特許第6367558号(P6367558)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6367558緩く充填されたフォキソニック結晶と形成法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367558
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】緩く充填されたフォキソニック結晶と形成法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/02 20060101AFI20180723BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   G02B1/02
   G02B6/122
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-154(P2014-154)
(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公開番号】特開2014-132341(P2014-132341A)
(43)【公開日】2014年7月17日
【審査請求日】2016年11月16日
(31)【優先権主張番号】13/734,008
(32)【優先日】2013年1月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ウ ソンタオ
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一久
(72)【発明者】
【氏名】デバシッシュ バナジー
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ ガオホワ
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−229945(JP,A)
【文献】 特開2006−028202(JP,A)
【文献】 特表2012−500415(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/098339(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/02
G02B 6/122
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化したマトリックス材料中に埋め込まれた第1の秩序構造の分散したエレメントであって、該構造が初期格子定数を有する、エレメントと、
硬化したマトリックス材料でできたマトリックス層であって、該マトリックス層が基材の反対側にある該分散したエレメントの上に伸びる、マトリックス層と、を提供する工程と、
該第1の秩序構造から該マトリックス層を除去する工程と、
該第1の秩序構造を第2のマトリックス材料で満たして第2の秩序構造を形成させる工程であって、該第2の秩序構造の格子定数が第1の秩序構造の初期格子定数よりも大きい工程と、
該第2のマトリックス材料を硬化させて、不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成させる工程と、
を含む、不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成させる、方法。
【請求項2】
該格子定数の方向が、該基材の平面に対して垂直な方向であるZ軸に沿っている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該除去する工程が、該第1の秩序構造から該マトリックス層を剥がすことまたは引き裂くことによっている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1の秩序構造の初期格子定数及び第2の秩序構造の格子定数が、該除去する方向に平行である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
該分散したエレメントの少なくとも一部が、1nm〜10mmの直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該分散したエレメントが、非弾性材料でできている、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該分散したエレメントが、ポリスチレン、シリカ、メソ多孔質シリカ、またはポリ(メタクリル酸メチル)である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該マトリックス材料が、ポリジメチルシロキサンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
該第2の秩序構造から該第2のマトリックス材料でできた第2のマトリックス層を除去する工程と、
該第2の秩序構造を第3のマトリックス材料で満たして、該第2の秩序構造に対する該格子定数の長さを増加させる工程と、
該第3のマトリックス材料を硬化させて、不可逆的に緩く充填された秩序構造である第3の秩序構造を形成させる工程と、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
硬化したマトリックス材料中に埋め込んだ第1の秩序構造の分散したエレメントであって、該構造が初期格子定数を有する、エレメントと、
該分散したエレメントの上に伸びるマトリックス層であって、該硬化したマトリックス材料でできたマトリックス層と、を密に充填されたフォトニック結晶提供する工程と、
該構造から該マトリックス層を除去する工程と、
第1の秩序構造を第2のマトリックス材料で満たして第2の秩序構造を形成する工程であって、該第2の秩序構造の格子定数が第1の秩序構造の初期格子定数よりも大きい工程と、
該第2のマトリックス材料を硬化させて、不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成させる工程と、
を含む、不可逆的に緩く充填されたフォトニック結晶を生成させる、方法。
【請求項11】
該分散したエレメントが、ポリスチレンビーズまたは固体シリカである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
該分散したエレメントが、ポリスチレンである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
該第1のマトリックス材料または該第2のマトリックス材料が、ポリジメチルシロキサンである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
該分散したエレメントが、ポリスチレンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該第2の秩序構造から該第2のマトリックス材料でできた第2のマトリックス層を除去する工程と、
該第2の秩序構造を第3のマトリックス材料で満たして第3の秩序構造を形成させる工程であって、該第3の秩序構造の格子定数が第2の秩序構造の格子定数よりも大きい工程と、
該第3のマトリックス材料を硬化させて、それによって不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成させる工程と、をさらに含む請求項10に記載の方法。
【請求項16】
該分散したエレメントが、50〜1000nmの直径を有する、請求項10または15に記載の方法。
【請求項17】
該第1のマトリックス材料、該第2のマトリックス材料および該第3のマトリックス材料が同じ組成を有する、請求項9または15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック(photonic)結晶又はフォノニック(phononic)結晶の分野に関する。特に、本開示は、緩く充填された結晶材料と、フォトニック(photonic)性又はフォノニック(phononic)性の調整を可能にする主に1次元膨張による形成方法と、を記載する。
【背景技術】
【0002】
フォトニック結晶は、その屈折率が周期的に変化する材料である(Yablonovitch, Phys. Rev. Lett., 58:2059, 1987)。この周期的変化は、特定の波長の電磁波を弱めるか又はその伝搬を許容するフォトニックバンドギャップ(禁制帯域)を作り出す。バンドギャップ位置は、結晶中の周期的変化間の距離により規定される。反射されたストップバンド波長は、ブラッグ(Brag)ピークとして知られている明確な反射ピークとして反射スペクトル中に現れることがある。この結晶は、1次元、2次元、又は3次元(3D)周期構造を有し得る。
【0003】
フォノニック結晶として知られている同様のデバイスはフォノニックバンドギャップを有し、これはフォトニックバンドギャップの音響アナログである。フォノニック結晶では、これは、構造材料中に存在できない音響周波数の所望の範囲である。使用される材料に依存して、具体的な結晶構造は、フォトニック性又はフォノニック性いずれかの波のバンドギャップを作り出すように調整されることができる。このような結晶はフォキソニック結晶として知られている。
【0004】
フォノニック結晶又はフォトニック結晶中のバンドギャップは、エネルギー波を伝搬する均一なホストマトリックス中の周期的分散材料の存在により作り出される。この分散材料は、波の干渉を作り出す。干渉が破壊的な場合、波のエネルギーは打ち消され、波は結晶中を伝搬できない。バンドギャップを作り出すのは、この破壊的干渉である。フォトニック結晶又はフォノニック結晶の格子間隔中の小さな変化は、反射されるストップバンドの検出可能なシフトを容易に作り出す。結晶形成中のバンドギャップの調整の例は、米国特許出願第2004/0131799号明細書、及び米国特許第7,826,131号明細書に見いだされる。
【0005】
物理的変形、溶媒材料を用いる膨潤、又は電圧印加のような外部刺激は、結晶構造の周期的間隔を改変するのに使用することができる。ヒドロゲル又はエラストマーマトリックス中に埋め込まれた球の緩く充填された構造を作り出すための、すでに形成された材料の変形による調整可能な結晶は、米国特許出願第2011/0222142号及び2011/0014380号明細書、米国特許第7,826,131号明細書、米国特許第7,538,933号明細書、米国特許第6,544,800号明細書、米国特許第5,266,238号明細書、米国特許第5,368,781号明細書、及び H. Fudouzi and Y. Xia, “Photonic Papers and Inks: Color Writing with Colorless Materials,” Advanced Materials, 15(11), 892−896, 2003, H. Fudouzi and Y. Xia, “Colloidal crystals with tunable colors and their use as photonic papers,” Langmuir, 19, 9653−9660, 2003, H. Fudouzi and T. Sawada, “Photonic rubber sheets with tunable color by elastic deformation,” Langmuir, 22(3), 1365−8 (2006), Holtz et al., Nature 389:829−832, Foulger et al., Advanced Materials 13:1898−1901, Asher et al., Journal of the Material Chemical Society 116:4997−4998, 及び Jethmalani et al. Chemical Materials 8:2138−2146の刊行物に見いだされるように、行われている。
【0006】
しかしこれらの形成後調整法は、一時的と見なされるように可逆的である。例えば、溶媒を使用してマトリックス内に埋め込まれたコロイド粒子アレイを膨潤させることにより、フォトニック結晶のバンドギャップを調整することは公知である。FudouziとXia は、インク又は1−プロパノールのような溶媒の存在下膨潤するであろうフォトニック結晶紙を作成した(Langmuir, 2003; 19:9653−9660)。溶媒を蒸発させると、紙はその元々の位置に戻った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以前の結晶材料の可逆性は、緩く充填された結晶構造が望ましい長期間の適用での有用性を打ち消す。従って、周期的材料の緩い秩序結晶構造の低コストで迅速な形成のための新しい方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の以下の要約は、本発明に特異的な革新的特徴の一部の理解を促進するために提供されるものであり、完全な説明を意図するものではない。本発明の種々の形態の完全な理解は、明細書全体、特許請求の範囲、図面、及び要約書を全体としてとらえることにより得ることができる。
【0009】
必要な特性を提供する結晶中のエレメントの不可逆的に緩く充填された秩序アレイの形成により、先行技術の課題を解決するフォトニック結晶、フォノニック結晶、又はフォキソニック結晶として有用な構造を形成するための方法が提供される。このような不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成する方法は、マトリックス材料中に埋め込まれた分散したエレメントの格子を有する第1の秩序構造を提供する工程であって、この構造は初期格子定数を有し、このマトリックス層はこの分散したエレメントの上に伸びる工程と;第1の秩序構造からのマトリックス層を除去し、第2のマトリックス材料で満たして、第1の秩序構造中より大きい長さを有する格子定数を有する第2の秩序構造を形成する工程と;第2のマトリックス材料を重合させて、不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成する工程、とを含む。元々のマトリックス層を除去し、新しいマトリックス材料を満たすことにより、Z方向の力は、分散したエレメントを含む構造中に伝達され、これは、これらの配列、サイズ、もしくは配向、又はこれらの3つすべてを、主に基材と垂直の方向に膨張するように機能する。緩く充填された秩序構造の形成は主に、1次元膨張により、又は構造の異なる領域中で異なる方向に任意選択的に調整される。除去する工程又は満たす工程は、任意選択的に繰り返されて、追加の緩く充填された構造を形成する。
【0010】
本方法の多くの力の中では、多くの異なるサイズ又はサイズの組合せの分散したエレメントにとって有用である。ある態様において、分散したエレメントの少なくとも一部は、1nm〜10mmの直径を有する。任意選択的に50〜1000nm、任意選択的に150〜750nmの直径を有するポリスチレン又はシリカの分散したエレメントは、任意のマトリックスで使用され、ある態様では、PDMS中でマトリックス材料として使用される。
【0011】
これらの方法により形成される構造は、フォトニック結晶、フォノニック結晶、又はフォキソニック結晶でもあってもよい。
【0012】
これらの方法は、分散されたエレメントの不可逆的に緩く充填された構造を初めて提供し、それにより、分散したエレメントの結晶充填は、満たす材料の選択により、又は除去し満たすことの繰り返し数により、容易に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、不可逆的に緩く充填された秩序構造の形成の一般的な図である。
【0014】
図2図2は、1つの態様に従う粒子の不可逆的に緩く充填された秩序構造の形成の一般的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
具体的な態様の以下の説明は本質的に単に例示的なものであり、決して本発明の範囲、その応用、又は用途を限定するものではなく、これらももちろん変化し得る。本発明は、本明細書に記載の非限定的定義と用語に関連して説明される。これらの定義と用語は、本発明の範囲又は実施に対する限定として機能することを意図するものではなく、例示かつ説明目的でのみ提示される。これらの方法又は組成物は、個々の工程のある順序として又は具体的な材料を使用して記載されるが、工程や材料は交換可能であり、従って本発明の記載は、当業者には容易に理解されるように、複数の部分や多くの方法で配置された工程を含むことができることを理解されたい。
【0016】
本明細書で使用される科学用語及び技術用語は、当業者により通常理解される意味を有することが意図されている。
【0017】
具体的な特性によりエネルギーを遮断又は伝達することができる、調整された一定のフォノニック結晶又はフォトニック結晶デバイスに適した材料の、不可逆的に緩く充填された秩序構造を作り出す方法とシステムが提供される。このようなデバイスは、遮音、断熱、所望の波長の光の伝達もしくは吸収、又は当該分野で認識されている多くの他の目的のために使用される。疎水性ポリマーマトリックス(例えばPDMS)中の緩く充填された結晶構造を作成するための容易な方法が提供される。緩く充填された秩序構造の格子定数は、結晶中の光子(photon)伝搬またはフォノン(phonon)伝搬または破壊の長期的性質を提供するように、不可逆的に調整される。
【0018】
ある方法は、マトリックス材料中に埋め込まれた分散したエレメントの第1の秩序構造を提供する工程であって、この構造が初期格子定数を有する工程と;この構造からマトリックス材料のマトリックス層を除去し、初期の格子定数より大きい長さを有する格子定数を有する第2の秩序構造を形成する工程と;第2の秩序構造を第2のマトリックス材料で満たし、それにより不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成する工程、とを含む。硬化性又は永続的な第2のマトリックス材料を満たす用途は、より長い格子定数の存在を支持し、従って元々の構造サイズに戻ることが防止されるが、次に機械的、電気的、又は化学的変形技術により調整できるように維持される。
【0019】
第1の秩序構造は、密に充填された複数の分散したエレメントの形成により提供される。ある例では、この構造は、フォトニック結晶材料、フォノニック結晶材料、又はフォキソニック結晶材料である。結晶材料は好ましくは、特に必要ではないが、秩序だった格子間隔などの秩序構造を有する。ある例示態様においてこの構造は、空隙の秩序だったアレイを有し、変形できるようにポリマーに基づいてもよい。構造材料は、入射表面からの特徴的な反射ピークを有するように、作成してもよい。
【0020】
秩序構造は、複数の分散したエレメントとマトリックス材料とを含み、こうして、分散したエレメントが、1つ以上の初期の格子定数を有する任意選択的な秩序だったシステム(例えば、製造中に与えられる構造)でマトリックス材料中に埋め込まれる。格子定数は、具体的には、例えば任意の平面中の第1の分散したエレメントの中心と第2の分散したエレメントの中心との距離のような結晶充填定数である。複数の分散したエレメントは、初期立方体、面心立方体、又は体心立方体系のような秩序だった等軸晶系を形成してもよい。ある態様において、複数の分散したエレメントは、ランダムに並んだ配置である。格子定数は、任意選択的に、1つの分散したエレメントの中心と隣接する分散したエレメントの中心との、材料のZ軸に沿った(厚さの面に沿った)距離である。
【0021】
ある態様において、分散したエレメントは空隙を含む。空隙は、分散したエレメントの周りのマトリックス材料又はその一部とは異なる屈折率又は異なる材料を有する結合容量である。格子定数は、任意の1つの方向の、任意選択的なZ軸に沿った1つの空隙の中心から隣接する空隙の中心までである。空隙は、気体、固体、又は液体でもよい。
【0022】
分散されたエレメントは、任意選択的にコロイド粒子から形成される。コロイド粒子は、例示的には、いくつかの例としては、ポリマーラテックス及びシリカ球から形成される。分散したエレメントは任意の望ましい形、例示的には、球、楕円、ロッド、多面体を含む球、立方体、多面体でもよい。具体的態様において、分散したエレメントは球形である。分散したエレメントは、単一の軸に沿った直径又は長さを有する。Z軸に沿った直径又は長さは、例示的には、1nm〜10mm、又はこれらの間の任意の値もしくは範囲である。光学的用途では、直径又は長さは、任意選択的に1nm〜1000nm、50〜1000nm、60〜1000nm、50〜500nm、又は150〜900nmである。断熱又は熱管理としての使用については、直径又は長さは、任意選択的に0.1nm〜500nm、1nm〜200nm、10nm〜100nm、又は所望の値である。フォノニック結晶としての使用については、長さ又は直径は、任意選択的に500nm〜10mm、任意選択的に1000nm〜10mm、任意選択的に1000nm超〜10mmである。具体的態様において、生じるフォトニック結晶材料又はフォノニック結晶材料の独自の特性を達成するために、他の値又は範囲を使用してもよい。
【0023】
分散したエレメントに使用される材料の例は、特に限定されないが、絶縁体、ポリマー、金属、及び半導体を含む。任意選択的に、分散した要素は、1種以上のポリマー、酸化物、カルコゲニドコロイド粒子から形成することができる。分散した要素のより具体的な例としては、特に、二酸化珪素(シリカ、SiO)、ポリスチレン、ポリメタクリレート、空気、金属、例えばSi、Alなど、メソ多孔性単分散シリカ球体(MMSS)、MMSSハイブリッドがある。
【0024】
複数の分散したエレメントは、マトリックス材料中に埋め込まれる。マトリックス材料は、例えば剛性又は変形可能な材料である。任意選択的に、マトリックス材料は硬化性材料である。実質的に米国特許出願公報第2011/0222142号明細書に記載されているように、マトリックス材料は任意選択的に1種又はそれ以上の前駆体材料の硬化から形成される。例えば、前駆体は、モノマー、架橋剤、開始剤、溶媒、可塑剤、界面活性剤、又は添加剤の混合物であってもよい。いくつかの例では、マトリックス材料は、モノマー及び/又はプレポリマー、例えばアクリレート、メタクリレート、オレフィン、エーテル、アルコール、ポリオール、オレフィン、アミノ酸、フルオロモノマー、バイオモノマー、環状モノマー、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、イソプレン、ブタジエン、ポリウレタン前駆体、架橋性ポリエーテル、重合性オリゴマー、及びこれらの混合物から形成することができる。種々の重合性モノマー及び架橋剤は、Sartomer Company, Inc.から入手可能である、他の可能な材料は、米国特許第6,946,086号明細書に開示されている。
【0025】
マトリックス材料は、架橋剤を含むことができる。架橋剤の例としては、特に限定されないが、ジメタクリレート、トリメタクリレート、テトラメタクリレート、ジアクリレート、トリアクリレート、及びテトラアクリレートがある。前駆体混合物中の架橋剤及び開始剤の量は、硬化ポリマーにおける所望の量の架橋を達成するように選択することができる。可能な前駆体組成物は、約0〜100重量%のモノマー、0〜100重量%の架橋剤又は架橋性ポリマー、及び0〜20重量%の開始剤を含む混合物を含む。いくつかの組成物において、架橋剤自体はポリマーのための基礎であってよく、こうしてモノマーを不要にすることができる。硬化したポリマーにおける架橋の密度は、前駆体混合物中の架橋剤の比率によって制御することができる。硬化したポリマーの多孔度は、前駆体混合物に溶媒などの不活性物質を含むことによって制御することができ、溶媒は、例えば硬化後に蒸発を介して除去することができる。生じるマトリックス材料の性質を改変するために、種々のポリマー及び非ポリマー添加剤を添加してもよい。
【0026】
前駆体混合物は、開始剤を含んでよい。開始剤の例は、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシドなどの光開始剤を含む。さらなる例は、一つ以上の熱開始剤、例えばジクミルパーオキサイドが挙げられる。
【0027】
マトリックス材料のより具体的な実例は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリマー、光開始架橋ポリマーなどを含む。特定の例においてマトリックス材料はPDMSである。
【0028】
マトリックス材料中に埋め込まれた複数の分散したエレメントの第1の秩序構造は、多くの可能な方法のいずれかによって形成される。具体例は、遊離の微粒子からの自己集合法とエッチングを含む。自己集合法は、蒸発により誘導される自己集合法(EISA)、等対流(isoconvective)加熱、沈殿、剪断集合法、平行平板閉じ込め、スピンコーティング、ディップコーティング、及びドロップキャスティングを含む。球体沈着の方法は、米国特許第6,858,079号明細書に開示されている。分散したエレメントとして使用される微小球は、修飾Stober法に従って合成することができる。任意選択的に、コロイド結晶の構造は、 H. Fudouzi and Y. Xia, Langmuir, 2003; 19: 9653−9660; 又は H. Fudouzi and T. Sawada, Langmuir, 2006; 22(3): 1365−8の方法により形成される。
【0029】
不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成する例示的な方法を図2に示す。工程1に示されている例示されるように、基材は、分散したエレメントの溶液を支持するために使用される。エレメントの液体溶液の表面は、蒸発速度を制御するためにシリコーンの層(又は他の材料)で任意選択的に覆われる。蒸発中に、エレメントは、毛細管引力又は他の力によって促進される密充填秩序構造を形成する。工程2では、シリコーン層が除去され(存在する場合)、エレメント間の空間は、毛管作用を介して、未硬化のマトリックス材料、例えばPDMSで充填される。マトリックス材料の硬化に続いて、マトリックス材料中に埋め込まれた分散したエレメントの第1の秩序構造が形成される。なお、硬化は、当技術分野で公知の多くの方法のいずれかによって、かつ使用されるマトリックス材料の種類に応じて進めることができることが理解される。硬化様式の具体例は、紫外線(UV)、空気硬化、熱、電子線、及び他のタイプの放射線誘導硬化を含む。最初の秩序構造中の分散したエレメントの充填は、密充填される。
【0030】
ガラス以外の多くの材料を基材として使用することができる。例示的に、基材は、紙、ガラス、プラスチック、金属、及びセラミックスを含むことができる。
【0031】
マトリックス材料を埋め込む方法は、好ましくは、図2で工程2に例示されるように、基材の反対側にある分散したエレメントの上に伸びるマトリックス層を形成する。このマトリックス層は、任意選択的に分散したエレメントを含まない。本発明者らは、驚くべきことに、このマトリックス層を除去し、その後マトリックス層の下にある秩序構造中のスペースを充填すると、分散したエレメント間に実質的に1次元膨張が発生し、あまり密接ではなく充填された秩序構造を形成することを見出した。このように、方法は、マトリックス層の全部又は一部を除去することを含む。図2で工程3に示されるように、マトリックス層は、基材に対して垂直又は他の方向へ裂くか又は剥離することにより除去される。マトリックス層は、生じる秩序構造の一端で刃を用ることなどにより任意選択的に切断されて、層の利用や以後の除去を可能にする。ある態様において、除去は、接着剤層との結合によっては進行しない。
【0032】
第2のマトリックス材料は、第1のマトリックス材料中の任意の空間を満たすために使用され、これは、工程4に例示されるように、不可逆的なより長い格子定数を与える。第2のマトリックス材料によるこの充填は、分散したエレメントの周りの第1のマトリックス材料との相互作用を可能にする。特定の理論に限定されるものではないが、第1のマトリックス材料と第2のマトリックス材料との相互作用は、分散したエレメント間の膨張を引き起こす。また、横方向の膨潤は、基材の存在により遅延されると考えられる。このように、分散したエレメント間の膨張は、主に垂直方向(すなわち、基材に対して垂直)であり、より長い格子定数をZ軸方向に作り出す。第2のマトリックス材料の硬化は、分散したエレメント間の主に1次元の膨張を固定し、最初の秩序構造に対してより長い格子定数を有する第2の秩序構造の形成を引き起こす。
【0033】
工程3および4の除去と充填を繰り返すことにより、分散したエレメント間の空間を大きくすることができ、結果としてフォトニック結晶材料やフォノニック結晶材料の特性は、ユーザーが望む程度に不可逆的に変更される。試験は、シリカ又はポリスチレン球などの分散したエレメントへの観察可能な損傷を与えることなく、除去と充填の20回以上の繰り返しが可能であることを示す。分散したエレメントの緩く充填された秩序構造を形成するために使用される除去と充填の繰り返し数は、任意選択的に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20回、又はそれ以上である。ある態様において、最後の充填工程は、マトリックス層が存在しないか、又は前の充填工程後のマトリックス層と比較して厚さが小さくなるように、分散したエレメント上に余分なマトリックス材料が伸びてこないように行われる。
【0034】
除去と充填の工程は、永続的な構造のフォトニック結晶又はフォノニック結晶として使用できる分散したエレメントの不可逆的な緩い秩序構造を、初めて作り出す。
【0035】
また、本明細書に記載の方法により形成されるフォトニック結晶又はフォノニック結晶が提供される。例えば、所望のエネルギー又は波長の振動、音、熱、又は光を伝達しない絶縁材料が、本発明の方法により形成される。
【0036】
本発明の種々の形態は、以下の非限定例により例示される。実施例は例示目的であり、決して本発明の実施を限定するものではない。発明の精神と範囲から逸脱することなく種々の変更や修飾が可能であることは、理解されるであろう。
【実施例】
【0037】
秩序ある充填されたコロイド結晶の形成
ポリスチレン(PS)球の分散物の緩く充填された秩序構造が作成される。PS球(直径200nm)は、 Polysciences (Warrington, PA), Seradyn (Indianapolis, IN), 又は Duke Scientific (Palo Alto, CA)から得られ、結晶化のために直接又は超純水で希釈して使用された。コロイド結晶の最初の秩序だった3D構造は、PSビーズの水性分散物をガラス基材上で乾燥させることにより作成される。ポリスチレン(PS)ビーズの水分散物(0.423ml)を標準的カバーガラス(23mm×23mm)の上に置き、沈降させて薄い液体膜とした。次に液体膜の表面をシリコーン液(OMS−T11,10cSt)の薄層(100μl)で完全に覆った。次にカバーガラスを、室温(約25℃)で振動の無い実験台の上に置き、液体シリコーンの薄皮を介する拡散(端からだけではない)により水をゆっくり蒸発させた。蒸発の間、水の蒸発中に生成された毛細管引力により、PSビーズは長い秩序だった乳白色の格子にされた。
【0038】
結晶化して秩序格子とした後、液体シリコーンの薄皮を、キムワイプを使用してコロイド結晶の表面から注意深く除去し、PSビーズ中の空隙をポリジメチルシロキサン(PDMS)のプレ混合エラストマー(Dow Corning, Midland, MI (Sylgard 184))(200μl)を用いて毛細管現象を介して完全に充填した。次にPDMSエラストマーを室温で一晩空気硬化させ、次にさらに65℃で6時間硬化させた。
【0039】
鋭いナイフを使用して、結晶の一端にスリットを作成し、スリットの上のマトリックス層を縦方向に剥がした。縦の剥離は、ビーズ間の分離の露出を作り出したか又はこれを可能にした。第2の量のPDMSエラストマーをより緩く充填されたビーズの表面に加え、毛細管作用により構造中に浸透させた。次にこの第2のマトリックス材料を、第1のPDMSエラストマーと同じ方法により硬化させて、不可逆的に緩く充填されたビーズのアレイを形成した。
【0040】
所望の面間d−間隔に到達するために、剥離/充填段階を繰り返した。興味深いことに、ガラス基材上に維持されたPSビーズに観察できるほどの傷害を与えることなく、前のPDMSマトリックス層を剥がすことができる。
【0041】
本明細書に示し説明したもの以外の本発明の種々の修飾は、上記記載の当業者には明らかであろう。そのような修飾もまた、添付の特許請求の範囲に包含されると意図される。
【0042】
すべての試薬と材料は、特に別の指定がなければ、当業者に公知の供給源から得られる。
【0043】
本明細書で言及した特許、刊行物、及び出願は、本発明が関係する当業者の水準を示している。これらの特許、刊行物、又は出願は、各特許、刊行物、又は出願が具体的かつ個別に参照により本明細書に取り込まれた場合と同じ程度に参照により本明細書に取り込まれる。
【0044】
上記の説明は、本発明の具体的な態様の例示であるが、その実施を限定することを意図しない。その全ての同等物を含む以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲を規定することを意図している。本明細書に開示される発明は以下の実施形態を含む。
(1) マトリックス材料中に埋め込まれた第1の秩序構造の分散したエレメントであって、該構造が初期格子定数を有する、エレメントと、
該マトリックス材料でできたマトリックス層であって、該マトリックス層が基材の反対側にある該分散したエレメントの上に伸びる、マトリックス層と、を提供する工程と、
該第1の秩序構造から該マトリックス層を除去する工程と、
該第1の秩序構造を第2のマトリックス材料で満たして、該第1の秩序構造におけるより大きい長さを有する格子定数を有する第2の秩序構造を形成させる工程と、
該第2のマトリックス材料を硬化させて、不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成させる工程と、
を含む、不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成させる、方法。
(2)該より大きい長さが、該基材の平面に対するZ軸に沿っている、上記(1)に記載の方法。
(3)該除去する工程が、該第1の秩序構造から該マトリックス層を剥がすことまたは引き裂くことによっている、上記(1)に記載の方法。
(4)該格子定数が、該除去する方向に平行である、上記(1)に記載の方法。
(5)該分散したエレメントの少なくとも一部が、1nm〜10mmの直径を有する、上記(1)に記載の方法。
(6)該分散したエレメントが、非弾性材料でできている、上記(1)に記載の方法。
(7)該分散したエレメントが、ポリスチレン、シリカ、メソ多孔質シリカ、またはポリ(メタクリル酸メチル)である、上記(1)に記載の方法。
(8)該マトリックス材料が、ポリジメチルシロキサンである、上記(1)に記載の方法。
(9)該第2の秩序構造から該第2のマトリックス材料でできた第2のマトリックス層を除去する工程と、
該第2の秩序構造を第3のマトリックス材料で満たして、該第2の秩序構造に対する該格子定数の長さを増加させる工程と、
該第3のマトリックス材料を硬化させて、不可逆的に緩く充填された秩序構造である第3の秩序構造を形成させる工程と、
をさらに含む、上記(1)に記載の方法。
(10)マトリックス材料中に埋め込んだ第1の秩序構造の分散したエレメントであって、該構造が初期格子定数を有する、エレメントと、
該分散したエレメントの上に伸びるマトリックス層であって、該マトリックス材料でできたマトリックス層と、を密に充填されたフォトニック結晶に提供する工程と、
該構造から該マトリックス層を除去する工程と、
該秩序構造を第2のマトリックス材料で満たして、該第1の秩序構造におけるより大きい長さを有する該格子定数を有する第2の秩序構造を形成する工程と、
該第2のマトリックス材料を硬化させて、不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成させる工程と、
を含む、不可逆的に緩く充填されたフォトニック結晶を生成させる、方法。
(11)該分散したエレメントが、ポリスチレンビーズまたは固体シリカである、上記(10)に記載の方法。
(12)該分散したエレメントが、ポリスチレンである、上記(10)に記載の方法。
(13)該第1のマトリックス材料または該第2のマトリックス材料が、ポリジメチルシロキサンである、上記(10)に記載の方法。
(14)該分散したエレメントが、ポリスチレンである、上記(13)に記載の方法。
(15)該第2の秩序構造から該第2のマトリックス材料でできた第2のマトリックス層を除去する工程と、
該第2の秩序構造を第3のマトリックス材料で満たして、該第2の秩序構造におけるより大きい長さを有する該格子定数を有する第3の秩序構造を形成させる工程と、
該第3のマトリックス材料を硬化させて、それによって不可逆的に緩く充填された秩序構造を形成させる工程と、をさらに含む上記(10)に記載の方法。
(16)該分散したエレメントが、ポリスチレンビーズまたは固体シリカである、上記(15)に記載の方法。
(17)該分散したエレメントが、ポリスチレンである、上記(15)に記載の方法。
(18)該第3のマトリックス材料が、ポリジメチルシロキサンである、上記(15)に記載の方法。
(19)該分散したエレメントが、ポリスチレンである、上記(18)に記載の方法。
(20)該分散したエレメントが、50〜1000nmの直径を有する、上記(10)または(15)に記載の方法。
(21)該第1のマトリックス材料、該第2のマトリックス材料および該第3のマトリックス材料が同じ組成を有する、上記(9)または(15)に記載の方法。
図1
図2