(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
有機EL層と、前記有機EL層の少なくとも一方の主面側に設けられ、且つ、吸湿膜の一方の主面が第1被覆膜により被覆され、他方の主面が第2被覆膜により被覆されてなる吸湿層とを備える有機EL装置の設計方法において、
前記吸湿膜の単位面積当たりに吸湿できる水分の質量を示す吸湿力(g/m2)をAとし、前記第1及び第2被覆膜の単位面積当たりの欠陥の個数を示す欠陥数(個/mm2)をBとしたとき、前記有機EL層の寿命を考慮して前記Aと前記Bとの関係を求め、
使用する第1及び第2被覆膜の欠陥数bを特定し、
特定された前記欠陥数bを前記Bとし、前記Aと前記Bとの関係とから求められた前記Aから、使用する吸湿膜の吸湿力aを設定する
有機EL装置の設計方法。
有機EL層と、前記有機EL層の少なくとも一方の主面側に設けられ、且つ、吸湿膜の一方の主面が第1被覆膜により被覆され、他方の主面が第2被覆膜により被覆されてなる吸湿層とを備える有機EL装置の製造方法において、
前記吸湿膜は、請求項1に記載の設計方法で設定された吸湿力a以上の吸湿力となるように製造される
有機EL装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の態様]
本発明の一態様に係る有機EL装置は、有機EL層と、前記有機EL層の少なくとも一方の主面側に設けられた吸湿層とを備える有機EL装置において、前記吸湿層は、吸湿剤を有する吸湿膜と、前記吸湿膜をその膜厚方向の両側から被覆する第1及び第2被覆膜とを有し、前記吸湿膜の単位面積当たりに吸湿できる水分の質量を示す吸湿力(g/m
2)をAとし、前記第1及び第2被覆膜の単位面積当たりの欠陥の個数を示す欠陥数(個/mm
2)をBとしたとき、A/B≧0.2の関係式が成り立つ。
【0014】
また、前記欠陥数を示すBが、B≦1であってもよい。
【0015】
これにより被覆膜としての防水機能が向上する。
【0016】
また、前記第1及び第2被覆膜は無機膜であってもよい。
【0017】
これにより防水性能の高い吸湿層が得られる。
【0018】
また、前記吸湿剤がゼオライトであってもよい。
【0019】
これにより、吸湿膜の吸湿性能を向上させることができる。
【0020】
一方、本発明の一態様に係る有機EL装置の設計方法において、有機EL層と、前記有機EL層の少なくとも一方の主面側に設けられ且つ吸湿膜の両主面が第1及び第2被覆膜により被覆されてなる吸湿層とを備える有機EL装置の設計方法において、前記吸湿膜の単位面積当たりに吸湿できる水分の質量を示す吸湿力(g/m
2)をAとし、前記第1及び第2被覆膜の単位面積当たりの欠陥の個数を示す欠陥数(個/mm
2)をBとしたとき、前記有機EL層の寿命を考慮して前記Aと前記Bとの関係を求め、使用する第1及び第2被覆膜の欠陥数bを特定し、特定された前記欠陥数bを前記Bとし、前記Aと前記Bとの関係とから求められた前記Aから、使用する吸湿膜の吸湿力aを設定する。
【0021】
これにより、目的にあった防水・吸湿機能の吸湿層を備える有機EL装置を設計できる。
【0022】
また、前記Aと前記Bとの関係は、A/B≧0.2であってもよい。
【0023】
これにより、有機EL装置における目標の寿命を満足することができる有機EL装置を設計できる。
【0024】
一方、本発明の一態様に係る有機EL装置の製造方法は、有機EL層と、前記有機EL層の少なくとも一方の主面側に設けられ且つ吸湿膜の両主面が第1及び第2被覆膜により被覆されてなる吸湿層とを備える有機EL装置の製造方法において、前記吸湿膜は、上記記載の設計方法で設定された吸湿力a以上の吸湿力となるように製造される。
【0025】
これにより、高い防水性能を有する有機EL装置を製造できる。
[第1の実施形態]
第1の実施形態では、水分吸湿により機能低下を招く機能層を有する装置の概略を説明する。
【0026】
なお、ここでは、機能層として有機EL層を利用した有機EL装置について説明する。
1.全体構造
図1は、第1の実施形態に係る有機EL装置の構成を模式的に示す断面図である。
【0027】
有機EL装置1は、アノード電極とカソード電極との間に有機EL層を有する表示部7を有する。
【0028】
有機EL装置1は、表示部7の少なくとも一方の主面、本実施形態では両主面に吸湿層5,9を有している。つまり、表示部7が吸湿層5,9によりサンドイッチされている。
【0030】
有機EL装置1は、
図1に示すように、ベース3、吸湿層5、表示部7、吸湿層9をこの順で備える。ここでは、有機EL装置1は、吸湿層9における表示部7と反対側に表面被覆層11を有している。なお、有機EL装置1の表側は、表面被覆層11側であり、裏側はベース3側である。
(1)ベース
ベース3は、表示部7等を支持する機能を有する。つまり、ベース3の上面に、吸湿層5、表示部7、吸湿層9及び表面被覆層11が設けられている(積層されている)。
【0031】
ベース3の材料としては、樹脂材料、セラミック材料、金属材料等を利用できる。本実施形態に係る有機EL装置1は、折り曲げ可能な柔軟性を有している。このため、ベース3として、柔軟性を有する樹脂材料が好ましく利用される。
【0032】
ベース3は、有機EL層への水分の影響を考慮すると、水分の透過率(以下、「水蒸気透過率」という。)の低い材料により構成されるのが好ましいが、柔軟性を持たせるために、樹脂材料からなる樹脂フィルムがベース3に好適に利用される。
(2)吸湿層
吸湿層5,9は、有機EL装置1の表面・裏面から表示部7への水分浸入に対して障壁となる防水機能を有している。この吸湿層5,9の詳細は後述する。
(3)表示部
表示部7は、有機EL層に浸入した水分や有機EL層で吸湿された水分によって発光性能が低下する。具体的には、有機EL層を構成している有機材料の特性変化により、発光性能が低下する。
(4)表面被覆層
表面被覆層11は、表示部7を被覆する。正確には、表面被覆層11は、吸湿層9の上面に層状に形成され、間接的に表示部7を被覆する。
【0033】
表面被覆層11は、有機EL装置1に機械的衝撃が作用した際に、表示部7に直接的な破損が発生するのを防止する保護機能を有している。表面被覆層11は、表示部7への水分や酸素等のガスの進入を、完全ではないものの、防止する機能を有する。
【0034】
表面被覆層11の材料としては、例えば、樹脂材料から構成される樹脂膜や、窒化シリコン等の窒化膜、酸化シリコン等の酸化膜、金属膜等が利用される。有機EL装置1は、上述したように柔軟性を有する。このため、表面被覆層11には、柔軟性を有する樹脂材料が利用される。
【0035】
表面被覆層11は、有機EL層への水分影響を考慮すると水蒸気透過率の低い材料により構成されるのが好ましいが、柔軟性を持たせるために、樹脂材料が表面被覆層11に好適に利用される。
2.吸湿層について
図2は、吸湿層の断面を示す図である。
(1)全体
吸湿層5,9は、同じ構成であってもよいし、異なる構成であってもよい。本実施形態では、同じ構成である。吸湿層5,9は、
図2に示すように、第1被覆膜21、吸湿膜23及び第2被覆膜25を有する。第1被覆膜21、吸湿膜23及び第2被覆膜25は、互いに密着する状態で積層されている。つまり、吸湿膜23の両主面(表面・裏面)が一対の被覆膜21,25により被覆されている。
【0036】
第1被覆膜21は外気に近い側(ベース3や表面被覆層11が存在する側である。)に配され、第2被覆膜25は表示部7に近い側に配されている。つまり、吸湿層5においては、第1被覆膜21がベース3に近い側に配されており、吸湿層9においては、第1被覆膜21が表面被覆層11に近い側に配されている。
【0037】
第1被覆膜21は、外気側から吸湿層5,9内部への水分の浸入を抑制する。吸湿膜23は、第1被覆膜21により抑制できずに当該被覆膜21を透過した水分を吸湿する。第2被覆膜25は、第1被覆膜21を透過した水分や吸湿膜23により吸湿されていた水分が表示部7側に浸入するのを抑制する。この構成により、吸湿層5,9は、外気から表示部7に水分が浸入するのを抑制している。
(2)被覆膜
第1及び第2被覆膜21,25は、同じ構成であってもよいし、異なる構成であってもよい。本実施形態では、同じ構成である。このため、被覆膜の配置等に関係なく、両者を区別する必要がないときは、第1及び第2被覆膜21,25として以下説明する。
【0038】
第1及び第2被覆膜21,25は、低水蒸気透過率の材料から構成される。具体的には、ベース3や表面被覆層11の水蒸気透過率よりも低い材料が第1及び第2被覆膜21,25の材料として利用される。より具体的には、第1及び第2被覆膜21,25の水蒸気透過率は、40℃、90%RHの雰囲気下で、1×10
-4g/m
2/day以上1×10
-6g/m
2/day以下程度である。なお、第1及び第2被覆膜21,25の水蒸気透過率はなるべく小さい方が良い。
【0039】
低水蒸気透過率を有する材料として、例えば、無機膜がある。このような無機膜として、例えば、窒化シリコン等の窒化膜、酸化シリコン等の酸化膜、酸窒化シリコン等の酸窒化膜や、酸化インジウムスズ(ITO)及び酸化銀等の金属酸化膜等が挙げられる。このような無機膜は、例えば、CVD、スパッタ等の真空成膜法により形成される。
【0040】
しかしながら、無機膜で構成される第1及び第2被覆膜21,25には、製造上排除することができない微小な欠陥31(
図3参照)が存在する。また、この欠陥31の発生する箇所は製造工程でコントロールすることは困難であり、欠陥31の発生箇所に対応して部分的に吸湿膜を設けることは難しい。
【0041】
ここでいう欠陥31とは、水分を透過させてしまうようなものである。例えば、無機膜を真空成膜法で成膜した場合、局所的に生じたピンホール等が欠陥31に相当する。
(3)吸湿膜
吸湿膜23は、主に第1被覆膜21の欠陥31を介して吸湿層5,9内に浸入してきた水分を吸湿する。これにより、第1被覆膜21の欠陥31から浸入してきた水分が表示部7へ到達するのが抑制される。
【0042】
吸湿膜23は、基本的には、水分を吸湿する材料から構成される。吸湿膜は、例えば、樹脂材料(吸湿性の高い)、多孔質材料、繊維材料から構成されてもよい。なお、吸湿膜23の吸湿性能としては、5質量%以上が好ましい。
【0043】
さらに、吸湿膜23は、吸湿剤を含有する材料により構成されてもよい。ここでは、吸湿膜23は、
図2に示すように、母材29に吸湿剤27が混合されて構成されている。
【0044】
吸湿剤27としては、化学的乾燥剤や物理的乾燥剤等が利用される。化学的乾燥剤は、化学物質の固有の性質(化学反応や潮解)を利用するもので、例えば、酸化カルシウム(CaO)、塩化カルシウム(CaCl)、酸化バリウム(BaO)、水酸化ナトリウム(NaOH)等がある。物理的乾燥剤は、多孔質表面に水分子が吸着しやすい性質を利用するもので、例えば、シリカゲル、酸化アルミニウム、モレキュラーシーブ、アロフェン、ゼオライト等がある。
【0045】
母材29としては、セラミック材料、有機材料等が利用される。セラミック材料としては、例えば、YAG(アルミン酸イットリウム)セラミック、アルミナ(酸化アルミニウム)セラミック等がある。
【0046】
有機材料としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂等がある。
【0047】
母材29の材料は、表示部7の使用用途によって適宜選択される。例えば、表示部7(および吸湿層5,9)に柔軟性が要求される場合は、樹脂材料が好ましく選択される。吸湿層5に透光性が必要とされる場合は、透光性を有する材料が選択される。安価に製造する場合は、有機材料が選択される。
3.性能
発明者らは、種々検討した結果、吸湿層5,9の第1及び第2被覆膜21,25として低水蒸気透過率の材料を利用しても、第1及び第2被覆膜21,25に欠陥31が存在するため、第1及び第2被覆膜21,25の水分透過を完全に抑制できないと判断した。
【0048】
そこで、発明者らはさらに精鋭検討を進め、吸湿膜23の吸湿力と第1及び第2被覆膜21,25の欠陥数との関係から、表示部7への影響を推定できることを見出した。特に、被覆膜の水蒸気透過率は被覆膜の欠陥と大きく関係していると発明者らは考えたが、単位面積1m
2当たりに発生している欠陥数と吸湿力との間に関係を見出せなかった。しかしながら、局所的(単位面積1mm
2)な観察により、欠陥が多く存在する領域の存在を知り、局所的な領域に発生している欠陥数を利用することで、はじめて欠陥数と表示部7
が受ける影響との間の関係を見出することができた。
【0049】
なお、表示部7への影響は具体的には表示部7の寿命(加速度劣化試験)で評価している。これは、吸湿層5,9の実使用における防水性能とも言える。
(1)吸湿力
吸湿能力は、吸湿膜23の材料固有の能力であり、単位膜厚(単位:1μm)、単位面積(単位:1m
2)の吸湿膜23が吸湿できる水分の質量(単位:g)で規定され、単位はg/(m
2・μm)である。例えば、膜厚が5μm、面積(投影面積)が3m
2の吸湿膜23が15gの水分を吸湿した場合、吸湿能力は1〔g/(m
2・μm)〕となる。なお、ここでいう「吸湿能力」は、主として吸湿剤27の母材29に対する含有比率によって規定(調整)される。
【0050】
また、吸湿能力に対して吸湿膜23の膜厚を掛けたもの、つまり、単位面積(単位:1m
2)の吸湿膜23が吸湿できる水分の質量(単位:g)を吸湿力とし、単位はg/m
2である。例えば、上述の例の膜厚が5μm、吸湿能力が1〔g/(m
2・μm)〕の吸湿膜23は、5〔g/m
2〕の吸湿力を有することになる。
【0051】
なお、吸湿能力・吸湿力は、吸湿膜23を一旦乾燥させた後に水分を吸湿させて、その質量変化を測定することで求めることができる。また、吸湿剤の吸湿能力が分かっている場合は、その含有量から計算で推測することもできる。
(2)欠陥数
図3は、欠陥が存在する吸湿層を示す模式図である。
【0052】
第1及び第2被覆膜21,25には、同図に示すように、製造工程上発生してしまう欠陥31が存在する。ここでいう、欠陥31は、上述したように、当該欠陥31を介して水分が第1及び第2被覆膜21,25を透過してしまうようなものである。つまり、表示部7への水分浸入の要因となるものが欠陥31である。
【0053】
したがって、第1及び第2被覆膜21,25に存在する異物33や凹み35等は、当該異物33や凹み35から水分が浸入しない場合は、ここでいう欠陥31ではない。
【0054】
欠陥数は、単位面積(単位:1mm
2)に存在する欠陥31の個数で規定され、その単位は個/mm
2である。
(3)寿命
(3−1)実験結果
吸湿層を備える有機EL装置(表示部)の寿命試験を行った。寿命試験は、高温・高湿度雰囲気中での加速度劣化試験である。評価は、表示部にダークスポットが生じた時点で表示部の寿命とした。
【0055】
図4は、寿命試験に用いた試料の仕様と寿命試験の結果を示す。
【0056】
寿命試験では、吸湿層の仕様が異なり且つ表示部の仕様が同じである5種類の試料を用いた。
【0057】
図中の用語について説明する。「膜厚t」は吸湿膜の膜厚で、単位は〔μm〕である。「吸着能力C」は、上述した通り、単位面積・単位膜厚当たりの吸湿膜が吸湿する水分の質量を示し、単位は〔g/(m
2・μm)〕である。「吸着力A」は、単位面積当たりの吸湿膜が吸湿できる水分の質量を示し、単位は〔g/m
2〕である。この吸着力Aは膜厚tと吸湿能力Cとを掛けたものに等しい。
【0058】
「欠陥数B」は、第1及び第2被覆膜それぞれの単位面積当たりの欠陥の個数を示し、単位は〔個/mm
2〕である。なお、第1被覆膜が図中の「バリア1」に相当し、第2被覆膜が図中の「バリア2」に相当する。
【0059】
「寿命実験値l(小文字のL)」は、ダークスポットが表示部に発生するまでの時間であり、単位は〔h〕である。「推定寿命L」は、試料1における結果を基準にして算出している。この算出は、「A/B」と推定寿命Lとが比例関係にあることを利用している(
図5参照)。
【0060】
例えば、試料2では、バリア1のA/Bが「0.13」となっており、試料1のバリアのA/Bの値である「0.20」の0.667倍である。試料1では、バリアのA/B(バリア1、バリア2、平均とも同じである。)が「2.0」で、寿命実験値lが1000時間であるため、試料2のバリア1の推定寿命L(h)は、試料1の寿命実験値lに対して、試料1のA/Bと試料2のA/Bとの比である0.667を掛けた、666.7(h)としている。
【0061】
図4では、A/Bの欄におけるバリア1及びバリア2は、欠陥数Bの欄におけるバリア1及びバリア2にそれぞれ対応して算出されており、A/Bの欄における平均は、A/Bの欄中のバリア1とバリア2の平均である。
【0062】
同様に、推定寿命Lの欄におけるバリア1及びバリア2は、A/Bの欄におけるバリア1及びバリア2にそれぞれ対応して算出されており、推定寿命Lの欄における平均は、推定寿命Lの欄中のバリア1とバリア2の平均である。
【0063】
試料に利用した吸湿層は、第1及び第2被覆膜21,25に窒化シリコンを利用している。吸湿膜23は、吸湿剤27としてゼオライトが、母材29としてアクリル系樹脂がそれぞれ利用されている。
【0064】
図4に示すように、加速度劣化試験は、吸湿膜の膜厚t、欠陥数Bがそれぞれ異なる試料1〜5で行っている。なお、基準としている試料1では、バリア1,2に関係なく、「A/B」が0.2で、このときの寿命実験値lは1000hである。
【0065】
試料1以外の他の試料でも、
図4に示すように、試料1のA/Bと寿命実験値lの結果から推定した推定寿命Lと、実際の実験値である寿命実験値lとが略一致していることが分かる。
【0066】
図5は、A/Bと推定寿命Lとの関係を示す図である。
【0067】
寿命は、
図5に示すように、A/Bと略比例関係にあることが分かる。また、寿命が、実験値と推測値とで略一致していることも分かる。
(3−2)AとBとの関係式
寿命は、上述のようにA/Bと略比例関係にある。
【0068】
以下、AとBとの関係について説明する。なお、ここでのA、B等は上述した吸湿力Aと、被覆膜の欠陥数Bである。
【0069】
まず、リファレンスとして、1つのA
R/B
Rと、そのときの寿命l
Rとが求まると、例えばA/Bを変数としたときの推定寿命Lが、下記の(1)式により算出できる。
【0070】
L=(l
R/(A
R/B
R))×(A/B) (1)
なお、リファレンスとしての上記A
R/B
R、寿命l
Rは、少なくとも試料を1つ作成して実験することで得られる。ここで、リファレンスの「l
R/(A
R/B
R)」の値は、推定寿命LとA/Bとの関係において、直線の傾きに相当する。
【0071】
(1)式を変形すると、
A/B=((A
R/B
R)/l
R)×L (2)
となる。
【0072】
ここで、加速度劣化試験における寿命Lとして、実機における有機EL装置(表示部)の目標寿命に相当する値が設定されれば、吸湿力Aと欠陥数Bとの関係が式(2)から得られる。
【0073】
「B」で表された欠陥数は、製造工程上発生する欠陥であり、実験等により予め把握して特定することができる。具体的には、実験等により、被覆膜の欠陥数が「b」と特定されると、当該被覆膜の欠陥数が「b」のときの吸湿膜23の吸湿力「a」は、(2)式を基にした式(3)により得られる。
【0074】
a=b×((A
R/B
R)/l
R)×L (3)
また、Aは、吸湿能力Cおよび吸湿膜の膜厚tから、下記(4)式により算出できる。
【0075】
A=C×t (4)
このため、具体的な仕様である吸湿力「a」を用いると、
t=a/C (5)
となり、膜厚tが得られる。
【0076】
このようにして、実験により、A
R/B
R及び寿命l
Rを求め、装置に必要される加速度劣化試験の寿命Lが設定されると、使用する吸湿層の仕様が決定される。
(3−3)具体例
上記の関係式について以下に具体的に説明する。
【0077】
ここでは、リファレンスとして試料2の実験結果を利用して説明する。
【0078】
試料2では、A
R/B
Rの平均の値が「0.10」であり、そのときの寿命実験値l
Rは「500」である。ここで、本実施形態での有機EL装置における加速度劣化試験での目標寿命Lは、1000(h)以上である。
【0079】
これらを(2)式に代入すると、
A/B≧((0.1)/500)×1000
A/B≧0.2
となる。これにより、変数として吸湿力Aと変数としての欠陥数Bとの関係が得られる。
【0080】
ここで、被覆膜の欠陥数Bを実験等により調査すると、概ね、1個以下であり、「b=1」と特定すると、実際に使用すべき吸湿膜の吸湿力aが
a≧0.2
となる。
【0081】
ここで、吸湿膜の膜厚tは、吸湿能力Cが、試料1〜4と同じ0.1〔g/(m
2・μm)〕の場合、式(5)より、
t≧0.2/0.1
t≧2
となる。
【0082】
一方、吸湿能力Cを、試料1〜4の吸湿性能よりも高い0.2〔g/(m
2・μm)〕とする場合、吸湿膜の膜厚tは、式(5)より、
t≧0.2/0.2
t≧1
となる。
4.設計方法
上述のように、リファレンスとして、吸湿層における吸着力A
Rと欠陥数B
Rと、寿命実験値l
Rとが求まると、有機EL装置の目標寿命(L)を満たすための吸湿層を設計することができる。
【0083】
次に、この設計方法について詳しく説明する。
【0084】
この防水膜の設計は、以下の(i),(ii),(iii)の手順により
行われる。
(i)吸湿膜の単位面積当たりに吸湿できる水分の質量を示す吸湿力〔g/m
2〕をAとし、第1及び第2被覆膜の単位面積当たりの欠陥の個数を示す欠陥数〔個/mm
2〕をBとしたとき、「A」と「B」との関係を求める。
【0085】
具体的には、吸湿層における吸着力A
Rと欠陥数B
Rと有機EL装置の寿命実験値l
Rとを求め、装置の目標寿命Lとから、AとBとの関係を求める。この関係式は、例えば、(2)式により求められる。
【0086】
ここで、欠陥は、バリア1(第1被覆膜)とバリア2(第2被覆膜)とについてそれぞれ存在する。リファレンスとしての欠陥数Bは、バリア1の欠陥数であってもよいし、バリア2の欠陥数であってもよいし、バリア1とバリア2の平均値であってもよい。さらには、バリア1とバリア2との欠陥数のうち、大きい方としてもよい。当然、リファレンスとして大きい方の欠陥数を採用すると、小さい方の欠陥数を採用した場合および平均値を採用した場合と比較して、吸湿膜23の膜厚がより大きくなり、寿命がより長くなるように設計されることになる。
【0087】
また、第1及び第2被覆膜の厚みが異なる場合も、上述のように、リファレンスとしての欠陥数は、バリア1の欠陥数であってもよいし、バリア2の欠陥数であってもよいし、バリア1とバリア2の平均値であってもよい。さらには、バリア1とバリア2との欠陥数のうち、大きい方としてもよい。
【0088】
さらに、欠陥数は、1mm
2の欠陥の個数を示しているが、この欠陥数は、複数箇所の平均であってもよいし、複数個所の最大値であってもよい。最大値を採用する場合、平均を採用する場合と比較して、表示部(有機EL装置)の寿命がより長くなるように設定される。
(ii)使用する第1及び第2被覆膜の欠陥数bを特定する。
【0089】
具体的には、実験等を行うことで欠陥数Bを求める。その際、製造工程上のバラツキ等を考慮して「b」が特定される。例えば、試作品の欠陥数から統計的に「b」を特定してもよい。
(iii)特定された欠陥数bを「B」とし、「A」と「B」との関係とから求められた「A」から、使用する吸湿膜の吸湿力aを設定する。
【0090】
具体的には、式(3)より求められる。
【0091】
このような設計方法を、有機EL装置の製造方法に適用すると、目標の寿命を満たす吸湿層を備える有機EL装置を製造できる。
【0092】
有機EL装置の製造方法は、例えば、次のような製造方法とすることができる。即ち、有機EL層と、前記有機EL層の少なくとも一方の主面側に設けられ且つ吸湿膜の両主面が第1及び第2被覆膜により被覆されてなる吸湿層とを備える有機EL装置の製造方法であって、吸湿膜が上記の設計方法で設定された吸湿力a以上の吸湿力となるように製造される。
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、有機EL表示装置について説明する。
1.概略構成
第2の実施形態に係る有機EL表示装置101の概略構成について、
図6及び
図7を用い説明する。
【0093】
図6は、第2の実施形態に係る有機EL表示装置101の概略構成を示す模式ブロック図である。
図7は、有機EL表示パネル110におけるサブピクセル10a〜10cの配置形態を示す模式平面図である。
【0094】
図6に示すように、有機EL表示装置101は、有機EL表示パネル110と、これに接続された駆動・制御部120とを備えている。有機EL表示パネル110は、有機材料の電界発光現象を利用した有機ELパネルである。ここでは、有機EL表示パネル110の表示面は湾曲している。
【0095】
図7に示すように、複数のサブピクセル(副画素)10a〜10cがX軸方向及びY軸方向に二次元配置されている。第2の実施形態においては、例えば、サブピクセル10aが赤色光(R)を出射し、サブピクセル10bが緑色光(G)を出射し、サブピクセル10cが青色光(B)を出射する。
【0096】
そして、X軸方向に隣接する3つのサブピクセル10a〜10cの組み合わせを以って、表示機能としての1つのピクセル(画素)が構成されている。
【0097】
なお、有機EL表示パネル110は、
図7に示すように、井桁状のバンク(所謂、「ピクセルバンク」である。)157を有し、有機EL層がバンク157によって区画された領域に形成されている。
【0098】
また、後述するように、有機EL層上には少なくともアノードまたはカソードが形成されているため、本来平面視において有機EL層は見えないが、
図7においては、バンク157により区画された領域を表すためにハッチングを施している。
【0099】
図6に戻って、駆動・制御部120は、4つの駆動回路121〜124と制御回路125とから構成されている。なお、有機EL表示装置101における有機EL表示パネル110と駆動・制御部120との配置関係については、
図6に示された形態には限定されない。
【0100】
また、表示機能としてのピクセルの構成については、
図7に示すような3つのサブピクセル10a〜10cの組み合わせからなる形態に限定されず、4つ以上のサブピクセルの組み合わせを以って1つのピクセルが構成されるとしてもよい。
2.有機EL表示パネル110の構成
図8は、
図7におけるA−A断面を矢印方向から見た図である。
【0101】
有機EL表示パネル110は、
図8に示すように、一対の吸湿層133,135によって表示部131が挟まれた状態でベース137上に配されている。複数のサブピクセル10a〜10cは、表示部131内において平面視2次元的に設けられている。各サブピクセル10a〜10cが形成されるサブピクセル領域は、
図7に示すように、X軸方向及びY軸方向にマトリクス状に開口が設けられ、全体形状が井桁状をするバンク157により、例えば矩形状に区画された領域である。
【0102】
表示部131は、
図8に示すように、TFT基板151上に絶縁層153が積層されている。絶縁層153のZ軸方向上面は、略平坦となるように形成されている。なお、TFT基板151については、TFT層などの図示を省略し、簡略化した図としている。絶縁層153のZ軸方向上面のサブピクセル領域には、アノード155が積層形成されている。
【0103】
次に、絶縁層153上及びアノード155のX軸方向両縁上を覆うようにバンク157が形成されている。バンク157により区画されたサブピクセル領域には有機EL層159がアノード155の上面に積層形成されている。
【0104】
有機EL層159上ならびにバンク157の側面上部及び頂面上を覆うように、カソード161が形成されている。カソード161の上面には、吸湿層135が形成されている。吸湿層135は、第2被覆膜145、吸湿膜143及び第1被覆膜141を有している。
【0105】
吸湿層135の上面には、表面被覆層163が形成されている。表面被覆層163は、表示部131を被覆して保護する機能を有する。
【0106】
本実施形態に係る有機EL表示パネル110は、トップエミッション型であり、
図8の矢印のようにZ軸方向上向きの光を出射する。
3.有機EL表示パネル110の各構成材料
(1)ベース
ベース137は、折り曲げ可能な柔軟性を有する必要がある。ベース137は第1の実施形態のベース3と同様に、柔軟性を有する材料として、例えば樹脂材料が好ましく利用されている。ここでは、ベース137として、ポリカーボネートフィルムが利用されている。
(2)吸湿層
吸湿層133は、第1の実施形態と同様に、第1被覆膜141と吸湿膜143と第2被覆膜145とを有し、これらが積層された構造を有する。換言すると、吸湿層133は、一対の被覆膜141,145により吸湿膜143がサンドイッチされた(挟まれた)構造を有する。
【0107】
第1及び第2被覆膜141,145は、低水蒸気透過率の材料からなる。水蒸気透過率は、40℃、90%RHの雰囲気下で、1×10
-4g/m
2/day以上1×10
-6g/m
2/day以下であるが、小さい方が好ましい。なお、第1及び第2被覆膜141,145には、製造上排除することができない局所的な欠陥が存在する。
【0108】
第1及び第2被覆膜141,145には、無機材料からなる無機膜が利用される。第1及び第2被覆膜141,145に利用される無機膜は、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸化シリコン(SiO2)、酸窒化シリコン(SiON)等の薄膜や、酸化インジウムスズ(ITO)等の金属膜等である。ここでは、第1被覆膜141,145には、窒化シリコン(SiN)膜が利用されている。
【0109】
吸湿膜143は、第1及び第2被覆膜141,145の欠陥を介して浸入してきた水分を吸湿する。吸湿膜143は、母材内に吸湿剤が混合されてなる。ここでは、吸湿剤としては酸化アルミニウムが、母材としては有機材料であるアクリル系樹脂がそれぞれ利用されている。
(3)表示部
(3−1)TFT基板
TFT基板151は、基板と、当該基板のZ軸方向上面に形成されたTFT層とから構成されている。TFT層については、図示を省略しているが、ゲート、ソース、ドレインの3電極と、半導体層、パッシベーション膜などを含み構成されている。
【0110】
TFT基板151のベースとなる基板は、樹脂基板等を用い形成されている。樹脂基板としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれの樹脂を用いてもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルベンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオ共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、プリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、変形ポリフェニレンオキシド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、又はこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうち1種、又は2種以上を積層した積層体を用いることができる。
(3−2)絶縁層
絶縁層153は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、アクリル系樹脂材料などの有機化合物を用い形成されている。ここでは、絶縁層153は、有機溶剤耐性を有することが好ましい。
【0111】
また、絶縁層153は、製造工程中において、エッチング処理、ベーク処理等が施されることがあるので、それらの処理に対して過度に変形や変質などを生じない高い耐性を有する材料を用い形成されることが望ましい。
(3−3)アノード
アノード155は、銀(Ag)又はアルミニウム(Al)を含む金属材料から構成されている。トップエミッション型の本実施形態に係る有機EL表示パネル110の場合には、その表面部が高い反射性を有することが好ましい。
【0112】
なお、アノード155については、上記のような金属材料からなる単層構造だけではなく、金属層と光透過性導電層との積層体を採用することもできる。光透過性導電層の構成材料としては、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)などを用いることができる。
(3−4)バンク
バンク157は、樹脂等の有機材料を用い形成されており、絶縁性を有する。バンク157の形成に用いられる有機材料の例としては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等があげられる。
(3−5)有機EL層
有機EL層159は、ホールと電子とが注入され再結合されることにより励起状態が生成され発光する機能を有する。有機EL層159の形成に用いられる材料は、湿式印刷法により製膜できる発光性の有機材料である。
【0113】
具体的には、例えば、特許公開公報(日本国・特開平5−163488号公報)に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属錯体、2−ビピリジン化合物の金属錯体、シッフ塩とIII族金属との錯体、オキシン金属錯体、希土類錯体などの蛍光物質で形成されることが好ましい。
(3−6)カソード
カソード161は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)若しくは酸化インジウム亜鉛(IZO)などを用い形成される。本実施形態のように、トップエミッション型の本実施形態に係る有機EL表示パネル110の場合においては、ITO,IZOといった光透過性の材料で形成されることが必要となる。
(4)吸湿層
吸湿層135は、吸湿層133と同じ材料で構成してもよいし、別の材料で構成してもよい。ここでは、吸湿層135は、上述の吸湿層133と同じ材料で構成されている。なお、吸湿層135は、トップエミッション型である有機EL表示パネル110の場合においては、光透過性の材料で形成されることが必要となる。
(5)表面被覆層
表面被覆層163は、表示部131を被覆する。表面被覆層163は、表示部131が衝撃等により破損するのを防止する保護機能や、表示部131が直接水分や空気に晒されることを抑制する機能を有する。
【0114】
表面被覆層163は、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの材料を用い形成される。また、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)などの材料を用い形成された層の上に、アクリル系樹脂、シリコーン系樹脂などの樹脂材料をさらに形成した多層構造としてもよい。
【0115】
表面被覆層163は、トップエミッション型である本実施形態に係る有機EL表示パネル110の場合においては、光透過性の材料で形成されることが必要となる。
[第3の実施形態]
吸湿層は、水分の吸湿により何らかの性能低下を招いてしまう機能部に対して有効である。第2の実施形態では、ベース137として可撓性を有する樹脂フィルムを用いたが、ベースの材料として従来からのガラス材料を利用してもよい。第3の実施形態では、ベースにガラス材料を用い、表層に吸湿層を設けた有機EL装置(有機EL表示装置)について説明する。
1.全体構造
図9は、有機EL表示パネル201の1サブピクセル部分の断面図である。
【0116】
有機EL表示パネル201は、ベース203上に設けられた表示部205が吸湿層207により被覆された構造を有する。なお、複数のサブピクセルは、第2の実施形態と同様に、表示部205内において平面視2次元的に設けられている。第3の実施形態でも、第2の実施形態と同様に、R,G,B各色用のサブピクセルは、基本構成が同じであるため、以下の説明においては、発光色によって特に区別しない。
2.各部構成
(1)ベース
ベース203は、第2の実施形態のベース137と異なり、湾曲自在でない、つまり、実施レベルで可撓性を有しない材料により構成されている。ベース203は、ここでは、ガラス材料により構成されている。ガラス材料は、第2の実施形態で説明した樹脂材料のベース137と異なり水蒸気透過率が低い。このため、ベース203と表示部205との間には、吸湿層を設ける必要はない。但し、ベース203と表示部205との間に吸湿層を設けてもよく、その場合は、表示部205の寿命をより長くできたり、ベース203の膜厚を薄くできたりする利点がある。
(2)表示部
表示部205は、TFT基板211をベースとして、その上に絶縁層213が積層されている。絶縁層213の上面のサブピクセル領域には、アノード215が形成されている。絶縁層213上及びアノード215のX軸方向両縁上を覆うようにバンク217が形成され、当該バンク217により区画された領域に有機EL層219が形成されている。
【0117】
有機EL層219上ならびにバンク217の側面上部及び頂面上を覆うように、カソード221が形成されている。
(3)吸湿層
吸湿層207は、第2の実施形態と同様に、第1被覆膜231、吸湿膜233及び第2被覆膜235を有する構造をしている。
【0118】
ここでは、第1及び第2被覆膜231,235は、無機材料から構成され、例えば、窒化シリコン膜が利用されている。吸湿膜233は、吸湿剤としてゼオライトの粒子が利用され、母材としての樹脂材料として、ポリカーボネートが利用されている。
【0119】
なお、ここでは、表示部205に接する(又は表示部205に近い側に配された)第1被覆膜231の膜厚は、第2被覆膜235の膜厚よりも厚くなっている。
(4)表面被覆層
表面被覆層209は、ここでは、無機材料、例えば、窒化シリコン膜により構成されている。なお、吸湿層の第2被覆膜235を無機材料で構成してもよく、その場合、第2被覆膜235が表面被覆層の役割を兼ねてもよい。
[変形例]
1.有機EL層
第2及び第3の実施形態では、吸湿層は、有機EL層への水分の浸入を抑制する目的で設けられているが、これに限られない。吸湿層は、有機EL層以外の機能層への水分浸入を抑制する目的にも適用できる。つまり、本来有している機能が水分吸湿により低下してしまうような機能層であれば、吸湿層により機能層への水分の浸入を抑制することにより、機能層の機能低下を抑制することができる。
【0120】
このような機能層を含むような例としては、TFT層、薄膜コイル、薄膜トランジスタ、有機トランジスタ、薄膜フィルタ等の電子部品他、電子ペーパ、太陽電池、薄膜リチウムイオン電池等の電子デバイスの機能部等がある。
2.吸湿層
(1)構造
第1,第2,および第3の実施形態においては、表示部の一主面に対して設けられる吸湿層は一層だけであったが、これに限られない。例えば、表示部等の一主面に対して多層に吸湿層を設けてもよい。これにより、防水特性をより向上させることができる。
【0121】
さらに、第1,第2,および第3の実施形態においては、吸湿層が、1つの吸湿膜に対して第1被覆膜と第2被覆膜とを備える構成について説明した。具体的には、第1の実施形態における吸湿層5は、吸湿膜23の一方の主面に第1被覆膜21を、他方の主面に第2被覆膜25を備えている。第2の実施形態における吸湿層133および135は、吸湿膜143の一方の主面に第1被覆膜141を、他方の主面に第2被覆膜145を備えている。第3の実施形態における吸湿層207は、吸湿膜233の一方の主面に第1被覆膜231を、他方の主面に第2被覆膜235を備えている。しかし、本発明の一態様に係る吸湿層の構成は、これらに限られない。
【0122】
吸湿膜の両主面に1以上の被覆膜があればよく、吸湿膜の各主面に複数の被覆膜があってもよい。このとき、両主面側の被覆膜の層数は同じでもよいし、異なっていてもよい。さらには、各被覆膜が同じ構成でもよいし、異なる構成でもよい。
【0123】
さらに、吸湿層は、複数の吸湿膜を備えてもよく、例えば、被覆膜、吸湿膜、被覆膜、吸湿膜、被覆膜のように積層された構成でもよい。このとき、複数の吸湿膜は、同じ構成でもよいし、異なる構成でもよい。
(2)吸湿膜
第1の実施形態における吸湿膜23、第2の実施形態における吸湿膜143、および第3の実施形態における吸湿膜233は、それぞれ一種類の吸湿剤27を含んでいる。しかしながら、吸湿膜は、1つの膜内に複数種類の吸湿剤を含んでもよい。また、吸湿膜を多層用いる場合、各層において、同じ種類の吸湿剤を用いて、異なる種類の母材を用いてもよいし、逆に、各層において、異なる吸湿剤を用いて、同じ種類の母材を用いてもよい。
(3)吸湿剤
第1,第2,第3の実施形態における吸湿剤27は、水分(水蒸気)を吸収(吸湿)するものである。しかしながら、水蒸気以外の気体(酸素等)を吸収するものであってもよい。この場合においても、吸収すべき対象物の吸着性能を実験等により把握することで、被覆膜の欠陥を考慮した寿命設計が可能となる。
3.デバイス
第1の実施形態における有機EL装置1、第2の実施形態に係る有機EL表示装置101の有機EL表示パネル110、および第3の実施形態に係る有機EL表示パネル201は、それぞれ、表示部(7,131,205)に対して、1つ又は2つの吸湿層(5,9,133,135,207)を備えている。しかしながら、有機EL装置は、表示部の一部の構成を、吸湿層における表示部に近い側の被覆膜と兼用することもできる。
【0124】
例えば、第2の実施形態の表示部131は、カソード161を有している。このカソード161を、例えば、スパッタリングによって形成される酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)の金属酸化膜とした場合、この金属酸化膜を吸湿層における機能部に近い側の第2被覆膜145として利用することもできる。
4.表示部
第2及び第3の実施形態における表示部131,205について、基本的な構成を説明したが、表示部は、例えば、ホール注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層等を備えてもよい。
【0125】
また、第2及び第3の実施形態における表示部131,205は、トップエミッションタイプであったが、ボトムエミッションタイプであってもよい。この場合、ベースに透光性材料を用い、ベースに近い側の電極(下部電極。第2,第3の実施形態においてはアノード155,215)として光透過性電極を、ベースから遠い側の電極(上部電極。第2,第3の実施形態においてはカソード161,221)として光反射性電極をそれぞれ用いる必要がある。
【0126】
第2及び第3の実施形態では、ベース137,203側にアノード155,215を配したが、例えば、ベース側にカソードを配してもよい。
【0127】
第2の実施形態では、有機EL表示装置をカラー有機EL表示装置として説明している。しかしながらこれに限られず、上記各実施形態および各変形例の構成は、例えば単色表示の有機EL表示装置にも適用することができる。
【0128】
さらに、上記各実施形態および各変形例の構成は、調光・調色機能を有する有機EL発光装置に適用することもできる。つまり、本発明の一態様に係る有機EL装置は、ディスプレイとしての機能を主に有する有機EL表示装置に適用できるほか、照明としての機能を主に有する有機EL発光装置にも適用可能である。有機EL発光装置として適用される場合、表示部はディスプレイ機能を有さないので、言わば発光部となる。