特許第6367620号(P6367620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367620
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】延伸フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20180723BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20180723BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20180723BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C08J5/18CET
   C08K3/36
   C08L25/04
   C08L71/12
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-132816(P2014-132816)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-11344(P2016-11344A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】羽田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】亀岡 晃
(72)【発明者】
【氏名】小川 達也
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−246372(JP,A)
【文献】 特開平09−039088(JP,A)
【文献】 特開平09−039066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08K 3/36
C08L 25/04
C08L 71/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂と、平均粒径Aが0.5〜5μm、DBA値が200ミリモル/kg以下、細孔容積が0.5〜2.0ml/gの範囲である多孔質シリカ粒子を含む樹脂組成物からなる延伸フィルムであって、該多孔質シリカ粒子の含有量が樹脂組成物質量を基準として0.01〜3質量%である延伸フィルム。
【請求項2】
樹脂組成物が、さらに熱可塑性非晶樹脂を含有する請求項1記載の延伸フィルム。
【請求項3】
熱可塑性非晶樹脂がポリフェニレンエーテルである請求項2に記載の延伸フィルム。
【請求項4】
熱可塑性非晶樹脂を、樹脂組成物の質量を基準として5〜48質量%含有する請求項2または3に記載の延伸フィルム。
【請求項5】
厚み方向の屈折率が1.575〜1.635である請求項1〜4のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項6】
酸化防止剤を、樹脂組成物の質量を基準として0.1〜5質量%含有する請求項1〜5のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項7】
酸化防止剤の熱分解温度が250℃以上である請求項6に記載の延伸フィルム。
【請求項8】
多孔質シリカ粒子の圧縮率が20〜90%である請求項1〜7のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項9】
さらに平均粒径Aが0.01μm以上0.5μm未満の粒子を、樹脂組成物の質量を基準として0.01〜3質量%含有する請求項1〜8のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項10】
フィルム中に含まれる最大長25μm以上の粗大粒子の数が10個/m以下である請求項1〜9のいずれかに記載の延伸フィルム。
【請求項11】
フィルム中に含まれる多孔質シリカ粒子の周りに発生するボイドの、下記式(1)で表わされるボイド率が50%以下である請求項1〜10のいずれかに記載の延伸フィルム。
(1)ボイド率=((粒子周囲のボイド径−粒子径)/粒子周囲のボイド径)×100
【請求項12】
シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂を含む樹脂材料に、平均粒径Bが0.5〜5μm、DBA値が200ミリモル/kg以下、細孔容積が0.5〜2.0ml/gの範囲である多孔質シリカ粒子を混合してなる樹脂組成物であって、該多孔質シリカ粒子の含有量が、樹脂組成物の質量を基準として0.01〜10質量%である樹脂組成物。
【請求項13】
樹脂組成物が、さらに熱可塑性非晶樹脂を含有する請求項12記載の樹脂組成物。
【請求項14】
多孔質シリカ粒子の圧縮率が20〜90%である請求項12または13に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質シリカ粒子の分散性が改善された樹脂組成物からなる延伸フィルムに関するものである。さらに詳しくは、シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂中への多孔質シリカ粒子の分散性が改善された樹脂組成物からなる巻取り性等の取扱い性、耐削れ性、絶縁破壊特性が改善された、特にフィルムコンデンサー用として好適な延伸フィルム、及び、それに用いられる樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フィルムコンデンサーは、二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸配向ポリプロピレンフィルム等のフィルムとアルミニウム箔等の金属薄膜とを重ね合わせ、巻回又は積層する方法により製造されている。近年、電気あるいは電子回路の小型化の要求に伴い、フィルムコンデンサーについても小型化や実装化が進んでおり、電気特性に加えてさらなる耐熱性が要求されるようになってきた。また、自動車用途においては、運転室内での使用のみならず、エンジンルーム内にまで使用範囲が拡大しており、電気特性に加え、より高温高湿下の環境に適したフィルムコンデンサーが要求されている。
【0003】
かかる要求に対して、特開2000−173855号公報には、ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリプロピレンフィルムよりも耐熱性に優れたポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートフィルムを用い、その結晶状態、極限粘度等を制御して電気特性を改良する方法が提案されている。しかし、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは極性ポリマーであるため、電気特性の改良には限界がある。
【0004】
一方、特開平2−143851号公報、特開平3−124750号公報、特開平5−200858号公報には、耐熱性及び電気特性に優れたシンジオタクチックポリスチレン系フィルムを用いる方法が提案されている。しかし、従来用いられているポリエステルフィルムに較べて製膜が難しく、またフィルムが裂けやすいことから、コンデンサー製造時のハンドリング性の改良も求められている。かかる製膜性やハンドリング性を改良する方法として、特開2009−1664号公報、特開2009−62456号公報には、粉体フィラーを配合する方法が提案されている。しかしながら、製膜時にシンジオタクチックポリスチレン系樹脂と粉体フィラーとの間にボイドが発生しやすいため、得られるフィルムの巻取り性等の取扱い性と絶縁破壊特性や耐削れ性とを両立させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−173855号公報
【特許文献2】特開平2−143851号公報
【特許文献3】特開平3−124750号公報
【特許文献4】特開平5−200858号公報
【特許文献5】特開2009−1664号公報
【特許文献6】特開2009−62456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の背景技術に鑑みなされたもので、その目的は、シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂中への粒子分散性に優れ、巻取り性等の取扱い性、耐削れ性、絶縁破壊特性(絶縁破壊電圧、そのバラつき)に優れ、特にフィルムコンデンサー用として好適に使用することができる延伸フィルム、並びに、必要に応じてベース樹脂等で希釈して該延伸フィルムとするのに用いられる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の表面特性を有する多孔質シリカ粒子をシンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂中に配合した樹脂組成物は、該粒子の分散性に優れ、しかも、必要に応じてベース樹脂で希釈して延伸フィルムに成形した際の発生ボイドが小さく、フィルムコンデンサー用として取扱い性、絶縁破壊特性、耐削れ性等も良好な延伸フィルムが容易に得られることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
かくして本発明によれば、
「1. シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂と、平均粒径Aが0.5〜5μm、DBA値が200ミリモル/kg以下、細孔容積が0.5〜2.0ml/gの範囲である多孔質シリカ粒子を含む樹脂組成物からなる延伸フィルムであって、該多孔質シリカ粒子の含有量が樹脂組成物質量を基準として0.01〜3質量%である延伸フィルム。
2. 樹脂組成物が、さらに熱可塑性非晶樹脂を含有する上記1に記載の延伸フィルム。
3. 熱可塑性非晶樹脂がポリフェニレンエーテルである上記2に記載の延伸フィルム。
4. 熱可塑性非晶樹脂を、樹脂組成物の質量を基準として5〜48質量%含有する上記2または3に記載の延伸フィルム。
5. 厚み方向の屈折率が1.575〜1.635である上記1〜4のいずれかに記載の延伸フィルム。
6. 酸化防止剤を、樹脂組成物の質量を基準として0.1〜5質量%含有する上記1〜5のいずれかに記載の延伸フィルム。
7. 酸化防止剤の熱分解温度が250℃以上である上記6に記載の延伸フィルム。
8. 多孔質シリカ粒子の圧縮率が20〜90%である上記1〜7のいずれかに記載の延伸フィルム。
9. さらに平均粒径Aが0.01μm以上0.5μm未満の粒子を、フィルム質量を基準として0.01〜3質量%含有する上記1〜8のいずれかに記載の延伸フィルム。
10. フィルム中に含まれる最大長25μm以上の粗大粒子の数が10個/m以下である上記1〜9のいずれかに記載の延伸フィルム。
11. フィルム中に含まれる多孔質シリカ粒子の周りに発生するボイドの、下記式(1)で表わされるボイド率が50%以下である上記1〜10のいずれかに記載の延伸フィルム。
(1)ボイド率=((粒子周囲のボイド径−粒子径)/粒子周囲のボイド径)×100
12. シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂を含む樹脂材料に、平均粒径Bが0.5〜5μm、DBA値が200ミリモル/kg以下、細孔容積が0.5〜2.0ml/gの範囲である多孔質シリカ粒子を混合してなる樹脂組成物であって、該多孔質シリカ粒子の含有量が、樹脂組成物の質量を基準として0.01〜10質量%である樹脂組成物。
13. 樹脂組成物が、さらに熱可塑性非晶樹脂を含有する上記12に記載の樹脂組成物。
14. 多孔質シリカ粒子の圧縮率が20〜90%である上記12または13に記載の樹脂組成物。」
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の延伸フィルムは、耐熱性及び電気特性に優れたシンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂に、特定粒径で特定表面特性を有する多孔質シリカ粒子を特定量含有しているので、該粒子の分散性が極めて良好であり、しかも、該粒子に起因して発生するボイドが小さく、取扱い性、絶縁破壊特性、耐削れ性に優れ、特にフィルムコンデンサー用として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<延伸フィルム>
本発明の延伸フィルムは、シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂(以下、SPSと称することがある)と、平均粒径Aが0.5〜5.0μmの多孔質シリカ粒子とを含む樹脂組成物からなる。
【0011】
ここで用いられるシンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂は、炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものである。一般にタクティシティーは、同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量され、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッド等によって示すことができる。本発明におけるシンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂とは、ダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、あるいはペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、あるいはこれらのベンゼン環の一部が水素化された重合体やこれらの混合物、またはこれらの構造単位を含む共重合体を指称する。なお、ここでポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(プロピルスチレン)、ポリ(ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)等があり、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フロオロスチレン)等がある。また、ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)等がある。これらのうち好ましいポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−ターシャリーブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、またスチレンとp−メチルスチレンとの共重合体を挙げることができ、なかでもポリスチレンが好ましい。
【0012】
さらに、本発明におけるポリスチレン系樹脂に共重合成分を含有させて共重合体として使用する場合においては、そのコモノマーとして、上述の如きポリスチレン系樹脂のモノマーのほか、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等のオレフィンモノマー、ブタジエン、イソプレン等のジエンモノマー、環状ジエンモノマーやメタクリル酸メチル、無水マレイン酸、アクリロニトリル等の極性ビニルモノマー等を用いることができる。
【0013】
また、このシンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1.0×10〜3.0×10であり、さらに好ましくは5.0×10〜1.5×10であり、特に好ましくは1.1×10〜8.0×10である。重量平均分子量を1.0×10以上、好ましくは5.0×10以上、特に好ましくは1.1×10以上とすることで、強伸度特性に優れ、耐熱性がより向上したフィルム等の成形品を得ることができる。また、重量平均分子量が3.0×10以下、好ましくは1.5×10以下、特に好ましくは8.0×10以下だと、延伸張力が好適な範囲となり、製膜時等において破断等が発生しにくくなる。
【0014】
本発明の延伸フィルムに含まれる多孔質シリカ粒子は、その平均粒径Aが0.5〜5μm、好ましくは0.8〜2.5μmである必要がある。この平均粒径が0.5μm未満の場合には、フィルムの滑り性が不足して、巻取り性や取扱い性が不十分となる。一方、5μmを超える場合には、延伸等により粒子の周りに形成されるボイドの径が大きくなるので好ましくない。また、該粒子の含有量は、樹脂組成物質量を基準として0.01〜3質量%、さらに好ましくは0.02〜1質量%、特に好ましくは0.05〜0.5質量%の範囲とする必要がある。この含有量が下限未満では滑り性が不足して巻取り性が乏しくなる。一方、上限を超える場合には、耐削れ性が不十分となる他、絶縁破壊特性や製膜延伸性が損なわれる。
【0015】
本発明で用いられる多孔質シリカ粒子は、さらにDBA値(ジ−n−ブチルアミン吸着量)が200ミリモル/kg以下、好ましくは100ミリモル/kg以下であることが必要である。DBA値が200ミリモル/kgを超える場合には、樹脂組成物中での多孔質シリカ粒子の分散が悪くなるだけでなく、延伸フィルムに成形する際に樹脂と粒子の間にボイドが発生しやすくなるので好ましくない。なお、ここでいうDBA値は、ジ−n−ブチルアミンのトルエン溶液で多孔質シリカ粒子を処理した際のジ−n−ブチルアミン吸着量(粒子1kgに対するジ−n−ブチルアミンの吸着量(ミリモル))である。
【0016】
かかる多孔質シリカ粒子は、その製造方法は特に限定されず、ゾルゲル法、沈降法等従来公知の方法により製造される多孔質シリカ粒子の表面を、例えばアルキルアルコキシシラン化合物、シラザン化合物等で処理して、粒子表面のシラノール基を改質することにより容易に得ることができる。粒子表面にシラノール基が多い場合には、シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂との親和性が低下して樹脂組成物中への粒子の分散性が低下し、また、延伸フィルムに成形する際に樹脂と粒子の間にボイドが発生しやすくなるだけでなく、粒子表面の活性があがって樹脂材料中に配合する際に、粒子の再凝集などの弊害を起しやすくなる。
【0017】
本発明で用いられる多孔質シリカ粒子は、さらに圧縮率(0.2gf荷重時:島津製作所製微小圧縮試験MCTM−200にて測定)が20〜90%、特に50〜85%の範囲にあることが好ましい。圧縮率がこの範囲にあることにより、延伸フィルム等に加工する際の応力により、該粒子が適度に変形して粒子の周りに形成されるボイドの径が小さくなるものと考えられる。
【0018】
また、多孔質シリカ粒子は1次粒子が凝集した凝集粒子であるものが好ましく、さらに好ましくは、その1次粒子径が0.01〜0.1μmで、細孔容積が0.5〜2.0ml/gの範囲にあるものであり、また、細孔平均径は5〜25nmの範囲にあるものが好ましい。かかる要件を満たすことにより、延伸フィルム等に加工する際の応力により、該粒子が適度に変形して粒子の周りに形成されるボイドの径が小さくなるものと考えられる。
【0019】
以上に説明した本発明の延伸フィルムは、上記の多孔質シリカ粒子の他に、平均粒径Aが0.01μm以上0.5μm未満の粒子(以下、不活性粒子と称することがある)を含有することが好ましい。かかる不活性粒子を含有することによって、高い絶縁破壊電圧を保ったまま、フィルムの滑り性を良好なものとすることができ、巻取り性に優れた延伸フィルムを得ることができる。不活性粒子の平均粒径Aが小さすぎる場合には、滑り性の改善効果が低下する傾向にあり、巻取り性改善効果も低下する。他方、大きすぎる場合には、フィルム表面における低突起の高さが高くなりすぎ、それにより滑り性が高くなりすぎ、巻取り時に端面ズレを起こしやすくなる等巻取り性が低下する。また、フィルム中のボイドが増大する傾向にあり、耐削れ性や絶縁破壊電圧が低くなる。このような観点から、不活性粒子の平均粒径Aは、好ましくは0.05μm以上0.5μm未満、さらに好ましくは0.1μm以上0.5μm未満、特に好ましくは0.2〜0.4μmである。なお、かかる不活性粒子の平均粒径は、前記多孔質シリカ粒子の平均粒径Aよりも小さいことが好ましく、その差は0.2μm以上であることが好ましい。
【0020】
かかる不活性粒子は、粒径比(長径/短径)が1.0〜1.3の球状粒子であることが好ましい。粒径比は、さらに好ましくは1.0〜1.2、特に好ましくは1.0〜1.1である。粒径比が上記数値範囲にあると、巻取り性の向上効果および絶縁破壊電圧の向上効果をより高くすることができる。
【0021】
かかる不活性粒子は、有機系粒子、無機系粒子いずれであってもよい。有機系粒子としては、例えばポリスチレン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、スチレン−アクリル樹脂粒子、ジビニルベンゼン−アクリル樹脂粒子、ポリエステル樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、メラミン樹脂粒子等の高分子樹脂粒子が挙げられる。中でも、滑り性および耐削れ性に優れるという観点から、シリコーン樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子が好ましく、前述のように、球状シリコーン樹脂粒子、球状ポリスチレン樹脂粒子が特に好ましい。また、無機系粒子としては、(1)二酸化ケイ素(水和物、ケイ砂、石英等を含む);(2)各種結晶形態のアルミナ;(3)SiO2成分を30質量%以上含有するケイ酸塩(例えば非晶質もしくは結晶質の粘土鉱物、アルミノシリケート(焼成物や水和物を含む)、温石綿、ジルコン、フライアッシュ等);(4)Mg、Zn、Zr、およびTiの酸化物;(5)Ca、およびBaの硫酸塩;(6)Li、Ba、およびCaのリン酸塩(1水素塩や2水素塩を含む);(7)Li、Na、およびKの安息香酸塩;(8)Ca、Ba、Zn、およびMnのテレフタル酸塩;(9)Mg、Ca、Ba、Zn、Cd、Pb、Sr、Mn、Fe、Co、およびNiのチタン酸塩;(10)Ba、およびPbのクロム酸塩;(11)炭素(例えばカーボンブラック、グラファイト等);(12)ガラス(例えばガラス粉、ガラスビーズ等);(13)Ca、およびMgの炭酸塩;(14)ホタル石;(15)スピネル型酸化物等が挙げられる。このうち、滑り性および耐削れ性に優れるという観点から、炭酸カルシウム粒子、シリカ粒子が好ましく、シリカ粒子が特に好ましい。このような無機系粒子は、前述のとおり球状であることが好ましく、球状シリカ粒子が特に好ましい。
【0022】
不活性粒子として最も好ましいのは、球状シリコーン樹脂粒子である。不活性粒子として球状シリコーン樹脂粒子を用いた場合は、後述する熱可塑性非晶樹脂としてポリフェニレンエーテルを併用した際に、相乗効果によってとりわけ耐熱性の高いものとなる。
かかる不活性粒子の含有量は、樹脂組成物100質量%中に好ましくは0.01〜3質量%、より好ましくは0.05〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜0.5質量%、特に好ましくは0.1〜0.3質量%以下である。かかる不活性粒子を上記範囲で含有することによって、高い絶縁破壊電圧を保ったまま、フィルムの取扱い性を良好なものとすることができる。
なお、不活性粒子を含有しない樹脂組成物をフィルムに溶融成形する際に、得られるフィルム中の不活性粒子含有量が上記範囲となるように、不活性粒子をそのまま又はマスターチップとして添加しても構わない。
【0023】
本発明の延伸フィルムは、さらに熱可塑性非晶樹脂を含有することが好ましい。ここでいう熱可塑性非晶樹脂は、DSC(示差走査熱量計)により求められるTg(ガラス転移温度)がSPSより高いTgを有する熱可塑性非晶樹脂である。SPSにこのような熱可塑性非晶樹脂を配合すると、混合体としてのガラス転移温度が高くなるだけでなく、耐熱性が向上し、高温における絶縁破壊電圧が高くなる。また、延伸フィルムの熱寸法安定性が良好となり、延伸性も向上させることができる。このような観点から、熱可塑性非晶樹脂のガラス転移温度は、150℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、200℃以上であることが特に好ましい。配合する熱可塑性非晶樹脂のガラス転移温度が高いほど、熱寸法安定性等の上記効果の向上効果が大きくなるが、溶融押出し等を考慮すると、実質的な上限は好ましくは350℃、より好ましくは300℃である。
【0024】
このような熱可塑性非晶樹脂としては、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミドなどの芳香族ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド等を好ましく例示することができる。これらのうち延伸性を向上させやすく、また酸化防止剤と組合せたときに、相乗作用があるためか、耐熱性、寸法安定性だけでなく、絶縁破壊電圧もさらに向上することから、ポリフェニレンエーテルが特に好ましい。ここで用いられるポリフェニレンエーテル樹脂としては、従来公知の樹脂、例えば、ポリ(2,3−ジメチル−6−エチル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−メチル−6−クロロメチル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2、3、6−トリメチル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−(4’−メチルフェニル)−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−ブロモ−6−フェニル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−フェニル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−クロロ−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−メチル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−クロロ−6−エチル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−クロロ−6−ブロモ−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−メチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−クロロ−6−メチル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2,6−ジブロモ−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレンエ−テル)、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエ−テル)等のホモポリマー、及び、これらの共重合体を挙げることができる。また、これらを無水マレイン酸,フマル酸等の変性剤で変性したものも好適に用いられる。さらに、スチレン等のビニル芳香族化合物を上記ポリフェニレンエ−テルにグラフト共重合またはブロック共重合した共重合体も用いられる。これらのなかで、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエ−テル)が特に好ましい。
【0025】
ポリフェニレンエーテル樹脂の固有粘度(クロロホルム中、30℃で測定)は、0.2〜0.8dl/gの範囲が好ましく、0.3〜0.6dl/gの範囲がより好ましい。固有粘度が0.2dl/g未満の場合には、得られる樹脂組成物の機械的強度が低下する場合がある。一方0.8dl/gを超える場合には、得られる樹脂組成物の流動性が低下し、フィルム等に溶融成形する際の加工が困難になる傾向にある。ポリフェニレンエーテル樹脂は2種以上を併用してもよく、その際には固有粘度の異なるものを混合して所望の固有粘度となるようにしてもよい。
【0026】
ポリフェニレンエーテル樹脂等の熱可塑性非晶樹脂の含有割合は、フィルムコンデンサー用としての電気特性の観点からはポリスチレン系樹脂が多い方が好ましく、最終的に得られるフィルムの耐熱性や、溶融混練時及び製膜時の耐熱性の点からはポリフェニレンエーテル樹脂が多い方が好ましい。したがって、熱可塑性非晶樹脂の含有割合は、樹脂組成物の質量を基準として、48質量%以下、さらに5〜48質量%の範囲であることが好ましい。熱可塑性非晶樹脂を上記範囲の量含有させることによって、耐熱性に優れ、また絶縁破壊電圧を高くすることができ、すなわち高温における絶縁破壊電圧の向上した延伸フィルムを得ることができる。含有量が少なすぎる場合は、耐熱性の向上効果が低くなる傾向にあり、また絶縁破壊電圧の向上効果も低くなる傾向にあり、延伸性の向上効果も乏しくなる。このような観点から、熱可塑性非晶樹脂の含有量は、8質量%以上がより好ましく、11質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、含有量が多すぎる場合は、SPSの結晶性が低下しやすくなる傾向にあり、フィルムの耐熱性が低下する傾向にある。このような観点から、熱可塑性非晶樹脂の含有量は、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下が特に好ましい。
なお、本発明の延伸フィルム中には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、上記SPS、熱可塑性非晶樹脂の他に、さらに他の樹脂を併用してもよい。
【0027】
本発明の延伸フィルムは、さらに酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤としては、生成したラジカルを捕捉して酸化を防止する一次酸化防止剤、あるいは生成したパーオキサイドを分解して酸化を防止する二次酸化防止剤のいずれであってもよい。一次酸化防止剤としてはフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が挙げられ、二次酸化防止剤としてはリン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤が挙げられる。これらの中でも一次酸化防止剤が好ましく、特にフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0028】
また、酸化防止剤は、その熱分解温度が250℃以上であることが好ましい。熱分解温度が高いと、高温における絶縁破壊電圧の向上効果が高くなる。熱分解温度が低すぎる場合は、溶融押出時に酸化防止剤自体が熱分解してしまい、工程を汚染してしまう、ポリマーが黄色く着色してしまう等の問題が生じやすくなる傾向にある。このような観点から、酸化防止剤の熱分解温度は、より好ましくは280℃以上、さらに好ましくは300℃以上、特に好ましくは320℃以上である。本発明における酸化防止剤は、熱分解しにくい方が好ましく、熱分解温度は高い方が好ましいが、現実的には、その上限は500℃程度である。
【0029】
また、酸化防止剤の融点は、90℃以上であることが好ましい。融点が低すぎる場合は、溶融押出時に酸化防止剤が樹脂材料より早く融解してしまい、押出機のスクリュー供給部分においてポリマーがスリップしてしまう傾向にある。それによって、ポリマーの供給が不安定となる等の問題が生じる。このような観点から、酸化防止剤の融点は、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは200℃以上である。他方、酸化防止剤の融点が高すぎる場合は、溶融押出時に酸化防止剤が融解しにくくなり、樹脂材料内での分散が悪くなってしまう傾向にある。それにより、酸化防止剤の添加効果が局所的にしか発現しない等の問題が生じる。このような観点から、酸化防止剤の融点は、好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは220℃以下、特に好ましくは170℃以下である。
【0030】
以上のような酸化防止剤としては、市販品をそのまま用いることもできる。市販品としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1010)、N,N’−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1024)、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1098)等が好ましく挙げられる。これら酸化防止剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
酸化防止剤の含有量は、樹脂組成物の質量を基準として0.1〜5質量%が好ましい。酸化防止剤を上記数値範囲の含有量で含有することによって、絶縁破壊電圧の向上効果を高くすることができる。酸化防止剤の含有量が少なすぎる場合は、酸化防止剤の添加効果が十分でなく、絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる傾向にある。このような観点から、酸化防止剤の含有量は、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、1質量%以上が特に好ましい。他方、含有量が多すぎる場合は、延伸フィルム中において酸化防止剤が凝集しやすくなる傾向にあり、酸化防止剤に起因する欠点が増加する傾向にあり、かかる欠点により絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。このような観点から、酸化防止剤の含有量は、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が特に好ましい。
なお、酸化防止剤を含有しない樹脂組成物をフィルムに溶融成形する際に、得られるフィルム中の酸化防止剤含有量が上記範囲となるように、酸化防止剤をそのまま又はマスターチップとして添加しても構わない。
【0032】
本発明の延伸フィルムは、本発明の目的を阻害しない範囲で、例えばさらに製膜性、力学物性、表面性等を改良するために、熱可塑性非晶樹脂とは異なる他の樹脂成分を含有さたり、帯電防止剤、着色剤、耐候剤等の添加剤を加えることができる。また、前述の粒子以外の不活性粒子も、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、少量併用しても良い。
【0033】
本発明の延伸フィルムは、厚み方向の屈折率が1.575〜1.635であることが好ましい。厚み方向の屈折率を上記数値範囲とすることによって、より絶縁破壊電圧を高くすることができる。また、フィルム製造工程におけるフィルム破断の頻度が低下し、生産性を向上しやすくなる。このような観点から、厚み方向の屈折率は、好ましくは1.620以下、さらに好ましくは1.615以下、特に好ましくは1.610以下である。他方、厚み方向の屈折率が低すぎる場合は、絶縁破壊電圧が低くなる傾向にある。また、コンデンサーの製造工程におけるフィルム破断の頻度が増加し、コンデンサーの生産性が低下しやすくなる。さらに、フィルムの厚み斑が悪くなる傾向にあり、品質の安定したコンデンサーを得にくくなる。このような観点から、厚み方向の屈折率は、より好ましくは1.590以上、さらに好ましくは1.595以上、特に好ましくは1.600以上である。かかる厚み方向の屈折率は、フィルムの製膜条件によって容易に調整できる。
【0034】
本発明の延伸フィルムは、フィルム中に存在する最大長25μm以上の粗大凝集粒子の数が、1mあたり10個以下、さらに5個/m以下、特に3個/m以下であることが好ましい。粗大凝集粒子の個数が上限より多いとフィルム表面に不均一な突起を生じ、巻回フィルムとしたときに巻きズレが悪化して、加工性が低下する場合がある。また製膜延伸工程で破断の起点になり、延伸性が不安定になる場合がある。
【0035】
本発明の延伸フィルムは、多孔質シリカ粒子の周囲に実質的にボイドを有しないことが好ましい。ここで実質的にボイドを有しないとは、ボイドを有しないか、粒子の脱落を起こさない程度のボイド又は絶縁破壊電圧を低下させない程度のボイドを有してもよいことをいい、後述の評価方法でボイド率を測定したとき、(粒子周囲のボイド径−粒子径)と粒子周囲のボイド径の比として算出されるボイド率が50%以下であり、特に好ましくは30%以下であることを意味する。なお、ボイド率が50%を超えると、加工中に粒子の脱落が起こり、工程汚染だけでなく,表面粗さが変わってフィルムロールの巻取りに不具合を生じる等の取扱い性が低下し、また、絶縁破壊電圧が低下しそのばらつきも大きくなりやすい(絶縁破壊特性が低下しやすい)。
【0036】
本発明の延伸フィルムは、その厚みは特に制限されないが、薄くなるほど本発明の効果が出やすいことから、特に0.4〜6.5μmであることが好ましい。さらに好ましくは0.4〜6.0μmであり、特に好ましくは0.5〜3.5μmである。このようなフィルム厚みにすることによって、静電容量の高いコンデンサーを得ることができる。
【0037】
本発明の延伸フィルムは、さらに120℃における絶縁破壊電圧(BDV)が450V/μm以上であることが好ましい。絶縁破壊電圧がかかる要件を満たすということは、高温においても優れた絶縁破壊電圧を有するということを表わす。かかる絶縁破壊電圧は、より好ましくは500V/μm以上、さらに好ましくは520V/μm以上である。
また、上記絶縁破壊電圧の標準偏差は40V/μm以下であることが好ましく、より好ましくは30V/μm以下、さらに好ましくは20V/μm以下である。この標準偏差がかかる要件を満たすということは、局所的な絶縁破壊電圧の低下が小さい(ばらつきが小さい)ということを表わし、コンデンサーなどの電気絶縁材料として用いた場合の材料の信頼性を高めることができる。
【0038】
本発明の延伸フィルムは、その少なくとも片面の中心線平均表面粗さRaが7〜89nmであることが好ましい。中心線平均表面粗さRaがこの範囲内にあることによって、巻取り性の向上効果を高くすることができる。また、耐ブロッキング性が向上し、ロールの外観を良好なものとすることができる。中心線平均表面粗さRaが低すぎる場合は、滑り性が低くなりすぎる傾向にあり、巻取り性の向上効果が低くなる。他方、高すぎる場合は、滑り性が高くなりすぎる傾向にあり、巻取り時に端面ズレを起こしやすくなる等巻取り性の向上効果が低くなる。このような観点から、中心線平均表面粗さRaの下限は、より好ましくは11nm以上、さらに好ましくは21nm以上、特に好ましくは31nm以上である。また、中心線平均表面粗さRaの上限は、より好ましくは79nm以下、さらに好ましくは69nm以下、特に好ましくは59nm以下である。
【0039】
また、本発明の延伸フィルムは、その少なくとも片面の10点平均粗さRzが200〜3000nmであることが好ましい。10点平均粗さRzがこの範囲内にあることによって、巻取り性の向上効果を高くすることができる。10点平均粗さRzが低すぎる場合は、ロールとして巻き上げる際にエアー抜け性が低くなる傾向にあり、フィルムが横滑りしやすくなる等巻取り性の向上効果が低くなる。特に、フィルム厚みが薄い場合は、フィルムの腰が無くなるため、エアー抜け性がさらに低くなる傾向にあり、巻取り性の向上効果がさらに低くなる。他方、10点平均粗さRzが高すぎる場合は、粗大突起が多くなる傾向にあり、絶縁破壊電圧の向上効果が低くなる。このような観点から、10点平均粗さRzの下限は、より好ましくは600nm以上、さらに好ましくは1000nm以上、特に好ましくは1250nm以上である。また、10点平均粗さRzの上限は、より好ましくは2600nm以下、さらに好ましくは2250nm以下、特に好ましくは1950nm以下である。
【0040】
<フィルムの製造方法>
以上に説明した本発明の延伸フィルムは、基本的には従来知られている、あるいは当業界に蓄積されている方法で得ることができる。以下、本発明の延伸フィルムを得るための製造方法について詳記する。なお、本発明の延伸フィルムは、一軸配向フィルムであっても二軸配向フィルムであっても良いが、生産性や物性のバランスの点から二軸延伸フィルムであることが好ましい。以下、二軸延伸フィルムを例にとって、説明する。
【0041】
先ず、所定量のSPSと多孔質シリカ粒子を、必要に応じて前述の熱可塑性非晶樹脂や、不活性粒子、酸化剤等の添加剤等と混合加熱溶融して、未延伸シートを作成する。具体的には樹脂材料の融点(Tm、単位:℃)以上(Tm+50℃)以下の温度で加熱溶融し、シート状に押し出して、冷却固化して未延伸シートを得る。この際、SPS、多孔質シリカ粒子、熱可塑性非晶樹脂、不活性粒子、酸化剤等を予め混合した樹脂組成物を用いることが好ましく、また、これらの含有量が多い樹脂組成物をマスターチップとして用い、製膜時にベース樹脂で希釈してもよい。さらには、例えば多孔質シリカ粒子、熱可塑性非晶樹脂、不活性粒子又は酸化剤を含有する複数のマスターチップを予め作成し、製膜時にこれらのマスターチップとベース樹脂を、所定の含有量となるように混合して溶融製膜してもよい。
【0042】
得られた未延伸シートは、二軸に延伸する。延伸は、縦方向(機械軸方向)及び横方向(機械軸方向と厚み方向とに垂直な方向)を同時延伸してもよいし、任意の順序で逐次延伸してもよい。例えば逐次延伸の場合は、先ず一軸方向に(樹脂組成物のガラス転移温度(Tg、単位:℃)−10℃)〜(Tg+70℃)の温度で3.2〜5.8倍、好ましくは3.3〜5.4倍、さらに好ましくは3.4〜5.0倍の倍率で延伸し、次いで該一軸方向と直交する方向にTg〜(Tg+80℃)の温度で3.8〜5.9倍、好ましくは4.0〜5.5倍、より好ましくは4.1〜5.1倍、さらに好ましくは4.2〜4.9以下の倍率で延伸する。さらに、面積延伸倍率(=縦延伸倍率×横延伸倍率)としては、12.0倍以上であることが、前述の厚み方向の屈折率を備えるフィルムを得るため好ましい。面積延伸倍率が低くなると、耐熱性が低下する傾向にある。このことから、面積延伸倍率は13.0倍以上がより好ましく、13.5倍以上がさらに好ましく、14.0倍以上が特に好ましい。また、面積延伸倍率が高くなり過ぎると製膜・延伸時に破断が起き易くなる。このような観点から、面積延伸倍率は、22倍以下が好ましく、20倍以下がより好ましく、18倍以下がさらに好ましく、17倍以下が特に好ましい。
なお、本発明においては、未延伸シート、または、かかる未延伸シートを好ましくは縦方向に一軸延伸した一軸延伸フィルムに、塗布層を形成するための塗液を塗布することで、塗布層を形成してもよい。
【0043】
次いで、(Tg+70℃)〜Tmの温度で熱固定する。熱固定の温度は200〜260℃であり、好ましくは225〜255℃であり、さらに好ましくは235〜250℃である。熱固定温度が高すぎる場合は、特にフィルム厚みの薄いフィルムを製造する際に、フィルム破断が生じやすくなり、また厚み斑が悪化してしまう。熱固定の後に必要に応じて熱固定温度より20℃〜90℃低い温度下で弛緩処理をすると、寸法安定性が良くなる。
【0044】
<樹脂組成物>
本発明の延伸フィルムの製造に好ましく用いられる樹脂組成物は、前述のシンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂に、多孔質シリカ粒子を溶融混合してなるものである。
ここで用いられる多孔質シリカ粒子の平均粒径Bは0.5〜5μm、特に0.8〜3.0μmの範囲にあることが好ましい。この平均粒径が0.5μm未満の場合には、フィルム等に溶融成形した際のフィルム中の多孔質シリカ粒子の平均粒径Aが小さくなって滑り性が不足し、巻取り性や取扱い性が不十分となる傾向にある。一方、5μmを超える場合には、フィルム等に溶融成形する際、延伸等により粒子の周りに形成されるボイドの径が大きくなりやすい。また、該粒子の含有量は、樹脂組成物質量を基準として0.01〜10質量%、好ましくは0.5〜5.0質量%の範囲とする。含有量が0.01質量%未満ではフィルム等に成形した後の成形品の滑り性が不足して取扱い性が不十分となる。一方、10質量%を超える場合には、樹脂組成物中での粒子の分散が悪くなるので好ましくない。なお、樹脂組成物をそのまま溶融成形してフィルム等に成形する場合には、粒子の含有量は前述のとおり、0.01〜3質量%、さらに0.02〜1質量%、特に0.05〜0.5質量%の範囲とするのが好ましい。一方、ベース樹脂等で希釈して溶融製膜する場合には、含有量の多い、例えば0.5〜10質量%の樹脂組成物を用い、フィルム等に成形した樹脂組成物中(フィルム中)の含有量が上記の範囲となるように希釈すればよい。
【0045】
さらに、多孔質シリカ粒子のDBA値は、前述のとおり200ミリモル/kg以下、好ましくは100ミリモル/kg以下であることが必要である。DBA値が200ミリモル/kgを超える場合には、樹脂組成物中での多孔質シリカ粒子の分散が悪くなるだけでなく、延伸フィルムに成形する際に樹脂と粒子の間にボイドが発生しやすくなるので好ましくない。
【0046】
また、多孔質シリカ粒子の圧縮率は、前述のとおり20〜90%、特に50〜85%の範囲にあることが好ましい。圧縮率がこの範囲にあることにより、延伸フィルムに加工する際の応力により、該粒子が適度に変形して粒子の周りに形成されるボイドの径が小さくなるものと考えられる。
【0047】
かかる樹脂組成物には、前述のとおり、熱可塑性非晶樹脂、特にポリフェニレンエーテル樹脂が含まれていることが好ましい。熱可塑性非晶樹脂の含有割合は、樹脂組成物をそのまま溶融成形してフィルム等に成形する場合には、樹脂組成物の質量を基準として、48質量%以下、さらに5〜48質量%の範囲であることが好ましい。かくすることにより、耐熱性に優れ、また絶縁破壊電圧を高くすることができ、すなわち高温における絶縁破壊電圧の向上した延伸フィルムを得ることができる。含有量が少なすぎる場合は、耐熱性の向上効果が低くなる傾向にあり、また絶縁破壊電圧の向上効果も低くなる傾向にあり、延伸性の向上効果も乏しくなる。このような観点から、熱可塑性非晶樹脂の含有量は、8質量%以上がより好ましく、11質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、含有量が多すぎる場合は、SPSの結晶性が低下しやすくなる傾向にあり、フィルムの耐熱性が低下する傾向にある。このような観点から、熱可塑性非晶樹脂の含有量は、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下が特に好ましい。一方、樹脂組成物をマスターバッチとして使用し、多孔質シリカ粒子を含有しない、例えばシンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂等のベース樹脂や、その他の添加剤を含有するマスターバッチと溶融混練して希釈する場合には、ポリフェニレンエーテル樹脂の含有割合の多い、例えば含有量が20〜80質量%の樹脂組成物を用い、フィルムに成形した樹脂組成物中の含有量が上記の範囲となるように希釈すればよい。
【0048】
上述の多孔質シリカ粒子と樹脂材料との混合方法については特に限定する必要はなく、樹脂材料の重合段階で添加しても良いし、重合によって得られた樹脂材料に溶融混練する方法で添加しても良い。例えば、該粒子粉体と樹脂材料とを溶融混練機の同一供給口より供給して溶融混練してもよいし、ベント付二軸混練押出機等の溶融混練機中に先ず樹脂材料を投入し、該樹脂材料が溶融した部位に該粒子を粉体添加する方法でもよい。なかでも、該粒子と樹脂ペレットまたは樹脂粉末とを予め混合した後に、ベント付二軸混練押出機中に供給する方法が好ましい。かかる方法によれば、該粒子が樹脂ペレットまたは樹脂粉末の表面に付着しているので、混練機内部で解砕が進行する際、該粒子と樹脂との接触間隔が極めて小さいために分散性がさらに向上するものと推定される。
【0049】
ベント付二軸混練押出機としては、粒子の添加口がベント付二軸混練押出機内部に配置されたスクリューのフルフライト部に設けられ、粒子を混練分散させるための送り翼と戻し翼とを有するローターセグメントを前記添加口よりスクリュー軸心方向下流側に少なくとも1箇所設けられている装置を使用することが好ましい。ここでベントラインは樹脂からの副生物の除去のためである。また、ベント付二軸混練押出機は、ローターセグメントが1〜3箇所あることが好ましい。ローターセグメントが無いと該粒子の混練分散性が低下し、ローターセグメントが3箇所を超えると樹脂の推進力が低下してベントアップを生じやすくなる。また、該多孔質粒子の混練分散を補うためのニーディングディスクを有することが好ましい。
【0050】
<コンデンサー>
前述した本発明の延伸フィルムは、例えば少なくとも片面に金属層を積層することによりコンデンサーを得ることができる。金属層の材質については特に制限はないが、例えばアルミニウム、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、銅およびこれらの合金が挙げられる。さらに、これらの金属層は若干量酸化されていてもよい。また、金属層を簡便に形成できるため、金属層は蒸着法により形成された蒸着型金属層であることが好ましい。なお、金属層を積層するにあたり、予め塗布層を設けることによって、延伸フィルム層(基材層)と金属層とに適度な接着力を持たせることができ、フィルムコンデンサー製造において巻回などの加工を施す場合には金属層の剥離がなく、コンデンサーとしての機能が発揮されるものとなる。さらに、同時に塗布層と金属層とが適度の接着性を有し、放電が起こっても、先に表面エネルギーの小さい塗布層がフィルムから剥離し、金属層と塗布層のみが破壊され、フィルムは破壊されず、それにより短絡状態にならず、絶縁破壊電圧の向上効果を高くすることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。なお、各特性値は以下の方法により測定した。
【0052】
(1)平均粒径
平均粒径A
フィルム表面をプラズマリアクターで処理して粒子を露出させ、金スパッター装置によりこの表面に金薄膜蒸着層を厚み200〜300Åで形成した。次いで、走査型電子顕微鏡を用いて1万5000倍で観察し、日本レギュレーター(株)製ルーゼックス500にて、測定対象物の形状(輪郭)が2値化画像になるよう設定して少なくとも110個の粒子について面積相当粒径(Di)を求め、そのうち最大値と最小値からそれぞれ5個を除いて数平均を算出し、粒子の平均粒径Aとした。
平均粒径B
分散媒としてエタノールを使用し、島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2000Jを用いて体積分布基準で平均粒径Bを求めた。
【0053】
(2)多孔質性シリカ粒子のDBA値(ジ−n−ブチルアミンの吸着量)
105℃、2時間で乾燥した試料250mgを精秤し、これに50mlの1/500N−DBA溶液(石油ベンジン溶媒)を加え、20℃で2時間放置する。この上澄液25mlにクロロホルム5ml、クリスタルバイオレット指示薬2〜3滴を加え、紫色が青色に変わるまで1/100N−過塩素酸溶液(無水酢酸溶媒)で滴定し、この時の滴定値をAmlとする。別にブランクを行いBmlとし、次式によってDBA値を算出した。
DBA値(ミリモル/kg)=80(A−B)f
但し、fは1/100N−過塩素酸溶液の力価
(R.Meyer;Kautschuku.Gummi.,7[8],180-182(1954)参照)
【0054】
(3)圧縮率
島津製作所製微小圧縮試験MCTM−200を用い、荷重負荷速度0.0725gf/secの条件で荷重し、0.2gf荷重時の圧縮率を求める。粒径が平均粒子径と同じ粒子を5個選んで測定し、それらの平均値を粒子の圧縮率として算出した。
【0055】
(4)製膜延伸性
フィルム原料を押出機に供給し、ダイスを通じて溶融押出する際の揮発成分の発生状況、およびフィルムの延伸製膜工程におけるフィルム製膜性について、以下の基準によって評価した。
◎:ポリマー溶融押出時に粗大凝集物などなく、製膜工程も破断することなく生産できる
〇:ポリマー溶融押出時に粗大凝集物が見られるが、破断することなく生産できる
△:ポリマー溶融押出時に粗大凝集物が見られ、破断が時々発生し安定生産できない
×:ポリマー溶融押出時に粗大凝集物が著しいか、破断が多発し生産できない
【0056】
(5)フィルター昇圧
日本PALL社製H−250(目開き25μmの焼結(粒)型フィルター)にて、フィルム原料を吐出量(kg)/フィルター面積(cm)にて換算した際、押出温度300℃、5kg/cmでろ過した場合の100kg をろ過した際の初期圧力から上昇したフィルター圧力差(ΔP)を評価し、以下の基準によって評価した。
◎:溶融押出時にフィルターの昇圧が無く,安定に押し出すことができる
〇:溶融押出時にフィルターの昇圧が一時的に起こるが、安定に押し出すことができる
△:溶融押出時にフィルターの昇圧は緩やかであるが、長期間安定的に押し出せない
×:溶融押出時にフィルターの圧力が急激に昇圧し、短時間で押し出せなくなった
【0057】
(6)多孔質シリカ粒子、その他の粒子、熱可塑性非晶樹脂、酸化防止剤のフィルム中含有量
多孔質シリカ粒子およびその他の粒子:フィルムサンプルを、樹脂は溶解し粒子は溶解しない溶媒を選択して、サンプルを溶解させた後、粒子を樹脂から遠心分離し、サンプル重量に対する粒子の比率(重量%)をもって粒子含有量とした。また、その他の粒子を含有している場合は、粒子の含有比率からそれぞれの含有率を算出した。
熱可塑性非晶樹脂:H−NMR測定、13C−NMR測定により、熱可塑性非晶樹脂の成分および各成分量を特定した。
酸化防止剤:H−NMR測定、13C−NMR測定により、酸化防止剤の成分および各成分量を特定した。なお、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド](登録商標Irg1098)の場合はtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルとアミド結合との間の炭化水素鎖に起因する水素に起因するピーク強度を測定した。かかるNMR測定結果をもとに、安定剤が樹脂と反応している場合はもとの安定剤に換算した含有量を求めた。また、ポリマーと未反応な安定剤と、ポリマーと反応した安定剤とが混在し、同じ炭化水素鎖に着目しても複数のピーク位置が検出される場合は、それらの合計値より含有量を求めた。
【0058】
(7)厚み方向の屈折率
ナトリウムD線(589nm)を光源としたアッベ屈折計を用いて23℃65%RHにて、厚み方向の屈折率(Nz)を測定した。厚み方向の屈折率が高いほど、フィルムの面方向に分子鎖が配向していることを意味する。
【0059】
(8)粗大粒子の数
フィルムサンプルについて、万能投影機を用い、透過照明にて20倍に拡大し、1m面積中に含まれる最大長(長径)が25μm以上の粒子数をカウントした。
【0060】
(9)ボイド率
フィルムを厚み方向かつ幅方向に沿って、ミクロトームで切断し、切断面を(株)日立製走査型電子顕微鏡S−4700にて20000倍で、切断面におけるフィルム中の多孔質シリカ粒子およびそれらの周囲のボイドを観察して、粒子10個について各粒子の断面と各粒子の周囲のボイド断面のフィルム幅方向の径を求め、下記式で各粒子のボイド率を算出した。
ボイド率=((粒子周囲のボイド径−粒子径)/粒子周囲のボイド径)×100
粒子10個についてボイド率の平均を算出して、平均ボイド率とし、フィルム中にボイドが実質的にあるか、実質的にないかを評価した。
〇:ボイドが実質的にない(平均ボイド率が30%以下)
△:ボイドが実質的にない(平均ボイド率が30%超、50%以下)
×:ボイドが実質的にある(平均ボイド率が50%超)
【0061】
(10)表面粗さ(RaおよびRz)
非接触式三次元粗さ計(小坂研究所製、ET−30HK)を用いて波長780nmの半導体レーザー、ビーム径1.6μmの光触針で測定長(Lx)1mm、サンプリングピッチ2μm、カットオフ0.25mm、厚み方向拡大倍率1万倍、横方向拡大倍率200倍、走査線数100本(従って、Y方向の測定長Ly=0.2mm)の条件にてフィルム表面の突起プロファイルを測定した。その粗さ曲面をZ=f(x,y)で表わしたとき、次の式で得られる値をフィルムの中心線平均表面粗さ(Ra、単位:nm)とした。
【0062】
【数1】
【0063】
また、上記Raにより得られたフィルム表面の突起プロファイルにおいて、ピーク(Hp)の高い方から5点と谷(Hv)の低い方から5点をとり、次の式で得られる値をフィルムの10点平均粗さ(Rz、単位:nm)とした。
【0064】
【数2】
【0065】
(11)巻取り性
フィルムの製造工程において、フィルムを550mm幅で6000mのロール状に100m/分の速度で巻き上げ、その巻上げ状況、ロールの外観により以下の基準によって評価した。
A:フィルム表面全体で表面粗さが均一であり、ロールの巻き姿良好
B:フィルム中の粗大凝集粒子の影響により、ロールの表面に1個以上5個未満のピンプル(突起状盛り上がり)が見られるがほぼ良好
C:フィルム中の粗大凝集物が多数あり、ロールの表面に5個以上のピンプル(突起状盛り上がり)が見られ、外観不良
D:ロールのフィルム端面ズレが起き、巻き姿不良
【0066】
(12)絶縁破壊電圧(BDV)およびばらつき
延伸フィルムサンプルを、JIS規格C2151に記載のDC試験のうち平板電極法に準拠して、東京精電株式会社製ITS−6003を用いて、0.1kV/秒の昇圧速度で測定し、破壊時の電圧を絶縁破壊電圧として測定した。測定はn=50で行い、平均値を絶縁破壊電圧とし、標準偏差を絶縁破壊電圧のばらつきとした。なお測定は25℃の室温で実施した。
【0067】
(13)耐削れ性
フィルムを長手方向に幅1/2インチ,長さ400mmにカットしたものを、フィルム走行試験機を用いてステンレスガイドピン(表面粗さ:Raで40nm)上を走行させ、走行速度が20mm/秒で200mmの距離を2往復させた(巻き付け角度90°、出側張力50g)。走行後、ガイドピンのフィルム接触部とフィルムのガイドピン接触面を日立製走査型電子顕微鏡S−4700にて100倍で粒子の付着量を観察して、次の基準で判定を行った。削れた粒子の堆積幅が小さいほど、削れ性に優れている。
○:0.20mm未満
△:0.20mm以上0.50mm未満
×:0.50mm以上
【0068】
(14)耐ブロッキング性
フィルムを100mm角の正方形にカットしたものを合計厚みが20μm以上になるように重ね合せ(フィルム1枚で厚みが20μm以上あるものは1枚で使用)、 同じサイズのアルミ箔で上下1枚ずつ挟んだ積層体を作製した。その積層体を加熱プレス機にて熱圧着を行った。圧着条件はプレス温度125℃、プレス圧5MPa、プレス時間を30分とした。圧着後、積層体をオーブンにて150℃、30分間熱処理を行い、冷却後の積層体のフィルムとアルミ箔の剥離力を測定した。剥離力の測定は引張試験機を使用し、引張速度300mm/分の条件で測定し、測定結果からブロッキング性を次の基準で判定した。
〇:ほとんど自然に剥離しているか、平均剥離力が1.0mN/mm以下である
△:部分的にブロッキングしているが、平均剥離力が1.0mN/mm超え、3.0mN/mm以下である
×:全体的にブロッキングしており、平均剥離力が3.0mN/mmを超えている
【0069】
[合成例1]
22wt%のケイ酸ソーダ水溶液と37wt%の硫酸水溶液を、混合ノズルを用いて反応させ、シリカヒドロゾルを得た。シリカヒドロゾルは約7分でゲル化してシリカヒドロゲルを得た。このシリカヒドロゲルを径約10mmに粗砕した後、90℃,pH9.0の条件で5時間の水熱処理し、その後水洗した。次に水洗したシリカヒドロゲルを振動流動層(中央化工機社製商品名「振動流動相装置VUA−15型」)を用いて、60分間乾燥する第1工程を行い含水量7%に乾燥したシリカを得た。この後、乾燥を行なったシリカに水を添加する第2工程を行って、含水量37%に調整したシリカを得、次に再度、振動流動層により2時間乾燥する第3工程を行って含水量1%のゲル法シリカを得た。この乾燥したシリカをジェットミルを用いて粉砕処理し、得られたシリカ100部を振動流動層に仕込み、除湿された空気によって振動流動させながらn−オクチルトリエトキシシラン12部を噴霧し30分間流動混合した。その後、速やかに温度25℃、湿度90%に保持された恒温恒湿槽中に入れ、72時間保持して表面処理されたシリカ粉体を得た。再度、シリカ分散のためジェットミルを用いて粉砕処理した。得られたシリカ粉体1(多孔質シリカ粒子1)の特性値を表1に示す。
【0070】
[合成例2、3、5]
ジェットミル条件を変更して平均粒径を調整する以外は、合成例1と同様な処理行った。得られたシリカ粉体2、3、5の特性値を表1に示す。
【0071】
[合成例4]
添加するn−オクチルトリエトキシシラン量を変更する以外は、合成例1と同様な処理行った。得られたシリカ粉体4の特性値を表1に示す。
【0072】
[合成例6]
小粒径とするため、1回目のジェットミル処理の後、シリカを蒸留水にて10%スラリーとし、サンドグラインダー(ダイノーミル、容量5L)の湿式粉砕工程を追加する以外は、合成例1と同様な処理行った。得られたシリカ粉体6の特性値を表1に示す。このシリカ粉体は平均粒径が0.3μmと小さすぎるため、圧縮率は測定できなかった。
【0073】
[合成例7]
n−オクチルトリエトキシシランでの表面処理を施さない以外は、合成例1と同様な処理行った。得られたシリカ粉体7の特性値を表1に示す。
【0074】
[実施例1]
樹脂投入口及び2箇所に真空ベントを有する神戸製鋼(株)製ベント付二軸混練押出機KTX−46にローターディスクの送り翼及び戻し翼を2箇所設置し、さらに、ローターセグメント部のすぐ下流側にニーディングディスクが配置されており、ニーディングディスクのすぐ下流側に逆送りフルフライトスクリューがある抵抗部分が配置された設備を用い、樹脂投入口よりポリフェニレンエーテル樹脂(以下、PPEと略すことがある)として三菱エンジニアリングプラスチック製ユピエースPX−100L(Tg210℃)を40質量部、シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂(以下、SPSと略すことがある)として出光興産製ザレック60ZCを55.8質量部、酸化防止剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガノックス1010を0.2質量部混合投入した。
さらに、多孔質シリカ粒子として前述のシリカ粉体1を4質量部、二軸混練押出機の中間部分(ニーディングディスクの下流部分)より添加し混合分散した。この際、混合体フィード量は35質量部/Hr、バレル温度270℃、スクリュー回転数250rpmでダイホールよりストランド状に溶融押出した。その後、冷却バスで樹脂を冷却した後、ペレターザーでカッテングを行い、長径約4mm、短径約4mm、長さ約3mmの樹脂組成物チップを得た。得られた樹脂組成物チップを表1に示す。
【0075】
[実施例2〜5、比較例1〜3]
使用する多孔質シリカ粒子、PPE、SPSの使用割合を表1に記載のとおりとする以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物チップを得た。あわせて表1に示す。
【0076】
[実施例6]
多孔質シリカ粒子の他に、平均粒径Bが0.3μmの球状シリコーン樹脂粒子を4質量部用い、SPSの使用割合を表1に記載のとおりとする以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物チップを得た。あわせて表1に示す。
【0077】
[比較例4]
使用する多孔質シリカ粒子に変えて、平均粒径Bが2.0μmの球状シリカ粒子(非多孔質)を用いる以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物チップを得た。あわせて表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
[実施例11]
実施例1で得られた樹脂組成物チップ(マスターチップA)、ポリフェニレンエーテル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック製ユピエースPX−100L)、シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂(出光興産製ザレック60ZC)、ポリフェニレンエーレル樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック製ユピエースPX−100L)に酸化防止剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製イルガノックス1010を5重量%含有させたマスターチップをそれぞれ乾燥した後、表2記載の組成のフィルムが得られる割合でこれらを混合して押出機に供給し、300℃で溶融し、ダイスリットから押出し後、50℃に冷却されたキャスティングドラム上で冷却固化し、未延伸シートを作成した。なお、酸化防止剤はフィルムの製膜過程で一部飛散されるので、原料の混合物中の酸化防止剤含有量は多めとしてフィルム中の含有量が1重量%となるように調整した。
この未延伸シートを140℃で縦方向(機械軸方向)に3.5倍延伸し、続いてテンターに導いた後、横方向(機械軸方向と厚み方向とに垂直な方向)に4.5倍延伸した。その際、横方向の延伸速度は5000%/分とし、横方向の延伸の温度は、等分の4段階に別け、第1段階の温度を126℃、最終段階の温度を145℃とした。その後250℃で9秒間熱固定をし、さらに180℃まで冷却する間に横方向に2%弛緩処理をして、厚み2.5μmの二軸延伸フィルムを得てロール状に巻き取った。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【0080】
[実施例12〜14、16、19,20,23〜27、比較例11〜13、15、16]
表2又は3に記載のとおりのマスターチップを用い、得られるフィルムの組成が表2又は3に記載となるように、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂および酸化防止剤含有マスターチップを併用する以外は実施例11と同様な操作を繰り返した。得られた延伸フィルムの評価結果を表2、3に示す。なお、実施例25、26においては、酸化防止剤含有マスターチップとしてイルガノックス1010を5重量%含有させたシンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂(出光興産製ザレック60ZC)を用いた。
【0081】
[実施例15、17、18、21、22、比較例14]
得られるフィルムの組成が表2又は3に記載となるように、ポリフェニレンエーテル樹脂、シンジオタクチック構造のポリスチレン系樹脂、多孔質シリカ粒子および酸化防止剤を、実施例1と同様に混合して先ず樹脂組成物チップを得た。得られた樹脂組成物を乾燥し、実施例11と同様に製膜して二軸延伸フィルムを得た。得られた延伸フィルムの評価結果を表2、3に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
表2中のPCは、ビスフェノールA型ポリカーボネート(出光石油化学製 出光ポリカーボネートA300、ガラス転移温度が145℃)である。
また、表2および3中の、Irg1010はペンタエリスリトールテトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1010)を、Irg1098はN,N’−ビス3−(3'5'ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオニルヘキサメチレンジアミン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX1098)、Irg565は2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4'−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:商品名IRGANOX565)である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の延伸フィルムは、粒子の分散性に優れると共に、粒子に起因して生ずるボイドの径が小さいので、耐削れ性、取扱い性、絶縁破壊特性(絶縁破壊電圧およびそのばらつき)に優れ、特にフィルムコンデンサー用として好適に使用することができる。