特許第6367708号(P6367708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6367708-ガスセンサ素子およびガスセンサ 図000002
  • 特許6367708-ガスセンサ素子およびガスセンサ 図000003
  • 特許6367708-ガスセンサ素子およびガスセンサ 図000004
  • 特許6367708-ガスセンサ素子およびガスセンサ 図000005
  • 特許6367708-ガスセンサ素子およびガスセンサ 図000006
  • 特許6367708-ガスセンサ素子およびガスセンサ 図000007
  • 特許6367708-ガスセンサ素子およびガスセンサ 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367708
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子およびガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20180723BHJP
【FI】
   G01N27/416 331
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-266160(P2014-266160)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-125888(P2016-125888A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】若園 知宏
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 将生
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−122187(JP,A)
【文献】 実開平04−102461(JP,U)
【文献】 特開2008−026299(JP,A)
【文献】 特表2003−508750(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0097553(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/419
G01N 27/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象ガスが導入される第1測定室と、
前記第1測定室において酸素の汲み出し又は汲み入れが行われた前記測定対象ガスが導入される第2測定室と、
固体電解質体、及び該固体電解質体上に形成される一対の第1電極を有し、前記一対の第1電極のうち一方の電極が前記第1測定室に露出して、前記第1測定室に導入された前記測定対象ガスに対する酸素の汲み出し又は汲み入れを行う第1ポンプセルと、
固体電解質体、及び該固体電解質体上に形成される一対の第2電極を有し、前記一対の第2電極のうち一方の電極が前記第2測定室に露出すると共に、他方の電極が前記第2測定室の外部に設けられ、前記第2測定室に導入された前記測定対象ガス中の特定ガス濃度に応じた第2ポンピング電流が流れる第2ポンプセルと、
を有するガスセンサ素子であって、
前記一対の第2電極における前記一方の電極および前記他方の電極は、いずれも前記第2ポンプセルを形成する固体電解質体の同一面に形成されており、前記一方の電極が中央側に配置される中央電極として備えられるとともに、前記他方の電極が前記中央電極の周囲領域における少なくとも一部に配置される周囲電極として備えられ、
前記中央電極は、その輪郭の内側に導電性材料が隙間無く配置されて形成されており、
前記周囲電極は、前記中央電極の重心を挟むように配置された2つの仮想点と、前記2つの仮想点どうしをつなぐ連結領域と、を備え、
前記特定ガス濃度は、NOx濃度である、
ガスセンサ素子。
【請求項2】
前記第1測定室と前記第2測定室との間に配置されるセラミック層部材を備えており、
前記セラミック層部材は、前記第1測定室と前記第2測定室とを繋ぐ貫通孔であって、前記第1測定室から前記第2測定室に導入される前記測定対象ガスが通過する貫通孔を備えており、
前記中央電極は、その少なくとも一部が前記第2測定室の内面のうち前記貫通孔に対向する領域に含まれるように形成されている、
請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
前記中央電極は、前記第2ポンプセルの前記固体電解質体のうち前記第2測定室に面する領域の輪郭から離間して配置されている、
請求項1または請求項2に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
前記中央電極と外部機器とを電気的に接続するための信号経路を備えており、
前記周囲電極は、前記中央電極を部分的に取り囲むように形成され、
前記信号経路は、前記中央電極の周囲領域のうち前記周囲電極が配置されていない領域を通過するように配置される、
請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項5】
前記中央電極は、円形状または楕円形状であり、
前記周囲電極は、円環状である、
請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項6】
測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出するガスセンサ素子を備えるガスセンサであって、
前記ガスセンサ素子として、請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載のガスセンサ素子を備えること、
を特徴とするガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象ガス中に含まれる特定ガスを検出するためのガスセンサ素子およびガスセンサ素子を備えたガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象ガス(例えば排気ガス等)に含まれる特定ガス(例えばNOx等)を検出するためのガスセンサ素子、およびそのようなガスセンサ素子を備えるガスセンサが知られている。
【0003】
ガスセンサ素子は、板型の固体電解質体と、固体電解質体の外面に形成される一対の電極部と、を有するセルを備えている。
例えば、NOxを検出するガスセンサ素子は、セルとして、第1ポンプセル、第2ポンプセルなどを備えている(例えば、特許文献1)。
【0004】
第1ポンプセルは、測定対象ガス(排気ガス等)における酸素の汲み入れおよび汲み出し(ポンピング)を行い、測定対象ガスの酸素濃度を調整する。そして、第2ポンプセルには、酸素濃度が調整された測定対象ガスに含まれるNOx濃度に応じた第2ポンピング電流が流れる。この第2ポンピング電流に基づいて測定対象ガスにおけるNOx濃度を判定できる。
【0005】
なお、ガスセンサ素子におけるセルの構成としては、一対の電極部が固体電解質体を挟むように、一方の電極部と他方の電極部とがそれぞれ固体電解質体の異なる面に配置される構成や、一対の電極部がそれぞれ固体電解質体の同一面における異なる位置に配置される構成などが挙げられる(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−122187号公報
【特許文献2】特表2003−508750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、一対の電極部がそれぞれ固体電解質体の同一面における異なる位置に配置される構成のセルにおいては、一対の電極部が固体電解質体を挟むように配置される構成のセルに比べて、一対の電極部の間に流れる電流が小さくなる虞がある。
【0008】
つまり、一対の電極部が固体電解質体を挟むように配置される構成のセルでは、主に固体電解質体を挟んで対向する電極部面積が固体電解質体におけるイオンの移動に関与する領域となる。従って、一対の電極部同士における固体電解質体の厚み方向に直交する方向の距離を近づけることで、固体電解質体を介して一対の電極部同士が重なる面積を大きくすることができる。これにより、固体電解質体におけるイオンの移動に関与する領域を大きく確保できるため、一対の電極部の間に流れる電流を大きくすることが可能である。
【0009】
これに対して、一対の電極部がそれぞれ固体電解質体の同一面に配置される構成のセルでは、主に、固体電解質体のうち一対の電極部の近傍領域がイオンの移動に関与する領域となるが、電極部同士を重ねることはできない。そのため、一対の電極部同士の距離を近づけたとしても、固体電解質体におけるイオンの移動に関与する領域を大きく確保するこ
とが難しい。このような構成においては、一対の電極部の間に流れる電流が小さくなる虞がある。また、一対の電極部間の距離がセンサ毎にばらつく場合、一対の電極部の間に流れる電流の大きさがばらつくことになり、センサ毎にガス検出精度にばらつきが発生する虞がある。
【0010】
とりわけ、例えばNOxを検知するためのガスセンサ素子においては、NOx濃度に応じて第2ポンプセルに流れる第2ポンピング電流が微少である。このため、第2ポンプセルが、一対の電極部がそれぞれ固体電解質体の同一面に配置される構成となる場合には、第2ポンピング電流の検出精度が低下して、NOx検出精度が低下する虞がある。
【0011】
なお、一対の電極部がそれぞれ固体電解質体の同一面に配置される構成のセルは、一対の電極部が固体電解質体を挟むように配置される構成のセルに比べて、固体電解質体と一対の電極部との積層方向寸法を小さくすることができるという利点がある。
【0012】
そこで、本発明は、一対の電極部がそれぞれ固体電解質体の同一面に配置される構成のセルを備えるガスセンサ素子であって、特定ガスの検出精度の低下を抑制できるガスセンサ素子を提供すること、およびそのようなガスセンサ素子を備えるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の局面におけるガスセンサ素子は、第1測定室と、第2測定室と、第1ポンプセルと、第2ポンプセルと、を有する。
第1測定室は、測定対象ガスが導入される。第2測定室は、第1測定室において酸素の汲み出し又は汲み入れが行われた測定対象ガスが導入される。
【0014】
第1ポンプセルは、固体電解質体と、該固体電解質体上に形成される一対の第1電極と、を有する。一対の第1電極のうち一方の電極は、第1測定室に露出している。第1ポンプセルは、第1測定室に導入された測定対象ガスに対する酸素の汲み出し又は汲み入れを行う。
【0015】
第2ポンプセルは、固体電解質体と、該固体電解質体上に形成される一対の第2電極と、を有する。一対の第2電極のうち一方の電極は、第2測定室に露出すると共に、一対の第2電極のうち他方の電極は、第2測定室の外部に設けられる。第2ポンプセルは、第2測定室に導入された測定対象ガス中の特定ガス濃度に応じた第2ポンピング電流が流れるように構成されている。
【0016】
一対の第2電極における一方の電極および他方の電極は、いずれも前記第2ポンプセルを形成する固体電解質体の同一面に形成されている。一方の電極が中央側に配置される中央電極として備えられるとともに、他方の電極が中央電極の周囲領域における少なくとも一部に配置される周囲電極として備えられる。
【0017】
中央電極は、その輪郭の内側に導電性材料が隙間無く配置されて形成されている。周囲電極は、中央電極の重心を挟むように配置された2つの仮想点と、2つの仮想点どうしをつなぐ連結領域と、を備える。
【0018】
このように、第2ポンプセルにおける一対の第2電極が、上述のような中央電極および周囲電極で構成されることで、一対の第2電極がそれぞれ矩形形状に形成されて単に隣接して配置される構成と比べて、一対の第2電極どうしの距離に製造バラツキが生じがたくなる。つまり、中央電極の重心と周囲電極における2つの仮想点との相対的な位置関係が特定されると共に、周囲電極が連結領域を有することにより、中央電極と周囲電極との距
離が一定範囲内となるため、一対の第2電極どうしの距離に製造バラツキが生じがたくなる。
【0019】
とりわけ、第2ポンピング電流は微少電流であることから、一対の第2電極どうしの距離の製造バラツキを抑えることで、第2ポンピング電流の検出誤差を低減できるため、第2ポンプセルにおけるガス検出精度の低下を抑制できる。
【0020】
また、中央電極の周囲領域における少なくとも一部に周囲電極が配置される構成であるため、ガスセンサ素子の全体における部位毎に温度勾配が生じたとしても、中央電極と周囲電極との温度差が生じがたくなる。このため、ガスセンサ素子の全体における部位毎に温度勾配が生じたとしても、その温度勾配に起因する第2ポンピング電流の検出誤差を低減できるため、第2ポンプセルにおけるガス検出精度の低下を抑制できる。
【0021】
さらに、中心電極は、その輪郭の内側に導電性材料が隙間無く配置されて形成されているため、同じ大きさの輪郭において導電性材料の隙間を有する構成の電極に比べて、有効な電極面積(導電性材料の面積)を大きく確保できる。このように有効な電極面積を大きく確保することで、中心電極の配置領域における単位面積あたりの第2ポンピング電流を大きくすることができ、第2ポンプセルにおけるガス検出精度の低下を抑制できる。さらに、このような中心電極を備えることで有効な電極面積を大きく確保できるため、中心電極の大型化を抑制でき、ガスセンサ素子の大型化も抑制できる。
【0022】
よって、このガスセンサ素子によれば、一対の電極部がそれぞれ固体電解質体の同一面に配置される構成のセルを備える場合においても、特定ガスの検出精度の低下を抑制できる。
【0023】
なお、周囲電極は、中央電極の周囲を切れ目無く完全に取り囲むように形成してもよい。その場合、中央電極と外部機器とを電気的に接続するための信号経路については、固体電解質体の同一面ではなく、例えば、固体電解質体を厚さ方向に貫通するスルーホールを経由して固体電解質体の裏面に繋がるように形成してもよい。
【0024】
上述のガスセンサ素子は、第1測定室と第2測定室との間に配置されるセラミック層部材を備えてもよい。そして、セラミック層部材は、第1測定室と第2測定室とを繋ぐ貫通孔であって、第1測定室から第2測定室に導入される測定対象ガスが通過する貫通孔を備えてもよい。さらに、中央電極は、その少なくとも一部が第2測定室の内面のうち貫通孔に対向する領域に含まれるように形成されてもよい。
【0025】
このような構成のガスセンサ素子は、第2測定室に導入される測定対象ガスが中央電極に触れやすくなり、第2ポンプセルにおけるガス検出精度を向上できる。
なお、「貫通孔に対向する領域」とは、換言すれば、貫通孔を貫通方向(測定対象ガスの流入方向)に投影した領域であり、この領域は、貫通孔から流入した測定対象ガスが到達しやすい領域である。
【0026】
上述のガスセンサ素子においては、中央電極は、固体電解質体のうち第2測定室に面する領域の輪郭から離間して配置されてもよい。
このような構成のガスセンサ素子は、固体電解質体のうち第2測定室に面する領域の輪郭に中央電極が接する構成に比べて、ガスセンサ素子の製造時に、中央電極の電極位置に製造誤差が生じても、中央電極の一部(特に、端部)が第2測定室に露出しない状態となるのを抑制できる。つまり、中央電極の電極位置に製造誤差が生じても、第2測定室に露出する中央電極の面積に誤差が生じるのを抑制できるとともに、第2ポンピング電流に誤差が生じるのを抑制できる。
【0027】
よって、このガスセンサ素子によれば、第2ポンピング電流に誤差が生じるのを抑制できるため、第2ポンプセルにおけるガス検出精度の低下を抑制できる。
上述のガスセンサ素子においては、中央電極と外部機器とを電気的に接続するための信号経路を備えてもよい。そして、周囲電極は、中央電極を部分的に取り囲むように形成され、信号経路は、中央電極の周囲領域のうち周囲電極が配置されていない領域を通過するように配置されてもよい。
【0028】
このような構成のガスセンサ素子においては、固体電解質体のうち中央電極および周囲電極を形成する面に対して、中央電極と外部機器とを電気的に接続するための信号経路を配置することができる。
【0029】
上述のガスセンサ素子においては、中央電極は、円形状または楕円形状であってもよく、周囲電極は、円環状であってもよい。
このような構成のガスセンサ素子においては、周囲電極が円環状であるため、周囲電極が中央電極の周囲領域を途切れることなく包囲できる。また、中央電極が円形状または楕円形状であることで、中央電極の外周形状が周囲電極の内周形状と類似する形状となり、中央電極と周囲電極との間隔が中央電極の外周全体にわたり一定にし易くなり、中央電極の外周全体をイオンの移動に寄与する領域として使用できる。
【0030】
本発明の別の局面のガスセンサは、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出するガスセンサ素子を備えるガスセンサであって、ガスセンサ素子として、上述のいずれかのガスセンサ素子を備える。
【0031】
このように、上述のいずれかのガスセンサ素子を備えるガスセンサは、一対の電極部がそれぞれ固体電解質体の同一面に配置される構成のセルを備える場合においても、特定ガスの検出精度の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明のガスセンサ素子およびガスセンサによれば、一対の電極部がそれぞれ固体電解質体の同一面に配置される構成のセルを備える場合においても、特定ガスの検出精度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】実施形態のNOxセンサを軸方向に沿って破断した状態を示す断面図である。
図2】ガスセンサ素子を示す斜視図である。
図3】ガスセンサ素子を分解して示す斜視図である。
図4】ガスセンサ素子の先端側における内部構造を表す説明図である。
図5】第2ポンピングセルにおける一対の電極(中央第2ポンプ電極部および周囲第2ポンプ電極部)の形状を表した拡大説明図である。
図6】第2実施形態の第2ガスセンサ素子の先端側における内部構造を表す説明図である。
図7】(a)は、第1変形形態の第2ポンプセルにおける一対の電極(中央電極および周囲電極)の形状を表した拡大説明図であり、(b)は、第2変形形態の第2ポンプセルにおける一対の電極(中央電極および周囲電極)の形状を表した拡大説明図であり、(c)は、第3変形形態の第2ポンプセルにおける一対の電極(中央電極および周囲電極)の形状を表した拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、以下に示す実施形態では、ガスセンサの一種であるNOxセンサ1を例に挙げる。具体的には、自動車や各種内燃機関における排気管に装着されるガスセンサであって、測定対象となる排気ガス中の特定ガス(窒素酸化物:NOx)を検出するガスセンサ素子(検出素子)が組み付けられて構成されるNOxセンサ1を例に挙げて説明する。
【0035】
[1.第1実施形態]
[1−1.全体構成]
本実施形態のガスセンサ素子が使用されるNOxセンサの全体の構成について、図1に基づいて説明する。図1は、NOxセンサの内部構成を表す断面図である。図1では、図面下方向がNOxセンサの先端側であり、図面上方向がNOxセンサの後端側である。
【0036】
図1に示す様に、本実施形態におけるNOxセンサ1は、排気管に固定するためのネジ部3が外表面に形成された筒状の主体金具5と、軸線O方向(NOxセンサ1の長手方向:図1の上下方向)に延びる板状形状のガスセンサ素子7と、ガスセンサ素子7の径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ9と、軸線O方向に貫通する挿通孔11の内壁面がガスセンサ素子7の後端部の周囲を取り囲む状態で配置される第1セパレータ13と、ガスセンサ素子7と第1セパレータ13との間に配置される6個(図1には2個のみ図示)の接続端子15と、を備えている。
【0037】
ガスセンサ素子7は、後に詳述する様に、長手方向に伸びる直方体形状(板型形状)に形成されており、その先端側に、測定対象ガスに含まれる特定ガス(ここではNOx)を検出する検知部17を備える。また、ガスセンサ素子7は、後端側(図1の上方:長手方向後端部)の外表面のうち表裏の位置関係となる第1主面21および第2主面23に、電極パッド125,126,127,128,129,130(詳細は、図2図3参照)が形成されている。
【0038】
ガスセンサ素子7の電極パッド125,126,127,128,129,130には、それぞれ異なる接続端子15が電気的に接続されるとともに、接続端子15は、外部からセンサの内部に配設されるリード線35に電気的に接続されている。これにより、リード線35が接続される外部機器と電極パッド125,126,127,128,129,130との間に流れる電流の電流経路が形成される。
【0039】
主体金具5は、軸線O方向に貫通する貫通孔37を有し、貫通孔37の径方向内側に突出する棚部39を有する略筒状形状に構成されている。この主体金具5は、検知部17を貫通孔37の先端よりも先端側に配置し、電極パッド125,126,127,128,129,130を貫通孔37の後端よりも後端側に配置する状態で、貫通孔37に挿通されたガスセンサ素子7を保持するよう構成されている。
【0040】
また、主体金具5の貫通孔37の内部には、ガスセンサ素子7の径方向周囲を取り囲む状態で、環状形状のセラミックホルダ41、滑石リング43、滑石リング45、及び上述のセラミックスリーブ9が、この順に先端側から後端側にかけて積層されている。
【0041】
このセラミックスリーブ9と主体金具5の後端部47との間には、加締パッキン49が配置され、一方、セラミックホルダ41と主体金具5の棚部39との間には、滑石リング43,45やセラミックホルダ41を保持するための金属ホルダ51が配置されている。なお、主体金具5の後端部47は、加締パッキン49を介してセラミックスリーブ9を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0042】
更に、主体金具5の先端部53の外周には、ガスセンサ素子7の突出部分を覆う金属製(例えば、ステンレスなど)の二重構造とされたプロテクタ55が溶接等によって取り付
けられている。
【0043】
一方、主体金具5の後端側外周には、外筒57が固定されている。また、外筒57の後端側の開口部には、6個のリード線挿通孔61(図1では2個のみ図示)が形成されたグロメット59が配置されている。6個のリード線挿通孔61には、電極パッド125,126,127,128,129,130にそれぞれ電気的に接続される6本のリード線35(図1では2本が図示)が挿通される。
【0044】
なお、第1セパレータ13の外周には、鍔部63が形成されており、鍔部63は、保持部材65を介して外筒57に固定されている。また、第1セパレータ13の後端側には、第1セパレータ13とグロメット59との間で挟持される第2セパレータ67が配置されている。接続端子15の後端側は、第2セパレータ67の内部に挿入されている。
【0045】
[1−2.ガスセンサ素子の構成]
次に、本実施形態の要部であるガスセンサ素子7の構成について、図2図4に基づいて詳細に説明する。
【0046】
図2は、ガスセンサ素子7の外観を表す斜視図である。図2では、図面下方向がガスセンサ素子7の先端側であり、図面上方向がガスセンサ素子7の後端側である。
図2に示す様に、ガスセンサ素子7は、長手方向(Y軸方向)に延びる長尺の板材である。なお、図2において、長手方向がガスセンサの軸線O方向に沿う形態となる。また図2のZ軸方向は、長手方向に垂直な積層方向であり、X軸方向は、長手方向及び積層方向に垂直な幅方向である。
【0047】
ガスセンサ素子7は、長手方向に伸びる直方体形状(板型形状)に形成されており、長手方向に伸びる板状の素子部71と、同じく長手方向に延びる板状のヒータ73と、が積層されて構成されている。ガスセンサ素子7は、その先端側に、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部17を備える。
【0048】
図3は、ガスセンサ素子7を分解した斜視図である。図3において、図面左方向がガスセンサ素子7の先端側であり、図面右方向がガスセンサ素子7の後端側である。図4は、ガスセンサ素子7の先端側における内部構造を表す説明図である。図4に示す説明図は、ガスセンサ素子7をその長手方向と平行な面で切断した部分の端面図(切断部端面図)であって、素子部71およびヒータ73の積層状態を表した端面図である。図4において、図面左方向がガスセンサ素子7の先端側であり、図面右方向がガスセンサ素子7の後端側である。また、図4では、ガスセンサ素子7の長手方向における中間位置の図示を省略するとともに、ガスセンサ素子7と外部機器(制御部30)との電気的な接続状態を模式的に表している。
【0049】
ガスセンサ素子7は、図3に分解して示す様に、積層方向の一方の側(図3の上側)に配置されて、長手方向に伸びる板状の素子部71と、素子部71の反対側(裏側)に配置されて、同じく長手方向に延びる板状のヒータ73と、を備える。
【0050】
このうち、素子部71は、絶縁体84e、第1固体電解質体81a、絶縁体84a、第2固体電解質体82a、絶縁体84b、第3固体電解質体83aをこの順に積層した構造を有する。また、ヒータ73は、絶縁体84c、84dをこの順に積層した構造を有する。これらの各層は、ガスセンサ素子7の長手方向に対して垂直方向に積層されている。また、各固体電解質体81a,82a,83aは、ガスセンサ素子7の長手方向に延びる板状である。
【0051】
第1固体電解質体81aと第2固体電解質体82aとの間には、第1測定室86が形成されている。第1測定室86の先端側領域は、2つの第1拡散抵抗体85aを介して外部に繋がっている。第1拡散抵抗体85aを介して外部から外気である測定対象ガス(排気ガス)がガスセンサ素子7の内部に導入される。第1測定室86は、その後端側領域において、第2固体電解質体82aに形成される貫通孔88aを介して、絶縁体84bに形成される第2測定室88に繋がっている。
【0052】
2つの絶縁体84c、84dの間には、タングステン等の導体によって形成された発熱抵抗体105が備えられている。発熱抵抗体105は、ヒータ73の一部として備えられている。
【0053】
ヒータ73は、外部から供給された電力によって発熱抵抗体105が発熱することで、ガスセンサ素子7(特に、素子部71)を所定の活性温度に昇温し、固体電解質体の酸素イオンの伝導性を高めて動作を安定化させるために用いられる。
【0054】
第1実施形態では、固体電解質体81a、82a、83aは、それぞれ、酸素イオン伝導性を有するジルコニアを主成分に用いて形成されている。絶縁体84a〜84eはアルミナを主成分に用いて形成されており、気体等の流体の透過(流通)を防止できる程度に密に形成されている。第1拡散抵抗体85aは、アルミナ等の多孔質物質を用いて形成され、気体の流通が可能になっている。なお、主成分とは「セラミック層中の主材料の含有量が50wt%以上であること」を指し、例えば、固体電解質体は、ジルコニアが50wt%以上含有されている。固体電解質体と絶縁体との8つの層のうちの6つの層84e、81a、82a、83a、84c、84dは、それぞれ、原材料のシートを用いて形成されている(例えば、ジルコニアやアルミナ等のセラミックのシート)。2つの絶縁体84a、84bは、セラミックシート上へのスクリーン印刷によって形成されている。そして、焼成前の各層を積層して得られる積層体を焼成することによって、ガスセンサ素子7が形成される。
【0055】
また、素子部71は、第1ポンピングセル81と、酸素濃度検出セル82と、第2ポンピングセル83と、を有している。
第1ポンピングセル81は、第1固体電解質体81aと、これを挟持するように配置された一対の電極(内側第1電極部81c、外側第1電極部81b)とを備えている。内側第1電極部81cは第1測定室86に面している。内側第1電極部81c及び外側第1電極部81bはいずれも白金を主成分にして形成されている。外側第1電極部81bは、絶縁体84eのうちの外側第1電極部81bと対向する部分に埋め込まれた多孔質部81d(例えば、アルミナ)により覆われている。多孔質部81dは、ガス(例えば、酸素)が通過可能に構成されている。
【0056】
酸素濃度検出セル82は、第2固体電解質体82aと、これを挟持するように配置された検知電極部82b及び基準電極部82cとを備えている。検知電極部82b及び基準電極部82cはいずれも白金を主成分として形成されている。
【0057】
絶縁体84bのうち基準電極部82cに接する部分には、絶縁体84bの厚さ方向に貫通する空間部分としての基準酸素室87が形成されている。基準酸素室87は、絶縁体84bの厚さ方向に見たときの断面形状がC字形状に形成されると共に、その内部の第3固体電解質体83aに面する領域に多孔質部87aが配置され、その他の領域が空洞として形成されている。また、絶縁体84bのうち基準酸素室87の内側領域には、絶縁体84bの厚さ方向に貫通する空間部分としての第2測定室88が形成されている。
【0058】
酸素濃度検出セル82に予め定められた微弱な一定値の電流を流すことにより、酸素が
酸素濃度検出セル82を介して第1測定室86から基準酸素室87に送り込まれる。そして、基準酸素室87の酸素濃度は、所定の濃度に維持される。これにより、基準酸素室87は、酸素濃度の基準として利用される。
【0059】
第2ポンピングセル83は、第3固体電解質体83aと、第3固体電解質体83aのうち第2測定室88に面した表面に配置された一対の電極(中央第2ポンプ電極部83b、周囲第2ポンプ電極部83c)とを備えている。中央第2ポンプ電極部83b及び周囲第2ポンプ電極部83cはいずれも白金を主成分として形成されている。なお、周囲第2ポンプ電極部83cは、第3固体電解質体83aのうち絶縁体84bに対向する面に形成されると共に、絶縁体84bの基準酸素室87に対応する領域に配置される。周囲第2ポンプ電極部83cは、基準電極部82cに対向するように基準酸素室87に面している。中央第2ポンプ電極部83bは、第3固体電解質体83aのうち絶縁体84bに対向する面に形成されると共に、絶縁体84bの第2測定室88に対応する領域に配置される。
【0060】
各電極部81b、81c、82b、82c、83b、83cは、電極反応を良好に維持するために、気体を内部に流通可能な程度の多孔質状に形成されている。すなわち、測定対象ガスの気体(酸素やNOx等の気相)と電極部(触媒相)と固体電解質体(酸素イオン伝導相)とが接する三相界面を良好に形成する程度の多孔質状に形成されている。
【0061】
絶縁体84eの後端側外表面には、3つの電極パッド125,126,127が形成されている。また、絶縁体84dの後端側外表面には、3つの電極パッド128,129,130が形成されている。各電極パッド125,126,127,128,129,130は、例えば、絶縁体84e,84dに、Pt等のメタライズインクを印刷し焼成することで形成される。
【0062】
各電極部81b、81c、82b、82c、83b、83cおよび発熱抵抗体105は、配線ユニットL1〜L6によって、対応する電極パッド125,126,127,128,129,130と電気的に接続されている。
【0063】
詳細には、第1電極パッド125は、第1配線ユニットL1によって外側第1電極部81bと電気的に接続される。第2電極パッド126は、第2配線ユニットL2によって基準電極部82cと電気的に接続される。第3電極パッド127は、第3配線ユニットL3によって内側第1電極部81c、検知電極部82b、中央第2ポンプ電極部83bに電気的に接続される。第4電極パッド130は、第4配線ユニットL4によって周囲第2ポンプ電極部83cに電気的に接続される。第1ヒータ用電極パッド128は、第1ヒータ用配線ユニットL5によって発熱抵抗体105に電気的に接続される。第2ヒータ用電極パッド129は、第2ヒータ用配線ユニットL6によって発熱抵抗体105に電気的に接続される。配線ユニットL1〜L6は、白金を主成分とし、セラミック(例えば、アルミナ)が含まれるペーストを印刷することで設けられている。
【0064】
第1配線ユニットL1は、第1リード部90bと第1スルーホール導体部95aとを有する。第1リード部90bは、第1固体電解質体81aに沿って外側第1電極部81bから長手方向に延びる。詳細には、第1リード部90bは、外側第1電極部81bから後端側に向かって長手方向に沿って延びる。第1スルーホール導体部95aは、絶縁体84eを積層方向に貫通する貫通孔H15によって形成される。詳細には、第1スルーホール導体部95aは、貫通孔H15の内表面に導体を形成することで作成される。第1スルーホール導体部95aは、一端が第1電極パッド125と接続されるとともに、他端が第1リード部90bと接続される。
【0065】
第2配線ユニットL2は、第2リード部91cと、第2スルーホール導体部95bと、
を有する。第2リード部91cは、第2固体電解質体82aに沿って基準電極部82cから後端側に向かって長手方向に延びる。第2スルーホール導体部95bは、絶縁体84e,第1固体電解質体81a、絶縁体84a,第2固体電解質体82aを積層方向に貫通する貫通孔H16,H26,H36,H46によって形成される。詳細には、第2スルーホール導体部95bは、貫通孔H16,H26,H36,H46の内表面に導体を形成することで作成される。第2スルーホール導体部95bは、一端が第2電極パッド126と接続され、他端が第2リード部91cと接続される。
【0066】
第3配線ユニットL3は、第3リード部90cと、第4リード部91bと、第5リード部93bと、第3スルーホール導体部95cと、を有する。第3リード部90cは、第1固体電解質体81aに沿って内側第1電極部81cから後端側に向かって長手方向に延びる。第4リード部91bは、第2固体電解質体82aに沿って検知電極部82bから後端側に向かって長手方向に延びる。第5リード部93bは、第3固体電解質体83aに沿って中央第2ポンプ電極部83bから後端側に向かって長手方向に延びる。第3スルーホール導体部95cは、絶縁体84e,第1固体電解質体81a,絶縁体84a,第2固体電解質体82a,絶縁体84bを積層方向に貫通する貫通孔H17,H27,H37,H47,H57によって形成される。詳細には、第3スルーホール導体部95cは、貫通孔H17,H27,H37,H47,H57の内表面に導体を形成することで作成される。第3スルーホール導体部95cは、一端が第3電極パッド127と接続され、その中間部分が第3リード部90cと第4リード部91bに接続され、他端が第5リード部93bに接続される。
【0067】
上記のように、内側第1電極部81c、検知電極部82b、中央第2ポンプ電極部83bは、共通の第3電極パッド127に電気的に接続されている。そして、第3電極パッド127は、制御部30のグランド電位に接続されている。
【0068】
第4配線ユニットL4は、第6リード部93cと、第4スルーホール導体部95dと、を有する。第6リード部93cは、第3固体電解質体83aに沿って周囲第2ポンプ電極部83cから後端側に向かって長手方向に延びる。第4スルーホール導体部95dは、第3固体電解質体83a,絶縁体84c,絶縁体84dを積層方向に貫通する貫通孔H66,H76,H86によって形成される。詳細には、第4スルーホール導体部95dは、貫通孔H66,H76,H86の内表面に導体を形成することで作成される。第4スルーホール導体部95dは、一端が第4電極パッド130と接続され、他端が第6リード部93cに接続される。
【0069】
第1ヒータ用配線ユニットL5は、第1ヒータ用リード部94aと、第1ヒータ用スルーホール導体部96aと、を有する。第1ヒータ用リード部94aは、発熱抵抗体105から後端側に向かって長手方向に沿って延びる。第1ヒータ用スルーホール導体部96aは、絶縁体84dを積層方向に貫通する貫通孔H88によって形成される。詳細には、第1ヒータ用スルーホール導体部96aは、貫通孔H88の内表面に導体を形成することで作成される。第1ヒータ用スルーホール導体部96aは、一端が第1ヒータ用リード部94aに接続され、他端が第1ヒータ用電極パッド128に接続される。
【0070】
第2ヒータ用配線ユニットL6は、第2ヒータ用リード部94bと、第2ヒータ用スルーホール導体部96bと、を有する。第2ヒータ用リード部94bは、発熱抵抗体105から後端側に向かって長手方向に沿って延びる。第2ヒータ用スルーホール導体部96bは、絶縁体84dを積層方向に貫通する貫通孔H89によって形成される。詳細には、第2ヒータ用スルーホール導体部96bは、貫通孔H89の内表面に導体を形成することで作成される。第2ヒータ用スルーホール導体部96bは、一端が第2ヒータ用リード部94bに接続され、他端が第2ヒータ用電極パッド129に接続される。ここで、第1ヒー
タ用リード部94aは電流が流入するプラス端子であり、第2ヒータ用リード部94bは電流が流出するマイナス端子である。
【0071】
[1−3.ガスセンサ素子の動作]
次に、ガスセンサ素子7の動作の一例について説明する。
まず、エンジンの始動によって制御部30が起動すると、制御部30は、ヒータ73に電力を供給する。ヒータ73は、第1ポンピングセル81、酸素濃度検出セル82、第2ポンピングセル83を活性化温度まで加熱する。そして、各セル81〜83が活性化温度まで加熱されると、制御部30は、第1ポンピングセル81に電流(第1ポンピング電流Ip1)を流す。これにより、第1ポンピングセル81は、第1固体電解質体81aを介して内側第1電極部81cと外側第1電極部81bとの間で酸素を移動させることで、第1測定室86に流入した測定対象ガス(排気ガス)における酸素の汲み入れおよび汲み出しを行う。
【0072】
制御部30は、酸素濃度検出セル82の電極間電圧(端子間電圧)が一定電圧V1(例えば425mV)になるように、第1ポンピングセル81に通電する第1ポンピング電流Ip1を制御する。酸素濃度検出セル82の電圧は、基準酸素室87の酸素濃度を基準として、検知電極部82bにおける酸素濃度に応じた値となる。この制御によって、第1測定室86の内部の酸素濃度は、NOxが分解しない程度に調整される。
【0073】
第1測定室86にて酸素濃度が調整された測定対象ガスは、第2測定室88に向かってさらに流れる。制御部30は、第2ポンピングセル83に電極間電圧(端子間電圧)を印加する。この電圧は、測定対象ガス中のNOxガスが酸素と窒素ガスに分解する程度の一定電圧に設定されている(酸素濃度検出セル82の制御電圧の値より高い電圧、例えば450mV)。これにより、測定対象ガス中のNOxが、窒素と酸素に分解される。
【0074】
NOxの分解により生じた酸素を第2測定室88から汲み出すように、第2ポンピングセル83に電流(第2ポンピング電流Ip2)が流れ、制御部30は、第2ポンピング電流Ip2を検出する。第2ポンピング電流Ip2とNOx濃度の間には比例関係があるので、第2ポンピング電流Ip2の電流値を検出することによって測定対象ガス中のNOx濃度を検出することができる。
【0075】
なお、ガスセンサ素子7は、接続端子15およびリード線35を介して、外部機器(制御部30)に接続される。制御部30は、ヒータ73に発熱用の電力を供給するとともに、素子部71の各セル(第1ポンピングセル81,酸素濃度検出セル82,第2ポンピングセル83)との間で信号を送受信することによって、ガスセンサ素子7を制御する。なお、第1実施形態では、制御部30は、オペアンプ等を用いて形成された電子回路として備えられる。制御部30は、CPUやメモリなどを有するコンピュータを用いて形成してもよい。
【0076】
[1−4.第2ポンプセルの構成]
第2ポンピングセル83は、上述したように、第3固体電解質体83aと、第3固体電解質体83aのうち第2測定室88に面した表面に配置された一対の電極(中央第2ポンプ電極部83b、周囲第2ポンプ電極部83c)とを備えている。
【0077】
図3および図4から判るように、中央第2ポンプ電極部83bおよび周囲第2ポンプ電極部83cは、いずれも第3固体電解質体83aの同一面に形成されている。また、中央第2ポンプ電極部83bは、中央側に配置される中央電極として備えられるとともに、周囲第2ポンプ電極部83cは、中央第2ポンプ電極部83bの周囲領域における少なくとも一部に配置される周囲電極として備えられる。
【0078】
ここで、図5に、中央第2ポンプ電極部83bおよび周囲第2ポンプ電極部83cの形状を表した拡大説明図を示す。
中央第2ポンプ電極部83bは、円形に形成されている。また、中央第2ポンプ電極部83bは、その輪郭の内側に導電性材料(白金を主成分とする導電性材料)が隙間無く配置されて形成されている。
【0079】
周囲第2ポンプ電極部83cは、環状形状の一部に切り欠きを有する形状(C字形状)であり、中央第2ポンプ電極部83bを取り囲むように配置されている。周囲第2ポンプ電極部83cは、中央第2ポンプ電極部83bの重心83dを挟むように配置された2つの仮想点83eと、2つの仮想点83eどうしをつなぐ連結領域83fと、を備える。
【0080】
つまり、周囲第2ポンプ電極部83cは、中央第2ポンプ電極部83bの周囲全周(360度)のうち、少なくとも180度以上の領域を取り囲むように配置されている。特に、本実施形態の周囲第2ポンプ電極部83cは、270度以上の領域を取り囲むように配置されている。
【0081】
また、図4に示すように、中央第2ポンプ電極部83bは、その少なくとも一部が第2測定室88の内面のうち貫通孔88aに対向する領域に含まれるように形成されている。貫通孔88aは、第2固体電解質体82aを板厚方向に貫通して形成されており、第1測定室86と第2測定室88とを繋ぐとともに、第1測定室86から第2測定室88に導入される測定対象ガスのガス流路を形成する。
【0082】
さらに、第2ポンピングセル83の中央第2ポンプ電極部83bは、図4に示すように、第3固体電解質体83aのうち第2測定室88に面する領域(第3固体電解質体83aのうち第2測定室88の内壁面を形成する領域)の輪郭から離間して配置されている。換言すれば、中央第2ポンプ電極部83bは、絶縁体84bから離間して配置されている。なお、絶縁体84bは、第2測定室88の内壁面のうち、第3固体電解質体83aにより形成される内壁面に隣接する内壁面を形成している。
【0083】
[1−5.効果]
以上説明したように、本実施形態のNOxセンサ1におけるガスセンサ素子7は、第2ポンピングセル83における一対の電極として、中央第2ポンプ電極部83bおよび周囲第2ポンプ電極部83cを備えている。
【0084】
中央第2ポンプ電極部83bおよび周囲第2ポンプ電極部83cは、いずれも第3固体電解質体83aの同一面に形成されている。中央第2ポンプ電極部83bは、中央電極として備えられるとともに、周囲第2ポンプ電極部83cは、中央第2ポンプ電極部83bの周囲領域の一部に配置される周囲電極として備えられる。
【0085】
第2ポンピングセル83における一対の電極が、中央第2ポンプ電極部83bおよび周囲第2ポンプ電極部83cで構成されることで、一対の電極がそれぞれ矩形形状に形成されて単に隣接して配置される構成と比べて、一対の電極どうしの距離に製造バラツキが生じがたくなる。つまり、中央第2ポンプ電極部83bの重心83dと周囲第2ポンプ電極部83cの2つの仮想点83eとの相対的な位置関係が特定されると共に、周囲第2ポンプ電極部83cが2つの仮想点83eどうしをつなぐ連結領域83fを有することにより、中央第2ポンプ電極部83bと周囲第2ポンプ電極部83cとの距離が一定範囲内となる。このため、中央第2ポンプ電極部83bと周囲第2ポンプ電極部83cとの距離に製造バラツキが生じがたくなる。
【0086】
とりわけ、第2ポンピングセル83に流れる第2ポンピング電流Ip2は微少電流であることから、中央第2ポンプ電極部83bと周囲第2ポンプ電極部83cとの距離の製造バラツキを抑えることで、第2ポンピング電流Ip2の検出誤差を低減できるため、第2ポンピングセル83におけるガス検出精度(NOx検出精度)の低下を抑制できる。
【0087】
また、中央第2ポンプ電極部83bの周囲領域における少なくとも一部に周囲第2ポンプ電極部83cが配置される構成であるため、ガスセンサ素子7の全体における部位毎に温度勾配が生じたとしても、中央第2ポンプ電極部83bと周囲第2ポンプ電極部83cとの温度差が生じがたくなる。このため、ガスセンサ素子7の全体における部位毎に温度勾配が生じたとしても、その温度勾配に起因する第2ポンピング電流Ip2の検出誤差を低減できるため、第2ポンピングセル83におけるガス検出精度(NOx検出精度)の低下を抑制できる。
【0088】
さらに、中央第2ポンプ電極部83bは、その輪郭の内側に導電性材料が隙間無く配置されて形成されているため、同じ大きさの輪郭において導電性材料の隙間を有する構成の電極に比べて、有効な電極面積(導電性材料の面積)を大きく確保できる。このように有効な電極面積を大きく確保することで、中央第2ポンプ電極部83bの配置領域における単位面積あたりの第2ポンピング電流Ip2を大きくすることができ、第2ポンピングセル83におけるガス検出精度(NOx検出精度)の低下を抑制できる。さらに、このような中央第2ポンプ電極部83bを備えることで有効な電極面積を大きく確保できるため、中央第2ポンプ電極部83bの大型化を抑制でき、ガスセンサ素子7の大型化も抑制できる。
【0089】
よって、ガスセンサ素子7によれば、一対の電極部(中央第2ポンプ電極部83bおよび周囲第2ポンプ電極部83c)がそれぞれ第3固体電解質体83aの同一面に配置される構成のセル(第2ポンピングセル83)を備える場合においても、特定ガス(NOx)の検出精度の低下を抑制できる。
【0090】
また、ガスセンサ素子7は、第1測定室86と第2測定室88との間に配置される第2固体電解質体82a(セラミック層部材)を備えており、第2固体電解質体82aは、第1測定室86と第2測定室88とを繋ぐ貫通孔88aであって、第1測定室86から第2測定室88に導入される測定対象ガスが通過する貫通孔88aを備えている。そして、中央第2ポンプ電極部83bは、その少なくとも一部が第2測定室88の内面のうち貫通孔88aに対向する領域に含まれるように形成されている。
【0091】
このような構成のガスセンサ素子7は、第2測定室88に導入される測定対象ガス(排気ガス)が中央第2ポンプ電極部83bに触れやすくなり、第2ポンピングセル83におけるガス検出精度(NOx検出精度)を向上できる。
【0092】
さらに、第2ポンピングセル83の中央第2ポンプ電極部83bは、第3固体電解質体83aのうち第2測定室88に面する領域(第3固体電解質体83aのうち第2測定室88の内壁面を形成する領域)の輪郭から離間して配置されている。つまり、中央第2ポンプ電極部83bは、絶縁体84bから離間して配置されている。
【0093】
このような構成のガスセンサ素子7は、第3固体電解質体83aのうち第2測定室88に面する領域の輪郭に中央第2ポンプ電極部が接する構成に比べて、ガスセンサ素子の製造時に、中央第2ポンプ電極部83bの電極位置に製造誤差が生じても、中央第2ポンプ電極部83bの一部(特に、端部)が第2測定室88に露出しない状態となるのを抑制できる。換言すれば、中央第2ポンプ電極部83bの一部(特に、端部)が絶縁体84bと第3固体電解質体83aとの間に挟まれるのを抑制できる。
【0094】
つまり、ガスセンサ素子7は、中央第2ポンプ電極部83bの電極位置に製造誤差が生じても、第2測定室88に露出する中央第2ポンプ電極部83bの面積に誤差が生じるのを抑制できるとともに、第2ポンピング電流Ip2に誤差が生じるのを抑制できる。
【0095】
よって、ガスセンサ素子7によれば、第2ポンピング電流Ip2に誤差が生じるのを抑制できるため、第2ポンピングセル83におけるガス検出精度(NOx検出精度)の低下を抑制できる。
【0096】
本実施形態のNOxセンサ1は、このようなガスセンサ素子7を備えているため、一対の電極部(中央第2ポンプ電極部83bおよび周囲第2ポンプ電極部83c)がそれぞれ第3固体電解質体83aの同一面に配置される構成のセル(第2ポンピングセル83)を備える場合においても、特定ガス(NOx)の検出精度の低下を抑制できる。
【0097】
[1−6.特許請求の範囲との対応関係]
ここで、特許請求の範囲と本実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。
NOxセンサ1がガスセンサの一例に相当し、ガスセンサ素子7がガスセンサ素子の一例に相当し、第1測定室86が第1測定室の一例に相当し、第2測定室88が第2測定室の一例に相当する。
【0098】
第1ポンピングセル81が第1ポンプセルの一例に相当し、外側第1電極部81bおよび内側第1電極部81cが一対の第1電極の一例に相当する。
第2ポンピングセル83が第2ポンプセルの一例に相当し、中央第2ポンプ電極部83bおよび周囲第2ポンプ電極部83cが一対の第2電極の一例に相当する。中央第2ポンプ電極部83bが中央電極の一例に相当し、周囲第2ポンプ電極部83cが周囲電極の一例に相当し、周囲第2ポンプ電極部83cの仮想点83eが仮想点の一例に相当し、周囲第2ポンプ電極部83cの連結領域83fが連結領域の一例に相当する。
【0099】
第2固体電解質体82aがセラミック層部材の一例に相当し、貫通孔88aが貫通孔の一例に相当する。
[2.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0100】
例えば、上記実施形態では、中央第2ポンプ電極部83bの少なくとも一部が第2測定室88の内面のうち貫通孔88aに対向する領域に含まれる構成のガスセンサ素子7について説明したが、本発明のガスセンサ素子はこのような構成に限られることはない。また、上記実施形態では、酸素濃度検出セル82の基準電極部82cが基準酸素室87のうち周囲第2ポンプ電極部83cに対向する領域の全体に配置される構成のガスセンサ素子7について説明したが、本発明のガスセンサ素子はこのような構成に限られることはない。
【0101】
具体的には、図6に示す第2実施形態の第2ガスセンサ素子107のように、中央第2ポンプ電極部83bが貫通孔(変形貫通孔188a)に対向する領域に含まれないように配置される構成であってもよい。なお、変形貫通孔188aは、変形第2固体電解質体182aを板厚方向に貫通して形成されており、第2測定室88の後端側に繋がる位置に形成されている。このような構成であっても、測定対象ガスを第2測定室88に導入でき、中央第2ポンプ電極部83bおよび周囲第2ポンプ電極部83cを備える第2ポンピングセル83によって、特定ガス(NOx)を検出できる。
【0102】
また、第2ガスセンサ素子107のように、酸素濃度検出セルの基準電極部(変形基準電極部182c)が基準酸素室87のうち周囲第2ポンプ電極部83cに対向する領域の一部に配置される構成であってもよい。なお、変形検知電極部182bおよび変形基準電極部182cは、上述の検知電極部82bおよび基準電極部82cのような円形状ではなく、半円形状に形成されている。また、変形検知電極部182bおよび変形基準電極部182cは、第3固体電解質体83aのうち、第2ガスセンサ素子107の長手方向における中央第2ポンプ電極部83bの重心83dよりも先端側の領域に配置されている。このような構成であっても、基準酸素室87の酸素濃度を所定濃度に維持するための酸素濃度検知セルを実現できる。
【0103】
なお、第2ガスセンサ素子107は、ガスセンサ素子7のうち、第2固体電解質体82aに代えて変形第2固体電解質体182aを備え、検知電極部82bに代えて変形検知電極部182bを備え、基準電極部82cに代えて変形基準電極部182cを備えることで構成されている。第2ガスセンサ素子107は、変形素子部171とヒータ73とが積層されて構成されている。
【0104】
次に、第2ポンプセルにおける一対の第2電極は、中央第2ポンプ電極部83bおよび周囲第2ポンプ電極部83cのような構成に限られることはない。
例えば、図7(a)に示す第1変形形態のように、第2ポンプセルにおける一対の第2電極は、円形ではなく矩形の変形中央電極部183bと、変形中央電極部183bの周囲に配置される変形周囲電極部183cと、で構成してもよい。矩形の変形中央電極部183bを用いることで、円形の場合よりも中央電極の面積を大きく確保できる場合には、このような構成を採ることで、有効な電極面積(導電性材料の面積)を大きく確保でき、単位面積あたりの第2ポンピング電流Ip2を大きくできるため、特定ガス(NOx)の検出精度の低下を抑制できる。
【0105】
また、図7(b)に示す第2変形形態のように、第2ポンプセルにおける一対の第2電極は、第1実施形態の中央第2ポンプ電極部83bとはリード部との接続位置が異なる第2変形中央電極部283bと、第1実施形態の周囲第2ポンプ電極部83cとはリード部との接続位置が異なる第2変形周囲電極部283cと、で構成してもよい。第2変形周囲電極部283cは、環状形状の一部に切り欠きを有する形状(C字形状)であり、その端部がリード部(第6リード部93c)に接続されている。つまり、中央電極および周囲電極のそれぞれにおけるリード部との接続位置は、特定の位置に限られることはなく、任意の位置に設定することができる。
【0106】
さらに、図7(c)に示す第3変形形態のように、第2ポンプセルにおける一対の第2電極は、矩形の第3変形中央電極部383bと、第3変形中央電極部383bの周囲のうち3辺に対応する領域に配置される第3変形周囲電極部383cと、で構成してもよい。つまり、周囲電極は、第3変形中央電極部383bの4辺全てに対応する領域に配置される構成に限られることはなく、中央電極(第3変形中央電極部383b)の重心83dを挟むように配置された2つの仮想点83eと、2つの仮想点83eどうしをつなぐ連結領域83fと、を備える構成であれば、任意の構成を採ることができる。
【0107】
さらに図示はしないが、第2ポンプセルにおける一対の第2電極は、中央電極と、中央電極の周囲を切れ目無く完全に取り囲むように形成された周囲電極と、で構成してもよい。この場合、中央電極のリード部(信号経路)は、固体電解質体を厚さ方向に貫通するスルーホールを介して固体電解質体の裏面に繋がるように形成してもよい。
【0108】
また、第1実施形態のガスセンサ素子7においては、基準酸素室87は、その内部のうち第3固体電解質体83aに面する領域に多孔質部87aが配置され、その他の領域が空
洞として形成される構成であるが、基準酸素室の内部全体に多孔質部が配置される構成であっても良い。
【0109】
さらに、第1実施形態のガスセンサ素子7は、周囲電極(周囲第2ポンプ電極部83c)の全体が基準酸素室87の内部に露出する構成であるが、周囲電極の一部が基準酸素室の内部に露出する構成であってもよい。例えば、基準酸素室を第2ガスセンサ素子107の変形基準電極部182cに対応する領域(中央第2ポンプ電極部83bの重心83dよりも先端側の領域)に形成して、周囲電極(周囲第2ポンプ電極部83c)のうち一部がその基準酸素室の内部に露出し、その他の部分が絶縁体84bと第3固体電解質体83aとの間に挟まれる構成であっても良い。
【符号の説明】
【0110】
1…NOxセンサ、7…ガスセンサ素子、30…制御部、71…素子部、73…ヒータ、81…第1ポンピングセル、81a…第1固体電解質体、81b…外側第1電極部、81c…内側第1電極部、81d…多孔質部、82…酸素濃度検出セル、82a…第2固体電解質体、82b…検知電極部、82c…基準電極部、83…第2ポンピングセル、83a…第3固体電解質体、83b…中央第2ポンプ電極部、83c…周囲第2ポンプ電極部、83d…重心、83e…仮想点、83f…連結領域、86…第1測定室、87…基準酸素室、87a…多孔質部、88…第2測定室、88a…貫通孔、107…第2ガスセンサ素子、171…変形素子部、182a…変形第2固体電解質体、182b…変形検知電極部、182c…変形基準電極部、183b…変形中央電極部、183c…変形周囲電極部、188a…変形貫通孔、283b…第2変形中央電極部、283c…第2変形周囲電極部、383b…第3変形中央電極部、383c…第3変形周囲電極部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7