(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367804
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】容量性無線給電システムのための電気的破壊保護
(51)【国際特許分類】
H02J 50/05 20160101AFI20180723BHJP
【FI】
H02J50/05
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-529149(P2015-529149)
(86)(22)【出願日】2013年8月9日
(65)【公表番号】特表2015-534427(P2015-534427A)
(43)【公表日】2015年11月26日
(86)【国際出願番号】IB2013056525
(87)【国際公開番号】WO2014033572
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年8月5日
(31)【優先権主張番号】61/693,959
(32)【優先日】2012年8月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516043960
【氏名又は名称】フィリップス ライティング ホールディング ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】特許業務法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】バン ゴアー デーブ ウィレム
(72)【発明者】
【氏名】バン デン ビガラー テオドルス ヨハネス ペトルス
(72)【発明者】
【氏名】ウィレムセン オスカー ヘンドリクス
(72)【発明者】
【氏名】イセブート レナート
【審査官】
猪瀬 隆広
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−511078(JP,A)
【文献】
特公昭48−011872(JP,B1)
【文献】
特開平10−207240(JP,A)
【文献】
特開2009−296857(JP,A)
【文献】
特表2012−530479(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/150316(WO,A1)
【文献】
実開昭54−028361(JP,U)
【文献】
特開2005−033475(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0302690(US,A1)
【文献】
特表2012−530481(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/150317(WO,A1)
【文献】
特開2009−089520(JP,A)
【文献】
特開2012−119160(JP,A)
【文献】
特開2011−259649(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0087143(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00−50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容量性電力伝送システムを電気的破壊から保護するための製品であって、
第1のタイプの非導電材料で作られる非導電層と、
第2のタイプの非導電材料で作られる保護層と、
を有し、前記第2のタイプの非導電材料で作られる保護層の破壊電圧は前記第1のタイプの非導電材料で作られる非導電層の破壊電圧よりも高く、前記保護層は前記非導電層の一部分のみを覆い、前記非導電層と前記保護層とは前記容量性電力伝送システムの絶縁層を形成する、製品。
【請求項2】
前記第2のタイプの非導電材料の高い誘電率の値は、前記第1のタイプの非導電材料の低誘電率の値よりも高い、請求項1に記載の製品。
【請求項3】
前記第2のタイプの非導電材料は、プラスチック、マイカ、カプトン(登録商標)、金属酸化物、酸化ケイ素、及び酸化アルミニウムのうちの少なくとも任意の1つである、請求項1に記載の製品。
【請求項4】
前記第1のタイプの非導電材料は、紙、木材、織物、ガラス、脱イオン水、及び非導電塗料のうちの少なくとも任意の1つである、請求項1に記載の製品。
【請求項5】
前記第2のタイプの非導電材料は、前記容量性電力伝送システムの1対の受信器電極の一方側に付与される、請求項1に記載の製品。
【請求項6】
前記非導電層は前記容量性電力伝送システムのインフラストラクチャに付与され、前記保護層は前記非導電層の少なくとも一部分に付与される、請求項1に記載の製品。
【請求項7】
前記少なくとも一部分は、前記容量性電力伝送システムの受信器と送信器との間の容量性結合が形成される部分である、請求項6に記載の製品。
【請求項8】
前記絶縁層は、前記容量性電力伝送システムの1対の送信器電極と1対の受信器電極との間の容量性インピーダンスの形成を可能にする、請求項1に記載の製品。
【請求項9】
電力信号の周波数がインダクタと前記容量性インピーダンスとの直列共振周波数と実質的に一致するとき、電力ドライバによって生成された前記電力信号は、負荷を給電するために、前記絶縁層に結合される前記1対の送信器電極から、前記負荷と前記インダクタとに接続される前記1対の受信器電極へと無線で伝送される、請求項8に記載の製品。
【請求項10】
容量性電力伝送システムのために用いられる、当該容量性電力伝送システムにおいて電気的破壊から保護する製品であって、
導電材料で作られる1対の電極と、
前記1対の電極の面に対し、当該1対の電極の一方側を覆う第1のタイプの非導電材料で作られる非導電層と、
前記1対の電極の面に対し、当該1対の電極の他方側を覆う第2のタイプの非導電材料で作られる保護層と、
を有し、前記第2のタイプの非導電材料で作られる保護層の破壊電圧は前記第1のタイプの非導電材料で作られる非導電層の破壊電圧よりも高く、前記非導電層と前記保護層とは前記容量性電力伝送システムの絶縁層を形成する、製品。
【請求項11】
前記第2のタイプの非導電材料の高い誘電率の値は、前記第1のタイプの非導電材料の低誘電率の値よりも高い、請求項10に記載の製品。
【請求項12】
前記第2のタイプの非導電材料は、プラスチック、マイカ、カプトン(登録商標)、金属酸化物、酸化ケイ素、及び酸化アルミニウムのうちの少なくとも任意の1つである、請求項10に記載の製品。
【請求項13】
前記第1のタイプの非導電材料は、紙、木材、織物、ガラス、脱イオン水、及び非導電塗料のうちの少なくとも任意の1つである、請求項10に記載の製品。
【請求項14】
容量性電力伝送システムを共振させるために負荷に結合されるインダクタを通じて、前記負荷に接続される1対の受信器電極と、
ドライバに接続される1対の送信器電極と、
請求項1に記載の製品と、を有し、前記1対の送信器電極と前記1対の受信器電極とは、前記1対の送信器電極と前記1対の受信器電極との間に容量性インピーダンスが形成されるように、前記製品の前記絶縁層の両側に設置され、電力信号の周波数が第1のインダクタと前記容量性インピーダンスとの直列共振周波数と一致するとき、前記ドライバによって生成された前記電力信号は、前記容量性電力伝送システムにおいて電気的破壊を引き起こすことなく、前記1対の送信器電極から前記1対の受信器電極へと無線で伝送される、容量性電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として、無線電力伝送のための容量性給電システムに関し、より詳細には、大領域表面にわたる無線電力伝送、及びこうした表面の電気的破壊からの保護に関する。
【背景技術】
【0002】
無線電力伝送とは、いかなる配線も接点も用いない電力の供給を指し、これにより電子装置の給電は無線媒体を通じて行われる。無線(非接触)給電のためのよくあるアプリケーションの1つは、例えば携帯電話、ラップトップ型コンピュータ等といった携帯型電子装置の充電用である。
【0003】
無線電力伝送のための1つの実現形態は、誘導給電システムによる。こうしたシステムでは、電源(送信器)と装置(受信器)との間の電磁インダクタンスが、無線電力伝送を可能にする。送信器及び受信器の両方は電気コイルを取り付けられており、物理的に近接されるときに、送信器から受信器へと電気信号が流れる。
【0004】
誘導給電システムでは、発生した磁界はコイル内に集中する。結果として、受信器のピックアップ・フィールドへの電力伝送は、空間的に非常に集中する。この現象は、システム内に、システムの効率を制限するホット・スポットを形成する。電力伝送の効率を改善するためには、各コイルに対する高い品質係数が必要とされる。この目的のために、コイルは最適なインダクタンス対抵抗比を特徴とし、低抵抗の材料で構成され、表皮効果を低減させるためにリッツ線加工を用いて製造されなければならない。更に、コイルは、渦電流を回避するために、複雑な幾何学的配置を充たさなければならない。したがって、効率的な誘導給電システムのためには、高価なコイルが必要とされる。大領域用の非接触電力伝送システムのためのデザインは、多くの高価なコイルを必要とする。したがって、こうしたアプリケーションに対して、誘導給電システムは実施可能でない恐れがある。
【0005】
容量性結合は、無線で電力を伝送するための別の技術である。この技術は、主にデータ伝送及びセンシングのアプリケーションで利用される。車の内部にピックアップエレメントを有する、窓ガラスに接着されるカーラジオアンテナは、容量性結合の例である。また、容量性結合技術は、電子装置の非接触充電のためにも利用される。こうしたアプリケーションに対しては、(容量性結合を実施する)充電ユニットは、装置の固有の共振周波数外の周波数で動作する。
【0006】
関連の従来技術において、LED照明を可能にする容量性電力伝送回路もまた検討されている。回路は電源(ドライバ)内のインダクタに基づく。したがって、単一の受信器だけが用いられることができ、送信器は最大の電力を伝送するように調節されなければならない。複数の受信器を有するシステムをデザインしようと試みるにあたっては、こうしたシステムは、受信器と送信器とが完全に位置合わせされていないときに受信器及び送信器からの電力伝送を保証する、ピクセル電極を必要とする。しかしながら、ピクセル電極の数を増やすことは、電極への接続の数を増加させ、これにより電力損失を増加させる。ピクセル電極が用いられない場合、全ての受信器を同じ共振周波数に調節することは実施不可能である。したがって、単一の受信器だけと、限定されたサイズの電極とを有するとき、関連の従来技術で検討される容量性電力伝送回路は、例えば窓や壁等の大領域にわたって電力を供給することができない。
【0007】
大領域用の低コストかつ高効率の無線電力伝送システムのデザインにおける別の課題は、システムの送信器側と受信器側との間の絶縁体の電気的破壊に関する。低コストのシステムを提供するために、低コストの非導電性材料が絶縁層として利用される。しかしながら、こうした材料は、比較的低い破壊電圧で電気的に破壊する傾向がある。通常、電気的破壊は、例えば電線又は絶縁層の絶縁体の破壊を指し、絶縁体が導電性となることを引き起こす。電気的破壊は、絶縁体の少なくとも一部分が導電性となることを引き起こす最小電圧である、破壊電圧において発生する。
【0008】
容量性電力伝送システムを電気的破壊から保護するために、このような破壊に対しロバストな非導電性材料が、絶縁層において利用され得る。しかしながら、こうした材料は、脆い材料よりも著しくコストがかかる。したがって、大領域表面にわたる電力伝送のためにデザインされる容量性電力伝送システムに対しては、電気的破壊から保護される絶縁層を提供するために、表面(例えば壁の表面)全体がロバストな材料で覆われる必要がある。しかしながら、こうしたデザインは、容量性電力伝送システムのコストを著しく増加させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、大領域用にデザインされる無線給電システムを電気的破壊から保護するための、低コストかつ実施可能な解決策を提供することが有利である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に開示されるある実施形態は、容量性電力伝送システムを電気的破壊から保護するための製品を含む。当該製品は、第1のタイプの非導電材料で作られる非導電層と、第2のタイプの非導電材料で作られる保護層とを有し、第2のタイプの非導電材料の破壊電圧は第1のタイプの非導電材料の破壊電圧よりも高く、保護層は非導電層の一部分のみを覆い、非導電層と保護層とは容量性電力伝送システムの絶縁層を形成する。
【0011】
また、本明細書に開示されるある実施形態は、容量性電力伝送システムにおいて電気的破壊から保護する製品を含む。当該製品は、導電材料で作られる1対の電極と、当該1対の電極の一方側を覆う第1のタイプの非導電材料で作られる非導電層と、当該1対の電極の他方側を覆う第2のタイプの非導電材料で作られる保護層とを有し、第2のタイプの非導電材料の破壊電圧は第1のタイプの非導電材料の破壊電圧よりも高く、非導電層と保護層とは容量性電力伝送システムの絶縁層を形成する。
【0012】
また、本明細書に開示されるある実施形態は、容量性電力伝送システムを直列共振周波数で共振させるために負荷に結合されるインダクタを通じて、負荷に接続される1対の受信器電極と、ドライバに接続される1対の送信器電極と、第1のタイプの非導電材料で作られる非導電層と第2のタイプの非導電材料で作られる保護層とを含み、第2のタイプの非導電材料の破壊電圧は第1のタイプの非導電材料の破壊電圧よりも高く、保護層は非導電層の一部分のみを覆う絶縁層とを有し、1対の送信器電極と1対の受信器電極とは、1対の送信器電極と1対の受信器電極との間に容量性インピーダンスが形成されるように、絶縁層の両側に設置され、電力信号の周波数が第1のインダクタと容量性インピーダンスとの直列共振周波数と一致するとき、ドライバによって生成された電力信号は、システムにおいて電気的破壊を引き起こすことなく、1対の送信器電極から1対の受信器電極へと無線で伝送される、容量性電力伝送システムを含む。
【0013】
本発明としてみなされる主題は、本明細書の末尾の請求項において具体的に指摘され、明瞭に特許請求される。本発明の前述の及び他の特徴や利点は、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本明細書に開示される様々な実施形態を説明するために利用される、容量性電力伝送システムの図である。
【
図2】ある実施形態によって構成される絶縁層の断面図である。
【
図3】様々なアレンジメントの絶縁層に対する、測定された電流リーク及び破壊電圧の例示的なグラフを示す。
【
図4】ある実施形態による電気的破壊保護層を含むようにデザインされる容量性電力伝送システムの受信器の図である。
【
図5】ある実施形態による電気的破壊保護層を含むようにデザインされる容量性電力伝送システムのインフラストラクチャの図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態は、本明細書における革新的な教示の多くの有利な利用の例にすぎないことに留意することが重要である。一般的に、本出願の明細書にある記載は、様々に特許請求されたいかなる発明も限定するわけではない。更に、ある記載はある発明の特徴に当てはまるが、他の特徴には当てはまらない可能性がある。一般的に、別段に示されていない限り、単数の要素は複数であってもよく、一般性を失わず、逆も同じである。図面において、同様の参照番号は、いくつかの図にわたり同様の部分を指すことが意図される。
【0016】
図1は、本明細書に開示される様々な実施形態を説明するために利用される、容量性電力伝送システム100の概略図を示す。システム100は、大領域の電力伝達を可能にする。システム100は、大領域にわたり電力を伝送することができ、したがって、壁、窓、鏡、床、座席、通路等に据え付けられる装置を給電するために利用され得る。
【0017】
システム100は、絶縁層130に取り付けられる1対の送信器電極121、122に接続されるドライバ110を含む。また、システム100は、負荷150とインダクタ160とに接続される1対の受信器電極141及び142を含む。オプションとして、システム100は、ドライバ110に結合されるインダクタ112を含んでもよい。
【0018】
ある構成では、送信器電極121、122からドライバ110までの間の接続は、ガルバニック接触による。別の実施形態では、容量性インカップリングがドライバ110と電極121、122との間に適用されてよく、これによりワイヤ接続は必要でない。この実施形態は、インフラストラクチャの容易な拡張のためのモジュール式インフラストラクチャにおいて有利である。
【0019】
受信器電極と送信器電極との間の直接接触なしに、受信器電極141、142を送信器電極121及び122に近接して配置することによって、電力は負荷150に供給される。したがって、負荷150を給電するために機械的接続又は電気的接触は必要とされない。負荷150は、AC双方向電流のフローを可能にする。負荷150は、次に限定されないが、照明素子(例えばLED、LEDストリング、ランプ等)、ディスプレイ、コンピュータ、充電装置、ラウドスピーカ等である。ある構成では、負荷150は、局所的にDC電圧を生成するためのダイオード又はAC/DCコンバータを含んでよい。また、負荷150は、ドライバ110によって生成される制御信号に基づいて負荷150の様々な機能を制御又はプログラミングするための電子機器を含んでもよい。
【0020】
ドライバ110は、直列のキャパシタとインダクタ112、160とからなる回路の直列共振周波数と同じ周波数を有するAC電圧信号を出力する。
図1において点線で示されるが、キャパシタC1及びC2は、送信器電極121、122と受信器電極141、142との間に形成される容量性インピーダンスである。共振周波数において、キャパシタ及びインダクタ160のインピーダンスは互いにキャンセルし合い、この結果、低オーミック回路となる。したがって、システム100は非常に低い電力損失で、負荷150に電力を送ることができる。
【0021】
ドライバ110は、AC信号の振幅、周波数、及び波形が制御され得る、当該AC信号を生成する。出力信号は、通常数十ボルトの振幅及び数メガヘルツ(MHz)までの周波数を有する。例示的な実施形態では、出力信号は通常50V/400kHzである。
【0022】
直列共振周波数をAC電力信号の周波数と一致させるために、ドライバ110による信号出力の周波数、位相、又はデューティ・サイクルを変化させることによって、生成された信号と直列共振との間の同調が行われ得る。周波数同調は、ドライバ110に接続される回路のキャパシタンス値又はインダクタンス値を変化させることによって達成され得る。
【0023】
送信器電極121、122は、受信器電極141、142に近接していない絶縁層130の一方側に配置される、2つの別体の導電材料を有する。例えば、
図1に示されるように、送信器電極121、122は絶縁層130の下にある。代替的に、送信器電極121、122は絶縁層130の両側に配置されてもよい。送信器電極121、122は例えば長方形、円形、正方形、又はこれらの組合せを含む任意の形状であってよい。各送信器電極の導電材料は、例えば炭素、アルミニウム、酸化インジウムスズ(ITO)、PEDOT(ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン))等の有機材料、銅、銀、導電性塗料、又は任意の導電材料であってよい。
【0024】
受信器電極141、142は、送信器電極121、122と同じ導電材料のものであってよく、又は異なる導電材料で作られてもよい。以下に詳細に検討されるある実施形態では、受信器電極141、142は、電気的破壊から保護するための保護層を含む。
【0025】
システム100の総キャパシタンスは、それぞれ送信器電極121、122と受信器電極141、142との重なる領域、並びに絶縁層130の厚さ及び材料特性によって形成される。システム100のキャパシタンスは、
図1においてC1及びC2として示される。また、システム100は、電気的共振を可能とするために、誘導素子を含まなければならない。この素子は、送信器電極又は受信器電極の一部であって、ドライバ110と負荷とにわたって分散される1以上のインダクタ(例えば、
図1に示されるインダクタ160及び112)、絶縁層130の中に組み込まれるインダクタ、又はこれらの任意の組合せの形式であってよい。システム100において利用されるインダクタは、集中定数コイル(lumped coil)の形式であってもよい。
【0026】
本明細書に開示される様々な実施形態によると、絶縁層130は、システム100を電気的破壊から保護する保護層を含む。上記のとおり、ドライバ110によって生成されるAC信号の振幅は、数十ボルトである。共振回路(上述の誘導素子及び容量性インピーダンスからもたらされる)は、生成された信号の電圧振幅を増加させる。例えば、生成された50Vの電圧振幅を有するAC信号は、共振回路のインダクタとキャパシタとの間で、数百ボルトの振幅まで増加され得る。高電圧信号は絶縁層の破壊電圧に達し、これにより容量性電力伝送システムにおける電気的破壊を引き起こす恐れがある。生成されたAC信号の電圧振幅が増加される係数は、共振回路のQ値によって決定される。
【0027】
ある実施形態により構成される絶縁層130の例示的かつ非限定的な断面図が、
図2に示される。絶縁層130は、非導電層210と、保護層220と、これらの間の充填層230とを含む。非導電層210は、例えば紙、木材、織物、テフロン(登録商標)、ガラス、脱イオン水、非導電塗料等を含む任意の絶縁材料であってよい薄層基板材料である。ある実施形態では、低誘電率の値を有する低コストの材料が非導電層210のために選択される。通常、こうした材料の破壊電圧は比較的低い。例えば、紙のシートの破壊電圧は1250Vであり、ガラスの破壊電圧は2000V〜3000Vである。非導電層210は、表面を通じて電力信号が無線で伝送され得る当該表面の全体を覆う。例えば、システム100が壁にわたって電力を伝送する場合、非導電層210は壁全体を覆う。この実施例では、非導電層210は壁紙で作られる。
【0028】
本明細書に開示される別の実施形態では、例示的かつ非限定的な
図2に示されるように構成される絶縁層130は、受信器電極を「隠す」ために利用される。したがって、美的な外観のデザインが必要とされるとき、非導電層210と保護層220とを含む絶縁層130は、受信器電極を覆うための美的な外観を提供する、例えば壁紙等としてデザインされてよい。美的な外観の観点に加え、絶縁層130はまた、電気的破壊から保護し、受信器電極と送信器電極とを十分に隔離することに留意されたい。
【0029】
保護層220は、高い破壊電圧、低いリーク電流、及び高い誘電率の値という特性を有する絶縁材料の薄層である。保護層220の材料は、次に限定されないが、プラスチック、マイカ、カプトン(登録商標)、金属酸化物、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等であってよい。例えば、1インチの厚さを有するマイカ材料のフォイルの破壊電圧は、5000Vである。
【0030】
保護層のために用いられる材料のコストは、絶縁層の材料のコストより比較的高い。しかしながら、保護層220は、受信器電極が配置される若しくは配置され得る場所における一部分の表面だけを覆い、又は受信器電極が保護層220で覆われる。このアレンジメントは、システムに対するいかなる追加的な著しいコストもなしに、容量性電力伝送システムを電気的破壊から効果的に保護することを可能にする。絶縁層130の厚さは、通常10ミクロン〜数ミリメートルの間である。
【0031】
層210と層220との間の充填層230は、絶縁層130のアレンジメントに依存する。充填層230は、受信器電極、又は2つの層210と220とを合わせる密着を可能とするための接着剤を含んでよい。絶縁層130のための別の例示的アレンジメントは、以下に検討される。充填層230はオプションであることに留意されたい。
【0032】
図2に示される実施形態では、絶縁層130は、異なるタイプの材料の2つの異なる層をスタックすることによって構成される。他の実施形態では、絶縁層130は、非導電層210及び/又は保護層220の更なる層をスタックすることによって構成されてよい。例えば、同じ材料又は類似の特性を有する異なる材料を有する2以上の非導電層が利用されてよい。例えば、壁紙が非導電層として用いられてよく、この場合、2以上の紙のシートが合わせてスタックされ、一方の紙のシートは普通紙で、他方のシートは装飾紙であってよい。
【0033】
別の実施形態では、非導電層210と保護層220とは、絶縁層130を形成するために、サンドイッチ状の構造でアレンジされてよい。ある例示的なアレンジメントでは、保護層220は、層130、ひいては容量性電力伝送システムのインフラストラクチャに対し、更なる機械的強度を提供するために、2つの非導電層210の中間に配置される。
【0034】
別の例示的アレンジメントでは、非導電層210は、電気的破壊に対するロバスト性を改善するために、2つの保護層220の中間に配置される。非導電層210のために用いられている低誘電率の値を有する材料だけをスタックすることは、リーク電流を増加させ、これによりシステムにおける電力損失を増加させることに留意されたい。各層(非導電層210又は保護層220のいずれも)は、無線電力伝送システムのキャパシタンス(例えば、
図1においてC1及びC2として示されるシステム100のキャパシタンス)に追加的なキャパシタンスを直列に加える。この追加的なキャパシタンスは、絶縁層を通じて流れるリーク電流の量に影響を与える。リーク電流は、完全な絶縁体ではなく非ゼロの導電率を有する誘電材料の結果である。ある実施形態では、保護層220は、できるだけ高い総キャパシタンスC1及びC2を有するために、できるだけ薄くデザインされる。絶縁層における非導電層及び保護層の数は、電気的破壊に対するロバスト性に加え、電力伝送システムにおける損失に影響を与える。
【0035】
図3は、様々なアレンジメントの絶縁層に対する、測定された電流リーク及び破壊電圧の例示的なグラフ310、320、及び330を示す。グラフ310、320、及び330は、上述の誘電素子と容量性インピーダンスとからもたらされる共振回路における、測定されたリーク電流対電圧振幅を示す。
【0036】
グラフ310は、単一の非導電層だけからなる絶縁層に対する、破壊電圧及びリーク電流を示す。この実施例では、この層は1シートの標準のA4サイズの紙である。グラフ310によって分かるように、破壊電圧は約900Vにあり、一方、最大リーク電流は400μAである。1シートの紙で形成されるキャパシタンスは450pFである。したがって、こうしたアレンジメントは、非導電層において0.36Wを放散し、これにより層を加熱する。
【0037】
グラフ320は、2シートの標準のA4サイズの印刷紙をスタックすることによって形成される、2つの非導電層だけからなる絶縁層に対する、破壊電圧及びリーク電流を示す。1シートの紙で形成されるキャパシタンスは330pFである。こうしたアレンジメントでは、破壊電圧は1400Vに増加されると同時に、リーク電流もまた約700μAに増加される。したがって、こうしたアレンジメントでは電力損失がより高い(例えば1W)。
【0038】
グラフ330は、1シートの標準のA4の印刷紙によって形成される非導電層と、1シートのプラスチックフォイルで作られる保護層とからなる絶縁層に対する、破壊電圧及びリーク電流を示す。1シートの紙と1シートのプラスチックフォイルとをスタックすることによって形成されるキャパシタンスは、330pFである。グラフ330によって分かるように、2000Vまで破壊電圧は発生しない一方で、リーク電流は3μAを下回ったままである。したがって、1シートの紙と1シートのプラスチックフォイルとをスタックするアレンジメントは、容量性電力伝送システムにおける電力損失を増加させずに、こうしたシステムを電気的破壊から保護することができる。更に、追加の保護層は、絶縁層のキャパシタンスを実質的に変化させることなく追加され得る。
【0039】
容量性電力伝送システムにおける絶縁層の形成は、別の実施形態を用いて達成されてもよい。
図4に示されるある実施形態では、容量性電力伝送システムの受信器400において、保護層410は、受信器電極420、421の一方側に結合される。
【0040】
上述のとおり、受信器電極420、421は導電材料で作られる。受信器電極420、421の他方側には、非導電層430が結合される。上述のとおり、保護層410は少なくとも高い破壊電圧によって特徴付けられる非導電材料で作られる。保護層410は、受信器電極420、421のプレート領域しか覆わない。保護層410と非導電層430との受信器電極420、421への結合は、電気的非導電接着剤、非導電繊維、又は例えば、ねじ、クリップ、釘等の機械的手段によって作られてよい。
【0041】
別の実施形態では、絶縁層を形成するために、容量性電力伝送システムのインフラストラクチャに非導電層と保護層とのスタックが付与される。例示的かつ非限定的な
図5に示されるように、非導電層500は例えば壁、天井、床、ドア、及び覆われることのできる他の表面であってよいインフラストラクチャ510に配置される。非導電層500は、壁紙、ガラス層、木材層、塗装層、又は任意の低コストの非導電材料であってよい。
【0042】
非導電層500の前面の一部分は、保護層520で覆われる。保護層520のカバーは、受信器電極、ひいては負荷がインフラストラクチャ510に結合され得る領域にのみ付与される。通常、こうした領域は、送信器電極もまた(通常、非導電層500の背面に)設置される場所である。
図5に示されるように、保護層520は、「A」及び「B」とラベルされる2つの異なる領域において付与される。受信器電極と負荷とを含む受信器530は、領域Aにおいて接続される。保護層520は、電気的非導電接着剤材料、非導電繊維材料、又は例えば、ねじ、クリップ、釘等の機械的手段によってインフラストラクチャ510、ひいては非導電層500に固定されてよい。当業者は、他の固定手段が適用可能であることを容易に理解するであろう。
【0043】
本明細書に開示される、電気的破壊からの保護を提供するために絶縁層を形成するための様々な実施形態は、ドライバ(例えば
図1のドライバ110)と送信器電極(例えば
図1の送信器電極121、122)との間に容量性結合が形成されるときに、送信器電極を保護するために利用され得ることに留意されたい。
【0044】
本発明は、前述のいくつかの実施形態に関して、相当な長さで相当詳細に説明されたが、本発明は、こうした詳細すなわち実施形態、又はいかなる特定の実施形態にも限定されることは意図されず、従来技術を考慮して添付の請求項の最も広い可能な解釈を提供するように、したがって本発明の意図される範囲を効果的に包含するように、こうした請求項を参照して解されるべきである。更に、現在想定されない本発明のわずかな修正がなお本発明に対する等価物を表す可能性があるが、上述の説明は、実施形態を可能にする説明が可能であった、発明者によって想定された実施形態に関して、本発明を説明している。