(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部を自身の先端側に有するセンサ部と、前記検知部を加熱するための発熱部であって電力により発熱する発熱部を有するヒータ部と、を備えるガスセンサ素子と、
前記発熱部への電圧印加を行う電圧制御部と、
を備えるガス検出装置であって、
前記センサ部は、酸素イオン伝導性を有する板状の固体電解質体と、前記固体電解質体のうち先端側領域に形成される一対の電極部と、を備え、
前記ヒータ部は、前記発熱部が埋設される板状のヒータ基板を備え、
前記固体電解質体および前記ヒータ基板は、ジルコニアを主体とする材料で構成されており、
前記電圧制御部は、前記ガスセンサ素子の温度が900℃となるように前記発熱部に通電する際に、前記発熱部に印加する発熱用電圧として、周波数が100[Hz]以上であり、かつ、実効電圧値が20.3[V]以下の交流電圧を出力し、
前記固体電解質体および前記ヒータ基板は、アルミナをさらに含有し、該アルミナと前記ジルコニアとの合計を100質量%とした場合に、該アルミナは0.15質量%〜0.50質量%であり、
前記発熱部の抵抗値は、17.0Ω以下であること、
を特徴とするガス検出装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記従来のガスセンサ素子は、固体電解質体(ジルコニア)とアルミナとの熱膨張率差を所定範囲内に設定する必要があるために、ジルコニアの種類(構成相(C相、M相、T相)やX線回折強度比など)が制限されてしまう。
【0009】
つまり、アルミナとの熱膨張率差を所定範囲内に設定できないジルコニアは、センサ部の固体電解質体として利用できない。
そこで、本発明は、センサ部の固体電解質体としてジルコニアを用いるガスセンサ素子を備えるガス検出装置において、センサ部の固体電解質体としてのジルコニアの種類(構成相(C相、M相、T相)やX線回折強度比など)が制限されることなく、特定ガスを検出できるガス検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部を自身の先端側に有するセンサ部と、検知部を加熱するための発熱部であって電力により発熱する発熱部を有するヒータ部と、を備えるガスセンサ素子と、発熱部への電圧印加を行う電圧制御部と、を備えるガス検出装置である。
【0011】
センサ部は、酸素イオン伝導性を有する板状の固体電解質体と、固体電解質体のうち先端側領域に形成される一対の電極部と、を備える。ヒータ部は、発熱部が埋設される板状のヒータ基板を備える。固体電解質体およびヒータ基板は、ジルコニアを主体とする材料で構成されている。
【0012】
電圧制御部は、発熱部に印加する発熱用電圧として、周波数が100[Hz]以上であり、かつ、実効電圧値が20.3[V]以下の交流電圧を出力する。
このガス検出装置に備えられるガス検出素子は、センサ部の固体電解質体およびヒータ部のヒータ基板が同一材料(ジルコニアを主体とする材料)で構成されているため、センサ部とヒータ部との間に熱膨張率などの差による熱応力が発生することを抑制できる。
【0013】
また、ヒータ部の発熱部に印加する発熱用電圧が、直流電圧ではなく交流電圧であり、特に、交流電圧の周波数や実効電圧値が上記範囲に設定されることで、ヒータ部のヒータ基板(ジルコニアを主体とする材料)にブラックニングが発生することを抑制できる。つまり、直流電圧のように同一方向の電流を継続的に通電するのではなく、上記周波数で通電方向が変化する交流電圧を印加することで、ジルコニアにおける酸素イオンの欠乏を抑制でき、ブラックニングの発生を抑制できる。
【0014】
さらに、ヒータ部の発熱部に印加する発熱用電圧の実効電圧値を上記範囲に制限することで、ガスセンサ素子の破損を抑制できる。
よって、本発明のガス検出装置によれば、センサ部の固体電解質体としてジルコニアを用いるガスセンサ素子を備えるガス検出装置において、センサ部の固体電解質体としてのジルコニアの種類(構成相(C相、M相、T相)やX線回折強度比など)が制限されることが無くなる。
【0015】
次に、上記のガス検出装置においては、ガスセンサ素子におけるジルコニアは、部分安定化ジルコニアであってもよい。
部分安定化ジルコニアは、完全安定化ジルコニアよりも強度が高いことから、高い素子強度が要求される用途のガスセンサ素子に利用することができる。また、部分安定化ジルコニアは、アルミナと同等以上の強度を有することから、本発明のガスセンサ素子は、アルミナを用いて構成されたガスセンサ素子よりも素子強度が向上する。
【0016】
次に、上記のガス検出装置においては、固体電解質体およびヒータ基板は、アルミナをさらに含有し、アルミナとジルコニアとの合計を100質量%とした場合に、アルミナは0.15質量%〜0.50質量%としてもよい。
【0017】
このような微量のアルミナが含有されることで、固体電解質体およびヒータ基板の焼成温度が低くなるため、ガスセンサ素子の製造時における焼成温度を低くすることができ、焼成温度が高いことで生じる電極部などの緻密化を抑制できる。つまり、電極部の緻密化を抑制することで、電極部におけるガスの拡散が良好となり、ガスセンサ素子が活性化しやすくなる。
【0018】
また、絶縁性材料であるアルミナの含有量を0.50質量%以下に制限することで、ジルコニアの酸素イオン伝導性の悪化を抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、センサ部の固体電解質体としてジルコニアを用いるガスセンサ素子を備えるガス検出装置において、センサ部の固体電解質体としてのジルコニアの種類(構成相(C相、M相、T相)やX線回折強度比など)が制限されることなく、特定ガスを検出できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、以下に示す実施形態では、ガスセンサ素子の一種である酸素センサ素子を備えるガス検出装置1を例に挙げる。この酸素センサ素子は、自動車や各種内燃機関における空燃比フィードバック制御に使用するために、測定対象となる排気ガス中の特定ガス(酸素)を検出する全領域空燃比センサ素子である。
【0022】
[1.第1実施形態]
[1−1.全体構成]
図1は、本発明が適用されたガス検出装置1の概略構成を示す構成図である。
【0023】
本実施形態のガス検出装置1は、ガスセンサ素子7、制御装置42、ヒータ電圧供給装置43を備えている。
図2は、ガスセンサ素子7を分解した斜視図である。
【0024】
ガスセンサ素子7は、酸素を検出するための酸素センサ素子である。ガスセンサ素子7は、積層方向における一方の側(
図2の上側)に配置されて長手方向(
図2の左右方向)に伸びる板状のセンサ部71と、積層方向におけるセンサ部71の反対側(裏側)に配置されて同じく長手方向に延びる板状のヒータ73と、が積層されて直方体形状に構成されている。
【0025】
センサ部71は、その先端側(
図2における左側)に、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部90を備える。
このうち、センサ部71は、固体電解質体75の両側に多孔質電極77,79を形成した酸素濃淡電池セル81と、同じく固体電解質体83の両側に多孔質電極85,87を形成した酸素ポンプセル89と、これらの両セル81,89の間に積層され、中空のガス測定室91を形成するためのスペーサ93と、を備えて構成される。なお、固体電解質体75,83は、イットリアを安定化剤として固溶させた部分安定化ジルコニアを主体としてアルミナが微量添加された材料で形成され、多孔質電極77,79,85,87は、Ptを主体に形成される。また、固体電解質体75,83におけるアルミナの含有量は、0.25質量%である。
【0026】
なお、「部分安定化ジルコニアを主体に形成」とは、部分安定化ジルコニアの含有量が50vol%以上で形成されることを意味しており、「Ptを主体に形成」とは、Ptの含有量が50vol%以上で形成されることを意味している。
【0027】
また、ガス測定室91を形成するスペーサ93は、部分安定化ジルコニアを主体としてアルミナが微量添加された材料で構成されており、中空のガス測定室91の内側には、酸素濃淡電池セル81の一方の多孔質電極77と、酸素ポンプセル89の一方の多孔質電極87が露出するように配置されている。スペーサ93におけるアルミナの含有量は、0.25質量%である。
【0028】
センサ部71の側面(スペーサ93の側面)には、排気ガス(測定対象ガス)の取り込み口となる2つのガス導入部94が形成されており、ガス導入部94は、ガス測定室91に連通している。2つのガス導入部94からガス測定室91までの各経路には、拡散律速部95が形成されている。拡散律速部95は、例えば、ジルコニア等からなる多孔質体で構成されており、測定対象ガスがガス測定室91へ拡散する際の律速を行う。拡散律速部95は、その一部がガス導入部94から露出する状態で備えられている。
【0029】
つまり、このガスセンサ素子7においては、ガス導入部94は異なる2方向に向けて形成されており、拡散律速部95は、異なる2方向に向けて露出している。
更に、センサ部71のうち酸素ポンプセル89には部分安定化ジルコニアを主体としてアルミナが微量添加された材料で形成された基板97が積層されており、この基板97には、拡散律速部95と同様に、ジルコニア等からなる多孔質体で構成された通気部99が埋設されている。この通気部99は、酸素ポンプセル89の多孔質電極85を測定対象ガスに晒している。基板97におけるアルミナの含有量は、0.25質量%である。
【0030】
なお、ガス測定室91は、センサ部71のうち先端側(
図2における左側)に位置するように形成されている。センサ部71の長手方向のうち、ガス測定室91の形成領域およびガス測定室91よりも先端側となる領域は、酸素を検知するための検知部90として備えられる。
【0031】
一方、ヒータ73は、部分安定化ジルコニアを主体としてアルミナが微量添加された材料で形成されたヒータ基板101、103の間に、Ptを主体とする発熱抵抗体パターン105が挟み込まれて形成されている。ヒータ基板101、103におけるアルミナの含有量は、0.25質量%である。
【0032】
このようなガスセンサ素子7においては、後端側(
図2における右側)の外表面のうち表裏の位置関係となる第1主面21および第2主面23に、電極パッド25,27,29,31,33が形成されている。具体的には、第1主面21の後端側(
図2における右側)に3個の電極パッド25,27,29が形成され、第2主面23の後端側に2個の電極パッド31、33が形成されている。
【0033】
このうち、電極パッド29は、
図2に示すように、基板97に設けられるスルーホール161、固体電解質体83に設けられるスルーホール165、スペーサ93に設けられるスルーホール171を介して、ガス測定室91の内側に露出する酸素濃淡電池セル81の一方の多孔質電極77に電気的に接続される。また、この電極パッド29は、基板97に設けられるスルーホール161、固体電解質体83に設けられるスルーホール165を介して、ガス測定室91の内側に露出する酸素ポンプセル89の一方の多孔質電極87にも電気的に接続される。よって、多孔質電極77と多孔質電極87とは、同電位で電気的に接続される。
【0034】
また、電極パッド27は、
図2に示すように、基板97に設けられるスルーホール162、固体電解質体83に設けられるスルーホール166、スペーサ93に設けられるスルーホール172、固体電解質体75に設けられるスルーホール176を介して、酸素濃淡電池セル81の他方の多孔質電極79と電気的に接続される。更に、電極パッド25は、
図2に示すように、基板97に設けられるスルーホール163を介して、酸素ポンプセル89の他方の多孔質電極85と電気的に接続されている。
【0035】
また、電極パッド31、33は、
図2に示すように、ヒータ基板103に設けられたスルーホール181,182を介して、発熱抵抗体パターン105の両端に、各々電気的に接続されている。
【0036】
このような構成のガスセンサ素子7は、排気管に備えられることで、排気ガス中に含まれる酸素を検出する。
次に、制御装置42は、CPU,RAM,ROMおよび入出力部を有するマイクロコンピュータを備えて構成されており、ガスセンサ素子7によるガス検出に関する各種制御処理を行うものである。
【0037】
なお、制御装置42は、起電力Vsに基づいて酸素濃度を判定する酸素濃度判定処理や、抵抗値信号Srをヒータ電圧供給装置43に対して出力する抵抗値信号出力処理などの各種制御処理を実行している。
【0038】
例えば、酸素濃度判定処理は、ガス測定室91の酸素濃度を目標濃度に近づけるように、酸素ポンプセル89による酸素のポンピング(汲み入れ、くみ出し)動作を制御するために、ポンプ電流Ipを制御する処理を実行する。なお、ガス測定室91の酸素濃度は、酸素濃淡電池セル81を用いて検出する。
【0039】
また、抵抗値信号出力処理は、パルス電流を酸素濃淡電池セル81に通電したときの多孔質電極間(詳細には、多孔質電極77−79)の電圧値の変化量に基づいて、酸素濃淡電池セル81の多孔質電極間の電気抵抗値Rpvsを検出し、電気抵抗値Rpvsに応じた抵抗値信号Srをヒータ電圧供給装置43に対して出力する処理である。なお、電気抵抗値Rpvsはセルの温度に応じて値が変化する。
【0040】
ヒータ電圧供給装置43は、制御装置42からの抵抗値信号Srに基づいて、ガスセンサ素子7(詳細には、センサ部71の検知部90)の温度Tcを判定し、判定した温度Tcに基づきガスセンサ素子7の温度が目標温度に近づくようにヒータ73(詳細には、発熱抵抗体パターン105)への印加電圧を制御している。このヒータ電圧供給装置43は、ヒータ73に印加する発熱用電圧VHとして交流電圧を出力する。この発熱用電圧VHとしての交流電圧は、周波数が100[Hz]であり、かつ、実効電圧値が20.3[V]以下である。つまり、ヒータ電圧供給装置43は、ガスセンサ素子7の温度が目標温度に近づくように、発熱用電圧VHの実効電圧値を制御している。
【0041】
このように、ガスセンサ素子7、制御装置42、ヒータ電圧供給装置43を備えて構成されたガス検出装置1は、内燃機関の排気ガス中に含まれる酸素を検出する。検出した酸素濃度は、空燃比フィードバック制御に使用される。
【0042】
[1−2.ヒータ基板の材料の違いによる昇温特性の比較]
ヒータ73を構成するヒータ基板101,103の材料の違いによる昇温特性の比較試験の試験結果について説明する。
【0043】
具体的には、ヒータ73を構成するヒータ基板101,103をジルコニアで構成したガスセンサ素子7(実施例1)と、ヒータ73を構成するヒータ基板101,103をアルミナで構成したガスセンサ素子(比較例1)と、を用いて、ヒータへの電圧印加時間と素子温度との相関関係(昇温特性)を比較した。
【0044】
図3の測定結果に示すように、実施例1(ジルコニア)は、比較例1(アルミナ)に比べて、単位時間あたりの温度上昇幅が大きくなっている。具体的には、ヒータへの電圧印加開始から素子温度が800[℃]に到達するまでの所要時間は、実施例1は約4[sec]であるのに対して、比較例1は、約11[sec]である。
【0045】
このことから、実施例1のガスセンサ素子7は、比較例1に比べて、短時間で素子温度を上昇させることができ、昇温特性に優れていることが分かる。
[1−3.ヒータ温度およびヒータ印加電圧の周波数に対するブラックニングの発生状況]
ヒータ温度およびヒータ印加電圧の周波数を変化させて、ヒータでのブラックニングの発生状況を調査した試験結果について説明する。
【0046】
具体的には、部分安定化ジルコニアを主体とするヒータ基板101,103を備えるヒータ73を用いて、ヒータ温度およびヒータ印加電圧の交流周波数をそれぞれ変化させた場合に、ヒータ基板101,103でのブラックニングの発生状況を調査した。
【0047】
なお、この試験に用いたヒータ73は、製造工程において450[℃]で脱脂した後、1425[℃]で焼成することで得たヒータである。また、本試験では、ヒータ通電開始から10分経過後に、目視によりヒータ73の表面におけるブラックニングの有無を確認した。さらに、本試験では、ヒータ温度を700〜900[℃]の範囲で変化させると共に、交流周波数を1〜10000[Hz]の範囲内で変化させた。
【0048】
本試験の試験結果を
図4に示しており、横軸を周波数[Hz]とし、縦軸をヒータ温度[℃]とする平面上において、「ブラックニングなし」を「○」印で表し、「ブラックニング有り」を「×」印で表した。
【0049】
図4の試験結果に示すように、ヒータ印加電圧の交流周波数が100[Hz]以上となる場合には、全てのヒータ温度において、ヒータ基板でのブラックニングが発生していない。このため、ヒータ基板を部分安定化ジルコニアで構成した場合であっても、ヒータ印加電圧の交流周波数を100[Hz]以上に設定することで、ヒータ基板のブラックニングを抑制できることが分かる。
【0050】
また、
図4の試験結果によれば、ヒータ温度が800[℃]以下の場合には、ヒータ印加電圧の交流周波数が10[Hz]以上であれば、ヒータ基板でのブラックニングが発生していない。このため、ヒータ基板を部分安定化ジルコニアで構成した場合であっても、ヒータ温度が800[℃]以下の場合には、ヒータ印加電圧の交流周波数を10[Hz]以上に設定することで、ヒータ基板でのブラックニングを抑制できる。
【0051】
[1−4.ヒータ用材料の違いによる曲げ強度の比較]
ヒータ73を構成するヒータ基板101,103の材料の違いによる曲げ強度の比較試験の試験結果について説明する。
【0052】
具体的には、ヒータ基板101,103の材料として、「部分安定化ジルコニア粉末(5YSZ)」、「完全安定化ジルコニア粉末(8YSZ)」、「アルミナ粉末」の3種類の材料を用いた。3種類のヒータ用材料のそれぞれについて複数の試料を準備して、曲げ強度を測定した。
【0053】
なお、ヒータ用材料は、各粉末を金型成形した後、150[MPa]で静水圧プレスで成形し、1425〜1525[℃]の焼成温度で焼成することで得た。得られた焼成体を研磨加工した後、JIS-R-1602規格に定められた3点曲げ強度試験を実施した。
【0054】
図5の試験結果に示すように、曲げ強度は、「部分安定化ジルコニア粉末(5YSZ)」が最も大きく、次に「アルミナ粉末」が大きく、「完全安定化ジルコニア粉末(8YSZ)」が最も小さい値を示した。
【0055】
つまり、ヒータ基板が「部分安定化ジルコニア粉末(5YSZ)」で形成されたヒータは、ヒータ基板が「アルミナ」で形成された従来のヒータに比べて、曲げ強度が大きくなり、強度に優れることが分かる。
【0056】
よって、ヒータ基板を「部分安定化ジルコニア粉末(5YSZ)」で形成することで、従来のヒータよりも強度に優れたヒータを得ることができる。
[1−5.アルミナの添加量によるジルコニア基板の緻密化の比較]
次に、アルミナの添加量によるジルコニア基板の緻密化の違いについて調査した試験結果について説明する。
【0057】
具体的には、部分安定化ジルコニアを主体とする基板であって、アルミナの添加量の異なる基板を準備し、この基板を赤色の水溶液に浸して、基板にインクの浸み込みが生じるか否かによって、基板の緻密化を比較した。
【0058】
なお、本試験に用いた基板は、製造工程において、アルミナ含有量の異なる部分安定化ジルコニアシートを450[℃]で脱脂した後、1325[℃]〜1425[℃]の範囲内で焼成することで得た基板である。また、アルミナ含有量は、0(無添加)〜0.50[質量%]の範囲内で変化させており、アルミナ添加量が0.15〜0.50[質量%]の範囲内となる4種類の基板が実施例2〜実施例5であり、アルミナ添加量が0.00〜0.15[質量%]の範囲内となる2種類の基板が比較例2〜比較例3である。
【0059】
本試験の試験結果を[表1]に示す。なお、[表1]では、基板にインクの浸み込みが生じていない場合には「○」を記載し、基板にインクの浸み込みが生じた場合には「×」を記載した。
【0060】
【表1】
[表1]の試験結果に示すように、アルミナ添加量が0.15[質量%]以上となる場合には、アルミナが無添加(0[質量%])である場合に比べて、焼成温度を低下させた場合であっても、基板へのインクの浸み込みが生じないことが分かる。
【0061】
具体的には、アルミナが無添加(0[質量%])の場合、基板へのインクの浸み込みを抑制するためには、焼成温度を1400[℃]以上に設定する必要があるが、アルミナ添加量が0.15[質量%]以上の場合には、焼成温度を1350[℃]まで低下させても、基板へのインクの浸み込みを抑制できる。換言すれば、アルミナ添加量を0.15[質量%]以上に設定することで、アルミナが無添加(0[質量%])の基板と比べて、焼成温度を約50[℃]低下させた場合であっても、アルミナが無添加(0[質量%])の基板と同等の緻密化を実現できる。
【0062】
このため、ヒータ基板として、部分安定化ジルコニアを主体とする基板を用いる場合には、アルミナ添加量を0.15[質量%]以上に設定することで、焼成温度を低く設定することが可能となる。これにより、製造工程においてセンサ部71とヒータ73とを同時に焼成する場合に、センサ部71の多孔質電極77,79および多孔質電極85,87が緻密化することを抑制できる。
【0063】
このように、多孔質電極77,79および多孔質電極85,87の緻密化を抑制することで、多孔質電極77,79および多孔質電極85,87におけるガスの拡散が良好となり、ガスセンサ素子7が活性化しやすくなる。
【0064】
[1−6.焼成温度に対する酸素濃淡電池セルの内部抵抗]
次に、焼成温度に対する酸素濃淡電池セル81の内部抵抗について調査した試験結果について説明する。
【0065】
アルミナを0.25[質量%]添加した部分安定化ジルコニアを主体として構成された固体電解質体83を有する酸素濃淡電池セル81と、アルミナを0.25[質量%]添加した部分安定化ジルコニアを主体として構成されたヒータ基板101,103を有するヒータ73と、を積層して構成されたガスセンサ素子について、素子温度が350[℃]の状況下で、多孔質電極77と多孔質電極79との間の電気抵抗(酸素濃淡電池セル81の内部抵抗)を測定した。
【0066】
なお、本試験では、酸素濃淡電池セル81を所定濃度の試料ガス(リッチ雰囲気のガス)に配置し、そのときのセンサ出力を2種類の入力インピーダンス(例えば、1[MΩ]と100[kΩ])で測定し、その出力差から酸素濃淡電池セル81の内部抵抗を測定した。
【0067】
なお、本試験に用いた酸素濃淡電池セル81は、製造工程において、アルミナが微量添加された部分安定化ジルコニアシートに多孔質電極パターンを印刷し、450[℃]で脱脂した後、1425[℃]および1350[℃]で焼成することで得た。
【0068】
図6の試験結果に示すように、焼成温度が1350[℃]の場合には、焼成温度が1425[℃]の場合に比べて、酸素濃淡電池セル81の内部抵抗が小さいことが分かる。
これにより、製造工程における焼成温度が低く設定されたガスセンサ素子7は、内部抵抗が低くなり、低温時でも活性化が可能となることから、低温活性能力に優れることが分かる。
【0069】
[1−7.ヒータへの印加電圧とガスセンサ素子の破損との関係]
次に、ヒータへの印加電圧(交流電圧)を変化させた場合に、ガスセンサ素子が破損するか否かを調査した試験結果について説明する。
【0070】
具体的には、ヒータ抵抗値が異なる複数のガスセンサ素子7を作製し、素子温度が900[℃]となるようにヒータに交流電圧を印加し、10分経過した時点で、ガスセンサ素子7に破損が生じたか否かを目視で判定した。なお、ガスセンサ素子ごとにヒータ抵抗値が異なるため、同一の素子温度に制御するためのヒータへの印加電圧(交流電圧)は、ガスセンサ素子ごとにそれぞれ異なる電圧値となる。
【0071】
ヒータ抵抗値は、4.1〜18.0[Ω]の範囲内で変化させており、ヒータ抵抗値が4.1〜14.0[Ω]の範囲内となる4種類のガスセンサ素子が実施例11〜実施例14であり、ヒータ抵抗値が18.0[Ω]となる1種類のガスセンサ素子が比較例11である。
【0073】
【表2】
[表2]の試験結果に示すように、ヒータ抵抗値が17.0[Ω]以下であれば、ガスセンサ素子の破損を抑制でき、ヒータ抵抗値が18.0[Ω]以上になると、ガスセンサ素子の破損が生じることが分かる。換言すれば、ヒータへの印加電圧(交流電圧)が20.3[V]以下であれば、ガスセンサ素子の破損を抑制でき、ヒータへの印加電圧(交流電圧)が21.6[V]以上になると、ガスセンサ素子の破損が生じることが分かる。
【0074】
このため、ガスセンサ素子の破損を抑制するためには、ヒータへの印加電圧(交流電圧)は、20.3[V]以下であることが望ましく、17.9[V]以下であることがより望ましい。
【0075】
[1−8.効果]
以上説明したように、本実施形態のガス検出装置1は、センサ部71およびヒータ73を備えるガスセンサ素子7と、ヒータ73への電圧印加を行うヒータ電圧供給装置43と、を備える。
【0076】
センサ部71は、部分安定化ジルコニアを主体とする固体電解質体75,83を備えており、ヒータ73は、部分安定化ジルコニアを主体とするヒータ基板101,103を備えている。
【0077】
ガスセンサ素子7は、センサ部71の固体電解質体75,83およびヒータ73のヒータ基板101,103が同一材料(部分安定化ジルコニアを主体とする材料)で構成されているため、センサ部71とヒータ73との間に熱膨張率などの差による熱応力が発生することを抑制できる。
【0078】
また、ヒータ電圧供給装置43は、ヒータ73に印加する発熱用電圧VHとして、周波数が100[Hz]以上であり、かつ、実効電圧値が20.3[V]以下の交流電圧を出力する。このように、ヒータ73の発熱抵抗体パターン105に印加する発熱用電圧VHが、直流電圧ではなく交流電圧であり、特に、交流電圧の周波数や実効電圧値が上記範囲に設定されることで、ヒータ73のヒータ基板101,103にブラックニングが発生することを抑制できる。つまり、直流電圧のように同一方向の電流を継続的に通電するのではなく、上記周波数で通電方向が変化する交流電圧を印加することで、部分安定化ジルコニアにおける酸素イオンの欠乏を抑制でき、ブラックニングの発生を抑制できる。このことは、上述の
図4に示す試験結果から明らかである。
【0079】
さらに、ヒータ73に印加する発熱用電圧VHの実効電圧値を上記範囲に制限することで、上述の[表2]に示す試験結果から分かるように、ガスセンサ素子の破損を抑制できる。
【0080】
よって、本実施形態のガス検出装置1によれば、センサ部71の固体電解質体75,83としてジルコニアを用いるガスセンサ素子7を備える構成において、センサ部71の固体電解質体としてのジルコニアの種類(構成相(C相、M相、T相)やX線回折強度比など)が制限されることが無くなる。
【0081】
次に、ガスセンサ素子7における固体電解質体75,83およびヒータ基板101,103は、部分安定化ジルコニアを主体とする材料で構成されている。
上述の
図5に示す試験結果から明らかなように、部分安定化ジルコニアは、完全安定化ジルコニアよりも強度が高いことから、本実施形態のガスセンサ素子7は、高い素子強度が要求される用途に利用することができる。また、部分安定化ジルコニアは、アルミナと同等以上の強度を有することから、ガスセンサ素子7は、アルミナを用いて構成されたガスセンサ素子よりも素子強度が向上する。
【0082】
次に、ガスセンサ素子7における固体電解質体75,83およびヒータ基板101,103は、それぞれアルミナの含有量が0.25質量%である。
上述の[表1]に示す測定結果から分かるように、0.15質量%以上のアルミナを含有することで、固体電解質体75,83およびヒータ基板101,103の焼成温度が低くなるため、ガスセンサ素子7の製造時における焼成温度を低くすることができ、焼成温度が高いことで生じる多孔質電極77,79および多孔質電極85,87の緻密化を抑制できる。つまり、多孔質電極77,79および多孔質電極85,87の緻密化を抑制することで、多孔質電極77,79および多孔質電極85,87におけるガスの拡散が良好となり、ガスセンサ素子7が活性化しやすくなる。
【0083】
また、上述の
図6の試験結果から分かるように、製造工程における焼成温度が低く設定されたガスセンサ素子7は、センサの内部抵抗が低くなり、低温時でも活性化が可能となることから、低温活性能力に優れる。
【0084】
さらに、絶縁性材料であるアルミナの含有量を0.50質量%以下に制限することで、ジルコニアの酸素イオン伝導性の悪化を抑制できる。
また、
図3の測定結果から分かるように、本実施形態のガスセンサ素子7は、固体電解質体75,83およびヒータ基板101,103が部分安定化ジルコニアを主体とする材料で構成されるため、ヒータ基板がアルミナで構成されたガスセンサ素子と比べて、短時間で素子温度を上昇させることができることから、昇温特性に優れている。
【0085】
[1−9.特許請求の範囲との対応関係]
ここで、特許請求の範囲と本実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。
検知部90が検知部の一例に相当し、センサ部71がセンサ部の一例に相当し、ヒータ73がヒータ部の一例に相当し、ガスセンサ素子7がガスセンサ素子の一例に相当し、制御装置42およびヒータ電圧供給装置43が電圧制御部の一例に相当している。
【0086】
固体電解質体75,83が固体電解質体の一例に相当し、多孔質電極77,79が一対の電極部の一例に相当し、多孔質電極85,87が一対の電極部の一例に相当し、発熱抵抗体パターン105が発熱部の一例に相当し、ヒータ基板101,103がヒータ基板の一例に相当している。
【0087】
[2.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0088】
例えば、固体電解質体およびヒータ基板におけるアルミナの含有量は、0.25質量%に限られることはなく、0.15質量%〜0.50質量%の範囲内であれば、任意の値を採ることができる。
【0089】
また、ヒータ電圧供給装置43が出力する発熱用電圧VH(交流電圧)の周波数は、100[Hz]に限られることはなく、100[Hz]以上であれば、任意の値を採ることができる。さらに、ヒータ電圧供給装置43が出力する発熱用電圧VH(交流電圧)の実効電圧値は、20.3[V]以下に限られることはなく、15.0[V]以下であってもよい。
【0090】
また、ガスセンサ素子は、酸素を検出するための酸素センサ素子に限られることはなく、NOxを検出するためのNOxセンサ素子など、固体電解質体を有するセンサ部とヒータ部とを備えるガスセンサ素子であれば、他の種類の特定ガスを検出するためのガスセンサ素子であってもよい。