特許第6367802号(P6367802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367802
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】個体別の脳がん療法を選択する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20180723BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20180723BHJP
   C07D 491/22 20060101ALI20180723BHJP
   C07D 487/22 20060101ALI20180723BHJP
【FI】
   G01N33/68
   C12Q1/68ZNA
   C07D491/22
   C07D487/22
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-529086(P2015-529086)
(86)(22)【出願日】2013年8月29日
(65)【公表番号】特表2015-529823(P2015-529823A)
(43)【公表日】2015年10月8日
(86)【国際出願番号】FI2013050834
(87)【国際公開番号】WO2014033367
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年6月3日
(31)【優先権主張番号】20125897
(32)【優先日】2012年8月30日
(33)【優先権主張国】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】513323128
【氏名又は名称】トゥルン イリオピスト
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウェステルマルク、ユッカ
(72)【発明者】
【氏名】カウル、アマンプレート
【審査官】 西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0239244(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0107374(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/087926(WO,A1)
【文献】 特開2007−082433(JP,A)
【文献】 PUUSTINEN, P. et al.,PME-1 Protects Extracellular Signal-Regulated Kinase Pathway Activity from Protein Phosphatase 2A-Mediated Inactivation in Human Malignant Glioma,Cancer Research,米国,American Association for Cancer,2009年 4月 1日,Vol.69/No.7,pp.2870-2877
【文献】 CHANG, F. et al.,Signal transduction mediated by the Ras/Raf/MEK/ERK pathway from cytokine receptors to transcription factors: potential targeting for therapeutic intervention,Leukemia,Nature Publishing Group,2003年 7月,Vol.17/No.7,pp.1263-1293
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
そのような療法を必要とする患者のために脳がん療法を選択するための方法であって、
a)罹患した脳組織から得た外科的又は生検試料中のPME−1の発現レベルを評価するステップ;
b)前記患者が感受性である脳がん療法を選択するための基準としてステップa)で得られる結果を使用するステップ
を含み;
ここで、関連する非悪性組織と比較して増加したPME−1発現は、前記患者がスタウロスポリン(STS)誘導体での単独療法に感受性でないが、前記患者がSTS誘導体及びPME−1サイレンシング剤による併用療法に感受性であることを示し;
一方、インタクトなPME−1発現が、前記患者がSTS誘導体によるがん療法に感受性であることを示し;
ここで、前記STS誘導体が、一般式(I):
【化1】

(式中、
R’はH又はアルキルであり;
R1及びR2は、Hであるか、又は一緒にオキソを形成し;
R3及びR4は、独立してH、OHであるか、又は一緒にオキソを形成し:
R5、R6、R6’、R7及びR8は、H、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシルアルキル、アルコキシカルボニル又はモノ−及びジアルキルアミノからなる群から独立して選択され;
XはCH又はOであり;及び
nは0又は1である);又は
式(II)の化合物:
【化2】

であって;
前記PME−1サイレンシング剤が、小二本鎖RNA(dsRNA)、小分子干渉RNA(siRNA)、ダイサー基質siRNA(DsiRNA)、人工マイクロRNA(miRNA)前駆体、及びショートヘアピンRNA(shRNA)から選択されるRNAi分子である、上記方法。
【請求項2】
式(I)又は(II)の化合物が以下の構造からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【化3】

及び
【化4】
【請求項3】
前記患者が、星状細胞腫、若年性の毛様細胞性星状細胞腫、低悪性度星状細胞腫、未分化星状細胞腫、グリア芽細胞腫、希突起膠細胞腫及び上衣細胞腫からなる群から選択される神経膠種を患っている、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記RNAi分子が、配列番号5〜40からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個別化医療の分野に関する。より具体的には、本発明は、患者の罹患組織でのプロテオームプロファイルに基づいて個体別の脳がん療法を選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
個別化医療は、所与の疾患を発症する可能性、疾患の予後及び療法への感受性の正確な個体別の予測を可能にする各患者の遺伝子、ゲノム及び臨床情報を確認することを目指す、健康管理の比較的若い分野である。したがって、個別化医療は、より情報に基づいた医学的決定を下すこと、より優れた標的療法を選択すること、及び健康管理費用を低減することを可能にする。
【0003】
神経膠腫は、グリア細胞の特徴を提示する腫瘍細胞を有し、全ての脳腫瘍の約42%を構成する、幅広いカテゴリーの原発性の脳及び脊髄の腫瘍である。アメリカがん学会によると、影響を受けるグリア細胞のタイプに従い、神経膠腫は3つのサブタイプ、すなわち星状細胞腫、希突起膠細胞腫及び上衣細胞腫に分けることができる。星状細胞腫は星状神経膠細胞から生じ、全ての脳腫瘍の約35%を占める。一般に、星状細胞腫は正常な脳組織全体に広がるので、根治可能でない。星状細胞腫は、顕微鏡下で生検材料を検査する医者が使用する基準に従い、生検試料の顕微鏡検査に基づいて、低悪性度、中悪性度又は高悪性度に通常分類される。最高の悪性度の星状細胞腫は、最も一般的な成人悪性脳腫瘍であるグリア芽細胞腫と呼ばれる。多形神経膠芽腫(GBM)患者の平均生存は、診断後14カ月未満である。
【0004】
神経膠腫の不均一なゲノム環境のために、将来の療法は、各患者の腫瘍の遺伝子型及びプロテオームプロファイルの個別化を必要とする可能性がある。実際、化学療法への応答と染色体プロファイルの間に明白な関係があるので、希突起膠細胞腫患者は個別化医療から既に利益を受けている(Cairncrossら、J.Natl.Cancer Inst.、1998年、90巻:1473〜1479頁)。
【0005】
タンパク質ホスファターゼメチルトランスフェラーゼ1(PME−1)は、その発現が悪性のグリア芽細胞腫(GBM)への低グレード星状細胞神経膠腫の進行と相関する、がん関連のタンパク質として同定された(Puustinenら、Cancer Res.2009年、69巻:2870〜2877頁)。PME−1はタンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)と相互作用し、その阻害はヒト細胞形質転換の必要条件である(Westermarck及びHahn、Trends Mol.Med.2008年、14巻:152〜160頁にレビューされている)。PME−1は、触媒PP2Acサブユニットの上に保存されているロイシン309の脱メチル化のために必要とされるその酵素的メチルエステラーゼ活性を通して、PP2A活性を阻害すると示唆されている(Janssensら、Trends Biochem.Sci.、2008年、33巻:113〜21頁)。PME−1がPP2Acサブユニットの触媒裂溝に直接結合することを実証するPME−1−PP2A複合体の構造解析に基づいて、阻害の代替機構が提案された(Xingら、Cell、2008年、133巻:154〜163頁)。それにもかかわらず、神経膠腫及びそれらの化学療法抵抗性の発達におけるPME−1の役割は、まだ決定されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の研究は神経膠腫の処置における個別化された治療法のための可能な将来の標的としていくつかの候補分子を見出しているが、化学療法から利益を受ける可能性がある患者を前記療法に応答する可能性がない患者から識別するために使用することができるマーカーの同定及び解明の必要性も確認されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、そのような療法を必要とする患者のために脳がん療法を選択する方法に関する。前記方法は、a)前記患者から得た試料中のPME−1の発現レベルを評価するステップと;b)前記患者が感受性である脳がん療法を選択するための基準としてステップa)で得られる結果を使用するステップとを含む。
【0008】
一実施形態では、PME−1発現の増加は、前記患者がSTS誘導体による単独療法に感受性でないことを示す。
【0009】
別の実施形態では、PME−1発現の増加は、前記患者がSTS誘導体及びPME−1サイレンシング剤による併用療法に感受性であることを示す。
【0010】
さらに別の実施形態では、インタクトなPME−1発現は、前記患者がSTS誘導体によるがん療法に感受性であることを示す。
【0011】
さらなる実施形態では、前記STS誘導体は、以下に記載する一般式(I)を有する。
【0012】
さらなる実施形態では、前記患者は、神経膠腫、星状細胞腫、若年性の毛様細胞性星状細胞腫、低悪性度星状細胞腫、未分化星状細胞腫、グリア芽細胞腫、希突起膠細胞腫及び上衣細胞腫からなる群から選択される脳がんを患っている。
【0013】
本発明の他の態様、具体的な実施形態、目的、詳細及び利点は、以下の図面、詳細な説明及び例に示される。
【0014】
以下において、本発明は、添付された図面を参照して好ましい実施形態によってより詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】スクランブルdsRNA(Scr.)及びPME−1特異的dsRNA(PME−1)でトランスフェクトしたヒトグリア芽細胞腫T98G細胞におけるPME−1発現のレベルを実証するウエスタンブロットを示す図である。
図1B】スクランブル又はPME−1特異的dsRNAで48時間トランスフェクトし、次に異なる薬物/化学的阻害剤の指示された濃度でさらに24時間処理した、T98Gグリア芽細胞腫細胞でのアポトーシス性核断片化の量を示す図である。略記号:Chl Cl−塩化ケレリトリン、TMZ−テモゾロマイド、STS−スタウロスポリン。
図1C】スクランブル又はPME−1特異的dsRNAで48時間トランスフェクトし、次にスタウロスポリン(STS)又は細胞死誘導リガンド、組換えFasL又はTRAILの指示された濃度でさらに24時間処理した、T98Gグリア芽細胞腫細胞でのアポトーシス性核断片化の量を示す図である。
図1D】スクランブルdsRNAをトランスフェクトさせた細胞と比較した、PME−1 dsRNAをトランスフェクトさせたT98G細胞のアポトーシスの、増加させた濃度のスタウロスポリンによる用量依存的増加を示す図である。
図1E】スクランブルdsRNA又はPME−1 dsRNAのトランスフェクション及び指示された濃度のスタウロスポリンによる2日間の処理の後の、T98Gグリア芽細胞腫細胞のコロニー形成(colonogenic)能を表す図である。
図1F】スクランブルdsRNA又はPME−1 dsRNAのトランスフェクション及び指示された濃度のスタウロスポリンによる2日間の処理の後の、U118MGグリア芽細胞腫細胞のコロニー形成(colonogenic)能を表す図である。
図2A】スタウロスポリン処理と組み合わせた3つの異なるPME−1 dsRNA、PME−1.1(配列番号1)、PME−1.2(配列番号2)及びPME−1.3(配列番号3)によるアポトーシスの核断片化の誘導を表す図である。
図2B】T98G細胞でのスクランブルdsRNA(Scr.)及び3つの異なるPME−1特異的dsRNA(PME−1.1、すなわち配列番号1、PME−1.2、すなわち配列番号2及びPME−1.3、すなわち配列番号3)のPME−1サイレンシング活性を実証するウェスタンブロットである。
図2C】スクランブルsiRNAでトランスフェクトさせた細胞と比較した、PME−1特異的dsRNA(PME−1.1、すなわち配列番号1、PME−1.2、すなわち配列番号2及びPME−1.3、すなわち配列番号3)でトランスフェクトさせたT98G細胞での残留PME−1レベルを示す上述のウェスタンブロット画像の濃度測定分析である。
図2D】トランスフェクトされていない細胞と比較した、PME−1 dsRNAをトランスフェクトさせたT98G細胞のアポトーシスの、増加させた濃度のスタウロスポリンによる用量依存的増加を示す図である。
図3A】T98G細胞の生存力に及ぼすPME−1 dsRNAのトランスフェクション及びスタウロスポリン処理の影響を示す図である。
図3B】T98G細胞での活性カスパーゼ−3及び−7のレベルに及ぼすPME−1 dsRNAのトランスフェクション及びスタウロスポリン処理の影響を示す図である。
図3C】核断片化の量として測定される、PME−1 dsRNA及びスタウロスポリンによって媒介されるアポトーシスに及ぼす、汎カスパーゼ阻害剤、Z−VAD−FMK処理の影響を示す図である。
図4A】核断片化の量として測定される、PME−1 dsRNA及びスタウロスポリンによって媒介されるアポトーシスに及ぼす、PP2A阻害剤、オカダ酸によるT98G細胞の前処理の影響を示す図である。
図4B】スクランブルdsRNAをトランスフェクトさせた細胞と比較した、スタウロスポリン処理後のPME−1特異的又はCIP2A特異的dsRNAのアポトーシス誘導能の比較を示す図である。
図4C】ヒトグリア芽細胞腫T98G細胞での、スクランブルdsRNA(Scr.)、PME−1特異的dsRNA(PME−1)及びCIP2A特異的dsRNA(CIP2A)のPME−1及びCIP2Aサイレンシング活性を実証するウェスタンブロット画像である。
図5A】スクランブル又はPME−1特異的dsRNAによる48時間のトランスフェクション、及び異なるスタウロスポリン誘導体/誘導体の指示された濃度によるさらなる24時間の処理の後の、T98Gグリア芽細胞腫細胞でのアポトーシス性核断片化の量を示す図である。
図5B】スタウロスポリン誘導体、PKC412及びK252aの指示された濃度による2日間の処理後の、スクランブル又はPME−1特異的dsRNAでトランスフェクトしたT98Gグリア芽細胞腫細胞のコロニー形成能を表す図である。
図5C】スタウロスポリン(STS)、PKC412及びK252aの指示された濃度による2日間の処理後の、スクランブル又はPME−1特異的dsRNAをトランスフェクトさせたU251MGグリア芽細胞腫細胞のコロニー形成能を表す図である。
図5D】スタウロスポリン(STS)、PKC412及びK252aの指示された濃度による2日間の処理後の、スクランブル又はPME−1特異的dsRNAをトランスフェクトさせたU87MGグリア芽細胞腫細胞のコロニー形成能を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、問題の患者が感受性である脳がん療法を選択するために、神経膠腫細胞における、別のPP2A阻害剤タンパク質、CIP2Aではなく、PME−1の発現レベルを使用することができるとの意外な知見に基づく。一部の実施形態では、特定の小分子化学療法剤、すなわちスタウロスポリン(STS)誘導体へのそれぞれのがんの感受性を予測するために、PME−1発現レベルを使用することができる。
【0017】
さらに具体的には、今日では、インタクトなレベルのPME−1発現を有する脳がん細胞が、STS誘導体による処置に対してPME−1発現陽性の脳がん細胞と比較して統計学的に有意により良好に応答することが見出されている(例2)。したがって、STS誘導体による処置から利益を受ける可能性がある対象とそうでない対象を確認するための層別化基準として、脳がん患者から得た試料中のPME−1の発現レベルを使用することができると想定される。
【0018】
本明細書で用いるように、用語「STS誘導体」は、それらに限定されないが式(I)の化合物及び任意のその立体異性体、ラセミ化合物、塩、溶媒和物又はプロドラッグを含む、STSに構造的に類似している任意の化合物を指す。式(I)の化合物は、以下の一般構造:
【化1】

を有し、上式で、
R’は、H又はアルキルであり;
R’’は、H又はアルコキシであり;
R1及びR2は、Hであるか一緒にオキソを形成し;
R3及びR4は、独立してH、OHであるか、又は一緒にオキソを形成し:
R5、R6、R6’、R7及びR8は、H、アルキル、アルコキシ、ヒドロキシ、ヒドロキシルアルキル、アルコキシカルボニル又はモノ−及びジアルキルアミノからなる群から独立して選択され;
Xは、CH又はOであり;
nは、0又は1である。
【0019】
上で言及される用語「アルキル」には、直鎖状及び分枝状の両方のC1〜6アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルなどが含まれる。一部の実施形態では、アルキル基は、1〜3個の炭素原子を含有するC1〜3アルキル基である。
【0020】
本明細書で用いるように、用語「アルコキシ」は、直鎖状及び分枝状の両方のC1〜6アルコキシ基、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシなどを指す。一部の実施形態では、アルコキシ基は、1〜3個の炭素原子を含有するC1〜3アルコキシ基である。
【0021】
本明細書で用いるように、用語「ヒドロキシアルキル」は、−OHによって置換される前述のC1〜6アルキル基のいずれかを指す。
【0022】
本明細書で用いるように、用語「アルコキシカルボニル」は、−COOHによって置換される前述のC1〜6アルコキシ基のいずれかを指す。
【0023】
用語「アミノ」は、−NHを指す。
【0024】
用語「モノアルキルアミノ」には、アミノ基で置換された前述のアルキル基のいずれかを含む。
【0025】
用語「ジアルキルアミノ」は、2つのアミノ基で置換された前述のアルキル基のいずれかを指す。
【0026】
本明細書で用いるように、用語「立体異性体」は、空間でのそれらの原子の配向だけが異なる個々の分子の全ての異性体の一般用語である。それは、鏡像異性体及びお互いの鏡像でない1つを超えるキラル中心を有する化合物の異性体(ジアステレオマー)を含む。
【0027】
本明細書で用いるように、用語「キラル中心」又は「不斉中心」は、4つの異なる基が結合している炭素原子を指す。
【0028】
用語「鏡像異性体」は、その鏡像の上に重畳することができず、したがって光学的に活性である分子を指し、そこで、鏡像異性体は偏光面を一方向に回転させ、その鏡像は偏光面を反対側の方向に回転させる。
【0029】
用語「ラセミ化合物」は、鏡像異性体の等分の混合物を指し、光学的に不活性である。
【0030】
式(I)のSTS誘導体の非限定例には、以下のものが含まれる:
スタウロスポリン(STS);化学名[9S−(9α,10β,11β,13α)]−2,3,10,11,12,13−ヘキサ−ヒドロ−10−メトキシ−9−メチル−11−(メチルアミノ)−9,13−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3’,2’,1’−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−1−オン、CAS番号62996−74−1:
【化2】

PKC412、別名ミドスタウリン、4’−N−ベンゾイルスタウロスポリン又はCGP41251;化学名[9S−(9α,10β,11β,13α)]−N−(2,3,10,11,12,13−ヘキサヒドロ−10−メトキシ−9−メチル−1−オキソ−9,13−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3’,2’,1’−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−11−イル)−N−メチルベンズアミド;CAS番号120685−11−2:
【化3】

K252a、別名SF2370;化学名9S,10R,12R)−2,3,9,10,11,12−ヘキサヒドロ−10−ヒドロキシ−9−メチル−1−オキソ−9,12−エポキシ−1H−ジインドロ[1,2,3−fg:3’,2’,1’−kl]ピロロ[3,4−i][1,6]ベンゾジアゾシン−10−カルボン酸メチルエステル;CAS番号99533−80−9:
【化4】

UCN−01、別名7−ヒドロキシ−スタウロスポリン;化学名(9S)−2,3,10,11,12,13−ヘキサヒドロ−3α−ヒドロキシ−10α−メトキシ−9−メチル−11α−メチルアミノ−9β,13β−エポキシ−1H,9H−ジインドロ[1,2,3−gh:3’,2’,1’−lm]ピロロ[3,4−j][1,7]ベンゾジアゾニン−1−オン;CAS番号112953−11−4:
【化5】

CEP−701、別名レストールチニブ;化学名(9S,10S,12R)−2,3,9,10,11,12−ヘキサヒドロ−10−ヒドロキシ−10−(ヒドロキシメチル)−9−メチル−9,12−エポキシ−1H−ジインドロ[1,2,3−fg:3’,2’,1’−kl]ピロロ[3,4−i][1,6]ベンゾジアゾシン−1−オン;CAS番号111358−88−4:
【化6】

SB−218078;化学名9、10、11、12−テトラヒドロ−9,12−エポキシ−1H−ジインドロ[1,2,3−fg:3’,2’,1’−kl]ピロロ[3,4−i][1,6]ベンゾジアゾシン−1,3(2H)−ジオン;CAS番号135897−06−2:
【化7】
【0031】
本明細書において、「STS誘導体による処置に応答性」という表現は、「STS誘導体に感受性」及び「STS誘導体による処置に感受性」という表現と同等であり、STS誘導体が投与される患者でSTS誘導体が治療効果を潜在的に有することができることを意味する。
【0032】
本明細書で用いるように、用語「処置」及び「治療効果」は、疾患の完全治癒だけでなく、疾患又はそれに関連する症状の予防、軽減及び改善も指す。用語「処置」及び「療法」は、互換的に使用することができる。したがって、用語「がん療法」は、例えば、がん、腫瘍サイズ及び/又は転移数の進行の阻害又は安定化を含む。
【0033】
患者での治療効果は、がん関連の障害を処置する臨床分野の当業者に公知である任意の方法によって監視することができる。そのような方法には、断層撮影法及びがんマーカーの検出が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書において、用語「患者」は、脳がん療法を必要とするヒト又は動物対象を指す。したがって、本発明の方法は、ヒト及び獣医学への応用に適用可能である。
【0035】
本明細書において、用語「神経膠腫」は、グリア細胞から生じる原発性脳腫瘍を指し、星状細胞腫、例えば若年性毛様細胞性星状細胞腫、低悪性度星状細胞腫、未分化星状細胞腫、又はグリア芽細胞腫、希突起膠細胞腫及び上衣細胞腫を含む。
【0036】
神経膠腫患者から得られる外科的又は生検検体は、PME−1の発現レベルについて分析するべき一般的な試料タイプである。一部の実施形態により、罹患脳組織から得られる外科的又は生検検体は、健常組織でのPME−1の発現レベルとの間の比較を可能にするために、隣接する健常組織も含有する。組織試料中のPME−1の発現レベルは、当技術分野で公知である任意の適する直接的又は間接的な検出方法によって判定することができる。そのような方法には、PME−1特異的抗体を使用する免疫組織化学が含まれるが、これに限定されない。そのような抗体は当技術分野で入手可能であり、当業者に公知のように、さらなる抗PME−1抗体を開発することができる。抗PME−1抗体結合の検出は、蛍光性、発光性、発色性、光度測定又は放射性の標識などの標識によって実施することができる。さらに、PME−1タンパク質発現のレベルは、PME−1のmRNAの発現レベルと相関することができ、当技術分野で公知のように例えばリアルタイムPCRによって判定することができると想定される。
【0037】
用語「PME−1発現の増加」又は「PME−1発現が陽性」は、関連する非悪性組織と比較してPME−1の有意に増加する発現を意味する。一部の実施形態では、前記有意な増加は統計的に有意である。PME−1発現レベルの差の有意性を評価する統計的方法は、当技術分野で容易に利用できる。
【0038】
一部の実施形態では、増加するとみなされるために、PME−1発現レベルは、対応する健常組織と比較して少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍である。
【0039】
本明細書において、用語「インタクトなPME−1発現」は、罹患組織が対応する健常組織より有意に高いレベルのPME−1を発現しないことを意味する。
【0040】
しかし一部の実施形態では、対応する非悪性組織と比較してPME−1の発現はわずかに、すなわち1.5倍未満増加するかもしれないが、なおインタクトであるとみなすことができる。
【0041】
本発明の実施形態により、神経膠腫組織がPME−1陽性である患者は、神経膠腫組織がインタクトなレベルのPME−1を発現する対応する患者よりも、STS誘導体による処置から受ける利益が低い可能性がある。したがって、PME−1発現が陽性の患者のためには、STS誘導体による処置以外の治療レジメンが推奨される。
【0042】
他方、神経膠腫組織が強化されたPME−1発現を示す患者は、転写レベル又は転写後レベルのいずれかでのPME−1発現のサイレンシング、及びSTS誘導体による処置の併用から利益を受けることができると想定される。そのような併用療法は、同時に、逐次的に又は別々に投与することができる。一部の実施形態では、前記併用療法は、悪性組織の外科手術を含むことができる。
【0043】
PME−1発現をサイレンシングするための手段及び方法は、それに限定されずにRNA干渉(RNAi)を含めて当技術分野で容易に利用できる。RNAiを媒介するのに適する小RNAの非限定例には、小二本鎖RNA(dsRNA)、小分子干渉RNA(siRNA)、ダイサー基質siRNA(DsiRNA)、人工マイクロRNA(miRNA)前駆体、及びショートヘアピンRNA(shRNA)が含まれる。PME−1特異的siRNA分子は、例えば、米国特許出願公開US2009/182134に開示され(配列番号5〜34)、フィンランド特許出願FI20115640はPME−1特異的siRNA及びshRNAを開示する(配列番号35〜40)。当業者に公知である市販及び非市販のアルゴリズムを使用して、さらなるdsRNA分子を設計することができる。
【0044】
当技術分野で周知であるように、PME−1発現をサイレンシングする他の方法の例には、一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(RNA又はDNA)及びリボザイム技術の使用が含まれる。
【0045】
PME−1遺伝子発現をサイレンシングするために使用される分子のいずれも、当技術分野で公知である標準の方法によって改変することができる。
【0046】
本発明のさらなる実施形態により、神経膠腫組織がインタクトなレベルのPME−1を発現する患者は、STS誘導体による単独療法から利益を受ける可能性がある。本明細書で使用するように、用語「単独療法」は、PME−1発現をサイレンシングしない、少なくとも1つのSTS誘導体による療法を指す。所望により、前記STS療法は、外科手術及び/又は任意の相乗的若しくは相加的な化学療法と組み合わせることができる。
【0047】
技術が進歩するに従って、発明の概念を様々な方法で実施することができることは、当分野の技術者に明らかになる。本発明及びその実施形態は、上記の実施例に限定されなく、請求項の範囲内で異なることができる。
【実施例】
【0048】
材料及び方法
真核生物の細胞培養及び小分子干渉RNA(siRNA)のトランスフェクション:この試験のために、本発明者らはT98G、U118MG、U251MG及びU87MGヒトグリア芽細胞腫細胞系を用いた。T98G及びU251MG細胞はイーグルのMEM培地で、U118MGはDMEM培地(Sigma−Aldrich)で、U87MGはDMEM/F−12培地(Gibco Products、Invitrogen)で、37℃で5%CO2の加湿雰囲気内で培養し、培地には、10%熱不活性化FCS及びペニシリン(100単位/mL)−ストレプトマイシン(100Ag/mL)を加えた。小分子干渉RNA(siRNA)のトランスフェクションは、製造業者の指示に従って、リポフェクトアミンRNAiMAX試薬(Invitrogen)で実施した。リバーストランスフェクションが96ウェルプレートで実施されたCellTiter−glo及びカスパーゼ−gloアッセイを除いて、全ての実験でトランスフェクションはフォワードトランスフェクションプロトコルを用いて実施された。以下のsiRNA配列が用いられた:スクランブルされた(5’−GUA ACA AUG AGA GCA CGG C−3’;配列番号4)、PME−1(5’−GGA AGU GAG UCU AUA AGC A−3’;配列番号1)、PME−1(5’−UCA UAG AGG AAG AAG AAG A−3’;配列番号2)又はPME−1(5’−AGG UCA AGA AUC CUG AAG A−3’;配列番号3)。
【0049】
化学的阻害剤及び薬剤:H−7、H−8、H−89、塩化ケレリトリン(Chl Cl)、スニチニブ、タンデュチニブ、ラパチニブ、バンデタニブ、PKC412及びK252aを含有する小さな阻害剤スクリーニングセットを、Biaffin GmbH & Co KGから購入した。塩酸トポテカンは、Selleck Chemicalsから購入した。UO126、LY294002、RO−31−8220、GO6976及びSB218078は、Calbiochemから購入した。スタウロスポリン(STS)、CEP−701、UCN−01は、Sigma−Aldrichから得られた;Tocris Bioscienceからのテモゾロマイド(TMZ)、アルシリアフラビンA及びK252c;Enzo Life Sciencesからのレベッカマイシン及びLC laboratoriesからのエンザスタウリン。汎カスパーゼ阻害剤Z−VAD−FMK、PP2A阻害剤オカダ酸、並びに活性化剤セレン酸ナトリウム及びキシルロース−5−ホスフェートは、Sigma−Aldrichから得られた。別のPP2A活性化剤FTY720は、Cayman chemicalsから購入した。ヒト組換え体Fc−FasL融合タンパク質及びヒト組換え体イソロイシンジッパーTRAIL(TRAIL)は、John Eriksson教授(Åbo Akademi University)から寄贈された。供給業者によって推奨される通りに、全ての化学物質は水又はDMSOのいずれかで再構成した。
【0050】
ウェスタンブロット法及び抗体:培養及び処理された細胞を2×SDS試料緩衝液/Laemmli緩衝液に溶解し、沸騰させ、10%アクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEによって分解した。タンパク質をPVDF膜に移した。膜をブロックし、5%ミルク−PBS−Tween20中で一次抗体の必要な希釈溶液及び二次抗体の1:5000希釈溶液と一緒に必要な時間インキュベートし、強化化学発光(ECL)によって発光させた。抗PME−1(クローンH−226)及び抗CIP2A(クローン2G10−3B5)抗体(1:1000希釈溶液)は、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。抗アクチン(クローンAC−40)抗体(1:10,000希釈溶液)は、Sigma−Aldrichから購入した。ウェスタンブロットの濃度測定分析は、MCID画像アナライザーソフトウェアを用いて実施した。
【0051】
細胞生存力アッセイ:細胞生存力は、代謝活性のある生存可能な細胞の指標として細胞性ATPレベルを測定する、CellTiter−glo(CTG)アッセイで判定した。CTG試薬キットをPromega Corp.から購入し、その推奨に従ってアッセイを実施した。アッセイは白色ポリスチレン96ウェルプレート(Nunc、Thermo Fisher Scientific Inc.)で実施し、発光はPerkin Elmer Victor2プレートリーダーで測定した。
【0052】
カスパーゼ−3及び−7の活性の分析:カスパーゼ−3及び−7の活性は、カスパーゼ−Glo3/7アッセイ(Promega Corp.)と命名された、カスパーゼ−3及び−7標的ペプチドDEVDを含有する基質を利用する発光に基づく方法で測定した。アッセイは製造業者の指示に従って白色ポリスチレン96ウェルプレート(Nunc、Thermo Fisher Scientific Inc.)で実施し、発光はPerkin Elmer Victor2プレートリーダーで測定した。
【0053】
サブG0/G1画分推定によるアポトーシスアッセイ:ヨウ化プロピジウム(PI)で染色された断片化核を含有するサブG0/G1画分の百分率を、アポトーシス細胞の目安としてとった。3.5〜4×10個の細胞を24ウェルプレートに平板培養し、siRNAで48時間トランスフェクトさせ、次に新鮮な培地で試験化合物の指示濃度で処理した。24時間の処理の後、浮遊細胞及び付着細胞の両方を遠心分離によって収集した。細胞ペレットは、PBSに40mMの三ナトリウムシトレート(Merck)、0.3%Triton X−100(Sigma−Aldrich)及び50μg/mlのヨウ化プロピジウム(Sigma−Aldrich)を含有する、400μlの低張PI緩衝液に再懸濁させ、暗室で10分の間室温でインキュベートした。PIで染色した核のフローサイトメトリー分析を実施し、記録したデータは、FACScanのフローサイトメーター及びソフトウェア(Becton Dickinson)をそれぞれ用いて分析した。
【0054】
汎カスパーゼ阻害剤を用いる実験では、トランスフェクションの18時間後からPI染色まで、30μMのZ−VAD−FMKを含有する増殖培地に細胞を保った。
【0055】
コロニー形成アッセイ:6ウェルプレートに超低密度(4〜6×10)で平板培養された細胞を、それらが小さなコロニーをつくるまで約7日の間増殖させた。製造業者の指示に従ってリポフェクトアミンRNAiMAX試薬(Invitrogen)を用いて、次にこれらの細胞をスクランブル又はPME−1のsiRNAでトランスフェクトさせた。48時間後に、化学薬剤の指示濃度による処理をさらに48時間与えた。細胞コロニーをPBSで洗浄し、3.7%ホルムアルデヒドで固定し、各々室温で15分の間0.2%クリスタルバイオレット溶液(10%エタノールで作製)で染色した。過剰な染色剤は、PBSによる反復洗浄によって除去した。プレートを乾燥させ、オリンパスSP−600UZカメラ又はEpson perfection V700スキャナで撮影し、ImageJで分析した。
【0056】
統計分析:試料平均の間の等しい分散を仮定する対応のないスチューデントのt検定を用いて、2群のデータの平均値間の差の有意水準を評価した。全てのp値は両側性であった。確率値p<0.05のパラメータは統計的に有意なものとして表され、p<0.001は非常に有意な差として表された。
【0057】
結果
がん細胞の生存及び異なる化学薬剤への感受性におけるPME−1の役割を研究するために、PME−1タンパク質レベルを有効に低減するために、ヒトグリア芽細胞腫T98G細胞をPME−1 siRNAで72時間、一時的にトランスフェクトさせた(図1A)。正常レベル又は低減されたレベルのPME−1を含有するT98G細胞(配列番号4に表すスクランブルsiRNA又は配列番号1に表すPME−1 siRNAでそれぞれトランスフェクトさせた細胞)を、セリン−トレオニンタンパク質キナーゼの広く特異的な阻害剤(H7、H8、H89、塩化ケレリトリン、UO126、LY294002、及びスタウロスポリン)、チロシンキナーゼ阻害剤(スニチニブ、タンデュチニブ、ラパチニブ及びバンデタニブ)、DNAトポイソメラーゼI阻害剤(トポテカン)、並びに多形神経膠芽腫(GBM)の処置のために現在用いられているDNAメチル化薬剤、テモゾロマイド(TMZ)を含む異なる化学薬剤で処理した。
【0058】
siRNAで48時間トランスフェクトさせたT98G細胞に薬剤処理を24時間与え、その後溶解し、それらの核は低張ヨウ化プロピジウム緩衝液を用いて染色した。溶解物は、断片化核のサブG0/G1画分の変化について、フローサイトメトリー(FACS)によって分析した(図1B)。核の凝縮及び断片化はアポトーシスの重要な生化学的特徴であり、サブG0/G1分析はアポトーシスの検出のために広く使われている(FEBS Lett.、1986、194(2):347〜50;Cytometry、1991、12(4):323〜329;Nature Protocols、2006、1:1458〜1461)。
【0059】
図1Bに例示されるように、インタクトなレベルのPME−1を発現するT98G細胞は、TMZ及びSTS以外の薬物による処置に良好に応答しなかった。しかし、誘導された核断片化の非常に高いレベルで判断されるように、PME−1の消失はSTSへの細胞の感受性を著しく増加させた。PME−1の消失は、試験した全ての化学物質のアポトーシス誘導作用をある程度増加させたが、H7、スニチニブ、LY294002及びTMZの作用だけが中等度とみなされた。換言すると、大部分の化合物(図1B)、又は細胞死誘導リガンド、FasL(組換えFc−FasL融合タンパク質)及びTRAIL(図1C)による細胞の処置は同じ傾向を示さなかったので、PME−1消失の相乗効果はSTSに特異的であることが見出された。
【0060】
さらに、STSは、スクランブルsiRNAによるトランスフェクション細胞で細胞死を誘導しなかった濃度で、PME−1減少細胞で用量依存的にアポトーシスを誘導することが見出された(図1D)。しかし、50nMより高い濃度では、対照の(スクランブルsiRNAでトランスフェクトさせた)T98G細胞においてさえも、STSは単独で細胞死を誘導し始めた。
【0061】
次に、STSへのグリア芽細胞腫細胞の感受性に及ぼすPME−1発現の作用を、T98Gグリア芽細胞腫細胞及び別のグリア芽細胞腫細胞系U118MGでのコロニー形成アッセイによって試験した。この実験のために、これらの細胞を小さなコロニーの形成まで6ウェルプレートで増殖させ、それらのコロニーは、次にスクランブル又はPME−1のsiRNAで48時間トランスフェクトさせ、続いて指示された濃度のSTSでさらに48時間処理した。コロニーをホルムアルデヒドで固定し、クリスタルバイオレットで染色し、画像をImage Jで分析した。インタクトなレベルのPME−1を発現する細胞は、STS処置に良好に応答しなかったが、PME−1消失は細胞を感作し、コロニーのほとんど完全な喪失をもたらした(図1E及び1F)。類似した結果が、両方のグリア芽細胞腫細胞系で得られた。
【0062】
上の実験で使用したPME−1 siRNA(配列番号1)の配列特異的標的外作用の可能性を排除するために、3つの異なるPME−1特異的siRNA配列(配列番号1〜3)をT98G細胞にトランスフェクトさせ、STS処置の後にアポトーシス性核断片化を分析した(図2A)。これらのPME−1 siRNAの有効性をウエスタンブロット法で測定し(図2B)、バンド強度を定量化してベータアクチンに対して標準化した(図2C)。全てのPME−1 siRNA配列は、グリア芽細胞腫T98G細胞をSTS媒介アポトーシスに感作させることができた。スクランブルsiRNAのトランスフェクションに起因するあらゆる可能なバックグラウンド効果を排除するために、トランスフェクションされなかったT98G細胞をSTSの漸増濃度で処理し、これらの細胞でのアポトーシスの核断片化をPME−1 siRNA及び同じ濃度のSTSを受けた細胞と比較した(図2D)。30nMより高い濃度のSTS単独で、限定量の細胞死が観察された。他方、PME−1が下方制御された細胞は、この実験で用いられた最も低い濃度でも、STS誘導細胞死に非常に感受性であった。
【0063】
PME−1減少細胞でSTSによって誘導される細胞致死の特徴を調べるために、グリア芽細胞腫T98G細胞の生存力に及ぼすPME−1 siRNAとSTS処理とのこの二重組合せの影響を、細胞−力価−glo(CTG)アッセイによって先ず分析した(図3A)。PME−1減少は多少細胞生存力を低減するが、同じ細胞がSTS処理も受けたときには細胞生存力の急激な低減があったので、結果はサブG0/G1分析と強く相関する。
【0064】
アポトーシスの別の生化学的特徴は、エフェクターシステイン−アスパラギン酸プロテアーゼカスパーゼー3及び7の活性化である。PMEー1減少単独は、カスパーゼ3/7の活性を2倍を超えて増加させることが見出され、それは、STS処理と組み合わせると6倍以上上昇し(図3B)、カスパーゼがアポトーシス誘導に関与することを示唆する。さらにカスパーゼ誘導の役割をさらに検証するために、PME−1 siRNA及びSTS処理を受けた細胞を実験期間中汎カスパーゼ阻害剤、z−VAD−fmkで処理し、アポトーシスを核断片化アッセイによって分析した(図3C)。本発明者らは、PME−1減少細胞でのSTS媒介アポトーシスの、カスパーゼ活性の阻害による完全な逆転を見出し、このアポトーシスがカスパーゼの誘導に完全に依存することが示唆された。
【0065】
次に、本発明者らが重視したのは、PME−1によって媒介される、STS誘導アポトーシスに対するグリア芽細胞腫細胞の抵抗性の背後にある可能な機構を調査することであった。PME−1の唯一の確立された直接標的はPP2Aであるので、それがPME−1阻害の影響を元に戻し、したがって細胞生存を促進するはずであるとの推測により、PP2Aの化学的阻害剤、オカダ酸(OA)を用いた。実際に、STS処理の前の24時間のOAでグリア芽細胞腫T98G細胞の前処理は、PME−1 siRNA及びSTS媒介アポトーシスから細胞を用量依存的に救済するのに十分だった(図4A)。これは、本発明者らが、これらのPP2A媒介アポトーシス作用がPME−1に特異的であるか、他のPP2A阻害/調節タンパク質と共有されるかどうかをさらに調べることにつながり、STS処理に応じてグリア芽細胞腫細胞をアポトーシスに感作させるそれらの能力について、CIP2A及びPME−1減少を比較した。CIP2A下方制御はアポトーシスを非常にわずかに増加させることを見出したので、それは、PME−1減少細胞(図4B)によって媒介されるような相乗作用とみなすことができず、これらの作用がPME−1下方制御に特異的であるという考えを支えた。それらのそれぞれのsiRNAによるCIP2A及びPME−1の有効な下方制御は、ウェスタンブロット法によって検証された(図4C)。
【0066】
上の全ての結果は、PME−1陽性のグリア芽細胞腫細胞がSTSによる処置に良好に応答しないことを実証する。他方、インタクトなPME−1発現を有するグリア芽細胞腫細胞は、STSによって媒介されるアポトーシスに感受性である。
【0067】
STSはキナーゼの広く特異的な阻害剤であることが文献で実証されているので、それは、臨床的に関連する治療薬とみなされていない。しかし、はるかにより特異的で、より少ない副作用を有し、現在異なる疾患の処置のために臨床試験中である、いくつかのSTS誘導体が知られている。そこで、本発明者らは、本発明者らの実験セットアップで、STSを異なる濃度のその誘導体、PKC412、K252a、RO−31−8220、GO6976、SB218078、アルシリアフラビンA、K252c、レベッカマイシン、エンザスタウリン、UCN−01又はCEP−701に交換した(図5A)。驚いたことに、PKC−412、K252a、UCN−01及びCEP−701が、STS自体よりさらに高いレベルで、PME−1減少グリア芽細胞腫細胞でアポトーシスを誘導することが可能なことが見出された。SB218078は、より高い濃度で中レベルのアポトーシスを誘導した。インタクトなレベルのPME−1を発現するグリア芽細胞腫細胞は、試験したSTS誘導体のいずれにも応答しなかった。
【0068】
2つの活性薬剤、PKC412及びK252aを用いるT98G細胞でのコロニー形成アッセイも、上記の知見を補強する(図5B)。細胞系特異的作用を避けるために、アポトーシス感作薬剤、STS、PKC412及びK252aの効力を、他のPME−1減少グリア芽細胞腫細胞系U251MG及びU87MGでも試験した。全ての試験細胞系で、PME−1減少はSTS、PKC412及びK252aの細胞致死活性を強化したが、処理の組合せの効力には細胞型依存性の差があった(図5C及び5D)。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]