(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素質材料が、炭素質材料を負極とした場合に、リチウム参照電極基準で0〜0.05Vの放電容量が30mAh/g以上である炭素質材料である、請求項1に記載の全固体電池用負極。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[1]全固体電池用負極
本発明の全固体電池用負極は、ブタノール法により求めた真密度が1.30g/cm
3〜1.70g/cm
3、比表面積が0.5〜50.0m
2/g、平均粒子径D
v50が1〜50μmであり、そして示差熱分析による燃焼ピークT(℃)とブタノール真密度ρ
Bt(g/cm
3)とが、下記式(1)
300≦T−100×ρ
Bt≦570 (1)
を満たす炭素質材料、及び固体電解質を含む。また、前記炭素質材料は、好ましくは前記炭素質材料を負極とした場合に、リチウム参照電極基準で0〜0.05Vの放電容量が30mAh/g以上である。ある好ましい態様としては、前記炭素質材料は、電気化学的にリチウムをドープし、
7Li−NMR分析を行った場合に、LiClの共鳴線を0ppmとしたときに低磁場側に80〜200ppmの範囲に主共鳴ピークが観測される。
本発明に用いる炭素質材料は、前記物性を有することによって、全固体電池の負極材料として用いた場合に、充電時の膨張率が少なく、構造的に安全である。また、本発明に用いる炭素質材料は、前記物性を有することによって、全固体電池のリチウム参照電極基準で負極電極電位0〜0.05Vの放電容量を向上させることができる。
【0008】
《炭素質材料》
(炭素質材料の原料)
本発明の全固体電池用負極に用いる炭素質材料は、前記物性を有する限りにおいて限定されるものではないが、難黒鉛化性炭素質材料が好ましい。難黒鉛化性炭素質材料の炭素源は、難黒鉛化性炭素が製造できる限りにおいて限定されるものではなく、石油又は石炭由来の有機物(例えば石油系ピッチ若しくはタール、又は石炭系ピッチ若しくはタール)、熱可塑性樹脂(例えば、ケトン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、ポリイミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリアミドイミド、アラミド樹脂、又はポリエーテルエーテルケトン)、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、ポリアセタール樹脂、ナイロン樹脂、フラン樹脂、又はアルデヒド樹脂(例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、アミノ樹脂及びアミド樹脂))を挙げることができる。なお、石油系ピッチ若しくはタール、石炭系ピッチ若しくはタール、又は熱可塑性樹脂は、酸化処理などにより不融化することによって、難黒鉛化性炭素の炭素源として用いることができる。
【0009】
((002)面の平均面間隔)
炭素質材料の(002)面の平均面間隔は、結晶完全性が高いほど小さな値を示し、理想的な黒鉛構造のそれは、0.3354nmの値を示し、構造が乱れるほどその値が増加する傾向がある。従って、平均面間隔は、炭素の構造を示す指標として有効である。
本発明の全固体電池用負極に用いる炭素質材料のX線回折法により測定した(002)面の平均面間隔は0.360〜0.400nmであり、更に好ましくは0.370nm以上0.400nm以下である。特に好ましくは、0.375nm以上0.400である。0.360nm未満の炭素質材料はサイクル特性が悪くなることがある。
【0010】
(c軸方向の結晶子厚みL
c(002))
本発明の全固体電池用負極に用いる炭素質材料のc軸方向の結晶子厚みL
c(002)は、0.5〜10.0nmである。L
c(002)の上限は、好ましくは8.0nm以下であり、より好ましくは5.0nm以下である。L
c(002)が10.0nmを超えると、リチウムのドープ、脱ドープに伴う体積膨張収縮が大きくなる。これにより、炭素構造を破壊し、リチウムのドープ、脱ドープが遮断され、繰り返し特性に劣ることがある。
【0011】
(比表面積)
比表面積は、窒素吸着によるBETの式から誘導された近似式で求めることができる。本発明の全固体電池用負極に用いる炭素質材料の比表面積は、0.5〜50.0m
2/gである。BET比表面積の上限は、好ましくは45m
2/g以下であり、より好ましくは40m
2/g以下であり、更に好ましくは35m
2/g以下である。BET比表面積の下限は、好ましくは1m
2/g以上である。比表面積が、50m
2/gを超えると固体電解質との分解反応が増加し、不可逆容量の増加に繋がり、従って電池性能が低下する可能性がある。また、BET比表面積が0.5m
2/g未満であると、全固体電池の負極として用いた場合に、固体電解質との反応面積が低下することにより入出力特性が低下する可能性がある。
【0012】
(ブタノール法により求めた真密度ρ
Bt)
理想的な構造を有する黒鉛質材料の真密度が2.27g/cm
3であり、結晶構造が乱れるに従い真密度が小さくなる傾向がある。従って、真密度は炭素の構造を表す指標として用いることができる。
本発明の全固体電池用負極に用いる炭素質材料の真密度は、1.30g/cm
3〜1.70g/cm
3である。真密度の上限は、好ましくは1.60g/cm
3以下であり、より好ましくは1.55g/cm
3以下である。真密度の下限は、好ましくは1.31g/cm
3以上であり、より好ましくは1.32g/cm
3以上であり、更に好ましくは1.33g/cm
3以上である。更に、真密度の下限は1.40g/cm
3以上であってもよい。真密度が1.7g/cm
3を超える炭素質材料は、リチウムを格納できるサイズの細孔が少なくドープ及び脱ドープ容量が小さくなるため好ましくない。また、真密度の増加は炭素六角平面の選択的配向性を伴うため、リチウムのドープ・脱ドープ時に炭素質材料が膨張収縮を伴う場合が多いため好ましくない。一方、1.30g/cm
3未満の炭素質材料は、閉孔が多くなる場合があり、ドープ及び脱ドープ容量が小さくなることがあるので好ましくない。更に、電極密度が低下するため体積エネルギー密度の低下をもたらすので好ましくない。
なお、本明細書において、「難黒鉛化性炭素」とは、3000℃程度の超高温で熱処理しても黒鉛構造に変化しない非黒鉛質炭素の総称であるが、ここでは真密度が1.30g/cm
3〜1.70g/cm
3の炭素質材料を難黒鉛化性炭素と呼ぶ。
【0013】
(平均粒子径D
v50)
本発明の全固体電池用負極に用いる炭素質材料の平均粒子径(D
v50)は、1〜50μmである。平均粒子径の下限は、好ましくは1μm以上であり、更に好ましくは1.5μm以上であり、特に好ましくは2.0μm以上である。平均粒子径が1μm未満の場合、微粉が増加し比表面積が増加し、固体電解質との反応性が高くなり充電しても放電しない容量である不可逆容量が増加し、正極の容量が無駄になる割合が増加するため、好ましくない。平均粒子径の上限は、好ましくは40μm以下であり、更に好ましくは35μm以下である。平均粒子径が50μmを超えると、粒子内でのリチウムの拡散自由行程が増加するため、急速な充放電が困難となる。更に、二次電池では、入出力特性の向上には電極面積を大きくすることが重要であり、そのため電極調製時に集電板への活物質の塗工厚みを薄くする必要がある。塗工厚みを薄くするには、活物質の粒子径を小さくする必要がある。このような観点から、平均粒子径の上限としては50μm以下が好ましい。
【0014】
《炭素質材料を負極としたリチウム参照電極基準で電池電圧範囲0〜0.05Vの放電容量》
本発明の全固体電池用負極に用いる炭素質材料は、限定されるものではないが、炭素質材料が、炭素質材料を負極とした場合に、リチウム参照電極基準で0〜0.05Vの放電容量が30mAh/g以上である。
0〜0.05Vの放電容量は、実施例の「電池容量の測定」に記載の方法に従って測定した。すなわち、「試験電池の作製」に従って、リチウム極を作製し、電解液としてはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートの混合液を用いたコイン型非水電解質系リチウム二次電池を作製した。充電方法は定電流定電圧法を用い、端子電圧が0Vになるまで0.5mA/cm
2で定電流充電を行い、端子電圧を0Vに達した後、端子電圧0Vで定電圧充電を行い電流値が20μAに達するまで充電を継続した。充電終了後、30分間電池回路を開放し、その後放電を行った。放電は0.5mA/cm
2で定電流放電を行い、終止電圧を1.5Vとした。このときの0〜0.05Vの放電容量を測定した。
【0015】
(主共鳴ピーク)
本発明の全固体電池用負極に用いる炭素質材料は、限定されるものではないが、電気化学的にリチウムをドープし、
7Li−NMR分析を行った場合に、LiClの共鳴線を0ppmとしたときに低磁場側に80〜200ppmの範囲に主共鳴ピークが観測される。
主共鳴ピークとは、低磁場側0ppm〜200ppmの範囲の共鳴ピークのうち、ピーク面積が最大なピークをいう。
主共鳴ピークのナイトシフトは、炭素構造中へのリチウムの吸蔵機構に応じて、特徴的なシフトを示す。黒鉛へのリチウムの吸蔵は、リチウム黒鉛層間化合物LiC
6の生成を伴う吸蔵機構であり、最大372mAh/gの吸蔵で44ppm程度のナイトシフトを示し、これを超えることはない。一方、金属リチウムの析出にともなう主共鳴ピークは、約265ppmに相当する。
本発明の炭素質材料にリチウムをドープした場合、黒鉛層間化合物以外の形態でも炭素質材料中にリチウムを吸蔵できる構造を有しているため、リチウムのドープ量の増大に伴って炭素質材料中にドープされたリチウム由来のナイトシフトが大きくなり、ついには80ppmを超えたナイトシフトを示す。更にリチウムのドープ量を増大すると、80〜200ppmの間のピークの他に金属リチウムの析出にともなう約265ppmのピークが現れる。そのため、200ppm以上のナイトシフトは安全性の観点から好ましくない。また、主共鳴ピークのナイトシフトが80ppm未満の炭素質材料は、炭素質材料のドープ容量が小さく好ましくない。本発明の炭素質材料は好ましくは90ppm以上、更に好ましくは95ppm以上に主共鳴ピークのナイトシフトが観測されることである。
【0016】
(燃焼ピークT(℃)とブタノール真密度ρ
Bt(g/cm
3)との関係)
本発明の全固体電池用負極に用いる炭素質材料は、示差熱分析による燃焼ピークT(℃)とブタノール真密度ρ
Bt(g/cm
3)とが、下記式(1)
300≦T−100×ρ
Bt≦570(1)
を満たす炭素質材料である。
燃焼ピークは、一般的に炭素質材料の炭素六角平面の大きさとそれらの三次元的な秩序性に応じて変化を示すものであり、一般的に炭素六角平面が大きく、また三次元的な秩序性が高いほど高温側にピークが現れる傾向にある。このような炭素質材料は、三次元的な秩序性が高いため、ブタノール法により測定した真密度ρ
Btも高い。例えば、炭素六角平面が大きく、面間隔0.3354nmを有する黒鉛材料は、800℃近くの燃焼ピーク温度を示す。このような炭素質材料は、リチウム黒鉛層間化合物LiC
6生成を伴うリチウム吸蔵機構が主となり、リチウムのドープ量は最大でも372mAh/gである。
一方で、一般的に炭素六角平面が小さく、また三次元的な秩序性が低いほど低温側にピークが現れる傾向にある。このような炭素質材料は、リチウムを吸蔵しうる微細な細孔を炭素質材料中に多く有し、ドープ量が高くなる。しかしながら、過度に燃焼ピークが低温側に現れる場合、細孔量や細孔径が過度に大きく、比表面積が高いため、不可逆容量の増加を招き好ましくない。また、炭素質材料中の細孔量が大きいため、ブタノール法により測定した真密度ρ
Btが過度に低くなり、体積エネルギー密度の観点で好ましくない。
これらの燃焼ピークT及びブタノール法により測定した真密度ρ
Btと、高いドープ容量を有する炭素質材料との関係において、鋭意研究した結果、炭素質材料が300≦T−100×ρ
Bt≦570の関係を満たす燃焼ピークTとブタノール法により測定した真密度ρ
Btを有する場合、高いドープ容量を有することがわかった。本発明の炭素質材料は、好ましくは310≦T−100×ρ
Bt≦530、更に好ましくは320≦T−100×ρ
Bt≦510を満たす燃焼ピークTとブタノール法により測定した真密度ρ
Btを有することである。また、本発明の炭素質材料のT−100×ρ
Btの下限は、430であってもよい。
【0017】
《固体電解質》
本発明の全固体電池用負極は、固体電解質材料を含む。前記固体電解質材料は、リチウムイオン二次電池分野で使用されているものを限定することなく使用することができ、有機化合物、無機化合物、又はそれらの混合物からなる固体電解質材料を用いることができる。固体電解質材料はイオン伝導性および絶縁性を有しており、具体的には、ポリマー電解質(例えば真性ポリマー電解質)、硫化物固体電解質材料、又は酸化物固体電解質材料を挙げることができるが、硫化物固体電解質材料が好ましい。
真性ポリマー電解質としては、エチレンオキシド結合を有するポリマーやその架橋体やその共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート系ポリマーなどが挙げられ、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネートなどが挙げられる。
硫化物固体電解質材料としては、Li
2Sと、Al
2S
3、SiS
2、GeS
2、P
2S
3、P
2S
5、As
2S
3、Sb
2S
3若しくはそれらの混合物との組み合わせを挙げることができる。すなわち、硫化物固体電解質材料として、Li
2S−Al
2S
3材料、Li
2S−SiS
2材料、Li
2S−GeS
2材料、Li
2S−P
2S
3材料、Li
2S−P
2S
5材料、Li
2S−As
2S
3材料、Li
2S−Sb
2S
3材料、Li
2S−材料を挙げることができ、特にはLi
2S−P
2S
5材料が好ましい。更に、これらの固体電解質材料に、Li
3PO
4、ハロゲン、又はハロゲン化合物を添加して、固体電解質材料として用いることもできる。
酸化物固体電解質材料としては、ペロブスカイト型、NASICON型、又はガーネット型の構造を有する酸化物固体電解質材料が挙げられ、例えば、La
0.51LiTiO
2.94、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3、又はLi
7La
3Zr
2O
12などが挙げられる。
【0018】
固体電解質材料の形状は、電解質として機能する限りにおいて、限定されるものではない。固体電解質材料の平均粒子径も、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1μm〜50μmである。
【0019】
固体電解質材料のリチウムイオン電導度は、本発明の効果が得られる限りにおいて、限定されるものではないが、好ましくは1×10
−6S/cm以上であり、より好ましくは1×10
−5S/cm以上である。
【0020】
前記Li
2S−P
2S
5材料は、Li
2SおよびP
2S
5から製造することもでき、あるいはLi
2S、単体燐及び単体硫黄を用いて製造することもできる。Li
2Sは、工業的に生産され、販売されているものを使用してもよいが、以下の方法によって製造することもできる。具体的には、非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを0〜150℃で反応させて水Li
2Sを生成し、次いで、この反応液を150〜200℃で脱硫化水素化する方法(特開平7−330312号公報参照);非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素とを150〜200℃で反応させ、直接Li
2Sを生成する方法(特開平7−330312号公報参照);及び水酸化リチウムとガス状硫黄源を130〜445℃の温度で反応させる方法(特開平9−283156号公報)を挙げることができる。前記P
2S
5も、工業的に製造され、販売されているものを使用することができる。また、P
2S
5に代えて、単体リン及び単体硫黄を用いることもできる。単体リン及び単体硫黄も、工業的に生産され、販売されているものを使用することができる。
【0021】
前記P
2S
5と、Li
2Sとを用いて、溶融急冷法又はメカニカルミリング法によって、Li
2S−P
2S
5材料を製造することができる。これらの方法によって得られる電解質材料は、硫化ガラスであり、非晶質化されたものである。P
2S
5と、Li
2Sとを、例えば50:50〜80:20、好ましくは60:40〜75:25のモル比で混合して、固体電解質を製造することができる。溶融急冷法の場合、乳鉢でペレット状にした混合物を、カーボンコートした石英管中に入れ真空封入する。そして400℃〜1000℃で、0.1時間〜12時間反応させる。得られた反応物を、氷中に投入し急冷することにより、非晶質の固体電解質を得ることができる。メカニカルミリング法の場合、常温で反応を行うことができる。例えば、遊星型ボールミル機を使用し、数十〜数百回転/分の回転速度で、0.5時間〜100時間処理することによって、非晶質の固体電解質を得ることができる。
【0022】
前記炭素質材料及び固体電解質を混合することによって、全固体電池用負極合材を得ることができる。炭素質材料と、固体電解質との混合比は、本発明の効果が得られる限りにおいて、限定されるものではないが、好ましくは体積比で20:80〜80:20であり、より好ましくは30:70〜70:30である。得られた炭素質材料及び固体電解質の混合物を、例えば加圧成形することによって、本発明の全固体電池用負極を得ることができる。加圧成形の操作は、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。加圧成形の圧力は、特に限定されるものではないが、例えば0.5〜600MPaであり、好ましくは1.0〜600MPaであり、より好ましくは2.0〜600MPaである。
【0023】
更に、本発明の全固体電池用負極は、本発明の効果が得られる限りにおいて、前記炭素質材料以外の負極材料を含むことができる。すなわち、前記炭素質材料を含む負極及びリチウムを含む正極の全固体電池において、炭素質材料を負極とした場合に、リチウム参照電極基準で0〜0.05Vの放電容量が30mAh/g以上である限りにおいて、負極活物質層は、例えば黒鉛又は易黒鉛化性炭素質材料を含んでもよい。
【0024】
《膨張率》
本発明の全固体電池用負極の膨張率は、黒鉛又は易黒鉛化性炭素質材料を用いた全固体電池の負極の膨張率と比較すると、顕著に小さい。これは、本発明の全固体電池用負極に用いる炭素質材料が、前記の物性を有しているためである。全固体電池用負極の膨張率は、限定されるものではないが、好ましくは8%以下であり、より好ましくは6%以下であり、更に好ましくは5%以下である。下限は限定されるものではないが、0.5%以上であり、より好ましくは1%以上である。膨張率が8%を超える場合、Li挿入時に膨張し、Li脱離時に炭素質材料が収縮することで、炭素質材料と固体電解質との界面において剥離が生じ、電気化学的特性が低下するため好ましくない。一方、膨張率が0.5%未満の場合、炭素質材料中に多くの細孔を有するため、炭素質材料の真密度が低下し、単位体積当たりのエネルギー容量が低くなるため好ましくない。
膨張率は、以下のように測定することができる。炭素質材料94重量部、ポリフッ化ビニリデン6重量部に、N−メチルピロリドンを加えてペースト状とし、銅箔上に均一に塗布し、乾燥した直径21mmの電極を得る。広角X線回折測定により、未充電時の(002)面の平均面間隔(A)を測定する。実施例の「試験電池の作製」、及び「電池容量の測定」の記載に従い、満充電時の充電容量まで充電する。コイン型電池を解体、炭素質材料の電極のみをジメチルカーボネートで洗浄し、電解液を除去後、乾燥させ、満充電電極を得る。この満充電電極を、非大気暴露下で、広角X線回折測定を行い、満充電時の(002)面の平均面間隔(B)を測定する。膨張率を、以下の式により算出する。
[膨張率]=[(B/A)×100]−100(%)
【0025】
《電極変形率》
本発明の全固体電池用負極は、優れた電極変形率を示す。すなわち、前記の物性を有する炭素質材料を用いた全固体電池用負極は、電極変形率が顕著に小さい。全固体電池用負極の電極変形率は、限定されるものではないが、好ましくは15%以下であり、より好ましくは14.5%以下である。下限は低い方が好ましいため、特に限定されるものではない。なお、電極変形率は以下のように測定することができる。
φ10、高さ3cmの筒状容器に、炭素質材料:疑似固体電解質(臭化カリウム)が重量比で50:50とした混合試料を0.65mL分を入れ、上部よりφ10の円柱上のロッドで加圧する。加圧は、0から400MPaまで加圧する。その際、400MPa加圧時のロッド上部までの高さをAとする。その後、圧力を徐々に開放し、0MPa時のロッド上部までの高さをBとする。電極変形率は、次の式で算出する。
電極変形率=[(B/A)×100]−100
【0026】
[2]全固体電池
本発明の全固体電池は、前記全固体電池用負極を含むものである。より具体的には、負極活物質層、正極活物質層、及び固体電解質層を含む。
【0027】
《負極活物質層》
負極活物質層は、前記炭素質材料及び固体電解質材料を含み、更に導電助剤、バインダー、又はその両方を含んでもよい。負極活物質層における、炭素質材料と、固体電解質との混合比は、本発明の効果が得られる限りにおいて、限定されるものではないが、好ましくは体積比で20:80〜80:20であり、より好ましくは30:70〜70:30である。また、負極活物質層に対する炭素質材料の含有量は、好ましくは20体積%〜80体積%の範囲内であり、より好ましくは30体積%〜70体積%の範囲内である。
【0028】
負極活物質層は、本発明の効果が得られる限りにおいて、前記炭素質材料以外の負極材料を含むことができる。すなわち、前記炭素質材料を含む負極及びリチウムを含む正極の全固体電池において、炭素質材料を負極とした場合に、リチウム参照電極基準で0〜0.05Vの放電容量が30mAh/g以上である限りにおいて、負極活物質層は、例えば黒鉛又は易黒鉛化性炭素質材料を含んでもよい。
【0029】
負極活物質層は、更に導電助剤及び/又はバインダーを含むことができる。本発明の炭素質材料を用いることにより、特に導電助剤を添加しなくとも高い導電性を有する電極を製造することができるが、更に高い導電性を付与することを目的に、必要に応じて導電助剤を添加することが出来る。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナオチューブ、又はカーボンファイバーを挙げることができる。導電助剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば0.5〜15重量%である。また、バインダーとしては、例えば、PTFE又はPVDF等のフッ素含有バインダーを挙げることができる。導電助剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば0.5〜15重量%である。また、負極活物質層の厚さは、限定されないが、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内である。
負極活物質層の調製方法は、特に限定されるものではないが、前記炭素質材料、及び固体電解質材料、更に必要に応じて導電助剤及び/又はバインダーを混合して、加圧成形することにより、製造することができる。また、特定の溶媒に炭素質材料、固体電解質材料、必要に応じて導電助剤及び/又はバインダーを混合し、スラリー状態としたものを塗工、乾燥し、その後加圧成形することでも製造できる。
負極活物質層は、通常集電体を有する。負極集電体としては、例えば、SUS、銅、ニッケル又はカーボンを用いるができ、中でも、Cu又はSUSが好ましい。
【0030】
《正極活物質層》
正極活物質層は、正極活物質及び固体電解質材料を含み、更に導電助剤、バインダー、又はその両方を含んでもよい。正極活物質層における正極活物質と、固体電解質との混合比は、本発明の効果が得られる限りにおいて、限定されるものではなく、適宜決定することができる。
【0031】
正極活物質は、全固体電池において使用されている正極活物質を限定せずに用いることができる。例えば、層状酸化物系(LiMO
2と表されるもので、Mは金属:例えばLiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、又はLiNi
xCo
yMn
zO
2(ここでx、y、zは組成比を表す))、オリビン系(LiMPO
4で表され、Mは金属:例えばLiFePO
4など)、スピネル系(LiM
2O
4で表され、Mは金属:例えばLiMn
2O
4など)の複合金属カルコゲン化合物を挙げることができ、これらのカルコゲン化合物を必要に応じて混合してもよい。
【0032】
正極活物質層は、更に導電助剤及び/又はバインダーを含むことができる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、又はカーボンファイバーを挙げることができる。導電助剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば0.5〜15重量%である。また、バインダーとしては、例えば、PTFE又はPVDF等のフッ素含有バインダーを挙げることができる。導電助剤の含有量は、限定されるものではないが、例えば0.5〜15重量%である。また、正極活物質層の厚さは、限定されないが、例えば0.1μm〜1000μmの範囲内である。
正極活物質層の調製方法は、特に限定されるものではないが、前記正極活物質、及び固体電解質材料、更に必要に応じて導電助剤及び/又はバインダーを混合して、加圧成形することにより、製造することができる。また、特定の溶媒に正極活物質、固体電解質材料、必要に応じて導電助剤及び/又はバインダーを混合し、スラリー状態としたものを塗工、乾燥し、その後加圧成形することでも製造できる。
正極活物質層は、通常集電体を有する。負極集電体としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンを用いることができ、中でも、アルミニウム又はSUSが好ましい。
【0033】
《固体電解質層》
固体電解質層は、前記「[1]全固体電池用負極」の項に記載の固体電解質を含むものである。
固体電解質層に対する固体電解質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば10体積%〜100体積%であり、好ましくは50体積%〜100体積%である。
固体電解質層の厚さも、特に限定されるものではないが、例えば0.1μm〜1000μmであり、好ましくは0.1μm〜300μmである。
固体電解質層の調製方法は、特に限定されるものではないが、気相法、又は加圧成形法によって、作製することができる。気相法としては、限定されるものではないが、真空蒸着法、パルスレーザデポジション法、レーザアブレーション法、イオンプレーティング法、又はスパッタリング法を挙げることができる。また、加圧成形法としては、固体電解質、更に必要に応じて導電助剤及び/又はバインダーを混合して、加圧成形することにより、製造することができる。また、特定の溶媒に固体電解質材料、必要に応じて導電助剤及び/又はバインダーを混合し、スラリー状態としたものを塗工、乾燥し、その後加圧成形することでも製造できる。
【0034】
《製造方法》
全固体電池の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の全固体電池の製造方法を用いることができる。例えば、前記負極活物質層を構成する材料を混合したもの、正極活物質層を構成する材料を混合したもの、及び固体電解質層を構成する材料を混合したものを圧縮成形することによって、全固体電池を得ることができる。圧縮成形の順番は、特に限定されないが、負極活物質層、固体電解質層、そして正極活物質層の順番、正極活物質層、固体電解質層、そして負極活物質層の順番、固体電解質層、負極活物質層、そして正極活物質層の順番、又は固体電解質層、正極活物質層、そして負極活物質層の順番を挙げることができる。
【0035】
[3]放電容量の増加方法
本発明のリチウム参照電極基準で負極電極電位0〜0.05Vの放電容量の増加方法は、(1)ブタノール法により求めた真密度が1.30g/cm
3〜1.70g/cm
3、及び平均粒子径D
v50が1〜50μmである炭素質材料を負極活物質として用いて全固体電池を製造する工程、及び(2)得られた全固体電池の負極電極電位をリチウム参照電極基準で0.05V未満に設定する工程を含むことを特徴とする。すなわち、前記の物性を有する炭素質材料を負極活物質として用いることによって、リチウム参照電極基準で負極電極電位0〜0.05Vの放電容量を増加させることができる。
本発明の放電容量の増加方法に用いられる炭素質材料、負極活物質、正極活物質、及び固体電解質等は、前記「全固体電池用負極」又は「全固体電池」の項に記載の炭素質材料、負極活物質、正極活物質、及び固体電解質等を用いることができる。
【0036】
本発明の放電容量の増加方法に用いられる全固体電池としては、非水電解質二次電池又は全固体電池を挙げることができるが、好ましくは全固体電池である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
なお、以下に本発明の非水電解質二次電池用炭素質材料の物性値(「X線回折法による(002)面の平均面間隔d
(002)及びc軸方向の結晶子厚みL
c(002)」、「比表面積」、「ブタノール法により求めた真密度」、「レーザー回折法による平均粒子径」、「
7Li−NMR分析」、及び「示差熱分析測定」)の測定法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0038】
《炭素質材料の(002)面の平均面間隔d
(002)及び結晶子厚みL
c(002)》
炭素質材料粉末を試料ホルダーに充填し、PANalytical社製X’Pert PROを用いて、対称反射法にて測定した。走査範囲は8<2θ<50°で印加電流/印加電圧は45kV/40mAの条件で、Niフィルターにより単色化したCuKα線(λ=1.5418Å)を線源とし、X線回折図形を得た。回折図形の補正は、ローレンツ変更因子、吸収因子、及び原子散乱因子などの関する補正を行わず、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折線を用いて、回折角を補正した。CuKα線の波長を0.15418nmとし、Braggの公式d
(002)=λ/2・sinθによりd
(002)を計算した。また、(002)回折線のピークトップ法(ピークの広がりをピーク強度の半分の所に相当する2θ)により求められた半値幅からシリコン粉末の(111)回折線の半値幅を差し引いた値βより、Scherrerの式L
c(002)=Kλ/(β
1/2・cosθ)によりc軸方向の結晶子の厚みL
c(002)を計算した。ここでは形状因子K=0.9とし計算した。
【0039】
《比表面積》
JIS Z8830に定められた方法に準拠し、比表面積を測定した。概要を以下に記す。
BETの式から誘導された近似式v
m=1/(v(1−x))を用いて液体窒素温度における、窒素吸着による1点法(相対圧力x=0.2)によりv
mを求め、次式により試料の比表面積を計算した:比表面積=4.35×v
m(m
2/g)
(ここで、v
mは試料表面に単分子層を形成するに必要な吸着量(cm
3/g)、vは実測される吸着量(cm
3/g)、xは相対圧力である。)
具体的には、MICROMERITICS社製「Flow Sorb II2300」を用いて、以下のようにして液体窒素温度における炭素質物質への窒素の吸着量を測定した。
炭素材料を試料管に充填し、窒素ガスを20モル%濃度で含有するヘリウムガスを流しながら、試料管を−196℃に冷却し、炭素材に窒素を吸着させる。次に試験管を室温に戻す。このとき試料から脱離してくる窒素量を熱伝導度型検出器で測定し、吸着ガス量vとした。
【0040】
《ブタノール法による真密度》
JIS R7212に定められた方法に準拠し、ブタノールを用いて測定した。概要を以下に記す。
内容積約40mLの側管付比重びんの質量(m
1)を正確に量る。次に、その底部に試料を約10mmの厚さになるように平らに入れた後、その質量(m
2)を正確に量る。これに1−ブタノールを静かに加えて、底から20mm程度の深さにする。次に比重びんに軽い振動を加えて、大きな気泡の発生がなくなったのを確かめた後、真空デシケーター中に入れ、徐々に排気して2.0〜2.7kPaとする。その圧力に20分間以上保ち、気泡の発生が止まった後取り出して、更に1−ブタノールで満たし、栓をして恒温水槽(30±0.03℃に調節してあるもの)に15分間以上浸し、1−ブタノールの液面を標線に合わせる。次に、これを取り出して外部をよくぬぐって室温まで冷却した後、質量(m
4)を正確に量る。次に同じ比重びんに1−ブタノールだけを満たし、前記と同じようにして恒温水槽に浸し、標線を合わせた後、質量(m
3)を量る。また、使用直前に沸騰させて溶解した気体を除いた蒸留水を比重びんにとり、前と同様に恒温水槽に浸し、標線を合わせた後質量(m
5)を量る。真密度(ρ
Bt)は次の式により計算する。
【数1】
(ここでdは水の30℃における比重(0.9946)である。)
【0041】
《平均粒子径》
試料約0.1gに対し、分散剤(カチオン系界面活性剤「SNウェット366」(サンノプコ社製))を3滴加え、試料に分散剤を馴染ませる。次に、純水30mLを加え、超音波洗浄機で約2分間分散させたのち、粒径分布測定器(島津製作所製「SALD−3000J」)で、粒径0.05〜3000μmの範囲の粒径分布を求めた。
得られた粒径分布から、累積容積が50%となる粒径をもって平均粒径D
v50(μm)とした。
【0042】
《
7Li−NMR分析》
(1)炭素電極(正極)及びリチウム負極の製造
炭素質材料粉末90重量部、ポリフッ化ビニリデン10重量部に、N−メチル−2−ピロリドンを加えてペースト状とし、銅箔上に均一に塗布し、乾燥した後、銅箔より剥離させ直径21mmの円板状に打ち抜き、約500MPaの圧力でプレスして正極とした。なお正極中の炭素質材料の量は約40mgになるように調整した。負極には、厚さ1mmの金属リチウム薄板を直径21mmの円板状に打ち抜いたものを用いた。
(2)
7Li−NMR分析
前記炭素電極(正極)及びリチウム負極を用い、電解液として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートとを容量比で1:2:2で混合した混合溶媒に1.5モル/リットルの割合でLiPF
6を加えたものを使用し、ポリプロピレン製微細孔膜をセパレータとして非水溶媒系リチウム二次電池を構成し、電流密度0.2mA/cm
2の定電流で電気量が600mAh/g(炭素質物質)に達するまで通電し、炭素質材料にリチウムをドープした。
ドーピング終了後、2時間休止したのち、アルゴン雰囲気下で炭素電極を取り出し、電解液を拭き取った炭素電極(正極)を全てNMR測定用サンプル管に充填した。NMR分析は、日本電子(株)製JNM−EX270によりMAS−
7Li−NMRの測定を行った。測定にあたっては、LiClを基準物質として測定し、これを0ppmに設定した。
【0043】
《示差熱分析測定》
島津製作所製DTG−60Hを使用し、乾燥空気気流下で示差熱分析を行った。分析条件は、試料2mg、100mL/minの空気気流下、昇温速度10℃/minで行った。示差熱曲線から発熱ピーク温度を読み取った。
【0044】
《製造例1》
軟化点205℃、H/C原子比0.65、キノリン不溶分0.4%の石油系ピッチ70kgと、ナフタレン30kgとを、撹拌翼及び出口ノズルのついた内容積300リットルの耐圧容器に仕込み、190℃で1〜2時間加熱溶融混合を行った。その後、加熱溶融混合した石油系ピッチを100℃程度まで冷却し、耐圧容器内を窒素ガスにより加圧して、内容物を出口ノズルから押し出すことで、直径約500μmの紐状成型体を得た。次いで、この紐状成型体を直径(D)と長さ(L)の比(L/D)が約1.5〜2.0になるように粉砕し、得られた粉砕物を93℃に加熱した0.53質量%のポリビニルアルコール(ケン化度88%)を溶解した水溶液中に投入し、攪拌分散し、冷却して球状ピッチ成型体スラリーを得た。大部分の水をろ過により取り除いた後に、球状ピッチ成型体の約6倍量の重量のn−ヘキサンでピッチ成型体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチを、流動床を用いて、加熱空気を通じながら、230℃まで昇温し、230℃で1時間保持して酸化し、熱に対して不融性の多孔性球状酸化ピッチを得た。
次に、内径50mm、高さ900mmの縦型管状炉に酸化ピッチ100gを入れて、装置下部から常圧の窒素ガスを5NL/minの流量で流しながら550℃まで昇温し、550℃で1時間保持して仮焼成を実施し、炭素質前駆体を得た。得られた炭素質前駆体200gをジェットミル(ホソカワミクロン社AIR JET MILL;MODEL 100AFG)により、粉砕圧4.0kgf/cm
2、ローターの回転数4500rpmで、20分間粉砕し、平均粒子径が約20μmの粉砕炭素質前駆体とした。なお、使用したジェットミルは、分級機を備えたものである。次に、粉砕炭素質前駆体10gを直径100mmの横型管状炉に入れ、250℃/hの昇温速度で1200℃まで昇温し、1200℃で1時間保持して、本焼成を行い、炭素質材料1を調製した。なお、本焼成は、流量10L/minの窒素雰囲気下で行った。
【0045】
《製造例2》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を260℃とし、1時間保持したこと、比表面積が2.9m
2/g、平均粒子径が21.0μm、及びρ
Btが1.52となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して炭素質材料2を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0046】
《製造例3》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を280℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を1050℃としたこと、比表面積が3.2m
2/g、平均粒子径が20.6μm、及びρ
Btが1.52となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して炭素質材料3を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0047】
《製造例4》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を280℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を1100℃としたこと、比表面積が3.1m
2/g、平均粒子径が21.3μm、及びρ
Btが1.52となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して炭素質材料4を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0048】
《製造例5》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を280℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を1200℃としたこと、比表面積が2.7m
2/g、平均粒子径が20.5μm、及びρ
Btが1.52となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して炭素質材料5を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0049】
《製造例6》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を290℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を1200℃としたこと、比表面積が3.1m
2/g、平均粒子径が19.7μm、及びρ
Btが1.52となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して炭素質材料6を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0050】
《製造例7》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を210℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を1200℃としたこと、比表面積が5.5m
2/g、平均粒子径が12.2μm、及びρ
Btが1.63となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して炭素質材料7を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0051】
《製造例8》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を230℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を1200℃としたこと、比表面積が7.5m
2/g、平均粒子径が10.4μm、及びρ
Btが1.57となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して炭素質材料8を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0052】
《製造例9》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を260℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を1200℃としたこと、比表面積が6.2m
2/g、平均粒子径が9.6μm、及びρ
Btが1.52となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して炭素質材料9を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0053】
《製造例10》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を320℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を1200℃としたこと、比表面積が9.6m
2/g、平均粒子径が11.5μm、及びρ
Btが1.48となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して炭素質材料10を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0054】
《製造例11》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を240℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を1200℃、本焼成時の流量を約1〜2L/minとしたこと、比表面積が10.0m
2/g、平均粒子径が5.8μm、及びρ
Btが1.57となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して炭素質材料11を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0055】
《製造例12》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を260℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を1200℃としたこと、比表面積が1.8m
2/g、平均粒子径が29.5μm、及びρ
Btが1.52となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して炭素質材料12を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0056】
《製造例13》
本製造例では、フェノール樹脂を炭素源として、炭素質材料を調製した。
(1)フェノール樹脂の製造
オルトクレゾール108gにパラホルムアルデヒド32g、エチルセロソルブ242g及び硫酸10gを添加し115℃で3時間反応させたのち、炭酸水素ナトリウム17g及び水30gを加え反応液を中和した。得られた反応溶液は高速で撹拌した2リットルの水中投入しノボラック樹脂を得た。次に、ノボラック樹脂17.3gとヘキサミン2.0gを120℃で混練し、窒素ガス雰囲気中250℃で2時間加熱し硬化樹脂とした。
(2)炭素質材料の製造
得られた硬化樹脂を粗粉砕したのち、600℃で窒素雰囲気下(常圧)1時間仮焼成し、更にアルゴンガス雰囲気下(常圧)1200℃で1時間熱処理して炭素質材料を得た。得られた炭素質材料を、更に粉砕し平均粒子径22.8μmに調整し、炭素質材料13を得た。
【0057】
《製造例14》
本製造例では、ブタノール真密度が1.33g/cm
3の炭素質材料を調製した。
軟化点205℃、H/C原子比0.65、キノリン不溶分0.4%の石油系ピッチ70kgと、ナフタレン30kgとを、撹拌翼及び出口ノズルのついた内容積300リットルの耐圧容器に仕込み、加熱溶融混合を行った。その後、加熱溶融混合した石油系ピッチを冷却後、粉砕し、得られた粉砕物を90〜100℃の水中に投入し、攪拌分散し、冷却して球状ピッチ成型体を得た。大部分の水をろ過により取り除いた後に、球状ピッチ成型体をn−ヘキサンでピッチ成型体中のナフタレンを抽出除去した。このようにして得た多孔性球状ピッチを加熱空気を通じながら、加熱酸化し、熱に対して不融性の多孔性球状酸化ピッチを得た。多孔性球状酸化ピッチの酸素架橋度は6重量%であった。
次に、不融性の多孔性球状酸化ピッチ200gをジェットミル(ホソカワミクロン社AIR JET MILL;MODEL 100AFG)により、20分間粉砕し、平均粒子径が20〜25μmの粉砕炭素質前駆体を得た。得られた粉砕炭素質前駆体に窒素雰囲気中で水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を加え含浸させたのち、これを減圧加熱脱水処理することにより粉砕炭素質前駆体に対して30.0重量%のNaOHを添着した粉砕炭素質前駆体を得た。次に、NaOHを添着した粉砕炭素質前駆体を粉砕炭素前駆体の質量換算で10gを横型管状炉に入れ、窒素雰囲気中600℃で10時間保持して予備焼成を行い、更に250℃/hの昇温速度で1200℃まで昇温し、1200℃で1時間保持して、本焼成を行い焼成炭を得た。なお、本焼成は、流量10L/minの窒素雰囲気下で行った。得られた焼成炭5gを石英製の反応管に入れ、窒素ガス気流下で750℃に加熱保持し、その後反応管中に流通している窒素ガスをシクロヘキサンと窒素ガスの混合ガスに代えることにより熱分解炭素による焼成炭への被覆を行った。シクロヘキサンの注入速度は0.3g/分であり、30分間注入後、シクロヘキサンの供給を止め、反応管中のガスを窒素で置換したのち放冷し、炭素質材料14を得た。なお、得られた炭素質材料の平均粒子径は19μmであった。
【0058】
《比較製造例1》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を165℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を1800℃としたこと、平均粒子径が25.0μm、及びρ
Btが2.13となるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して比較炭素質材料を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0059】
《比較製造例2》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を210℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を700℃としたこと、比表面積が57.7m
2/g、平均粒子径が10.0μmとなるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して比較炭素質材料2を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0060】
《比較製造例4》
多孔性球状ピッチの酸化において、加熱空気の温度を250℃とし、1時間保持したこと、本焼成温度を2000℃としたこと、比表面積が2.8m
2/g、平均粒子径が15.2μmとなるように調製したことを除いては、製造例1の操作を繰り返して比較炭素質材料4を得た。得られた炭素質材料の物性を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
《実施例1〜14及び比較例1〜4》
前記製造例1〜14で得られた炭素質材料1〜14、比較製造例1〜2及び4で得られた比較炭素質材料1〜2及び4、及び中国洛陽産天然黒鉛(比較例3)を用いて、電解液電池を製造した。
【0063】
(試験電池の作製)
製造例1〜14で得られた炭素質材料は二次電池の負極電極を構成するのに適しているが、電池活物質の放電容量(脱ドープ量)及び不可逆容量(非脱ドープ量)を、対極の性能のバラツキに影響されることなく精度良く評価するために、特性の安定したリチウム金属を対極として、リチウム二次電池を構成し、その特性を評価した。
負極は、各炭素質材料94重量部、ポリフッ化ビニリデン6重量部に、N−メチルピロリドンを加えてペースト状とし、銅箔上に均一に塗布し、乾燥した後、銅箔より剥離させ、直径15mmの円板状に打ち抜き、電極とした。
リチウム極の調製は、Ar雰囲気中のグローブボックス内で行った。予め2016サイズのコイン型電池用缶の外蓋に直径16mmのステンレススチール網円盤をスポット溶接した後、厚さ0.8mmの金属リチウム薄板を直径15mmの円盤状に打ち抜いたものをステンレススチール網円盤に圧着し、電極(対極)とした。
このようにして製造した電極の対を用い、電解液としてはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートを容量比で1:2:2で混合した混合溶媒に1.4mol/Lの割合でLiPF
6を加えたものを使用し、直径19mmの硼珪酸塩ガラス繊維製微細細孔膜のセパレータとして、ポリエチレン製のガスケットを用いて、Arグローブボックス中で、2016サイズのコイン型非水電解質系リチウム二次電池を組み立てた。
【0064】
(電池容量の測定)
上記構成のリチウム二次電池について、充放電試験装置(東洋システム製「TOSCAT」)を用いて充放電試験を行った。炭素極へのリチウムのドープ反応を定電流定電圧法により行い、脱ドープ反応を定電流法で行った。ここで、正極にリチウムカルコゲン化合物を使用した電池では、炭素極へのリチウムのドープ反応が「充電」であり、本発明の試験電池のように対極にリチウム金属を使用した電池では、炭素極へのドープ反応が「放電」と呼ぶことになり、用いる対極により同じ炭素極へのリチウムのドープ反応の呼び方が異なる。そこでここでは、便宜上炭素極へのリチウムのドープ反応を「充電」と記述することにする。逆に「放電」とは試験電池では充電反応であるが、炭素材からのリチウムの脱ドープ反応であるため便宜上「放電」と記述することにする。ここで採用した充電方法は定電流定電圧法であり、具体的には端子電圧が0Vになるまで0.5mA/cm
2で定電流充電を行い、端子電圧を0Vに達した後、端子電圧0Vで定電圧充電を行い電流値が20μAに達するまで充電を継続した。このとき、供給した電気量を電極の炭素材の重量で除した値を炭素材の単位重量当たりの充電容量(mAh/g)と定義した。充電終了後、30分間電池回路を開放し、その後放電を行った。放電は0.5mA/cm
2で定電流放電を行い、終止電圧を1.5Vとした。このとき放電した電気量を電極の炭素材の重量で除した値を炭素材の単位重量当たりの放電容量(mAh/g)と定義する。不可逆容量は、充電容量−放電容量として計算される。
同一試料を用いて作製した試験電池についてのn=3の測定値を平均して充放電容量及び不可逆容量を決定した。結果を表2に示す。
【0065】
(膨張率の測定)
前記製造例1〜14で得られた炭素質材料1〜14、比較製造例1〜2及び4で得られた比較炭素質材料1〜2及び4、及び中国洛陽産天然黒鉛(比較例3)を用いて製造した負極電極について、充電時における膨張率を測定した。
膨張率は、以下の手法で測定した。
各炭素質材料94重量部、ポリフッ化ビニリデン6重量部に、N−メチルピロリドンを加えてペースト状とし、銅箔上に均一に塗布し、乾燥した後、銅箔より剥離させ、直径15mmの円板状に打ち抜き、電極とした。得られた電極を、前記「平均面間隔d
(002)及び結晶子厚みL
c(002)」に記載の方法に従い、広角X線回折測定を行い、未充電時の平均面間隔d
(002)(A)を得た。
前記「試験電池の作製」及び「電池容量の測定」に従い、充放電容量を測定した。満充電容量まで充電したコイン型電池を解体し、炭素質材料の電極のみをジメチルカーボネートで洗浄した。電解液を除去後、乾燥させ、満充電電極を得た。その満充電電極を「平均面間隔d
(002)及び結晶子厚みL
c(002)」に記載の方法に従い、非大気暴露下で、広角X線回折測定を行い、満充電時のd
(002)(B)を計算した。膨張率は、以下の式により算出した。
[膨張率]=[(B/A)×100]−100(%)
結果を表2に示す。
【0066】
(炭素質材料を負極としたリチウム参照電極基準で電池電圧範囲0〜0.05Vの放電容量の測定)
前記製造例1〜14で得られた炭素質材料1〜14、比較製造例1〜2で得られた比較炭素質材料1〜2、及び中国洛陽産天然黒鉛(比較例3)について、前記「試験電池の作製」及び「電池容量の測定」に従い、炭素質材料を負極としたリチウム参照電極基準で電池電圧範囲0〜0.05Vの放電容量を測定した。
結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2に示すように、実施例1〜14で得られた二次電池では、比較例1〜3で得られた非水電解質二次電池と比較して、炭素質材料を負極としたリチウム参照電極基準で0〜0.05Vの放電容量が優れていた。
【0069】
《全固体電極製造例》
実施例1〜11、及び比較例4の難黒鉛化性炭素質材料及び疑似固体電解質(臭化カリウム)を用いて、全固体電極を製造した。炭素質材料:疑似固体電解質(臭化カリウム)が重量比で50:50とした混合試料0.65mLを、φ10、高さ3cmの筒状容器に入れ、加圧成形した。
また、同時に全固体電極の電極変形率を測定した。上部よりφ10の円柱上のロッドで加圧する。加圧は、0から400MPaまで加圧する。その際、400MPa加圧時のロッド上部までの高さをAとする。その後、圧力を徐々に開放し、0MPa時のロッド上部までの高さをBとする。電極変形率は、次の式で算出する。
電極変形率=[(B/A)×100]−100
結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
【0071】
電極変形率は、比較例4の難黒鉛化性炭素質材料が15.4%であるのに対し、特定の物性を有する難黒鉛化性炭素質材料である実施例1〜6はそれぞれ12.6%、12.6%、12.5%、12.6%、12.8%、12.7%、実施例7〜10はそれぞれ14.0%、14.5%、14.5%、13.0%、実施例11は13.5%と電極変形率が低く、優れていた。