(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源と、前記種光源から出力されるパルス光を増幅するファイバ増幅器と、前記ファイバ増幅器から出力されるパルス光を増幅する固体増幅器と、前記固体増幅器から出力されるパルス光を波長変換して出力する非線形光学素子と、を備えているレーザ光源装置であって、
前記ファイバ増幅器と前記固体増幅器との間に、前記ファイバ増幅器から出力されたパルス光から特定波長範囲の光を回折して前記固体増幅器に導くボリューム・ブラッグ・グレーティングを備えているレーザ光源装置。
前記ファイバ増幅器から出力されたパルス光を前記ボリューム・ブラッグ・グレーティングに向けて反射し、または前記ボリューム・ブラッグ・グレーティングで回折された特定波長範囲の光を前記固体増幅器に向けて反射する反射ミラーをさらに備えている請求項1記載のレーザ光源装置。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光は様々な加工に用いられている。波長が532nmから1064nm付近のレーザ光はエネルギー強度が大きく、金属やガラス等の切断または溶接等の各種の加工に好適に用いられている。また、波長が200nmから350nm付近の深紫外領域のレーザ光は電子材料や複合材料の加工に用いられている。
【0003】
近赤外領域よりも短い波長のレーザ光を出力するレーザ光源装置は、近赤外領域の波長のレーザ光を出力する種光源と、種光源から出力されるレーザ光を増幅する光増幅器と、光増幅器で増幅されたレーザ光の波長を目的とする波長に変換する非線形光学素子を備えて構成されている。
【0004】
そして、パルス幅が数百ピコ秒以下で周波数が数百メガヘルツ以下のピークパワーが大きなレーザパルス光を得ることができるように様々な種光源が選択されて、様々な光増幅器等が用いられている。
【0005】
従来、このような種光源として繰返し周波数が数十メガヘルツのモード同期レーザを用い、当該種光源から出力されたパルス光を分周することにより数キロヘルツのパルス光を得るように構成されたものがあった。
【0006】
しかし、モード同期レーザの発振周波数は温度や振動等の環境的な要因で変動し、その値を適正に制御することが困難であるため、受光素子等を用いて検出したレーザパルス光の発振周波数に同期して分周する必要があり、そのための回路構成が複雑になるという問題や、モード同期レーザの構成部品である過飽和吸収体が劣化し易く、長期安定駆動が困難であるという問題があった。
【0007】
そこで、パルス光の発振周波数の制御が可能な半導体レーザを種光源に用いることが考えられるが、このような半導体レーザから出力される近赤外のパルス光のパルスエネルギーは数ピコジュールから数百ピコジュールと非常に小さく、最終的に数十マイクロジュールから数十ミリジュールのパルスエネルギーのパルス光を得るためには、従来の種光源を使用する場合よりも大幅に増幅する必要がある。
【0008】
そのための光増幅器として、エルビウム・ドープト・ファイバ増幅器やイッテルビウム・ドープト・ファイバ増幅器等のファイバ増幅器や、イットリウム・アルミニウム・ガーネットにネオジウムを添加したNd:YAG、イットリウム・バナデートにネオジウムを添加したNd:YVO4等の固体増幅器が好適に用いられる。
【0009】
特許文献1,2には、このようなファイバ増幅器と固体増幅器を組み合わせた光増幅器が開示されている。当該特許文献1,2に示されているように、ファイバ増幅器及び固体増幅器の何れも、レーザ活性領域でのポンプ作用で増幅対象となるレーザ光と同じ波長の光を増幅するために、励起用の光源を備える必要がある。そして、通常、このような励起用の光源として半導体レーザが用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、モード同期レーザの代替として半導体レーザを種光源に用いる場合には、大きなエネルギー強度のレーザパルス光を得るために、単一または複数のファイバ増幅器及び固体増幅器を用いる必要がある。
【0012】
この場合、前段のファイバ増幅器による増幅の過程で生じる自然放出光ノイズ(以下、「ASEノイズ(Amplified Spontaneous Emission Noise)」と記す。)が種光源からのパルス光に重畳され、さらにチャーピング現象や光ファイバ内の自己位相変調やラマン散乱等によって広帯域化されたパルス光が後段の固体増幅器で増幅されることとなり、増幅のために固体増幅器に注入される励起光のエネルギーの一部がこのようなノイズ成分の増幅に無駄に消費されるという問題があった。
【0013】
このような状況でパルス光を所定強度に増幅するためには、固体増幅器に過剰な励起エネルギーを注入する必要があり、固体増幅器のエネルギー利用効率が低下するばかりか発熱が大きくなり、冷却のために大型の冷却機構が必要となり、部品コスト等も増大するという問題があった。
【0014】
パルス光の周波数がメガヘルツの位数より大きければ、ASEノイズは極僅かであるためさほど問題とならないが、パルス光の発振周波数が1メガヘルツよりも低い領域ではASEノイズ等の影響を十分に考慮しなければならなかった。
【0015】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、固体増幅器でパルス光を増幅する際のエネルギー利用効率を向上させるとともに、固体増幅器の発熱ロスを低減して、比較的安価で小型のレーザ光源装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するため、本発明によるレーザ光源装置の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源と、前記種光源から出力されるパルス光を増幅するファイバ増幅器と、前記ファイバ増幅器から出力されるパルス光を増幅する固体増幅器と、前記固体増幅器から出力されるパルス光を波長変換して出力する非線形光学素子と、を備えているレーザ光源装置であって、前記ファイバ増幅器と前記固体増幅器との間に、前記ファイバ増幅器から出力されたパルス光から特定波長範囲の光を回折して前記固体増幅器に導く
ボリューム・ブラッグ・グレーティングを備えている点にある。
【0017】
ファイバ増幅器で増幅される過程で光ファイバ内の自己位相変調やラマン散乱等によって広帯域化されたパルス光は、ボリューム・ブラッグ・グレーティング(Volume Bragg Grating)(以下、「VBG」とも記す。)で回折されて固体増幅器に導かれる。VBGによって特定波長範囲に狭帯域化された回折光は、非線形光学素子により波長変換可能な許容波長範囲から逸脱する波長成分が効果的に除去される。つまり、VBGは周波数領域でASEノイズ等を除去するノイズフィルタとして機能する。VBGは汎用されている回折格子と比べて回折効率に優れ、精度がよいため極めて好適に使用できる。また、例えば反射型のVBGを用いる場合には、所望の波長域の回折光のみが反射されるようになり、波長域の異なる回折光から所望の波長域の回折光を選択するフィルタ機構が不要になるという利点もある。
【0018】
このような構成を備えることによって、固体増幅器の活性領域に過剰なエネルギーを供給する必要がなくなるので大型の冷却機構も不要となり、比較的安価で小型のレーザ光源装置を実現できるようになる。
【0019】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記ファイバ増幅器から出力されたパルス光を前記ボリューム・ブラッグ・グレーティングに向けて反射し、または前記ボリューム・ブラッグ・グレーティングで回折された特定波長範囲の光を前記固体増幅器に向けて反射する反射ミラーをさらに備えている点にある。
【0020】
所望の波長域のパルス光を回折するためにVBGの回折角度の微妙な調整が必要になる。そのような場合でもVBGの前段または後段に反射ミラーを設けることで容易且つ確実に回折光の光軸を目標とする光軸に合わせることができるようになる。
【0021】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記ファイバ増幅器の後段に前記特定波長範囲を含む波長範囲の光を透過するバンドパスフィルタを備えている点にある。
【0022】
種光源から出力されるパルス光がファイバ増幅器で増幅される過程で広帯域化され、またパルス光にASEノイズが重畳しても、バンドパスフィルタによって特定波長範囲を含む波長範囲にスペクトル幅が制限されるようになるので、後段の増幅器に与える影響を低減できるようになる。例えば、ファイバ増幅器が複数設けられる場合でも、前段のファイバ増幅器で増幅される過程でパルス光に重畳したASEノイズがある程度除去されて後段のファイバ増幅器に入力されるので、全体としてエネルギー効率がよくなる。
【0023】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記種光源がDFBレーザで構成され、前記DFBレーザが数メガヘルツ以下の周波数で、且つ、数百ピコ秒以下のパルス幅で駆動するように構成されている点にある。
【0024】
種光源としてDFBレーザを用いてゲインスイッチング法を適用することによって、単一縦モードで発振し、定常状態よりも高強度のパルス光が得られる。ゲインスイッチング法によれば、単発のパルス光を含む数メガヘルツ以下の所望の周波数で、数百ピコ秒以下の所望のパルス幅のパルス光を容易に生成することができ、このようなパルス光に上述の回折格子を用いることによって、高い平均出力で且つ所望の波長のパルス光を効率よく得ることができるようになる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明した通り、本発明によれば、固体増幅器でパルス光を増幅する際のエネルギー利用効率を向上させるとともに、固体増幅器の発熱ロスを低減して、比較的安価で小型のレーザ光源装置を提供することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明によるレーザ光源装置の実施形態を説明する。
図1には、本発明によるレーザ光源装置1の一例となる構成が示されている。レーザ光源装置1は、光源部1Aと、ファイバ増幅部1Bと、固体増幅部1Cと、波長変換部1Dとが光軸Lに沿って配置され、さらに光源部1A等を制御する制御部100を備えて構成されている。
【0028】
光源部1Aには、種光源10と、種光源用のドライバD1と、光アイソレータISL1等を備えている。ファイバ増幅部1Bには、それぞれレーザダイオードで構成される励起用光源21,31及び合波器22,32を備えた二段のファイバ増幅器20,30と、光アイソレータISL2,ISL3、VBG90等を備えている。
【0029】
固体増幅部1Cには、固体増幅器50と、反射ミラーM1,M2,M3と、レンズL1,コリメータCL2等を備えている。波長変換部1Dは、第1波長変換部1E及び第2波長変換部1Fで構成され、それぞれに非線形光学素子60,70を備えている。
【0030】
種光源10から出力された波長1064nmのレーザパルス光(以下、単に「パルス光」とも記す。)が二段のファイバ増幅器20,30で増幅され、さらに一段の固体増幅器50で所望のレベルまで増幅される。固体増幅器50で増幅されたパルス光は非線形光学素子60で波長532nmに波長変換され、さらに非線形光学素子70で波長266nmに波長変換されて出力される。
【0031】
尚、ファイバ増幅器及び固体増幅器の数は特に限定されることはなく、パルス光に対する所望の増幅率を得るために適宜設定されればよい。例えば三つのファイバ増幅器を縦続接続し、その後段に二つの固体増幅器を縦続接続してもよい。
【0032】
種光源10として単一縦モードのレーザ光を出力する分布帰還型レーザダイオード(以下、「DFBレーザ」と記す。)が用いられ、ゲインスイッチング法を適用する制御部100から出力される制御信号によって、DFBレーザから単発または数メガヘルツ以下の所望の周波数で、数百ピコ秒以下の所望のパルス幅のパルス光が出力される。
【0033】
種光源10から出力された数ピコジュールから数百ピコジュールのパルスエネルギーのパルス光が、ファイバ増幅器20,30及び固体増幅器50によって最終的に数十マイクロジュールから数十ミリジュールのパルスエネルギーのパルス光に増幅された後に、二段の非線形光学素子60,70に入力されることによって波長266nmの深紫外線に波長変換される。
【0034】
種光源10から出力されたパルス光は、光アイソレータISL1を介して、初段のファイバ増幅器20で増幅される。ファイバ増幅器20,30として、所定波長(例えば975nm)の励起用光源21で励起されるイッテルビウム(Yb)添加ファイバ増幅器等の希土類添加光ファイバが用いられる。このようなファイバ増幅器20の反転分布の寿命はミリ秒の位数であるため、励起用光源21で励起されたエネルギーは1キロヘルツ以上の周波数のパルス光に効率的に転移されるようになる。
【0035】
初段のファイバ増幅器20で約30デシベル増幅されたパルス光は、光アイソレータISL2を介して後段のファイバ増幅器30に入力されて約25デシベル増幅される。後段のファイバ増幅器30で増幅されたパルス光は、コリメータCL1によってビーム成形され、光アイソレータISL3,ISL4を通過した後に固体増幅器50に導かれて約25デシベル増幅される。
【0036】
本実施形態では、固体増幅器50で生じる熱レンズ効果に対して効率的に光増幅されるように、ファイバ増幅器30から出力されたパルス光が、当該コリメータCL1によって固体増幅器50の入射面直前にビームウェストが位置するようにビーム成形される。
【0037】
コリメータCL1と固体増幅器50との間には、戻り光を遮断する偏光依存型の光アイソレータISL3、VBG90、一対の反射ミラーMR1,MR2が配置され、反射ミラーMR1,MR2間には固体増幅器50で増幅されたパルス光を波長変換装置60に導く光アイソレータISL4が配置されている。
【0038】
尚、上述の光アイソレータISL1〜ISL4は、何れも磁気光学効果を利用して順方向と逆方向で偏光面を逆方向に回転させることで戻り光を遮断する偏光依存型の光アイソレータであり、光軸に沿って上流側に配置された各光学素子が、高強度の戻り光によって熱破壊されることを回避する等のために設けられている。
【0039】
固体増幅器50としてNd:YVO4結晶やNd:YAG結晶等の固体レーザ媒体が好適に用いられる。発光波長808nmまたは888nmのレーザダイオードで構成される励起用光源51から出力され、コリメータCL2によってビーム成形された励起光によって固体レーザ媒体が励起されるように構成されている。
【0040】
ファイバ増幅器30で増幅されたパルス光は、VBG90で回折され、反射ミラーMR1,MR2を経由して固体増幅器50に入射して増幅された後に、さらに反射ミラーMR3で反射されて固体増幅器50に再入射して再度増幅される。つまり、固体増幅器50の往路及び復路でそれぞれ増幅されるように構成されている。尚、レンズL1はビーム整形用である。
【0041】
固体増幅器50で増幅されたパルス光は反射ミラーMR2、光アイソレータISL4で反射されて波長変換部1Dの非線形光学素子60,70に入射して所望の波長に変換された後に出力される。
【0042】
第1波長変換部1Eには非線形光学素子60であるLBO結晶(LiB
3O
5)が組み込まれ、第2波長変換部1Fには非線形光学素子70であるCLBO結晶(CsLiB
6O
10)が組み込まれている。種光源10から出力された波長1064nmのパルス光が非線形光学素子60で波長532nmに波長変換され、さらに非線形光学素子70で波長266nmに波長変換される。
【0043】
反射ミラーM4,M8は非線形光学素子60から出力される波長1064nmのパルス光を分離するためのフィルタとして機能し、反射ミラーM6は非線形光学素子70から出力される波長532nmのパルス光を分離するためのフィルタとして機能し、分離されたパルス光はそれぞれ光ダンパで減衰される。
【0044】
第2波長変換部1FにはCLBO結晶(CsLiB
6O
10)を光軸と直交する面内で移動させる走査機構であるステージ71が設けられている。紫外線が長時間同一箇所に照射されるとCLBO結晶(CsLiB
6O
10)に光学損傷が生じて強度分布の劣化と波長変換出力の低下を招くため、所定時期にCLBO結晶(CsLiB
6O
10)へのパルス光の照射位置をシフトするためである。
【0045】
制御部100はFPGA(Field Programmable Gate Array)及び周辺回路等を備えた回路ブロックで構成され、予めFPGA内のメモリに記憶したプログラムに基づいて複数の論理素子を駆動することにより、レーザ光源装置1を構成する各ブロックが例えばシーケンシャルに制御される。尚、制御部100はFPGAで構成される以外に、マイクロコンピュータとメモリ及びIO等の周辺回路で構成されていてもよいし、プログラマル・ロジック・コントローラ(PLC)等で構成されていてもよい。
【0046】
具体的に、制御部100はゲインスイッチング法を用いて種光源10を発光させるべく、種光源10であるDFBレーザのドライバD1に所定パルス幅のトリガ信号を出力する。当該駆動回路からDFBレーザにトリガ信号に応じたパルス電流が印加されると緩和振動が発生し、緩和振動による発光開始直後の最も発光強度が大きな第1波のみからなり第2波以降のサブパルスを含まないパルス状のレーザ光が出力される。ゲインスイッチング法とは、このような緩和振動を利用した短いパルス幅でピークパワーが大きいパルス光を発生させる方法をいう。
【0047】
さらに、制御部100は所定時期にCLBO結晶(CsLiB
6O
10)へのパルス光の照射位置をシフトするためにステージ71を制御してステップ的に移動させる。例えば、制御部100は、波長変換された紫外線の強度をモニタし、モニタした強度の履歴が所定のパターンに一致するとステージ71を移動させてCLBO結晶(CsLiB
6O
10)へのパルス光の照射位置をシフトする。
【0048】
パルス光の光軸に直交するX−Y平面でステージ71が移動可能となるように、ステージ71は制御部100によりモータドライバD3を介して制御されるX方向移動モータ及び/またはY方向移動モータに駆動連結されている。
【0049】
図2(a),(b),(c)には、レーザ光源装置1の各部を伝播するパルス光の周波数特性が左側に示され、それらパルス光の時間軸特性が右側に示されている。これらの図で示す符号Sn(nは整数)は、
図1に示すレーザ光源装置1の各部の出力ノードの光信号Sn(n=1,2,・・・)に対応する。
【0050】
制御部100から出力されるトリガ信号によって種光源10であるDFBレーザから中心波長1064nmの狭帯域のレーザパルス光が所定の周期で出力される(
図2(a)参照)。種光源10から出力されたパルス光がファイバ増幅器20に導かれて増幅される過程で自己位相変調やラマン散乱等によって不必要にスペクトル幅が広がり、さらにはASEノイズが発生して光パルスのS/N比が低下する(
図2(b)参照)。そのようなパルス光が後段のファイバ増幅器30に導かれて増幅される過程でさらに広帯域化され、ASEノイズレベルが増大する(
図2(c)参照)。
【0051】
所望の強度の深紫外のパルス光を得るために、ファイバ増幅器20,30で増幅されたパルス光を後段の固体増幅器50でさらに大きなピークパワーに増幅する必要がある。しかし、波長変換部1Dで波長変換可能な波長範囲が各非線形光学素子60,70の特性によって制限されることから、増幅に要したエネルギーが効率的に波長変換に寄与しない。つまり波長変換効率が低下することになる。
【0052】
固体増幅器50の励起エネルギーがASEノイズの増幅や広帯域化したパルス光に無駄に消費される結果、エネルギー効率が大きく低下するという問題や、そのために励起エネルギーを大きくすると、発熱による素子の破損を回避するために大掛かりな冷却装置が必要となり、徒にレーザ光源装置1が高価になるという問題がある。パルス光の周波数がメガヘルツの位数より大きければ、ASEノイズは極僅かであるためさほど問題とならないが、パルス光の発振周波数が1メガヘルツよりも低い領域ではASEノイズの影響が顕著になる。
【0053】
そこで、本実施形態では、周波数領域でASEノイズ等を除去するノイズフィルタとして機能する反射型のVBG90を備えている。
【0054】
ファイバ増幅器20,30により広帯域化されたパルス光がVBG90に入射して回折されると、回折光は特定波長範囲に狭帯域化され、非線形光学素子により波長変換可能な波長範囲から逸脱する波長成分が除去されるようになる。反射型のVBG90は、所望の波長域の回折光のみが反射されるため、所望の波長域の回折光を選択するフィルタ機構が不要になる。
【0055】
図2(d)には、ファイバ増幅器で広帯域化されたパルス光のスペクトル(図中、破線で示されている。)と、VBG90で狭帯域化されたパルス光のスペクトル(図中、実線で示されている。)が対比可能に示されている。
【0056】
パルス光のVBG90への入射角度を調整することにより回折光の中心波長が調整でき、調整後の回折光の光軸が光学ミラーである反射ミラーMR1で調整可能に構成されている。本実施形態では、中心波長1064nm±0.05nmのパルス光のスペクトル幅がファイバ増幅器20,30を通過することにより±0.15nm程度に広がり、VBG90によって±0.10nm程度に狭められる。狭帯域化の程度は非線形光学素子の特性である波長変換可能な許容幅に基づいて設定され、使用するVBG90の特性によって例えば±0.05nm程度にまで狭帯域化することが可能になる。
【0057】
図1ではVBG90による回折光を固体増幅器50に導くように反射ミラーMR1が配置されているが、VBG90と反射ミラーMR1とが逆に配置されていてもよい。つまりファイバ増幅器30の出力光が反射ミラーMR1で反射されてVBG90に入射し、VBG90の回折光が固体増幅器50に導かれるように構成されていてもよい。
【0058】
つまり、ファイバ増幅器30と固体増幅器50との間に配置されファイバ増幅器30から出力されたパルス光から特定波長範囲の光を回折するVBG90と、ファイバ増幅器30から出力されたパルス光をVBG90に向けて反射し、またはVBG90で回折された特定波長範囲の光を固体増幅器50に向けて反射する光学ミラーMR1とが備わっていればよい。
【0059】
VBG90に入射し、回折したパルス光は、ASEノイズが低減されるとともに狭帯域化されて固体増幅器50に伝播し(
図2(d)参照)、固体増幅器50によってエネルギー効率よく増幅されて、非線形光学素子から大きなピークパワーのパルス光が出力されるようになる。
【0060】
種光源10から出力されるパルス光の周波数が数メガヘルツ以下、特に1メガヘルツ以下のときにVBG90によるASEノイズ除去効果が顕著である。
【0061】
図3(a)には、ファイバ増幅器で増幅された波長1064nmのパルス光に対してVBGを使用した場合と使用しない場合とを対比した出力特性が示され、
図3(b)には同様のパルス光に対してVBGを使用した場合と使用しない場合とを対比したスペクトル特性が示されている。
【0062】
図3(c)には、同様のパルス光に対してVBGを使用した場合と使用しない場合とを対比した高調波の変換効率が示され、
図3(d)には、同様のパルス光に対してVBGを使用した場合と使用しない場合とを対比した高調波の出力特性が示されている。両図とも、実線で示された特性がVBGを使用した場合の特性であり、破線で示された特性がVBGを使用しない場合の特性である。
【0063】
図3(a),(b)によれば、VBGを使用しない場合と比較して、VBGを使用する場合には固体増幅器で増幅された波長1064nm光の出力の出力が若干低下すること、両者のパルス光のスペクトル幅(FWHM)は0.11nmと等しいこと、VBGを使用する場合にはスペクトルの底部領域での立ち上がりが急峻になり、狭帯域化されていることが判る。
【0064】
図3(c),(d)によれば、VBGを使用した場合には、VBGを使用しない場合に比べて波長532nmへの波長変換時の変換効率が8パーセント程度高く、得られるパルス光の出力も高くなるという結果が得られ、VBGを使用することにより、ASEノイズの除去効果が得られることが明らかになった。
【0065】
図4(a)には、励起用の光源21,31,51のパワーを一定に維持した状態でVBGを使用した場合とVBGを使用しない場合の波長変換後のパルスエネルギー特性が示され、
図4(b)には、VBGを使用した場合とVBGを使用しない場合の波長変換後の平均パワー特性が示されている。両図とも、実線で示された特性がVBGを使用した場合の特性であり、破線で示された特性がVBGを使用しない場合の特性である。
【0066】
図4(a),(b)によれば、VBGを用いて狭帯域化し、ASEノイズを低減することにより、数十キロヘルツから数百メガヘルツの周波数範囲で効果的にパルスエネルギー及び平均パワーが上昇していることが判る。
【0067】
以下、本発明の別実施形態を説明する。
上述した実施形態では、反射型のVBG90が組み込まれたレーザ光源装置を説明したが、本発明によるレーザ光源装置は透過型のVBG90が組み込まれていてもよい。さらには、VBG90に代えて光学ガラスの表面に縞状の凹凸が形成された汎用の回折格子が組み込まれていてもよい。
【0068】
上述した実施形態に加えて、ファイバ増幅器20,30の後段に光ファイバ内の自己位相変調やラマン散乱等によって広帯域化したパルス光を狭帯域化するバンドパスフィルタを設けてもよい。
【0069】
図2(e)には、ファイバ増幅器で広帯域化されたパルス光のスペクトル(図中、破線で示されている。)と、バンドパスフィルタで狭帯域化されたパルス光のスペクトル(図中、実線で示されている。)が対比可能に示されている。
図2(d)に示すVBG90による狭帯域化の程度とは1桁程度異なるが、±数nm程度の狭帯域化が図れる。
【0070】
図5は、ファイバ増幅器20の後段にバンドパスフィルタBPF1を設け、ファイバ増幅器30の後段にバンドパスフィルタBPF2を設けた例が示されている。
【0071】
種光源10から出力された狭帯域のパルス光S1は、ファイバ増幅器20で増幅される過程で広帯域化されるとともにASEノイズが重畳されたパルス光S2になる。ファイバ増幅器20から出力されたパルス光S2はバンドパスフィルタBPF1でフィルタリングされて、ある程度狭帯域化されるとともにASEノイズが除去されたパルス光S3となる。ファイバ増幅器30及びバンドパスフィルタBPF2でも同様のプロセスが実行される。
【0072】
VBG90で狭帯域化されたパルス光S4が固体増幅器50に伝播し、効率的に増幅されたパルス光S5が得られるようになる。
【0073】
上述した実施形態では、各光増幅器20,30,50の励起用光源を常時駆動する例を説明したが、制御部100によって、少なくとも種光源10から出力されるパルス光の入力前にファイバ増幅器20,30及び/または固体増幅器50の反転分布状態が得られるように、ファイバ増幅器20,30及び/または固体増幅器50の励起用光源21,31,51を周期的または間歇的に制御するように構成してもよい。
【0074】
励起用光源21,31,51をこのように制御すれば、種光源10から出力されるパルス光が入力される前にファイバ増幅器20,30及び/または固体増幅器50が反転分布状態になるように励起光が周期的または間歇的に駆動されるので、パルス光の増幅に寄与しない無駄なエネルギー消費や発熱を低減することができるようになる。
【0075】
例えば、種光源10から出力されるパルス光の入力タイミングで光増幅器が反転分布状態になるように周期的にオン/オフ制御したり強度変調制御したりすればよい。種光源10を駆動するトリガ信号から光増幅器の蛍光寿命時間τの0.5から3倍だけ遡ったタイミングで励起用光源21,31,51が駆動されるのが好ましい。
【0076】
上述した実施形態では、種光源としてDFBレーザを用いて、DFBレーザにゲインスイッチング法を適用することによって、単一縦モードで定常状態よりも高強度のパルス光を生成する例を説明したが、本発明は種光源として半導体レーザを用いるものであればよく、DFBレーザ以外の一般的なファブリペロー型の半導体レーザを用いることも可能である。
【0077】
また、本発明は、発振波長が1064nmとなる種光源に限定されるものでもなく、例えば、1030nm、1550nm、976nm等、用途によって適宜異なる波長の種光源を選択することが可能である。さらに、非線形光学素子を介してこれらの波長を基本波とする高調波、和周波、差周波を発生させることも可能である。非線形光学素子として、上述以外の非線形光学素子を用いることも可能である。例えば、CLBO結晶に代えて、BBO結晶、KBBF結晶、SBBO結晶、KABO結晶、BABO結晶等を用いることができる。
【0078】
上述した複数の実施形態は、何れも本発明の一実施態様の説明であり、該記載により本発明の範囲が限定されるものではない。また、各部の具体的な回路構成や回路に使用する光学素子は、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜選択し、或いは変更設計可能であることはいうまでもない。