(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367502
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】不定形耐火物の施工方法
(51)【国際特許分類】
F27D 1/16 20060101AFI20180723BHJP
C21C 1/06 20060101ALI20180723BHJP
B22D 41/02 20060101ALI20180723BHJP
F27D 1/00 20060101ALN20180723BHJP
【FI】
F27D1/16 R
C21C1/06
B22D41/02 D
!F27D1/00 N
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-568461(P2017-568461)
(86)(22)【出願日】2017年4月27日
(86)【国際出願番号】JP2017016781
(87)【国際公開番号】WO2017188391
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2017年12月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-89616(P2016-89616)
(32)【優先日】2016年4月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 泰次郎
(72)【発明者】
【氏名】竹本 寛直
(72)【発明者】
【氏名】木下 俊之
(72)【発明者】
【氏名】久我 浩司
(72)【発明者】
【氏名】三谷 敦祐
【審査官】
静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−285471(JP,A)
【文献】
特開2013−231592(JP,A)
【文献】
実開昭58−009274(JP,U)
【文献】
特開平11−063850(JP,A)
【文献】
特開平11−310815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 1/00−1/18
C04B 35/66、40/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性耐火バインダーを含む不定形耐火物を混練し、型枠に流し込み、養生、脱枠、乾燥、そして加熱昇温する一連の処理工程からなる不定形耐火物の施工方法において、
前記養生は、過熱水蒸気を吹き込み、不定形耐火物の最高温度を100℃未満とすることを特徴とする不定形耐火物の施工方法。
【請求項2】
前記養生は、不定形耐火物の最高温度を40℃以上75℃以下とし、養生時間を3時間以上20時間未満とする請求項1に記載の不定形耐火物の施工方法。
【請求項3】
前記乾燥は、過熱水蒸気を吹き込み、不定形耐火物の最高温度を110℃以上とする請求項1又は2に記載の不定形耐火物の施工方法。
【請求項4】
前記不定形耐火物は硬化促進剤を含まない請求項1から3のいずれかに記載の不定形耐火物の施工方法。
【請求項5】
外気温10℃以下で実施される請求項1から4のいずれかに記載の不定形耐火物の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性耐火バインダーを含む不定形耐火物を混練し、型枠に流し込み、養生、脱枠、乾燥、そして加熱昇温する一連の処理工程からなる不定形耐火物の施工方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水硬性耐火バインダーを含む不定形耐火物の施工においては、特に冬季の場合、水硬性耐火バインダーの硬化反応が遅れるため、脱枠のタイミングが遅延して生産効率が低下するという問題があった。また、硬化反応が十分ではないために養生強度が低く脱枠時に施工体を損傷させたり、内部欠陥を招くために乾燥時に爆裂が発生したりする問題もあった。
【0003】
そこで、特許文献1や特許文献2では、リチウム化合物、アルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ金属炭酸塩、水酸化物、酸化マグネシウム、硼砂などの硬化促進剤を添加し、硬化タイミングを調整する方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献3では、流し込み施工終了後の施工体を炉本体のもつ残熱や灯油や電気を熱源とする温風発生器などを使用し35℃以上60℃以下の温度域に12時間以上保持して温風養生することが提案されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、水蒸気飽和雰囲気中で35〜80℃の温度に24時間以上保持する養生処理が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−128572号公報
【特許文献2】特開2007−22821号公報
【特許文献3】特開平11−63850号公報
【特許文献4】特開2013−231592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に提案されている硬化促進剤の添加による方法では、冬季の非常に温度が低下し凍結等が発生する際にはやはり硬化遅延が発生したり、水硬性耐火バインダーの水和反応が十分でなく強度低下や品質バラツキを招いたりする問題があった。さらに硬化促進剤の添加は、不定形耐火物の微粉部の融点低下による耐用性低下を招くことから、満足な解決策には至っていない。
【0008】
特許文献3に提案されている炉本体のもつ残熱や灯油や電気を熱源とする温風発生器などを使用する方法では、施工量が多い場合、炉本体のもつ残熱では温度制御が事実上不可能であると同時に、実際の施工では、旧材の解体、パーマ煉瓦の施工、枠セットなどの工程を経た後の流し込みになるため、残熱は期待できない。
【0009】
特許文献4に提案されている養生処理では、これを実際に24時間以上行うと、微亀裂の発生、乾燥後の強度低下及びエネルギーコストの増大を招き有効な養生強度が得られない。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、不定形耐火物の早期安定硬化と養生強度の向上を図ることができる不定形耐火物の施工技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一観点によれば、水硬性耐火バインダーを含む不定形耐火物を混練し、型枠に流し込み、養生、脱枠、乾燥、そして加熱昇温する一連の処理工程からなる不定形耐火物の施工方法において、前記養生は、過熱水蒸気を吹き込み、不定形耐火物の最高温度を100℃未満とすることを特徴とする不定形耐火物の施工方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の施工方法において養生は、過熱水蒸気を吹き込み、不定形耐火物の最高温度を100℃未満として行うので、過熱水蒸気の凝縮潜熱を養生の主な熱源として有効利用することができる。また、養生中の不定形耐火物の最高温度を100℃未満とするため、不定形耐火物中の水分が養生中に突沸して養生に悪影響を及ぼすことがなく、不定形耐火物中の水硬性耐火バインダー等の成分が養生中に変質することもない。よって、不定形耐火物の早期安定硬化と養生強度の向上を図ることができるとともに品質のバラツキも低減することができる。また、本発明の施工方法により施工することで、内部欠陥の少ない高品質の不定形耐火物の施工体(製品)を安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の施工方法を溶湯用容器のライニング施工に適用するときの養生の実施形態を示す。
【
図2】本発明の施工方法を混銑車受銑口用不定形耐火物の施工に適用するときの養生の実施形態を示す。
【
図3】本発明の施工方法を不定形耐火物ブロックのバッチ式施工に適用するときの養生の実施形態を示す。
【
図4】本発明の施工方法を不定形耐火物ブロックの連続式施工に適用するときの養生の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、水硬性耐火バインダーを含む不定形耐火物を使用する。水硬性耐火バインダーとしては、アルミナセメント、水硬性アルミナ、ストロンチウムセメント、リン酸塩、及び珪酸塩のうちの一種又は二種以上が挙げられる。なお、微粉部の融点低下による耐用低下の観点からは、不定形耐火物に硬化調整剤を含まないのが好ましいが、微量(例えば耐火原料に対して外掛けで0.1質量%以下)であれば含んでもよい。硬化促進剤としては、リチウム化合物、アルカリ金属アルミン酸塩、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ金属炭酸塩、及び水酸化物のうちの一種又は二種以上が挙げられる。
【0016】
本発明の施工方法では、この不定形耐火物を水とともに混練し、型枠に流し込み、養生、脱枠、乾燥、そして加熱昇温する一連の処理工程により不定形耐火物の施工体(製品)を得る。この一連の処理工程自体は周知であるが、本発明では、養生を、過熱水蒸気を吹き込み、不定形耐火物の最高温度を100℃未満とすることを特徴とする。
【0017】
過熱水蒸気とは100℃超に加熱した水蒸気のことをいうが、この過熱水蒸気を吹き込み、不定形耐火物の最高温度を100℃未満として養生を行うことで、過熱水蒸気の凝縮潜熱を養生の主な熱源として有効利用し、かつ、過熱水蒸気の温度と不定形耐火物の温度の差による顕熱も熱源として有効利用することができる。さらに、不定形耐火物中の水分が養生中に突沸すること、及び不定形耐火物中の水硬性バインダー等の成分が養生中に変質することを防止することができる。
【0018】
過熱水蒸気の温度は、110℃以上150℃以下であることが好ましい。すなわち、本発明において過熱水蒸気の吹き込み量は、養生中の不定形耐火物の最高温度が100℃未満となるように調整するので、過熱水蒸気の温度が高いと過熱水蒸気の吹き込み量は少なくなる。そうなると、過熱水蒸気から得られる凝縮潜熱が減少する。したがって、本発明において過熱水蒸気の温度は比較的低温、具体的には110℃以上150℃以下であることが好ましい。なお、本発明において「過熱水蒸気を吹き込み」とは、過熱水蒸気を連続的に吹き込むことのほか、過熱水蒸気を間欠的に吹き込むことも含む意味である。
【0019】
養生中の不定形耐火物の最高温度は100℃未満とするが、好ましくは40℃以上75℃以下とする。養生中の不定形耐火物の最高温度を40℃以上75℃以下とすることで、不定形耐火物中の水分が養生中に突沸すること、及び不定形耐火物中の水硬性耐火バインダー等の成分が養生中に変質することをより確実に防止することができる。養生時間は、対象とする不定形耐火物の施工体(製品)の大きさなどに応じて適宜調整すればよいが、あまり長時間になると不定形耐火物の施工体(製品)に微亀裂が発生することがあるので、3時間以上20時間未満とすることが好ましい。
【0020】
養生後は、脱枠して乾燥を行うが、この乾燥は、過熱水蒸気を吹き込み、不定形耐火物の最高温度を110℃以上として行うことが好ましい。乾燥にも過熱水蒸気を用いることで、乾燥を効率的に行うことができる。なお、乾燥の際には、不定形耐火物中の水分が少なくなっているから水分の突沸は生じない。したがって、乾燥中の不定形耐火物の最高温度は110℃以上とすることができる。乾燥中の不定形耐火物の最高温度の上限は特に限定されないが、例えば500℃以下とする。なお、前述の養生中又は乾燥中の不定形耐火物の最高温度は、不定形耐火物の表面又は内部に熱電対を設置するなどして計測される。
【0021】
以上のとおり、本発明の施工方法によれば、不定形耐火物の早期安定硬化と養生強度の向上を図ることができ、特に外気温10℃以下といった低温環境下での施工に有効性を発揮する。
【0022】
次に、本発明の施工方法による養生の実施形態を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1は、本発明の施工方法を溶湯用容器のライニング施工に適用するときの養生の実施形態を示す。溶湯用容器1の外周鉄皮1aと中子2とからなる型枠に不定形耐火物Cが流し込まれている。溶湯用容器1には養生蓋3が被せられており、この溶湯用容器内に過熱水蒸気を吹き込むための過熱水蒸気吹き込み管4が設置されている。養生中は、過熱水蒸気吹き込み管4から過熱水蒸気が吹き込まれる。このとき、不定形耐火物Cの最高温度が100℃未満の所定の温度範囲となるように過熱水蒸気の吹き込み量を調整する。なお、本実施形態において不定形耐火物Cの最高温度は、例えば、溶湯用容器1の内周側壁の中央部に位置し、養生雰囲気に面する不定形耐火物Cに設置された熱電対(不図示)により計測される。
【0024】
図2は、本発明の施工方法を混銑車受銑口用不定形耐火物の施工に適用するときの養生の実施形態を示す。混銑車6の受銑口開口部6aと中子7とからなる型枠に不定形耐火物Cが流し込まれている。養生中は、中子7に設置された過熱水蒸気吹き込み管4から過熱水蒸気が吹き込まれる。このとき、不定形耐火物Cの最高温度が100℃未満の所定の温度範囲となるように過熱水蒸気の吹き込み量を調整する。なお、本実施形態において不定形耐火物Cの最高温度は、例えば、養生雰囲気に面する不定形耐火物Cの上面中央部に設置された熱電対(不図示)により計測される。
【0025】
図3は、本発明の施工方法を不定形耐火物ブロックのバッチ式施工に適用するときの養生の実施形態を示す。型枠8に不定形耐火物が流し込まれている。養生中は、養生室9内に過熱水蒸気吹き込み管4から過熱水蒸気が吹き込まれる。このとき、不定形耐火物Cの最高温度が100℃未満の所定の温度範囲となるように過熱水蒸気の吹き込み量を調整する。なお、本実施形態において不定形耐火物Cの最高温度は、例えば、養生雰囲気に面する不定形耐火物Cの上面中央部に設置された熱電対(不図示)により計測される。また、
図3中の符号10は、過熱水蒸気の結露水を排出するための排水孔である。
【0026】
図4は本発明の施工方法を不定形耐火物ブロックの連続式施工に適用するときの養生の実施形態を示す。型枠8に不定形耐火物が流し込まれている。養生中は、この型枠8をトンネル式の連続槽の養生ゾーン内で移動させながら、養生ゾーン内に過熱水蒸気吹き込み管4から過熱水蒸気が吹き込まれる。このとき養生ゾーンでは、不定形耐火物Cの最高温度が100℃未満の所定の温度範囲となるように過熱水蒸気の吹き込み量を調整する。なお、不定形耐火物Cの最高温度は、例えば、養生雰囲気に面する不定形耐火物Cの上面中央部に設置された熱電対(不図示)により計測される。また、型枠8は養生ゾーンを通過後、乾燥ゾーンに至る。乾燥ゾーン内にも過熱水蒸気吹き込み管4から過熱水蒸気が吹き込まれている。すなわち、養生後の乾燥も過熱水蒸気を吹き込む。ただし、乾燥ゾーンでは、不定形耐火物Cの最高温度が110℃以上の所定の温度範囲となるように過熱水蒸気の吹き込み量を調整する。なお、図中に記載はしていないが、養生ゾーンと乾燥ゾーンの境及び連続槽の入口、出口には昇降可能な仕切り扉を設けている。また、
図4はトンネル式の連続槽の構成としているが、養生後脱枠のために養生ゾーンと乾燥ゾーンを切り離した槽にしても良い。さらには、生産バランス上、乾燥ゾーンにおける型枠8の移動を連続的に行うのではなく、型枠8を一時的に停滞させて移動させる方式(バッチ式)にしてもよい。
【実施例】
【0027】
表1に示す配合の不定形耐火物を適量の水とともに混練し、型枠に流し込み、表1に示す条件(加熱方法、不定形耐火物の最高温度及び養生時間)で養生を行った。なお、加熱方法には過熱水蒸気、温風、又は飽和水蒸気の温度を示している。また、養生時間は、JHS A601「土壌硬度試験法」に基づいて施工体の表面をプッシュコーンで貫入した際の、プッシュコーンの貫入値(mm)が34mm以上になるまでの時間を示している。
【0028】
【表1】
【0029】
生産性は、1日における型枠の回転率(回)により評価した。突沸の有無は養生中の不定形耐火物を目視観察することで評価した。
総合評価は、生産性が1回以上であり、かつ、突沸が無い場合を○(良)とし、生産性が1回未満又は突沸有りの場合を×(不良)とした。
【0030】
表1より、過熱水蒸気を吹き込み、不定形耐火物の最高温度が100℃未満である実施例1から5では、いずれも生産性が1回以上であり、かつ突沸が無かった。
【0031】
これに対して、温風を吹き込み、養生を行った比較例1、及び飽和水蒸気を吹き込み、養生を行った比較例2では、いずれも生産性が1回未満であった。また、不定形耐火物の最高温度が100℃以上の比較例3では、突沸が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の施工方法は、主として水硬性耐火バインダーを配合してなる不定形耐火物の養生及び乾燥の改善に有効な方法であり、特別な添加剤を用いることもないので経済的であり、鉄鋼業で用いられる溶湯用容器のライニング施工に好適に適用できるほか、他の金属溶湯用容器やガラス等の他の材料の保存容器のライニング施工や、不定形耐火物ブロックの施工(製造)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 溶湯用容器
1a 外周鉄皮
2 中子
3 養生蓋
4 過熱水蒸気吹き込み管
6 混銑車
6a 受銑口開口部
7 中子
8 型枠
9 養生室
10 排水孔