(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリエステルに、メタクリル酸を含むエチレン性不飽和有機酸をグラフト重合することで改質され、分散染料で染色され、メタノール/クロロホルム比重液により測定した比重が1.38〜1.43である改質繊維を含み、L*値が50以下であり、乾燥条件下及び湿潤条件下の摩擦堅牢度が4級以上であり、製品の吸湿率が0.5%以上であることを特徴とする繊維製品。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず本発明に係る改質繊維について具体的に説明する。本発明で用いる改質繊維は、エチレン性不飽和有機酸をグラフト重合することで改質されていることを特徴とし、より好ましくはポリエステル繊維にエチレン性不飽和有機酸をグラフト重合することで改質されている繊維である。繊維の吸湿率を高めるためにポリエステル繊維にカルボキシル基を導入するには、アクリル酸やメタクリル酸等のエチレン性不飽和有機酸を、酸性液中でグラフト重合して酸型のカルボキシル基を導入する必要がある。その後、機能性(吸湿性)を高めるためにカルボキシル基を塩型に変換するが、従来は、繊維を高いpH液に浸して塩型に変換していた。しかしながら、得られた改質繊維にアルカリ還元洗浄(ポリエステル繊維を分散染料で中色以上に染色する際に一般的に行われる洗浄)を行うと、強いアルカリ液の影響で繊維が大きく膨潤してしまい、染色堅牢度が損なわれることが判った。そこで本発明者らは鋭意検討した結果、ポリエステル繊維に酸型カルボキシル基を導入した後の工程で、染色時の還元洗浄を酸性〜弱アルカリ性域で実施することにより、染色加工中のポリエステル繊維の膨潤の程度をコントロールでき、高い染色堅牢度を有する改質ポリエステル繊維及びその繊維製品が得られることを見出した。
【0012】
<使用するポリエステル>
本発明で繊維として使用するポリエステルとは、繊維形成性のポリエステルであれば特に限定されない。ポリエステルの主たるカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、主たるグリコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、またはテトラメチレングリコール等が挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、あるいはポリエチレン2,6−ナフタレート等の線状ポリエステルを主成分としたものが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートが望ましい。
【0013】
また、当該ポリエステルは、用途によっては難燃性、易染性、制電性等の機能性を有する化合物等が共重合されていても、ダル剤、無機粒子等の添加剤が含まれていてもよい。
【0014】
<グラフト重合>
本発明における繊維を改質させる方法としては、例えば、ビニル基等の不飽和基を有するエチレン性不飽和有機酸(モノマー)をポリエステルに吸尽させて、少なくともポリエステル繊維内部でモノマー同士を重合させる方法;ポリエステル分子鎖にモノマーをグラフト重合させて繊維の特性を改質させる方法;等が挙げられる。本発明ではこのようなポリエステル繊維内部でエチレン性不飽和有機酸を重合させて改質することを、以後、「グラフト重合」と称する。
【0015】
ポリエステルにグラフト重合する際に用いられるエチレン性不飽和有機酸、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸等のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和有機酸;スチレンスルホン酸;等が例示され、中でもカルボキシル基を有するエチレン性不飽和有機酸が好ましい。これらは各々、単独または2種以上の混合物としてグラフト重合に用いることができる。エチレン性不飽和有機酸としては、特にアクリル酸及び/又はメタクリル酸が好ましい。また、エチレン性不飽和有機酸以外のエチレン性不飽和単量体を共存させることも可能である。これらのエチレン性不飽和単量体の例としては、不飽和有機酸エステル類、これらのフッ素や臭素の置換体、リンや硫黄含有化合物など各種の機能性を付与できる化合物が挙げられる。
【0016】
<不飽和基を有するモノマーの吸尽率(グラフト重合率)>
グラフト重合率(GT質量%)、すなわちポリエステル繊維に対する、エチレン性不飽和有機酸の繊維吸尽及び繊維内重合による繊維質量増加率は、好ましくは5〜60質量%であり、より好ましくは10〜50質量%、更に好ましくは15〜45質量%であり、特に好ましくは20〜40質量%である。5質量%よりもグラフト重合率が低いと吸湿性や消臭性等の機能性が十分発揮できなくなる虞がある。またグラフト重合率が60質量%より高いと、染色堅牢度が低下しやすくなる傾向にある。尚、従来は、グラフト重合率が10質量%を超えると、摩擦堅牢度や洗濯堅牢度等の湿潤染色堅牢度が低下し易くなり実用的な使い方はできなかった。しかし、本発明の方法によれば、グラフト重合率を高めても染色堅牢度の低下を抑制することが可能となる。
尚、グラフト重合率(GT質量%)は反応前の絶乾質量(W0)からグラフト重合し洗浄した後の絶乾質量(W1)への質量増加率から計算できる。
グラフト重合率(GT質量%)=(W1−W0)×100/W0
【0017】
尚、グラフト重合方法は特に限定されるものではないが、ラジカル重合開始剤(より好ましくは疎水性)、N−アルキルフタルイミド系化合物、界面活性剤及びエチレン性不飽和有機酸を含む水性乳化液中にポリエステル繊維を浸漬し、加熱処理する方法が望ましい。これらの方法を用いることにより、効率よく均一にグラフト重合することができ、繊維の物理特性の低下が少なくなる。
【0018】
<グラフト重合以後の工程における繊維膨潤のコントロール>
本発明のエチレン性不飽和有機酸がグラフト重合した繊維は、重合直後は酸型のカルボキシル基を有するが、これをpHの高い浴中で処理すると、酸型のカルボキシル基が塩型に変化していく。水溶液中における塩型カルボキシル基の割合が増加すると、塩型カルボキシル基の極性の高さにより、塩型カルボキシル基同士の反発と繊維内への水の浸入により、繊維が膨潤する。この膨潤が大きくなりすぎると、染色したときに染色堅牢度を低下させるため、本発明ではこの膨潤をコントロールすることにより染色堅牢度の低下を抑制する。すなわち本発明では、染色工程全般において、強いアルカリ液中での処理を極力回避することが肝要である。
【0019】
ポリエステル繊維は一般に分散染料で染色されるが、中色以上に染める場合には通常アルカリ還元洗浄を行う。エチレン性不飽和有機酸がグラフト重合したポリエステル繊維にアルカリ還元洗浄を行うと本工程で強く繊維が膨潤してしまうため好ましくない。そのため本発明では酸性〜弱アルカリ性浴で還元洗浄を行うことが重要である。これにより高い染色堅牢度を維持することが可能になる。還元洗浄液のpHは、好ましくは2〜10であり、より好ましくは3〜8であり、更に好ましくは3.5〜7の酸性から中性域である。
【0020】
<還元洗浄剤>
還元洗浄に用いる還元剤は特に限定されないが、酸性で且つ還元力がある二酸化チオ尿素、ナトリウムスルホキシレートホルムアルデヒド、亜鉛スルホキシレートホルムアルデヒド、亜硫酸水素ナトリウム、塩化第1スズ、スルフィン系還元剤、錫系還元剤などの還元剤を用いることができる。具体的な商品名としてロンガリットC、ロンガリットZ、サンモール(登録商標)MC−2000(日華化学製)、MRCパウダー(明成化学工業製)、スーパーライト(登録商標)C(三菱ガス化学製)等を用いることができる。還元剤の使用量は、還元洗浄剤中0.1〜20g/Lの濃度で用いればよく、処理温度は60〜120℃(より好ましくは70〜110℃)で10〜30分(より好ましくは10〜20分)ほど処理をすればよい。
【0021】
また精練においても酸性〜弱アルカリ性浴で処理するのが好ましく、処理液のpHは好ましくは3〜10であり、より好ましくは5〜9である。なお前記還元洗浄剤や精練処理液のpHの調整には、適宜、酢酸等の有機酸を用いることも可能である。
【0022】
尚、改質繊維はアルカリ還元洗浄すると繊維内部の分散染料が溶出し易く、還元洗浄前後の変退色が大きくなるが、本発明の酸性還元洗浄であれば、変退色(色変化ΔE
*)を2未満(より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.1以下)に抑えることができ、色合わせの精度が向上するので、色斑や色振れのトラブルを低減することができる。
【0023】
<繊維製品の抽出pH>
本発明の改質繊維の吸湿性や消臭性等の機能性を安定的に発揮させるために、染色加工後の繊維自身のpHのコントロールも重要である。本発明の改質繊維を使用した繊維製品の仕上での抽出pHは、下限としては4以上、好ましくは4.5以上であり、より好ましくは6以上に調整することが望ましい。また、抽出pHの上限は10以下に調整するとよく、好ましくは8.9以下、より好ましくは7.9以下である。抽出pHが4未満の場合には吸湿性や消臭性が低下しやすくなり、また抽出pHが10を超えると染色堅牢度が低下しやすくなる。繊維の抽出pHを前記範囲に調整するには、例えば水溶液がアルカリ性になる塩基性アルカリ金属化合物等を使って、処理浴をpH12未満の酸性〜弱アルカリ性浴に調整して繊維製品を浸漬して処理する。具体的には染色後の洗浄最終液及び/又は仕上液のpHを、好ましくは5〜10、より好ましくは5.5〜9に調整するのがよい。これは製品の抽出pHを上記範囲(弱酸〜弱アルカリ)にコントロールするためである。尚、この処理浴からCaイオンやMgイオンを除去するために金属イオン封鎖剤を添加したり、逆に二価や三価の金属イオンを添加しても構わない。
【0024】
<改質繊維の比重>
本発明のエチレン性不飽和有機酸がグラフト重合して改質された繊維はグラフト重合した直後では比重が低下するが、その後の工程でアルカリ金属塩化することにより、比重が大きくなる傾向がある。例えばメタノール/クロロホルム比重液を用いてJIS L1015浮沈法にて測定した通常のポリエステル繊維の比重は1.40〜1.43である。ポリエステル繊維にエチレン性不飽和有機酸をグラフト重合すると、モノマーの種類やグラフト率により上下するが1.36〜1.40と低くなる。その後の染色加工工程での処理により、ポリエステルに導入したカルボキシル基においてアルカリ金属塩型が増加するに従い最大1.45まで比重が増大する。本発明では、グラフト加工により低下した繊維比重を、カルボキシル基のアルカリ金属塩化による比重を上げすぎることなく、1.38〜1.43の範囲、より好ましくは1.39〜1.42、更に好ましくは1.40〜1.41の範囲に調整する。従来の染色工程では、精練や分散染色後の還元洗浄において強アルカリを使用するため、一般的な加工条件ではグラフト重合した繊維のアルカリ金属塩化が進んでしまい、改質繊維の比重が増加しすぎてしまう。本発明では染色加工工程でのpH環境を厳密に監視・コントロールすることで、最終製品まで改質繊維の比重を一定範囲内にコントロールし、これにより得られる繊維製品は高い湿潤堅牢度を維持することができる。
尚、一般的にポリエステル繊維の比重はn−ヘプタン/パークロロエチレンの比重液系で測定する場合が多いが、本発明の改質したポリエステル繊維は極性が高まっており、通常の雰囲気下では水分を含んで膨潤しているので、その状態を評価するために軽液に極性溶媒を用いる比重液系を選択する。
【0025】
<グラフト重合の方法>
グラフト重合の処理浴におけるエチレン性不飽和有機酸の濃度はポリエステル繊維質量に対して1〜100%owf(on the weight of fiber)が好ましく、より好ましくは5〜60%owfであり、更に好ましくは10〜50%owfである。これらのモノマー濃度で加工すると、通常0.5〜100質量%のグラフト重合率を得ることが可能となる。この範囲ではモノマー濃度は高いほどグラフト重合率が向上して、それに応じて機能性が高まる傾向がある。
【0026】
<重合助剤>
ラジカル重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル(BPO)、トルイルパーオキサイド、芳香族アルキルパーオキサイド系化合物、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、キュメンハイドロパーオキサイド、過安息香酸、過安息香酸エステル等が挙げられる。なお、ラジカル重合開始剤の使用量は、繊維質量に対して、0.1〜10%owf程度であることが好ましい。またラジカル重合開始剤は疎水性であることが望ましい。
【0027】
本発明では、エチレン性不飽和有機酸の吸尽を促進したり、開始剤の水への分散性を改善するためにキャリヤー能を有する化合物を使用するのが好ましい。このキャリヤーとしては、オルトフェニルフェノール(OPP)系、クロルベンゼン系、フタルイミド系等を用いることができる。使いやすさや加工トラブルが起こりにくいことからフタルイミド系化合物が好ましく用いられる。フタルイミド系化合物とはフタルイミド基を有する化合物であり、フタルイミドのN基に脂肪族もしくは芳香族のアルキル基を有するN置換フタルイミド化合物が好ましく、加工処理後の製品への残存量、臭気、安全性、取り扱い性を考えると、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル等の低分子量脂肪族アルキル基を有するN−アルキルフタルイミド系化合物がより望ましい。また、これらの化合物は単独で用いても、数種類混合して用いてもよい。フタルイミド系化合物の使用量は、グラフト重合浴中、0.01質量%以上4質量%以下が望ましい。安全性、処理液コスト、反応性の点から、より好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下である。これより少ないと、重合効率が低下しやすい。また4質量%以上に使用量を増やしても、重合率は高くならずに臭気が残りやすくなる。
【0028】
<界面活性剤>
本発明で重合浴の安定化のために使用できる界面活性剤としては、非イオン型界面活性剤、アニオン型界面活性剤、カチオン型界面活性剤、両性界面活性剤、非イオンアニオン型界面活性剤、非イオンカチオン型界面活性剤などが用いられ、これらは単独又は場合によっては2種以上の併用で用いられるが、乳化系の安定性及びグラフト重合の効率の面からは、非イオン系界面活性剤、非イオンアニオン型界面活性剤又は非イオン型界面活性剤とアニオン型活性剤の混合物が好ましい。
【0029】
<グラフト重合条件>
グラフト重合浴中にポリエステル繊維を浸漬して加熱処理するが、処理条件は通常50℃〜150℃で5分〜3時間であり、好ましくは70℃〜130℃で30分〜2時間である。雰囲気としては窒素ガス雰囲気が好ましい。
【0030】
すなわち、これらの方法によりグラフト重合されたポリエステル繊維は、共重合したエチレン性不飽和有機酸の酸末端基の一部をアルカリ金属塩化する事により吸湿性能が高まる。また、エチレン性不飽和有機酸の酸末端基の一部はアルカリ金属塩化せずに残すとよい。残った酸末端基により、アンモニア消臭性能を得ることができる。
【0031】
このアルカリ金属塩化に用いる金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、塩基性アルカリ金属化合物としては、具体的には炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸−2−ナトリウム、リン酸−3−ナトリウムなど無機弱酸のアルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムなど有機弱酸のアルカリ金属塩、亜硫酸ナトリウム、珪酸ナトリウム等の水に溶けてアルカリ性を示す化合物である。これらは単独または2種以上の混合物として用いられる。本発明では、該アルカリ金属化合物は液pHが12未満の濃度で使用するのが好ましい。高pHのアルカリ液を用いると、改質繊維が大きく膨潤してしまうからである。例えばトリポリリン酸ナトリウム等のポリリン酸塩はpH調整が容易で好ましく使える。尚、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの強アルカリになるアルカリ金属水酸化物は弱アルカリ域での液pHの調整が難しいため、他の弱アルカリ塩を使用するのが好ましい。なお、グラフト重合したポリエステル繊維のアルカリ金属塩化処理の温度、一般には常温から100℃の範囲の温度で行うのが好ましい。
【0032】
本発明において、上記のアルカリ金属化合物と共に用いられてもよい金属イオン封鎖剤としては公知の物質が使用できる。一般に金属イオン封鎖剤としては、ピロリン酸ナトリウム、トリリン酸ナトリウム、トリメタリン酸ナトリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム等の縮合リン酸塩類、エチレンジアミンテトラ酢酸の2ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ酢酸の4ナトリウム塩、エチレンジアミンテトラ酢酸の2アンモニウム塩、エチレンジアミンテトラ酢酸の4アンモニア塩等のエチレンジアミンテトラ酢酸塩、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン−N、N’N’−トリ酢酸類、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸、シクロヘキサンジアミンテトラ酢酸、ニトリロトリ酢酸類等が挙げられる。これらの金属イオン封鎖剤の使用量は用水中に溶存する多価金属イオンの量にもよるが、一般には0.01g/L〜5g/Lの濃度で使用すれば十分である。
【0033】
この方法により、20℃×65%RH環境下での吸湿率が4%以上であり、なおかつアンモニア等の塩基性臭気や酢酸等の酸性臭気に消臭性能を有した高吸湿で消臭性のある高機能ポリエステル繊維を得ることができる。この場合のアンモニア消臭性能とは、5Lのポリ容器に100ppmの濃度になるようにアンモニア水を滴下し、そのポリ容器に10cm×10cmのサンプルを入れ、密閉し120分後のポリ容器中のアンモニア濃度が30ppm以下になるような、性能のことを言う。アンモニア濃度は(株)ガステック社製のガス検知管を使用して測定する。120分後に30ppmより高いアンモニア濃度であれば、実使用において臭気の吸収は不十分であり、十分なアンモニア消臭性能とはいえない。
【0034】
<繊維製品の形態と混率>
本発明の改質ポリエステル繊維を用いた繊維製品は、その形態として、ワタ、トウ、糸、織物、編物、不織布などいずれでもよい。また、それらを用いて縫製された衣料品、寝装品、インテリア用品、その他小物等、染色された製品が含まれる。
繊維製品への改質繊維の混率は、繊維質量全体に対して5質量%以上含めるとよく、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは20〜100質量%である。混率が5質量%を下回ると、改質繊維の機能性の効果が繊維製品に現れ難い。繊維製品には前記改質繊維以外の成分として、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維等のポリエステル繊維;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維;レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル等の再生繊維;アセテート繊維、トリアセテート繊維等の半合成繊維;綿等の天然繊維;が含まれていてもよい。これらの繊維は改質されていても改質されていなくても、いずれであってもよい。
【0035】
<繊維製品の染色堅牢度>
本発明の改質繊維を含んだ繊維製品は染色堅牢度、特に洗濯や摩擦等の湿潤堅牢度に優れることが特徴である。L
*値が50以下の中色においても、洗濯堅牢度の汚染性が4級以上(より好ましくは4.5級以上)、洗濯5回後の変退色が4級以上(より好ましくは4.5級以上)、摩擦堅牢度が4級以上(乾燥条件下及び湿潤条件下のいずれにおいてもより好ましくは4.5級以上)の性能を有する。更にL
*値が30以下の濃色においても洗濯堅牢度の汚染性が3.5級以上(より好ましくは4級以上)、洗濯5回後の変退色が3.5級以上(より好ましくは4級以上)、摩擦堅牢度が3.5級以上(乾燥条件下及び湿潤条件下のいずれにおいても、より好ましくは4級以上、更に好ましくは4.5級以上)の性能がある。
【0036】
<繊維製品の機能性>
本発明の繊維製品は20℃×65%RH環境下での吸湿率として、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1%以上、更に好ましくは1.5%以上、より更に好ましくは2%以上、特に好ましくは2.5%以上になるように改質繊維の混率などを調整することが好ましい。繊維製品の吸湿率の上限は特に限定されないが、例えば、10%以下であっても差し支えない。
【0037】
本発明の繊維製品は弱酸性から弱アルカリ性に調整されているため、洗濯による生地pHの変化が少なく、性能低下が非常に少なくて済む。
【0038】
本発明の方法により作られた改質繊維は、高吸湿性と消臭性を兼ね備えており、従来ポリエステル繊維を用いた場合に問題となっていたべとつき、蒸し暑いという点を改善することができた上に、高い汗消臭性や適度なpHバランス性を有するので発汗による汗臭や皮膚表面のpH変化の不快感を軽減することができる。また、本発明の繊維製品は特にアンモニア臭に優れているため、衣料品だけでなく生活資材・インテリア、ペット用品等に非常にすぐれた性能を発揮する。本発明の上記機能は洗濯耐久性も抜群であり、高い吸湿、消臭機能を製品寿命まで継続して享受することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
<グラフト重合率>
グラフト重合前の繊維の絶乾質量(W0)に対する、グラフト重合して洗浄した後の繊維の絶乾質量(W1)の質量増加率から計算した。
グラフト重合率(GT質量%)=(W1−W0)×100/W0
尚、絶乾質量は、120℃熱風乾燥機で4時間乾燥させた後、シリカゲル入りデシケーターで室温まで徐冷して測定される乾燥質量である。
【0041】
<吸湿率>
吸湿率は繊維製品の絶乾質量(S0)を求めた後、標準状態(20℃×相対湿度65%)の環境で48時間放置した後の繊維製品の質量(S1)を求めて、質量増加量から計算した。
吸湿率(質量%)=(S1−S0)×100/S0
【0042】
<改質繊維の比重>
JIS L1015 8.14.1比重(浮沈法)にて測定した。
但し、比重液としては、軽液にJIS K8891メタノール(試薬)、重液にJIS K8322クロロホルム(試薬)を用い、試験はメタノールにあらかじめ試料を浸漬した後、クロロホルムを加えて実施した。また、試験前の試料の調整では、絶乾させずに、標準状態(20℃、65%RH)の平衡水分率の状態で試験に供した。
【0043】
<グラフト繊維の混率>
ポリエステル以外の繊維と混用している場合は、JISL1030により繊維鑑別及び繊維混用率を求める。また、通常のポリエステル繊維と改質繊維を混用している場合は、色や繊維外観(太さ、断面、光沢等)で分別できる場合は、拡大鏡を使って繊維分別する。色や外観で分別できない場合は、繊維製品をカチオン染料を用いて、常温染色により改質繊維を染色した後、拡大鏡を使って繊維分別を行う。その後、分別した改質繊維を、染料が溶出しなくなるまで80℃酢酸水溶液で湯洗い・水洗いを繰り返した後、標準状態で平衡水分率になるまで放置し、質量測定を行って混率を求めた。
【0044】
<繊維製品のL
*値、ΔE
*>
測定生地を4枚重ねた上で下記条件にて測定して、CIE Lab(L
*a
*b
*表示系)及びΔE
*を算出した。測定結果は、同じ場所を3回測定した平均値とした。
尚、L
*値は仕上がった繊維製品を測定したものである。
また、還元洗浄による色変化としてのΔE
*は、染色後還元洗浄前に取り出して乾燥させた繊維製品と、還元洗浄後に取り出して乾燥させた繊維製品の両方を測定して、その色差を評価したものである。
測色機:コニカミノルタ社製CM−3700d、測定径:8mmφ、光源:D65、視野:2°
【0045】
<摩擦堅牢度>
JIS L0849 摩擦試験機II形(学振形)により測定した。添付白布、乾燥/湿潤の条件はL0849の規定に準じて行い、汚染性を級判定した。
【0046】
<洗濯堅牢度 汚染性>
JIS L0844 A−1法を用いて汚染性を評価した。添付白布は綿とナイロンを使用した。
【0047】
<洗濯堅牢度 変退色>
織物の洗濯は、JIS L0217 103法に規定される条件に準拠して実施した。洗剤にはマルセル石鹸を用い、乾燥は吊り干しした。尚、「洗濯5回後」とは、洗濯−脱水−乾燥を5回繰り返した後の測定結果である。変退色の評価方法はJIS L0804に規定の変退色用グレースケールを用いて級判定した。
【0048】
参考例1 グラフト重合繊維の作製
ポリエステル短繊維(1.7dtex、38mmカット)を、オーバーマイヤー染色機を用いて精練・水洗した後、下記処方1によりグラフト重合処理を行って改質繊維1を作製した。その後湯洗いし、更にオイリングして取り出した。この改質繊維1のグラフト重合率は16.5質量%であった。メタノール/クロロホルム比重液で測定した繊維の比重を測定すると、改質前は1.42、改質後は1.39であった。この繊維をソーダ灰水溶液80%owfで60℃、10分間処理して繊維の抽出pHを10.5に調整したときの吸湿率は4.9%であった。
また、同様にして処方2にてグラフト重合処理を行って改質繊維2を作製した。この改質繊維2のグラフト重合率は38質量%であった。メタノール/クロロホルム比重液で測定した改質繊維2の比重は1.38であった。この繊維をソーダ灰水溶液80%owfで60℃、10分間処理して繊維の抽出pHを10.5に調整したときの吸湿率は10.2%であった。
処方1:99%メタクリル酸20%owf、過酸化ベンゾイル(BPO)0.8%owf、ソーダ灰1.1%owf、N−ブチルフタルイミド2g/L、ノニオン系分散剤1%owf、ニトリロ三酢酸・二ナトリウム0.45%owf
浴比1:8、処理温度105℃、処理時間90分
処方2:99%メタクリル酸40%owf、過酸化ベンゾイル(BPO)1.2%owf、ソーダ灰2.2%owf、N−ブチルフタルイミド2g/L、ノニオン系分散剤1%owf、ニトリロ三酢酸・二ナトリウム0.45%owf
浴比1:8、処理温度105℃、処理時間90分
【0049】
参考例2 グラフト重合繊維を使った紡績糸の作製
上記で得た改質繊維1をオープナーで開繊後、改質繊維を35%、改質しないポリエステル短繊維(1.7dtex、38mmカット)を65%の混率(質量比)で混ぜて混打綿、カーディングしてカードスライバーとした。その後、練条を二回行って250ゲレン/6ydの練条上りスライバーとした。その際に、OHARA製混綿機、石川製作所製カード機および原織機製練条機を用いた。更に、得られたスライバーを豊田自動織機製粗紡機に通して60ゲレン/15ydの粗糸を作成した。そして、豊田自動織機製リング精紡機を用いてドラフト35倍、トラベラ回転数9000rpmで紡出して、改質繊維1を35質量%含む英式番手45番手の紡績糸1を得た。
また同様にして、改質繊維1の代わりに改質繊維2を用いて、改質繊維2を35質量%含む、45番手の紡績糸2を作製した。
更に、改質繊維1のみで作製した、改質繊維100質量%の45番手の紡績糸3を作製した。
尚、改質繊維を用いず、改質しないポリエステル繊維のみで作製した45番手の紡績糸は紡績糸4とした。
【0050】
実施例1
紡績糸1を経緯に用い、経密度125本/2.54cm、緯密度75本/2.54cmで紡績糸1からなるブロード(平織)を作製した。このとき、糊付に用いる糊剤は、加工での糊落ち性が良いようにポバールを主体とした糊剤とした。この織物に下記処方3にて糊抜き・精練して湯洗いした後、190℃でプレセットを行った。
次に下記処方4にて、得られた織物を分散染料で染色し、引き続き処方5にて酸性還元洗浄を行った。十分に湯洗及び水洗を繰り返した後に、織物を浸漬した状態でトリポリリン酸ナトリウムを用いて浴pHを8.5に調整して染色機から取り出した。最後にファイナルセットを行い、柔軟剤を付与して仕上げた。
処方3:トリポリリン酸ナトリウム2g/L、ソーダ灰0.5g/L、ノニオン系界面活性剤1g/L
浴比1:20、処理温度60℃、処理時間20分
処方4:KayalonPolyester Black BRN-SF 4.2%owf、ノニオン系分散剤1g/L
浴比1:20、pH=5.0(酢酸にて調整)、処理温度130℃、処理時間60分
処方5:酸性還元洗浄剤(サンモール(登録商標)MC−2000)4g/L
浴比1:20、pH4(酢酸にて調整)、処理温度80℃、処理時間15分
仕上がった織物を評価した結果を表1に示す。また、以下実施例2〜6、比較例1〜3においても同様に、評価した結果を表1に示す。
【0051】
実施例2
改質繊維1に変えて紡績糸2を用いて実施例1と同様に紡績、織布、染色加工を行って織物を仕上げた。
【0052】
実施例3
改質繊維と未改質繊維を混合せず、改質繊維1が100質量%の紡績糸3を用いて、実施例1と同様に紡績、織布、染色加工を行って、織物を仕上げた。
【0053】
実施例4
実施例1の織物を下記処方6にて中色に染色したこと以外は、実施例1と同様にして、織物を仕上げた。
処方6:Kayacelon Blue E-EX 1.5%owf、ノニオン系分散剤1g/L
浴比1:20、pH=5.0(酢酸にて調整)、処理温度130℃、処理時間60分
【0054】
実施例5
実施例1の織物を下記処方7にて淡色に染色したこと以外は、実施例1と同様にして、織物を仕上げた。
処方7:Kayacelon Red E-BF 0.8%owf、ノニオン系分散剤1g/L
浴比1:20、pH=5.0(酢酸にて調整)、処理温度130℃、処理時間60分
【0055】
実施例6
実施例の紡績糸1を用いて、32Gのダブル丸編機を用いて、紡績糸1からなる編物を作製した。実施例6の還元洗浄後の最終浴pH調整では、トリポリリン酸ナトリウムを用いずに、湯洗、水洗を繰り返して染色機から取り出した。それ以外は実施例1と同様に行って編物を仕上げた。
【0056】
比較例1
実施例1において、酸性還元洗浄を行わず、処方8のアルカリ還元洗浄を行った。それ以外は実施例1と同様に行って織物を仕上げた。
処方8:ハイドロサルファイト2g/L、NaOH2g/L、ノニオン系分散剤1g/L
浴比1:20、処理温度80℃、処理時間15分
【0057】
比較例2
染色処方7の淡色で染める以外は、比較例1と同じ方法で織物を仕上げた。
【0058】
比較例3
改質ポリエステル単繊維を全く含まない紡績糸4を用いて、比較例1と同様にして織物を仕上げた。但し、還元洗浄、湯洗、水洗した後、pH調整は行わなかった。
【0059】
【表1】