(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フランジ部が、前記ボルトと前記ナットとの結合状態又は結合途中の状態において前記ナットが前記ボルトを中心として回転しようとしたときに前記レールの内面に当たる部材である、請求項5に記載の乗客コンベア。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.エスカレータ1の全体構造
図1に示すように、エスカレータ1は、上階側の乗降場所と下階側の乗降場所とに架け渡されたトラス10を備える。トラス10は水平面に対して30°程度の角度で傾斜している。トラス10の内部には、2つの乗降場所の間で踏段20を移動させるための駆動装置が設けられている。踏段20の前方下部には左右一対の車輪としての前輪21が設けられ、踏段20の後方下部には左右一対の車輪としての後輪22が設けられている。前輪21には2つの乗降場所の間で周回する無端状の踏段チェーン23が取り付けられている。この踏段チェーン23が前記の駆動装置によって駆動することにより、踏段20が移動する。
【0011】
図1及び
図2に示すように、トラス10の内部には、トラス10と同角度で傾斜しトラス10の延長方向に延長されたそれぞれ左右一対の前輪用レール30と後輪用レール31とが設けられている。トラス10内には、これらのレール30、31の往路部分Dと、往路部分Dの下方に配置されたこれらのレール30、31の復路部分Rとが設けられている。これらのレール30、31は後述するレール支持部材40を介してトラス10に固定されている。踏段20が移動する際、前輪21は前輪用レール30の上を走行し、後輪22は後輪用レール31の上を走行する。また、トラス10の延長方向両側には、レール30、31の往路部分Dと復路部分Rとの間で踏段20を反転させその走行方向を逆転させる反転レール36が設けられている。
【0012】
また、トラス10の上には左右一対の欄干24が設けられている。欄干24には踏段20と同期して移動する手摺ベルト25が設けられている。
【0013】
また、トラス10は、前後方向へ延びる左右一対の上枠材11と、上枠材11の下方において上枠材11と平行に延びる左右一対の下枠材12とを備える。またトラス10は、上枠材11と下枠材12とを連結する縦枠材13と、左右一対の上枠材11を連結するとともに左右一対の下枠材12を連結する不図示の横枠材とを備える。縦枠材13及び横枠材はトラス10の複数箇所に設けられている。縦枠材13はトラス10の傾斜方向に直交する方向に延長されている。
【0014】
2.レール支持部材40の構造
図2〜
図4に示すように、縦枠材13にはトラス10の内部に向かって延長されたレール支持部材40が固定されている。レール支持部材40はトラス10の延長方向に直交する方向に広がる板状の部材である。レール支持部材40には上段部41と下段部46とからなる段差部が形成されている。そして、上段部41からトラス10の傾斜方向に向かって前輪用レール受け板42が突出し、下段部46から前輪用レール受け板42と同方向に後輪用レール受け板47が突出している。
【0015】
図2に示すように、前輪用レール受け板42の上に前輪用レール30が載り、後輪用レール受け板47の上に後輪用レール31が載っている。そして、後述するボルト50とナット60とで、前輪用レール30と前輪用レール受け板42とが固定され、また、後輪用レール31と後輪用レール受け板47とが固定されている。
【0016】
3.レール30、31の構造
図5に示す前輪用レール30及び後輪用レール31はそれぞれ1枚の金属板が折り曲げられて形成されたものである。これらのレール30、31は中空(内部が空洞)で、その底板35にはレール30、31の内部から外部への開口となる溝32が形成されている。この溝32は、金属板が折り曲げられたときの金属板端部同士の突き合わせ部により形成されたものである。溝32は、一定幅を保って、レール30、31の延長方向に延びている。そして溝32はレール30、31の延長方向両端部まで延び、レール30、31の延長方向両側へ開口している。レール30、31の上部には、前輪21又は後輪22の走行面よりも高くなった脱輪防止壁33、34が形成されている。
【0017】
4.ボルト50及びナット60の構造
図6に示すように、ボルト50は頭部51とネジ切りされた軸52とを備える。ボルト50の頭部51の上端部(軸52側の端部)には、ボルト50の軸方向に対して直交する方向に拡張した板状のフランジ53が設けられている。
【0018】
また、ナット60は、ナット本体61と、ナット本体61に固定された板バネ部材70とを備える。ナット本体61は、平面視で六角形のナット部62と、ナット部62の下端部に形成されたフランジ部63とを備える。
【0019】
フランジ部63は、ボルト50とナット60とが結合されたときのボルト50の軸方向に対して直交する方向に拡張されている。フランジ部63は、図示する実施形態では平面視で長方形であり4つの角部を備えているが、平面視で他の多角形や一部に曲線を有する形等であっても良い。フランジ部63の厚みは、限定されないが、レール30、31の底板35の厚みの半分以上であることが好ましく、底板35の厚みの0.7倍以上であることがさらに好ましい。フランジ部63の平面視での大きさについては後述する。
【0020】
板バネ部材70は1枚の薄板状の弾性体から形成されたものである。板バネ部材70は例えばJISに規定されたばね用鋼材からなる。板バネ部材70は、フランジ部63の上面にナット部62を避けて固定された固定部71を備える。固定部71は平面視でフランジ部63とほぼ同形の板状の部分である。ナット本体61のフランジ部63の上面と板バネ部材70の固定部71との固定は、例えば接着剤による接着、溶接、又はネジ止め等により行われる。
【0021】
板バネ部材70は、さらに、固定部71の対向する2辺からそれぞれ延長された延長部73と、各延長部73の先端に設けられた押圧部75とを備える。延長部73の幅はレール30、31の溝32の幅以下である。延長部73は、その一部が固定部71より下方に向かって曲がることにより形成された溝内通過部74を備える。溝内通過部74は、ナット本体61がレール30、31の内側の底板35の上に配置されたときにレール30、31の溝32内に配置される部分である。一方、押圧部75の幅は、延長部73の幅よりも広く、さらに、溝32の幅よりも広い。押圧部75は、固定部71に対して平行か、固定部71に対して僅かな角度で傾斜している。
【0022】
5.レール30、31とレール受け板42、47との固定構造
上記のように、前輪用レール受け板42の上に前輪用レール30が載り、後輪用レール受け板47の上に後輪用レール31が載っている。ここで、前輪用レール受け板42及び後輪用レール受け板47は前輪用レール30及び後輪用レール31の底板35に平行となっている。
図4に示すように、前輪用レール受け板42及び後輪用レール受け板47にはそれぞれボルト孔45が形成されている。前輪用レール30の溝32は前輪用レール受け板42のボルト孔45と上下に重なり、後輪用レール31の溝32は後輪用レール受け板47のボルト孔45と上下に重なっている。
【0023】
そして、前輪用レール30の内部に設けられたナット60と、前輪用レール受け板42の下からボルト孔45と溝32とを通したボルト50とで、前輪用レール30と前輪用レール受け板42とが固定され、後輪用レール31の内部に設けられたナット60と、後輪用レール受け板47の下からボルト孔45と溝32とを通したボルト50とで、後輪用レール31と後輪用レール受け板47とが固定されている。
【0024】
ここで、詳細な固定構造について、前輪用レール30と前輪用レール受け板42との固定構造を例に
図7〜
図9に基づき説明する。
【0025】
ナット本体61が前輪用レール30の内側でフランジ部63を下にして底板35の上に配置されている。フランジ部63は前輪用レール30の内部で底板35に接している。フランジ部63は、前輪用レール30の内側で、前輪用レール30の延長方向と、前輪用レール30の幅方向(この方向をフランジ部63の幅方向とする)とに拡張されている。板バネ部材70の延長部73が、前輪用レール30の延長方向両側へ延び、それぞれ前輪用レール30の底板35の溝32を通って前輪用レール30の外部へ延長されている。そして、延長部73の先端に設けられた押圧部75が、前輪用レール30の外部から前輪用レール30の底板35に当たっている。ここで、上記のように押圧部75の幅が溝32の幅よりも広いため、押圧部75は底板35のうち溝32の両側の部分に当たっている。押圧部75が前輪用レール30の外部から底板35に当たることにより、押圧部75とナット本体61のフランジ部63とで底板35を挟んでいる。
【0026】
そして、板バネ部材70が弾性体であるため、押圧部75が底板35を前輪用レール30の外部から内部に向かって(従ってナット本体61のフランジ部63に向かって)押さえ付けている。それにより、ナット本体61のフランジ部63と板バネ部材70の押圧部75とで底板35を押圧しながら挟んでいることとなり、ナット60が前輪用レール30の溝32に沿って移動しにくくなっている。
【0027】
前輪用レール30の底板35の下には前輪用レール受け板42が存在している。ナット60のネジ孔は、前輪用レール30の溝32及び前輪用レール受け板42のボルト孔45と、上下方向に一致している(
図9参照)。そして、ボルト50が、前輪用レール受け板42の下からボルト孔45と溝32とを通され、前輪用レール30の内部のナット60と結合されている。それにより、前輪用レール30の底板35と前輪用レール受け板42とが、ボルト50のフランジ53とナット60のフランジ部63とで挟まれ、固定されている。
【0028】
なお、図示する実施形態では、ナット60の押圧部75は前輪用レール30の底板35と前輪用レール受け板42とに挟まれている。しかし、図示しないが、前輪用レール受け板42がナット60の2つの押圧部75の間の距離より短く、押圧部75が前輪用レール30の底板35と前輪用レール受け板42とに挟まれていなくても良い。
【0029】
以上では前輪用レール30と前輪用レール受け板42との固定構造について説明したが、後輪用レール31と後輪用レール受け板47も、ボルト50とナット60とを用いた上記と同じ固定構造により固定されている。
【0030】
上記のレール支持部材40がトラス10の延長方向の複数の縦枠材13に設けられ、また、左右両側の縦枠材13に設けられている。そして、各レール支持部材40において、上記と同じ固定構造により、前輪用レール30と前輪用レール受け板42とが固定され、後輪用レール31と後輪用レール受け板47とが固定されている。また、
図2〜
図9ではレール30、31の往路部分Dの固定構造を示したが、レール30、31の復路部分Rも上記と同じ固定構造により固定されている。
【0031】
6.フランジ部63の大きさ
ここで、フランジ部63の平面視での大きさは、フランジ部63がボルト50を中心として回転しようとしてもフランジ部63の一部がレール30、31の内面に当たって自由に回転できない(すなわち、回転方向に全く動けないか、動けたとしても回転方向に僅かな角度しか動けない)程度の大きさである。平面視でのフランジ部63の回転軸を通る最長部の長さがレール30、31の内部の幅よりも長ければ、フランジ部63はレール30、31の内部で自由に回転できない。本実施形態において具体的には、フランジ部63を平面視で見たときの長方形の対角線の長さがレール30、31の内部の幅よりも長ければ、フランジ部63が回転しようとしてもフランジ部63の角部がレール30、31の内面に当たるので、フランジ部63はレール30、31の内部で自由に回転できない。
【0032】
また、フランジ部63の幅方向の長さがレール30、31の内部の幅と等しく、フランジ部63とレール30、31の内面とがレール30、31の延長方向に所定距離にわたって接触していれば、フランジ部63はレール30、31の内部で回転方向に全く動けない。本実施形態において具体的には、平面視で長方形であるフランジ部63の幅とレール30、31の内部の幅とが等しければ、フランジ部63はレール30、31の内部で回転方向に全く動けない。
【0033】
7.レール30、31の固定方法
本実施形態のレール30、31の固定方法について、前輪用レール30の前輪用レール受け板42への固定を例に説明する。まず、作業者は、前輪用レール30を前輪用レール受け板42の上に仮置きする。仮置きすると前輪用レール30が傾斜する。
【0034】
次に作業者は、ナット60を溝32に沿って滑らせながら前輪用レール30の内部に入れる。具体的には、まず作業者は、前輪用レール30の延長方向の端部において、ナット本体61を前輪用レール30の内部(底板35の上)に配置し、延長部73の溝内通過部74を溝32の内側に配置し、押圧部75を前輪用レール30の外部(底板35の下)に配置する。そして次に作業者は、その配置を保ったまま、延長部73の溝内通過部74が溝32の内側を通るようにして、ナット60を前輪用レール受け板42の位置まで溝32に沿って滑らせて移動させる。移動させた後、作業者がナット60を離しても、押圧部75が底板35をナット本体61のフランジ部63に向かって押さえ付けているため、ナット60が溝32に沿って落ちて行きにくい。
【0035】
次に作業者は、前輪用レール受け板42の下から前輪用レール受け板42のボルト孔45と前輪用レール30の溝32とにボルト50を通し、前輪用レール30の内部のナット60と結合させる。ここで、結合のために作業者がボルト50を回すと、ナット60にも回転しようとする力が働く。しかしナット60のフランジ部63の角部が前輪用レール30の内面に当たるため、ナット60は回転できない。また、ナット本体61に固定された板バネ部材70の溝内通過部74が前輪用レール30の溝32内に配置されていることからも、ナット60は回転できない。そのため作業者は、回転できないように固定された状態のナット60に対してボルト50を回すことができ、ボルト50とナット60とを容易かつ確実に結合させることができる。ボルト50とナット60とが結合することにより、前輪用レール30が前輪用レール受け板42へ固定される。
【0036】
作業者は、以上の固定作業を、全ての前輪用レール受け板42の位置で行う。また、これと同じ固定作業を、後輪用レール31と後輪用レール受け板47との固定においても行う。もちろん作業者はレール30、31の往路部分Dだけでなく復路部分Rも固定する。
【0037】
8.効果
本実施形態では、ナット60に上記の板バネ部材70が設けられていることにより、上記のようにナット本体61のフランジ部63と板バネ部材70の押圧部75とでレール30、31の底板35を押圧しながら挟むこととなるため、ナット60が底板35の溝32に沿って移動しにくくなって保持されている。そのため、作業者がレール30、31の内部にナット60を配置して手を離しても、ナット60が下方に転がり落ちて行きにくい。また、レール30、31とレール受け板42、47とをボルト50とナット60とで固定する途中のボルト50の締め付けが弱いときに、作業者がボルト50とナット60から手を離しても、ボルト50とナット60とがレール30、31の溝32に沿って滑り落ちて行きにくい。
【0038】
また、ナット本体61に固定された板バネ部材70の溝内通過部74がレール30、31の溝32内に配置されているため、作業者がボルト50を回したときにナット60がボルト50と一緒に回ってしまうことを防ぐことができ、ボルト50とナット60とを容易かつ確実に結合させることができる。
【0039】
また、ナット60に上記の所定の大きさのフランジ部63が設けられていることにより、上記のように作業者がボルト50を回したときにナット60がボルト50と一緒に回ってしまうことを防ぐことができ、ボルト50とナット60とを容易かつ確実に結合させることができる。
【0040】
また、ナット60のネジ部の長さがフランジ部63の厚みのぶん長くなっているため、ボルト50とナット60との固定力が大きくなっている。
【0041】
また、上記のように板バネ部材70の押圧部75が底板35のうち溝32の両側の部分を押さえることにより、板バネ部材70がナット60を保持する力が大きくなっている。また、板バネ部材70がレール30、31の延長方向両側に押圧部75を備えることにより、板バネ部材70がナット60を保持する力が大きくなっている。
【0042】
9.変更例
上記の実施形態に対して適用可能な変更例を説明する。なお、変更例を示す
図10において、
図1〜
図9と同じ部分には同じ符号が付されている。
【0043】
図10に示すように、前輪用レール30及び後輪用レール31の代わりに、前輪21の走行面130と後輪22の走行面131とが一体に形成された一体レール136が設けられても良い。一体レール136は、上記実施形態の前輪用レール30及び後輪用レール31と同じく、金属板が折り曲げられて形成されたものである。一体レール136は中空で、その底板135には一体レール136の内部から外部への開口となる溝132が形成されている。この溝132は、金属板が折り曲げられたときの金属板端部同士の突き合わせ部が形成したものである。また図示しないが、溝132は一定幅を保って一体レール136の延長方向に延びている。そして溝132は一体レール136の延長方向両端部まで延び、一体レール136の延長方向両側へ開口している。
図10に示すように、溝132の上方には前輪21の走行面130と後輪22の走行面131との段差が存在する。
【0044】
この一体レール136をトラス10に対して固定するために、上記実施形態のレール支持部材40と同様のレール支持部材140が、トラス10の縦枠材13に固定されている。このレール支持部材140にも、上記実施形態のレール受け板42、47と同様にトラス10の傾斜方向に向かって突出した不図示のレール受け板が設けられている。
【0045】
この変更例の一体レール136も、上記実施形態のボルト50及びナット60を用いて、レール受け板に対して固定することができる。このように、上記実施形態のボルト50及びナット60を用いれば、レール内部に凹凸や段差等があっても、そのレールを固定することができる。
【0046】
また、乗客コンベアとして、高低差の無い2地点の間でステップが移動する動く歩道等も挙げられる。動く歩道等においても、上記実施形態と同じボルト50及びナット60を用いて、ステップの車輪が走行するためのレールを固定することができる。
【0047】
以上の変更例の他にも、発明の要旨を逸脱しない範囲で、様々な変更、置換、省略等を行うことができる。以上の実施形態及び変更例は例示であり発明の範囲はこれに限定されない。以上の実施形態及び変更例は、特許請求の範囲に記載された発明及びその均等の範囲に含まれる。
【解決手段】踏段20の車輪21が走行するレール30と、トラス10に固定されたレール受け板42とを備え、レール30は、中空で、外部に開口しレール30の延長方向に延びる溝32を底板35に備え、レール受け板42はボルト孔45を備え、レール30の内部に設けたナット60と、レール受け板42の下からボルト孔45と溝32とを通したボルト50とで、レール30とレール受け板42とが固定され、ナット60はナット本体61に固定された板バネ部材70を備え、板バネ部材70は、溝32を通ってレール30の内部から外部へ延長された延長部73と、延長部73の先端に設けられ底板35をレール30の外部から押さえる押圧部75とを備える。