特許第6367481号(P6367481)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367481
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】同期リラクタンスモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 19/10 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   H02K19/10 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-514073(P2017-514073)
(86)(22)【出願日】2016年4月11日
(86)【国際出願番号】JP2016061680
(87)【国際公開番号】WO2016171021
(87)【国際公開日】20161027
【審査請求日】2017年9月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-89331(P2015-89331)
(32)【優先日】2015年4月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 活徳
(72)【発明者】
【氏名】松下 真琴
(72)【発明者】
【氏名】三須 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 則雄
(72)【発明者】
【氏名】橋場 豊
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 寿郎
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−283775(JP,A)
【文献】 特開2002−165427(JP,A)
【文献】 特開2005−006416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に軸支されて回転軸中心で軸方向に延びるシャフトと、
前記シャフトに外嵌固定されている回転子鉄心と、
前記回転子鉄心の外周に前記回転子鉄心と間隔をあけて配置され、互いに周方向に間隔をあけて配列された複数のティースを有する固定子鉄心と、
前記複数のティースにそれぞれ巻回された複数極の多相の電機子巻線と、
を備え、
前記回転子鉄心には、1/4周の周角度領域のそれぞれに、複数の空洞部が形成されており、
前記回転子鉄心の1/4周の周角度領域において、前記複数の空洞部は、各々周方向の中央が最も径方向内側に位置するように、径方向内側に向かって湾曲されており、且つ各々径方向に沿って並んで配置されており、
前記回転子鉄心の主面上における前記空洞部の占有面積は、前記回転子鉄心の前記主面上の全体の面積に対して35%〜39%に設定されている同期リラクタンスモータ。
【請求項2】
可変速駆動され、高速回転時に誘起電圧を低下させる弱め界磁制御を行う請求項1に記載の同期リラクタンスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、同期リラクタンスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
同期リラクタンスモータは、回転子と、固定子と、を備えている。回転子は、回転可能に軸支されて回転軸中心で軸方向に延びるシャフトと、シャフトに外嵌固定され、複数のフラックスバリアが形成されている回転子鉄心と、を備えている。固定子は、回転子鉄心の外周に前記回転子鉄心と間隔をあけて配置され、互いに周方向に間隔をあけて配列された複数のティースを有する固定子鉄心と、複数のティースにそれぞれ巻回された複数極の多相の電機子巻線と、を備えている。そして、同期リラクタンスモータは、フラックスバリアによって発生するリラクタンストルクを利用し、シャフトを回転させる。
【0003】
このように、フラックスバリアによってリラクタンストルクを発生させているので、回転子鉄心の主面上の全体の面積に対するフラックスバリアの占有面積の比率(以下、フラックスバリアの占有面積比という)が、同期リラクタンスモータの特性に大きく影響する。
ここで、従来から、フラックスバリアの占有面積比を、回転子鉄心の主面上の全体の面積に対して33%程度に設定すると、同期リラクタンスモータのトルク性能を最大限にできることが知られている。
【0004】
ところで、インバータ等を用いてモータを可変速駆動する場合、モータに要求されるトルクは、回転数が増加するにつれて小さくなるのが一般的である。すなわち、起動時の低速域でトルクは最も大きくなり、定トルク性能が必要とされる。また、中速域では、回転数に反比例してトルクは小さくなり、出力は一定出力(出力=トルク×回転数)となる。さらに、高速域になると、トルクの低減が大きくなる。このため、可変速駆動するモータの駆動制御方法としては、例えば起動から低速域または中速域までは電圧・周波数比を一定にするV/F一定制御を行うことが一般的である。これに対し、高速域では、最大電圧値を一定として制御する弱め界磁制御を行う。
【0005】
すなわち、インバータのスイッチング素子(IGBT(Insulated GateBipolor Transistor)、MOS−FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等)の性能(耐圧や最大電流)によって、印加できる電圧や通電できる電流が制限される。一般に、耐圧や最大電流が大きくなるほど、素子のコストが高くなるため、できる限り電圧や電流を小さくすることが望ましい。ファラデーの法則より、誘起電圧は周波数(回転数)に比例するため、回転数が低い時のモータ端子電圧はインバータの最大電圧に対して余裕がある。この領域では、電流が最小となるように制御する(トルク電流のみを流す最大トルク制御)ことが一般的である。これが、V/F一定制御である。なお、トルク電流とは、回転子鉄心にトルクを発生させるために電機子巻線に供給する電流をいう。
【0006】
これに対し、高速回転域では、モータ端子電圧がインバータの最大電圧と等しくなる。最大電圧値より高い回転数で回すためには、トルク電流に加えて弱め電流(電流の位相を進める)を供給し、誘起電圧を打ち消すように制御する必要がある。これが、弱め界磁制御である。すなわち、回転数が高くなるほどトルク電流に対する弱め電流の割合は増加し、単位出力トルクあたりに必要なモータ電流が増加する。
【0007】
したがって、常に最大トルク制御で運転する一定速の同期リラクタンスモータにおいては、フラックスバリアの占有面積比を約33%程度に設定することが望ましい。しかしながら、可変速駆動を行う同期リラクタンスモータにあっては、フラックスバリアの占有面積比を33%程度に設定すると、弱め界磁制御時のモータ性能が著しく低下する。また、モータ性能が低下すると、同期リラクタンスモータを駆動するために必要な電流が増加し、電流容量の大きな高価なスイッチング素子が必要となる。その結果、モータドライブシステム全体のコストが増加してしまう可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開2004−96909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、モータ性能を改善できる同期リラクタンスモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の同期リラクタンスモータは、シャフトと、回転子鉄心と、固定子鉄心と、複数極の多相の電機子巻線と、を持つ。シャフトは、回転可能に軸支されて回転軸中心で軸方向に延びる。回転子鉄心は、シャフトに外嵌固定されている。固定子鉄心は、回転子鉄心の外周に回転子鉄心と間隔をあけて配置され、互いに周方向に間隔をあけて配列された複数のティースを持つ。複数極の多相の電機子巻線は、複数のティースにそれぞれ巻回されている。また、回転子鉄心には、1/4周の周角度領域のそれぞれに、複数の空洞部が形成されている。回転子鉄心の1/4周の周角度領域において、複数の空洞部は、各々周方向の中央が最も径方向内側に位置するように、径方向内側に向かって湾曲されており、且つ各々径方向に沿って並んで配置されている。そして、回転子鉄心の主面上における空洞部の占有面積は、回転子鉄心の主面上の全体の面積に対して35%〜39%に設定されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の同期リラクタンスモータの一部の構成を示す回転軸に直交する断面図。
図2】実施形態のV/F一定制御における同期リラクタンスモータのトルクの変化を示すグラフ。
図3】実施形態のV/F一定制御における同期リラクタンスモータの単位出力トルクあたりに必要な電流の変化を示すグラフ。
図4】実施形態の弱め界磁制御における同期リラクタンスモータの力率の変化を示すグラフ。
図5】実施形態の弱め界磁制御における同期リラクタンスモータの単位出力トルクあたりに必要な電流の変化を示すグラフ。
図6】実施形態の同期リラクタンスモータにおける可変速モータ電流指標の変化を示すグラフ。
図7】実施形態の同期リラクタンスモータにおける可変速モータ電流指標の最小値から2%上昇した値までの範囲を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態の同期リラクタンスモータを、図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、同期リラクタンスモータ1の一部の構成を示す回転軸8に直交する断面図である。なお、図1では、同期リラクタンスモータ1の1/4セクター、すなわち、1/4周の周角度領域分のみを示している。
同図に示すように、同期リラクタンスモータ1は、略円筒状の固定子2と、固定子2よりも径方向内側に設けられ、固定子2に対して回転自在に設けられた回転子3と、を備えている。なお、固定子2および回転子3は、それぞれの中心軸線が共通軸上に位置した状態で配設されている。以下、上述した共通軸を中心軸Oと称し、中心軸Oに直交する方向を径方向と称し、中心軸O回りに周回する方向を周方向と称する。
【0014】
固定子2は、略円筒状の固定子鉄心4を有している。固定子鉄心4は、電磁鋼板を複数枚積層したり、軟磁性粉を加圧成形したりして形成することが可能である。固定子鉄心4の内周面には、中心軸Oに向かって突出し、周方向に等間隔で配列された複数のティース5が一体成形されている。ティース5は、断面略矩形状に形成されている。そして、隣接する各ティース5間には、それぞれスロット6が形成されている。これらスロット6を介し、各ティース5に電機子巻線7が巻回されている。
なお、固定子鉄心4は、絶縁性を有するインシュレータが装着されたり、外面の全体が絶縁被膜で被覆されたりしている(何れも不図示)。そして、各ティース5には、インシュレータや絶縁被膜の上から電機子巻線7が巻回される。
【0015】
回転子3は、中心軸Oに沿って延びる回転軸8と、回転軸8に外嵌固定された略円柱状の回転子鉄心9と、を備えている。
回転子鉄心9は、電磁鋼板を複数枚積層したり、軟磁性粉を加圧成形したりして形成することが可能である。回転子鉄心9の外径は、径方向で対向する各ティース5との間に、所定のエアギャップGが形成されるように設定されている。
また、回転子鉄心9の径方向中央には、中心軸Oに沿って貫通する貫通孔10が形成されている。この貫通孔10に、回転軸8が圧入等され、回転軸8と回転子鉄心9とが一体となって回転する。
【0016】
さらに、回転子鉄心9には、1/4周の周角度領域のそれぞれに、複数(例えば、本実施形態では3つ)のフラックスバリア11が形成されている。各フラックスバリア11は、q軸磁束の流れに沿うように、周方向の中央が最も径方向内側に位置するように、径方向内側に向かって湾曲された断面略円弧状に形成された複数の空洞部18である。
【0017】
また、これら複数の空洞部18は、各々周方向中央が径方向に沿う所定の直線L1上に位置するように、径方向に沿って並んで配置されている。さらに、複数の空洞部18の各々周方向両端と回転子鉄心9の外周部との間の距離L2は、ほぼ同一に設定されている。このため、複数の空洞部18は、径方向内側に位置する空洞部18の周方向の長さが、径方向外側に位置する空洞部18の周方向の長さよりも長くなるように形成されている。
【0018】
なお、所定の直線L1は、回転子鉄心9の1/4周の周角度領域の周方向中央と中心軸Oとを通る直線である。また、フラックスバリア11として、空洞部18に非磁性体(例えば、非導電性樹脂)を充填したり、各空洞部18に対応する板状の非磁性体を挿入したりしてもよい。すなわち、フラックスバリア11は、磁束が通りにくくなるように構成されていればよい。
【0019】
また、回転子鉄心9の外周部には、ブリッジ12(複数の空洞部18の各々周方向両端と回転子鉄心9の外周部との間の距離L2)が設けられているので、フラックスバリア11が形成された状態でも、回転子鉄心9は1つに纏まっている。
なお、ブリッジ12の位置は、回転子鉄心9の外周部に限られるものではなく、回転子鉄心9が1つに纏まる位置であればよい。
【0020】
例えば、フラックスバリア11(空洞部18)にブリッジ12を形成してもよい。ブリッジ12を形成することにより、回転子鉄心9(空洞部18)の剛性を高めることができる。ここで、空洞部18にブリッジ12を形成する場合、このブリッジ12内で磁束が飽和するように形成する。このように構成することで、フラックスバリア11に磁束が通ってしまうことを防止できる。
【0021】
ここで、フラックスバリア11の占有面積比、つまり、回転子鉄心9の主面上の全体の面積(図1におけるハッチ部の面積×4)に対するフラックスバリア11の占有面積比は、35%〜39%に設定されている。以下、フラックスバリア11の占有面積比について詳述する。
【0022】
図2は、V/F一定制御における同期リラクタンスモータ1のトルクの変化を示すグラフである。より詳しくは、図2は、V/F一定制御のもと、縦軸をトルクとし、横軸をフラックスバリア11の占有面積比[%]とした場合のトルクの変化を示すグラフである。なお、図2においては、トルク電流を一定に保ってフラックスバリア11の占有面積比を変化させている。
同図に示すように、同期リラクタンスモータ1のトルク特性T1は、フラックスバリア11の占有面積比を約33%程度に設定したときに最大になることが確認できる。
【0023】
図3は、図2におけるトルク特性T1の逆数を示すグラフである。なお、トルク特性の逆数は、「電圧の制限がない場合(電圧を考慮しない場合)」の単位出力トルクあたりに必要なトルク電流と考えてよい。すなわち、図3は、V/F一定制御において、縦軸を単位出力トルクあたりに必要な電流I1[%]とし、横軸をフラックスバリア11の占有面積比[%]とした場合の、単位出力トルクあたりに必要な電流I1の変化を示すグラフである。なお、単位出力トルクあたりに必要な電流I1の最小値を100%としている。
同図に示すように、フラックスバリア11の占有面積比を約33%程度に設定したとき、V/F一定制御において、単位出力トルクあたりに必要な電流I1が最小になることが確認できる。
【0024】
ここで、前述したように、弱め界磁制御時は、インバータ等の容量によって電圧の制限が生じるため、電圧の影響を考慮する必要がある。このため、弱め界磁制御時は、図2に示すようなトルク特性T1では、モータ性能を評価することが困難である。そこで、以下のように、評価する。
【0025】
図4は、弱め界磁制御における同期リラクタンスモータ1の力率の変化を示すグラフである。より詳しくは、図4は、縦軸を力率とし、横軸をフラックスバリア11の占有面積比とした場合の力率の変化を示すグラフである。
なお、力率とは、皮相電力に対する有効電力の割合であり、力率をcosθとし、回転子3の回転数をNとし、トルクをTとし、電圧をVとし、電流をIとした場合、力率cosθは、
cosθ=2πNT/VI・・・(1)
を満たす物理量として定義される(厳密には、出力2πNTに損失分を加えたものが有効電力となるが、その値は小さく、また説明を簡略化するために省略した)。
【0026】
図4に示すように、同期リラクタンスモータ1の力率cosθは、フラックスバリア11の占有面積比を約43%程度に設定したときに最大になることが確認できる。
ここで、力率cosθは、式(1)を満たす。弱め界磁制御時の任意の回転数Nにおいて考えると、回転数Nと電圧Vは一定であるので、力率の逆数1/cosθは、電流をトルクで割った値I/Tに比例することになる。すわなち、弱め界磁制御の逆数は「電圧に制限がある場合」の単位出力トルクあたりに必要な電流と考えることができる。したがって、電圧に制限のある弱め界磁制御における同期リラクタンスモータ1のモータ性能は、力率cosθの逆数で評価できる。
【0027】
図5は、図4における力率cosθの逆数を示すグラフである。すなわち、図5は、弱め界磁制御において、縦軸を単位出力トルクあたりに必要な電流I2[%]とし、横軸をフラックスバリア11の占有面積比[%]とした場合の、単位出力トルクあたりに必要な電流I2の変化を示すグラフである。なお、単位出力トルクあたりに必要な電流I2の最小値を100%としている。
同図に示すように、フラックスバリア11の占有面積比を約43%程度に設定したとき、弱め界磁制御において、単位出力トルクあたりに必要な電流I2が最小になることが確認できる。また、従来から定義されているように、フラックスバリア11の占有面積比を約33%程度に設定したとき、弱め界磁制御において、電流が大幅に増加し、弱め界磁制御時のモータ性能が著しく低下していることが確認できる。
【0028】
ところで、ここまでV/F一定制御と弱め界磁制御とを個別に評価し、それぞれの制御において最適なフラックスバリア11の占有面積比を求めたが、1つの同期リラクタンスモータ1でV/F一定制御および弱め界磁制御の2つの制御(以下、単に2つの制御という)を行う場合、これら2つの制御を同時に最適化する必要がある。そこで、V/F一定制御において単位出力トルクあたりに必要な電流I1の値と、弱め界磁運転において単位出力トルクあたりに必要な電流I2の値のうち、大きな方の値を可変速モータ電流指標S1と定義する。
【0029】
すなわち、可変速モータ電流指標S1を、関数f(x)および関数g(x)によって定義できる関数h(x)で表し、この関数h(x)によって、1つの同期リラクタンスモータ1で2つの制御を行う場合のモータ性能を評価する。ここで、関数h(x)は、以下の式(2)によって表すことができる。なお、本実施形態では、関数f(x)は、電圧に制限がない場合に単位出力トルクあたりに必要な電流I1を示し、関数g(x)は、電圧に制限がある場合に単位出力トルクあたりに必要な電流I2を示す。そして、可変速モータ電流指標S1が最小となる値が、1つの同期リラクタンスモータ1で2つの制御を考慮した電流が最小となる設計である。
【0030】
【数1】
【0031】
図6は、縦軸を可変速モータ電流指標S1[%]とし、横軸をフラックスバリア11の占有面積比[%]とした場合の可変速モータ電流指標S1の変化を示すグラフである。
同図に示すように、フラックスバリア11の占有面積比を約37.5%程度に設定したとき、可変速モータ電流指標S1が最も小さくなることが確認できる。これは、全可変速域で同期リラクタンスモータ1を運転するために必要な電流が最小となることを意味する。
【0032】
図7は、図6に示す可変速モータ電流指標S1の変化を示すグラフに、可変速モータ電流指標S1の最小値から2%上昇した値までの範囲を示したグラフである。
同図より、フラックスバリア11の占有面積比を35%〜39%に設定すると、可変速モータ電流指標S1の最小値からの上昇を、2%以内に抑えられることが確認できる。すなわち実用上は、フラックスバリア11の占有面積比を35%〜39%に設定すれば可変速駆動に必要なモータ電流の増加はほとんどなく、インバータのスイッチング素子の電流容量を増加する必要は無い。一方で、占有面積比を35%〜39%から外れた値に設定した場合、全可変速域で運転するために必要なモータ電流が大幅に増加し、電流容量の大きな高価なスイッチング素子を用いる必要がある。その結果、システム全体のコスト上昇を招いてしまう。
【0033】
したがって、上述の実施形態によれば、フラックスバリア11の占有面積比を35%〜39%に設定することにより、同期リラクタンスモータ1を2つの制御方法で駆動した場合(すなわち可変速駆動)であっても、モータ電流が著しく増加することを防止できる。このため、全運転領域で良好なモータ性能を有し、インバータのスイッチング素子の電流容量を最小限とすることができ、モータドライブシステム全体としてのコストも最小化できる同期リラクタンスモータ1を提供できる。
また、回転子鉄心9に形成されているフラックスバリア11は、q軸磁束の流れに沿うように、径方向内側に向かって湾曲された断面略円弧状に形成されているので、リラクタンストルクを効率よく発生させることができる。
【0034】
なお、上述の実施形態では、各フラックスバリア11は、q軸磁束の流れに沿うように、径方向内側に向かって湾曲された断面略円弧状に形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、フラックスバリア11によってリラクタンストルクが発生するように形成されていればよく、フラックスバリア11の形状を任意に設定することができる。
また、上述の実施形態では、回転子鉄心9の1/4周の周角度領域に、それぞれ3つずつフラックスバリア11が形成されている場合について説明したが、これに限られるものではなく、フラックスバリア11の形成個数を任意に設定することができる。
【0035】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、フラックスバリア11の占有面積比を35%〜39%に設定することにより、同期リラクタンスモータ1を2つの制御方法で駆動してもモータ電流が著しく増加することを防止できる。このため、インバータのスイッチング素子の電流容量を最小限とすることができ、モータドライブシステム全体としてのコストも最小化できる同期リラクタンスモータ1を提供できる。
また、回転子鉄心9に形成されているフラックスバリア11は、q軸磁束の流れに沿うように、径方向内側に向かって湾曲された断面略円弧状に形成されているので、リラクタンストルクを効率よく発生させることができる。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0037】
1…同期リラクタンスモータ、2…固定子、3…回転子、4…固定子鉄心、5…ティース、7…電機子巻線、8…回転軸(シャフト)、9…回転子鉄心、11…フラックスバリア、18…空洞部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7