特許第6367408号(P6367408)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6367408
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
   B66B 23/00 20060101AFI20180723BHJP
   B66B 29/00 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   B66B23/00 A
   B66B29/00 J
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-46237(P2017-46237)
(22)【出願日】2017年3月10日
【審査請求日】2017年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 佳延
(72)【発明者】
【氏名】覚地 武夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】岩井 俊憲
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−175740(JP,A)
【文献】 特開2016−113081(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/080323(WO,A1)
【文献】 特開平06−255968(JP,A)
【文献】 実開昭59−061169(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 23/00
B66B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物が有する下階床と上階床との間に架け渡された既設のトラスと、
前記トラスの長手方向に沿う一端部から前記下階床に向けて突出され、前記下階床に支持された下階側支承部と、
前記トラスの長手方向に沿う他端部から前記上階床に向けて突出され、前記上階床に支持された上階側支承部と、を具備し、
前記トラスは、前記下階側支承部が固定された下階側水平部と、前記上階側支承部が固定された上階側水平部と、前記下階側水平部と前記上階側水平部との間を結ぶ中間傾斜部と、を含み、前記下階側水平部は、前記トラスの長手方向に延びるとともに前記トラスの幅方向に間隔を存して配置された左右の上弦材を備え、
既設の前記トラスをリニューアルするに際して、前記上弦材における前記トラスの長手方向に離間した少なくとも三箇所に、前記建築物の側から前記トラスの長手方向に作用する過大な圧縮力に対して機械的強度が局部的に低下するような形状を有する弱点部を付加し、当該弱点部は、前記トラスが前記圧縮力を受けた時に、互いに協働して前記下階側水平部の前記下階側支承部の付近に前記トラスの幅方向に沿う内側に向けて折れ曲がる座屈部を形成する乗客コンベア。
【請求項2】
前記弱点部の並び方向に沿う両端に位置された二つの前記弱点部は、前記圧縮力を受けた時に前記トラスの内側に向けて折れ曲がる形状を有し、前記弱点部の並び方向に沿う中間に位置された前記弱点部は、前記二つの前記弱点部と逆向きに折れ曲がる形状を有する請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記下階側水平部に収容された内蔵物をさらに備え、前記トラスの前記下階側水平部は、前記内蔵物と前記下階側支承部との間に作業スペースを有する請求項1又は請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記弱点部は、前記作業スペースに対応する位置に設けられた請求項3に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記下階側水平部の前記上弦材は、取り外し可能な乗降板で覆われた請求項1又は請求項4に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記弱点部は、火気を使用しない火なし工法で形成された請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
前記トラスは、前記下階側水平部を有する下部トラス構造体と、前記上階側水平部を有する上部トラス構造体と、前記中間傾斜部を有する中間トラス構造体と、に分割され、前記下部トラス構造体と前記中間トラス構造体との境界および前記中間トラス構造体と前記上部トラス構造体との境界に、夫々溶接を併用した機械的結合部が位置されるとともに、当該機械的結合部を介して前記下部トラス構造体、前記中間トラス構造体および前記上部トラス構造体が一体的に結合された請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項8】
建築物の床に連結されるとともに、横方向に互いに離間して配置された左右の上弦材を有する水平部を備えた既設のトラスと、
前記水平部の前記上弦材を取り外し可能に覆う乗降板と、を具備し、
既設の前記トラスをリニューアルするに際して、前記上弦材における前記トラスの長手方向に離間した少なくとも三箇所に、前記建築物の側から前記トラスの長手方向に作用する過大な圧縮力に対して機械的強度が局部的に低下するような形状を有する弱点部を付加し、当該弱点部は、前記トラスが前記圧縮力を受けた時に、互いに協働して前記水平部の前記床の付近に前記トラスの幅方向に沿う内側に向けて折れ曲がる座屈部を形成する乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータあるいは移動歩道のような乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
大規模地震によりトラスに過大な圧縮力が作用した時に、トラスの特定の箇所を座屈させるようにしたエスカレータが知られている。
【0003】
この種のエスカレータでは、トラスの下部側水平部又は上部側水平部を補強する補強部材の機械的強度が、トラスの中間傾斜部を補強する補強部材の機械的強度よりも低く設定されている。これにより、トラスに過大な圧縮力が作用した場合に、トラスの主弦材を座屈させることなく補強部材を積極的に座屈させることが可能となり、エスカレータの耐震性を強化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−175740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のエスカレータによると、トラスの下部側水平部又は上部側水平部に存在する補強部材が座屈する方向を特定できず、座屈した補強部材が建築物あるいはトラスの内部に収容された踏板およびスプロケットのような各種の内蔵物と干渉することがあり得る。
【0006】
この結果、トラスの座屈箇所が一箇所に止まらずに、当該座屈箇所がトラスの長手方向に沿う複数箇所に転移するのを否めない。座屈が転移した箇所にトラスを構成する要素の溶接部が存在すると、当該溶接部が大きなダメージを受けてしまい、トラスの復旧が困難となったり、トラスの落下を招く一つの要因となる。
【0007】
本発明の目的は、既設のトラスをリニューアルするに際して、当該トラスが過大な圧縮力を受けた時にトラスが座屈する方向を確実に制御することができ、トラスの復旧作業を容易に行えるとともに、建築物に及ぼす影響を最小限に抑えることができる乗客コンベアを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、乗客コンベアは、建築物が有する下階床と上階床との間に架け渡された既設のトラスと、前記トラスの長手方向に沿う一端部から前記下階床に向けて突出され、前記下階床に支持された下階側支承部と、前記トラスの長手方向に沿う他端部から前記上階床に向けて突出され、前記上階床に支持された上階側支承部と、を具備している。
前記トラスは、前記下階側支承部が固定された下階側水平部と、前記上階側支承部が固定された上階側水平部と、前記下階側水平部と前記上階側水平部との間を結ぶ中間傾斜部と、を含み、前記下階側水平部は、前記トラスの長手方向に延びるとともに前記トラスの幅方向に間隔を存して配置された左右の上弦材を有する。
既設の前記トラスをリニューアルするに際して、前記上弦材における前記トラスの長手方向に離間した少なくとも三箇所に、前記建築物の側から前記トラスの長手方向に作用する過大な圧縮力に対して機械的強度が局部的に低下するような形状を有する弱点部を付加し、当該弱点部は、前記トラスが前記圧縮力を受けた時に、互いに協働して前記下階側水平部の前記下階側支承部の付近に前記トラスの幅方向に沿う内側に向けて折れ曲がる座屈部を形成することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1の実施形態のエスカレータの構成を概略的に示す側面図である。
図2】上弦材の長手方向に離間した三箇所に機械的強度が低下した弱点部が形成された下階側水平部の斜視図である。
図3】(A)は、図2のF3A−F3A線に沿う断面図である。(B)は、図2のF3B−F3B線に沿う断面図である。
図4】下階側水平部が座屈した状態を示す断面図である。
図5】第2の実施形態において、上弦材の長手方向に離間した三箇所に機械的強度が低下した弱点部が形成された下階側水平部の斜視図である。
図6図5のF6−F6線に沿う断面図である。
図7】下階側水平部が座屈した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「第1の実施形態」
以下、第1の実施形態について、図1ないし図4を参照して説明する。
【0011】
図1は、乗客コンベアの一例であるエスカレータ1を開示している。エスカレータ1は、例えば商業施設あるいは交通機関のターミナルのような建築物2に据え付けられている。
【0012】
エスカレータ1は、躯体としてのトラス3を備えている。トラス3は、建築物2の下階床4と上階床5との間に架け渡されている。本実施形態のトラス3は、下階床4に連なる下部トラス構造体6と、上階床5に連なる上部トラス構造体7と、下部トラス構造体6と上部トラス構造体7との間に介在された中間トラス構造体8との三つの要素に分割されている。下部トラス構造体6、上部トラス構造体7および中間トラス構造体8は、エスカレータ1の長手方向に沿って一直線状に結合されている。
【0013】
図1に示すように、下部トラス構造体6は、下階側水平部6aと、下階側水平部6aの先端から斜め上向きに延出された傾斜部6bと、で構成されている。下階側水平部6aおよび傾斜部6bは、上側主弦部10、下側主弦部11および複数の縦桟12をボルトや溶接で結合することにより構成されている。上側主弦部10および下側主弦部11は、下階側水平部6aから傾斜部6bに亘って延びている。縦桟12は、上側主弦部10と下側主弦部11との間を結ぶとともに、下部トラス構造体6を補強する補強部材としての機能を兼ねている。
【0014】
上部トラス構造体7は、上階側水平部7aと、上階側水平部7aの先端から斜め下向きに延出された傾斜部7bと、で構成されている。上階側水平部7aおよび傾斜部7bは、上側主弦部13、下側主弦部14および複数の縦桟15をボルトや溶接で結合することにより構成されている。上側主弦部13および下側主弦部14は、上階側水平部7aから傾斜部7bに亘って延びている。縦桟15は、上側主弦部13と下側主弦部14との間を結んでいるとともに、上部トラス構造体7を補強する補強部材としての機能を兼ねている。
【0015】
中間トラス構造体8は、下部トラス構造体6と上部トラス構造体7との間を結ぶように傾斜された中間傾斜部の一例である。中間トラス構造体8は、上側主弦部17、下側主弦部18および複数の縦桟19をボルトや溶接で結合することにより構成されている。
【0016】
中間トラス構造体8の下端は、下部トラス構造体6の傾斜部6bの上端に突き合わされるとともに、当該傾斜部6bの上端に対し溶接を併用した機械的な結合手段で結合されている。中間トラス構造体8の上端は、上部トラス構造体7の傾斜部7bの下端に突き合わされるとともに、当該傾斜部7bの下端に対し溶接を併用した機械的な結合手段で結合されている。
【0017】
このため、下部トラス構造体6と中間トラス構造体8との境界および上部トラス構造体7と中間トラス構造体8との境界には、夫々複数の結合部20が形成されている。
【0018】
図1に示すように、第1の支持アングル22が下部トラス構造体6の下階側水平部6aの先端に固定されている。第1の支持アングル22は、下階側支承部の一例であって、下階側水平部6aの先端から下階床4を支える支持材23の上に張り出している。
【0019】
支持材23は、建築物2の躯体となる要素であり、例えば鉄骨梁あるいはコンクリート壁で構成されている。支持材23の起立した端面と第1の支持アングル21との間には、トラス3の長手方向に沿う層間変位を吸収するための第1の隙間G1が形成されている。さらに、第1の支持アングル22は、支持材23に固定された第1のアングル支持台24の上に所定の「かかり代」で載置されている。
【0020】
第2の支持アングル25が上部トラス構造体7の上階側水平部7aの先端に固定されている。第2の支持アングル25は、上階側支承部の一例であって、上階側水平部7aの先端から上階床5を支える支持材26の上に水平に張り出している。
【0021】
支持材26は、建築物2の躯体となる要素であり、例えば鉄骨梁あるいはコンクリート壁で構成されている。支持材26の起立した端面と第2の支持アングル25との間には、トラス3の長手方向に沿う層間変位を吸収するための第2の隙間G2が形成されている。さらに、第2の支持アングル25は、支持材26に固定された第2のアングル支持台27の上に所定の「かかり代」で載置されている。
【0022】
図1に示すように、駆動装置30が上部トラス構造体7の上階側水平部7aに支持されている。駆動装置30のモータ31が出力するトルクは、駆動チェーン32を介して駆動スプロケット33に伝達される。
【0023】
従動スプロケット34が下部トラス構造体6の下階側水平部6aに支持されている。踏段チェーン35が駆動スプロケット33と従動スプロケット34との間に巻き掛けられている。踏段チェーン35は、駆動スプロケット33がモータ31からのトルクを受けて回転した時に、トラス3の内部を無端状に走行するようになっている。
【0024】
複数の踏段36が踏段チェーン35に等間隔で連結されている。踏段36は、不特定多数の乗客が乗り込む要素であって、踏段チェーン35と一緒に走行する。これにより、踏段36に乗り込んだ乗客が下階床4から上階床5又は上階床5から下階床4に向けて搬送される。
【0025】
下部トラス構造体6の下階側水平部6aに支持された従動スプロケット34は、トラス3の内蔵物の一例である。従動スプロケット34は、下階側水平部6aの内側において、第1の支持アングル22よりも傾斜部6bの側に大きく片寄った位置に設けられている。そのため、下階側水平部6aのうち、第1の支持アングル22と従動スプロケット34との間の領域は、作業員が入り込む点検スペース37となっている。
【0026】
点検スペース37は、乗降板38で上方から覆われている。乗降板38は、下部トラス構造体6の下階側水平部6aを構成する上側主弦部10の上に取り外し可能に支持されている。
【0027】
図1に示すように、トラス3の右側部および左側部には、夫々欄干39(一方のみを図示)が設けられている。さらに、手摺りベルト40が欄干39の外周部に装着されている。手摺りベルト40は、踏段36と同期して無端状に走行するようになっている。
【0028】
一方、大規模地震発生時に、下階床4を支える支持材23と上階床5を支える支持材26との間でトラス3が圧縮された際、第1の支持アングル22に近い下階側水平部6aの先端部は、中間トラス構造体8と比べて建築物2の側から加わる圧縮力が小さいことが知られている。
【0029】
そのため、本実施形態では、エスカレータ1をリニューアルするに際して、改訂された昇降機耐震設計・施工指針に対応する耐震性を満たすために、トラス3が圧縮されても落下に至る損傷を受けないための新規な構成が下部トラス構造体6の下階側水平部6aに付加されている。
【0030】
すなわち、図1および図2に示すように、下部トラス構造体6の下階側水平部6aを構成する上側主弦部10は、左右の上弦材41を備えている。上弦材41は、トラス3の長手方向に一直線状に延びているとともに、トラス3の幅方向に互いに間隔を存して平行に配置されている。
【0031】
図2および図3に示すように、本実施形態の上弦材41は、例えばL形に近い断面形状を有する山形鋼で構成されている。山形鋼は、互いに直交し合う第1のフランジ片42および第2のフランジ片43を有している。第1のフランジ片42は、トラス3の幅方向に水平に延びている。第2のフランジ片43は、第1のフランジ片42の外側縁42aから下向きに延出されている。
【0032】
前記点検スペース37を覆う乗降板38は、上弦材41の第1のフランジ片42の上に支持されている。そのため、乗降板38を上弦材41から取り外せば、上弦材41の第1のフランジ片42が露出する。
【0033】
図2に示すように、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cが上側主弦部10の上弦材41に形成されている。第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cは、例えばハンディプレス機を用いた火なし工法により上弦材41の第1のフランジ片41aに付加された要素であって、第1の支持アングル22に近い上弦材41の先端部において、トラス3の長手方向に略等間隔で並んでいる。すなわち、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cは、トラス3の長手方向に離間した三箇所に位置されている。さらに、図1に示すように、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cは、下階側水平部6aの長手方向に隣り合う縦桟12の間に位置されている。
【0034】
第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cは、夫々建築物2の側からトラス3の長手方向に作用する過大な圧縮力に対して機械的強度が局部的に低下するような形状を有している。
【0035】
具体的に述べると、図2および図3に示すように、第1の支持アングル22から最も離れた第1の弱点部45aは、上弦材41の第1のフランジ片42を下向きに折り曲げた凹所46で規定されている。凹所46は、第1のフランジ片42の外側縁42aの付近から内側縁42bに向けて拡開された形状を有するとともに、凹所46の深さが内側縁42bに近づくに従い次第に増加している。本実施形態によると、凹所46は、第1のフランジ片42の内側縁42bに達している。内側縁42bでは、凹所46の深さおよびトラス3の長手方向に沿う凹所46の開口幅が夫々最大となっている。
【0036】
さらに、凹所46は、一対の傾斜面47a,47bを有している。傾斜面47a,47bは、第1のフランジ片42の上面から下向きに延びているとともに、下方に進むに従い互いに近づくように傾いている。このため、凹所46は、V形の断面形状を有し、V形を規定する傾斜面47a,47bが第1のフランジ片42の内側縁42bの方向に進むに従い互いに離れている。
【0037】
第1の支持アングル22に最も近い第3の弱点部45cは、第1の弱点部45aと同一の形状を有している。そのため、第3の弱点部45cについては、第1の弱点部45aと同様の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0038】
第2の弱点部45bは、第1の弱点部45aと第3の弱点部45cとの間に位置されている。第2の弱点部45bは、上弦材41の第1のフランジ片42に形成された溝48で規定されている。溝48は、第1のフランジ片42の外側縁42aの付近から内側縁42bに向けて直線状に延びているとともに、内側縁42bに開口されている。溝48は、トラスの幅方向に沿う水平線に対し、第1のフランジ片42の上で交差するように傾いている。さらに、溝48の溝幅は、溝48の底に向けて徐々に減じられている。
【0039】
したがって、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cの存在により、上弦材41の第1のフランジ片42は、第1の弱点部45aと第2の弱点部45bとの間を結ぶ第1の座屈予定部49aと、第2の弱点部45bと第3の弱点部45cとの間を結ぶ第2の座屈予定部49bと、を有している。
【0040】
このような構成のエスカレータ1によると、大規模地震発生時にトラス3が建築物2の側から過大な圧縮力を受けることがあり得る。図4に矢印で示す過大な圧縮力が第1の支持アングル22からトラス3の下部トラス構造体6に作用すると、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cの並び方向に沿う両端に位置された第1の弱点部45aおよび第3の弱点部45cでは、傾斜面47a,47bが互いに近づくように凹所46が潰れる。これにより、第1の弱点部45aおよび第3の弱点部45cが下部トラス構造体6の内側に向けて折れ曲がる。
【0041】
それとともに、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cの並び方向に沿う中間に位置された第2の弱点部45bが、トラス3の幅方向に沿うように下部トラス構造体6の内側に向けて強制的に押し込まれる。第2の弱点部45bを規定する溝48は、上弦材41の内側縁42bに開口されているので、上弦材41が溝48に沿うように内側縁42bから外側縁42aに向けて裂ける。溝48が裂けることで、第2の弱点部45bは、第1の弱点部45aおよび第3の弱点部45cとは逆向きにV形に折れ曲がる。
【0042】
この結果、図4に示すように、上弦材41の第1の座屈予定部49aおよび第2の座屈予定部49bが下部トラス構造体6の点検スペース37に入り込むように大きく変形する。したがって、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cは、トラス3が過大な圧縮力を受けた時に、互いに協働して第1の支持アングル22の近くに略V形に屈曲された座屈部50を形成する。
【0043】
上弦材41が第1の支持アングル22の付近で座屈することにより、トラス3に加わる圧縮力が下部トラス構造体6から中間トラス構造体8に伝わる以前に吸収され、トラス3の耐震性が確保される。
【0044】
第1の実施形態によると、上弦材21に形成された圧縮に弱い第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cは、トラス3が建築物2の側から過大な圧縮力を受けた時に、トラス3の幅方向に沿うように下部トラス構造体6の内側に入り込む座屈部50を形成する。
【0045】
すなわち、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cの形状および配置間隔を適切に設定することで、トラス3が過大な圧縮力を受けた時にトラス3の上弦材41が座屈する方向を特定することができる。このため、トラス3の座屈部50がトラス3の周囲に張り出したり、トラス3が幅方向に屈曲するのを回避できる。
【0046】
しかも、支持アングル22に近い下部トラス構造体6の先端部は、中間トラス構造体8に比べてトラス3が圧縮された時に加わる圧縮力が小さい。そのため、下部トラス構造体6の上弦材41に圧縮に弱い第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cを設けても、トラス3の強度に悪影響を及ぼすことはない。
【0047】
これにより、上弦材41が座屈に至る初期荷重を低く設定することができ、上弦材41が座屈する方向を特定できることと相まって、トラス3が建築物2で圧縮された際に建築物2に与える影響を少なく抑えることができる。
【0048】
加えて、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cは、下部トラス構造体6の点検スペース37に対応した位置に設けられているので、座屈部50がエスカレータ1の内蔵物となる従動スプロケット34と干渉するのを回避できる。
【0049】
この結果、下部トラス構造体6の内部の点検スペース37が所謂クラッシャブルゾーンとして機能し、座屈部50が下部トラス構造体6の下階側水平部6aに止まる。言い換えると、上弦材41に生じる座屈が下階側水平部6aで終息せずに、傾斜部6bから中間トラス構造体8の複数の箇所に転移するのを抑制することができる。
【0050】
このようにトラス3に加わる圧縮力を下部トラス構造体6の下階側水平部6aで吸収することができれば、圧縮力が下部トラス構造体6と中間トラス構造体7との間の境界に位置する結合部20にまで及ぶことはない。このため、結合部20の溶接個所がダメージを受けるのを回避でき、トラス3が落下に至るような損傷を受け難くなる。
【0051】
しかも、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cは、下階側水平部6aの長手方向に隣り合う縦桟12の間に位置するので、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cが上弦材41に座屈部50を形成する際に、縦桟12が上弦材41に追従して座屈するのを回避できる。
【0052】
この結果、トラス3を復旧するに当たっては、座屈した上弦材41を補修することで対処できる。よって、トラス3の復旧作業を容易に行うことができる。
【0053】
さらに、第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cが形成される上弦材41の第1のフランジ片42は、乗降板38を取り外すことで簡単に露出させることができる。このため、既存のエスカレータ1をリニューアルする際に、上弦材41の第1のフランジ片42に例えばハンディプレス機を用いて第1ないし第3の弱点部45a,45b,45cを簡単に形成することができる。したがって、トラス3が圧縮されても落下に至る損傷を受けないように、トラス3を容易に改造することができる。
【0054】
「第2の実施形態」
図5ないし図7は、第2の実施形態を開示している。第2の実施形態では、上弦材41がトラス3の幅方向に扁平な角パイプで構成されている。角パイプは、上壁61、下壁62および左右の側壁63a,63bを有している。
【0055】
図5に示すように、角パイプの上壁61および下壁62に夫々第1ないし第3の弱点部65a,65b,65cが形成されている。第1ないし第3の弱点部65a,65b,65cは、例えばハンディプレス機を用いた火なし工法により上弦材41の上壁61および下壁62に付加された要素であって、第1の支持アングル22に近い上弦材41の先端部において、トラス3の長手方向に略等間隔で並んでいる。すなわち、第1ないし第3の弱点部65a,65b,65cは、トラス3の長手方向に離間した三箇所に位置されている。
【0056】
第1ないし第3の弱点部65a,65b,65cは、夫々建築物2の側からトラス3の長手方向に作用する過大な圧縮力に対して機械的強度が局部的に低下するような形状を有している。
【0057】
具体的に述べると、上壁61に形成された第1ないし第3の弱点部65a,65b,65cは、上壁61を下向きに折り曲げた凹所66で規定されている。第1の支持アングル22から最も離れた第1の弱点部65aの凹所66は、左側の側壁63aと交差する上壁61の外側縁61aの付近から右側の側壁63bと交差する上壁61の内側縁61bに向けて拡開された形状を有するとともに、凹所66の深さが内側縁61bに近づくに従い次第に増加している。
【0058】
本実施形態によると、凹所66は、右側の側壁63bと交差する上壁61の内側縁61bに達している。内側縁61bでは、凹所66の深さおよびトラス3の長手方向に沿う凹所66の開口幅が夫々最大となっている。
【0059】
さらに、凹所66は、一対の傾斜面67a,67bを有している。傾斜面67a,67bは、上壁61の上面から下向きに延びているとともに、下方に進むに従い互いに近づくように傾いている。このため、凹所66は、V形の断面形状を有し、V形を規定する傾斜面67a,67bが内側縁61bの方向に進むに従い互いに離れている。
【0060】
第1の支持アングル22に最も近い第3の弱点部65cは、第1の弱点部65aと同一の形状を有している。そのため、第3の弱点部65cについては、第1の弱点部65aと同様の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0061】
第2の弱点部65bは、第1の弱点部65aと第3の弱点部65cとの間に位置されている。第2の弱点部65bは、上壁61に対する凹所66の向きが第1の弱点部65aおよび第3の弱点部65cの凹所66と逆である点を除き、第1の弱点部65aおよび第3の弱点部65cと同様の構成を有している。そのため、第2の弱点部65bに関しても、第1の弱点部65aと同様の参照符号を付して、その説明を省略する。
【0062】
下壁62に形成された第1ないし第3の弱点部65a,65b,65cは、下壁62を下向きに折り曲げた凹所66で規定されている。下壁62に形成された第1ないし第3の弱点部65a,65b,65cは、上壁61に形成された第1ないし第3の弱点部65a,65b,65cの真下に位置するとともに、上壁61の第1ないし第3の弱点部65a,65b,65cと同様の構成を有している。
【0063】
このような第2の実施形態において、大規模地震発生時に図7に矢印で示す過大な圧縮力が第1の支持アングル22からトラス3の下部トラス構造体6に作用すると、圧縮に弱い第1の弱点部65aおよび第3の弱点部65cでは、傾斜面67a,67bが互いに近づくように凹所66が潰れ、第1の弱点部65aおよび第3の弱点部65cが下部トラス構造体6の内側に向けて折れ曲がる。
【0064】
これにより、圧縮に弱い第2の弱点部65bがトラス3の幅方向に沿うように下部トラス構造体6の内側に強制的に押し込まれる。第2の弱点部45bは、上壁61および下壁62に対する凹所66の向きが第1の弱点部65aおよび第3の弱点部65cと逆である。このため、傾斜面67a,67bが互いに近づくように凹所66が潰れることで、第2の弱点部65bが第1の弱点部65aおよび第3の弱点部65cとは逆向きにV形に折れ曲がる。
【0065】
この結果、図7に示すように、上弦材41が第1の支持アングル22の付近で下部トラス構造体6の点検スペース37に入り込むように大きく変形する。したがって、第1ないし第3の弱点部65a,65b,65cは、トラス3が過大な圧縮力を受けた時に、互いに協働して略V形に屈曲された座屈部68を形成する。上弦材41が第1の支持アングル22の付近で座屈することにより、トラス3に加わる圧縮力が下部トラス構造体6から中間トラス構造体8に伝わる以前に吸収される。
【0066】
よって、第1ないし第3の弱点部65a,65b,65cの形状および配置間隔を適切に設定することで、トラス3が過大な圧縮力を受けた時にトラス3の上弦材41が座屈する方向を特定することが可能となり、前記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0068】
例えば、弱点部は、トラスの長手方向に離間した三箇所に限らず、例えばトラスの長手方向に離間した四箇所に位置するように上弦材に形成してもよい。
【0069】
さらに、実施形態に係る乗客コンベアは、エスカレータに特定されるものではなく、傾斜して配置された移動歩道であっても同様に実施可能である。
【符号の説明】
【0070】
2…建築物、3…トラス、4…下階床、5…上階床、6a…下階側水平部、7a…上階側水平部、8…中間傾斜部(中間トラス構造体)、22…下階側支承部(第1の支持アングル)、25…上階側支承部(第2の支持アングル)、38…乗降板、41…上弦材、45a,45b,45c,65a,65b,65c…弱点部(第1ないし第3の弱点部)、50,68…座屈部。
【要約】
【課題】トラスが過大な圧縮力を受けた際に、トラスが座屈する方向を確実に制御できる乗客コンベアを得ることにある。
【解決手段】乗客コンベアは、トラスと、トラスの一端部から下階床に向けて突出された下階側支承部と、トラスの他端部から上階床に向けて突出された上階側支承部と、を備えている。トラスは、下階側支承部が固定された下階側水平部と、上階側支承部が固定された上階側水平部と、下階側水平部と上階側水平部との間を結ぶ中間傾斜部と、を含む。下階側水平部は、左右の上弦材を備え、当該上弦材は、トラスの長手方向に離間した少なくとも三箇所に、建築物の側からトラスの長手方向に作用する過大な圧縮力に対して機械的強度が局部的に低下した弱点部を有する。弱点部は、トラスが圧縮力を受けた時に、互いに協働して下階側水平部の下階側支承部の付近にトラスの幅方向に沿う内側に向けて折れ曲がる座屈部を形成する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7