特許第6367628号(P6367628)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6367628光学フィルムの製造方法、光学フィルムおよび画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367628
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】光学フィルムの製造方法、光学フィルムおよび画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/02 20060101AFI20180723BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20180723BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20180723BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20180723BHJP
   B05D 7/04 20060101ALI20180723BHJP
   B29C 65/48 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C09J5/02
   G02B5/30
   G02F1/1335 510
   B05D3/00 F
   B05D7/04
   B29C65/48
【請求項の数】11
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-145700(P2014-145700)
(22)【出願日】2014年7月16日
(65)【公開番号】特開2016-24209(P2016-24209A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】品川 雅
(72)【発明者】
【氏名】井上 龍一
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−229305(JP,A)
【文献】 特開2013−101335(JP,A)
【文献】 特開平06−157997(JP,A)
【文献】 特開2015−093470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 5/00〜5/04
B05D 3/00、7/04
B29C 65/48
B29L 7/00、11/00
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着剤組成物または粘着剤組成物の硬化物層からなる接着剤層または粘着剤層を介して、少なくとも第1フィルムおよび第2フィルムが貼合された積層構造を含む光学フィルムの製造方法であって、
後計量塗布方式として、グラビアロール塗布方式、フォワードロール塗布方式、エアナイフ塗布方式、またはロッド/バー塗布方式を用いて、前記第1フィルムの貼合面および前記第2フィルムの貼合面に、粘度が1〜10000cPである液状物を塗布することにより、異物を除去する第1塗布工程を有することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
少なくとも一方のフィルムの貼合面に、前記後計量塗布方式を用いて、前記接着剤組成物または前記粘着剤組成物を塗布することにより、異物および/または気泡を除去する第2塗布工程を有する請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記液状物が、少なくとも水を50重量%以上含有するものである請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記液状物が、さらにアルコールを含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
後計量塗布方式が前記接着剤組成物または粘着剤組成物を循環させて塗布する方式であり、塗布によって前記第1フィルムおよび/または前記第2フィルムから前記接着剤組成物または粘着剤組成物に混入した異物を、前記接着剤組成物または粘着剤組成物から取り除く異物除去機能を備えている請求項1〜4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記塗布方式が、グラビアロールを使用したグラビアロール塗布方式である請求項1〜5のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記グラビアロールの回転方向と、前記第1フィルムおよび前記第2フィルムの進行方向とが逆方向である請求項6に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記グラビアロールの表面に形成されたパターンがハニカムメッシュパターンである請求項6または7に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記第1フィルムおよび前記第2フィルムの進行速度に対する、前記グラビアロールの回転速度比が、100〜300%である請求項6〜8のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記第1フィルムは透明保護フィルムであり、前記第2フィルムは偏光子である請求項1〜9のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記偏光子の厚みが10μm以下である請求項10に記載の光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物または粘着剤組成物の硬化物層からなる接着剤層または粘着剤層を介して、少なくとも第1フィルムおよび第2フィルムが貼合された積層構造を含む光学フィルムおよびその製造方法に関する。さらには、本発明は、前記光学フィルムを用いた液晶表示装置、有機EL表示装置、PDPなどの画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
時計、携帯電話、PDA、ノートパソコン、パソコン用モニタ、DVDプレーヤー、TVなどでは液晶表示装置が急激に市場展開している。液晶表示装置は、液晶のスイッチングによる偏光状態を可視化させたものであり、その表示原理から、偏光子が用いられる。特に、TVなどの用途では、ますます高輝度、高コントラスト、広い視野角が求められ、偏光フィルムにおいてもますます高透過率、高偏光度、高い色再現性などが求められている。
【0003】
偏光子としては、高透過率、高偏光度を有することから、例えばポリビニルアルコール(以下、単に「PVA」ともいう)にヨウ素を吸着させ、延伸した構造のヨウ素系偏光子が最も一般的に広く使用されている。一般的に偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系の材料を水に溶かしたいわゆる水系接着剤によって、偏光子の両面に透明保護フィルムを貼り合わせたものが用いられてきた。しかしながら、近年になって、乾燥工程が省略可能であり寸法変化が少ないなどのメリットを有することから、水や有機溶剤を含有しない活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を使用することが主流になりつつある。
【0004】
活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を使用して、複数のフィルムを貼合わせて光学フィルムを製造する場合、例えば、透明保護フィルムの貼合面のみに接着剤組成物を塗布し、かかる貼合面側から偏光子などを貼合わせて、積層構造を含む光学フィルムを製造するのが一般的である。しかしながら、従来の製造方法では、接着剤組成物などを塗布する前の偏光子・透明保護フィルムなどの表面にゴミや埃などの異物が付着していたり、接着剤組成物が微小な異物を含んでいる場合、接着剤層に異物が残存することとなり、その結果、外観欠点が発生する場合があった。
【0005】
下記特許文献1では、透明支持体上または該透明支持体上に形成した下塗層上に、ウェット塗布量が10mL/m以下である光学機能層を薄層塗布する工程を含む光学フィルムの製造方法において、光学機能層を塗布する前に、高さが10μm以上の異物を透明支持体上または下塗層上から除去する工程を備えた光学フィルムの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−180905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の技術では、既に透明支持体上などに異物が存在する状態で、カレンダー処理などにより異物を押しつぶして除去することを試みるものであるため、異物の除去精度は高くなく、微小な異物は除去工程後にも残存することとなる。このため、上記特許文献1に記載の技術は、特に厚みが薄く、微小な異物が存在する場合であっても外観欠点が問題となる薄型の光学フィルムの製造方法には適用が困難であるのが実情であった。
【0008】
本発明は上記実情を考慮の結果、完成されたものであり、その目的は、光学フィルムが薄型であっても、異物および/または気泡に起因した外観欠点の発生が防止された光学フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、少なくとも2枚のフィルムを貼合わせた積層構造を含む光学フィルムを製造する際、特定の塗布方式を採用し、貼り合わせる2枚のフィルムの両方に液状物を塗布することにより、フィルムの貼合面に存在するゴミや埃などの異物を除去できることを見出した。また、さらに効果的には、続いて実施する接着剤組成物(または粘着剤組成物)塗布工程において、少なくとも一方のフィルムの貼合面に、接着剤組成物または粘着剤組成物を塗布することにより、異物および/または気泡の除去と接着剤組成物層または粘着剤組成物層の形成とを一度に実施できることを見出した。本発明は、かかる鋭意工夫の結果得られたものであり、下記構成を備える。
【0010】
即ち本発明は、接着剤組成物または粘着剤組成物の硬化物層からなる接着剤層または粘着剤層を介して、少なくとも第1フィルムおよび第2フィルムが貼合された積層構造を含む光学フィルムの製造方法であって、後計量塗布方式を用いて、前記第1フィルムの貼合面および前記第2フィルムの貼合面に、粘度が1〜10000cPである液状物を塗布することにより、異物を除去する第1塗布工程を有することを特徴とする光学フィルムの製造方法、に関する。
【0011】
2枚のフィルムを貼合わせて、積層構造を有する光学フィルムを製造する場合、2枚のフィルムのうち、片方のフィルムに接着剤組成物または粘着剤組成物を塗布し、これにもう片方のフィルムを貼合わせて製造するのが一般的である(以下、「片面塗布方法」とも言う)。しかしながら片面塗布方法では、接着剤組成物または粘着剤組成物を塗布しないフィルムの貼合面に存在する異物を除去できないため、積層後に形成される接着剤層(または粘着剤層)中に異物が残存する可能性が高くなる。一方、本発明においては、第1フィルムの貼合面および第2フィルムの貼合面の両方に、粘度が1〜10000cPである液状物を塗布する(第1塗布工程)。そして、液状物の塗布を、後計量塗布方式の塗工方式を用いて、異物を除去しつつ実施する。これにより、液状物が塗布されたフィルムの貼合面に存在するゴミや埃などの異物は掻き取られる。その結果、上記第1塗布工程を有する、本発明に係る光学フィルムの製造方法では、光学フィルムが薄型であっても、異物に起因した外観欠点の発生が防止された光学フィルムを製造することができる。
【0012】
上記製造方法において、少なくとも一方のフィルムの貼合面に、前記後計量塗布方式を用いて、前記接着剤組成物または前記粘着剤組成物を塗布することにより、異物および/または気泡を除去する第2塗布工程を有することが好ましい。かかる構成によれば、後計量塗布方式を用いて、第1フィルムおよび第2フィルムの両方の貼合面に対し、少なくとも一度は、液状物および/または接着剤組成物(または粘着剤組成物)を塗布することになる。これにより、貼り合わせる2枚のフィルムの両方の貼合面に存在するゴミや埃などの異物はより確実に掻き取られ、かつ接着剤組成物または粘着剤組成物由来のゲル状物や凝集物をも2枚のフィルムの両方の貼合面から掻き取られる。その結果、上記光学フィルムの製造方法では、異物に起因した外観欠点の発生がより確実に防止された光学フィルムを製造することができる。
【0013】
なお、片面塗布方法では、片方のフィルムの接着剤(または粘着剤)塗布面が、もう片方の(接着剤組成物(または粘着剤組成物)が存在しない)フィルムの貼合面と直に接触しつつ貼合わされる。この場合、粘性を有する接着剤組成物(または粘着剤組成物)が、もう片方のフィルムの貼合面に直に接触するため、貼合わせ時に気泡が噛みこみ易い。一方、本発明に係る方法において、特に第1フィルムの貼合面および第2フィルムの貼合面の両方に接着剤組成物(または粘着剤組成物)を塗布する場合、第1フィルムの接着剤(または粘着剤)塗布面が、第2フィルムの接着剤(または粘着剤)塗布面と接触しつつ貼合わされる。つまり、粘性を有する接着剤組成物(または粘着剤組成物)同士が重なりあいながら貼合わされるため、貼合わせ時に気泡が噛みこみ難く、かつ気泡が抜け易くなる。したがって、本発明に係る方法では、特に第1フィルムの貼合面および第2フィルムの貼合面の両方に接着剤組成物(または粘着剤組成物)を塗布する場合、片面塗布方法に比べて、気泡除去効果の点でも優れるため、気泡に起因した外観欠点の発生が防止された光学フィルムを製造することができる。
【0014】
なお、本発明において「後計量塗布方式」とは、液膜に外力を与えて過剰液を除去し、所定の塗布膜厚を得る方式を意味する。本発明に係る光学フィルムの製造方法では、接着剤組成物または粘着剤組成物からなる液膜にかかる外力が与えられる際に、貼合面に存在するゴミや埃などの異物などが掻き取られる。後計量塗布方式の具体例としては、グラビアロール塗布方式、フォワードロール塗布方式、エアナイフ塗布方式、ロッド/バー塗布方式などが挙げられるが、異物の除去精度や塗布膜厚の均一性などの観点から、本発明においては、前記塗布方式が、グラビアロールを使用したグラビアロール塗布方式であることが好ましい。また、本発明において「異物および/または気泡を除去」とは、異物および気泡のうち、少なくとも一方または両方を除去することを意味する。
【0015】
上記製造方法において、前記液状物が、少なくとも水を50重量%以上含有するものであることが好ましい。異物を除去するために塗布する液状物が、接着剤組成物(または粘着剤組成物)を塗布する第2塗布工程時に残存すると、接着不良(または粘着不良)を起こす可能性がある。したがって、第1塗布工程後、液状物は乾燥工程などにおいて、速やかに除去される必要がある。そして、液状物が少なくとも水を50重量%以上含有するものであると、液状物塗布後の乾燥工程を簡便なものとできるため好ましい。
【0016】
上記製造方法において、前記液状物が、さらにアルコールを含有するものであることが好ましい。かかる構成によれば、フィルム上での液状物自体の濡れ性(レベリング性)を上げることができるとともに、液状物の蒸発速度を高めることができる。このため、液状物の乾燥除去効率をさらに高めることができ、生産性が向上するため好ましい。
【0017】
上記製造方法において、後計量塗布方式が前記接着剤組成物または粘着剤組成物を循環させて塗布する方式であり、塗布によって前記第1フィルムおよび/または前記第2フィルムから前記接着剤組成物または粘着剤組成物に混入した異物を、前記接着剤組成物または粘着剤組成物から取り除く異物除去機能を備えていることが好ましい。後計量塗布方式では、接着剤組成物または粘着剤組成物からなる塗布液を第1フィルムおよび/または第2フィルムの貼合面に塗布するが、かかる塗布液が、塗布によって第1フィルムおよび/または第2フィルムの貼合面から除去された異物を含んでいると、塗布後の第1フィルムおよび第2フィルムの貼合面に異物が存在する可能性が高まることになる。しかしながら、使用する塗布方式が、塗布によって第1フィルムおよび/または第2フィルムから接着剤組成物または粘着剤組成物に混入した異物を、接着剤組成物または粘着剤組成物から取り除く異物除去機能を備えている場合、塗布液中の異物量を著しく低減することが可能となる。これにより、塗布後の第1フィルムおよび第2フィルムの貼合面に異物が存在する可能性を著しく低減することができる。
【0018】
上記製造方法において、前記グラビアロールの回転方向と、前記第1フィルムおよび前記第2フィルムの進行方向とが逆方向であることが好ましい。この場合、第1フィルムの貼合面および第2フィルムの貼合面に存在するゴミや埃などの異物、さらには接着剤組成物または粘着剤組成物由来のゲル状物や凝集物を掻き取る効果が効果的に高まり、最終的に得られる光学フィルムの外観欠点をより効果的に防止することができる。
【0019】
前記グラビアロールの表面には、種々のパターンを形成可能であり、例えば、ハニカムメッシュパターン、台形パターン、格子パターン、ピラミッドパターンまたは斜線パターンなどが形成可能である。最終的に得られる光学フィルムの外観欠点の発生を効果的に防止するためには、前記グラビアロールの表面に形成されたパターンがハニカムメッシュパターンであることが好ましい。ハニカムメッシュパターンの場合、接着剤組成物または粘着剤組成物塗布後の塗布面の面精度を高めるために、セル容積は1〜5cm/mであることが好ましく、2〜3cm/mであることが好ましい。同様に、接着剤組成物または粘着剤組成物塗布後の塗布面の面精度を高めるために、ロール1inchあたりのセル線数は200〜3000線/inchであることが好ましい。また、前記第1フィルムおよび前記第2フィルムの進行速度に対する、前記グラビアロールの回転速度比が、100〜300%であることが好ましい。
【0020】
ところで、接着剤層(または粘着剤層)の厚み、さらには光学フィルムの総厚みが厚ければ厚いほど、異物が視認されにくくなり、外観欠点は問題視され難い傾向がある。一方、接着剤層(または粘着剤層)の厚みが薄ければ薄いほど、さらには光学フィルムの総厚みが薄ければ薄いほど、異物は視認され易くなり、その結果、外観欠点が問題となる場合が多い。しかしながら、本発明に係る光学フィルムの製造方法では、接着剤層(または粘着剤層)中の異物の発生率が極めて低い光学フィルムが製造可能であるため、光学フィルムの中でも、薄型化の要求が特に大きい偏光フィルムの製造方法、具体的には、前記第1フィルムは透明保護フィルムであり、前記第2フィルムは偏光子である場合に、本発明に係る製造方法は特に有用である。本発明に係る製造方法は、前記偏光子の厚みが10μm以下である場合のように、特に薄型偏光フィルムを製造する場合であっても、接着剤層(または粘着剤層)中において、異物または気泡に起因した外観欠点の発生が防止された薄型偏光フィルムを製造できるため好ましい。
【0021】
また、本発明は、前記いずれかの製造方法により製造された光学フィルム、さらには前記記載の光学フィルムが用いられていることを特徴とする画像表示装置、に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る光学フィルムの製造方法では、貼り合わせる2枚のフィルムの両方の貼合面に存在する異物、および接着剤組成物中または粘着剤組成物中に存在する異物を効率良く除去することができるため、異物に起因した外観欠点の発生が防止された光学フィルムを製造することができる。したがって、本発明に係る光学フィルムの製造方法は、異物に起因した外観欠点が特に問題になる、接着剤層の厚みが薄い光学フィルム、さらには総厚みが薄い光学フィルム、特には薄型偏光フィルムの製造方法として、特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る光学フィルムの製造方法の概略図の一例である。
図2】本発明に用いる後計量塗布方式であるグラビアロール塗布方式の概略図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明に係る光学フィルムの製造方法を、図面を参照しながら説明する。
【0025】
本発明に係る光学フィルムの製造方法は、後計量塗布方式を用いて、第1フィルムの貼合面および第2フィルムの貼合面に、粘度が1〜10000cPである液状物を塗布することにより、異物を除去する第1塗布工程を有する。
【0026】
図1は、本発明に係る光学フィルムの製造方法の概略図の一例を示しており、本実施形態では、後計量塗布方式として、グラビアロールを使用したグラビアロール塗布方式を用い、第1フィルムの貼合面および第2フィルムの貼合面の両方に液状物および接着剤組成物を塗布した例を示す。異物除去の観点からは、第1フィルムの貼合面および第2フィルムの貼合面の両方に液状物を塗布することが好ましい。
【0027】
第1塗布工程において、グラビアロール塗布方式10Aを用いて第1フィルムおよび第2フィルムに塗布される液状物は、貼り合わせる2枚のフィルムの貼合面に存在する異物を効率良く除去するため、粘度が1〜10000cPのものを使用する。特に液状物としては、水を主成分として含有し、具体的には少なくとも水を50重量%以上含有するものを使用することが好ましく、60重量%以上含有するものを使用することがより好ましく、70重量%以上含有するものを使用することがさらに好ましい。
【0028】
さらに、フィルム上での液状物自体の濡れ性(レベリング性)および液状物の蒸発速度を高めるためには、液状物中にさらにアルコールを含有することが好ましく、液状物が50〜100重量%の水と、0〜50重量%のアルコールとを含有することがより好ましく、50〜70重量%の水と、30〜50重量%のアルコールとを含有することが特に好ましい。
【0029】
第1塗布工程の後、第2塗布工程に到達する前に、必要に応じて液状物を乾燥除去する乾燥工程を設けても良い。乾燥工程では、当業者に公知の乾燥方法を使用可能である。
【0030】
図1中、第1フィルム1はグラビアロール塗布方式10Bを用いて接着剤組成物3が塗布される時点において、図1中では右方向に向かって搬送されており、一方、グラビア塗布方式10Bが備えるグラビアロールは時計回りに回転している。つまり、グラビアロールの回転方向と第1フィルムの進行方向とが逆方向となっている。同様に、第2フィルム2とグラビアロールとの関係においても、グラビアロールの回転方向と第2フィルム2の進行方向とが逆方向となっている。この場合、第1フィルム1の貼合面および第2フィルム2の貼合面に存在するゴミや埃などの異物、さらには接着剤組成物由来のゲル状物や凝集物を掻き取る効果が効果的に高まり、最終的に得られる光学フィルムの外観欠点をより効果的に防止することができる。
【0031】
最終的に得られる光学フィルムの外観欠点をさらに効果的に防止するためには、第1フィルム1および第2フィルム2の進行速度に対する、グラビアロールの回転速度が、100〜300%であることが好ましく、150〜250%であることが好ましい。
【0032】
図2は、本発明に用いる後計量塗布方式であるグラビアロール塗布方式の概略図の一例を示し、特にはグラビア塗布方式10Bを用いて、第1フィルム1に接着剤組成物3が塗布される様子を表している。図2に示すとおり、第1フィルム1に対し、グラビアロール4を押し当てつつ異物を除去すると、第1フィルム1の貼合面に存在するゴミや埃などの異物、さらには接着剤組成物由来のゲル状物や凝集物をより効果的に除去することができる。
【0033】
図2に示すとおり、グラビア塗布方式10Bはグラビアロール4を少なくとも備える。グラビアロールの表面には、ハニカムメッシュパターン、台形パターン、格子パターン、ピラミッドパターンまたは斜線パターンなどの凹凸パターンが形成されている。接着剤組成物または粘着剤組成物塗布後の塗布面の面精度を高めるためには、ハニカムメッシュパターンが形成されていることが好ましく、セル容積は1〜5cm/mであることが好ましく、2〜3cm/mであることが好ましい。同様に、接着剤組成物または粘着剤組成物塗布後の塗布面の面精度を高めるために、ロール1inchあたりのセル線数は200〜3000線/inchであることが好ましい。グラビアロール4の凹凸パターンは、接着剤組成物(塗布液)3を掻き上げつつ、第1フィルムの貼合面に接着剤組成物3を塗布する機能を有する。本発明においては、接着剤組成物3中に異物が混入することを防止するため、接着剤塗布液が外気に曝されない密閉系であることが好ましい。
【0034】
図2に示す例では塗布の際、第1フィルム1の貼合面に存在する異物、さらには接着剤組成物3由来のゲル状物や凝集物は、グラビアロール4により掻き取られ、接着剤組成物3の入った容器5内に移動し、再度、グラビアロール4により第1フィルムの貼合面に塗布される場合がある。したがって、特に後計量塗布方式が接着剤組成物または粘着剤組成物を循環させて塗布する方式である場合、接着剤組成物3の塗布工程が長時間となるに連れて、グラビアロール4により掻き取られた異物などの蓄積量は増大することが懸念される。しかしながら、グラビア塗布方式10Bが、塗布によって第1フィルムおよび/または第2フィルムから接着剤組成物または粘着剤組成物に混入した異物を、接着剤組成物または粘着剤組成物から取り除く異物除去機能を備えている場合、塗布する接着剤組成物3中に存在する異物などの量は常に極微量乃至ゼロに保たれる。したがって、最終的に、第1フィルム1の貼合面上における異物などの発生量を極めて低減することができる。本発明において、異物除去機能としてはフィルター、蒸留装置、遠心分離などが挙げられる。異物除去機能としてフィルターを使用する場合、図2に示すとおり、例えばポンプ機能8の下流側にフィルター7を配置可能である。また、ポンプ機能8の上流側にフィルター7を配置することもできるし、その数は問わない。フィルター7のメッシュサイズは、第1フィルム1および第2フィルムの材質や接着剤組成物3の配合設計などにより適宜変更可能であるが、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。接着剤組成物3は、図2に示すとおりタンク6などを使用して、循環させても良いし、グラビアロール4により塗布された後の接着剤組成物3は破棄しても良い。
【0035】
なお、本発明において、液状物を塗布する第1塗布工程において使用されるグラビア塗布方式10Aは、前記グラビア塗布方式10Bと同じ方式を採用することができる。
【0036】
図1に示す後計量塗布方式の塗布方式により、第2塗布工程において、第1フィルム1の貼合面および/または第2フィルム2の貼合面に接着剤組成物3が塗布された後、例えばニップロール9を用いて第1フィルム1と第2フィルム2とが接着剤組成物(接着剤層)を介して貼合される。
【0037】
光学フィルムを連続ラインで製造する場合、第1フィルムおよび/または第2フィルムのライン速度は、接着剤組成物(または粘着剤組成物)の硬化時間によるが、好ましくは1〜500m/min、より好ましくは5〜300m/min、さらに好ましくは10〜100m/minである。ライン速度が小さすぎる場合は、生産性が乏しい、または第1フィルム/およびまたは第2フィルムへのダメージが大きすぎ、耐久性試験などに耐えうる光学フィルムが作製できない。ライン速度が大きすぎる場合は、接着剤組成物の硬化が不十分となり、目的とする接着性が得られない場合がある。
【0038】
次に、本発明に係る製造方法により製造される光学フィルムについて以下に説明する。かかる光学フィルムは、接着剤組成物または粘着剤組成物の硬化物層からなる接着剤層または粘着剤層を介して、少なくとも第1フィルムおよび第2フィルムが貼合された積層構造を含む。
【0039】
<接着剤層または粘着剤層>
前記接着剤層または粘着剤層は光学的に透明であれば、特に制限されず水系、溶剤系、ホットメルト系、ラジカル硬化型の各種形態のものが用いられる。光学フィルムとして、透明導電性積層体または偏光フィルムを製造する場合には、透明硬化型接着剤層を好適である。
【0040】
<透明硬化型接着剤層>
透明硬化型接着剤層に形成には、接着剤組成物として、例えばラジカル硬化型接着剤が好適に用いられる。ラジカル硬化型接着剤としては、電子線硬化型、紫外線硬化型などの活性エネルギー線硬化型の接着剤を例示できる。特に短時間で硬化可能な、活性エネルギー線硬化型が好ましく、さらには低エネルギーで硬化可能な紫外線硬化型接着剤が好ましい。
【0041】
紫外線硬化型接着剤としては、大きくラジカル重合硬化型接着剤とカチオン重合型接着剤に区分出来る。その他、ラジカル重合硬化型接着剤は熱硬化型接着剤として用いることができる。
【0042】
ラジカル重合硬化型接着剤の硬化性成分としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、ビニル基を有する化合物が挙げられる。これら硬化性成分は、単官能または二官能以上のいずれも用いることができる。またこれら硬化性成分は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これら硬化性成分としては、例えば、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好適である。
【0043】
(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、具体的には例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2−メチル−2−ニトロプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、t−ペンチル(メタ)アクリレート、3−ペンチル(メタ)アクリレート、2,2−ジメチルブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、4−メチル−2−プロピルペンチル(メタ)アクリレート、n−オクタデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸(炭素数1−20)アルキルエステル類が挙げられる。
【0044】
また、(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、シクロアルキル(メタ)アクリレート(例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレートなど)、アラルキル(メタ)アクリレート(例えば、ベンジル(メタ)アクリレートなど)、多環式(メタ)アクリレート(例えば、2−イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ノルボルニルメチル(メタ)アクリレート、5−ノルボルネン−2−イル−メチル(メタ)アクリレート、3−メチル−2−ノルボルニルメチル(メタ)アクリレートなど)、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルメチル−ブチル(メタ)メタクリレートなど)、アルコキシ基またはフェノキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類(2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシメトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなど)、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、グリシジル(メタ)アクリレートなど)、ハロゲン含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレートなど)、アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート(例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど)等が挙げられる。
【0045】
また、前記以外の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシメチルアクリルアミド、(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有モノマー等が挙げられる。また、アクリロイルモルホリン等の窒素含有モノマー等が挙げられる。
【0046】
また、前記ラジカル重合硬化型接着剤の硬化性成分としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基等の重合性二重結合を複数個有する化合物を例示することができ、当該化合物は、架橋成分として接着剤成分に混合することもできる。かかる架橋成分になる硬化性成分としては、例えば、トリプロピレングリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、EO変性ジグリセリンテトラアクリレート、アロニックスM−220(東亞合成社製)、ライトアクリレート1,9ND−A(共栄社化学社製)、ライトアクリレートDGE−4A(共栄社化学社製)、ライトアクリレートDCP−A(共栄社化学社製)、SR−531(Sartomer社製)、CD−536(Sartomer社製)等が挙げられる。また必要に応じて、各種のエポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートや、各種の(メタ)アクリレート系モノマー等が挙げられる。
【0047】
ラジカル重合硬化型接着剤は、前記硬化性成分を含むが、前記成分に加えて、硬化のタイプに応じて、ラジカル重合開始剤を添加する。前記接着剤を電子線硬化型で用いる場合には、前記接着剤にはラジカル重合開始剤を含有させることは特に必要ではないが、紫外線硬化型、熱硬化型で用いる場合には、ラジカル重合開始剤が用いられる。ラジカル重合開始剤の使用量は硬化性成分100重量部あたり、通常0.1〜10重量部程度、好ましくは、0.5〜3重量部である。また、ラジカル重合硬化型接着剤には、必要に応じて、カルボニル化合物などで代表される電子線による硬化速度や感度を上がる光増感剤を添加することもできる。光増感剤の使用量は硬化性成分100重量部あたり、通常0.001〜10重量部程度、好ましくは、0.01〜3重量部である。
【0048】
カチオン重合硬化型接着剤の硬化性成分としては、エポキシ基やオキセタニル基を有する化合物が挙げられる。エポキシ基を有する化合物は、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有するものであれば特に限定されず、一般に知られている各種の硬化性エポキシ化合物を用いることができる。好ましいエポキシ化合物として、分子内に少なくとも2個のエポキシ基と少なくとも1個の芳香環を有する化合物や、分子内に少なくとも2個のエポキシ基を有し、そのうちの少なくとも1個は脂環式環を構成する隣り合う2個の炭素原子との間で形成されている化合物等が例として挙げられる。
【0049】
また、透明硬化型接着剤層を形成には、水系の硬化型接着剤として、例えば、ビニルポリマー系、ゼラチン系、ビニル系ラテックス系、ポリウレタン系、イソシアネート系、ポリエステル系、エポキシ系等を例示できる。このような水系接着剤からなる接着剤層は、水溶液の塗布乾燥層などとして形成しうるが、その水溶液の調製に際しては、必要に応じて、架橋剤や他の添加剤、酸等の触媒も配合することができる。
【0050】
前記水系接着剤としては、ビニルポリマーを含有する接着剤などを用いることが好ましく、ビニルポリマーとしては、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。またポリビニルアルコール系樹脂としては、アセトアセチル基を有するポリビニルアルコール系樹脂を含む接着剤が耐久性を向上させる点からより好ましい。また、ポリビニルアルコール系樹脂に配合できる架橋剤としては、ポリビニルアルコール系樹脂と反応性を有する官能基を少なくとも2つ有する化合物が好ましく使用できる。例えば、ホウ酸やホウ砂、カルボン酸化合物、アルキルジアミン類;イソシアネート類;エポキシ類;モノアルデヒド類;ジアルデヒド類;アミノ−ホルムアルデヒド樹脂;さらに二価金属、または三価金属の塩およびその酸化物が挙げられる。
【0051】
前記硬化型接着剤層を形成する接着剤は、必要であれば適宜添加剤を含むものであっても良い。添加剤の例としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のカップリング剤、エチレンオキシドで代表される接着促進剤、透明フィルムとの濡れ性を向上させる添加剤、アクリロキシ基化合物や炭化水素系(天然、合成樹脂)などに代表され、機械的強度や加工性などを向上させる添加剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、染料、加工助剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、粘着付与剤、充填剤(金属化合物フィラー以外)、可塑剤、レベリング剤、発泡抑制剤、帯電防止割、耐熱安定剤、耐加水分解安定剤等の安定剤等が挙げられる。
【0052】
また、前記透明硬化型接着剤層の厚さは、0.01〜10μmであることが好ましい。より好ましくは、0.1〜5μm、さらに好ましくは0.3〜4μmである。なお異物または気泡に由来する外観欠点の各フィルム層間における高さは一般に(2〜5μm程度の)数μmであるため、接着剤層の厚さが2μm以下であると、外観欠点の問題が大きくなる。しかしながら、本発明に係る光学フィルムの製造方法では、外観欠点の発生を防止できるため、接着剤層の厚さが2μm以下である光学フィルムの製造方法として特に有用である。
【0053】
前記粘着剤層は、粘着剤から形成される。粘着剤としては各種の粘着剤を用いることができ、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤などが挙げられる。前記粘着剤の種類に応じて粘着性のベースポリマーが選択される。前記粘着剤のなかでも、光学的透明性に優れ、適宜な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れる点から、アクリル系粘着剤が好ましく使用される。
【0054】
ラジカル重合硬化型接着剤は、電子線硬化型、紫外線硬化型の態様で用いることができる。
【0055】
電子線硬化型において、電子線の照射条件は、上記ラジカル重合硬化型接着剤組成物を硬化しうる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。例えば、電子線照射は、加速電圧が好ましくは5kV〜300kVであり、さらに好ましくは10kV〜250kVである。加速電圧が5kV未満の場合、電子線が接着剤まで届かず硬化不足となるおそれがあり、加速電圧が300kVを超えると、試料を通る浸透力が強すぎて、透明保護フィルムや偏光子にダメージを与えるおそれがある。照射線量としては、5〜100kGy、さらに好ましくは10〜75kGyである。照射線量が5kGy未満の場合は、接着剤が硬化不足となり、100kGyを超えると、透明保護フィルムや偏光子にダメージを与え、機械的強度の低下や黄変を生じ、所定の光学特性を得ることができない。
【0056】
電子線照射は、通常、不活性ガス中で照射を行うが、必要であれば大気中や酸素を少し導入した条件で行ってもよい。透明保護フィルムの材料によるが、酸素を適宜導入することによって、最初に電子線があたる透明保護フィルム面にあえて酸素阻害を生じさせ、透明保護フィルムへのダメージを防ぐことができ、接着剤にのみ効率的に電子線を照射させることができる。
【0057】
一方、紫外線硬化型において、紫外線吸収能を付与した透明保護フィルムを使用する場合、およそ380nmより短波長の光を吸収するため、380nmより短波長の光は活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に到達しないため、その重合反応に寄与しない。さらに、透明保護フィルムによって吸収された380nmより短波長の光は熱に変換され、透明保護フィルム自体が発熱し、偏光フィルムのカール・シワなど不良の原因となる。そのため、本発明において紫外線硬化型を採用する場合、紫外線発生装置として380nmより短波長の光を発光しない装置を使用することが好ましく、より具体的には、波長範囲380〜440nmの積算照度と波長範囲250〜370nmの積算照度との比が100:0〜100:50であることが好ましく、100:0〜100:40であることがより好ましい。このような積算照度の関係を満たす紫外線としては、ガリウム封入メタルハライドランプ、波長範囲380〜440nmを発光するLED光源が好ましい。あるいは、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光灯、タングステンランプ、ガリウムランプ、エキシマレーザーまたは太陽光を光源とし、バンドパスフィルターを用いて380nmより短波長の光を遮断して用いることもできる。
【0058】
第1フィルムおよび/または第2フィルムは、透明な光学用フィルムであれば、特に制限なく使用可能である。前記のとおり、接着剤層(または粘着剤層)の厚み、さらには光学フィルムの総厚みが厚ければ厚いほど、異物が視認されにくくなり、外観欠点は問題視され難い傾向がある。一方、接着剤層(または粘着剤層)の厚みが薄ければ薄いほど、さらには光学フィルムの総厚みが薄ければ薄いほど、異物は視認され易くなり、その結果、外観欠点が問題となる場合が多い。しかしながら、本発明に係る光学フィルムの製造方法では、接着剤層(または粘着剤層)中の異物の発生率が極めて低い光学フィルムが製造可能であるため、光学フィルムの中でも、薄型化の要求が特に大きい偏光フィルムの製造方法、具体的には、前記第1フィルムは透明保護フィルムであり、前記第2フィルムは偏光子である場合に、本発明に係る製造方法は特に有用である。本発明に係る製造方法は、前記偏光子の厚みが10μm以下である場合のように、特に薄型偏光フィルムを製造する場合であっても、接着剤層(または粘着剤層)中において、異物または気泡に起因した外観欠点の発生が防止された薄型偏光フィルムを製造できるため好ましい。
【0059】
第1フィルムおよび/または第2フィルムは、上記活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を塗布する前に、表面改質処理を行ってもよい。具体的な処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、ケン化処理による処理などが挙げられる。
【0060】
なお本発明に係る光学フィルムの製造方法では、第1フィルムと第2フィルムとが、好適には上記ラジカル重合硬化型接着剤組成物の硬化物層により形成された接着剤層を介して貼り合されるが、第1フィルムと第2フィルムとの間には、易接着層を設けることができる。易接着層は、例えば、ポリエステル骨格、ポリエーテル骨格、ポリカーボネート骨格、ポリウレタン骨格、シリコーン系、ポリアミド骨格、ポリイミド骨格、ポリビニルアルコール骨格などを有する各種樹脂により形成することができる。これらポリマー樹脂は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また易接着層の形成には他の添加剤を加えてもよい。具体的にはさらには粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱安定剤などの安定剤などを用いてもよい。
【0061】
易接着層の形成は、易接着層の形成材をフィルム上に、公知の技術により塗布、乾燥することにより行われる。易接着層の形成材は、乾燥後の厚み、塗布の円滑性などを考慮して適当な濃度に希釈した溶液として、通常調整される。易接着層は乾燥後の厚みは、好ましくは0.01〜5μm、さらに好ましくは0.02〜2μm、さらに好ましくは0.05〜1μmである。なお、易接着層は複数層設けることができるが、この場合にも、易接着層の総厚みは上記範囲になるようにするのが好ましい。
【0062】
以下に、光学フィルムとして偏光フィルムを例に挙げて説明する。少なくとも第1フィルムおよび第2フィルムが貼合された積層構造を含む偏光フィルムは、例えば図1において、透明保護フィルムである第1フィルム1と、透明保護フィルムまたはPET基材などの上に、必要に応じて接着剤層を介して偏光子が積層された積層第2フィルム2とを、接着剤組成物の硬化物層からなる接着剤層を介して貼り合わせることにより製造することができる。本実施形態では、積層第2フィルム2の偏光子面を貼合面とし、かかる貼合面に接着剤組成物を塗布した例を示す。
【0063】
本発明に係る製造方法では、効果的に接着剤層における異物の発生が防止された光学フィルムを製造することができるため、異物に起因した外観欠点が大きな問題となり得る、特に厚みの薄い光学フィルムを製造するのに適している。したがって、第1フィルムおよび第2フィルム(本実施形態では、第1フィルムは保護フィルム、第2フィルムはPET基材+偏光子の積層フィルム)の厚みは、60μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。なお、偏光フィルムの総厚みが100μm以下であると、厚みが薄いため接着剤層の異物などに起因した外観欠点が問題となる場合が多い。しかしながら、本発明に係る製造方法では、効果的に接着剤層における異物の発生が防止された光学フィルムを製造することができるため、総厚みが100μm以下である薄型偏光フィルムを製造する場合、特には総厚みが50μm以下である薄型偏光フィルムを製造する場合に好適である。本発明において薄型偏光フィルムを製造する場合、特に厚みが10μm以下である薄型偏光子を含む薄型偏光フィルムを製造する場合であっても、外観欠点の発生を効果的に防止することができる。
【0064】
偏光子は、特に制限されず、各種のものを使用できる。偏光子としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム、部分ホルマール化ポリビニルアルコール系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルムなどの親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料などの二色性材料を吸着させて一軸延伸したもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物などポリエン系配向フィルムなどが挙げられる。これらのなかでもポリビニルアルコール系フィルムとヨウ素などの二色性物質からなる偏光子が好適である。これら偏光子の厚みは特に制限されないが、一般的に80μm程度以下である。
【0065】
ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸した偏光子は、例えば、ポリビニルアルコールをヨウ素の水溶液に浸漬することによって染色し、元長の3〜7倍に延伸することで作製することができる。必要に応じてホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液に浸漬することもできる。さらに必要に応じて染色の前にポリビニルアルコール系フィルムを水に浸漬して水洗してもよい。ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することでポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色のムラなどの不均一を防止する効果もある。延・BR>Lはヨウ素で染色した後に行っても良いし、染色しながら延伸してもよし、また延伸してからヨウ素で染色してもよい。ホウ酸やヨウ化カリウムなどの水溶液中や水浴中でも延伸することができる。
【0066】
また偏光子としては厚みが10μm以下の薄型の偏光子を用いることができる。薄型化の観点から言えば当該厚みは1〜7μmであるのが好ましい。このような薄型の偏光子は、厚みムラが少なく、視認性が優れており、また寸法変化が少ないため耐久性に優れ、さらには偏光フィルムとしての厚みも薄型化が図れる点が好ましい。
【0067】
薄型の偏光子としては、代表的には、特開昭51−069644号公報や特開2000−338329号公報や、WO2010/100917号パンフレット、PCT/JP2010/001460の明細書、または特願2010−269002号明細書や特願2010−263692号明細書に記載されている薄型偏光子を挙げることができる。これら薄型偏光子は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂ともいう)層と延伸用樹脂基材を積層体の状態で延伸する工程と染色する工程を含む製法による得ることができる。この製法であれば、PVA系樹脂層が薄くても、延伸用樹脂基材に支持されていることにより延伸による破断などの不具合なく延伸することが可能となる。
【0068】
前記薄型偏光子としては、積層体の状態で延伸する工程と染色する工程を含む製法の中でも、高倍率に延伸できて偏光性能を向上させることのできる点で、WO2010/100917号パンフレット、PCT/JP2010/001460の明細書、または特願2010−269002号明細書や特願2010−263692号明細書に記載のあるようなホウ酸水溶液中で延伸する工程を含む製法で得られるものが好ましく、特に特願2010−269002号明細書や特願2010−263692号明細書に記載のあるホウ酸水溶液中で延伸する前に補助的に空中延伸する工程を含む製法により得られるものが好ましい。
【0069】
上記のPCT/JP2010/001460の明細書に記載の薄型高機能偏光子は、樹脂基材に一体に製膜される、二色性物質を配向させたPVA系樹脂からなる厚みが7μm以下の薄型高機能偏光子であって、単体透過率が42.0%以上および偏光度が99.95%以上の光学特性を有する。
【0070】
上記薄型高機能偏光子は、少なくとも20μmの厚みを有する樹脂基材に、PVA系樹脂の塗布および乾燥によってPVA系樹脂層を生成し、生成されたPVA系樹脂層を二色性物質の染色液に浸漬して、PVA系樹脂層に二色性物質を吸着させ、二色性物質を吸着させたPVA系樹脂層を、ホウ酸水溶液中において、樹脂基材と一体に総延伸倍率を元長の5倍以上となるように延伸することによって、製造することができる。
【0071】
また、二色性物質を配向させた薄型高機能偏光子を含む積層体フィルムを製造する方法であって、少なくとも20μmの厚みを有する樹脂基材と、樹脂基材の片面にPVA系樹脂を含む水溶液を塗布および乾燥することによって形成されたPVA系樹脂層とを含む積層体フィルムを生成する工程と、樹脂基材と樹脂基材の片面に形成されたPVA系樹脂層とを含む前記積層体フィルムを、二色性物質を含む染色液中に浸漬することによって、積層体フィルムに含まれるPVA系樹脂層に二色性物質を吸着させる工程と、二色性物質を吸着させたPVA系樹脂層を含む前記積層体フィルムを、ホウ酸水溶液中において、総延伸倍率が元長の5倍以上となるように延伸する工程と、二色性物質を吸着させたPVA系樹脂層が樹脂基材と一体に延伸されたことにより、樹脂基材の片面に、二色性物質を配向させたPVA系樹脂層からなる、厚みが7μm以下、単体透過率が42.0%以上かつ偏光度が99.95%以上の光学特性を有する薄型高機能偏光子を製膜させた積層体フィルムを製造する工程を含むことで、上記薄型高機能偏光子を製造することができる。
【0072】
上記の特願2010−269002号明細書や特願2010−263692号明細書
薄型偏光子は、二色性物質を配向させたPVA系樹脂からなる連続ウェブの偏光子であって、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜されたPVA系樹脂層を含む積層体が空中補助延伸とホウ酸水中延伸とからなる2段延伸工程で延伸されることにより、10μm以下の厚みにされたものである。かかる薄型偏光子は、単体透過率をT、偏光度をPとしたとき、P>−(100.929T−42.4−1)×100(ただし、T<42.3)、およびP≧99.9(ただし、T≧42.3)の条件を満足する光学特性を有するようにされたものであることが好ましい。
【0073】
具体的には、前記薄型偏光子は、連続ウェブの非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜されたPVA系樹脂層に対する空中高温延伸によって、配向されたPVA系樹脂層からなる延伸中間生成物を生成する工程と、延伸中間生成物に対する二色性物質の吸着によって、二色性物質(ヨウ素またはヨウ素と有機染料の混合物が好ましい)を配向させたPVA系樹脂層からなる着色中間生成物を生成する工程と、着色中間生成物に対するホウ酸水中延伸によって、二色性物質を配向させたPVA系樹脂層からなる厚みが10μm以下の偏光子を生成する工程とを含む薄型偏光子の製造方法により製造することができる。
【0074】
この製造方法において、空中高温延伸とホウ酸水中延伸とによる非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜されたPVA系樹脂層の総延伸倍率が、5倍以上になるようにするのが望ましい。ホウ酸水中延伸のためのホウ酸水溶液の液温は、60℃以上とすることができる。ホウ酸水溶液中で着色中間生成物を延伸する前に、着色中間生成物に対して不溶化処理を施すのが望ましく、その場合、液温が40℃を超えないホウ酸水溶液に前記着色中間生成物を浸漬することにより行うのが望ましい。上記非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材は、イソフタル酸を共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノールを共重合させた共重合ポリエチレンテレフタレートまたは他の共重合ポリエチレンテレフタレートを含む非晶性ポリエチレンテレフタレートとすることができ、透明樹脂からなるものであることが好ましく、その厚みは、製膜されるPVA系樹脂層の厚みの7倍以上とすることができる。また、空中高温延伸の延伸倍率は3.5倍以下が好ましく、空中高温延伸の延伸温度はPVA系樹脂のガラス転移温度以上、具体的には95℃〜150℃の範囲であるのが好ましい。空中高温延伸を自由端一軸延伸で行う場合、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜されたPVA系樹脂層の総延伸倍率が、5倍以上7.5倍以下であるのが好ましい。また、空中高温延伸を固定端一軸延伸で行う場合、非晶性エステル系熱可塑性樹脂基材に製膜されたPVA系樹脂層の総延伸倍率が、5倍以上8.5倍以下であるのが好ましい。
更に具体的には、次のような方法により、薄型偏光子を製造することができる。
【0075】
イソフタル酸を6mol%共重合させたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(非晶性PET)の連続ウェブの基材を作製する。非晶性PETのガラス転移温度は75℃である。連続ウェブの非晶性PET基材とポリビニルアルコール(PVA)層からなる積層体を、以下のように作製する。ちなみにPVAのガラス転移温度は80℃である。
【0076】
200μm厚の非晶性PET基材と、重合度1000以上、ケン化度99%以上のPVA粉末を水に溶解した4〜5%濃度のPVA水溶液とを準備する。次に、200μm厚の非晶性PET基材にPVA水溶液を塗布し、50〜60℃の温度で乾燥し、非晶性PET基材に7μm厚のPVA層が製膜された積層体を得る。
【0077】
7μm厚のPVA層を含む積層体を、空中補助延伸およびホウ酸水中延伸の2段延伸工程を含む以下の工程を経て、3μm厚の薄型高機能偏光子を製造する。第1段の空中補助延伸工程によって、7μm厚のPVA層を含む積層体を非晶性PET基材と一体に延伸し、5μm厚のPVA層を含む延伸積層体を生成する。具体的には、この延伸積層体は、7μm厚のPVA層を含む積層体を130℃の延伸温度環境に設定されたオーブンに配備された延伸装置にかけ、延伸倍率が1.8倍になるように自由端一軸に延伸したものである。この延伸処理によって、延伸積層体に含まれるPVA層を、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層へと変化させる。
【0078】
次に、染色工程によって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成する。具体的には、この着色積層体は、延伸積層体を液温30℃のヨウ素およびヨウ化カリウムを含む染色液に、最終的に生成される高機能偏光子を構成するPVA層の単体透過率が40〜44%になるように任意の時間、浸漬することによって、延伸積層体に含まれるPVA層にヨウ素を吸着させたものである。本工程において、染色液は、水を溶媒として、ヨウ素濃度を0.12〜0.30重量%の範囲内とし、ヨウ化カリウム濃度を0.7〜2.1重量%の範囲内とする。ヨウ素とヨウ化カリウムの濃度の比は1対7である。ちなみに、ヨウ素を水に溶解するにはヨウ化カリウムを必要とする。より詳細には、ヨウ素濃度0.30重量%、ヨウ化カリウム濃度2.1重量%の染色液に延伸積層体を60秒間浸漬することによって、PVA分子が配向された5μm厚のPVA層にヨウ素を吸着させた着色積層体を生成する。
【0079】
さらに、第2段のホウ酸水中延伸工程によって、着色積層体を非晶性PET基材と一体にさらに延伸し、3μm厚の高機能偏光子を構成するPVA層を含む光学フィルム積層体を生成する。具体的には、この光学フィルム積層体は、着色積層体をホウ酸とヨウ化カリウムを含む液温範囲60〜85℃のホウ酸水溶液に設定された処理装置に配備された延伸装置にかけ、延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸したものである。より詳細には、ホウ酸水溶液の液温は65℃である。それはまた、ホウ酸含有量を水100重量部に対して4重量部とし、ヨウ化カリウム含有量を水100重量部に対して5重量部とする。本工程においては、ヨウ素吸着量を調整した着色積層体をまず5〜10秒間ホウ酸水溶液に浸漬する。しかる後に、その着色積層体をそのまま処理装置に配備された延伸装置である周速の異なる複数の組のロール間に通し、30〜90秒かけて延伸倍率が3.3倍になるように自由端一軸に延伸する。この延伸処理によって、着色積層体に含まれるPVA層を、吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向した3μm厚のPVA層へと変化させる。このPVA層が光学フィルム積層体の高機能偏光子を構成する。
【0080】
光学フィルム積層体の製造に必須の工程ではないが、洗浄工程によって、光学フィルム積層体をホウ酸水溶液から取り出し、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に付着したホウ酸をヨウ化カリウム水溶液で洗浄するのが好ましい。しかる後に、洗浄された光学フィルム積層体を60℃の温風による乾燥工程によって乾燥する。なお洗浄工程は、ホウ酸析出などの外観欠点を解消するための工程である。
【0081】
同じく光学フィルム積層体の製造に必須の工程というわけではないが、貼合せおよび/または転写工程によって、非晶性PET基材に製膜された3μm厚のPVA層の表面に接着剤を塗布しながら、80μm厚のトリアセチルセルロースフィルムを貼合せたのち、非晶性PET基材を剥離し、3μm厚のPVA層を80μm厚のトリアセチルセルロースフィルムに転写することもできる。
【0082】
[その他の工程]
上記の薄型偏光子の製造方法は、上記工程以外に、その他の工程を含み得る。その他の工程としては、例えば、不溶化工程、架橋工程、乾燥(水分率の調節)工程等が挙げられる。その他の工程は、任意の適切なタイミングで行い得る。上記不溶化工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。不溶化処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。不溶化浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。好ましくは、不溶化工程は、積層体作製後、染色工程や水中延伸工程の前に行う。上記架橋工程は、代表的には、ホウ酸水溶液にPVA系樹脂層を浸漬させることにより行う。架橋処理を施すことにより、PVA系樹脂層に耐水性を付与することができる。当該ホウ酸水溶液の濃度は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜4重量部である。また、上記染色工程後に架橋工程を行う場合、さらに、ヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物を配合することにより、PVA系樹脂層に吸着させたヨウ素の溶出を抑制することができる。ヨウ化物の配合量は、水100重量部に対して、好ましくは1重量部〜5重量部である。ヨウ化物の具体例は、上述のとおりである。架橋浴(ホウ酸水溶液)の液温は、好ましくは20℃〜50℃である。好ましくは、架橋工程は上記第2のホウ酸水中延伸工程の前に行う。好ましい実施形態においては、染色工程、架橋工程および第2のホウ酸水中延伸工程をこの順で行う。
【0083】
上記偏光子の片面または両面に設けられる透明保護フィルムを形成する材料としては、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロースなどのセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)などのスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどが挙げられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミドなどのアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、または上記ポリマーのブレンド物なども上記透明保護フィルムを形成するポリマーの例として挙げられる。透明保護フィルム中には任意の適切な添加剤が1種類以上含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、着色剤などが挙げられる。透明保護フィルム中の上記熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは50〜99重量%、さらに好ましくは60〜98重量%、特に好ましくは70〜97重量%である。透明保護フィルム中の上記熱可塑性樹脂の含有量が50重量%以下の場合、熱可塑性樹脂が本来有する高透明性などが十分に発現できないおそれがある。
【0084】
また、透明保護フィルムとしては、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルム、例えば、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/または非置換フェニルならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が挙げられる。具体例としてはイソブチレンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体とアクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物のフィルムが挙げられる。フィルムは樹脂組成物の混合押出品などからなるフィルムを用いることができる。これらのフィルムは位相差が小さく、光弾性係数が小さいため偏光フィルムの歪みによるムラなどの不具合を解消することができ、また透湿度が小さいため、加湿耐久性に優れる。
【0085】
透明保護フィルムの厚みは、適宜に決定しうるが、一般には強度や取扱性などの作業性、薄層性などの点より1〜500μm程度である。特に20〜80μmが好ましく、30〜60μmがより好ましい。
【0086】
なお、偏光子の両面に透明保護フィルムを設ける場合、その表裏で同じポリマー材料からなる透明保護フィルムを用いてもよく、異なるポリマー材料などからなる透明保護フィルムを用いてもよい。
【0087】
上記透明保護フィルムの偏光子を接着させない面には、ハードコート層、反射防止層、スティッキング防止層、拡散層ないしアンチグレア層などの機能層を設けることができる。なお、上記ハードコート層、反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層などの機能層は、透明保護フィルムそのものに設けることができるほか、別途、透明保護フィルムとは別体のものとして設けることもできる。
【0088】
本発明の偏光フィルムは、実用に際して他の光学層と積層した光学フィルムとして用いることができる。その光学層については特に限定はないが、例えば反射板や半透過板、位相差板(1/2や1/4などの波長板を含む)、視角補償フィルムなどの液晶表示装置などの形成に用いられることのある光学層を1層または2層以上用いることができる。特に、本発明の偏光フィルムに更に反射板または半透過反射板が積層されてなる反射型偏光フィルムまたは半透過型偏光フィルム、偏光フィルムに更に位相差板が積層されてなる楕円偏光フィルムまたは円偏光フィルム、偏光フィルムに更に視角補償フィルムが積層されてなる広視野角偏光フィルム、あるいは偏光フィルムに更に輝度向上フィルムが積層されてなる偏光フィルムが好ましい。
【0089】
偏光フィルムに上記光学層を積層した光学フィルムは、液晶表示装置などの製造過程で順次別個に積層する方式にても形成することができるが、予め積層して光学フィルムとしたものは、品質の安定性や組立作業などに優れていて液晶表示装置などの製造工程を向上させうる利点がある。積層には粘着剤層などの適宜な接着手段を用いうる。上記の偏光フィルムやその他の光学フィルムの接着に際し、それらの光学軸は目的とする位相差特性などに応じて適宜な配置角度とすることができる。
【0090】
前述した偏光フィルムや、偏光フィルムを少なくとも1層積層されている光学フィルムには、液晶セルなどの他部材と接着するための粘着剤層を設けることができる。粘着剤層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく用いうる。
【0091】
粘着剤層は、異なる組成または種類などのものの重畳層として偏光フィルムや光学フィルムの片面または両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光フィルムや光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚みなどの粘着剤層とすることもできる。粘着剤層の厚みは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1〜500μmであり、1〜200μmが好ましく、特に1〜100μmが好ましい。
【0092】
粘着剤層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止などを目的にセパレータが仮着されてカバーされる。これにより、通例の取扱状態で粘着剤層に接触することを防止できる。セパレータとしては、上記厚み条件を除き、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体などの適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鎖アルキル系、フッ素系や硫化モリブデンなどの適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来に準じた適宜なものを用いうる。
【0093】
本発明の偏光フィルムまたは光学フィルムは液晶表示装置などの各種装置の形成などに好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと偏光フィルムまたは光学フィルム、および必要に応じての照明システムなどの構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては本発明による偏光フィルムまたは光学フィルムを用いる点を除いて特に限定はなく、従来に準じうる。液晶セルについても、例えばTN型やSTN型、π型などの任意なタイプのものを用いうる。
【0094】
液晶セルの片側または両側に偏光フィルムまたは光学フィルムを配置した液晶表示装置や、照明システムにバックライトあるいは反射板を用いたものなどの適宜な液晶表示装置を形成することができる。その場合、本発明による偏光フィルムまたは光学フィルムは液晶セルの片側または両側に設置することができる。両側に偏光フィルムまたは光学フィルムを設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層または2層以上配置することができる。
【実施例】
【0095】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明の実施形態はこれらに限定されない。なお、組成物中の「重量部」は、組成物の全量を100重量部としたときの部数を意味する。
【0096】
(1)接着剤組成物の調整
<活性エネルギー線硬化型接着剤組成物の調整>
HEAA(ヒドロキシエチルアクリルアミド)[興人社製]38.5重量部、アロニックスM−220(トリプロピレングリコールジアクリレート)[東亞合成社製]20.0重量部、ACMO(アクリロイルモルホリン)[興人社製]38.5重量部、KAYACURE DETX−S(ジエチルチオキサントン)[日本化薬社製]1.5重量部、IRGACURE907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)[BASF社製]1.5重量部を混合して50℃で1時間攪拌し活性エネルギー線硬化型接着剤を得た。
【0097】
(2)薄型偏光子の作製
薄型偏光子を作製するため、まず、非晶性PET基材に24μm厚のPVA層が製膜された積層体を延伸温度130℃の空中補助延伸によって延伸積層体を生成し、次に、延伸積層体を染色によって着色積層体を生成し、さらに着色積層体を延伸温度65度のホウ酸水中延伸によって総延伸倍率が5.94倍になるように非晶性PET基材と一体に延伸された10μm厚のPVA層を含む光学フィルム積層体を生成した。このような2段延伸によって非晶性PET基材に製膜されたPVA層のPVA分子が高次に配向され、染色によって吸着されたヨウ素がポリヨウ素イオン錯体として一方向に高次に配向された薄型偏光子を構成する、厚さ5μmのPVA層を含む光学フィルム積層体(第2フィルム(総厚み40μm))を生成することができた。
【0098】
第1フィルムとしては、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル樹脂からなる透明保護フィルム(厚み40μm)を使用した。
【0099】
実施例1
図1、2に示すラインにおいて、グラビアロール4を備えるグラビアロール塗布方式10A(MCDコーター(富士機械社製)(セル形状:ハニカムメッシュパターン、グラビアロールのセル線数:1000本/inch、回転速度比140%)を使用して、第1フィルム1の貼合面および第2フィルム2の貼合面の両方に液状物を塗布することにより、貼り合わせる2枚のフィルムの貼合面に存在する異物および気泡を除去した。次に、グラビアロール塗布方式10Bを使用して、第2フィルム2の貼合面に接着剤組成物3を塗布することにより、異物および気泡を除去しつつ偏光フィルムを製造した。PET基材および薄型偏光子からなる第2フィルム2は、薄型偏光子面が貼合面となるように、接着剤組成物3を塗布した。なお、接着剤組成物3は、乾燥後の接着剤層の厚みが1μmとなるように第1フィルムおよび第2フィルムに塗布した。グラビアロール塗布方式10Aおよび10Bとしては、図2に示す異物除去機能(フィルターを使用した異物除去方法)を備えるものを使用した。
【0100】
<活性エネルギー線>
図1に示すラインを通過させた後、活性エネルギー線として、紫外線(ガリウム封入メタルハライドランプ) 照射装置:Fusion UV Systems,Inc社製Light HAMMER10 バルブ:Vバルブ ピーク照度:1600mW/cm、積算照射量1000/mJ/cm(波長380〜440nm)を使用して、接着剤組成物3を硬化させて、光学フィルムを製造した。なお、紫外線の照度は、Solatell社製Sola−Checkシステムを使用して測定した。
【0101】
実施例2〜9、比較例1〜2
第1フィルムおよび/または第2フィルムへの接着剤組成物の塗布の有無、後計量塗布方式の種類、液状物の粘度および組成を表1に記載のものに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により光学フィルムを製造した。バーコーター塗布方式およびエアナイフ塗布方式では、各々市販の塗布装置を使用した。
【0102】
<接着剤層中の異物数のカウント方法> 目視検査と自動検査装置とを用いた反射検査により、偏光フィルムの接着剤層中における外観欠点数(異物由来および(貼合せ)気泡由来の外観欠点数(個/m))をカウントした。結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
図1
図2