(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明者は、下記のような検討を行い、最終成形物の不良品から得られる再利用材料に対する依存性を軽減させた新たな押出成形材料を見出した。発明者は、パーライトのような、結晶水を内部に含む精石は、その加熱方法によって、異なる形態に発泡すること着目した。例えば、パーライトは、直接炉で加熱すると破泡して破泡体となり、間接炉で加熱すると比較的球形状に発泡して発泡体となる。スラリーのような成形材料では、一般的に、発泡体は軽量化材として用いられ、破泡体は増量材として用いられている。そこで、破泡体を押出成形材料に配合すると、破泡体は、増量材としてだけでなく、押出成形材料の流動性を低下させることにも作用することが見出された。この結果について、破泡体は、発泡体の比表面積よりも大きな比表面積を有するので、押出成形材料が破泡体を含有すると、押出成形材料に配合された水は破泡体に奪われ易くなると考えられた。しかし、押出成形材料が破泡体を含有すると、成形機で押出成形材料を押出す段階の加圧状態で押出成形材料は水を離水する可能性も考えられた。
【0012】
一方、発泡体は、押出成形材料の流動性を低下させることに大きく寄与しないと考えられている。このような発泡体を得るにあたって、効率よく精石を発泡させるように、発泡体の製造方法が改良されている。しかし、必ずしも精石の全てが発泡するわけではなく、十分に発泡されなかった未発泡体は副産物として廃棄されることが多い。従って、一般的には、未発泡体の利用価値について注目されていない。一方、発明者は、未発泡体は、破泡体のように十分に発泡していないが、未発泡体の表面に凹凸構造があり、この凹凸構造が押出成形材料における立体障害に寄与することを見出した。更に、発明者は、破泡体で挙げられた、加圧状態で押出成形材料は水を離水する問題を、未発泡体が解決すると考え、本発明を想到するに至った。
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0014】
本実施形態に係る押出成形材料は、主成分のセメントと、無機粒子材料とを含有する。無機粒子材料は、1.5以上のアスペクト比を有する。
【0015】
無機粒子材料を含有するすることで、最終成形物の不良品から得られる再利用材料に対する依存性を軽減させることができる。また、無機粒子材料のアスペクト比が1.5以上であると、無機粒子材料は押出成形材料を成形機で押出成形する際に微小な粒子で立体障害を起こし易くなる。これにより、押出成形材料に混入した空気を容易に取り除くことができ、且つ押出直後の成形品を崩れにくくすることができる。また、アスペクト比の上限は、特に限定されないが、実用上、2.5であり、発泡体のような球状ではなく、未発泡体は歪な形状をなしている。
【0016】
ここで、アスペクト比とは、
図1のように無機粒子材料を構成する粒子から選択された1以上の粒子において、
図3のような粒子の各々の平面視で最も外側に位置する2点を通る外円の直径を各粒子の長辺とし、外円の直径に対して略直交する直線上で粒子の各々の幅が最も大きくなる両端間の距離を各粒子の短辺とし、長辺を短辺で除した値を指す。具体的には、粒子が1つの場合、その粒子における長辺を短辺で除した値がアスペクト比になる。また、粒子が複数の場合、その粒子における長辺の平均値を短辺の平均値で除した値がアスペクト比になる。なお、上記短辺は、
図3のように、外円の内側に位置する内円の直径となる。
【0017】
尚、「略直交」は、外円の直径と、この直径に対して可能な限り直交する直線との関係を指すが、粒子の長辺と短辺からアスペクト比が算出できれば、この長辺と短辺との交差関係も含む。
【0018】
一方、アスペクト比が1〜1.4であると、
図2のように、粒子は比較的球状となる。このような粒子は、無機粒子材料を構成する粒子と異なる。
【0019】
本実施形態に係る押出成形材料には、必要に応じた量の水を配合させるとよい。
【0020】
図1のように、無機粒子材料を構成する粒子の各々の表面に凹凸構造を有することが好ましい。
【0021】
粒子の各々の表面に凹凸構造を有していると、押出成形材料に含有される粒子のうち、無機粒子材料を構成する粒子が、他の粒子と立体障害を引き起こすこととなる。更に、凹凸構造の各々で、比表面積が増え、水が奪われ易くなるので、押出成形材料では、その流動性が低減される。
【0022】
また、本実施形態に係る押出成形材料が無機粒子材料を含有する場合、押出成形材料は、無機粒子材料:セメント=1〜5:55〜59の質量割合で、無機粒子材料を含むことが好ましい。無機粒子材料が上述の質量割合より多く含有されていると、成形機による押出成形に影響を及ぼす程度に押出成形材料の流動性を低下させる場合がある。また、無機粒子材料が上述の質量割合よりも少なく含有されていると、押出成形材料の流動性が高まり、押出直後の成形体が崩れ易くなる。更に、押出成形材料の流動性が高まると、成形機の押出口へ押出成形材料を供給され難くなるだけでなく、押出成形材料に混入した空気が真空引きで取り除きにくくなることもある。これにより、成形機の押出口から押出された成形体は、その流動性が高いままで押し出されてしまう場合がある。
【0023】
一方、押出成形材料が上述の質量割合で無機粒子材料を含有していると、水を加えて押出成形材料を調整する際に混入した空気を、押出成形する直前で行う真空引きで取り除くことができる程度に、押出成形材料の流動性を低下させることができる。これにより、押出直後の成形体を崩れに難くすることができる。
【0024】
押出成形材料は、その組成を必要に応じて調整することができる。また、押出成形材料には、その成形物に応じて、例えば、軽量化材、増量材、骨材、強化繊維、増粘剤、着色剤を配合し、水と混練して調製することができる。
【0025】
セメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、スラグセメント、アルミナセメント、早強セメントが挙げられる。
【0026】
軽量化材としては、例えば、フライアッシュバルーン、パーライト、シラスバルーン等無機発泡体のほか、発泡ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン発泡体、アクリロニトリル系発泡体等の有機発泡体が挙げられる。なお、軽量化材は発泡体とも呼ばれる。
【0027】
増量材としては、例えば、フライアッシュ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0028】
骨材としては、マイカ、シリカ、珪石粉、珪砂、スラグ、砕石等が挙げられる。
【0029】
強化繊維としては、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、パルプ、カーボン繊維、綿、麻、金属繊維等が挙げられる。
【0030】
増粘剤としては、メチルセルロースやヒドロキシメチルセルロースやカルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0031】
着色剤としては、鉄黒、カーボンブラック、酸化クロム等が挙げられる。
【0032】
無機粒子材料は、未発泡の無機粒子材料(未発泡体ともいう)であることが好ましい。このような未発泡の無機粒子材料は、パーライトから得られる材料であることが更に好ましい。
【0033】
上述の“未発泡の無機粒子材料”とは、無機質の軽量化材を得るにあたって、ロータリーキルンのような間接炉で精石を加熱して、
図2のように発泡させようとしても、
図1のように精石の一部が十分に発泡されることなく生成された副産物を指す。
【0034】
副産物である未発泡の無機粒子材料を含有すると、利用価値について考えられなかった未発泡の無機粒子材料を含有するので、新たな押出成形材料を得ることができる。更に軽量化材の原料を有効活用することになるので、押出成形材料の材料コストを低減させることができる。
【0035】
また、本実施形態に係る押出成形材料では、無機粒子材料は発泡処理を経て得られる。マイカのような骨材を含む各種材料が1.5以上のアスペクト比を有していても、これらの材料は、発泡処理を経て得られていないので、無機粒子材料とは異なる。また、一般的なマイカ粒子の各々は、大小異なる鱗片状の薄膜が重なって構成されている。仮に、押出成形材料が無機粒子材料としてマイカを含有したとしても、マイカは押出成形材料で立体障害を起こし難いと考えられる。故に、マイカは、本実施形態における無機粒子材料とは異なる。
【0036】
軽量化材と、未発泡の無機粒子材料とを得るにあたって、例えば、ロータリーキルンのような加熱炉内で結晶水を含有する精石を加熱して発泡させる。このような発泡処理を経て得られた中間材料は、水浴に投入され、水中で十分に分散するように撹拌される。この分散液を静置させ、中間材料から、水面側へ浮かんだ材料と、水中に沈殿した材料とに水浴内で分別させる。水浴内で浮かんだ材料と沈殿した材料とを、別々に回収する。水面側へ浮かんだ材料は、水浴内で付着した水分を取り除く乾燥工程を経て、軽量化材として得られる。一方、水中に沈殿した材料は、水浴内で付着した水分を取り除く乾燥工程を経て、無機粒子材料として得られる。
【0037】
上記のように得られた未発泡の無機粒子材料を本実施形態に係る押出成形材料に配合させるとよい。
【0038】
また、上記のように軽量化材と未発泡の無機粒子材料とが別々に得ることを基にして、発泡処理された中間材料全体に対する未発泡の無機粒子材料の含有率を算出することができる。この含有率に基いて、未発泡の無機粒子材料が、所定の割合で含有されるように、中間材料そのものを、本実施形態に係る押出成形材料に配合させてもよい。また、軽量化材の割合が多くなる場合は、未発泡の無機粒子材料を更に配合させるとよい。これにより、本実施形態に係る押出成形材料は未発泡の無機粒子材料を所定の割合で含有することとなる。
【0039】
未発泡の無機粒子材料は、発泡していない粒子を主に含有する。具体的には、
図4のように、粒度が500μm以上の未発泡の無機粒子材料が少ない存在率で含有されることが好ましく、上記存在率は、未発泡の無機粒子材料全量に対して10%以下であることがが好ましい。
【0040】
なお、本実施形態に係る押出成形材料では、油性物質を含有させると共に更に必要に応じて非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等の乳化剤(逆乳化剤)を含有させて逆エマルジョン(W/Oエマルジョン)を形成してもよい。
【0041】
また、押出成形材料に混入した空気を成形機内で取り除くにあたって、成形機内は、0.6〜0.9Paに減圧されていることが好ましい。
【0042】
このように押出成形材料から空気を容易に取り除きやすくなっていると、真空引きに要するエネルギーコストが削減されることとなる。これにより、押出成形に要する製造コストも削減することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0044】
(軽量化材及び無機粒子材料の分別)
発泡処理されたパーライト(昭和化学工業株式会社製T−3)を中間材料として用意した。この中間材料を、室温の水で満たされた水浴へ投入し、中間材料が水中で十分に分散するように撹拌した。次に、この撹拌工程を停止して、中間材料が水中で分散された分散液が得られた。この分散液を静置させて、中間材料を、水面側へ浮かんだパーライトと、水中に沈殿したパーライトとに水浴内で分別させた。次に、浮かんだパーライトと沈殿したパーライトとを別々に回収した。回収後、水面側へ浮かんだパーライトは、水浴内で付着した水分を取り除く乾燥工程を経て、軽量化材(発泡パーライト)として得られた。一方、沈殿したパーライトは、水浴内で付着した水分を取り除く乾燥工程を経て、無機粒子材料(未発泡パーライト)として得られた。
【0045】
(軽量化材及び無機粒子材料の粒度分布)
上述の軽量化材及び無機粒子材料について、18メッシュ、22メッシュ、30メッシュ、50メッシュ、及び140メッシュの篩を用いて、軽量化材及び無機粒子材料の各々の粒度径分布を調べた。その結果を
図4に示す。
図4の結果から、500μm以上の粒度を有する無機粒子材料が、無機粒子材料全量に対して10%以下の存在率で含まれていることが分かった。
【0046】
(アスペクト比の算出)
発泡パーライト及び未発泡パーライトについて、200μm角のスケールレンズを備えた顕微鏡(キーエンス社製)で、
図1又は
図3で示すような未発泡パーライトのサンプル粒子を5個撮影した。また、この顕微鏡で、
図2で示すような発泡パーライトのサンプルを5個撮影した。このように撮影された写真から、未発泡パーライト粒子及び発泡パーライト粒子それぞれの長径及び短径を計測した。このように計測された未発泡パーライト粒子について、長径及び短径の各々の平均値を算出した。この長径の平均値を短径の平均値で除することで、未発泡パーライトのアスペクト比を算出し、その値は、2.2であった。また、発泡パーライト粒子についても同様にして、発泡パーライトのアスペクト比を算出し、その値は、1.25であった。
【0047】
(実施例1)
45.5質量%のセメントと、1質量%の無機粒子材料(未発泡パーライト)と、10.5質量%の軽量化材(発泡パーライト)と、15.5質量%の増量材と、1.5質量%の強化繊維と、4.5質量%の乳化剤とを表1のように配合し、これらを乾燥混合した。その後、乾燥混合物に22.5質量%の水を添加して押出成形材料を作製した。0.07Paに減圧された成形機に、この押出成形材料を投入し、押出成形材料内に混入した空気を取り除いた。その後、成形機の押出口(大きさ20×30mm)へ押出成形材料を供給して、成形機の押出口から押出された成形体を得た。
【0048】
(実施例2)
セメントを43.5質量%に、未発泡パーライトを3質量%にした以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0049】
(実施例3)
セメントを41.5質量%に、未発泡パーライトを5質量%にした以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0050】
(比較例1)
未発泡パーライトを0質量%にした以外は、実施例1と同様にして成形体を得た。
【0051】
<評価>
・湿比重
比重計(アルファーミラージュ社製)にて、成形機の押出口から押出された成形体(押出成形材料)の湿比重を測定した。
・粘性抵抗
5mmの流路径で連通されている円柱状の流路を成形体(押出成形材料)が14mm/secの試験速度で70mm通過するのに要した圧力の値を粘性抵抗値として測定した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1の結果から、実施例1−3のような押出成形材料が未発泡パーライトを含有すると、未発泡パーライトを含有しない押出成形材料(比較例1)よりも、粘性抵抗は高くなり、良好な保形性が有することが分かった。この結果から、未発泡パーライトを含有させることで、無機粒子材料を構成する粒子の各々の凹凸構造が、配合水を適度に奪うことが考えられた。更に、実施例1−3のような押出成形材料では、未発泡パーライトの配合量に応じて、紛体的性質が現れて、流動性が適度に低下すると考えられた。一方、比較例1では、未発泡パーライトを含有していないので、実施例1−3よりも流体的性質が高くなり、粘性抵抗は低くなると考えられた。従って、実施例1−3のように成形機の押出口から押出された成形体は比較例1のような成形体よりも崩れ難くなると考えられた。