(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
タイヤ内側に配置されるインナーライナーと、前記インナーライナーに隣接して設けられ、ゴム層中にコードが埋設されてなるカーカスプライとを備えた空気入りタイヤであって、
前記インナーライナーは、エラストマー成分として、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体からなる第1エラストマー成分のみを含み、かつ、第1紫外線吸収剤を有し、第1酸化防止剤を有しない第1層と、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体の少なくとも一方を含む第2エラストマー成分と第2紫外線吸収剤と第2酸化防止剤とを有する第2層とを含むポリマー積層体で構成され、
前記第1紫外線吸収剤の配合量は、前記第1エラストマー成分に対して2.0質量%以上40質量%以下であり、
前記第2紫外線吸収剤および前記第2酸化防止剤の合計配合量は、前記第2エラストマー成分に対して0.5質量%以上40質量%以下であり、
前記第1層の厚みは、0.05mm以上0.6mm以下であり、
前記第2層の厚みは、0.01mm以上0.3mm以下であり、
前記第2層は、前記カーカスプライの前記ゴム層と接するように配置されており、
前記コードの直径をDとするとき、前記コードの断面中心を通る面から前記第2層までの距離Lが0以上で(1+D/2)mm以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
前記第2層には、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体およびSIBS変性共重合体の少なくとも一方が配合されている請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<タイヤの構造>
本発明の空気入りタイヤについて図を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの右半分を示す模式的断面図であり、典型的には乗用車用空気入りタイヤとして用いられるものである。
図1に示される空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、トレッド部2の両端からトロイド形状を形成するように配置されたサイドウォール部3とビード部4とを有している。さらに、ビード部4にはビードコア5が埋設される。また、一方のビード部4から他方のビード部4(図示せず)に亘って設けられ、両端をビードコア5のまわりに折り返して係止されるカーカスプライ6と、カーカスプライ6のクラウン部外側には、少なくとも2枚のプライよりなるベルト層7とが配置されている。
【0015】
上記ベルト層7は、通常、スチールコードまたはアラミド繊維等のコードよりなるプライの2枚をタイヤ周方向に対して、コードが通常5〜30°の角度になるようにプライ間で相互に交差するように配置される。なお、ベルト層7の両端外側には、トッピングゴム層を設け、ベルト層7両端の剥離を軽減することができる。また、カーカスプライ6は、ポリエステル、ナイロン、アラミド等の有機繊維からなるコードがタイヤ周方向にほぼ90°に配列されており、カーカスプライ6とその折り返し部によって囲まれる領域には、ビードコア5の上端からサイドウォール部3方向に延びるビードエーペックス8が配置される。
【0016】
カーカスプライ6のタイヤ半径方向内側には、一方のビード部4から他方のビード部4(図示せず)に亘ってインナーライナー9が配置される。
【0017】
図2は、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤにおけるカーカスプライとインナーライナーとの境界近傍を拡大して示す模式的断面図である。本発明に係るインナーライナー9は、第1層IL1と第2層IL2とを含むポリマー積層体で構成されている。第2層IL2は、カーカスプライ6を構成するゴム層6aと接しており、境界面Sを形成している。カーカスプライ6は、ゴム層6a中に複数のコードKが一定間隔に埋設されてなる。
【0018】
ここで、本発明の空気入りタイヤにおいては、コードKの直径をDとするとき、コードKの断面中心を通る面(複数のコードKの断面中心を結んで形成される面)KCから第2層IL2までの距離L(すなわち、距離LはコードKの断面中心を通る面KCから境界面Sまでの距離)は、0以上で(1+D/2)mm以下とされる。
【0019】
第2層IL2は、後述のように、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(以下「SIS」とも言う。)およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体(以下「SIB」とも言う。)の少なくとも一方を含む。SISおよびSIBは、カーカスプライ6のゴム層6aよりも剛性が高い。したがって、上記距離Lを(1+D/2)mm以下と小さくすることで、第2層IL2のタイヤ周方向にせん断応力が作用し、タイヤ周方向のせん断剛性が向上する。その結果、空気入りタイヤの走行時の操縦安定性を向上させることができる。一方、距離Lが0mmよりも小さい場合には、カーカスプライ6のコードK間の拘束力が低下し、コードK間隔が変動しやすくなり、タイヤ周方向の剛性が低下する。なお、距離Lが0mmよりも小さいとは、カーカスプライ6を構成するゴム層6aと第2層IL2との境界面Sが、コードKの断面中心を通る面KCよりもサイドウォール部3側に位置することを意味する。
【0020】
図3は、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤにおけるカーカスプライとインナーライナーとの境界近傍を拡大して示す模式的断面図である。
図3に示されるように、ポリマー積層体の第2層IL2がカーカスプライ6のコードKとコードKとの間に侵入することによって、第2層IL2とゴム層6aとの境界面Sが凹凸状を形成していてもよい。
図3に示される実施形態においては、コードKの断面中心を通る面KCからゴム層6aと第2層IL2との境界面Sまでの距離Lは、実質的に0となっている。かかる構成によっても、タイヤ周方向のせん断剛性が向上し、その結果、空気入りタイヤの走行時の制動性能を向上させることができる。なお、境界面Sが凹凸形状を有する場合の距離Lは、コードKの断面中心を通る面KCからゴム層6aと第2層IL2との境界面Sまでの最短距離L’の平均値を意味する。
【0021】
<インナーライナー>
本発明において、インナーライナーは、タイヤ内側に配置された第1層とカーカスプライ6のゴム層6aと接するように配置された第2層とを含むポリマー積層体で構成されている。第1層が第1紫外線吸収剤と第1酸化防止剤との両方を含み、第2層が第2紫外線吸収剤と第2酸化防止剤との両方を含む。よって、制動性能に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【0022】
〔第1層〕
第1層は、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(以下「SIBS」とも言う。)を含む第1エラストマー成分と、第1紫外線吸収剤と、第1酸化防止剤とを有する。
【0023】
(1) 第1エラストマー成分
第1エラストマー成分は、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)を含む。ここで、SIBSは、分子鎖中にイソブチレンブロックを含む。そのため、SIBSからなるポリマーフィルムは、優れた耐空気透過性を有する。したがって、SIBSを含む第1層をインナーライナーに用いることにより、耐空気透過性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0024】
上述のように、SIBSを含む第1層をインナーライナーに用いることにより耐空気透過性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。よって、ハロゲン化ブチルゴムなどの耐空気透過性を付与するために従来使用されてきた高比重のハロゲン化ゴムを使用する必要がない。また、高比重のハロゲン化ゴムを使用する場合であっても、その使用量の低減が可能である。これらのことから、タイヤの軽量化が可能となるので燃費が向上するという効果も得ることができる。
【0025】
また、SIBSは、その分子構造において芳香環以外は飽和しているので、劣化しても硬化し難く、優れた耐久性を有する。したがって、SIBSを含む第1層をインナーライナーに用いた場合には、耐久性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。
【0026】
SIBSの分子量は特に制限されない。しかし、SIBSのゴム弾性、流動性およびインナーライナーへの成形加工性などの観点から、GPC測定によるSIBSの質量平均分子量は50000以上400000以下であることが好ましい。GPC測定によるSIBSの質量平均分子量が50000未満であると、SIBSのゴム弾性、引張強度および引張伸びが低下するおそれがある。また、GPC測定によるSIBSの質量平均分子量が400000を超えると、SIBSの流動性の低下によりインナーライナーへの成形加工性(押出加工性など)が低下するおそれがある。SIBS中のスチレン成分の含有量は、タイヤの耐空気透過性および耐久性をより良好にするという観点から、10〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましく、14〜23質量%であることがさらに好ましい。SIBSを構成するイソブチレン成分とスチレン成分とのモル比(イソブチレン/スチレン)は、SIBSのゴム弾性の観点から、40/60〜95/5であることが好ましい。
【0027】
SIBSにおいては、SIBSのゴム弾性および取り扱い性(重合度が10000未満では液状になることがある)の観点から、分子鎖中における各ブロックの重合度は、イソブチレンブロックが10000〜150000程度であることが好ましく、スチレンブロックが5000〜30000程度であることが好ましい。
【0028】
SIBSは、リビングカチオン重合法などの一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。たとえば、特開昭62−48704号公報および特開昭64−62308号公報には、イソブチレンと他のビニル化合物とのリビングカチオン重合が可能であり、ビニル系化合物としてのイソブチレンおよび他の化合物をリビングカチオン重合することでポリイソブチレン系のブロック共重合体を製造できることが開示されている。このほかにも、リビングカチオン重合法によるビニル系化合物重合体の製造法が、たとえば、米国特許第4,946,899号、米国特許第5,219,948号、特開平3−174403号公報などに記載されている。
【0029】
SIBSは、分子内に芳香環以外の二重結合を有していないために、分子内に二重結合を有している重合体(たとえばポリブタジエン)に比べて紫外線に対する安定性が高く、したがって耐候性が良好である。また、分子内に芳香環以外の二重結合を有しておらず、飽和系のゴム状ポリマーであるにも関わらず、波長589nmの光の20℃での屈折率(nD)は、ポリマーハンドブック〔1989年:ワイリー(Polymer Handbook, Willy,1989)〕によると、1.506である。これは他の飽和系のゴム状ポリマー(たとえばエチレン−ブテン共重合体)に比べて有意に高い。
【0030】
第1エラストマー成分は、SIBSからなっても良いが、SIBSとSIBS変性共重合体とを含んでいても良いし、SIBS変性共重合体からなっても良い。SIBS変性共重合体とは、SIBSのスチレンブロック部分が不飽和結合を有する酸塩化物または酸無水物で変性されたものである。ここで、酸塩化物とは、メタクリル酸クロライド、メタクリル酸ブロマイド、メタクリル酸ヨウダイド、アクリル酸クロライド、アクリル酸ブロマイド、アクリル酸ヨウダイド、クロトニル酸クロライドおよびクロトニル酸ブロマイドが例示される。特に、メタクリル酸クロライド、アクリル酸クロライドが好適である。また、酸無水物とは、無水酢酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等が例示されるが、特に、無水酢酸が好適である。これらの化合物は、二種類以上を併用することも可能である。係る変性により不飽和基がSIBSに導入されるため、架橋剤を用いた架橋を可能とすることができる。
【0031】
SIBS変性共重合体は、第1エラストマー成分において、10質量%以上100質量%配合されていることが好ましく、30質量%以上100質量%配合されていることがより好ましい。SIBS変性共重合体の配合量が第1エラストマー成分の10質量%未満である場合には、第2層およびカーカスプライゴムとの加硫接着が十分でないことがある。
【0032】
上記酸塩化物および上記酸無水物は、SIBS変性共重合体において、1質量%以上含まれていることが好ましく、5質量%以上含まれていることがより好ましく、30質量%以下含まれていることがさらに好ましい。
【0033】
SIBS変性共重合体を架橋する方法としては、従来の方法を用いることができ、例えば、加熱による熱架橋または架橋剤による架橋などを行うことができる。ここで架橋剤としては、有機パーオキサイド、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ‐tert‐ブチルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ‐(tert‐ブチルパーオキシ)ヘキサンなどが使用できる。有機パーオキサイドは、第1エラストマー成分100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下配合されていることが好ましい。なお、多官能性ビニルモノマー(例えばジビニルベンゼン)、トリアリルシアヌレート、又は多官能性メタクリレートモノマー(例えばエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、もしくはアリルメタクリレート)を架橋剤として併用することもできる。この場合には、架橋後における組成物の屈曲亀裂特性の向上が期待できる。
【0034】
SIBS変性共重合体はイソブチレンブロックを含むので、SIBS変性共重合体からなるフィルムは優れた耐空気透過性を有する。また、SIBS変性共重合体では、不飽和基がSIBSに導入されているため、熱架橋および架橋剤による架橋が可能となり、引張強度、破断時伸および永久歪などの基本特性とともに、屈曲亀裂特性および耐空気透過性が改善されインナーライナーとしての特性が改善される。
【0035】
SIBS変性共重合体を含む第1層をインナーライナーに用いることによっても、耐空気透過性に優れた空気入りタイヤを得ることができる。よって、SIBSを含む第1層をインナーライナーに用いた場合と同じく、タイヤの軽量化が可能となるので燃費が向上するという効果が得られる。SIBS変性共重合体の分子量についても、SIBSの分子量と同様のことが言える。
【0036】
SIBS変性共重合体は、たとえば、次の方法により得ることができる。セパラブルフラスコにスチレン―イソブチレンースチレンブロック共重合体を入れた後、重合容器内を窒素置換する。その後、モレキュラーシーブスで乾燥した有機溶剤(例えば、n−ヘキサン及びブチルクロリド)を加え、さらにメタクリル酸クロライドを加える。最後に、溶液を攪拌しながら三塩化アルミニウムを加えて反応させる。反応開始から一定時間後に反応溶液に所定量の水を加えて攪拌して反応を終了させる。反応溶液を多量の水で数回以上水洗を行い、さらに大量のメタノールとアセトンとの混合溶媒にゆっくりと滴下して重合体を沈殿させ、得られた重合体を真空乾燥することにより得られる。なおSIBS変性共重合体の製法は、例えば特許第4551005号(特開2002−226667号公報)に開示されている。
【0037】
(2) 第1紫外線吸収剤
第1紫外線吸収剤は、波長290nm以上の紫外線領域の光を吸収して高分子化合物の分子鎖の劣化を防止する。例えば、ベンゾフェノン系、サリチレート系およびベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤は、高分子化合物が最も劣化を受けやすい波長320nm〜350nm付近の紫外線光を吸収し、この波長域の光を振動エネルギーまたは熱エネルギーに変換することで高分子化合物への吸収を防止する機能を有する。特に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は幅広い紫外線光を吸収できる。ここで、第1紫外線吸収剤を例示すれば次のとおりである。
【0038】
[ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤]
TINUVIN P/FL(BASF社製、分子量225、融点128〜132℃、最大吸収波長341nm)(2−(2−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール)
TINUVIN 234(BASF社製、分子量447.6、融点137〜141℃、最大吸収波長343nm)(2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α、α’ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール)
TINUVIN 326/FL(BASF社製、分子量315.8、融点138〜141℃、最大吸収波長353nm)、アデカスタブLA−36((株)ADEKA製)(2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール)
TINUVIN 237(BASF社製、分子量338.4、融点139〜144℃、最大吸収波長359nm)(2,4−ジ−t−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル−)フェノール)
TINUVIN 328(BASF社製、分子量351.5、融点80〜88℃、最大吸収波長347nm)(2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール)TINUVIN 329/FL(BASF社製、分子量323、融点103〜105℃、最大吸収波長343nm)(2−(2−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−tert−オクチルフェノール)。
【0039】
[液状紫外線吸収剤]
TINUVIN 213(BASF社製、融点−40℃、最大吸収波長344nm)(5−(2−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルベンゼンプロパン酸メチル)
TINUVIN 571(BASF社製、分子量393.6、融点−56℃、最大吸収波長343nm)(2−(2−ヒドロキシ−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−ドデシルフェノール)。
【0040】
[トリアジン系紫外線吸収剤]
TINUVIN 1577FF(BASF社製、分子量425、融点148℃、最大吸収波長274nm)(2−[4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(ヘキシルオキシ)フェノール)。
【0041】
[ベンゾフェノン系紫外線吸収剤]
CHIMASSORB 81/FL(BASF社製、分子量326.4、融点48〜49℃)(2−ヒドロキシ−4−(オクチルオキシ)ベンゾフェノン)。
【0042】
[ベンゾエート系紫外線吸収剤]
TINUVIN 120(BASF社製、分子量438.7、融点192〜197℃、最大吸収波長265nm)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート)。
【0043】
[ヒンダードアミン系安定剤]
CHIMASSORB 2020 FDL(BASF社製、分子量2600〜3400、融点130〜136℃)(ジブチルアミン1,3,5−トリアジン・N,N−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミン・N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物)
CHIMASSORB 944 FDL(BASF社製、分子量2000〜3100、融点100〜135℃)(ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}])
TINUVIN 622 LD(BASF社製、分子量3100〜4000、融点55〜70℃)(ブタン二酸1−[2−(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノ)エチル])
TINUVIN 144(BASF社製、分子量685、融点146〜150℃)(2−ブチル−2−[3,5−ジ(tert−ブチル)−4−ヒドロキシベンジル]マロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)
TINUVIN 292(BASF社製、分子量509)(セバシン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル))
TINUVIN 770 DF(BASF社製、分子量481、融点81〜85℃)(セバシン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)。
【0044】
第1紫外線吸収剤としては、上記紫外線吸収剤のいずれか一種を用いても良いし、上記紫外線吸収剤のうちの二種以上を混合して用いても良い。
【0045】
(3) 第1酸化防止剤
第1酸化防止剤は、ラジカル補足剤として機能し、主に炭素ラジカルを補足することで高分子の分子鎖の劣化を防止できる。第1酸化防止剤を以下に例示する。
【0046】
[ヒンダードフェノール系酸化防止剤]
IRGANOX1010(BASF製)、アデカスタブAO−60((株)ADEKA製)、スミライザーBP−101(住友化学(株)製)(ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,505−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
IRGANOX1035(BASF製)(2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
IRGANOX1076(BASF製)(オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
IRGANOX1098(BASF製)(N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド))
IRGANOX1135(BASF製)(イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
IRGANOX1330(BASF製)(1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン)
IRGANOX1726(BASF製)(4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−O−クレゾール)
IRGANOX1425(BASF製)(ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム(50%)、ポリエチレンワックス(50%))
IRGANOX1520(BASF製)(2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−O−クレゾール)
IRGANOX245(BASF製)(トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
IRGANOX259(BASF製)(1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
IRGANOX3114(BASF製)(トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト)
IRGANOX5057(BASF製)(オクチル化ジフェニルアミン)
IRGANOX565(BASF製)(2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン)
サイアノックスCY1790(サンケミカル(株)製)(1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸)
アデカスタブAO−40((株)ADEKA製)、スミライサーBBM(住友化学(株)製)(4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール))
アデカスタブAO−50((株)ADEKA製)、スミライザーBP-76(住友化学(株)製)(ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
アデカスタブAO−80((株)ADEKA製)、スミライザーGA-80(住友化学(株)製)(3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフィエニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカン)。
【0047】
[リン系酸化防止剤]
リン系酸化防止剤は、過酸化物分解剤として使用され、熱加工成型時の酸化防止機能に優れており、たとえば以下のものがある。
IRGAFOS12(BASF製、分子量1462.9)(6,6’,6’’−[ニトリロトリス(エチレンオキシ)]トリス(2,4,8,10−テトラ−tert−ブチルベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン))
IRGAFOS38(BASF製、分子量514)(亜リン酸エチルビス(2,4−ジ−tert−ブチル−6−メチルフェニル))
IRGAFOS168(BASF製、分子量646)
アデカスタブ2112((株)ADEKA製)
スミライザーP−16(住友化学(株)製)(トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト)
アデカスタブPEP−8((株)ADEKA製)(ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト)
アデカスタブPEP−36((株)ADEKA製)(サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)フォスファイト)。
【0048】
[ヒドロキシルアミン系]
IRGASTAB FS 042(BASF製)(N,N−ジオクタデシルヒドロキシルアミン)。
【0049】
[ヒンダードフェノール/リン混合系酸化防止剤]
45 IRGANOX B 225(BASF製)(IRGAFOS168:IRGANOX1010=1:1)
IRGANOX215(BASF製)(IRGAFOS168:IRGANOX1010=2:1)
IRGANOX220(BASF製)(IRGAFOS168:IRGANOX1010=3:1)
IRGANOX921(BASF製)(IRGAFOS168:IRGANOX1076=2:1)。
【0050】
第1酸化防止剤としては、上記酸化防止剤のいずれか一種を用いても良いし、上記酸化防止剤のうちの二種以上を混合して用いても良い。
【0051】
(4) 第1紫外線吸収剤および第1酸化防止剤の合計配合量
第1紫外線吸収剤および第1酸化防止剤の合計配合量は、第1エラストマー成分に対して0.5質量%以上40質量%以下である。この合計配合量が第1エラストマー成分に対して0.5質量%未満であれば、第1紫外線吸収剤および第1酸化防止剤の添加により期待される効果が十分に発揮されないことがある。この合計配合量が第1エラストマー成分に対して40質量%を超えると、第1層の本来の機能の低下を招くことがある。好ましくは、上記合計配合量は第1エラストマー成分に対して2.0質量%以上20質量%以下である。
【0052】
上記列挙された第1紫外線吸収剤のうちの一種以上と上記列挙された第1酸化防止剤のうちの一種以上とを組み合わせて使用することができる。たとえば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを組合せて使用することが好ましい。
【0053】
(5) 酸素吸収剤
本発明において、酸化防止剤は、酸素吸収剤を包含する概念である。酸素吸収剤としては、空気中の酸素を捕捉する能力を有する一般的な酸素吸収剤を用いることができ、例えば、鉄粉の酸化反応を利用して空気中の酸素を吸収する鉄粉末酸素吸収剤をあげることができる。このとき、通常、表面積が0.5m
2/g以上の鉄粉100質量部に対し、0.1〜50質量部のハロゲン化物を組み合わせて用いることが好ましい。ハロゲン化物としては、アルカリ金属の塩化物、臭化物またはヨウ化物(例えば塩化ナトリウムまたは臭化ナトリウム)などであっても良いし、アルカリ土類金属の塩化物、臭化物またはヨウ化物(例えば塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム)などであっても良い。鉄粉とハロゲン化物とが混合されていても良いし、鉄粉の表面がハロゲン化物で被覆されていても良い。本発明に用いる酸素吸収剤としては、ゼオライトなどの多孔性粒子に水分を含浸させたものをさらに組合せることにより、前記酸素による鉄の酸化をさらに促進させたものを用いてもよい。特に、炭素ラジカルのラジカルトラップ剤としてのヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
【0054】
(6) 粘着付与剤
第1層には粘着付与剤が配合されていることが好ましい。これにより、エアーインの防止により空気入りタイヤの外観を向上させることができる。また、耐久性、走行時の操縦安定性、耐空気透過性(空気遮断性)および転がり抵抗などのタイヤ特性をより向上させることができる。特に、第1層と第2層との接着強度および/または第2層とカーカスプライとの接着強度が改善されることにより、走行時の操縦安定性を向上させることができる。また、粘着付与剤の添加により、SIBSを含む第1エラストマー成分の粘着力がより向上し、ひいては第1層の粘着力がより向上する。これにより、タイヤ成形時に第1層を形成するゴム組成物層が脱落するなどの問題が生じにくくなり、空気入りタイヤの成形加工性をより向上させることができる。
【0055】
粘着付与剤が第1層に配合されている場合、粘着付与剤は、SIBS100質量部に対して、1〜100質量部配合されていることが好ましく、1〜50質量部配合されていることがより好ましい。粘着付与剤の配合量がSIBS100質量部に対して1質量部未満であれば、粘着付与剤を配合したことにより得られる効果を十分に得ることができないことがある。一方、粘着付与剤の配合量がSIBS100質量部に対して100質量部を超えると、走行時の操縦安定性または耐空気透過性などが逆に低下する傾向にある。
【0056】
ここで、「粘着付与剤」とは、インナーライナーを形成するゴム組成物の粘着性を増進するための添加剤をいう。GPC測定による粘着付与剤の質量平均分子量は1×10
2〜1×10
6であることが好ましい。GPC測定による粘着付与剤の質量平均分子量が1×10
2未満の場合には、粘着付与剤の粘度が低すぎて、インナーライナーへの成形加工性の点で不利である。一方、GPC測定による粘着付与剤の質量平均分子量が1×10
6を超える場合には、第1層への粘着性付与が十分でなくなる傾向にある。粘着付与剤の軟化点は50℃〜150℃の範囲であることが好ましい。粘着付与剤の軟化点が50℃未満の場合には、タイヤのゴム硬度が大幅に低下し、操縦安定性が低下する傾向がある。一方、粘着付与剤の軟化点が150℃を超える場合には、粘着性付与効果が不十分となる傾向がある。なお、軟化点は、示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製の「DSC 2910」)を用いて測定される。本発明において使用できる粘着付与剤としては、たとえば、次のものが例示される。
【0057】
[C9石油樹脂]
C9石油樹脂とは、ナフサの熱分解物から、エチレン、プロピレンまたはブタジエンなどの有用な化合物を取り去った残部であるC5〜C9留分(主としてC9留分)を混合状態のまま重合して得られる芳香族石油樹脂である。いずれも商品名で、アルコンP70、P90、P100、P115、P125、P140、M90、M100、M115、M135(いずれも荒川化学工業(株)社製、軟化点70〜145℃);アイマーブS100、S110、P100、P125、P140(いずれも出光石油化学(株)製、芳香族共重合系水添石油樹脂、軟化点100〜140℃、質量平均分子量700〜900、臭素価2.0〜6.0g/100g);ペトコールXL(東ソー(株)製)などがある。
【0058】
[C5石油樹脂]
C5石油樹脂とは、ナフサの熱分解物から、エチレン、プロピレンまたはブタジエンなどの有用な化合物を取り去った残部であるC4〜C5留分(主としてC5留分)を混合状態のまま重合して得られる脂肪族石油樹脂である。いずれも商品名で、ハイレッツG100(三井石油化学(株)製、軟化点100℃);マルカレッツT100AS(丸善石油(株)製、軟化点100℃);エスコレッツ1102(トーネックス(株)製、軟化点110℃)などがある。
【0059】
[テルペン樹脂]
いずれも商品名で、YSレジンPX800N、PX1000、PX1150、PX1250、PXN1150N、クリアロンP85、P105、P115、P125、P135、P150、M105、M115、K100(いずれもヤスハラケミカル(株)製、軟化点75〜160℃)などがある。
【0060】
[芳香族変性テルペン樹脂]
いずれも商品名で、YSレジンTO85、TO105、TO115、TO125(いずれもヤスハラケミカル(株)製、軟化点80〜130℃)などがある。
【0061】
[テルペンフェノール樹脂]
いずれも商品名で、タマノル803L、901(荒川化学工業(株)製、軟化点120〜160℃);YSポリスターU115、U130、T80、T100、T115、T130、T145、T160(いずれもヤスハラケミカル(株)製、軟化点75〜165℃)などがある。
【0062】
[クマロン樹脂]
軟化点90℃のクマロン樹脂(神戸油化学工業(株)製)などがある。
【0063】
[クマロンインデンオイル]
商品名で15E(神戸油化学工業(株)製、流動点15℃)などがある。
【0064】
[ロジンエステル]
いずれも商品名で、エステルガムAAL、A、AAV、105、AT、H、HP、HD(いずれも荒川化学工業(株)製、軟化点68〜110℃);ハリエスターTF、S、C、DS70L、DS90、DS130(いずれもハリマ化成(株)製、軟化点68〜138℃)などがある。
【0065】
[水添ロジンエステル]
いずれも商品名で、スーパーエステルA75、A100、A115、A125(いずれも荒川化学工業(株)製、軟化点70〜130℃)などがある。
【0066】
[アルキルフェノール樹脂]
商品名で、タマノル510(荒川化学工業(株)製、軟化点75〜95℃)などがある。
【0067】
[DCPD]
商品名でエスコレッツ5300(トーネックス(株)製、軟化点105℃)などがある。
【0068】
上記の中でも、C9石油樹脂の完全水添系石油樹脂が好適である。C9石油樹脂の完全水添系石油樹脂は、第1層を構成するSIBSに対する相溶性が良好であり、また、第1層の粘着力を向上させる効果が高く、第1層と第2層との接着強度および/または第2層とカーカスプライとの接着強度を向上させる効果が高い。
【0069】
粘着付与剤が第1層に配合されている場合、第2層の第2エラストマー成分は、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体(SIS)またはスチレン−イソブチレンジブロック共重合体(SIB)20〜90質量%と、スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)10〜80質量%とから構成されることが好ましい。第2エラストマー成分としてSISまたはSIBとともにSIBSを併用することによって、粘着付与剤の効果を十分に得ることができる。ただし、第2エラストマー成分におけるSIBSの含有量が80質量%を超えると、第2層とカーカスプライとの接着強度が低下する傾向にある。また、第2エラストマー成分におけるSIBSの含有量が10質量%未満であると、粘着付与剤の効果が十分に得られない傾向にある。
【0070】
(7) ポリイソブチレン
第1層にはポリイソブチレンが配合されていることが好ましい。これにより、接着性が増し、加工性が向上する。
【0071】
ポリイソブチレンが第1層に配合されている場合、ポリイソブチレンは、SIBS100質量部に対して、3〜20質量部配合されていることが好ましく、5〜15質量部配合されていることがより好ましい。ポリイソブチレンの配合量がSIBS100質量部に対して3質量部未満であれば、ポリイソブチレンを配合したことにより得られる効果を十分に得ることができないことがある。一方、ポリイソブチレンの配合量がSIBS100質量部に対して20質量部を超えると、破壊強度が低下することがある。
【0072】
ポリイソブチレンの分子量は特に限定されないが、接着性の向上と破壊強度の低下防止とを両立させるという観点から、9000以上60000以下であることが好ましく、12000以上51000以下であることがより好ましい。
【0073】
(8) 第1層の厚さ
SIBSを含む第1層の厚さ(
図2におけるT1)は、0.05〜0.6mmである。第1層の厚さT1が0.05mm未満であると、ポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、第1層がプレス圧力で破れてしまい、得られたタイヤにおいてエアーリーク現象が生じるおそれがある。一方、第1層の厚さT1が0.6mmを超えると、タイヤ質量が増加し、低燃費性能が低下する。第1層の厚さT1は、好ましくは0.05〜0.4mmである。
【0074】
第1層は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法にしたがって得ることができ、たとえば第1エラストマー成分と第1紫外線吸収剤と第1酸化防止剤とを含む第1ゴム組成物を押出成形またはカレンダー成形などしてフィルム化することにより得ることができる。第1層は、補強剤、加硫剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、軟化剤、可塑剤またはカップリング剤などの他の添加剤をさらに含有しても良い。
【0075】
〔第2層〕
第2層は、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)およびスチレン−イソブチレンブロック共重合体(SIB)の少なくとも一方を含む第2エラストマー成分と、第2紫外線吸収剤と、第2酸化防止剤とを有する。
【0076】
(1) 第2エラストマー成分
第2エラストマー成分は、SISおよびSIBの少なくとも一方を含む。SISのイソプレンブロックおよびSIBのイソブチレンブロックはソフトセグメントであるため、SISまたはSIBを含むポリマーフィルムはゴム成分と加硫接着しやすい。したがって、SISまたはSIBを含む第2層を備えたインナーライナーを用いることにより、インナーライナーとカーカスプライのゴム層との接着強度に優れた空気入りタイヤを得ることができる。これにより、空気入りタイヤの耐久性および走行時の操縦安定性を向上させることができる。
【0077】
SISの分子量は特に制限されない。しかし、SISのゴム弾性およびインナーライナーへの成形加工性などの観点から、GPC測定によるSISの質量平均分子量は100000以上290000以下であることが好ましい。GPC測定によるSISの質量平均分子量が100000未満であると、SISのゴム弾性および引張強度が低下するおそれがある。また、GPC測定によるSISの質量平均分子量が290000を超えると、SISの流動性の低下によりインナーライナーへの成形加工性(押出加工性など)が低下するおそれがある。SIS中のスチレン成分の含有量は、SISの粘着性、SISのゴム弾性、第1層に対する第2層の接着強度およびカーカスプライに対する第2層の接着強度の観点から、10〜30質量%であることが好ましい。
【0078】
SISを構成する各ブロックの重合度は、SISのゴム弾性および取り扱い性の観点から、イソプレンブロックが500〜5000程度であることが好ましく、スチレンブロックが50〜1500程度であることが好ましい。
【0079】
SISは、リビングカチオン重合法などの一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。
【0080】
SIBとしては、直鎖状のものを用いることがゴム弾性、第1層に対する第2層の接着強度およびカーカスプライに対する第2層の接着強度の観点から好ましい。SIBの分子量は特に制限はない。しかし、SIBのゴム弾性およびインナーライナーへの成形加工性の観点から、GPC測定によるSIBの質量平均分子量が40000〜120000であることが好ましい。GPC測定によるSIBの質量平均分子量が40000未満であると、SIBのゴム弾性および引張強度が低下するおそれがある。また、GPC測定によるSIBの質量平均分子量が120000を超えると、SIBの流動性の低下によりインナーライナーへの成形加工性(押出加工性など)が低下するおそれがある。SIB中のスチレン成分の含有量は、SIBの粘着性、SIBのゴム弾性、第1層に対する第2層の接着強度およびカーカスプライに対する第2層の接着強度の観点から、10〜35質量%であることが好ましい。
【0081】
SIBを構成する各ブロックの重合度は、SIBのゴム弾性および取り扱い性の観点から、イソブチレンブロックが300〜3000程度であることが好ましく、スチレンブロックが10〜1500程度であることが好ましい。
【0082】
SIBは、リビングカチオン重合法などの一般的なビニル系化合物の重合法により得ることができる。たとえば、国際公開第2005/033035号には、攪拌機にメチルシクロヘキサン、n−ブチルクロライド、クミルクロライドを加え、−70℃に冷却した後、2時間反応させ、その後に大量のメタノールを添加して反応を停止させ、60℃で真空乾燥してSIBを得る方法が開示されている。
【0083】
第2エラストマー成分は、SISおよびSIBのそれぞれを任意の割合で混ぜることにより得られたものであることが好ましい。この場合において、第2層はSISおよびSIBの双方を含む単層構造であってもよいし、SISを含む層とSIB層を含む層との多層構造であってもよい。
【0084】
第2エラストマー成分は、スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレン共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン・ブテン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体(SBBS)およびこれらの熱可塑性エラストマーにエポキシ基を導入したものからなる群から選択される1種以上の熱可塑性エラストマーを含んでいてもよい。第1層も同様である。エポキシ基を有する熱可塑性エラストマーとしては、たとえば、エポキシ変性スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(具体例としては、エポキシ化SBS ダイセル化学工業(株)製「エポフレンド A1020」、質量平均分子量:10万、エポキシ当量:500等)などが挙げられる。
【0085】
(2) 第2紫外線吸収剤
第2紫外線吸収剤は、第1紫外線吸収剤と同じく、波長290nm以上の紫外線領域の光を吸収して高分子化合物の分子鎖の劣化を防止する。第2紫外線吸収剤としては、第1紫外線吸収剤の具体例として列挙した材料を特に制限されることなく用いることができ、第1紫外線吸収剤の具体例として列挙した材料のいずれか一種を用いても良いし二種以上を混合して用いても良い。第2層に配合された第2紫外線吸収剤は、第1層に配合された第1紫外線吸収剤と同一であっても良いし、第1層に配合された第1紫外線吸収剤とは異なっても良い。
【0086】
(3) 第2酸化防止剤
第2酸化防止剤は、第1酸化防止剤と同じく、ラジカル補足剤として機能し、主に炭素ラジカルを補足することで高分子の分子鎖の劣化を防止できる。第2酸化防止剤としては、第1酸化防止剤の具体例として列挙した材料を特に制限されることなく用いることができ、第1酸化防止剤の具体例として列挙した材料のいずれか一種を用いても良いし二種以上を混合して用いても良い。第2層に配合された第2酸化防止剤は、第1層に配合された第1酸化防止剤と同一であっても良いし、第1層に配合された第1酸化防止剤とは異なっても良い。
【0087】
(4) 第2紫外線吸収剤および第2酸化防止剤の合計配合量
第2紫外線吸収剤および第2酸化防止剤の合計配合量は、第2エラストマー成分に対して0.5質量%以上40質量%以下である。この合計配合量が第2エラストマー成分に対して0.5質量%未満であれば、第2紫外線吸収剤および第2酸化防止剤の添加により期待される効果が十分に発揮されないことがある。この合計配合量が第2エラストマー成分に対して40質量%を超えると、第2層の本来の機能の低下を招くことがある。好ましくは、上記合計配合量は第2エラストマー成分に対して2.0質量%以上20質量%以下である。
【0088】
第1紫外線吸収剤の具体例として列挙された材料のうちの一種以上と第1酸化防止剤の具体例として列挙された材料のうちの一種以上とを組み合わせて使用することができる。たとえば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを組合せて使用することが好ましい。
【0089】
(5) 酸素吸収剤
第2層には酸素吸収剤が配合されていることが好ましい。酸素吸収剤としては、第1層に配合される酸素吸収剤として列挙した材料を特に限定されることなく用いることができる。
【0090】
(6) 粘着付与剤
第2層には粘着付与剤が配合されていることが好ましい。これにより、第1層に粘着付与剤が配合されたことにより得られる効果と同一の効果が得られる。
【0091】
粘着付与剤が第2層に配合されている場合、粘着付与剤は、第2エラストマー成分100質量部に対して、1〜100質量部配合されていることが好ましく、1〜50質量部配合されていることがより好ましい。粘着付与剤の配合量が第2エラストマー成分100質量部に対して1質量部未満であると、粘着付与剤を配合したことにより得られる効果を十分に得ることができない。一方、粘着付与剤の配合量が第2エラストマー成分100質量部に対して100質量部を超えると、走行時の操縦安定性または耐空気透過性が逆に低下する傾向にある。
【0092】
第1層に配合される粘着付与剤と同じ理由から、GPC測定による粘着付与剤の質量平均分子量は1×10
2〜1×10
6であることが好ましく、粘着付与剤の軟化点は50℃〜150℃の範囲であることが好ましい。粘着付与剤の軟化点が50℃未満の場合には、タイヤのゴム硬度が大幅に低下し、操縦安定性が低下する傾向がある。第2層に配合される粘着付与剤としては、第1層に配合される粘着付与剤の具体例として列挙した材料を特に制限されることなく用いることができ、第1層に配合される粘着付与剤の具体例として列挙した材料のいずれか一種を用いても良いし二種以上を混合して用いても良い。第2層に配合される粘着付与剤は、第1層に配合される粘着付与剤と同一であっても良いし、第1層に配合される粘着付与剤とは異なっても良い。
【0093】
(7) ポリイソブチレン
第2層にはポリイソブチレンが配合されていることが好ましい。これにより、第1層にポリイソブチレンが配合されたことにより得られる効果と同一の効果が得られる。
【0094】
第2層がポリイソブチレンを含む場合、ポリイソブチレンは、第2エラストマー成分100質量部に対して、3〜20質量部含まれていることが好ましく、5〜15質量部含まれていることがより好ましい。ポリイソブチレンの含有量が第2エラストマー成分100質量部に対して3質量部未満であれば、ポリイソブチレンを配合したことにより得られる効果を十分に得ることができないことがある。一方、ポリイソブチレンの含有量が第2エラストマー成分100質量部に対して20質量部を超えると、破壊強度の低下を招くことがある。
【0095】
第1層に配合されるポリイソブチレンと同じ理由から、ポリイソブチレンの分子量は9000以上60000以下であることが好ましく、12000以上51000以下であることがより好ましい。
【0096】
(8) 第2層の厚さ
第2層の厚さ(
図2におけるT2)は、0.01〜0.3mmである。ここで、第2層の厚さT2とは、第2層がSIS層のみからなる場合は該SIS層の厚さを意味し、第2層がSIB層のみからなる場合は該SIB層の厚さを意味し、第2層がSIS層およびSIB層の2層構造など多層構造からなる場合は該多層構造の合計の厚さを意味する。第2層の厚さT2が0.01mm未満であると、ポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤの加硫時に、第2層がプレス圧力で破れてしまい、加硫接着力が低下するおそれがある。一方、第2層の厚さT2が0.3mmを超えると、タイヤ質量が増加し、低燃費性能が低下する。第2層の厚さT2は、好ましくは0.05〜0.2mmである。
【0097】
第2層は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーをフィルム化する通常の方法にしたがって得ることができ、たとえば第2エラストマー成分と第2紫外線吸収剤と第2酸化防止剤とを含む第2ゴム組成物を押出成形またはカレンダー成形などしてフィルム化することにより得ることができる。第2層は、補強剤、加硫剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、軟化剤、可塑剤またはカップリング剤などの他の添加剤をさらに含有しても良い。
【0098】
本発明におけるインナーライナー(ポリマー積層体)が採り得る形態の例を
図4、
図5に示す。
図4に示す例では、インナーライナーであるポリマー積層体10は、第1層としてのSIBS層11および第2層としてのSIS層12から構成される。ポリマー積層体10は、そのSIS層12がカーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置される。これにより、タイヤの加硫工程において、SIS層12とカーカスプライ61との接着強度を高めることができる。したがって得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0099】
図5に示す例では、ポリマー積層体10は、第1層としてのSIBS層11および第2層としてのSIB層13から構成される。ポリマー積層体10は、そのSIB層13がカーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて設置される。これにより、タイヤの加硫工程において、SIB層13とカーカスプライ61との接着強度を高めることができる。したがって得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0100】
<ポリマー積層体の製造方法>
ポリマー積層体(未加硫のもの)は、第1エラストマー成分と第1紫外線吸収剤と第1酸化防止剤とを含む第1ゴム組成物(第1ゴム組成物は第1層を形成する)と、第2エラストマー成分と第2紫外線吸収剤と第2酸化防止剤とを含む第2ゴム組成物(第2ゴム組成物は第2層を形成する)とを用い、たとえば
図4または
図5のいずれかに示された順序で、ラミネート押出や共押出などの積層押出をして得ることができる。
【0101】
<空気入りタイヤの製造方法>
本発明の空気入りタイヤは、一般的な製造方法を用いることができる。すなわち、上記ポリマー積層体10を空気入りタイヤ1の生タイヤのインナーライナーに適用して他の部材とともに加硫成形することによって製造することができる。ポリマー積層体10を生タイヤに配置する際は、ポリマー積層体10の第2層(SIS層12またはSIB層13など)が、カーカスプライ61に接するようにタイヤ半径方向外側に向けて配置する。このように配置すると、タイヤ加硫工程において、第2層とカーカスプライ61との接着強度を高めることができる。得られた空気入りタイヤは、インナーライナーとカーカスプライ61のゴム層とが良好に接着しているため、優れた耐空気透過性および耐久性を有することができる。
【0102】
なお、本発明の空気入りタイヤに用いられるカーカスプライのゴム層は、一般に用いられるゴム成分、たとえば、天然ゴム、ポリイソプレン、スチレンーブタジエンゴム、ポリブタジエンゴムなどに、カーボンブラック、シリカなどの充填剤を配合したものを用いることができる。
【0103】
ここで、ポリマー積層体の第1層および/または第2層を構成するゴム組成物は、上記粘着付与剤を含む場合、加硫中の温度、たとえば150〜180℃において、金型内で軟化状態(固体と液体の中間状態)である。そのため、加硫後に金型を開放すると、当該ゴム組成物が軟化状態であるときには、ポリマー積層体の形状が変形してしまう。また、軟化状態時は固体状態時よりも反応性が高いため、隣接部材と粘着、接着してしまう場合がある。したがって、ポリマー積層体が粘着付与剤を含む場合には、加硫後に冷却工程を設けることが好ましい。冷却方法としては、たとえば、加硫後に10〜300秒の間に50〜120℃までブラダー内を急冷する方法を挙げることができる。冷却媒体としては、空気、水蒸気、水およびオイルより選択される1種以上を用いることができる。
【0104】
上記冷却を行なう手法によれば、ゴム組成物が粘着付与剤を含むかどうかにかかわらず、インナーライナーの厚みをより小さくすることができ、たとえばインナーライナーの厚みを0.05〜0.6mm程度まで小さくすることができる。これは、冷却工程により、加硫して得られるタイヤの、ブラダーからの離型性が向上するためである。
【実施例】
【0105】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0106】
<ポリマー積層体の製造>
表1〜表2に示す配合量に基づいて、以下に示す材料を用いて、実施配合1〜17および比較配合1〜13のゴム組成物を調製した。調製されたゴム組成物を2軸押出機(スクリュ径:φ50mm、L/D:30、シリンダ温度:220°C)にてベレット化した。その後、Tダイ押出機(スクリュ径:φ80mm、L/D:50、ダイリップ幅:500mm、シリンダ温度:220°C、フィルムゲージ:第1層の形成時には0.30mmとし、第2層の形成時には0.1mmとした)にてポリマー積層体を得た。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
[SIBS]
スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)として、カネカ(株)社製の「シプスターSIBSTAR 102T(ショアA硬度25、スチレン成分含有量25質量%、GPC測定による質量平均分子量:100000)」を用いた。
【0110】
[SIBS変性共重合体の製造]
2リットルのセパラブルフラスコにスチレンーイソブチレンブロック共重合体75g(スチレン含量30%、スチレンユニットのモル数0.216モル)を入れて、容器内を窒素で置換した。注射器を用いて、モレキュラーシーブスで乾燥したn-ヘキサン1200mL及びモレキュラーシーブスで乾燥したn-ブチルクロリド1800ミリリットルを加えた。
【0111】
次に、シリンジを用いてメタクリル酸クロライド30g(0.291モル)を加えた。そして溶液を撹搾しながら三塩化アルミニウム39.4g(0.295モル)を加えて反応を開始した。30分の反応の後、反応溶液に約1000ミリリットルの水を加えて激しく撹拌し反応を終了させた。反応溶液を多量の水で数回水洗を行い、さらに大量のメタノールとアセトン混合溶媒(l:1)に徐々に滴下して反応生成物を沈殿させ、その後反応生成物を60°Cで24時間真空乾燥して、SIBS変性共重合体(質量平均分子量:150000、スチレン含量:20質量%、酸塩化物:1.0質量%)を得た。
【0112】
[粘着付与剤]
粘着付与剤として、C9石油樹脂のアルコンP140(荒川化学工業(株)社製、軟化点140°C、質量平均分子量Mw:900)を用いた。
【0113】
[ポリイソブチレン]
ポリイソブチレンとして、新日本石油(株)社製の「テトラックス3T」(粘度平均分子量30000、質量平均分子量49000)を用いた。
【0114】
[紫外線吸収剤]
第1紫外線吸収剤および第2紫外線吸収剤として、(株)ADEKA社製の「アデカスタブLAー36(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、融点138〜141℃、分子量315.8、最大吸収波長353nm、2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール」を用いた。
【0115】
[酸化防止剤]
第1酸化防止剤および第2酸化防止剤として、BASF社製の「IRGANOX 1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、融点110〜125℃、比重1.15、分子量117.7、ペンタエリスリチル・テトラキス(3- (3,5-ジ-t-プチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート))」を用いた。
【0116】
[SIS]
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)として、クレイトンボリマ一社製のD116JP(スチレン成分含有量15質量%、質量平均分子量:150000)を用いた。
【0117】
[SIBの製造]
撹枠機付き2L反応容器に、メチルシクロヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)589mL、n-ブチルクロライド(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)613ml、クミルクロライド0.550gを加えた。反応容器を-70℃に冷却した後、α-ピコリン(2-メチルピリジン)0.35mL、イソブチレン179mLを添加した。さらに四塩化チタン9.4mLを加えて重合を開始し、-70℃で溶液を攪拌しながら2.0時間反応させた。次に反応容器にスチレン59mLを添加し、さらに60分間反応を続けた後、大量のメタノールを添加して反応を停止させた。反応溶液から溶剤などを除去した後に、重合体をトルエンに溶解して2回水洗した。このトルエン溶液をメタノール混合物に加えて重合体を沈殿させ、得られた重合体を60℃で24時間乾燥することによりスチレンーイソブチレンジブロック共重合体(SIB)を得た(スチレン成分含有量:15質量%、質量平均分子量:70000)。
【0118】
<空気入りタイヤの製造>
得られたポリマー積層体をインナーライナーに適用した生タイヤを製造してから、加硫工程を行った。加硫工程では、170°Cで20分間プレスを行い、加硫金型から取り出すことなく110°Cで3分間冷却し、その後、加硫金型から取り出した。冷却媒体としては水を使用した。これにより、
図1に示す基本構造を有する195/65R15サイズの空気入りタイヤが製造された。
【0119】
<性能試験>
前述の如く製造された空気入りタイヤに関し、以下の性能試験を行った。結果を表3〜表7に示す。
【0120】
【表3】
【0121】
【表4】
【0122】
【表5】
【0123】
【表6】
【0124】
【表7】
【0125】
(a) 耐候性試験
インナーライナー内部について、スガ試験機(株)製サンシャインスーパーロングライフウェザーメーターを用いて次の条件で耐候性試験を行った。槽内温度63℃、湿度50%、60℃中、12分間降雨の条件で、60時間照射し、試験後のインナーライナーの亀裂数を測定した。測定された亀裂数を下記式に代入して耐候性指数を算出した。耐候性指数は比較例1での亀裂数を基準とする指数であり、耐候性指数の値が大きいほどタイヤの耐候性が高いことを示す。
耐候性指数=(比較例1の亀裂数)/(各実施例または他の比較例の亀裂数)×100。
【0126】
(b) 屈曲亀裂成長試験
耐久走行試験は、インナーライナーが割れたり剥がれたりするかどうかで評価した。試作タイヤをJIS規格リム15×6JJに組み付け、タイヤ内圧を通常よりも低内圧である150KPaに設定し、加重を600kgとし、速度を100km/hとし、走行距離20000kmとした。試験終了後、タイヤの内部を観察して、亀裂数または剥離数を測定した。測定された亀裂数または剥離数を下記式に代入して耐屈曲疲労指数を算出した。耐屈曲疲労指数は比較例1での亀裂数を基準とする指数であり、耐屈曲疲労指数の値が大きいほど屈曲亀裂成長が小さいことを示す。
耐屈曲疲労指数=(比較例1の亀裂数)/(各実施例または他の比較例の亀裂数)×100。
【0127】
(c) 弾性率変化試験
屈曲亀裂成長試験と同様な条件で、走行する前と規定走行距離20000km走行した後とにおいて粘弾性スペクトルメータVES((株)岩本製作所)を用いてインナーライナーの粘弾性を測定し、弾性率の変化率を算出した。算出された弾性率の変化率を用いて弾性率変化指数を算出した。弾性率変化指数は比較例1での弾性率の変化率を基準とする指数であり、弾性率変化指数の値が大きいほど弾性率の変化率(上昇率)が低く良好であることを示す。
弾性率の変化率=(走行後の弾性率)/(走行前の弾性率)×100
弾性率変化指数=(比較例1の弾性率の変化率)/(各実施例または他の比較例の弾性率の変化率)×100。
【0128】
(d) 静的空気圧低下率(%/月)の算出
上述の方法で製造した各実施例および各比較例のタイヤ(195/65R15スチールラジアルPCタイヤ)をJIS規格リム15×6JJに組み付け、初期空気圧300Kpaを封入し、90日間室温で放置し、空気圧の低下率を計算し、1ヶ月(30日)あたりの空気圧の低下率(単位:%/月)を算出した。静的空気圧低下率の値が小さいほど良好であることを示す。
【0129】
(e) 制動距離測定試験
規定走行距離20000km走行後のタイヤと走行前のタイヤとを国産FRスポーツタイプ車に装着し、テストコースにて140km/hで走行中に急ブレーキをかけ、制動距離を測定した。この試験は各タイヤについて5回ずつ行い、最大値と最小値とを除いた3回についての平均値を計算した。この平均値を下記式に代入して制動距離指数を算出した。制動距離指数は比較例1での制動距離を基準とする指数であり、制動距離指数の値が大きいほど制動距離が短くタイヤの制動性能が良好であることを示す。
制動距離指数=(比較例1の制動距離)/(各実施例または他の比較例の制動距離)×100
。
【0130】
(f) 総合判定
総合判定の判定基準は表8に示すとおりである。
【0131】
【表8】
【0132】
<考察>
比較例1は、第1層として比較配合1を用い第2層として比較配合9を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数、耐屈曲疲労指数、弾性率変化指数、静的空気圧低下率、制動距離指数は不十分であった。
【0133】
比較例2は、第1層として比較配合2を用い第2層として比較配合9を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数は比較例1よりもわずかに向上したが、耐屈曲疲労指数、静的空気圧低下率は比較例1と同等であった。また、弾性率変化指数、制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0134】
比較例3は、第1層として比較配合3を用い第2層として比較配合9を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数は比較例1よりもわずかに向上したが、耐屈曲疲労指数、静的空気圧低下率は比較例1と同等であった。また、弾性率変化指数、制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0135】
比較例4は、第1層として比較配合4を用い第2層として比較配合9を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数、耐屈曲疲労指数、静的空気圧低下率は比較例1よりもわずかに向上したが、弾性率変化指数、制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0136】
比較例5は、第1層として比較配合5を用い第2層として比較配合9を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数、耐屈曲疲労指数、静的空気圧低下率は比較例1よりもわずかに向上したが、弾性率変化指数、制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0137】
比較例6は、第1層として比較配合6を用い第2層として比較配合9を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数、静的空気圧低下率は比較例1よりもわずかに向上したが、耐屈曲疲労指数、弾性率変化指数、制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0138】
比較例7は、第1層として比較配合3を用い第2層として比較配合10を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数、静的空気圧低下率は比較例1よりもわずかに向上したが、耐屈曲疲労指数、弾性率変化指数、制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0139】
比較例8は、第1層として比較配合3を用い第2層として比較配合11を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数は比較例1よりもわずかに向上したが、耐屈曲疲労指数、静的空気圧低下率は比較例1と同等であった。弾性率変化指数、制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0140】
比較例9は、第1層として比較配合3を用い第2層として比較配合12を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数、静的空気圧低下率は比較例1よりもわずかに向上したが、耐屈曲疲労指数は比較例1と同等であった。弾性率変化指数、制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0141】
比較例10は、第1層として比較配合3を用い第2層として比較配合13を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数、静的空気圧低下率は比較例1よりもわずかに向上したが、耐屈曲疲労指数は比較例1と同等であった。弾性率変化指数、制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0142】
比較例1〜10では、紫外線吸収剤および酸化防止剤の合計配合量は、0.5質量%未満である又は40質量%を超えている。そのため、上記の結果が得られたと考えられる。
【0143】
比較例11は、第1層として実施配合5を用い第2層として比較配合7を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数および静的空気圧低下率は比較例1よりもわずかに向上したが、耐屈曲疲労指数、弾性率変化指数および制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0144】
比較例12は、第1層として実施配合6を用い第2層として比較配合13を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数、耐屈曲疲労指数および静的空気圧低下率は比較例1よりもわずかに向上したが、弾性率変化指数および制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0145】
比較例13は、第1層として比較配合5を用い第2層として実施配合9を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数および静的空気圧低下率は比較例1よりもわずかに向上したが、耐屈曲疲労指数は比較例1と同等であった。弾性率変化指数および制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0146】
比較例14は、第1層として比較配合6を用い第2層として実施配合10を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数は比較例1よりもわずかに向上したが、静的空気圧低下率は比較例1と同等であった。耐屈曲疲労指数、弾性率変化指数および制動距離指数は比較例1に比べて低下した。
【0147】
比較例11では、紫外線吸収剤および酸化防止剤の合計配合量は、第1層においては0.5質量%以上40質量%以下であるが、第2層においては0.5質量%未満である。また、比較例12では、紫外線吸収剤および酸化防止剤の合計配合量は、第1層においては0.5質量%以上40質量%以下であるが、第2層においては40質量%を超えている。比較例13では、紫外線吸収剤および酸化防止剤の合計配合量は、第2層においては0.5質量%以上40質量%以下であるが、第1層においては0.5質量%未満である。また、比較例14では、紫外線吸収剤および酸化防止剤の合計配合量は、第2層においては0.5質量%以上40質量%以下であるが、第1層においては40質量%を超えている。そのため、上記の結果が得られたと考えられる。
【0148】
実施例1〜8は、第1層として実施配合1、2、3、4、5、6、7、8をそれぞれ用い第2層として実施配合13を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数、静的空気圧低下率、弾性率変化指数、耐屈曲疲労指数、制動距離指数は比較例1に比べて向上した。
【0149】
実施例9〜12は、第1層として実施配合5を用い第2層として実施配合14、15、16、17をそれぞれ用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数、静的空気圧低下率、弾性率変化指数、耐屈曲疲労指数、制動距離指数は比較例1に比べて向上した。
【0150】
実施例14、15、比較例15、16は、第1層として実施配合2を用い第2層として実施配合13を用いた空気入りタイヤである。該タイヤの耐候性指数、静的空気圧低下率、弾性率変化指数、耐屈曲疲労指数は比較例1に比べて向上した。しかし、実施例14、15では距離Lは0以上で(1+D/2)mm以下であるが、比較例15、16では距離Lは(1+D/2)mmよりも大きかった。そのため、制動距離指数は、実施例14、15では比較例1に比べて向上したが、比較例15、16では比較例1に比べて低下した。