特許第6367668号(P6367668)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367668
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】熱カチオン硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20180723BHJP
   C08G 59/68 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   C08G59/20
   C08G59/68
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-197655(P2014-197655)
(22)【出願日】2014年9月27日
(65)【公開番号】特開2016-69433(P2016-69433A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 健太
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/087807(WO,A1)
【文献】 特開2010−032766(JP,A)
【文献】 特開2001−348554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジルエーテル基含有化合物と、グリシジルエステル基を2個有するグリシジルエステル基含有化合物と、反応性官能基含有加水分解性シラン化合物と、熱カチオン重合開始剤とから成ることを特徴とする熱カチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
グリシジルエステル基含有化合物の熱カチオン硬化性樹脂組成物全体100重量部に対する配合量が1〜20重量部であることを特徴とする請求項1記載の熱カチオン硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
グリシジルエステル基含有化合物のエポキシ当量が100〜400であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱カチオン硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱により硬化し接着力に優れる熱カチオン硬化性樹脂組成物に関し、特には85℃程度の低温度領域でも十分に硬化し、且つ貯蔵安定性が良好な熱カチオン硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、優れた常態接着強度を長期間維持可能な接着用カチオン重合性接着剤として、グリシジルエーテル基含有化合物と、加水分解性シリル基及びエポキシ基含有化合物と光カチオン重合開始剤を含有してなる接着用カチオン重合性接着剤が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−32766号公報
【0004】
該特許文献1に示される接着用カチオン重合性接着剤に使用できる光カチオン重合開始剤は、例えばその明細書段落0036に明示されているサンエイドSI−60LやサンエイドSI−80Lは、熱によっても酸(カチオン)を発生するため、熱カチオン重合開始剤として用いることができ、特にサンエイドSI−60Lのような該熱カチオン重合開始剤は85℃程度の低温度領域でも十分に酸(カチオン)を発生する。
【0005】
しかしながら、該低温度領域で硬化する熱カチオン重合開始剤を配合した接着用カチオン重合性接着剤は、貯蔵安定性が十分でない場合があり、例えば40℃程度のやや高い貯蔵温度雰囲気下に放置すると、短時間でその粘度が大きく上昇するという課題がある。この場合、一度に使用する接着剤の容量が2ml程度の少量である場合、例えばディスペンサーのノズルからの吐出がスムーズに行われなくなって吐出量が不足し、結果として接着不良が生じる場合があるという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、85℃程度の低温度領域でも十分に硬化し、且つ40℃程度のやや高い貯蔵温度雰囲気下に放置しても、その粘度が短時間で大きく上昇することがなく、そのため、ディスペンサーのノズルからの吐出がスムーズに行われ、結果として接着不良が生じることのない、熱カチオン硬化性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、グリシジルエーテル基含有化合物と、グリシジルエステル基を2個有するグリシジルエステル基含有化合物と、反応性官能基含有加水分解性シラン化合物と、熱カチオン重合開始剤とから成ることを特徴とする熱カチオン硬化性樹脂組成物を提供する。
【0008】
請求項2記載の発明は、グリシジルエステル基含有化合物の熱カチオン硬化性樹脂組成物全体100重量部に対する配合量が1〜20重量部であることを特徴とする請求項1記載の熱カチオン硬化性樹脂組成物を提供する。
【0009】
請求項3記載の発明は、グリシジルエステル基含有化合物のエポキシ当量が100〜400であることを特徴とする請求項1又は2記載の熱カチオン硬化性樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る熱カチオン硬化性樹脂組成物は、85℃程度の低温度領域で酸(カチオン)を発生する熱カチオン重合開始剤を使用しても十分に硬化し良好な接着性能を有するため、省エネルギーで低コストとなる効果がある。また、該熱カチオン重合開始剤を使用した場合、40℃程度のやや高い貯蔵温度雰囲気下に該組成物を放置しても、その粘度が短時間で大きく上昇することが無い効果がある。このため、例えばディスペンサーのノズルからの吐出がスムーズで、2ml程度の少量塗布の場合であっても、吐出量が不足することがなく、結果として接着不良が生じないという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の熱カチオン硬化性樹脂組成物は、グリシジルエーテル基含有化合物と、グリシジルエステル基含有化合物と、反応性官能基含有加水分解性シラン化合物と、熱カチオン重合開始剤とから成ることを特徴とする熱カチオン硬化性樹脂組成物であり、本組成物の性能を損なわない範囲で、必要により、膜成分、吸着剤、導電フィラー、消泡剤、レベリング剤、チクソ付与剤、希釈剤、接着付与剤、難燃剤、充填材等を配合することが出来る。
【0013】
グリシジルエーテル基含有化合物
本発明に使用されるグリシジルエーテル基含有化合物は、熱カチオン重合開始剤によって開環し架橋構造となるグリシジルエーテル基を有し、該グリシジルエーテル基は2個以上?有することが良好な接着性能を発現する上で好ましい。2個以上のグリシジルエーテル基を含有する化合物としては、例えばトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ポリグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル等の3個のグリシジルエーテル基を有する脂肪族グリシジル化合物や、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビフェニルジグリシジルエーテル等の2個のグリシジルエーテル基を有する化合物やフェノールノボラック型グリシジルエーテル、クレゾールノボラック型グリシジルエステル等の複数個のグリシジルエーテルを有する化合物を挙げることが出来る。グリシジルエーテル基含有化合物のエポキシ当量は、100〜400が好ましく、より好ましくは100〜350である。100未満では硬化収縮が大きくなり、400超では高粘度により塗布作業性が不良となる。350超では高粘度により塗布作業性が不良となる傾向がある。また、グリシジルエーテル基含有化合物の熱カチオン硬化性樹脂組成物全体100重量部に対する配合量は、20〜98重量部が好ましく、20重量部未満では硬化不良となり、98重量部超では保存安定性が不良となる。該エポキシ樹脂のほか、溶剤に溶解して流延塗工法や溶融押し出し成形法等により容易にシートを成形することができるフェノキシ樹脂をさらに加えることが出来る。フェノキシ樹脂は、熱によって反応するため熱硬化樹脂としても機能し、フェノキシ樹脂を配合する場合、組成物全体100重量部中のフェノキシ樹脂の配合量は、0〜40重量部が好ましく、40重量部超では組成物製造時に該樹脂の混合が困難となる。またフェノキシ樹脂の重量平均分子量は20000〜100000が好ましく、20000未満では成膜不良となり、100000超では組成物製造時にフェノキシ樹脂の混合が困難と成る。
【0014】
グリシジルエステル基含有化合物
本発明に使用されるグリシジルエステル基含有化合物は、熱カチオン重合開始剤によって開環し架橋構造となるグリシジルエステル基を有し、該グリシジルエステル基は2個有することが良好な接着性能を発現する上で好ましい。2個のグリシジルエステル基を含有する化合物としては、フタル酸ジグルシジルエステル、水添フタル酸ジグリシジルエステル、ジグリシジル−p−オキシ安息香酸等を挙げることが出来る。グリシジルエステル基含有化合物のエポキシ当量は、100〜400が好ましく、より好ましくは100〜250である。100未満では硬化収縮が大きくなり、400超では凝集力不足となる。250超では凝集力が不足する傾向がある。また、グリシジルエステル基含有化合物の熱カチオン硬化性樹脂組成物全体100重量部に対する配合量は、1〜20重量部が好ましく、1重量部未満では保存安定性不足となり、20重量部超では硬化不足となる。
【0015】
反応性官能基含有加水分解性シラン化合物
本発明に使用される反応性官能基含有加水分解性シラン化合物は、良好な接着強度を得るために配合され、例えば3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等を使用することが出来る。該反応性官能基含有加水分解性シラン化合物の熱カチオン硬化性樹脂組成物全体100重量部に対する配合量は、0.1〜10重量部が好ましく、0.1重量部未満では接着不良となり、10重量部超では硬化不良となる。
【0016】
熱カチオン重合開始剤
本発明に使用される熱カチオン重合開始剤は、熱によってカチオンイオンを発生し、例えば、カチオン部分が、芳香族スルホニウム、芳香族ヨードニウム、芳香族ジアゾニウム、芳香族アンモニウム等であり、アニオン部分が、BF-、PF-、SbF、B(C、等で構成されるオニウム塩を単独又は2種以上使用することが出来る。
【0017】
芳香族スルホニウム塩としては、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4,4´−ビス(ジフェニルスルホニオ)ジフェニルスルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、4,4´−ビス[ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ]ジフェニルスルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、4,4´−ビス[(ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ]ジフェニルスルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、7−[ジ(p−トルイル)スルホニオ]−2−イソプロピルチオキサントンヘキサフルオロアンチモネート、7−[(ジ(p−トルイル)スルホニオ]−2−イソプロピルチオキサントンテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−フェニルカルボニル−4´−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィドハキサフルオロホスフェート、などを使用することが出来る。
【0018】
熱カチオン重合開始剤は、上記グリシジルエーテル基含有化合物100重量部に対して、0.5〜10重量部が好ましく、より好ましくは1〜8重量部である。0.5重量部未満では硬化不十分となり、10重量部超では組成物としての保存安定性が不良となる。1重量部未満では硬化不十分となる傾向があり、8重量部超では組成物としての保存安定性が不良となる傾向がある。市販の芳香族スルホニウム塩の熱カチオン重合開始剤としては、サンエイドSI−60(商品名、三新化学工業株式会社製、化学名:1−ナフチルメチルメチルp−ヒドロキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモナート)がある。
【0019】
以下,実施例及び比較例にて本出願に係る熱カチオン硬化性樹脂組成物について具体的に説明する。
【実施例】
【0020】
実施例1乃至実施例6
グリシジルエーテル基含有化合物Aとして、jER YX8000(商品名、化学名:水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エポキシ当量:205、粘度:18.5P・s/25℃、三菱化学社製)を、グリシジルエーテル基含有化合物Bとして、jER YX8040(商品名、化学名:水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エポキシ当量:1100、粘度:80P・s/80℃、三菱化学社製)を、グリシジルエステル基含有化合物AとしてデナコールEX711(商品名、化学名:ジグリシジルテレフタレート、エポキシ当量:147、融点:107℃、白色粉体、ナガセケミテックス社製)を、グリシジルエステル基含有化合物BとしてデナコールEX721(商品名、化学名:ジグリシジルオルトフタレート、エポキシ当量:154、粘度:980mP・s/25℃、ナガセケミテックス社製)を、及びグリシジルエステル基含有化合物CとしてデナコールEX722L(商品名、化学名:水素化ジグリシジルオルトフタレート、エポキシ当量:173、粘度:2500mPa・s/25℃、ナガセケミテックス社製)を、反応性官能基含有加水分解性シラン化合物として、DYNASILAN GLYMO(商品名、化学名:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、EVONIC社製)を、熱カチオン重合開始剤Aとして低温(90℃〜180℃)加熱用のサンエイドSI−60(商品名、化学名:芳香族スルホニウム/六フッ化アンチモン・塩、三新化学工業社製)を、それぞれ使用し、この他にポットライフ安定剤としてサンエイドSI助剤(商品名、化学名:4−ヒドロキシフェニルジメチルスルホニウムメチルサルファイト、三新化学工業社製)を使用し、表1の配合にて十分に撹拌し、混合溶解して実施例1乃至実施例6の熱カチオン硬化性樹脂組成物を得た。なお表1の各数字は重量部数を示している。
【0021】
比較例1乃至比較例4
実施例で使用した材料のほか、熱カチオン重合開始剤Bとして低中温(110℃〜180℃)加熱用のサンエイドSI−80(商品名、化学名:2−メチルベンジルメチルp−ヒドロキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモナート、三新化学工業社製)、及び熱カチオン重合開始剤Cとして低中温(80℃〜100℃)加熱用のK−PURE CXC−1612(商品名、化学名:ヘキサフルオロアンチモネートアンモニウム塩、King Industries社製)を、使用し、表1の配合にて十分に撹拌し、混合溶解して比較例1乃至比較例4の熱カチオン硬化性樹脂組成物を得た。
【0022】
【表1】

【0023】
評価項目及び評価方法
【0024】
硬化性
実施例1乃至実施例6又は比較例1乃至比較例4の各々の熱カチオン硬化性樹脂組成物を離型PET(ポリエチレンテレフラレート)フィルム上に塗布し、直後に10mm×10mm×2mm厚みのアルミニウム板を覆い被せ、塗布した熱カチオン硬化性樹脂組成物の各々の厚みが5〜10μmに成るように加重する。その後85℃のオーブンに1時間放置し、23℃まで徐冷する。離形PETフィルムからアルミニウム板に接着している熱カチオン硬化性樹脂阻止物を剥離させ、剥離面を指触しベタツキの有無を確認する。ベタツキのないものを○とし、それ以外を×と評価した。
【0025】
ショアD硬度
実施例1乃至実施例6又は比較例1乃至比較例4の各々の熱カチオン硬化性樹脂組成物を1mm〜2mm厚みに離型PETフィルム上に塗布し、85℃1時間硬化させる。硬化後23℃に徐冷し、ショアD硬度計にて、硬度を測定した。
【0026】
せん断強度
60mm×20mm×2mm厚みのガラス板の長手方向の端部から25mmに実施例1乃至実施例6又は比較例1乃至比較例4の各々の熱カチオン硬化性樹脂組成物をそれぞれ100μm厚みに塗布する。塗布後直ちに同形状のガラス板を長手方向の端部25mmのみがオーバーラップするように貼り付け、全体として95mm×20mmの試験片を作成する。その後該試験片を85℃1時間放置し、各熱カチオン硬化性樹脂組成物を硬化させる。その後、23℃下にて引張試験機TGI−1kN(ミネベア社製)にて試験片を長手方向に5mm/分で引張り、せん断強度(MPa)を測定した。
【0027】
初期粘度及び貯蔵安定性
実施例1乃至実施例6又は比較例1乃至比較例4の各々の熱カチオン硬化性樹脂組成物の材料混合後23℃1日経過後の粘度を、E型粘度計(型式:550R、東機産業社製)にて測定し、これを初期粘度(mPa・s)とする。その後各熱カチオン硬化性樹脂組成物を40℃にて3時間放置する。ただちに23℃に徐冷し同様に粘度を測定し、これを加熱後粘度(mPa・s)とする。加熱後粘度を初期粘度で除し、その値が1.5未満を○、これ以上を×として貯蔵安定性を評価した。
【0028】
評価結果
評価結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
まとめ
実施例1乃至実施例6は十分な硬化性と接着性を有し、貯蔵安定性も良好であったのに対し、比較例1及び比較例2は貯蔵安定性が不良であり、比較例3及び比較例4は硬化性が不十分であった。