(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
弾性率分布画像を算出するステップは、体についての弾性率分布の射影像を取得するために、体内の内壁上に射影された弾力性分布像を算出する動作を備える、請求項1乃至請求項3のうちのいずれか一項に記載された方法。
前記画像処理方法は、超音波画像診断装置を使用して得られた体の画像の上に、前記体についての弾性率分布の射影像を重ね合わせ処理するステップをさらに備える、請求項1乃至請求項4のうちのいずれか一項に記載された方法。
診断者が診断したいと望む体の部位として前記診断者が選択した部位に対応するパルポグラフィー撮像領域を受信するステップをさらに備え、前記体の弾性率分布画像を算出する前記ステップは、前記パルポグラフィー撮像領域上において実施される、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項5のうちのいずれか一項に記載された方法。
コンピュータ読み取り可能なデータ記録媒体上に記録されたプログラム・コードを含むコンピュータ・プログラムであって、当該コンピュータ・プログラムがコンピュータ上で実行されたときに、当該コンピュータ・プログラムは、請求項1乃至請求項7のうちのいずれか一項に記載された方法を実行するようにプログラミングされているコンピュータ・プログラム。
【背景技術】
【0002】
アテローム又はアテローム性動脈硬化とは、大規模の血管又は平均的規模の血管(大動脈、冠状動脈、大脳動脈、下腰動脈など)の内膜の転位に対応し、脂質、複合炭水化物、血液、血液製剤、脂肪組織、石灰質沈着およびその他の無機物などが血管内壁上で区域性集積することによって引き起こされる。
【0003】
この血管病変は、一般的には、数十年かけてゆっくりと進行するので、状態が安定し、患者にとって差し迫った危険性を示さないものであるかも知れないが、これが悪化すると、動脈硬化プラークの破裂に結び付きかねない不安定な状態となり、その場合、数日中に致死性の又は病的な心臓血管障害または脳卒中を引き起こす(CVA)可能性がある。
【0004】
実際、動脈硬化プラークの破裂は、当該破裂したプラークの内容物を血管内で運ばれる血液に接触させることとなり、その結果として、血栓が形成され得る。当該血栓の形成は、血管の作用部位における血流を阻害する。また、血栓は、血管内壁から剥がれ、血流によって運ばれ、最も深刻な場合には、血管内腔を完全に詰まらせて、病変部位よりも先にある領域への血液供給を止めて、当該領域における虚血状態を生じさせる。
【0005】
生体組織の特性を調べることは、医学的診断における根本的な関心事であり、特に、アテローム性の動脈硬化プラークが破裂する危険性を評価する際の根本的な関心事である。最近の20年間にわたって、新たな医療画像診断技法が研究開発され、これは超音波弾性率計測方式と呼ばれる。
【0006】
触診による診断と全く同じ原理に基づいて、上述した弾性計測法式は、力が作用している状態の下での生体媒質の弾力性挙動を局所的に調べる。この検診法は、上記力を作用させる前後において取得された又は上記力を複数の異なる強さで作用させた際に取得される無線周波数帯域の超音波信号に基づいている。
【0007】
上述したとおり、アテローム性の動脈硬化プラークは、血管の内壁上に脂質やコラーゲン等が堆積したものを意味している。血管内壁上のこの堆積物は、血管壁の弾力性を増加させたり、減少させたりするという結果を生じる。超音波弾性率計測方式により、アテローム性の動脈硬化プラークが破裂する危険性を評価することを可能にする情報が当業者に提供されることとなる。
【0008】
特許文献1は、生体媒質の弾性率分布特性についての画像を提供可能とする超音波弾性率計測法について記述している。より詳細には、この方法は、血管などのように体内の管状の内腔を取り巻く厚み層において一部に局在するハッキリとした硬さを判定し、画面表示することを可能とする。しかしながら、この方法は、特許文献1に開示された局所的な又は大域的な弾性率分布の定式化が正しくなされているかどうかについての信頼性に疑問(定式化された弾性率分布は実際の弾性率分布ではないのではないかという疑問)を生じるという大きな欠点を抱えている。
【0009】
特に、体内の管状の内腔を取り巻く厚み層の一部に局在する弾性率は、以下の仮定が成り立つことを前提として推定されている。
−体の内壁と外壁は円筒形状かつ同心円状である(すなわち、体の内腔を取り巻く円筒状壁面の内側と外側との間における体の厚みは均一である)。
−体の内腔を取り巻く内壁面と外壁面には空間的に均一に分布した圧力が作用している。
上記仮定を置くことにより、特許文献1記載のこの方法を実施した結果得られる弾性率分布の値は、診断された身体の実際の弾性率分布の値とは大きく異なるので、この値は、身体的所見について何の意味も持たない(つまり、この値は、実際の弾性率分布ではない)。
【0010】
従って、特許文献1記載の方法によっては、診断を行うために利用可能な情報として充分に正確な情報を当業者が得ることが可能とはならない。本発明の一つの目的は、特許文献1記載の方法について上述した技術的欠点を克服することを可能にする超音波弾性率計測法を提供することである。
【発明の概要】
【0012】
上述した目的に鑑み、本発明は、体を構成する生体物質に基づいて、体の内腔部分を含む身体の弾性率分布画像を生成することを可能とする画像処理方法であって、
体内の圧力差に基づいて、体上の複数の点の移動範囲を図示する変形歪み画像を受信するステップと、
前記変形歪み画像から体の形状関数を推定するステップと、
前記形状関数、前記圧力差および前記変形歪み画像に基づいて、弾性率分布画像を算出するステップと、
を備えることを特徴とする。
【0013】
体の形状関数を推定し、弾性率分布画像を算出するためにこの形状関数を使用することにより、弾性率分布画像を算出するに際して体の幾何学的形状を充分に考慮に入れることが可能となる。従って、複雑な幾何学的形状を有する体であっても、整合的な弾性率分布画像を得ることが可能となる。
【0014】
本発明に係る画像処理方法の好適であるが非限定的な技術的側面は以下のとおりである。
体の形状関数を推定するステップは、
体の輪郭曲線画像を得るために、前記変形歪み画像から、体の内側と外側の輪郭曲線を検出するステップと、
作業用画像を取得するために、前記体の輪郭曲線画像内に均一な弾性率分布を割り当てるステップと、
前記作業用画像から形状関数を決定するステップと、
を備え、
体の形状関数を推定するステップは、有限要素法解析を実行するステップを備え、
弾性率分布画像を算出するステップは、体についての弾性率分布の射影像を取得するために、体内の内壁上に射影された弾力性分布像を算出する動作を備え、
前記画像処理方法は、超音波画像診断装置を使用して得られた体の画像の上に、前記体についての弾性率分布の射影像を重ね合わせ処理するステップをさらに備え、
診断者が診断したいと望む体の部位として前記診断者が選択した部位に対応するパルポグラフィー撮像領域を受信するステップをさらに備え、前記体の弾性率分布画像を算出する前記ステップは、前記パルポグラフィー撮像領域上において実施され、
前記体の弾性率分布画像を算出する前記ステップは、以下の数式
【数1】
を解く処理動作を備え、上記数式において、
θは体の角度位置を表し、rは体の半径方向の位置を表し、ΔPは圧力差を表し、R
i(θ)およびR
p(θ)は、体の角度位置に基づいて得られるパルポグラフィー領域の内径と外径を表し、h
*(r,θ)は、体の角度位置と半径方向の位置に基づいて体の形状関数を近似した近似関数であり、ε
rr(r,θ)は、体内の位置に基づいて得られる体の半径方向歪みの真の値を表す。
【0015】
本発明はさらに、コンピュータ読み取り可能なデータ記録媒体上に記録されたプログラム・コードを含むコンピュータ・プログラム製品とも関係し、当該コンピュータ・プログラムがコンピュータ上で実行されたときに、当該コンピュータ・プログラムは、上述した方法を実行するようにプログラミングされている。以下において後述する発明の詳細な説明において、本発明に係るさらなる技術的特徴と技術的優位性が説明されるが、当該発明の詳細な説明は、純粋に発明内容の例示を目的としたものであり、本発明の権利範囲を限定することを意図したものではなく、下記において簡単に説明する複数の添付図面を参照しながら理解されなくてはならない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、内腔を含む身体に対して応用可能な方法であって、内腔の内壁面上における体内弾性率分布に関連した情報をリアルタイムに提供可能とする例示的な方法について具体的に説明する。以下の記述においては、当該方法は、血管の診断事例を参照しながら説明される。しかしながら、この方法は、内腔を含む他の身体部位(例えば、心臓など)にも応用可能であり、または内部に空洞部分を含む工業製品の内部構造であって、内部の空洞部分の周囲において変形歪み量が数値化可能であるような内部構造の検査にも応用可能である。
【0018】
アテローム性の動脈硬化プラークを診断する場合、本発明に係る方法は、
−動脈硬化プラーク上の複数の点が変形歪みにより動いた移動領域を図示する変形歪み画像を受信するステップと、
−前記動脈硬化プラーク内における圧力差を受信するステップと、
−前記変形歪み画像及び前記圧力差を使用することにより、前記動脈硬化プラークの形状関数を推定するステップと、
−前記形状関数、前記圧力差及び前記変形歪み画像に基づいて、前記動脈硬化プラークの弾性率分布画像を算出するステップと、を備える。以下、これらの多様な動作ステップについて詳細に説明する。
【0019】
<1>本発明に係る方法を実行するための一連の動作ステップ
(1.1)内腔を含む身体を形成する複数の点の変形歪みによる動きに関する写像変換イメージを受信するステップについて
【0020】
図1を参照すると、本発明に係る方法は、「エラストグラム(弾性画像)」と呼ばれる変形歪み画像を受信するステップ100を備え、「エラストグラム」とは、体内の圧力差に基づいて、身体上の複数の点が変形歪みにより動いた移動領域を表示する画像である。エラストグラムは、解析対象となる身体部位(ここでは、血管組織である)を血圧に基づいて圧縮する動作から生じる内壁面上の変形歪みを表現している。エラストグラムは、当業者にとって既知である任意の公知な方法を使用して取得することが可能である。
【0021】
例えば、エラストグラムは以下のような方法で取得することで可能である。診断対象として所望される患者の血管部位に位置する血管内に向けて超音波式の探針が導入される。心臓の拍動の働きにより、当該診断対象となる血管組織が圧縮と拡張を繰り返す間に、当該血管部位についての時系列的に連続する複数の超音波診断画像が取得される。エラストグラムは、当該時系列的に連続する複数の超音波診断画像における力学的な挙動を調べることにより取得される。
【0022】
特に、上述した力学的挙動を調べる処理動作は、
一つの心拍周期内の2つの異なる時点において当該血管部位についてそれぞれ取得された2つの異なる超音波画像を比較するステップであって、当該2つの異なる超音波画像は、当該血管部位に作用する2つの異なる強度の力についてそれぞれ取得される、ステップと、
当該2つの異なる超音波画像の間において、画像を構成する各画素点の位置を互いに比較することにより得られる画素点の動きに関する写像変換を決定するステップと、
前記2つの異なる超音波画像を取得する間に測定された複数の血管圧の間における圧力差を減算により求め、これにより、前記2つの異なる超音波画像の間における血管圧の圧力差を決定するステップと、
を備えることが可能である。
【0023】
当該血管部位の変形歪み画像すなわちエラストグラムが一方として得られ、この変形歪み画像を取得可能とする圧力差が他方として得られる。これら2つの情報断片(解析対象となる身体上の点の変形歪みによる動きに関する写像変換および当該変形歪みによる動きに関する写像変換と関連付けられた圧力差)は、体の内腔を取り巻く内壁上の弾性率分布を決定するために続いて実行される後続の動作ステップを実装するのに有益な情報である。
【0024】
(1.2)身体の内側と外側の輪郭曲線を決定するステップについて
【0025】
本発明に係る方法は、上述した血管部位の(より正確には、変形歪み画像における血管部位の)内側と外側の輪郭曲線を検出するステップをさらに備える。
【0026】
内腔を含む体の輪郭曲線を検出することは、画像内に含まれるデータ量を大幅に削減し、画像の構造上の本質的特性を損なわずに、本発明に係る方法を実施するのに無関係な情報の発生を抑制することを可能にする。
【0027】
画像における血管部位の内側と外側の輪郭曲線を検出するステップは、当業者にとって既知である任意の公知技術に基づいて実現することが可能であり、例えば、画像内において検出すべき対象物を記述する画像特性から計算されたエネルギー関数の極値点を探索する探索アルゴリズムに基づいて実現することが可能である。画像内において検出すべき対象物には、稜線、輪郭線または勾配を表す情報やテクスチャに関する属性に加え、灰色陰影強度の分散または灰色陰影強度に関する任意の他の関数または画像内の輪郭曲線、経時的な情報(オプティカル・フローや他の画像部分との間の相関)および検出対象となる身体の外形形状又は端面に関する先験的な情報などが含まれる。
【0028】
当該輪郭曲線を検出するステップは、上述した血管部位の内側の輪郭曲線(つまり、管腔内壁の輪郭)および上述した血管部位の外側の輪郭曲線を表現している体の輪郭曲線画像を取得可能にする。
【0029】
(1.3)形状関数を決定するステップについて
【0030】
本発明に係る方法はさらに、上述した血管部位の形状関数を決定するステップ200を備える。当該形状関数を決定するこのステップは、
−前記輪郭曲線を検出するステップを実施した際に取得された輪郭曲線画像から、
−前記輪郭曲線画像に含まれる部位の内壁面と外壁面との間において弾性率の分布が均一であると仮定することにより、
実施される。
【0031】
形状関数を近似する近似関数を決定するステップは、輪郭曲線画像内に表現された血管部位について最適な状態において真の形状を記述する関数「h」(この場合、真の形状は、近似することが所望される関数「h」によって記述される)を見出す動作を含んでいる。好適には、形状を近似する関数「h」は、当業者によって以下のように知られている有限要素法を使用することにより決定される。
【0032】
任意のM個の点において評価することが所望されている未知の関数「h」が与えられたときに、当該未知の関数の近似は、関数hを最も良く近似する関数h
*を見出すことであるとすると、近似関数h
*は、選択された近似基本式の形で作成され、有限要素法の場合、この近似基本式は、好適には多項式である。当該近似基本式に含まれる項の個数をnと表記し、近似関数h
*が真の関数hと等しい値をとる点の個数をMlが与えられたならば、以下の式が成り立つ。
【数2】
【0033】
(1.4)弾性率分布の写像変換を決定するステップについて
【0034】
本発明に係る方法はさらに、身体の弾性率分布を推定するステップ、特に、上述した血管部位の内壁面上に射影された体内弾性率分布を推定するステップ300を備える。この射影された弾性率分布は、以下の情報から推定される。
−身体の変形歪み画像すなわちエラストグラム。
−前記変形歪み画像を取得可能とする複数毎の画像同士の間における管腔圧力の差分ΔP。
−身体について推定された形状近似関数h
*。
【0035】
以上から、特許文献1に記載された方法とは異なり、本発明に係る画像生成方法は、身体の弾性率に関する特徴を表す画像を提供するに際して、身体の内腔部分の形状を充分に考慮に入れている。このことは、真の弾性率の値に一層近い値を有する弾性率分布画像が取得されることを可能にする。さらに、このことは、実際には病変部位ではない箇所を誤検出する危険性を限定的なものとすることを可能にする。実際、特許文献1記載の方法を使用した場合においては、実際には病変部位ではない箇所を誤検出した事例が数多く見つかったので、アテローム性の動脈硬化プラークが破裂する危険性を検出する診断ツールを診断者が使用できなくなってしまった。
【0037】
本発明に係る画像生成方法は、アテローム性の動脈硬化プラークにおける弾性率分布についての情報をリアルタイムに提供することを可能にする。この情報は、診断者が当該動脈硬化プラークの破裂の危険性を予測することを可能にすると共に、このアテローム性の動脈硬化プラークの内部状態に関して踏み込んだ診断措置を行うことが必要となるか否かの基準を診断者が規定することを可能にする。
【0038】
本発明の基本動作手順は以下のとおりである。診断者は、超音波式の探針を患者の血管内に挿入する。所与の血管部位について、診断者は、当該超音波式探針の周囲にある着目領域を選択する。この着目領域は、(血管組織の全体区域に対応するまたは当該区域に含まれる)パルポグラフィー撮像領域を規定する。このパルポグラフィー撮像領域は、身体の管状の内腔を取り囲む厚み層であり、Ω
palpoと表記される点に留意されたい。
【0039】
当該超音波式探針を使用することによって複数の超音波診断画像が取得される。当該取得された画像毎に血管内の血圧が測定される。
【0040】
これら複数の超音波診断画像の中の2つの画像から、圧力差に加えて、変形歪み画像が算出され、当該圧力差は、当該2つの画像にそれぞれ関連付けられた2つの血圧の間における差分ΔPに対応する。
【0041】
当該取得された複数の画像の中の一つすなわち変形歪み画像から形状関数がさらに推定される。形状関数h
*は、考慮対象の画像内に含まれる動脈硬化プラークの内側と外側の輪郭曲線を検出し、続いて、有限要素法解析を実行することによって推定される。
【0042】
当該変形歪み画像、圧力差及び形状関数は、血管部位の内壁面上に射影された弾性率分布像を算出するために使用される。この弾性率分布像は、例えば、当該超音波式探針を使用することにより取得された当該複数の超音波診断画像の上に重ね合わせ処理がされ、複数の異なる弾性率の値は色彩コードを使用して表現され、その結果、診断中の血管部位が健康であるか否か、または診断中の血管部位には危険性があり、追加の精密検査を実施する必要があるか否かを診断者は素早く判断することが可能となる。
【0043】
本明細書の以下の記述においては、本発明の幾らか理論的な側面がより詳しく説明される。
【0044】
<2>本発明に係る画像生成方法に関係する理論
【0045】
冠状動脈に生じるアテローム性動脈硬化プラークについて生体内(インビボ)特性抽出を行うと共に、超音波弾性率計測方式に基づいて、当該動脈硬化プラークの自然発生的な破裂を予測するためのいくつかの方法が存在する。しかしながら、これらの方法を使用しても、ヤング率で表された当該動脈硬化プラークの弾性率をリアルタイムに決定することが可能とはならない。実際、これらの方法は、連続体力学の分野における反復実行的で非線形の数理最適化を行う計算ツールに基づいて複雑な計算アルゴリズムを使用している。
【0046】
特許文献1には、アテローム性動脈硬化プラークの局所的でハッキリとした硬さをリアルタイムに判定し、画面表示する方法が記述されている。
【0047】
しかしながら、この方法は、アテローム性動脈硬化プラークの局所的でハッキリとした硬さを判定する際に、当該動脈硬化プラークの複雑な幾何学的形状を考慮に入れていない。実際、特許文献1の事例で言うならば、以下の仮定が成り立つことが前提とされなくてはならなくなる。
−アテローム性動脈硬化プラークは円筒形の形状を有する。
−アテローム性動脈硬化プラークは、均質かつ等方性で非圧縮性の生体媒質で形成されている。
−アテローム性動脈硬化プラークに対して外側から半径方向に作用する力の分布は均一である。
【0048】
これらの仮定を置いてみたところで、診断者によって使用可能な当該動脈硬化プラークの機械力学的な性質についての情報を、当該動脈硬化プラークが破裂する危険性を評価するために得ることは実現可能とはならない。
【0049】
本発明に係る画像生成方法は、動脈硬化プラークの弾性率分布画像を算出するステップの実行中において以下の2つの点を考慮に入れることにより、形状関数を使用したおかげで、特許文献1記載の方法の技術的欠点を克服した。
−動脈硬化プラークの幾何学的形状
−診断者が選択した着目領域に対応するパルポグラフィー撮像領域の幾何学的形状。
【0050】
本発明の発明者による以下の着想に基づいて、特許文献1に記載された方法の欠点が解決された。
【0051】
半径方向の偏差応力
【数3】
、ヤング率で表された弾性係数E(r,θ)および線形の連続体についての半径方向の変形歪み成分ε
rr(r,θ)の間において以下の数式が成り立つ。
【数4】
式(1)
上述した線形の連続体は、弾性を有し、線形非圧縮性であり、等方性であり、かつ非均質な連続体である。ここで、(r,θ)は、血液が中を流れる内腔部分の重心とされる点を原点とする極座標の座標系である。
【0052】
力学的な変形歪み係数
【数5】
は、以下の数式で表されるように、半径方向軸に沿った半径方向変形歪みの平均値に対する半径方向偏差応力の平均値の比率に等しいとして再定義される。
【数6】
式(2)
上記数式において、
【数7】
であり、R
i(θ)およびR
p(θ)は、パルポグラフィー撮像領域の内径と外径である。
【0053】
さらに、半径方向の変形歪み成分ε
rr(r,θ)が、圧力差ΔP(変形歪み画像を取得可能とする2枚の画像同士の間において算出される圧力差)に比例し、ヤング率で表された弾性係数E(r,θ)の大きさに反比例することが分かっているので、以下の数式が成り立つ。
【数8】
式(3)
上記数式において、定数3/2は単に数学的な便宜上の理由により追加されているだけである。
【0054】
上記の式(1)で表される半径方向の偏差応力の数学表現はさらに、以下のようにして再度定式化し直すことが可能である。
【数9】
式(4)
上記数式において、h(r,θ)は、動脈硬化プラークの幾何学的形状における非均質性を内包する動脈硬化プラークの形態学的形状を考慮に入れるように補正された新たな形状関数である。
【0055】
半径方向の偏差応力についての上述した新しい数学表現を考慮に入れるならば、力学的な変形歪み係数
【数10】
は、以下の数式により表すことができる。
【数11】
式(5)
【0056】
形状関数h(r,θ)は未知の関数であり、直接的に実測することができないので、上記補正のために近似された形状関数h
*(r,θ)が推定される。
【0057】
上記のように推定される形状関数h
*(r,θ)は、有限要素法による解析技法を使用し、かつ、動脈硬化プラークが均質であり、等方性を有し、かつ非圧縮性となる弾性率に近い値のヤング率Eを有するという事実を考慮することによって取得される。上述した有限要素法による解析は、血圧の圧力差をΔPとし、線形方向に弾力性のある生体媒質内において実施される。その結果、上述した有限要素法解析の計算結果から得られる半径方向の変形歪み成分
【数12】
を知った上で、上記の式(3)から当該推定されるべき形状関数h
*(r,θ)が以下のように抽出される。
【数13】
式(6)
この数式は、上記式(5)で表される力学的な変形歪み係数を以下の式で表されるように改良する。
【数14】
式(7)
【0058】
力学的な変形歪み係数について上述した本発明固有の定式化(すなわち上記の式(7))は、R
i(r,θ)≦r≦R
p(r,θ)とした場合に、動脈硬化プラークの形状及び着目中のパルポグラフィー撮像領域Ω
palpoの形状がどのような幾何学的形状であったとしても、動脈硬化プラークが等方性を有し、かつ均質であるとの事実をここでも考慮することにより、ヤング率の大きさEを取得可能とする(すなわち、
【数15】
として得られる)。
【0059】
<3>特許文献1に記載された方法により得られる結果に対して本発明に係る方法により得られる結果を比較した場合の対比結果
【0060】
図2は、特許文献1記載の方法により得られる結果と本発明に係る方法により得られる結果との間の比較を行うことを可能とするために、例示的な動脈硬化プラークを示しており、当該動脈硬化プラークは、特許文献1記載の方法と本発明に係る方法が実施される対象となる。
【0061】
当該動脈硬化プラークは、所定の血管部位の断面において
図2に示すとおりに形成されており、血液が中を流れる内腔20を定義する内壁面10および血管の外側の表面を定義する外壁面30を備えている。当該動脈硬化プラークは、脂質の区域性集積により充填される内部空間40をさらに備えている。
【0062】
図3は、
図2と同じ動脈硬化プラークを図示し、
図3に示す動脈硬化プラーク上には、内壁面10によって範囲が制限されるパルポグラフィー撮像領域Ω
palpoと共に血管の管腔壁内部に形成された内部壁面50が描かれている。この例においては、内部空間40がパルポグラフィー撮像領域Ω
palpoの中に含まれている点に留意されたい。さらに、正規直交型のベンチマーク試験の結果、当該動脈硬化プラーク上の角度位置は、
図4に示すグラフの角度位置と一致させることが可能であることが示された。
【0063】
図4に示すグラフは、空間的な角度位置(0°≦θ≦360°)に基づく弾性率分布を表し、以下の3つの曲線が図示されている。
−動脈硬化プラークの真の弾性率分布に対応する第1の曲線1。
−特許文献1記載の方法を使用することにより算出された動脈硬化プラークの弾性率分布に対応する第2の曲線2。
−本発明に係る方法を使用することにより算出された動脈硬化プラークの弾性率分布に対応する第3の曲線3。
【0064】
グラフの記載から看取され得るとおり、特許文献1記載の方法で算出され、第2の曲線2に沿って表現された弾性率分布の値は、第1の曲線1に沿って表現された真の弾性率分布の値とは大きく異なっている。さらに、特許文献1記載の方法を使用することにより、第2の曲線2に沿って表現されているとおり、血管壁に沿って、以下に述べる2か所の脆くなった領域が検出されている。
−内部空間40が位置している下部の血管壁に対応する第1の脆い領域Z1。
−上部の血管壁に対応する第2の脆い領域Z2。
【0065】
従って、特許文献1記載の方法は、潜在的な危険性がある領域として上記2つの領域を診断者に提示している旨が観察されるけれども、上記2つの領域のうち上部血管壁の領域は、血管壁が単に薄くなっている領域に対応しているだけであり、実際には危険性がない。
【0066】
このことは、特許文献1記載の方法において、動脈硬化プラークの内壁面と外壁面が円筒形状かつ同心円状であるとの仮定を置いてみたところで、血管壁が実際に脆くなっている領域と血管壁が単に薄くなっているだけの領域とを区別することが実現可能とはならないことに起因している。従って、特許文献1記載の方法は、実際には病変部位ではない箇所を数多く誤検出するという事態を引き起こすので、診断者に提供される情報を使用困難なものにしてしまう。
【0067】
これに対して、第3の曲線3に沿って表わされているとおり、本発明に係る方法で算出され、第3の曲線3に沿って表現された弾性率分布の値は、第1の曲線1に沿って表現された真の弾性率分布の値に近い。また、実際には病変部位ではない箇所の誤検出は全く生じていない。つまり、弾性率分布の顕著な変動を示しているのは、第1の脆い領域Z1だけである。
【0068】
以上から、本発明に関して上述した画像生成方法は、アテローム性の動脈硬化プラークが破裂する危険性を診断者が予測することを可能とするために診断者が使用可能なリアルタイムな情報を提供可能とするものである。