(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記支持基板に、側壁面と底壁面とを有する溝が形成されており、前記側壁面と前記底壁面とを被覆する凹部側クラッド層と、この凹部側クラッド層上に設けられた凹部側反射膜を備えており、前記凹部側クラッド層と前記側面側クラッド層とが連続しており、前記凹部側反射膜と前記側面側反射膜とが連続していることを特徴とする、請求項1記載の素子。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜
図3は、本発明の実施形態に係る蛍光体素子1を示す。
蛍光体素子1の支持基板2には突起8が複数設けられており、突起8の間に溝9が設けられている。そして、突起8上には、底面側反射膜4A、接合層3、底面側クラッド層5A、光学材料からなる光導波路6が設けられている。
【0016】
光導波路6の底面6aには底面側クラッド層5Aが設けられており、上面6bには上面側クラッド層5Bが設けられており、各側面6c、6d上にはそれぞれ側面側クラッド層5C、5Dが設けられている。更に、上面側クラッド層5B上には上面側反射膜4Bが設けられており、各側面側クラッド層5C、5D上にそれぞれ側面側反射膜4C、4Dが設けられている。上面側反射膜4Bの上には、反射膜の劣化を防ぐために、パッシベーション膜を形成していてもよい。パッシベーション膜として酸化膜を例示できる。
【0017】
本実施形態では、溝9の側壁面9aおよび底壁面9bが凹部側クラッド層5E、5Fによって被覆されており、凹部側クラッド層5E、5Fが、凹部側反射膜4E、4Fによって被覆されている。そして、凹部側クラッド層5Eと側面側クラッド層5Cとが連続しており、凹部側反射膜4Eと側面側反射膜4C、4Dとが連続している。
【0018】
本例では、
図2に示すように、光導波路の上面の幅Wは、出射側端面6fと対向端面6eとの間で一定となっている。また、
図3に示すように、光導波路の厚さTは、出射側端面6fと対向端面6eとの間で一定となっている。なお、励起光は、対向端面から入射させてもよく、出射側端面から入射させて対向端面で全反射させてもよい。
【0019】
本実施形態によれば、光導波路6内で変換された蛍光のうち、光導波路6とクラッド層5A〜5Dとの境界で反射される蛍光を出射側端面へと伝搬できるだけでなく、光導波路の全反射条件を満足できずにクラッド層内に入射する蛍光も、底面、上面および各側面に設けられた各反射膜によって反射されて光導波路内に再入射するので、出射側端面からの蛍光の出射光量を増加させことができる。
【0020】
好適な実施形態においては、支持基板に、側壁面と底壁面とを有する溝が形成されており、側壁面と底壁面とを被覆する凹部側クラッド層と、この凹部側クラッド層上に設けられた凹部側反射膜を備えており、凹部側クラッド層と側面側クラッド層とが連続しており、凹部側反射膜と側面側反射膜とが連続している。光導波路とクラッド層との界面の全反射条件を満たさない角度で入射した蛍光は、通常は反射されずにクラッド層中に放射されるが、この場合は各反射膜によって反射される。したがって、このような反射を繰り返し蛍光体を伝搬し出射端面に到達することができる。
【0021】
さらに、本実施形態の作用効果として放熱特性の改善をあげることができる。
蛍光体は励起光から蛍光に変換するときに変換損失に伴う発熱が起こり、この発熱により蛍光体自身の温度が上昇すると、変換効率の低下に至り、励起光量と蛍光量のバランスが変化して色むらの原因となる。また、反射膜に吸収されて反射膜が発熱し、これによって蛍光体の温度が上昇して同様に光特性が変化する場合がある。
【0022】
しかし、本実施形態では、蛍光体で発生した熱が、直接、底面側のクラッド層、反射膜を介して支持基板に放射される伝熱パスがあるだけでなく、上面および各側面に設けられたクラッド層、反射膜を通じて凹部側クラッド層および凹部側反射膜に向かって支持基板側に伝導し、支持基板に放射できるので、蛍光体の熱劣化に伴う変換効率低減を抑制でき、この結果、発熱による色ムラの変動を抑制できる。
【0023】
好適な実施形態においては、光導波路の上面の幅が、対向端面から出射側端面へと向かって大きくなっている。これによって、出射側端面における出射光量を一層増加させることができる。
【0024】
すなわち、
図4の蛍光体素子11においては、光導波路6Aの幅Wが、対向端面6eにおいてはWIであり、出射側端面6fにおいてはWOである。そして、幅Wは、WIからWOに向かって大きくなっている。
【0025】
なお、θ1は、光導波路の長手方向Kと側面6cとの角度であり、θ2は、光導波路の長手方向Kと側面6dとの角度である。本例では角度θ1、θ2は一定である。θ1、θ2は、一定であることが好ましいが、一定である必要はなく、出射側端面と対向端面との間で変化していてもよい。好ましくは、幅Wは、対向端面から出射側端面へと向かって連続的に、滑らかに増大している。
【0026】
図5の蛍光体素子21においては、光導波路6Bの幅Wが、対向端面6eにおいてはWIであり、出射側端面6fにおいてはWOである。そして、幅Wは、WIからWOに向かって大きくなっている。なお、光導波路の長手方向と側面6dとの角度θ2は一定であり、θ1は0°となっている。
【0027】
また、好適な実施形態においては、光導波路の厚さが、対向端面から出射側端面へと向かって大きくなっている。例えば、
図6の蛍光体素子31においては、光導波路6Cの厚さTが、対向端面6eにおいてはTIであり、出射側端面6fにおいてはTOである。そして、厚さTは、TIからTOに向かって大きくなっている。
【0028】
なお、αは、光導波路の長手方向Kと上面6bとの角度である。本例では角度αは一定である。αは、一定であることが好ましいが、一定である必要はなく、出射側端面と対向端面との間で変化していてもよい。好ましくは、厚さTは、対向端面から出射側端面へと向かって連続的に、滑らかに増大している。
【0029】
次に、光導波路の幅や厚さを変化させることによる利点について更に説明する。
【0030】
図7に示す蛍光体素子1においては、光導波路6の幅が一定である。ここで、励起光Aが光導波路内を伝搬し、蛍光体粒子12に当たると、蛍光体粒子12から蛍光が発光する。このとき、蛍光は蛍光体からあらゆる方向に向かって均一に発光する。ここで、蛍光体12から出射側端面へと放射された蛍光Fは入射角θpでクラッド層との界面に達する。
【0031】
ここで、光導波路の屈折率np、クラッド層の屈折率nc、入射角度θpが全反射条件を満足している場合には、蛍光は界面で反射され、光導波路伝搬し出射側端面6fから出射する。一方、蛍光の入射角θpが全反射条件を満足しない場合には、矢印Gのように屈折し、反射膜4C、4Dによって反射され、矢印Hのように反射する。このような反射を反復しながら伝搬する光は、光導波路伝搬でなく、一部は蛍光体内で反射膜の吸収や蛍光体の吸収によって減衰し、一部は出射側端面6fに到達する。しかし、この光は方向性がなく出射端から放射するので、光導波路伝搬する励起光とミキシングできない成分の蛍光成分もあるため、白色光の取出し効率を大きく改善することはできない。
【0032】
クラッド層を設けず、各反射膜が蛍光体に直接接触している場合には、光導波路伝搬せずに励起光と蛍光双方とも反射膜で反射を繰り返しながら伝搬するので、前述のように励起光と蛍光の一部は蛍光体内で減衰し、出射側端面6fに到達した双方の光は方向性を持たず端面から出射するので前面方向に白色光を取り出すことが難しく、取出し効率の改善が難しい。
【0033】
ここで、蛍光体12から、光導波路の長手方向に対して垂直な方向へと発生した蛍光Cは、反射膜で矢印Dのように反射され、光導波路内で反射を繰り返し最終的に減衰することになる。また、蛍光体12から対向端面側へと発生された蛍光Eは、上記と同様な反射を繰り返し、最終的に対向端面に到達することになる。このため、対向端面に、蛍光を反射する反射膜を設けることで、出射側端面側へと向かって蛍光を反射させることが好ましい。
【0034】
一方、
図8に示す蛍光体素子11においては、光導波路6の幅Wが対向端面から出射側端面へと向かって徐々に大きくなっている。ここで、励起光Aが光導波路内を伝搬し、蛍光体粒子12に当たると、蛍光体粒子12から蛍光が発光する。このとき、蛍光は蛍光体からあらゆる方向に向かって均一に発光する。ここで、蛍光体12から出射側端面へと放射された蛍光Fは入射角θpでクラッド層との界面に達する。光導波路の屈折率np、クラッド層の屈折率nc、入射角度θpが全反射条件を満足している場合には、蛍光は界面で反射し光導波路伝搬する。
【0035】
例えば光導波路の側面6dが長手方向Kに対してθ2傾斜している場合には、蛍光Fの入射角θpが、
図7の例に比べてθ2だけ大きくなり、クラッド層との界面で全反射しやすくなる。このため図
7の例で全反射条件を満足できなかった蛍光Fは、クラッド層との界面で全反射するようになり、光導波路伝搬し反射膜による吸収が起こらないので、出射光量は一層増加する。
【0036】
一方、蛍光の入射角θpが全反射条件を満足しない場合として、例えば、蛍光体12から、光導波路の長手方向Kに対して垂直な方向に発生した蛍光Cは、同様にクラッド層への入射角はθ2となるが、このときに全反射角を満足できないとする。この場合は、反射膜4Dで反射されることになるが、次に反対側側面6cのクラッド層5Cとの界面に入射する角度はさらにθ1だけ大きくなるのでこれらの反射を繰り返すうちに蛍光体とクラッド層との界面で全反射条件を満足できるようになり、ついには光導波路伝搬することになる。側面6dに直角に入射する場合においては、反射膜4Dで反射することになるが、側面6cの界面に入射する角度はθ2だけ大きくなるので、出射端面側に向かって進行し、反射膜4Cと反射膜4Dで反射を繰り返すうちに入射角θpが大きくなり、蛍光体とクラッド層との界面で全反射条件を満足できるようになり、光導波路伝搬するようになる。
【0037】
以上のことから、光導波路6の幅Wが対向端面から出射側端面へと向かって徐々に大きくなっている場合には、蛍光は出射側端面側か対向端面側のどちらかに進行し反射を繰り返し蛍光体内で減衰してしまう蛍光をなくすことが可能となる。
【0038】
蛍光体12から対向端面側へ向かう蛍光Eについては、反射膜によって反射されるごとに、角度θ2だけ出射側端面側へと方向が変わるので、多重反射を繰り返していくうちに出射側端面側に伝搬方向が変化し、最終的に光導波路伝搬し出射側端面から出射される。それでも対向端面に到達した蛍光は、対向端面に設けた蛍光反射膜によって反射し、この光も最終的に光導波路伝搬し、出射側端面から出射することができる。
【0039】
ここでは、幅を変化させた場合のみの作用効果について述べたが、厚み方向を変化させた場合も同じであり、
図6のように上面側のみ角度αだけ傾斜している場合においても、上面側に反射した蛍光は同様なメカニズムによって出射側端面から光導波路伝搬光として出射することができる。
【0040】
また、幅W、および厚みTについて、双方とも対向端面から出射側端面に向かって連続的に大きくする構造とすることによって、蛍光体内で発生する全方向の蛍光に対して、光導波路伝搬光に変換することができ出射側端面に高効率に出射することができ、同じく光導波路伝搬する励起光とミキシングして高効率に白色光を取り出すことが可能となる。
【0041】
さらに、蛍光体で発生する熱を高熱伝導の反射膜を通じて高効率に高熱伝導の支持基板に伝熱することができるので、熱劣化による変換効率低下もなく色むらの変化を著しく消失できる蛍光体素子を実現することができる。
【0042】
好適な実施形態においては、光導波路の幅が、上面から底面へと向かって変化している。例えば、
図9に示す蛍光体素子41においては、光導波路6Dの幅が、上面における幅WUから底面における幅WBに向かって徐々に大きくなっている。なお、βは、支持基板2の表面2aの法線Mに対する側面6c(6d)の傾斜角度である。
【0043】
本構造は、それのみでは蛍光の出射光量が増大する効果は期待できないが、光導波路の厚み方向に傾斜角度αだけ傾斜させた構造と組合せることによって、蛍光の出射光量を一層増大させることができる。つまり、光導波路の幅方向に伝搬する蛍光は、側面が傾斜角度β傾斜している場合、この側面、あるいはこの側面と平行な反射面で反射すると、光導波路の厚み方向に向かって伝搬するようになるので、光導波路の幅方向において角度θ1、θ2の傾斜を設けない場合でも、厚み方向の傾斜だけで光導波路伝搬するようにでき、出射光量を増大できる。
【0044】
本実施形態の作用効果について
図10を参照して述べる。
本例では、蛍光体12からあらゆる方向へと蛍光が放射されるが、このうち真横に放射された光は、側面6c(6d)によって反射される。このとき、側面6c(6d)が法線Mに対して傾斜していることから、蛍光は底面へと向かって反射され、底面で更に反射される。このように多重反射を繰り返すうちに、蛍光は、上面、底面、側面で反射されることになり、側面間で反復することはない。ここで、光導波路の幅と厚さとの少なくとも一方を前述のように出射側端面と対向端面との間で変化させていると、蛍光の出射側端面への出射が促進されることになる。このように傾斜した場合、側面で反射した蛍光は、反射した光を上・底面側に反射する光に向きを変えることができる。このことから厚みを変化した構造と組み合わせることによって、蛍光体内で発生する蛍光すべてに対して、出射側端面に光導波路伝搬光として高効率に出射することができ、同じく光導波路伝搬する励起光とミキシングして高効率に白色光を取り出すことが可能となる。
【0045】
上の例では、底面における光導波路幅を上面における光導波路幅よりも大きくしたが、底面における光導波路幅を上面における光導波路幅よりも小さくすることもできる。この観点からはどちらかの光導波路幅を零にする三角形状であってもよい。また、光導波路幅は、滑らかに変化させることが好ましいが、段階的に変化させてもよい。
【0046】
好適な実施形態においては、蛍光を反射する反射部が対向端面に設けられている。この蛍光を反射する反射部は、励起光を反射してもよく、あるいは励起光を透過してもよい。
【0047】
対向端面は、励起光を入射させるための入射面であってよい。この場合には、対向端面側には蛍光に対しては全反射し、励起光に対しては無反射となる膜が形成してあることが好ましい。あるいは、出射側端面が、前記励起光を入射させるための入射面であってよい。この場合には、対向端面側に、励起光を全反射する反射膜を設ける。
【0048】
本発明の導波路型蛍光体素子は、グレーティング(回折格子)を光導波路内に含んでいない無グレーティング型蛍光体素子であってよく、あるいはグレーティング素子であってよい。
【0049】
光導波路の厚さとは、支持基板2の表面2aに垂直な方向に見た光導波路の寸法である。また、光導波路の幅とは、支持基板2の表面2aに平行な方向に見た光導波路の寸法である。
【0050】
光導波路の幅Wは、励起光を効率よく結合し出射光量を増加させるという観点からは、20μm以上が好ましく、また50μm以上が好ましい。一方、光導波路伝搬するという観点からは、Wは、900μm以下が好ましく、500μm以下が更に好ましく、300μm以下が更に好ましい。
【0051】
出射側端面における光導波路幅WOと、対向端面における光導波路幅WIとの比率(WO/WI)は、本発明の観点からは、1.2以上が好ましく、1.5以上が更に好ましい。一方、WO/WIは10以下が好ましく、5以下が更に好ましい。
【0052】
光導波路の厚さTは、励起光を効率よく結合し出射光量を増加させるという観点からは、20μm以上が好ましく、また50μm以上が好ましい。一方、本発明の観点からは、Tを900μm以下とすることが好ましく、光導波路形成時の側面での表面粗さによる散乱の影響を小さくするという観点からは、200μm以下が好ましく、150μm以下が更に好ましい。
【0053】
出射側端面における光導波路厚さTOと、対向端面における光導波路幅TIとの比率(TO/TI)は、本発明の観点からは、1.1以上が好ましく、1.2以上が更に好ましい。一方、TO/TIは2以下が好ましく、1.9以下が更に好ましい。
【0054】
光導波路の長手方向に対する上面、側面の角度θ1、θ2、αは、出射光量を増加させるという観点からは、2°以上が好ましく、4°以上が更に好ましい。
【0055】
光導波路の長手方向に対する上面、側面の角度θ1、θ2、αは、角度が大きいと励起光と蛍光がうまくミキシングできず、光の伝搬方向に垂直な面で見たときにその中心部では白色になるが、外周部では蛍光のみが存在する照明パターンになる傾向があることがわかった。これは、前記θ1、θ2、αがある程度大きくなると、レーザー光である励起光については、蛍光体内に拡がらず伝搬するためで、これに対して蛍光は等方性に発光するので、蛍光体内に拡がることから起る現象と考えられる。この観点から、角度θ1、θ2、αは、13°以下が好ましく、10°以下が更に好ましく、5°以下が一層好ましい。
【0056】
また、支持基板の表面の法線Mに対する各側面の傾斜角度β(
図9参照)は、出射光量を増加させるという観点からは、10°以上が好ましく、15°以上が更に好ましい。一方、βは、50°以下が好ましく、35°以下が更に好ましく、30°以下が一層好ましく、25°以下が特に好ましい。
【0057】
光導波路の長さ(出射側端面と対向端面との間隔)Lは特に限定されないが、一般的には蛍光を光導波路伝搬させるまで反射を繰り返す必要があるので、200μm以上が好ましく、伝搬に伴う損失を低減するために2mm以下とすることもできる。
【0058】
支持基板と反射膜との間には、反射膜のはがれを防止するために、剥離防止層、好ましくは酸化膜を形成してもよい。このような酸化膜の材質は特に限定はされないが、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンが好ましい。しかし熱伝導率が蛍光体よりも大きい方が好ましく、このような観点から酸化アルミニウムが最も好ましい。
【0059】
反射膜の材質としては、金、アルミニウム、銅、銀、等の金属膜、またはこれらの金属成分が含まれる混晶膜、あるいは、誘電体多層膜であってよい。反射膜として金属膜を使用する場合には、クラッド層がはがれないようにするために、Cr、Ni、Ti、等の金属層を金属膜のバッファ層として形成することができる。
【0060】
クラッド層の材質は、蛍光体よりも屈折率の小さい材料であればよく、クラッド層が接着層を兼ねていても良い。こうしたクラッド層の材料は、SiO
2、Al
2O
3、MgF
2、CaF
2、MgOなどがよい。また蛍光体基板で発生した熱を支持基板を通して放熱するという観点では、蛍光体よりも熱伝導率を高くする方がよく、こうした材料として、Al
2O
3、MgOが特に好ましい。
【0061】
クラッド層と反射膜との間に接合層を設けることができる。こうした接合層の材質は特に限定はされないが、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンが好ましい。しかし熱伝導率が蛍光体よりも大きい方が好ましく、このような観点から酸化アルミニウムが最も好ましい。
【0062】
こうした接合層は、反射膜と支持基板との間にあってもよい。この場合は、蛍光体側に底面側クラッド層と底面側反射膜、接合層を形成し、支持基板側に接合層を形成し、両者を直接接合するようなプロセスで製造することができる。ここで反射膜と接合層、および支持基板と接合層の間に剥離防止層があってもよい。
【0063】
蛍光体は、蛍光体ガラス、単結晶、多結晶であってよい。
蛍光体ガラスの場合は、ベースとなるガラス中に希土類元素イオンを分散したものである。
【0064】
ベースとなるガラスとしては、シリカ、酸化ホウ素、酸化カルシウム、酸化ランタン、酸化バリウム、酸化亜鉛、酸化リン、フッ化アルミニウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、塩化バリウムを含む酸化ガラスが例示でき、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)であってもよい。
【0065】
ガラス中に分散される希土類元素イオンとしては、Tb、Eu、Ce、Nd、が好ましいが、La、Pr、Sc、Sm、Er、Tm、Dy、Gd、Luであってもよい。
【0066】
蛍光体単結晶としてはY
3Al
5O
12、Ba
5Si
11A
l7N
25、Tb
3Al
5O
12が好ましい。また、蛍光体中にドープするドープ成分としては、Tb、Eu、Ce、Nd等の希土類元素イオンとする。熱劣化を抑制するという観点では、蛍光体は単結晶が好ましいが、多結晶であっても緻密体であれば粒界部での熱抵抗を下げることができ、かつ透光性をあげることができ、光導波路として機能することができる。
【0067】
支持基板の具体的材質は特に限定されず,ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、石英ガラスなどのガラスや水晶であってよい。しかし、光源の熱が蛍光体に伝導すること、あるいは、波長変換や外部から蛍光体自体が加熱することを抑制するために、放熱特性のよい支持基板を使用することができる。この場合には、アルミナ、窒化アルミニウム、炭化珪素、Si、窒化珪素、タングステン、銅タングステン、酸化マグネシウムなどを例示することができる。
【0068】
支持基板と反射膜との間には、光導波路のはがれを防止するために、剥離防止層、好ましくは酸化膜を形成してもよい。このような酸化膜の材質は特に限定はされないが、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタンが好ましい。しかし熱伝導率が蛍光体よりも大きい方が好ましく、このような観点から酸化アルミニウムが最も好ましい。
【0069】
光源としては、照明用蛍光体の励起用として高い信頼性を有するGaN材料による半導体レーザーが好適である。また、一次元状に配列したレーザーアレイ等の光源も実現可能である。スーパールミネッセンスダイオードや半導体光アンプ(SOA)であってもよい。
【0070】
半導体レーザーと蛍光体から白色光を発生する方法は、特には限定されないが、以下の方法が考えられる。
青色レーザーと蛍光体により黄色の蛍光を発生し、白色光を得る方法
青色レーザーと蛍光体により赤色と緑色の蛍光を発生し白色光を得る方法
また青色レーザーや紫外レーザーから蛍光体により赤色、青色、緑色の蛍光を発生し白色光を得る方法
青色レーザーや紫外レーザーから蛍光体により青色と黄色の蛍光を発生し白色光を得る方法
【0071】
また、光源素子、蛍光体素子の各端面は、それぞれ、端面反射を抑制するために斜めカットしていてもよい。また、蛍光体素子と支持基板の接合は、接着固定でもよく、直接接合でもよい。支持基板にスパッタ、CVD等の成膜法により蛍光体素子を形成してもよい。
【0072】
本願の蛍光体素子を応用した白色レーザー光発光装置の構造を
図14に例示する。本構造では、パッケージ42内に実装基板44を固定し、実装基板44上に、励起光を発振するレーザー光源43と、蛍光体素子1(11、31、41)とを直線的に配置し、光源43から出射するレーザー光を直接に蛍光体素子の光導波路に入射する。レーザーの素子長は例えば1.5mm程度となっており、導波路蛍光体の素子長を2mmとした場合に、実装基板も含めて5mm以下のサイズで実現できる。
【0073】
また蛍光体の入射側はレーザー光のスポット形状と実装する際の十分な位置決め公差を含めた大きさの形状にしておくことによって、安価でかつ高効率の白色レーザーを実現でき、4Wクラスのレーザーを使用した場合に、450lm以上の指向性の高い白色レーザー光Cを得ることができる。
【実施例】
【0074】
(実験A)
(実施例A1の蛍光体素子の作製)
図1〜
図3に示すような形態の蛍光体素子1を作製した。
具体的には、厚み1mm、4インチウエハーの窒化アルミニウムからなる放熱基板上にスパッタリングにてAl
2O
3からなる剥離防止膜(図示せず)を0.2μm、Alからなる反射膜4Aを0.5μm成膜した。次に、Al
2O
3からなる接合層3を0.3μm成膜した。また、CeをドープしたYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)多結晶からなる厚み300μm、4インチ蛍光体ウエハー上にAl
2O
3からなるクラッド層5Aを厚さ0.3μm成膜した。さらに、両者をAl
2O
3層同士でイオンガンによる常温直接接合にて貼り合わせを行った。
【0075】
その後、光導波路の厚さTを100μmの厚みまで薄板研磨を行った。薄板研磨は、グラインダー研削、ラップを行い、最後にCMP(化学機械)研磨を行った。CMP研磨後、幅200μm、#6000のブレードを使用してダイシングによる切削加工にて深さ150μmの溝9を2本加工して、幅W100μmのリッジ型光導波路を形成した。
【0076】
さらに、リッジ光導波路形成面にAl
2O
3からなるクラッド層2を0.3μm、Alからなる反射膜を0.5μm、Al
2O
3からなる保護膜(図示せず)を0.2μm形成した。
成膜後、複合ウエハーをダイシングにて幅200μm、#4000のブレードにて光導波路長1mmのバー状に切断し、入射側の端面については、IBS(Ion-beam Sputter Coater)成膜装置にて励起光である450nm帯では無反射、蛍光である560nm帯では全反射となる誘電体多層膜を成膜した。
最後に、成膜後の切断で使用したブレードを使用して幅0.8mmにチップ切断をして、蛍光体素子を作製した。
【0077】
(実施例A2の蛍光体素子の作製)
図1、
図2および
図6に示すような蛍光体素子31を作製した。
具体的には、実施例A1と同様にして窒化アルミニウムからなる放熱基板に多結晶蛍光体板を貼り合わせし、複合基板を作製した。
【0078】
その後、高速スライシング装置にて幅1mm、#6000のブレードで先端の傾斜角5°のくさび形状のものを使用して入射部の光導波路の厚みTが100μmになるようにウエハーを高速スライシング装置上にセッティングして切削加工にて薄板化した。このとき蛍光体導波路の厚みの傾斜角度α は5°であった。
【0079】
(実施例A3の蛍光体素子の作製)
図2、
図3および
図9に示すような蛍光体素子41を作製した。具体的には、実施例A2と同様にして作製した。
ただし、切削加工によるリッジ導波路形成工程では、リッジ上面部の幅Wが100μm、傾斜角度βが20°になるようにブレードを選定して切削加工を実施した。その他のプロセスは実施例A2と同じとした。
薄板加工後、実施例A1と同様にクラッド層、反射膜、保護膜(図示せず)を成膜し、バー切断、端面成膜、チップ切断を実施し、蛍光体素子を作製した。
【0080】
(比較例1の蛍光体素子の作製)
実施例A1と同様にして、
図11、
図2、
図3に示す形態の蛍光体素子41を作製した。
ただし、
図11に示すように、光導波路の側面側、上面側には、反射膜を設けなかった。
【0081】
(比較例2の蛍光体素子の作製)
実施例1と同様にして、
図1、
図2、
図3に示す形態の蛍光体素子を作製した。ただし、本例では、クラッド層を設けず、光導波路の上面、底面、側面上にそれぞれ反射膜を直接形成した。
【0082】
(光学特性評価)
チップ化した各素子は、出力3WのGaN系青色レーザー光源を使用して照明光の評価を行った。各例の蛍光体素子の評価結果を表1に示す。
【0083】
(平均出力)
平均出力は、全光束の時間平均を表す。全光束測定は,積分球(球形光束計)を使用して、被測定光源と全光束が値付けられた標準光源とを同じ位置で点灯し、その比較によって行う。詳細には、JISC7801にて規定されている方法を用いて測定を行った。
【0084】
(色ムラ温度特性)
温度変化―40℃から80℃での環境下で、500サイクル試験を実施して、後述のように照明光の色ムラ変動を評価した。この試験においては、光源である半導体レーザーには温度変動がない状態とし、蛍光体のみに温度変化がおこる条件下で測定した。
【0085】
(色ムラ測定)
出力した光を輝度分布測定装置を用いて色度図で評価を行った。そして、色度図において、中央値x:0.3447±0.005、y:0.3553±0.005の範囲にある場合は「色ムラなし」とし、この範囲外の場合には「色ムラあり」とした。
【0086】
【表1】
【0087】
(実験B)
実施例A2の蛍光体素子において、入射部の蛍光体厚みと導波路幅を固定して傾斜角θ1、θ2を、0°、5°、10°、13°、15°、20°にした各素子の色ムラを測定した。この結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
この結果、傾斜角度が15°以上では、色ムラが発生することがわかった。この照明パターンを観察したところ、中心部では色ムラのない白色光となっていたが、外周部が蛍光のみしか存在していないパターンとなっており、角度を大きくするとこの現象が顕著となっていた。これを色ムラ面内分布有りと定義した。
【0090】
(実験C)
また、実験Bと同様にして、厚み方向の傾斜角αを0°、5°、10°、13°、15°、20°に変化させた。この場合も、実験Bと同じ角度で、色ムラ面内分布有りが発生した。
【0091】
蛍光体素子の構造においては、上記の実施例に記載した構造以外にも適用できる。
例えば、厚み1mm、4インチウエハーの窒化アルミニウムからなる放熱基板上にスパッタリングにてAl
2O
3からなる剥離防止膜、Ta
2O
5からなる接合層を成膜して、一方、多結晶蛍光体ウエハー上にAl2O3からなるクラッド層、Alからなる反射膜、Al
2O
3からなる剥離防止膜、Ta
2O
5からなる接合層を成膜して、両者をTa
2O
5層同士でイオンガンによる常温直接接合にて貼り合わせを行った構造を使用してもよい。
【0092】
(実験D)
実施例A2において、
図9に示す傾斜角度βを変更した素子を作製した。
ただし、切削加工によるリッジ導波路形成工程では、リッジ上面部の幅Wを100μmとし、傾斜角度βは、0°から60°に変更したものをブレードを選定して切削加工を実施した。その他のプロセスは実施例A2と同じとした。
【0093】
【表3】
【0094】
この結果、傾斜角度βが10°以上、50°以下では、色ムラが発生することなく、白色光の強度も特に大きくなることがわかった。βが60°の場合、照明パターンを観察したところ、中心部では色ムラのない白色光となっていたが、外周部では蛍光のみしか存在していないパターンとなっており、角度を大きくするとこの現象が現れる傾向があった。これを「色ムラ面内分布有り」と定義した。
本発明の蛍光体素子は、支持基板、励起光を伝搬し、蛍光を発振する蛍光体からなる光導波路であって、光導波路が、励起光および前記蛍光を出射する出射側端面、出射側端面と反対側の対向端面、前記光導波路の長手方向に向かって伸びる底面、この底面に対向する上面、および一対の側面を有している光導波路、光導波路の底面を被覆する底面側クラッド層、光導波路の前記上面を被覆する上面側クラッド層、光導波路の一対の前記側面をそれぞれ被覆する側面側クラッド層、上面側クラッド層を被覆する上面側反射膜、側面側クラッド層をそれぞれ被覆する側面側反射膜、および支持基板と底面側クラッド層との間に設けられている底面側反射膜を備えている。