(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367498
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20180723BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20180723BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20180723BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20180723BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20180723BHJP
B60L 11/14 20060101ALI20180723BHJP
B60L 3/00 20060101ALI20180723BHJP
B60K 6/485 20071001ALN20180723BHJP
【FI】
B60W10/08 900
B60W10/06 900
B60W20/10ZHV
F02D43/00 301B
F02D43/00 301H
F02D45/00 364G
B60L11/14
B60L3/00 N
!B60K6/485
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-557000(P2017-557000)
(86)(22)【出願日】2016年9月9日
(86)【国際出願番号】JP2016076710
(87)【国際公開番号】WO2018016083
(87)【国際公開日】20180125
【審査請求日】2017年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2016-144398(P2016-144398)
(32)【優先日】2016年7月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137523
【弁理士】
【氏名又は名称】出口 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】目黒 一由希
(72)【発明者】
【氏名】木村 光宏
【審査官】
神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−71551(JP,A)
【文献】
特開2004−19672(JP,A)
【文献】
特開2013−180583(JP,A)
【文献】
特開2007−278266(JP,A)
【文献】
特開2011−63089(JP,A)
【文献】
特開2008−238856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00〜20/50
B60K 6/20〜 6/547
B60L 1/00〜 3/12
B60L 7/00〜13/00
B60L 15/00〜15/42
F02D 29/00〜29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気経路に電子式スロットルバルブが配設された内燃機関と、前記内燃機関に機械的に接続され、前記内燃機関の回転を受けて発電可能であるとともに前記内燃機関にトルクを付与可能なモータジェネレータとを有するハイブリッド車両のトルクを制御する制御装置であって、
運転者により設定された設定スロットル開度および前記モータジェネレータの回転情報に基づいて、目標総合トルクを算出する目標総合トルク算出部と、
前記設定スロットル開度および前記回転情報に基づいて、前記電子式スロットルバルブの仮想スロットル開度を算出する仮想スロットル開度算出部と、
前記仮想スロットル開度および前記回転情報に基づいて、目標エンジントルクを算出する目標エンジントルク算出部と、
前記目標総合トルクから前記目標エンジントルクを差し引くことにより、目標モータトルクを算出する目標モータトルク算出部と、
を備え、
前記仮想スロットル開度算出部は、前記仮想スロットル開度と、前記回転情報と、前記設定スロットル開度との関係を示す複数の仮想スロットル開度マップから、ドライブモード、前記設定スロットル開度および前記回転情報の少なくともいずれか一つ以上に基づいて、仮想スロットル開度マップを選択し、前記設定スロットル開度および前記回転情報を用いて前記選択された仮想スロットル開度マップを検索することにより、前記仮想スロットル開度を算出することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記仮想スロットル開度算出部は、前記モータジェネレータによる前記内燃機関のアシストの可否を判定し、前記アシストが可能である場合に、前記仮想スロットル開度を算出することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記仮想スロットル開度算出部は、前記設定スロットル開度よりも小さいスロットル開度を前記仮想スロットル開度として算出することを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記ハイブリッド車両は、前記モータジェネレータにより発電された電力を蓄電可能であるとともに前記モータジェネレータに電力を供給可能なバッテリを有するバッテリ装置をさらに備え、
前記仮想スロットル開度算出部は、前記バッテリに関するバッテリ情報および前記モータジェネレータのステータス情報に基づいて前記アシストの可否を判定することを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記仮想スロットル開度算出部は、前記バッテリの電圧または充電率が閾値以上であり、かつ前記モータジェネレータに異常が無い場合に、前記アシストが可能であると判定することを特徴とする請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記仮想スロットル開度算出部は、前記バッテリの電圧が低くなるにつれて、前記仮想スロットル開度が前記設定スロットル開度よりも大きくなるように前記仮想スロットル開度を算出することを特徴とする請求項4に記載の制御装置。
【請求項7】
前記目標総合トルク算出部は、前記内燃機関のトルクおよび前記モータジェネレータのトルクからなる総合トルクと、前記回転情報と、前記設定スロットル開度との関係を示す複数の総合トルクマップから、ドライブモードおよび/またはギヤポジションに基づいて総合トルクマップを選択し、前記設定スロットル開度および前記回転情報を用いて前記選択された総合トルクマップを検索することにより、前記目標総合トルクを算出することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
前記目標エンジントルク算出部は、前記内燃機関のトルクと、前記回転情報と、前記仮想スロットル開度との関係を示す複数のエンジントルクマップから、前記仮想スロットル開度の変化率に基づいてエンジントルクマップを選択し、前記仮想スロットル開度および前記回転情報を用いて前記選択されたエンジントルクマップを検索することにより、前記目標エンジントルクを算出することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項9】
前記目標モータトルクに基づいて、前記モータジェネレータを駆動する電力変換回路を制御するための制御信号を生成するモータ制御信号生成部と、
前記目標エンジントルクに基づいて、点火タイミングおよび燃料噴射量を制御するための制御信号を生成するエンジン制御信号生成部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項10】
前記モータジェネレータは、前記ハイブリッド車両が発車する際に前記内燃機関を回転始動させる始動モータとして機能することを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項11】
前記ハイブリッド車両はハイブリッド二輪車であることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項12】
吸気経路に電子式スロットルバルブが配設された内燃機関と、前記内燃機関に機械的に接続され、前記内燃機関の回転を受けて発電可能であるとともに前記内燃機関にトルクを付与可能なモータジェネレータとを有するハイブリッド車両のトルクを制御する制御方法であって、
目標総合トルク算出部が、運転者により設定された設定スロットル開度および前記モータジェネレータの回転情報に基づいて、目標総合トルクを算出し、
仮想スロットル開度算出部が、前記設定スロットル開度および前記回転情報に基づいて、前記電子式スロットルバルブの仮想スロットル開度を算出し、
目標エンジントルク算出部が、前記仮想スロットル開度および前記回転情報に基づいて、目標エンジントルクを算出し、
目標モータトルク算出部が、前記目標総合トルクから前記目標エンジントルクを差し引くことにより、目標モータトルクを算出し、
前記仮想スロットル開度算出部は、前記仮想スロットル開度と、前記回転情報と、前記設定スロットル開度との関係を示す複数の仮想スロットル開度マップから、ドライブモード、前記設定スロットル開度および前記回転情報の少なくともいずれか一つ以上に基づいて、仮想スロットル開度マップを選択し、前記設定スロットル開度および前記回転情報を用いて前記選択された仮想スロットル開度マップを検索することにより、前記仮想スロットル開度を算出することを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関(エンジン)と電動機(モータ)を動力源とするハイブリッド車両が知られている。このハイブリッド車両では、モータがモータジェネレータとして構成されているものがある。モータジェネレータは、内燃機関にトルクを付与して内燃機関をアシストすることが可能であるとともに、内燃機関による走行中に発電を行うことも可能である。
【0003】
また、従来、二輪車等の車両では、内燃機関のクランク軸に接続され、当該内燃機関の回転を受けて発電する交流発電機(Alternating Current Generator:ACG)が設けられている。交流発電機で発電された交流電力は、レギュレートレクチファイヤ(REG/RECT)によってバッテリに応じた直流電力に変換された後、バッテリに供給される。
【0004】
特許文献1には、ハイブリッド電気自動車の制御装置が記載されている。この制御装置では、アクセルペダルが急激に踏み込まれて要求トルクが急増した場合に、電動機のトルクを利用することにより、内燃機関のトルクの増加を要求トルクの急増よりも緩やかにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−063089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハイブリッド車両において、上記の交流発電機を、発電機として機能するだけでなく、内燃機関にトルクを付与可能な電動機としても機能することが可能なモータジェネレータとして構成し、このモータジェネレータにより内燃機関のアシストを行うことが考えられる。この場合、加速時だけでなく、巡航速度で走行している間や減速時などを含む広範な走行状況下において所要のトルクが得られるように、内燃機関およびモータジェネレータのトルクをそれぞれ適切かつ高精度に算出する必要がある。
【0007】
また、ハイブリッド二輪車等のハイブリッド車両では、従来の機械的スロットル機構に代えて、電子制御によりスロットルバルブの開度を調整する電子式スロットルバルブ機構を用いることが増えてきている。このような電子式スロットルバルブ機構を有するハイブリッド車両において、所要のトルクを内燃機関のトルク(エンジントルク)と電動機のトルク(モータトルク)に適切かつ高精度に分配することも必要である。
【0008】
そこで、本発明は、電子式スロットルバルブ機構を有するハイブリッド車両において、モータジェネレータが内燃機関をアシストする際に、内燃機関のトルクとモータジェネレータのトルクを適切かつ高精度に算出することができるハイブリッド車両の制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る制御装置は、
吸気経路に電子式スロットルバルブが配設された内燃機関と、前記内燃機関に機械的に接続され、前記内燃機関の回転を受けて発電可能であるとともに前記内燃機関にトルクを付与可能なモータジェネレータとを有するハイブリッド車両のトルクを制御する制御装置であって、
運転者により設定された設定スロットル開度および前記モータジェネレータの回転情報に基づいて、目標総合トルクを算出する目標総合トルク算出部と、
前記設定スロットル開度および前記回転情報に基づいて、前記電子式スロットルバルブの仮想スロットル開度を算出する仮想スロットル開度算出部と、
前記仮想スロットル開度および前記回転情報に基づいて、目標エンジントルクを算出する目標エンジントルク算出部と、
前記目標総合トルクから前記目標エンジントルクを差し引くことにより、目標モータトルクを算出する目標モータトルク算出部と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記制御装置において、
前記仮想スロットル開度算出部は、前記モータジェネレータによる前記内燃機関のアシストの可否を判定し、前記アシストが可能である場合に、前記仮想スロットル開度を算出するようにしてもよい。
【0011】
また、前記制御装置において、
前記仮想スロットル開度算出部は、前記設定スロットル開度よりも小さいスロットル開度を前記仮想スロットル開度として算出するようにしてもよい。
【0012】
また、前記制御装置において、
前記ハイブリッド車両は、前記モータジェネレータにより発電された電力を蓄電可能であるとともに前記モータジェネレータに電力を供給可能なバッテリを有するバッテリ装置をさらに備え、
前記仮想スロットル開度算出部は、前記バッテリに関するバッテリ情報および前記モータジェネレータのステータス情報に基づいて前記アシストの可否を判定するようにしてもよい。
【0013】
また、前記制御装置において、
前記仮想スロットル開度算出部は、前記バッテリの電圧または充電率が閾値以上であり、かつ前記モータジェネレータに異常が無い場合に、前記アシストが可能であると判定するようにしてもよい。
【0014】
また、前記制御装置において、
前記仮想スロットル開度算出部は、前記バッテリの電圧が低くなるにつれて、前記仮想スロットル開度が前記設定スロットル開度よりも大きくなるように前記仮想スロットル開度を算出するようにしてもよい。
【0015】
また、前記制御装置において、
前記目標総合トルク算出部は、前記内燃機関のトルクおよび前記モータジェネレータのトルクからなる総合トルクと、前記回転情報と、前記設定スロットル開度との関係を示す複数の総合トルクマップから、ドライブモードおよび/またはギヤポジションに基づいて総合トルクマップを選択し、前記設定スロットル開度および前記回転情報を用いて前記選択された総合トルクマップを検索することにより、前記目標総合トルクを算出するようにしてもよい。
【0016】
また、前記制御装置において、
前記仮想スロットル開度算出部は、前記仮想スロットル開度と、前記回転情報と、前記設定スロットル開度との関係を示す複数の仮想スロットル開度マップから、ドライブモード、前記設定スロットル開度および前記回転情報の少なくともいずれか一つ以上に基づいて、仮想スロットル開度マップを選択し、前記設定スロットル開度および前記回転情報を用いて前記選択された仮想スロットル開度マップを検索することにより、前記仮想スロットル開度を算出するようにしてもよい。
【0017】
また、前記制御装置において、
前記目標エンジントルク算出部は、前記内燃機関のトルクと、前記回転情報と、前記仮想スロットル開度との関係を示す複数のエンジントルクマップから、前記仮想スロットル開度の変化率に基づいてエンジントルクマップを選択し、前記仮想スロットル開度および前記回転情報を用いて前記選択されたエンジントルクマップを検索することにより、前記目標エンジントルクを算出するようにしてもよい。
【0018】
また、前記制御装置において、
前記目標モータトルクに基づいて、前記モータジェネレータを駆動する電力変換回路を制御するための制御信号を生成するモータ制御信号生成部と、
前記目標エンジントルクに基づいて、点火タイミングおよび燃料噴射量を制御するための制御信号を生成するエンジン制御信号生成部と、
をさらに備えてもよい。
【0019】
また、前記制御装置において、
前記モータジェネレータは、前記ハイブリッド車両が発車する際に前記内燃機関を回転始動させる始動モータとして機能するようにしてもよい。
【0020】
また、前記制御装置において、
前記ハイブリッド車両はハイブリッド二輪車であってもよい。
【0021】
本発明に係る制御方法は、
吸気経路に電子式スロットルバルブが配設された内燃機関と、前記内燃機関に機械的に接続され、前記内燃機関の回転を受けて発電可能であるとともに前記内燃機関にトルクを付与可能なモータジェネレータとを有するハイブリッド車両のトルクを制御する制御方法であって、
目標総合トルク算出部が、運転者により設定された設定スロットル開度および前記モータジェネレータの回転情報に基づいて、目標総合トルクを算出し、
仮想スロットル開度算出部が、前記設定スロットル開度および前記回転情報に基づいて、前記電子式スロットルバルブの仮想スロットル開度を算出し、
目標エンジントルク算出部が、前記仮想スロットル開度および前記回転情報に基づいて、目標エンジントルクを算出し、
目標モータトルク算出部が、前記目標総合トルクから前記目標エンジントルクを差し引くことにより、目標モータトルクを算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、運転者により設定された設定スロットル開度および回転情報に基づいて目標総合トルクを算出する。そして、設定スロットル開度および回転情報に基づいて電子式スロットルバルブの仮想スロットル開度を算出し、算出された仮想スロットル開度に基づいて目標エンジントルクを算出する。このように仮想スロットル開度に基づいて目標エンジントルクを算出するため、目標エンジントルクを適切かつ高精度に算出することができる。また、目標総合トルクから目標エンジントルクを差し引くことにより目標モータトルクを算出するため、目標モータトルクを適切かつ高精度に算出することができる。
【0023】
よって、本発明によれば、電子式スロットルバルブ機構を有するハイブリッド車両において、モータジェネレータが内燃機関をアシストする際に、内燃機関のトルクとモータジェネレータのトルクを適切かつ高精度に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態に係るハイブリッド車両30の概略的な構成を示す図である。
【
図2】ハイブリッド車両30の電力変換回路5の概略的な構成を示す図である。
【
図3】実施形態に係る制御装置1の概略的な構成を示す図である。
【
図4】実施形態に係る総合トルクマップのイメージ図である。
【
図5】実施形態に係る仮想スロットル開度マップのイメージ図である。
【
図6】実施形態に係るエンジントルクマップのイメージ図である。
【
図7】実施形態に係る制御方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態に係るについて説明する。
【0026】
まず、
図1を参照して、実施形態に係るハイブリッド車両30の概略的な構成について説明する。
【0027】
ハイブリッド車両30は、内燃機関と電動機の2つの動力源を有するハイブリッド型の二輪車(ハイブリッド二輪車)である。ハイブリッド車両30は、電子式スロットルバルブ機構を有する。なお、ハイブリッド車両30は、二輪車に限らず、ハイブリッド型の他の車両(四輪車等)であってもよい。
【0028】
ハイブリッド車両30は、
図1に示すように、制御装置1と、内燃機関(エンジン)2と、モータジェネレータ(Motor Generator:MG)3と、点火装置4と、電力変換回路5と、バッテリ装置6と、記憶装置7と、クラッチ8と、車輪9とを備えている。
図1の車輪9は、ハイブリッド二輪車の後輪を示している。
【0029】
制御装置1は、詳細は後述するが、ハイブリッド車両30のトルク(エンジントルクおよびモータトルク)を制御するように構成されている。なお、制御装置1は、ハイブリッド車両30全体を統御するECU(Electronic Control Unit)として構成されてもよい。
【0030】
内燃機関2は、燃料ガス(混合気)が燃焼したときの圧力を利用して、クラッチ8を介して車輪9に回転駆動力を出力する。内燃機関2は、吸気経路に電子式スロットルバルブ(図示せず)が配設されている。より詳しくは、運転者(ライダー)のアクセル(グリップ)操作により設定されたスロットル開度(以下、「設定スロットル開度」という。)をアクセルポジションセンサが読み取り、電気信号として制御装置1に送信する。その後、制御装置1は、受信した設定スロットル開度に基づいてスロットル開度を計算し、スロットル開度の調整手段(スロットルモータ等)に指令を送信する。
【0031】
なお、内燃機関2の種類は特に限定されず、例えば4ストロークエンジンでも、2ストロークエンジンでもよい。
【0032】
モータジェネレータ3は、
図1に示すように、内燃機関2に機械的に接続されている。本実施形態では、モータジェネレータ3は、交流発電機(ACG)をベースとしたものであり、内燃機関2のクランク軸にクラッチを介さずに常時接続されている。このモータジェネレータ3は、内燃機関2の回転を受けて発電可能であるとともに、内燃機関2にトルクを付与可能に構成されている。すなわち、モータジェネレータ3は、内燃機関2により回転駆動されているときは発電を行い、三相交流電力を電力変換回路5に出力する。そして、電力変換回路5は、三相交流電力を直流電力に変換し、バッテリ装置6の有するバッテリB(直流電源)を充電する。一方、内燃機関2にトルクを付与するときは、モータジェネレータ3は、電力変換回路5から出力される三相交流電力により回転し、内燃機関2をアシストする。
【0033】
なお、モータジェネレータ3は、ハイブリッド車両30が発車する際に内燃機関2を回転始動させる始動モータ(セルモータ)として機能してもよい。
【0034】
点火装置4は、制御装置1から制御信号を受信し、内燃機関2のシリンダー内で圧縮された混合気に適切なタイミングで着火する。なお、点火装置4の種別は特に限定されず、CDI(Capacitive Discharge Ignition)式でもよいし、フルトランジスタ式でもよい。
【0035】
電力変換回路5は、モータジェネレータ3が内燃機関2をアシストする際には、バッテリ装置6のバッテリBから出力される直流電力を三相の交流電力に変換してモータジェネレータ3に供給し、モータジェネレータ3を駆動する。一方、モータジェネレータ3が発電する際には、電力変換回路5は、モータジェネレータ3から供給される三相交流電力を直流電力に変換してバッテリ装置6のバッテリBに出力する。
【0036】
図2に示すように、電力変換回路5は三相フルブリッジ回路から構成される。半導体スイッチQ1,Q3,Q5はハイサイドスイッチであり、半導体スイッチQ2,Q4,Q6はローサイドスイッチである。半導体スイッチQ1〜Q6の制御端子は、制御装置1に電気的に接続されている。なお、半導体スイッチQ1〜Q6は、例えばMOSFETまたはIGBT等である。電源端子5aと電源端子5bとの間には平滑コンデンサCが設けられている。
【0037】
半導体スイッチQ1は、バッテリBの正極が接続された電源端子5aと、モータジェネレータ3の入力端子3aとの間に接続されている。同様に、半導体スイッチQ3は、バッテリBの正極が接続された電源端子5aと、モータジェネレータ3の入力端子3bとの間に接続されている。半導体スイッチQ5は、バッテリBの正極が接続された電源端子5aと、モータジェネレータ3の入力端子3cとの間に接続されている。
【0038】
半導体スイッチQ2は、バッテリBの負極が接続された電源端子5bと、モータジェネレータ3の入力端子3aとの間に接続されている。同様に、半導体スイッチQ4は、バッテリBの負極が接続された電源端子5bと、モータジェネレータ3の入力端子3bとの間に接続されている。半導体スイッチQ6は、バッテリBの負極が接続された電源端子5bと、モータジェネレータ3の入力端子3cとの間に接続されている。なお、入力端子3aはU相の入力端子であり、入力端子3bはV相の入力端子であり、入力端子3cはW相の入力端子である。
【0039】
バッテリ装置6は、充放電可能なバッテリBと、このバッテリBを管理するバッテリ管理ユニット(Battery Management Unit:BMU)とを含む。バッテリBは、モータジェネレータ3により発電された電力を蓄電可能であるとともに、モータジェネレータ3に電力を供給可能である。バッテリBの種類は特に限定されず、例えばリチウムイオン電池である。バッテリ管理ユニットは、バッテリBの電圧やバッテリBの状態に関する情報(バッテリ情報)を制御装置1に送信する。
【0040】
記憶装置7は、制御装置1により用いられる情報(動作プログラムや後述の三次元マップ等)を記憶する。この記憶装置7は、例えば不揮発性の半導体メモリから構成される。
【0041】
記憶装置7には、総合トルクマップ、仮想スロットル開度マップおよびエンジントルクマップが記憶されている。ここで、「総合トルクマップ」は、
図4に示すように、総合トルクと、回転速度と、設定スロットル開度との関係を示す三次元マップである。「仮想スロットル開度マップ」は、
図5に示すように、仮想スロットル開度と、回転速度と、設定スロットル開度との関係を示す三次元マップである。「エンジントルクマップ」は、
図6に示すように、内燃機関2のトルク(エンジントルク)と、回転速度と、仮想スロットル開度との関係を示す三次元マップである。なお、各三次元マップにおいて回転速度は回転数でもよい。
【0042】
記憶装置7には、上記3種類の三次元マップについて、それぞれ複数のマップが記憶されている。すなわち、総合トルクマップは、ドライブモードおよびギヤポジションのうち少なくともいずれか一つ以上をパラメータとして作成された複数のマップが記憶されている。仮想スロットル開度マップは、ドライブモード、設定スロットル開度および回転情報のうち少なくともいずれか一つ以上をパラメータとして作成された複数のマップが記憶されている。エンジントルクマップは、仮想スロットル開度の変化率をパラメータとして作成された複数のマップが記憶されている。
【0043】
次に、
図3を参照して、本実施形態に係る制御装置1について詳しく説明する。
【0044】
制御装置1は、
図3に示すように、目標総合トルク算出部11と、仮想スロットル開度算出部12と、目標エンジントルク算出部13と、目標モータトルク算出部14と、モータ制御信号生成部15と、エンジン制御信号生成部16と、を備えている。以下、各構成要素について説明する。
【0045】
目標総合トルク算出部11は、総合トルクの目標値を算出する。ここで、「総合トルク」とは、内燃機関2のトルクおよびモータジェネレータ3のトルクからなるトルクである。例えば、総合トルクは、内燃機関2のトルクにモータジェネレータ3のトルクを加えることにより得られるトルクである。
【0046】
目標総合トルク算出部11には、端子21,22,23,24を介して各種情報が入力される。端子21には、ギヤポジションを示す情報が入力される。端子22には、回転情報が入力される。本願において、「回転情報」は、モータジェネレータ3の回転速度または回転数(rpm)を示す情報である。なお、本実施形態ではモータジェネレータ3と内燃機関2は常時機械的に接続されているため、モータジェネレータ3の回転速度(回転数)は内燃機関2の回転速度(回転数)に等しい。
【0047】
端子23には、ドライブモードを示す情報が入力される。なお、ドライブモードは、運転者により設定されるモードであり、例えば、燃費重視のエコドライブモードや加速重視のスポーツモード等がある。端子24には、アクセルポジションセンサにより読み取られた設定スロットル開度を示す情報が入力される。
【0048】
目標総合トルク算出部11は、設定スロットル開度、およびモータジェネレータ3の回転情報に基づいて、目標総合トルクを算出する。より詳しくは、目標総合トルク算出部11は、まず、記憶装置7に記憶された複数の総合トルクマップから、ドライブモードおよび/またはギヤポジションに基づいて一つの総合トルクマップを選択する。総合トルクマップを選択した後、目標総合トルク算出部11は、設定スロットル開度および回転情報を用いて、選択された総合トルクマップを検索することにより、目標総合トルクを算出する。
【0049】
仮想スロットル開度算出部12には、
図3に示すように、端子22〜26を介して各種情報が入力される。端子22、23および24には前述の通り、回転情報、ドライブモードおよび設定スロットル開度がそれぞれ入力される。端子25には、バッテリ装置6のバッテリBに関するバッテリ情報が入力される。端子26には、モータジェネレータ3のステータス情報が入力される。ステータス情報は、故障の有無等、モータジェネレータ3の状態を示す情報である。
【0050】
仮想スロットル開度算出部12は、設定スロットル開度および回転情報に基づいて、電子式スロットルバルブの仮想スロットル開度を算出する。より詳しくは、仮想スロットル開度算出部12は、まず、記憶装置7に記憶された複数の仮想スロットル開度マップから、ドライブモード、設定スロットル開度および回転情報の少なくともいずれか一つ以上に基づいて、一つの仮想スロットル開度マップを選択する。仮想スロットル開度マップを選択した後、仮想スロットル開度算出部12は、設定スロットル開度および回転情報を用いて、選択された仮想スロットル開度マップを検索することにより、仮想スロットル開度を算出する。
【0051】
目標エンジントルク算出部13には、仮想スロットル開度算出部12から、算出された仮想スロットル開度が入力される。また、目標エンジントルク算出部13には、端子22を介して回転情報が入力される。
【0052】
目標エンジントルク算出部13は、仮想スロットル開度および回転情報に基づいて、目標エンジントルクを算出する。より詳しくは、目標エンジントルク算出部13は、まず、記憶装置7に記憶された複数のエンジントルクマップから、仮想スロットル開度の変化率に基づいてエンジントルクマップを選択する。エンジントルクマップを選択した後、目標エンジントルク算出部13は、仮想スロットル開度および回転情報を用いて、選択されたエンジントルクマップを検索することにより、目標エンジントルクを算出する。
【0053】
目標モータトルク算出部14には、目標総合トルクおよび目標エンジントルクが入力される。目標モータトルク算出部14は、目標総合トルクから目標エンジントルクを差し引くことにより、目標モータトルクを算出する。
【0054】
モータ制御信号生成部15には、目標モータトルク算出部14により算出された目標モータトルクが入力される。モータ制御信号生成部15は、目標モータトルクに基づいて、電力変換回路5を制御するための制御信号を生成する。より具体的には、モータ制御信号生成部15は、目標モータトルクに基づいて制御信号(PWM信号)の通電タイミングおよびデューティ比を算出し、端子28を介して電力変換回路5の半導体スイッチQ1〜Q6にPWM信号を出力する。端子28は、
図3では一つのみ示しているが実際には、半導体スイッチQ1〜Q6の個数に合わせて6個の端子を有する。なお、通電タイミングは、モータ電気角に対するPWM信号の位相の進み(進角)または遅れ(遅角)のことであり、モータジェネレータ3がアシスト動作する際には進角となり、発電動作する際には遅角となる。
【0055】
エンジン制御信号生成部16には、目標エンジントルク算出部13により算出された目標エンジントルクが入力される。エンジン制御信号生成部16は、点火タイミングおよび燃料噴射量を制御するための制御信号を生成する。より具体的には、エンジン制御信号生成部16は、目標エンジントルクに基づいて、内燃機関2内の混合気を点火する点火装置4の制御信号、および燃料噴射量の制御手段の制御信号を生成する。
【0056】
上記のように、本実施形態に係る制御装置1では、運転者により設定された設定スロットル開度および回転情報に基づいて目標総合トルクを算出する。そして、設定スロットル開度および回転情報に基づいて電子式スロットルバルブの仮想スロットル開度を算出し、算出された仮想スロットル開度に基づいて目標エンジントルクを算出する。このように仮想スロットル開度に基づいて目標エンジントルクを算出するため、目標エンジントルクを適切かつ高精度に算出することができる。また、目標総合トルクから目標エンジントルクを差し引くことにより目標モータトルクを算出するため、目標モータトルクを適切かつ高精度に算出することができる。
【0057】
よって、本実施形態によれば、電子式スロットルバルブ機構を有するハイブリッド車両30において、モータジェネレータ3が内燃機関2をアシストする際に、内燃機関2のトルクとモータジェネレータ3のトルクとを適切かつ高精度に算出することができる。
【0058】
本実施形態によれば、設定スロットル開度および回転速度に基づく総合トルクを、内燃機関2のトルクとモータジェネレータ3のトルクに適切かつ高精度に分配することが可能となるため、加速時だけでなく巡航速度で走行している間や減速時などを含む広範な走行状況下において所要のトルクが得られる。その結果、例えば、広範な走行状況下において内燃機関2の燃費を改善できるという効果が得られる。
【0059】
なお、仮想スロットル開度算出部12は、モータジェネレータ3による内燃機関2のアシストの可否を判定し、アシストが可能である場合に、仮想スロットル開度を算出するようにしてもよい。アシスト可否の判定について、仮想スロットル開度算出部12は、例えば、バッテリ装置6のバッテリBに関するバッテリ情報およびモータジェネレータ3のステータス情報に基づいてアシストの可否を判定する。より詳しくは、仮想スロットル開度算出部12は、バッテリBの電圧または充電率(State Of Charge:SOC)が閾値以上であり、かつモータジェネレータ3に異常が無い場合に、モータジェネレータ3によるアシストが可能であると判定する。
【0060】
次に、
図7のフローチャートを参照して、本実施形態に係るハイブリッド車両30の制御方法について説明する。
【0061】
まず、目標総合トルク算出部11が、運転者により設定された設定スロットル開度およびモータジェネレータ3の回転情報に基づいて目標総合トルクを算出する(ステップS1)。より詳しくは、前述のように、記憶装置7に記憶された複数の総合トルクマップから一つの総合トルクマップを選択し、選択した総合トルクマップを設定スロットル開度および回転情報を用いて検索することにより目標総合トルクを算出する。
【0062】
次に、仮想スロットル開度算出部12が、モータジェネレータ3による内燃機関2のアシストの可否を判定する(ステップS2)。より詳しくは、仮想スロットル開度算出部12は、バッテリBに関するバッテリ情報およびモータジェネレータ3のステータス情報に基づいてアシストの可否を判定する。例えば、仮想スロットル開度算出部12は、バッテリBの電圧または充電率が閾値以上であり、かつモータジェネレータ3に異常が無い場合にアシストが可能であると判定する。
【0063】
モータジェネレータ3による内燃機関2のアシストが可能である場合(S2;Yes)、仮想スロットル開度算出部12が、設定スロットル開度および回転情報に基づいて、電子式スロットルバルブの仮想スロットル開度を算出する(ステップS3)。より詳しくは、前述のように、記憶装置7に記憶された複数の仮想スロットル開度マップから一つの仮想スロットル開度マップを選択し、選択した仮想スロットル開度マップを設定スロットル開度および回転情報を用いて検索することにより仮想スロットル開度を算出する。
【0064】
次に、目標エンジントルク算出部13が、仮想スロットル開度および回転情報に基づいて目標エンジントルクを算出する(ステップS4)。より詳しくは、前述のように、記憶装置7に記憶された複数のエンジントルクマップからエンジントルクマップを選択し、選択したエンジントルクマップを仮想スロットル開度および回転情報を用いて検索することにより目標エンジントルクを算出する。
【0065】
次に、目標モータトルク算出部14が、目標総合トルクから目標エンジントルクを差し引くことにより目標モータトルクを算出する(ステップS5)。
【0066】
上記のように、本実施形態に係る制御方法では、設定スロットル開度および回転情報に基づいて目標総合トルクを算出し、設定スロットル開度および回転情報に基づいて仮想スロットル開度を算出し、算出された仮想スロットル開度および回転情報に基づいて目標エンジントルクを算出し、目標総合トルクから目標エンジントルクを差し引くことにより目標モータトルクを算出する。これにより、電子式スロットルバルブ機構を有するハイブリッド車両30において、モータジェネレータ3が内燃機関2をアシストする際に、内燃機関2のトルクとモータジェネレータ3のトルクを適切かつ高精度に算出することができる。
【0067】
なお、ステップS3において仮想スロットル開度を算出する際、仮想スロットル開度算出部12は、設定スロットル開度よりも小さいスロットル開度を仮想スロットル開度として算出してもよい。すなわち、スロットル開度を運転者が設定した値よりも小さく見積もる。これにより、ステップS4で算出される目標エンジントルクが減少するため、目標総合トルクに占める目標モータトルクの割合が増える。その結果、目標エンジントルクが減少し、内燃機関2の燃費を改善することができる。
【0068】
また、ステップS3において仮想スロットル開度を算出する際、仮想スロットル開度算出部12は、バッテリBの電圧が低くなるにつれて、仮想スロットル開度が設定スロットル開度よりも大きくなるように仮想スロットル開度を算出してもよい。これにより、モータジェネレータ3によるアシストの余裕に応じて、総合トルクをエンジントルクとモータトルクに適切に分配することができる。
【0069】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではない。異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 制御装置
2 内燃機関(エンジン)
3 モータジェネレータ
3a,3b,3c 入力端子
4 点火装置
5 電力変換回路
5a,5b 電源端子
6 バッテリ装置
7 記憶装置
8 クラッチ
9 車輪
11 目標総合トルク算出部
12 仮想スロットル開度算出部
13 目標エンジントルク算出部
14 目標モータトルク算出部
15 モータ制御信号生成部
16 エンジン制御信号生成部
21〜29 端子
30 ハイブリッド車両
B バッテリ
C 平滑コンデンサ
Q1〜Q6 半導体スイッチ