(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367635
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】陰イオン交換膜材料及び陰イオン交換膜
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20180723BHJP
C08G 77/388 20060101ALI20180723BHJP
C08J 5/22 20060101ALI20180723BHJP
H01M 8/1039 20160101ALI20180723BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20180723BHJP
【FI】
C08L83/07
C08G77/388
C08J5/22 104
C08J5/22CFH
H01M8/1039
!H01M8/10 101
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-151094(P2014-151094)
(22)【出願日】2014年7月24日
(65)【公開番号】特開2016-23303(P2016-23303A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年6月24日(米国時間)に、ウェブサイトhttps://ecs.confex.com/ecs/226/webprogram/Paper39799.htmlで公開
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】金 済徳
(72)【発明者】
【氏名】吉 利鎮
【審査官】
楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−156026(JP,A)
【文献】
特開昭60−262826(JP,A)
【文献】
特開昭59−193925(JP,A)
【文献】
特開昭60−173019(JP,A)
【文献】
特開昭50−080400(JP,A)
【文献】
財団法人 国際科学振興財団,科学大辞典,丸善,2005年,第2版,p1288
【文献】
古賀元, 古賀ノブ子, 安藤亘,有機化学用語事典,朝倉書店,1990年,p44
【文献】
CLAYDEN・GREEVES・WARREN・WOTHERS 著/野依良治・奥山格・芝崎正勝・檜山為次郎 監訳,ウォーレン有機化学 上,日本,東京化学同人,2003年,p107, 159, 160
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/07
C08G 77/388
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋剤によりビニル末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体が架橋されているとともに、前記共重合体中のフェニル基の少なくとも一部に以下に示す第四級基の少なくとも一つが結合されている、ポリジメチルシロキサン系共重合体。
【化1】
【請求項2】
前記第四級基
は以下に示す基である、請求項1に記載のポリジメチルシロキサン系共重合体。
【化2】
【請求項3】
架橋剤によりビニル末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体が架橋されているとともに、前記共重合体中のフェニル基の少なくとも一部に第四級アンモニウムが結合されている、ポリジメチルシロキサン系共重合体。
【請求項4】
前記ビニル末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体中のジフェニルシロキサンのモル比が6mol%より大きい、請求項1から3の何れかに記載のポリジメチルシロキサン系共重合体。
【請求項5】
前記架橋剤は構造≡Si−Rを含む高分子であって、前記Rは−H、−OH及び−CH2CH2CH2NH2から選択される、請求項1から4の何れかに記載のポリジメチルシロキサン系共重合体。
【請求項6】
前記架橋剤はポリ(ジメチルシロキサン−共−メチルヒドロシロキサン)である、請求項5に記載のポリジメチルシロキサン系共重合体。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載のポリジメチルシロキサン系共重合体を用いた陰イオン交換膜。
【請求項8】
請求項7に記載の陰イオン交換膜を使用した陰イオン交換膜燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は陰イオン交換膜燃料電池用の陰イオン交換膜として使用できる材料に関する。
【背景技術】
【0002】
陰イオン交換膜燃料電池(Anion exchange membrane fuel cell(AEMFC)あるいは Alkaline fuel cell(AFC)、以下AEMFC)は、KOH水溶液または高分子電解質を使い、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するエネルギーシステムである。AEMFCにおいては、アノード側では燃料である水素とカソード側から輸送されたOH
−が反応して水と電子を生成し、電子は外部回路を通してカソード側へ移動する。カソード側ではO
2とH
2Oと電子とが反応してOH
−を生成する。
【0003】
AEMFCは作動温度が20℃〜80℃と比較的低くまた電極反応が早いことで、Ptのような貴金属の代わりに例えばAg、Ni等の比較的安価な金属で代用できる可能性がある。しかし、現在使われている電解質のKOH水溶液では、OH
−がCO
2と反応してK
2CO
3を形成してアノードの反応に必要なOH
−の濃度を低減させることでイオン伝導度が減少し、電池性能が落ちる問題点を有している。また、電解質の濃縮による炭酸塩析出物が電極側のガス拡散層の細孔を栓塞することでカソード燃料としての空気の利用を阻害するために、車両システムへの応用に制限がある。
【0004】
これらの液体電解質の代替物として使用される高分子電解質膜は機械的な強度や液漏れの危険性がなく、またCO
2との反応問題を解決することができる。また、アノード側の燃料として低純度の水素ガスや炭化水素ガスなどでも使用することができ、電極の腐食、軽量化、安定性、扱いが簡単などのメリットを有する(非特許文献1)。さらに、AEMFCは酸素還元反応に必要な触媒として非貴金属の使用が可能であり、携帯用応用として低純度または多様な燃料の使用が期待できるというメリットもある(非特許文献1、2)。高分子電解質膜をAEMFCへ応用するためには10
−2S/cm以上のイオン伝導度が必要であり、また燃料であるガスの透過率が低く、電子伝導性がないこと、加湿状態や膜厚を薄くしても機械的安定性を有すること、更にはアルカリ条件下で化学的安定性を有し、システムとして低コストになることが求められる(非特許文献1、2)。しかし、これらの条件を満たした高分子電解質膜は見出されておらず、10
−2S/cm以上の高イオン伝導度や化学的安定性を有する電解質膜が要求されている(非特許文献1、2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解消し、アルカリ条件下でも高い化学的安定性を示すシロキサン系高分子を提供し、またこれにより高イオン伝導度を有した新規な高分子電解質膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、架橋剤によりビニル末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体が架橋されているとともに、フェニル基の少なくとも一部が第四級化されているポリジメチルシロキサン系共重合体が与えられる。
ここで、前記第四級化により前記フェニル基に「発明を実施するための形態」中にその化学構造式を列挙する第四級基の少なくとも一つが結合されてよい。
また、前記第四級化により前記フェニル基に結合される第四級基は第四級アンモニウムであってよい。
また、前記ビニル末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体中のジフェニルシロキサンのモル比が6mol%より大きくてよい。
また、前記架橋剤は構造≡Si−Rを含む高分子であって、前記Rは−H、−OH及び−CH
2CH
2CH
2NH
2から選択されてよい。
また、前記架橋剤はポリ(ジメチルシロキサン−共−メチルヒドロシロキサン)(poly(dimethylsiloxane-co-methylhydrosiloxane)であってよい。
本発明の他の側面によれば、上記何れかのポリジメチルシロキサン系共重合体を用いた陰イオン交換膜が与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、前記記載の陰イオン交換膜を使用した陰イオン交換膜燃料電池が与えられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アルカリ条件下での高い化学的安定性や高イオン伝導性を有するので、実用的なAEMFCの実現に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例の各段階でのFT−IR特性を示すグラフ。グラフ中で、DPH−DM:DPh−DM(diphenylsiloxane-dimethylsiloxane)共重合体(PDMS系共重合体)のFT−IR特性;+架橋:架橋化されたDPh−DM共重合体コポリマーのFT−IR特性(架橋剤であるポリ(ジメチルシロキサン−共−メチルヒドロシロキサン)のSi−H(非特許文献5)結合由来のピークが2200cm
−1に存在する);+CMR:クロロメチル−PDMSのFT−IR特性(クロロメチル化による-CH
2Cl結合由来のピークが675cm
−1に存在する(非特許文献6、7)ことを確認した);+QA:第四級化されたPDMS(quaternizated-PDMS)のFT−IR特性(アンモニウム基由来のピークが1672cm
−1に存在する(非特許文献8)ことを確認した)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明においては、PDMS系共重合体のフェニル基に第四級基を結合させた化学構造を有する高分子電解質膜が与えられる。より正確には、ここで言うPDMS系共重合体とはビニル末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体(vinyl terminated diphenylsilixane-dimethylsiloxane copolymer)とポリ(ジメチルシロキサン−共−メチルヒドロシロキサン)などの架橋剤とを重合して得られるブロック共重合体のことである。ここで架橋剤としては一般に≡Si−Rという構造を含む高分子であって、RがHの場合(水素機能性高分子(hydride functional polymers))、OHの場合(シラノール機能性高分子(silanol functional polymers))、CH
2CH
2CH
2NH
2(アミノ機能性シリコン高分子(aminofuntional silicon polymers))等、多くの場合がある。
【0010】
シロキサン系高分子は優れた熱的・化学的安定性、骨格ポリマーの柔軟性を有しながら安価であることで広く使われている。特に、塩基に対する耐性が優れているのでAEMFC用高分子として期待される(非特許文献3、4)。シロキサン系高分子は主鎖が疎水性であるので、ジフェニルシロキサン(diphenylsiloxane)のフェニル基にOH
−イオンを伝導する親水性のアンモニウム基等を結合すれば、疎水性/親水性の相分離によりイオン伝導パスが形成され、高イオン伝導度が期待できる。
【0011】
本発明では上記ブロック共重合体(PDMS系共重合体)中のフェニル基を第四級化した。フェニル基には以下の化学構造式に示すようなアンモニウム、リン、硫黄基を有する第四級基を導入することができる。とりわけアンモニウム基を有する第四級基はOH
−の伝導度が高くなるので好ましい。また、以下の化学構造式において、RはCH
3、C
2H
5等のアルキル基を表す。
【0013】
この新規な構造では、親水性ブロックと疎水性ブロックによりイオン伝導パスが形成され、高イオン伝導性の向上が達成される。この構造において、ジフェニルシロキサンは第四級基が結合できる親水性ブロックの役割及び機械的強度を高くする役割を担う。また、シロキサン系材料は一般に酸と塩基の両方に対して高い安定性を示すので、本発明の高分子電解質膜も当然高pHに対して良好な安定性を示す。
【実施例】
【0014】
1)架橋化したPDMS(polydimethylsiloxane)系共重合体の合成
ビニル末端ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体(DPh-DM copolymer、DPh−DM共重合体)1g及び架橋剤であるポリ(ジメチルシロキサン−共−メチルヒドロシロキサン)0.2gをヘキサン20mlに溶解し、常温で1時間撹拌した。なお、本実験で使用したビニル末端DPh−DM共重合体として、DPh部
【0015】
【化2】
【0016】
が15〜17mol%及び4〜6mol%の二種類を使用した。前者から合成された膜を以下では実施例1、後者から合成された膜を実施例2と呼ぶ。以下に、DPh−DM共重合体の化学構造式を示す。
【0017】
【化3】
【0018】
と計算して得られたものである。
【0019】
これに白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体(Platinum-divinyltetramethyldisiloxane complex)触媒を0.001g添加し、テフロンシャーレにキャストし、常温で4時間維持後、60℃真空オーブンで1時間乾燥した。乾燥後にメタノールで3回洗浄して、架橋化したPDMS系共重合体を得た。原料のビニル末端DPh−DM共重合体及びこれを架橋化したPDMS系共重合体のFT−IR特性の測定結果を
図1にそれぞれ「DPH−DM」及び「+架橋」として示す。
【0020】
2)アンモニウム基を有するPDMS系共重合体の合成
a)クロロメチル化(Chloromethylation)
上で得られた架橋化したPDMS系共重合体の膜を20mlのヘキサンに投入した。これに35℃の窒素雰囲気中でクロロメチルメチルエーテル(chloromethyl methylether)0.2mol及び塩化亜鉛(ZnCl
2)0.05molを投入して二日間撹拌した。撹拌後、膜をメタノールで3回洗浄して未反応物を除去した。このようにして合成したクロロメチル−PDMS系共重合体のFT−IR特性の測定結果を
図1に「+CMR」として示す。
b)第四級化(Quaternization)
クロロメチル化後の膜を35wt%のトリメチルアミン(trimethylamine)溶液へ常温で二日間浸漬した。これをメタノールで3回洗浄して未反応物を除去した。このようにして合成した第四級化PDMS系共重合体のFT−IR特性の測定結果を
図1に「+QA」として示す。
c)アルカリ化(Alkalinization)
第四級化後の膜を1MのKOH水溶液に常温で二日間浸漬した。その後、メタノールで3回洗浄して残存したKOH水溶液を除去することにより、陰イオン交換膜を完成した。完成した膜中の第四級化PDMS系共重合体中の一つのDPh−DMの両端における架橋剤との結合の態様を表す化学構造式を以下に示す。この化学構造式中、右上部と左下部が架橋剤のポリ(ジメチルシロキサン−共−メチルヒドロシロキサン)である。
【0021】
【化4】
【0022】
上の構造式に示すように、本発明の第四級化PDMS系共重合体では疎水性のPDMSにジフェニルシロキサンを結合したブロック共重合体とするとともに、ジフェニルシロキサンのフェニル基を第四級化してここをOH
−イオンを伝導するパスとして使用できるようにした。この構造により、高いイオン伝導度を実現することができる。また、これにより含水性(water uptake)の向上も達成できる。なお、反応条件によっては全てのフェニル基が第四級化されないこともあるが、その場合でも第四級化の程度に応じてイオン伝導度が向上することは言うまでもない。
【0023】
上述のようにして作製した二種類の陰イオン交換膜(実施例1、2)のイオン交換容量(IEC)をAEMFCの陰イオン交換膜の研究に一般に使用されるA201陰イオン交換膜(株式会社トクヤマ製)と比較した。実施例1及び実施例2のジフェニルシロキサン(DPh)部分の比率は以下の通りであった:
実施例1:DPh部が15〜17mol%
実施例2:DPh部が4〜6mol%
IECの測定結果を以下の表に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
上の表からわかるように、実施例1では 比較例と比べてIECが約14%向上した。また、この結果からわかるように、DPh部が15〜17mol%と多い実施例1の方が高いIEC値を示すが、これらの実施例についての第四級化の程度は未測定であるため、上の化学式に示すようなフェニル基が完全に第四級化された状態、あるいはそれに近い状態まで第四級化を進行させた場合には実施例2でも現在よりもかなり高いIECが達成される可能性はある。
【0026】
実施例1、2及び比較例について更にイオン伝導度の測定も行った。その結果を下の表に示す。なお、本測定は4電極法により温度25℃、RH100%の条件下で行った。イオン伝導度についても上述のIECと同様な傾向が示された。
【0027】
【表2】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】G. Merle, M. Wessling and K. Nijmeijer, J. Membr. Sci., 377, 1 (2011).
【非特許文献2】T. Xu, J. Membr. Sci., 263, 1 (2005).
【非特許文献3】L. J. Ghil, C. K. Kim, J. S. Kang, Y. T. Kim and H. W. Rhee, J. Nanosci. Nanotech., 9, 6918 (2009).
【非特許文献4】G. Khanbebaei, E. Vasheghani-farahani and A. Rahmatpour, J. Macromolecular Science, Part B: Physics, 50, 2376 (2011) .
【非特許文献5】J. H. Wang, S. H. Li and S. B. Zhang, Macromolecules, 43 3890 (2010).
【非特許文献6】Y. M. Zhang, J. Fang, Y. B. Wu, H. K. Xu, X. J. Chi, W. Li, Y. X. Yang, G. Yan and Y. Z. Zhuang, J. Colloid Interface Sci., 381, 59 (2012).
【非特許文献7】W. Lu, Z Shao, G. Zhang, Y. Zhao and B. Yi, J. Power Sources, 248, 905 (2014).
【非特許文献8】Y. Zhao, J. Pan, H. Yu, D. Yang, J. Li, L. Zhuang, Z. Shao and B. Yi, Int. J. Hydrogen Energy, 38, 1983 (2013).