタモジュール
334 電話の適応フィルタモジュール
336 車内の音声出力
400 流れ図
402 未処理の娯楽オーディオ
404 アップミックスされた娯楽オーディオ
406 未処理の電話音声
408 アップミックスされた電話音声
410 娯楽の基準信号の混合モジュール
412 電話の基準信号の混合モジュール
416 レベル検出器
418 レベル検出器
420 音声検知器モジュール
422 レベル比較器
424 娯楽の利得
426 電話の利得