(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367553
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】植物栽培装置
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20180723BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20180723BHJP
A01G 31/06 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
A01G7/00 601B
A01G7/00 601Z
A01G31/00 612
A01G31/06
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-273019(P2013-273019)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-126710(P2015-126710A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2016年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010814
【氏名又は名称】株式会社誠和
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】有田 孝信
【審査官】
竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−137107(JP,A)
【文献】
特開平07−050941(JP,A)
【文献】
特表2013−521824(JP,A)
【文献】
特開平04−152821(JP,A)
【文献】
特開平11−155373(JP,A)
【文献】
特開平03−219807(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/125382(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 31/00 − 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段の棚部材を有する支持フレームと、前記複数段の棚部材のそれぞれに支持される、植物が植えられる栽培ベッドと、前記栽培ベッドのそれぞれの上方に配置される照明装置とを有する多段栽培用の植物栽培装置であって、
各段における前記栽培ベッドのそれぞれの側方に、各栽培ベッドに植えられた前記植物の側葉に前記照明装置からの光を反射させて供給可能な光反射部材が設けられ、
前記光反射部材は、前記支持フレームの側方に上下方向に沿って設けられたガイドワイヤに上縁部及び下縁部がそれぞれクリップを介して係合されていると共に、上端部が、前記照明装置を構成する光源ランプ中、最下部に位置する光源ランプの高さよりも低くなるように設けられ、前記上端部の上方に空気の流れを許容する通気部となる隙間を形成し、かつ、前記上縁部を係合するクリップと前記下縁部を係合するクリップ間の距離を調整して内側にたるむように配設可能であることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
前記ガイドワイヤの上部付近に巻き取り軸が設けられていると共に、前記巻き取り軸に巻き取り又は巻き戻される紐部材が支持されており、
各段における前記光反射部材を前記ガイドワイヤに係合する前記クリップのうちの一部のクリップが、前記紐部材に連結されており、
前記紐部材の下端にウエイトパイプが取り付けられており、
前記巻き取り軸により前記紐部材を巻き取ると、各段における前記光反射部材を全て巻き取り軸側に位置させることができる請求項1記載の植物栽培装置。
【請求項3】
前記照明装置付近を冷却する冷却手段がさらに設けられている請求項1又は2記載の植物栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工光源を用いて植物を栽培する植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上下複数段で栽培ベッドを支持し、各栽培ベッドの上方に人工光源としての照明装置を配置して植物を栽培するシステムが知られている。照明装置としては、蛍光灯、あるいは、消費電力の少ないLEDなどが用いられている。しかし、いずれにしても太陽光と比較して、照明装置で植物の生育に必要な光量を確保することは困難であり、例えば、特許文献1では、効率の良い光条件を得るために、蛍光ランプに反射シート、光拡散シートを組み合わせた照明装置を栽培ハウスの上方に配置する構造が開示されている。
【0003】
また、特許文献2では、照明装置を高さ調整可能に設け、植物の生育段階に応じて照明装置を昇降させることで、照明装置と植物との距離を適切に保ち、効率よく照明光を利用し、かつ、消費電力を低減させることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−235353号公報
【特許文献2】特開2013−153691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の場合、蛍光灯などの光源を反射シート等で可能な限り覆う構成であるため、熱がこもりやすい。また、植物の上方から照射される光量が増加するものの、上方の葉の陰になる下方に位置する側葉に光があたりにくいという問題がある。この点は、特許文献2も同じであり、植物の生育に合わせて照明装置を上下動させても、側葉へはどうしても光があたりにくくなる。また、省電力の観点から用いられるLEDは指向性が高いため、種々の方向に光を供給するにあたっては配置数を多くせざるを得ず、その点からも照明装置付近に熱がこもりやすい。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、照明装置を用いて植物を多段で栽培する際に、各段の栽培ベッドで生育する植物への光条件を向上させることができると共に、照明装置の熱の影響を低減できる植物栽培装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するため、本発明の植物栽培装置は、
植物が植えられる栽培ベッドと、前記栽培ベッドの上方に配置される照明装置とが多段に配置されてなる植物栽培装置であって、
前記栽培ベッドの側方に、前記植物の側葉に、前記照明装置からの光を反射させて供給可能な光反射部材が設けられていることを特徴とする。
【0008】
前記光反射部材の上端部が、前記照明装置を構成する光源ランプ中、最下部に位置する光源ランプの高さよりも低くなるように設けられており、前記光反射部材の上端部の上方に形成される隙間が空気の流れを許容する通気部となっていることが好ましい。前記光反射部材が、上下方向に可動に設けられていることが好ましい。前記照明装置付近を冷却する冷却手段がさらに設けられている構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、栽培ベッドの側方に光反射部材が設けられている。そのため、栽培ベッドの上方の照明装置の光は、この光反射部材で反射して、該栽培ベッドで生育する植物の下方に位置する側葉にあたりやすい。一般に、植物の生長点に多くの光があたることが望ましいとされている。しかし、本発明によれば、生長点を直接刺激しなくても、下方に位置する側葉に光の刺激を付与することができるため、光合成が盛んになり、結果的に生長点の成長を促すことができる。
【0010】
その一方、栽培ベッドの上方に位置する照明装置が配置されている付近は、光反射部材で被覆されておらず通気性が確保された構成であり、照明装置による植物への熱の影響を低減でき、植物の生育にとって好ましい環境を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態に係る植物栽培装置の構成を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に示した実施形態に基づき本発明をさらに詳細に説明する。
図1は、本発明の一の実施形態に係る植物栽培装置1の概略構成を示した図である。
図1に示したように、植物栽培装置1は、支持フレーム10を有している。
【0013】
支持フレーム10は、例えば、
図1に示したように、複数段(
図1では3段)の棚部材11〜13を有し、そのそれぞれに栽培ベッド50が支持されている。また、各栽培ベッド50の上方に位置するように、照明装置支持部材14〜16が配設されており、それぞれに照明装置60が取り付けられている。
【0014】
栽培ベッド50は、例えば幅0.1〜0.5m程度で、長さ(
図1の奥行き方向)0.5〜5m程度の栽培容器51内に培地などが充填されて、適宜の植物が植えられている。そして、栽培ベッド50を構成する栽培容器51の両側部に外方に突出させた上縁部が、棚部材11〜13に引っかけられるように指示される。栽培容器51は、
図1に示したように断面形状が略逆三角形のものであってもよいが、略四角形あるいは略U字型等の形状であってもよい。また、栽培容器51を構成する素材も硬質プラスチックに限らず、フィルムを断面略U字型などのように設けて、その内部に培地を充填するようにしてもよい。いずれにしても、栽培ベッド50は植物が植えられるものであれば、その構造、形式等は何ら制限されない。
【0015】
照明装置60の光源ランプ61は、蛍光灯であってもよいが、消費電力の低減のためにはLEDを用いることが好ましい。但し、LEDは指向性が高いため、
図1に示したように、下方に位置する栽培ベッド50の幅方向略中心を仮想中心とした略放射状に配置することが好ましい。
【0016】
支持フレーム10の側方であって、栽培ベッド50及び照明装置60から所定距離離れた位置に、ガイドワイヤ20が上下方向に設けられている。ガイドワイヤ20の上部付近には巻き取り軸31が配設されており、巻き取り軸31に巻き取り又は巻き戻される紐部材32がガイドワイヤ20に沿って垂れ下げられている。ガイドワイヤ20及び紐部材32は、
図1の奥行き方向に適宜の間隔をおいて配設される。また、紐部材32の下端には、ウエイトパイプ32aが取り付けられている。
【0017】
紐部材32及びガイドワイヤ20には、各栽培ベッド50の側方に位置するように栽培ベッド50の長手方向(
図1の奥行き方向)に沿って、光反射部材40が設けられる。好ましくは、各栽培ベッド50の側方であって、上方の葉の陰になっている下方に位置する側葉Aの高さに相当する、各栽培ベッド50の上縁よりもやや上部位置に対応する範囲に少なくとも存在するように設けられる。これにより、反射した光が、各栽培ベッド50で生育する植物の側葉Aにあたりやすくなる。
【0018】
光反射部材40は、柔軟なシートやフィルムからなり、それぞれの上縁部が第1クリップ33に係合され、下縁部が第2クリップ34に係合される。いずれもガイドワイヤ20に連結される。また、例えば奥行き方向の端部に位置する第1クリップ33及び第2クリップ34は、紐部材32にも連結される。また、
図1に示したように、第1クリップ33及び第2クリップ34間を調整して、光反射部材40は若干内側にたるむように配設すると、側葉へ向かう光量の確保に役立つ。例えば、紐部材32を巻き取り軸31に巻き取ると、ウエイトパイプ32aが上昇し、下方に位置する光反射部材40側から上方に押し上げていく。ウエイトパイプ32aを最も上方位置まで巻き取ると、各段の光反射部材40の全てが巻き取り軸31付近に位置し、栽培ベッド50の側部が開放された状態となる。巻き戻しすると、上記と逆に動作し、光反射部材40が展開された状態(本実施形態では、若干内側にたるんだ状態)になる。なお、光反射部材40は、上記のように柔軟なシートやフィルムからなり、例えば、光反射率90%以上のものが用いられる。
【0019】
光反射部材40を上下に展開したりする手段は、これに限らず、例えば、各段に対応して巻き取り軸を複数段(本実施形態では3段)配設し、各巻き取り軸にそれぞれ光反射部材40を巻き取り又は巻き戻しするような構成としてもよい。しかしながら、作業上は、栽培ベッド50の側部には障害物が存在しないことが好ましく、上記のように、作業時には全ての段の光反射部材40が上方に巻き上げられる構造とすることが好ましい。また、栽培ベッド50の側方に配置され、該栽培ベッド50で生育する植物の側葉Aに反射光があたるようになっていれば、光反射部材40は、展開した状態のまま使用する構成とし、折りたたまれたり、巻き戻されたりしない構成としてもよい。
【0020】
但し、折りたたまれたり、巻き戻されたりする構成とすることにより、植物の手入れ作業の際に調整できるため好ましい。
【0021】
本実施形態では、上記のように光反射部材40を栽培ベッド50の側方に配置し、栽培ベッド50の上部に位置する照明装置60の側方には配置されない構成である。従って、照明装置60の側方には何らの遮蔽物がない。より具体的には、光反射部材50は、その上端部の位置が、照明装置60の光源ランプ61のうち、最下部に配置された光源ランプ61の高さよりも低くなるように設定される。それにより、光反射部材50の上端部の上方には必ず隙間55ができる。
【0022】
ここで、照明装置60による人工光を積極的に利用する植物工場の建物や一部の温室では、空調設備が備えられており、空調設備により建物内あるいは温室内には空気の流れが形成される。栽培ベッド50の側方は、光反射部材40が配設されているためこの空気の流れは該光反射部材40によって遮断されるが、照明装置60の側方には上記のように隙間55が形成されているため、該隙間55が通気部となり、この隙間55を通じて空気が流れる。その結果、照明装置60はこの空気の流れに接しやすい環境で配置されており、冷却されやすくなっている。
【0023】
本実施形態では、巻き取り軸31によって巻き取り量を調整し、光反射部材40が栽培ベッド50の側方、好ましくは、各栽培ベッド50の側方であって、各栽培ベッド50の上縁よりもやや上部位置に対応する範囲に存在するように調整する。それにより、照明装置60の光は、栽培ベッド50で生育している植物の生長点に対して供給されるだけでなく、光反射部材40によって反射され、下方に位置する側葉Aにも積極的に供給される。特に、LEDの場合、光の指向性が高いため、このような光反射部材40を設けることで、外部に向かう光が減少し、光の無駄がなくなる。また、下方に位置する側葉Aへの光による刺激は新たに展開する上位葉の気孔密度の変化と関連があることから、生長点以外に、このように下方に位置する側葉Aへも光を十分に付与することは植物の生育をより促進し得るという利点がある。
【0024】
また、光反射部材40は、栽培ベッド50の側方を被覆するものの、照明装置60の側方は上記のように被覆しておらず隙間55が形成され、空調設備による空気の流れ(冷風)により、照明装置60の熱が植物に影響を与えにくくなっている。この点は上記したとおりであるが、光反射部材40に冷風があたると、光反射部材40自体が冷やされる。その結果、植物の熱が光反射部材40に放射によって奪われることになるものの、光反射部材40で覆われているため、温度変化、湿度変化が緩やかである。
【0025】
なお、照明装置60で使用する光源ランプ61の数等によっては照明装置60の熱が高くなりすぎる場合がある。この場合には、照明装置60を積極的に冷却する冷却手段を例えば光源ランプ61付近に設けるようにしてもよい。また、光反射部材40を照明装置60の側方に至るまで設け、照明装置60の側方に位置する光反射部材40の部位には、複数の通気穴を設けた構成としてもよい。しかしながら、光反射部材40は、栽培ベッド50の側方付近、好ましくは、栽培ベッド50の底面に相当する高さから、栽培している植物の下方に位置する側葉A(植物の種類、生長度合い、あるいは上方に位置する葉の密度によっても異なるが、それらの影になりやすい栽培ベッド50の栽培容器51の上縁から30cm程度の高さまでに茂っている葉)付近までの間に設けることが好ましい。それ以上高くすると、植物への手入れ作業が行い難くなる。
【0026】
(試験例)
栽培ベッド50の上縁部から30cm側方に離して、栽培ベッド50の底面に相当する高さから、栽培している植物の下方に位置する側葉A付近に相当する高さ(本試験例では、栽培ベッド50の栽培容器51の上縁から5cmの高さ)まで、光反射部材40として、極細ポリエチレン繊維の不織布からなるデュポン社製「タイベック」(登録商標)を吊り下げた。
【0027】
照明装置60は、
図1に示したように、4本のLEDを放射状となるように、栽培ベッド50の上縁部から30cm上方に設置した。上記不織布からなる光反射部材40を配設しない場合(「シート無し」)、栽培ベッド50の片側に光反射部材40を配設した場合(「シート片側」)、栽培ベッド50の両側に光反射部材40を配設した場合(「シート両側」)について、光合成光量子束密度(photosynthetic photon flux density, PPFD)を測定した。その結果、次のとおり
であった。
【0029】
なお、表中のパーセンテージは、「シート無し」を基準として場合の増減率である。また、「生長点部」は、
図1の中段の栽培ベッド50に例示したように、PPFD計をセンサ部が上部となるように直立姿勢で配置して測定した値であり、「側葉部分」は、
図1の下段の栽培ベッド50に例示したように、PPFD計を横置きにしてセンサ部が側葉A付近となるようにして測定した値である。
【0030】
表1から、生長点部のPPFDは、光反射部材40の有無に拘わらず大差なかった。これに対し、側葉部分では、「シート無し」に対し、「シート片側」、「シート両側」のいずれも2倍以上になっていた。
【0031】
(比較例)
次に、照明装置60の上部を覆う笠として、上記の光反射部材と同様の素材を配置した場合(シート有り)と配置しない場合(シート無し)の場合について、PPFDを測定し、生長点部、側葉部分で比較した。その結果を次表に示す。
【0033】
表2から、生長点部及び側葉部分のいずれも、「シート有り」と「シート無し」との間で大差なかった。
【0034】
以上のことから、本発明の構成によれば、側葉部分への光量を増すことができ、植物の生育にとって好ましい環境を作ることができることがわかる。
【0035】
なお、試験例及び比較例において、それぞれ、生長点部及び側葉部分における温度を測定した。生長点部では、試験例に対して、比較例の温度が高かった。側葉部分では、試験例と比較例の温度の差はほとんどなかった。これは、試験例の場合、温度が高くなる照明装置60の周囲を光反射部材40で取り囲まずに通気性を確保しているためであり、この点でも試験例の方が植物の生育に適切であることがわかった。
【符号の説明】
【0036】
1 植物栽培装置
10 支持フレーム
40 光反射部材
50 栽培ベッド
60 照明装置