(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2次イオン検出器が略半球ドーム状であり、略半球状の外形部に略半球状の凹部が設けられた形状であり、外面側と内面側を連通するようにビーム通過孔が設けられ、凹部の内壁面にイオン検出面が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の軽元素分析装置。
【背景技術】
【0002】
これまで、材料開発等のため、分析電子顕微鏡等を用いて、高空間分解能で元素組成分析が行われてきた。この元素組成分析では、主に、重元素分析がなされ、軽元素分析はなされていなかった。軽元素とは、水素(H)、ヘリウム(He)、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ボロン(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、フッ素(F)のような軽い元素のことをいい、軽元素の検出は、重元素の検出に比べて技術的に難しかったためである。そこで、近年、軽元素分析の研究開発がなされ始めている。
軽元素分析に関連する技術として、例えば、次のようなものがある。
【0003】
非特許文献2は、電子線を用いた電子遷移誘起脱離(DIET)による軽元素分析に関する内容である。DIETは表面の電子励起が起きれば一般的に観測される現象であり、広く知られたものである。光、原子、電子、イオンなどの粒子を物体表面に照射すると、表面の電子状態が励起され、原子や分子と表面との結合が切断される結果、表面を構成するこれらの物質が表面から脱離する現象である。DIETにより表面から軽元素イオン種が脱離する。この脱離する軽元素イオン種に加え、散乱ヘリウムイオンや入射ヘリウムイオンによるスパッタリングにより放出されるイオンを、以下、2次イオンと総称する。
【0004】
非特許文献3では、電子刺激脱離イオン角度分布(ESDIAD)による吸着構造解析が示されている。ESDIADとは、DIETにより脱離する粒子が一般に有する方向依存性である。この方向依存性は、脱離前の吸着状態における構造等を反映することから、この方向依存性を測定することで、軽元素の吸着状態の解析が行われる。
【0005】
非特許文献4は、2次電子と2次イオンを利用する飛行時間分析による表面の軽元素分析に関する内容である。
非特許文献5は、入射種としてイオンビームを用い、2次電子と2次イオンを利用する飛行時間分析による表面の軽元素分析に関する内容である。
非特許文献6は、イオンビームによるDIETと、フッ素イオンの脱離に関する内容である。
非特許文献7は、入射種としてイオンビームを用い、2次イオンを検出することで、表面を構成するイオン種の分布の分析に用いられる2次イオン質量分析法に関する内容である。
【0006】
非特許文献8は、入射種としてパルスイオンビームを用い、2次イオンを検出することで、表面を構成するイオン種の分布の分析に用いられる飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF−SIMS)に関する内容である。TOF−SIMSでは、パルス化したイオンビームを入射し、2次イオンを飛行時間法により質量分析することで、表面を構成するイオン種の分布分析が行われている。
【0007】
非特許文献9は、入射種としてイオンビームを用い、2次イオンを検出することで、表面を構成するイオン種の分布の分析に用いられる2次イオン質量分析法等、様々な顕微法に関する内容である。DIETやESDIADによる表面分析についても記されている。
非特許文献10、11には、DIETによるフッ素分析が開示されている。
非特許文献12には、光や準安定原子によるDIETが開示されている。
【0008】
特許文献1は、α線検出器を備えた中性子発生管と、軽元素の飛行方向とエネルギーを同定可能な軽元素検出器を用いた軽元素分析装置に関するものである。
特許文献2は、低エネルギーイオン照射による絶縁体中の軽元素分析・評価装置に関するものである。
これらのいずれの先進的な計測手法を用いても、軽元素を10nm以下の高空間分解能で検出することは容易ではなかった。
【0009】
他方、非特許文献1は、ヘリウムイオン顕微鏡や、その応用に関する内容である。ヘリウムイオン顕微鏡は既存技術であり、カールツァイスから販売されているヘリウムイオンビーム顕微鏡(製品名:Orion PLUS、カールツァイス製)がある。直径2nmと細く絞った30keV程度のヘリウムイオンビームを試料表面に入射し、2次電子や2次イオンを計測することで、表面形態・構造や組成などに起因するコントラストを高い空間分解能で得ている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、10nm以下の高空間分解能で軽元素を容易に検出可能な軽元素分析装置及び軽元素分析方法を提供することを課題とする。
【0013】
本発明者は、上記事情を鑑みて、試行錯誤して、(1)パルスイオンビームの代わりに連続(CW)イオンビームを試料に照射しても、電子遷移誘起脱離(DIET)に基づき、試料表面が電子励起された際に表面から脱離する2次電子と2次イオンを測定でき、(2)2次電子の飛行時間(TOF)は2次(軽元素)イオンのTOFに比べて無視出来るほど短いことから、試料表面が電子励起された際に表面から脱離する2次電子をトリガーとして、所定の飛行時間スペクトルの位置に特定の2次イオンのピークが得られ、(3)非常に細く絞った連続イオンビームを試料に照射することにより、10nm以下の高空間分解能で軽元素を検出できるのではないかという着想に至った。つまり、連続イオンビームを用い、DIETにTOF分析を組み合わせる構成である。実際、直径が2nm以下に絞られ、30keVの運動エネルギーを持つ連続ヘリウムイオンビームを試料表面に入射し、電子遷移誘起脱離により表面から脱離するリチウムイオンを2次電子との時間相関(飛行時間分析)から特定することができ、リチウムイオン濃度を2nm以下の高空間分解能で検出できることを見出して、本発明を完成した。
本発明は、以下の構成を有する。
【0014】
(1) イオン検出面を有する2次イオン検出器と、電子検出面を有する電子検出器と、分析対象部を有する試料を配置可能な基板ホルダーとを有する軽元素分析装置であって、前記基板ホルダーの位置を、前記2次イオン検出器の位置及び前記電子検出器の位置に対して水平・垂直・回転移動可能とされており、前記分析対象部を、前記イオン検出面及び前記電子検出面に対向配置可能とされており、前記対向配置したときに、前記分析対象部から前記イオン検出面までの最短距離D
2次イオン飛行距離が12mm以上300mm以下であり、かつ、前記分析対象部から前記電子検出面までの最短距離D
2次電子飛行距離が2mm以上100mm以下であることを特徴とする軽元素分析装置。
【0015】
(2) 前記2次イオン検出器が略板状であることを特徴とする(1)に記載の軽元素分析装置。
(3) 前記2次イオン検出器に一面側と他面側を連通するようにビーム通過孔が設けられていることを特徴とする(2)に記載の軽元素分析装置。
(4) 前記2次イオン検出器が略半球ドーム状であり、略半球状の外形部に略半球状の凹部が設けられた形状であり、外面側と内面側を連通するようにビーム通過孔が設けられ、凹部の内壁面にイオン検出面が設けられていることを特徴とする(1)に記載の軽元素分析装置。
【0016】
(5) イオンビーム顕微鏡を用いた軽元素分析方法であって、イオンビーム顕微鏡の鏡筒内に備えた基板ホルダー上に試料を配置し、前記基板ホルダーの位置を水平・垂直・回転移動して、前記試料の分析対象部を、前記イオン検出面及び前記電子検出面を対向配置してから、前記試料の分析対象部から2次イオン検出器のイオン検出面までの最短距離D
2次イオン飛行距離を12mm以上300mm以下とし、かつ、前記分析対象部から電子検出器の電子検出面までの最短距離D
2次電子飛行距離を2mm以上100mm以下とする工程と、減圧雰囲気下、イオンビーム顕微鏡のイオンビーム源から放射したイオンビームを、前記分析対象部に照射する工程と、前記分析対象部から放射された電子を前記電子検出面で検出する工程と、前記分析対象部から放射された2次イオンを前記イオン検出面で検出する工程と、を有することを特徴とする軽元素分析方法。
【0017】
(6) 前記電子検出面で最初に電子を検出した時間から各軽元素に応じた2次イオン飛行時間経過後のイオン強度を測定して、前記分析対象部での軽元素量を算出することを特徴とする(5)に記載の軽元素分析方法。
(7) 前記イオン強度の検出を行いながら、イオンビームを一方向に走査して、線状領域の軽元素量を算出することを特徴とする(6)に記載の軽元素分析方法。
(8) 前記イオン強度の検出を行いながら、イオンビームを一方向及びこれに垂直な方向に走査して、面状領域の軽元素量を算出することを特徴とする(6)に記載の軽元素分析方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の軽元素分析装置は、イオン検出面を有する2次イオン検出器と、電子検出面を有する電子検出器と、分析対象部を有する試料を配置可能な基板ホルダーとを有する軽元素分析装置であって、前記基板ホルダーの位置を、前記2次イオン検出器の位置及び前記電子検出器の位置に対して水平・垂直・回転移動可能とされており、前記分析対象部を、前記イオン検出面及び前記電子検出面に対向配置可能とされており、前記対向配置したときに、前記分析対象部から前記イオン検出面までの最短距離D
2次イオン飛行距離が12mm以上300mm以下であり、かつ、前記分析対象部から前記電子検出面までの最短距離D
2次電子飛行距離が2mm以上100mm以下であることを特徴とする構成なので、10nm以下の高空間分解能で軽元素を容易に検出できる。
【0019】
本発明の軽元素分析方法は、イオンビーム顕微鏡を用いた軽元素分析方法であって、イオンビーム顕微鏡の鏡筒内に備えた基板ホルダー上に試料を配置し、前記基板ホルダーの位置を水平・垂直・回転移動して、前記試料の分析対象部を、前記イオン検出面及び前記電子検出面を対向配置してから、前記試料の分析対象部から2次イオン検出器のイオン検出面までの最短距離D
2次イオン飛行距離を12mm以上300mm以下とし、かつ、前記分析対象部から電子検出器の電子検出面までの最短距離D
2次電子飛行距離を2mm以上100mm以下とする工程と、減圧雰囲気下、イオンビーム顕微鏡のイオンビーム源から放射したイオンビームを、前記分析対象部に照射する工程と、前記分析対象部から放射された電子を前記電子検出面で検出する工程と、前記分析対象部から放射された2次イオンを前記イオン検出面で検出する工程と、を有する構成なので、10nm以下の高空間分解能で軽元素を容易に検出できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(軽元素分析装置)
(本発明の第1の実施形態)
まず、本発明の実施形態である軽元素分析装置の一例について説明する。
図1は、本発明の実施形態である軽元素分析装置の一例を説明する図であって、斜視図(a)、断面図(b)である。
図1(a)、(b)に示すように、本発明の実施形態である軽元素分析装置11は、イオン検出面23aを有する2次イオン検出器23と、電子検出面24aを有する電子検出器24と、分析対象部25aを有する試料25を配置可能な基板ホルダー26とを有して、概略構成されている。
【0022】
軽元素分析装置11は、イオンビーム顕微鏡内の装置を利用して、イオンビーム顕微鏡の鏡筒内に配置される装置である。
軽元素分析装置11は、イオン顕微鏡筒先部22の先端側に配置される。
【0023】
イオンビーム源21と分析対象部25aを結ぶ直線方向が、イオン顕微鏡筒先部22の孔部22cと、2次イオン検出器23のビーム通過孔23cを通過するように、イオンビーム源21と、イオン顕微鏡筒先部22と、軽元素分析装置11とが配置されている。
【0024】
2次イオン検出器23は、平面視環状の略板状とされている。また、一面側と他面側を連通するようにビーム通過孔23cが設けられ、一面側にイオン検出面23aが設けられている。しかし、この構成に限られるわけではなく、例えば、2次イオン検出器23はビーム通過孔23cを有しない構成としてもよい。
【0025】
基板ホルダー26の位置は、2次イオン検出器23の位置及び電子検出器24の位置に対して水平・垂直・回転移動可能とされている。これにより、試料25の分析対象部25aをイオンビーム源21方向に向けて配置できる。
これにより、イオン顕微鏡筒先部22の他端側に配置されたイオンビーム源21から放射されたイオンビームを試料に照射することができる。
【0026】
分析対象部25aは、ビーム通過孔23c、イオン検出面23a及び電子検出面24aに対向配置可能とされている。これにより、分析対象部25aに対して、イオンビーム照射、2次イオン検出、電子検出ができる。
【0027】
前記対向配置したときに、分析対象部25aからイオン検出面23aまでの最短距離D
2次イオン飛行距離が12mm以上300mm以下とされている。これにより、2次イオンを効率よく検出できる。12mm未満の場合は、2次イオンが短時間でイオン検出面23aに到達してしまうので、飛行時間法による2次イオン種の同定ができない。また、300mm超の場合は、イオン検出面23a以外に放射される2次イオンの数が増え、感度が低下し、検出効率が低下する。この理由により、15mm以上30mm以下とすることがより好ましい。
【0028】
前記対向配置したときに、分析対象部25aから前記電子検出面までの最短距離D
2次電子飛行距離が2mm以上100mm以下とされている。これにより、2次電子を効率よく検出できる。2mm未満の場合は、2次電子検出器と2次イオン検出器が干渉することから、2次電子の検出ができない。また、100mm超の場合は、電子検出面24a以外に放射される2次電子の数が増え、感度が低下し、検出効率が低下する。
【0029】
(本発明の第2の実施形態)
次に、本発明の実施形態である軽元素分析装置の別の一例について説明する。
図2は、本発明の実施形態である軽元素分析装置の別の一例を説明する斜視図である。
図2に示すように、本発明の実施形態である軽元素分析装置12は、2次イオン検出器33が略半球ドーム状とされている他は第1の実施形態と同様の構成とされている。
2次イオン検出器33は、略半球状の外形部33bに略半球状の凹部33cが設けられた略半球ドーム状とされている。凹部33cの内壁面にイオン検出面33aが設けられている。この構成により、2次イオンをよりもれなく検出できる。
【0030】
また、外面側と内面側を連通するようにビーム通過孔33dが設けられている。これにより、イオンビームを分析対象部25aに照射できる。
【0031】
更にまた、外面側と内面側を連通するように別のビーム通過孔33eが設けられている。これにより、2次電子を電子検出面24aで検出できる。
【0032】
(本発明の第3の実施形態)
次に、本発明の実施形態である軽元素分析装置の更に別の一例について説明する。
図3は、本発明の実施形態である軽元素分析装置の更に別の一例を説明する斜視図である。
図3に示すように、本発明の実施形態である軽元素分析装置13は、2次イオン検出器43が略円板状とされており、イオンビームの通過方向から離れて配置されている他は第1の実施形態と同様の構成とされている。
2次イオン検出器43には、略円状のイオン検出面43aが設けられている。イオン検出面43aを分析対象部25aに対向配置させる構成なので、2次イオンを検出できる。
【0033】
2次イオン検出器43がイオンビームの通過方向から離れて配置されている構成なので、イオンビームを分析対象部25aに照射できる。
【0034】
(軽元素分析方法)
(点状領域の軽元素分析)
次に、本発明の実施形態である軽元素分析方法について、本発明の第1の実施形態である軽元素分析装置11を用いて説明する。
本発明の実施形態である軽元素分析方法は、イオンビーム顕微鏡を用いた軽元素分析方法であって、試料配置工程S1と、イオンビーム照射工程S2と、電子検出工程S3と、2次イオン検出工程S4と、を有する。
【0035】
(試料配置工程S1)
まず、イオンビーム顕微鏡の鏡筒内に備えた基板ホルダー26上に試料25を配置する。
次に、基板ホルダー26の位置を水平・垂直・回転移動して、試料25の分析対象部25aを、イオン検出面23a及び電子検出面24aを対向配置する。なお、この際、鏡筒内を減圧してから、基板ホルダー26の配置をしてもよい。
次に、試料25の分析対象部25aから2次イオン検出器23のイオン検出面23aまでの最短距離D
2次イオン飛行距離を12mm以上300mm以下とし、かつ、分析対象部25aから電子検出器24の電子検出面24aまでの最短距離D
2次電子飛行距離を2mm以上100mm以下とする。
【0036】
(イオンビーム照射工程S2)
次に、減圧雰囲気下、イオンビーム顕微鏡のイオンビーム源21から放射したイオンビームを、ビーム通過孔23cを通過させて、分析対象部25aに照射する。
イオンビームはイオンビーム源21からイオン顕微鏡筒先部22の間の電圧調整部(図示略)で、ビーム方向を制御する。
【0037】
イオンビーム源21から放射されるイオンビームの入射種としては、様々な原子や分子のイオン種を用いることができる。ヘリウムイオンビーム顕微鏡の装置を容易に利用できるので、入射イオンとしてはヘリウムイオンビームを用いることが好ましい。さらに、30keV程度の一定の運動エネルギーを持ち、尚かつ直径を2nm以下にまで細く絞ることができるものが好ましい。これにより、高空間分解能で軽元素分析できる。
【0038】
なお、100eV以上の大きな運動エネルギーを有する粒子であれば、電気的に中性の原子等の粒子もMCPで検出できる。DIETにより表面脱離する軽元素粒子の運動エネルギーは100eV以下であるので、電気的に中性の脱離粒子種はMCPでは検出されない。
【0039】
イオンビームが試料の分析対象部25aに照射されると、試料25表面で電子励起が生じ、DIETが観測される。DIETでは、まず、表面の電子励起が起き、次に、水素(H)、ヘリウム(He)、リチウム(Li)、ベリリウム(Be)、ボロン(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、フッ素(F)のような軽元素が脱離させられる。軽元素の脱離は、表面励起の寿命が、脱離粒子が表面から十分遠ざかるまでの時間に比べて長いとき、生じる。
【0040】
2次電子の発生により、表面が電子励起され、電子遷移誘起脱離(DIET)、すなわち、軽元素の表面脱離が同時に生じ、表面脱離する軽元素の一部が正イオンとして脱離する。
DIETは固体内部でも起こりえるが、表面への脱出過程で中性化される結果原子となるので、検出される脱離イオン種は表面から由来するものに限られる。
【0041】
(電子検出工程S3)
次に、試料25の分析対象部25aから放射された電子を電子検出面24aで検出する。
【0042】
(2次イオン検出工程S4)
分析対象部25aから放射された2次イオンをイオン検出面23aで検出する。
【0043】
以上の検出結果から、2次電子をトリガー(スタート信号)に用いて、電子検出面24aで最初に電子を検出した時間(START時間:0sec)から各軽元素に応じた2次イオン飛行時間(Time of flight:TOF)経過後のイオン強度を測定して、分析対象部25aでの軽元素量を算出できる。
各軽元素イオンの2次イオン飛行時間はそれぞれ一定とされているためである。例えば、
図4で示されるイオン検出器と試料の配置に於いて、15.0eVのLi
+イオンについてのTOF
Liイオンは約660nsであり、13.4eVのH
+イオンについてのTOF
Hイオンは、約270nsである。
【0044】
電子はイオンよりも1000倍以上軽いので、2次電子の速度は2次イオンの速度に比べて圧倒的に速い。したがって、2次イオンが試料25表面から放出され、その後MCPに到着するまでの時間に比べれば、試料25表面と電子検出器24の間の2次電子の飛行時間は圧倒的に短く、無視できる。
【0045】
また、2次電子の発生確率の方が、DIETによる軽元素イオン発生確率よりも圧倒的に大きいので、2次イオンをトリガーに用い、2次電子をストップ信号とする信号処理により効率的に2次イオンの飛行時間スペクトルを得ることが出来る(以下、プリトリガー型計測と呼ぶ。)。ただし、逆に2次電子をトリガーに用いても、飛行時間スペクトルを得ることは出来る。
【0046】
以上により、直径2nmのHeイオンビームを照射し、試料25の試料面で直径約10nmの領域に照射されたイオンビームにより生じたDIETによる表面脱離イオン濃度を検出でき、空間分解能2nmでイオン濃度を検出して、試料25の点状領域の分析対象部の軽元素分析を行うことができる。
【0047】
(線状領域の軽元素分析)
イオン強度の検出を行いながら、イオンビームを一方向に走査する他は先に記載の軽元素分析方法と同様にして、軽元素分析を行ってもよい。
これにより、分析対象部25aの線状領域の軽元素量を算出できる。
【0048】
(面状領域の軽元素分析)
イオン強度の検出を行いながら、イオンビームを一方向及びこれに垂直な方向に走査する他は先に記載の軽元素分析方法と同様にして、軽元素分析を行ってもよい。
これにより、分析対象部25aの面状領域の軽元素量を算出できる。
【0049】
本発明の実施形態である軽元素分析装置11、12、13は、イオン検出面23a、33a、43aを有する2次イオン検出器23、33、43と、電子検出面24aを有する電子検出器24と、分析対象部25aを有する試料25を配置可能な基板ホルダー26とを有する軽元素分析装置であって、基板ホルダー26の位置を、2次イオン検出器23、33の位置及び電子検出器24の位置に対して水平・垂直・回転移動可能とされており、分析対象部25aを、イオン検出面23a、33a、43a及び電子検出面24aに対向配置可能とされており、前記対向配置したときに、前記分析対象部25aからイオン検出面23a、33aまでの最短距離D
2次イオン飛行距離が12mm以上300mm以下であり、かつ、分析対象部25aから電子検出面24aまでの最短距離D
2次電子飛行距離が2mm以上100mm以下である構成なので、10nm以下の高空間分解能で軽元素を容易に検出できる。
【0050】
本発明の実施形態である軽元素分析装置11、13は、2次イオン検出器23、43が略板状である構成なので、10nm以下の高空間分解能で軽元素を容易に検出できる。
【0051】
本発明の実施形態である軽元素分析装置11は、2次イオン検出器23に一面側と他面側を連通するようにビーム通過孔23cが設けられている構成なので、10nm以下の高空間分解能で軽元素を容易に検出できる。
【0052】
本発明の実施形態である軽元素分析装置12は、2次イオン検出器33が略半球ドーム状であり、略半球状の外形部33bに略半球状の凹部33cが設けられた形状であり、外面側と内面側を連通するようにビーム通過孔33dが設けられ、凹部33cの内壁面にイオン検出面33aが設けられている構成なので、10nm以下の高空間分解能で軽元素を容易に検出できる。
【0053】
本発明の実施形態である軽元素分析方法は、イオンビーム顕微鏡を用いた軽元素分析方法であって、イオンビーム顕微鏡の鏡筒内に備えた基板ホルダー26上に試料25を配置し、基板ホルダー26の位置を水平・垂直・回転移動して、試料25の分析対象部25aを、イオン検出面23a及び電子検出面24aを対向配置してから、試料25の分析対象部25aから2次イオン検出器23のイオン検出面23aまでの最短距離D
2次イオン飛行距離を12mm以上300mm以下とし、かつ、分析対象部25aから電子検出器24の電子検出面24aまでの最短距離D
2次電子飛行距離を2mm以上100mm以下とする工程と、減圧雰囲気下、イオンビーム顕微鏡のイオンビーム源から放射したイオンビームを、前記分析対象部に照射する工程と、前記分析対象部から放射された電子を前記電子検出面で検出する工程と、前記分析対象部から放射された2次イオンを前記イオン検出面で検出する工程と、を有する構成なので、10nm以下の高空間分解能で軽元素を容易に検出できる。
【0054】
本発明の実施形態である軽元素分析方法は、電子検出面24aで最初に電子を検出した時間から各軽元素に応じた2次イオン飛行時間経過後のイオン強度を測定して、分析対象部25aでの軽元素量を算出する構成なので、10nm以下の高空間分解能で軽元素を容易に検出できる。
【0055】
本発明の実施形態である軽元素分析方法は、前記イオン強度の検出を行いながら、前記イオンビームを一方向に走査して、線状領域の軽元素量を算出する構成なので、10nm以下の高空間分解能で軽元素を容易に検出できる。
【0056】
本発明の実施形態である軽元素分析方法は、前記イオン強度の検出を行いながら、前記イオンビームを一方向及びこれに垂直な方向に走査して、面状領域の軽元素量を算出する構成なので、10nm以下の高空間分解能で軽元素を容易に検出できる。
【0057】
本発明の実施形態である軽元素分析装置及び軽元素分析方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
以下に示す飛行時間分析法により、軽元素分析を行った。
図4は、本実施例で用いた軽元素分析装置を示す断面概略図である。
まず、この軽元素分析装置を、NIMSナノテクノロジープラットフォームに設置のカールツァイス社製ヘリウムイオン顕微鏡(Orion PLUS)の鏡筒内に設置した。
【0059】
2次イオン検出器(マイクロチャネルプレート(MCP))としては、中心孔を有する円環構造の検出器を用い、基板ホルダー(図示略)上に、板状のMgLi試料を配置した。
また、電子検出器(図示略)を2次イオン検出器の近傍に配置した。
【0060】
鏡筒内を超高真空に排気してから、基板ホルダーの位置を操作して、試料の試料面と2次イオン検出器(マイクロチャネルプレート(MCP))のイオン検出面との対面距離を12.9mm、試料面と鏡筒先端との対面距離(ワーキングディスタンス)を18mm、リング状のイオン検出面の内側円の半径を2.25mm、外側円の半径を5.75mmとなるように調整した。
【0061】
次に、30keV程度の一定の運動エネルギーに制御し、尚かつ直径を2nm以下にまで細く絞ったヘリウムイオンビームを発生させた。
次に、内部入力と外部入力の間で適当な電圧を選択入力して、ヘリウムイオンビームの照射位置を、試料表面の所望の位置に制御して、照射した。
【0062】
次に、電子検出器に接続されたデジタルオシロスコープで半値幅約250nsの+10V以下のパルス信号の出力を確認し、発生した2次電子を確認した。
【0063】
次に、2次イオン検出器に接続されたデジタルオシロスコープで別のパルス信号の出力を確認し、試料からMCPへ向かう軌道Aと軌道Bの間に放出された2次イオンを確認した。
【0064】
次に、一方のデジタルオシロスコープに2次電子と2次イオンのパルス信号を入力し、2次イオンのパルスの立ち上がりでトリガーをかけて、2次電子のパルス信号を積算し、表面から同時に放出された2次イオンと2次電子の時間相関を調べた。そして、各軽元素の既知の飛行距離から、2次イオンの質量を分析した。
【0065】
(実施例2)
試料をLiCoO
2とした他は実施例1と同様にして、2次イオンの質量を分析した。
【0066】
(実施例3)
試料をSiとした他は実施例1と同様にして、2次イオンの質量を分析した。
【0067】
(実施例4)
試料をTaとした他は実施例1と同様にして、2次イオンの質量を分析した。
【0068】
図5は、MgLi、LiCoO
2、Si、Taの各試料の飛行時間スペクトルである。
縦軸は2次イオンの強度(任意単位)であり、横軸は飛行時間(ns)である。TOFは2次電子と2次イオンの飛行時間差Δtに関連し、TOF=k−Δt(kは装置構成で決まる定数)である。
【0069】
リチウムを含有するMgLiとLiCoO
2では明瞭なリチウムイオンピークが検出された。リチウムイオンは他のピークからよく分離されていた。このリチウムイオンピークの強度をヘリウムイオンビームの照射位置の関数として測定して、リチウムの試料表面での分布を高空間分解能で分析できた。
【0070】
一方、リチウムを含まないSiやTaではリチウムイオンピークは検出されなかった。リチウムが含まれていない試料(SiとTa)では、プロトン(水素の正イオン)によるピークが約2500ns程度に現れた。
【0071】
プリトリガー型計測により、散乱粒子(ヘリウムイオンと、中性化されたヘリウム原子)による飛行時間スペクトル・ピークと、DIETによるプロトンの飛行時間スペクトル・ピークと、DIETによるリチウムイオンの飛行時間スペクトル・ピークが検出された。すなわち、2次イオン検出器に到着する順番は、早いほうから、散乱粒子、プロトン、リチウムイオンの順であった。この測定では2次イオンでトリガーをかけているので、飛行時間が長い方がより高速のイオンであった。
【0072】
(実施例5)
まず、一辺10mm角の板状のNb0.5%−SrTiO
3試料の一部を金属ワイヤーでマスクして、露出部分にLiCoO
2を蒸着して、LiCoO
2(800nm)/Nb−SrTiO
3試料を作製した。
【0073】
次に、LiCoO
2(800nm)/Nb0.5%−SrTiO
3試料の蒸着部と非蒸着部のボーダー部分の2次電子像を、ヘリウムイオンビームを走査しながら2次電子強度を測定して撮影した。
図6は、LiCoO
2(800nm)/Nb0.5%−SrTiO
3試料の2次電子像である。右上の黒色でコントラストに乏しい領域は、LiCoO
2を成膜中にNb0.5%−SrTiO
3が金属ワイヤーでマスクされた部分であり、LiCoO
2はこの領域に蒸着されていなかった。一方、左下の白黒のコントラストが現れている部分にはLiCoO
2が蒸着されていた。
【0074】
次に、
図6に示す2次電子像の白線位置に沿って、ヘリウムイオンビームを走査して、TOF測定を行った。
図7は、
図6に示す2次電子像の白線位置に沿って、得られたリチウム分布分析結果を示すグラフである。
図7は、
図6中の白線を80分割して、飛行時間スペクトルを順に得て、最終的に各スペクトルにおけるリチウムイオンピークの積分強度を求め、ビーム照射位置の関数としてプロットしたものである。1ピクセルは350nmに相当し、各ピクセルにおける測定時間は10秒である。
【0075】
LiCoO
2が蒸着されていない領域では、リチウムイオンの信号はほとんど観測されなかった。一方、LiCoO
2が蒸着された領域では、リチウムイオンの信号が観測された。そして、蒸着された領域内に於いてリチウムイオンの信号強度は場所により大きく異なっていた。すなわち、リチウムの分布が一様でないことが示された。