特許第6367950号(P6367950)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6367950
(24)【登録日】2018年7月13日
(45)【発行日】2018年8月1日
(54)【発明の名称】前立腺癌治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/10 20060101AFI20180723BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20180723BHJP
   A61K 38/09 20060101ALI20180723BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20180723BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180723BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20180723BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20180723BHJP
【FI】
   A61K38/10ZMD
   A61K31/337
   A61K38/09
   A61K39/39
   A61P35/00
   A61P35/04
   A61P43/00 121
   !C07K7/08
   !C12N9/12ZNA
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-541071(P2016-541071)
(86)(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公表番号】特表2017-501179(P2017-501179A)
(43)【公表日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】KR2014012502
(87)【国際公開番号】WO2015093854
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2016年8月26日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0157456
(32)【優先日】2013年12月17日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2013-0159571
(32)【優先日】2013年12月19日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514286826
【氏名又は名称】ジェムバックス アンド カエル カンパニー,リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】キム サン チェ
【審査官】 茅根 文子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−520293(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/101173(WO,A1)
【文献】 特表2011−524390(JP,A)
【文献】 特許第6059405(JP,B2)
【文献】 Cancer Immunol. Immunother.,2013年 4月,Vol. 62,pp. 1041-1052
【文献】 日本臨牀,2011年,Vol. 69, Suppl. 5,pp. 531-537
【文献】 日本臨牀,2011年,Vol. 69, Suppl. 5,pp. 469-472
【文献】 Prostate,2013年 5月,Vol. 73, No. 6,pp. 573-581
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58;41/00−45/08
A61K 31/337
A61K 39/39
A61P 35/00
A61P 35/04
A61P 43/00
C07K 7/08
C12N 9/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前立腺癌患者に投与し、前立腺癌の増殖または転移を抑制するための前立腺癌治療用組成物であって、
配列番号1のアミノ酸配列から成るペプチド、又は
前記配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチ
含み、
前記ペプチドは、前立腺癌を治療するための有効量で含まれ
前記組成物は、ドセタキセル又は酢酸ロイプロリドと併用して投与される、
前記組成物。
【請求項2】
アジュバントと組み合わされて投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アジュバントはサイトカインアジュバントを含む、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
前記サイトカインアジュバントは、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
患者に投与され、ここで前記患者は、血清レベルにおいて、前記患者を含む全ての患者のエオタキシン及びMIP1αの平均濃度よりも少なくとも10%高い、エオタキシン及びMIP1αの少なくとも1つの濃度(w/v)を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
ホルモン耐性を有する前立腺癌を治療するために使用される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
抗癌剤である酢酸ロイプロリドと併用して使用され、アジュバントとしてのGM−CSFと共に使用される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物と、説明書とを含む、前立腺癌治療用キット。
【請求項9】
前記説明書は、前記前立腺癌治療用組成物が、ドセタキセル及び酢酸ロイプロリドから選択される抗癌剤と併用投与され、アジュバントと組み合わせて投与され、そして患者に投与され、ここで前記患者は、血清レベルにおいて前記患者を含む前立腺癌患者の平均エオタキシン濃度よりも少なくとも10%高いエオタキシン濃度(w/v)を有する、という内容を含む、請求項に記載のキット。
【請求項10】
前立腺癌患者における前立腺癌の増殖または転移を抑制するための前立腺癌治療用組成物を製造するための、配列番号1のアミノ酸配列から成るペプチド、又は配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するペプチドの使用であって、前記組成物は、ドセタキセル又は酢酸ロイプロリドと併用して投与される、使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌治療用組成物に係り、さらに具体的には、テロメラーゼに由来したペプチドを含む、前立腺癌細胞の増殖及び転移を抑制するのに効果的な前立腺癌治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、西欧男性に最も一般的に発見される癌であり、米国の場合、全体男性癌患者の1/3に達する多頻度腫瘍である。2008年米国統計基準において、年間約19万件の発病が報告され、そのうち15%を上回る29,000人が前立腺癌で死亡すると知られている(Jemal et al., Cancer statistics, 58(2): 71-96, 2008)。
【0003】
国内の場合、前立腺癌の発生率は、1989年1.2%に過ぎなかったが、2001年2.8%、2005年には4.5%、2010年10.7%と、急な増加勢を示しており、主要癌腫の年齢標準化発生率の変動が、1999年から2007年まで13.2%と、甲状腺癌の次に高くなっている。特に、男性の場合、現在の全体癌発生頻度5位に該当しており、それは、西欧化された食生活が原因であると推定される(癌センター、癌統計資料集、2012)。
【0004】
前立腺癌の治療法としては、ホルモン療法、外科療法、放射線療法、化学療法、及びそれらを併用する治療法が利用されている。ホルモン療法は、前立腺癌の増殖に関係するアンドロゲンの生産を抑制したり、その作用を抑制したりする方法であり、具体的には、男性ホルモンを生産する精巣の除去、下垂体に作用し、アンドロゲンを低下させるLHRH類似体(luteinizing hormone releasing hormone analogue)やエストロゲン製剤の投与、抗アンドロゲン剤の投与などの方法を使用することができる。
【0005】
進行前立腺癌の治療法として、ホルモン療法が唯一に適用されている実情であるが、ホルモン療法を適用したほとんどの進行前立腺癌患者には、数年内にホルモン耐性ができ、持続的な治療に困難がある。従って、ホルモン療法に対する耐性を獲得した患者にも適用が可能な前立腺癌の治療法への必要性が提起されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】KR2008−0084818
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jemal et al., Cancer statistics, 58(2): 71-96, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それにより、本発明者らは、効果的に前立腺癌の治療方法を開発するために、鋭意努力した結果、テロメラーゼ由来ペプチド、またはそれと、ドセタキセルまたは酢酸ロイプロリドのような既存前立腺癌治療剤との併用投与を介して、有意性ある抗癌効能上昇を起こすことを確認し、本発明の完成に至った。
【0009】
従って、本発明の目的は、前立腺癌の増殖及び転移を抑制する効果を有する前立腺癌治療用組成物、及びそれを対象に投与する前立腺癌治療方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド、前記アミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するペプチド、またはそれらのペプチド断片を含む、前立腺癌患者に投与し、前立腺癌の増殖または転移を抑制するための前立腺癌治療用組成物を提供する。
【0011】
一実施形態において、前記組成物は、抗癌剤と併用して投与されてもよい。
【0012】
一実施形態において、前記抗癌剤は、化学療法剤としてのドセタキセルを含んでもよい。
【0013】
一実施形態において、前記抗癌剤は、酢酸ロイプロリドを含んでも良い。
【0014】
一実施形態において、前記組成物は、アジュバント(adjuvant)と組み合わされて投与されてもよい。
【0015】
一実施形態において、前記アジュバントは、サイトカインアジュバントを含んでもよい。
【0016】
一実施形態において、前記サイトカインアジュバントは、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(「GM−CSF」)を含んでもよい。
【0017】
一実施形態において、前記組成物は患者に投与されてもよく、ここで患者は、血清レベルにおいて、前記患者を含む患者のエオタキシン及びMIP1αの平均濃度よりも少なくとも10%高い、エオタキシン及びMIP1αの少なくとも1つの濃度(w/v)を有する。
【0018】
一実施形態において、前記組成物は、抗癌剤である酢酸ロイプロリドと併用して使用されてもよく、アジュバントは顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子であってもよい。
【0019】
一実施形態において、前記組成物は、ホルモン耐性を有する前立腺癌の治療のために使用されてもよい。
【0020】
本開示の他の態様は、前述の前立腺癌治療用組成物と説明書とを含む、前立腺癌治療用キットを提供する。
【0021】
一実施形態において、前記説明書は、前記前立腺癌治療用組成物が、ドセタキセル及び酢酸ロイプロリドから選択される抗癌剤と併用投与され、アジュバントと組み合わせて投与され、そして患者に投与され、ここで前記患者は、血清レベルにおいて前記患者を含む前立腺癌患者の平均エオタキシン濃度よりも少なくとも10%高いエオタキシン濃度(w/v)を有する、という内容を含んでもよい。
【0022】
本開示の別の態様は、前立腺癌患者における前立腺癌を治療して、前立腺癌の増殖または転移を抑制するための方法であって、前立腺癌の治療を必要とする対象に前記前立腺癌治療用組成物を投与することを含む、前記方法を提供する。
【0023】
本開示の別の態様は、前立腺癌患者における前立腺癌を治療して、前立腺癌の増殖または転移を抑制するための方法であって、患者に前記前立腺癌治療用組成物を投与することを含み、ここで前記患者は、血清レベルにおいて、前記患者を含む前立腺癌患者の平均エオタキシン濃度よりも少なくとも10%高いエオタキシン濃度(w/v)を有する、前記方法を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、前立腺癌治療のために、テロメラーゼ由来ペプチドを投与することにより、既存の抗癌治療効果を改善させることができる。
【0025】
さらに具体的には、本発明によれば、前立腺癌の治療時、ドセタキセルまたは酢酸ロイプロリドのような既存前立腺癌治療剤と、テロメラーゼ由来ペプチドとを併用投与することにより、それぞれの単独投与時と比較するとき、相乗作用的治療効果を有する前立腺癌治療用組成物及び治療方法が提供される。特に、ドセタキセルまたは酢酸ロイプロリドのような既存前立腺癌治療剤の単独投与で十分な抗癌効果を起こすことができない患者、及びホルモン耐性が生じた患者に有用な治療法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド(「pep1」)の癌細胞増殖抑制効果を調べるために、前立腺癌細胞株(LNCaP)において、MTTアッセイを介して、pep1の濃度別に相対的な細胞増殖程度を示したグラフである。
図2】配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド(「pep1」)の癌細胞増殖抑制効果を調べるために、前立腺癌細胞株(LNCaP)において、MTTアッセイを介して、pep1の濃度別に相対的な細胞増殖程度を示したグラフである。
図3】pep1とドセタキセルとの併用投与時の癌細胞増殖抑制効果を調べるために、前立腺癌細胞株(LNCaP)において、MTTアッセイを介して、相対的な細胞増殖程度を示したグラフである。
図4】前立腺癌細胞株(LNCaP)細胞異種移植モデルにおいて、pep1、及びpep1と酢酸ロイプロリドとの併用投与時の効能を評価するために、濃度別にpep1及び酢酸ロイプロリドを単独または併用投与した各実験群の癌増殖率(経時的な腫瘍体積)を測定したグラフである。
図5】前立腺癌細胞株(LNCaP)細胞異種移植モデルにおいて、pep1とドセタキセルとの併用投与時の効能を評価するために、濃度別にpep1及びドセタキセルを併用投与した各実験群の癌増殖率(経時的な腫瘍体積)を測定したグラフである。
図6】前立腺癌細胞株(LNCaP)細胞異種移植モデルにおいて、pep1、並びにpep1及び酢酸ロイプロリドの併用投与時の安全性を評価するために、濃度別にpep1及び酢酸ロイプロリドを単独または併用投与した各実験群の日付別体重(body weight)を測定して示したグラフである。
図7】トランスウェル移動分析を介して、pep1の投与時、前立腺癌細胞株(LNCaP)の移動抑制程度を評価するために、細胞に、pep1を濃度別に投与した実験の結果を細胞移動数で示したグラフである。
図8】トランスウェル移動分析を介して、pep1の投与時、前立腺癌細胞株(LNCaP)の移動抑制程度を評価するために、細胞に、pep1を濃度別に投与した実験の結果写真である。
図9】トランスウェル移動分析を介して、pep1及びドセタキセルの併用投与時、前立腺癌細胞株(LNCaP)の移動抑制程度を評価するために、細胞にドセタキセルと共に、pep1を濃度別に投与した実験の結果を、細胞移動数で示したグラフである。
図10】トランスウェル移動分析を介して、pep1及びドセタキセルの併用投与時、前立腺癌細胞株(LNCaP)の移動抑制程度を評価するために、細胞に、pep1を濃度別に投与した実験の結果写真である。
図11】トランスウェル移動分析を介して、pep1及びドセタキセルの併用投与時、前立腺癌細胞株(LNCaP)の移動抑制程度を評価するために、細胞に、pep1を濃度別に投与した実験の結果写真である。
図12】トランスウェル移動分析を介して、pep1及びドセタキセルの併用投与時、前立腺癌細胞株(LNCaP)の移動抑制程度を評価するために、細胞に、pep1を濃度別に投与した実験の結果写真である。
図13】トランスウェル移動分析を介して、pep1及びドセタキセルの併用投与時、前立腺癌細胞株(LNCaP)の移動抑制程度を評価するために、細胞に、pep1を濃度別に投与した実験の結果写真である。
図14】トランスウェル移動分析を介して、pep1及びドセタキセルの併用投与時、前立腺癌細胞株(LNCaP)の移動抑制程度を評価するために、細胞に、pep1を濃度別に投与した実験の結果写真である。
図15】前立腺癌細胞株(LNCaP)細胞異種移植モデルにおいて、癌細胞移動と係わるmRNAマーカーであるMMP9の発現程度を、pep1 10mg/kg、酢酸ロイプロリド0.1mg/kgを投与した時及び対照群の別に示したグラフである。
図16】前立腺癌細胞株(LNCaP)細胞異種移植モデルにおいて、癌細胞移動と係わるmRNAマーカーであるMMP2の発現程度を、pep1 10mg/kg、酢酸ロイプロリド0.1mg/kgを投与した時及び対照群別に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、多様な変換を加えることができ、さまざまな実施例を有することができるが、以下、本発明についてさらに具体的に説明する。しかし、それは、本発明を特定の実施形態について限定するものではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変換、均等物ないし代替物を含むものであると理解されなければならない。本発明の説明において、関連公知技術に係わる具体的な説明が、本発明の要旨を不明確にすると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0028】
テロメア(telomere)は、染色体の末端に反復的に存在する遺伝物質であって、当該染色体の損傷や、他の染色体との結合を防止すると知られている。細胞が分裂するたびに、テロメアの長さは少しずつ短くなるが、一定回数以上の細胞分裂があれば、テロメアは非常に短くなり、その細胞は、分裂を止めて死ぬ。一方、テロメアを長くすれば、細胞の寿命が延長されると知られており、その例として、癌細胞では、テロメラーゼ(telomerase)という酵素が分泌され、テロメアが短くなることを防ぐために、癌細胞が死なずに、続けて増殖すると知られている。本発明者らは、テロメラーゼに由来するペプチドが前立腺癌の治療に効果的であるということを確認し、本発明の完成に至った。
【0029】
本発明の一側面において、テロメラーゼ由来ペプチドとして、下記配列番号1の16個アミノ酸配列を有するペプチド(以下、「pep1」とする)、または前記ペプチド配列と80%以上の配列相同性を有するペプチドは、テロメラーゼ、具体的には、ヒト(Homo sapiens)テロメラーゼに由来したペプチドを含む前立腺癌治療用組成物を提供する。
【0030】
配列番号1:EARPALLTSRLRFIPK
【0031】
本発明の一実施形態において、配列番号1のアミノ酸配列のペプチド、前述のペプチドのペプチド断片、または前述のペプチドのアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するペプチドは、テロメラーゼ、具体的には、人間(Homo sapiens)テロメラーゼに由来したペプチドを含む。
【0032】
本明細書に開示されたペプチドは、配列番号1のペプチド又はその断片と、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の配列相同性を有するペプチドを含んでもよい。また、本明細書に開示されたペプチドは、配列番号1を含むペプチドまたはその断片と、少なくとも1個のアミノ酸、少なくとも2個のアミノ酸、少なくとも3個のアミノ酸、少なくとも4個のアミノ酸、少なくとも5個のアミノ酸、少なくとも6個のアミノ酸、または少なくとも7個のアミノ酸が変化したペプチドを含んでもよい。本発明の一側面において、癌細胞増殖抑制用ペプチドは、30個以下のアミノ酸から構成されてもよい。
【0033】
配列番号1に記載されたペプチドは、下記表1の通りである。下記表1の「名称」は、ペプチドを区別するために命名したものである。本発明の一側面において、配列番号2に記載されたペプチドは、ヒトテロメラーゼの全体ペプチドを示す。本発明の他の一側面において、配列番号1の配列を有するペプチド、配列番号1の配列の断片であるペプチド、または前記ペプチド配列と80%以上の配列相同性を有するペプチドは、テロメラーゼに含まれたペプチドのうち、当該位置のペプチドを選別して合成した「合成ペプチド」を含む。配列番号2は、全体テロメラーゼのアミノ酸配列を示したものである。
【0034】
【表1】
【0035】
本発明の一側面において、アミノ酸変化は、ペプチドの物理化学的特性を変更させる性質に属する。例えば、ペプチドの熱安定性を向上させ、基質特異性を変更させ、最適のpHを変化させるようなアミノ酸変化が行われる。
【0036】
本明細書において「アミノ酸」というのは、自然にペプチドに統合される22個の標準アミノ酸だけではなく、D−アイソマー及び変形されたアミノ酸を含む。それにより、本発明の一側面においてペプチドは、D−アミノ酸を含むペプチドでもある。一方、本発明の他の側面においてペプチドは、翻訳後の変形(post-translational modification)が行われた非標準アミノ酸なども含む。翻訳後の変形例は、リン酸化(phosphorylation)、糖化(glycosylation)、アシル化(acylation)(例えば、アセチル化(acetylation)、ミリストイル化(myristoylation)及びパルミトイル化(palmitoylation)を含む)、アルキル化(alkylation)、カルボキシル化(carboxylation)、ヒドロキシル化(hydroxylation)、糖化反応(glycation)、ビオチニル化(biotinylation)、ユビキチニル化(ubiquitinylation)、化学的性質の変化(例えば、ベータ除去脱イミド化、脱アミド化)及び構造的変化(例えば、二硫化物ブリッジの形成)を含む。また、ペプチドコンジュゲートを形成するための架橋剤(crosslinker)との結合過程で起こる化学反応によって生ずるアミノ酸の変化、例えば、アミノ基、カルボン酸基、または側鎖での変化のようなアミノ酸の変化を含む。
【0037】
本明細書に開示されたペプチドは、自然そのままの供給源から同定されて分離された野生型ペプチドでもある。一方、本明細書に開示されたペプチドは、配列番号1の断片であるペプチドと比較し、一つ以上のアミノ酸が置換、欠失及び/または挿入されたアミノ酸配列を含む、人工変異体でもある。人工変異体だけではなく、野生型ポリペプチドでのアミノ酸変化は、タンパク質のフォールディング(folding)及び/または活性に、有意の影響を及ぼさない保存性アミノ酸置換を含む。保存性置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リシン及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(ルシン、イソロイシン及びメチオニン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)、及び小アミノ酸(グリシン、アラニン、セリン及びトレオニン)の群の範囲内にある。一般的に、特異的活性を変更させないアミノ酸置換が、本分野に公知されている。最も一般的に発生する交換は、Ala/Ser、Val/Ile、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Tyr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/Ile、Leu/Val、Ala/Glu及びAsp/Gly、並びにそれらと反対のものである。保存的置換の他の例は、次の表2の通りである。
【0038】
【表2】
【0039】
前記前立腺癌治療用組成物において、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドを、0.01g/Lないし1kg/L、具体的には、0.1g/Lないし100g/L、さらに具体的には、1g/Lないし10g/Lの含量(ペプチド濃度)で含まれている。
【0040】
本明細書において、ペプチドの投与量、投与方法、投与周期などは、すでに当業界に周知されているので、各患者の状態によって、当業界に知られている基準によって投与することができる。具体的な投与量決定は、当業者のレベル内にあり、その1日投与用量は、例えば、具体的には、0.1ng/kg/日ないし10mg/kg/日、さらに具体的には、0.1μg/kg/日ないし1mg/kg/日、一層具体的には、1μg/kg/日ないし100μg/kg/日、さらに一層具体的には、2μg/kg/日ないし50μg/kg/日にもなるが、それらに制限されるものではなく、投与する対象の年齢、健康状態、合併症など多様な要因によっても異なる。
【0041】
本発明の一側面によるペプチドは、皮内投与を介して投与されてもよい。投与間隔は、2日間隔で1日1回投与され、時間が経ちながら、日にち間隔をさらに開けてもよい。第1週は、週3回(1,3,5日目)投与し、2,3,4,6週目に、それぞれ1回(8,15,22,36日目)、その後4週ごとに1回投与する。1回投与量は、成人基準での投与時、0.1ないし3mgでもある。投与量は、0.1mg以上、0.2mg以上、0.3mg以上、0.4mg以上、0.45mg以上または0.5mg以上でもある。また、投与量は、3mg以下、2.5mg以下、2.0mg以下、1.5mg以下、1.0mg以下、0.9mg以下、0.8mg以下、0.7mg以下、0.6mg以下でもある。
本発明の他の一側面において、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチド;及びドセタキセルまたは酢酸ロイプロリドのような既存の前立腺癌治療剤;を有効成分として含む前立腺癌治療用組成物を提供する。
ドセタキセル(docetaxel)は、「タキセン」、「微小管阻害剤(antimicrotubule agent)」、「植物性アルカロイド(plant alkaloids)」に分類される抗癌剤であり、細胞分裂過程において、分裂と自家複製との機構である微小管(microtubule)が分離される過程を妨害することにより、癌細胞の増殖を抑制する。
【0042】
ロイプロリド(leuprolide)は、酢酸ロイプロリド(leuprolide aceatate)、「Leuprorellin」、「Leuplin(登録商標)」に分類されるホルモン遮断用前立腺癌治療剤である。性腺刺激ホルモン放出ホルモン作用剤系に属する9個のアミノ酸からなるペプチドであり、体内の性腺刺激ホルモンより数十倍強い活性を有しており、その受容体に強く結合することにより、受容体がそれ以上反応しないようにし、テストステロンのような性ホルモンの分泌を抑制させる作用を行い、抗癌効果を示す。
【0043】
ホルモン耐性が生じた前立腺癌に対してドセタキセルを利用した治療法が使用されているが、ホルモン耐性前立腺癌に対するドセタキセルの治療効能は、おおむね40%ほどであると報告されている(Beer et al, Ann Oncol., 12: 1273〜1279, 2001)。ドセタキセルの投与量は、患者によって異なるが、60ないし400mg/m2であり、一般的に、3週ごとに静脈内経路に、1時間かけて60ないし100mg/m2の量が投与される(France Cavelli et al., Textbook of Medical Oncology, Martin Dunitz Ltd., p4623 (1997))。
【0044】
現在FDAは、前立腺癌治療に、ドセタキセル単一療法や、副作用軽減を目的とするプレドニゾロン(prednisolone)複合療法を承認しているが、難治性前立腺癌を治療するためには、互いに異なるメカニズムを有する抗癌剤の複合療法が必要な実情である。
【0045】
実際、mTOR抑制剤であるラパマイシン(rapamycin)とドセタキセルとの併用時、多様な前立腺癌の増殖が効率的に抑制されたという報告があり、サリドマイド(thalidomide)類似体であるレナリドミド(lenalidomide)併用投与でも、有意性ある抗癌効能の上昇が報告されている(Liu et al., Chin Med J(Engl), 123(3): 356-60, 2010; Henly et al., Prostate, 72(8): 856-67, 2012)。
【0046】
前述の本発明によるペプチドと抗癌剤とが併用して常用された前立腺癌治療用組成物において、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドが、0.01g/Lないし1kg/L、具体的には、0.1g/Lないし100g/L、さらに具体的には、1g/Lないし10g/Lの含量(ペプチド濃度)で含まれ、ドセタキセルを、0.01ng/mLないし100mg/mL、具体的には、0.1ng/mLないし10mg/mL、さらに具体的には、1ng/mLないし1mg/mLの含量で含んでもよいが、用量による効果の違いを示す場合、それらを適切に調節することができる。前記範囲、またはそれ以下の範囲で含む場合、本発明が意図した効果を示すのに適切であるだけではなく、組成物の安定性及び安全性をいずれも満足することができ、コスト対比の効果の側面でも、前記範囲で含むことが適切である。
【0047】
本発明の一側面によるペプチド及び/または抗癌剤は、アジュバントと組み合わされて投与されるものでもある。免疫学的観点から、アジュバントは、ターゲット抗原に対する免疫反応を刺激するために、ワクチンに添加されるものであるが、それ自体が免疫原性を提供するものではない。免疫反応刺激目的以外に、ワクチンの剤形安定化のために添加されるアジュバントもある。免疫学的アジュバントについては、当業界に周知されている[J Biomed Biotechnol. 2012; 2012: 831486. Published on line Mar 13, 2012]。免疫学的アジュバントは、アルミニウム塩のような無機アジュバントと、オイル系、ビロゾーム(virosome)、スクワランのような有機アジュバントと、を含む。有機アジュバントは、エマルジョン、微生物由来、合成アジュバント、サイトカインなどがあるが、それらに限定されるのではない。サイトカインアジュバントは、9種が知られている。例えば、成熟した顆粒球、及びマクロファージを活性化させる顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を有することができるが、それらは、B型肝炎、HIV、癌ワクチンに主に使用される[J Biomed Biotechnol. 2012; 2012: 831486. Published on line Mar 13, 2012]。
【0048】
本明細書において言及されたアジュバントの適切な投与量は、すでに当業界に周知されているので、各患者の状態によって、当業界に知られている基準によって投与することができる。具体的な投与量決定は、当業者のレベル内にあり、その1日投与用量は、例えば、具体的には、1μg/kg/日ないし10g/kg/日、さらに具体的には、10μg/kg/日ないし100mg/kg/日、一層具体的には、50μg/kg/日ないし10mg/kg/日にもなるが、それらに制限されるものではなく、投与する対象の年齢、健康状態、合併症など多様な要因によっても異なる。
【0049】
例えば、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子の場合、本明細書に開示されたペプチドの投与前、例えば、1分ないし150分前の時点、5ないし80分前の時点、または10ないし15分前の時点に、成人基準で、7ないし700mgの投与量で皮内投与されてもよい。投与時間は、ペプチド投与前の1分以上前、3分以上前、5分以上前、7分以上前、8分以上前、9分以上前または10分以上前に投与されてもよい。また、150分以下の前、130分以下の前、110分以下の前、100分以下の前、90分以下の前、80分以下の前、70分以下の前、60分以下の前、50分以下の前、40分以下の前、30分以下の前、20分以下の前、または15分以下前の時点に投与されてもよい。投与量は、7mg以上、10mg以上、20mg以上、30mg以上、40mg以上、50mg以上、60mg以上または70mg以上でもある。また、投与量は、700mg以下、600mg以下、500mg以下、400mg以下、300mg以下、200mg以下、100mg以下、90mg以下または80mg以下でもある。
【0050】
本発明の一側面による組成物は、ヒト、犬、ニワトリ、豚、牛、羊、ギニアピッグまたは猿を含む全ての動物に適用されてもよい。
【0051】
本発明の一側面における組成物は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド、前記アミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するペプチド、またはその断片であるペプチドを有効成分として含む癌細胞増殖抑制用薬学組成物を提供する。本発明の一側面による薬学組成物は、経口、直腸、経皮、静脈内、筋肉内、腹腔内、骨髄内、硬膜内または皮下などに投与される。
【0052】
経口投与のための剤形は、錠剤、丸剤、軟質または硬質のカプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤または乳濁剤でもあるが、それらに制限されるものではない。非経口投与のための剤形は、注射剤、点滴剤、ローション、軟膏、ゲル、クリーム、懸濁液剤、乳剤、坐剤、パッチまたは噴霧剤でもあるが、それらに制限されるものではない。
【0053】
本発明の一側面による薬学組成物は、必要によっては、希釈剤、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、緩衝剤、分散剤、界面活性剤、着色剤、香料または甘味剤などの添加剤も含む。本発明の一側面による薬学組成物は、当業界の一般的な方法によって製造される。
【0054】
本発明の一側面による抗癌治療方法において、エオタキシン、MIP1α及びCRPなどのサイトカインの血清及び血漿のレベルを測定し、それを、癌の免疫学的治療法の施行いかんを判断するのに有用なバイオマーカーとして活用することができる。具体的には、同一疾病患者の患者群平均と比べ、血清レベルにおいて、エオタキシン及びMIP1αのうちいずれか1以上の濃度(w/v)が10%以上高い対象に対して、選別的に免疫学的治療を進めることができるし、さらに具体的には、患者群において、血清エオタキシンレベルが一定レベル以上、例えば、20pg/mL以上、40pg/ml以上、80pg/ml以上の患者のように、一定レベル以上のエオタキシンレベルを示す患者に対して、選別的に免疫学的治療を、既存抗癌治療と併行することができる。
【0055】
以下、実験例を挙げ、本発明の構成及び効果についてさらに具体的に説明する。しかし、以下の実験例は、本発明の理解の一助とするために例示の目的だけで提供されたものであるのみ、本発明の範疇及び範囲は、それらによって制限されるものではない。
【実施例】
【0056】
実施例1:ペプチドの合成、試薬、及び細胞株の準備
1.ペプチドの合成
配列番号1のペプチド(以下「pep 1」とする)を従来に知られた固相ペプチド合成法(SPPS:solid phase peptide synthesis)によって製造した。具体的には、ペプチドは、ASP48S(Peptron、Inc.,大韓民国・大田)を利用して、Fmoc固相合成法を介して、C末端からアミノ酸一つずつカップリングすることによって合成した。次のように、ペプチドのC末端の最初のアミノ酸が樹脂に付着されたものを使用した。例えば、次の通りである:
【0057】
NH2−Lys(Boc)−2−chloro−Trityl Resin
NH2−Ala−2−chloro−Trityl Resin
NH2−Arg(Pbf)−2−chloro−Trityl Resin
【0058】
ペプチド合成に使用した全てのアミノ酸原料は、N−termがFmocで保護(protection)され、残基はいずれも酸で除去される、Trt、Boc、t−Bu(t−butyl ester)、Pbf(2,2,4,6,7−pentamethyl dihydro−benzofuran−5−sulfonyl)などで保護されたものを使用した。例えば、次の通りである:
【0059】
Fmoc−Ala−OH、Fmoc−Arg(Pbf)−OH、Fmoc−Glu(OtBu)−OH、Fmoc−Pro−OH、Fmoc−Leu−OH、Fmoc−Ile−OH、Fmoc−Phe−OH、Fmoc−Ser(tBu)−OH、Fmoc−Thr(tBu)−OH、Fmoc−Lys(Boc)−OH、Fmoc−Gln(Trt)−OH、Fmoc−Trp(Boc)−OH、Fmoc−Met−OH、Fmoc−Asn(Trt)−OH、Fmoc−Tyr(tBu)−OH、Fmoc−Ahx−OH、Trt−Mercaptoacetic acid。
【0060】
カップリング試薬(Coupling reagent)としては、HBTU[2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1,1,3,3−tetamethylaminium hexafluorophosphate]/HOBt[N−Hydroxybenzotriazole]/NMM[4−Methylmorpholine]を使用した。Fmoc除去は、20%のDMF内で、ピペリジン(piperidine in DMF)を利用した。合成されたペプチドをResinから分離し、残基の保護基除去には、切断カクテル(Cleavage Cocktail)[TFA(trifluoroacetic acid)/TIS(triisopropylsilane)/EDT(ethanedithiol)/H2O=92.5/2.5/2.5/2.5]を使用した。
【0061】
アミノ酸保護基が結合された出発アミノ酸が固相支持体に結合されている状態を利用して、ここに当該アミノ酸をそれぞれ反応させ、溶媒で洗浄した後、脱保護する過程を反復することにより、各ペプチドを合成した。合成されたペプチドを樹脂から切り取った後、HPLCで精製し、合成いかんをMSで確認して凍結乾燥させた。
【0062】
本実施例に使用されたペプチドに対して、高性能液体クロマトグラフィ結果、全てのペプチドの純度は、95%以上であった。
【0063】
PEP 1製造に係わる具体的な過程について説明すれば、次の通りである。
1)カップリング
NH2−Lys(Boc)−2−chloro−Trityl Resinで保護されたアミノ酸(8当量)と、カップリング試薬HBTU(8当量)/HOBt(8当量)/NMM(16当量)とをDMFに溶解させて添加した後、常温で2時間反応させ、DMF、MeOH、DMFの順に洗浄した。
【0064】
2)Fmoc脱保護
20%のDMF中のピペリジン(piperidine in DMF)を加え、常温で5分間2回反応させ、DMF、MeOH、DMFの順に洗浄した。
【0065】
3)1及び2の反応を反復して行い、ペプチド基本骨格NH2−E(OtBu)−A−R(Pbf)−P−A−L−L−T(tBu)−S(tBu)−R(Pbf)L−R(Pbf)−F−I−P−K(Boc)−2−chloro−Trityl Resin)を作った。
【0066】
4)切断(Cleavage):合成が完了したペプチドResinに、切断カクテル(Cleavage Cocktail)を加え、ペプチドをResinから分離した。
【0067】
5)得られた混合物に、Cooling diethyl etherを加えた後、遠心分離して得られたペプチドを沈澱させる。
【0068】
6)Prep−HPLCで精製した後、LC/MSで分子量を確認して凍結させ、パウダーに製造した。
【0069】
2.試薬、及び材料の準備
実験のために使用した試薬、及び材料は、次の通りである。パウダー状態のpep1は、0.2μmフィルタで濾過された蒸溜水(0.2μm filtered sterile water)に溶かした後、−70℃で分注(aliquot)して保管し、使用時にそれを溶かして使用し、ドセタキセルは、100% EtOHに溶かした後、tween 80及びPBSで共に混合する方法で使用した。5−フルオロウラシル(5−fluorouracil)は、PBSに溶かして使用した。酢酸ロイプロリドは、PBSに直接溶かして使用した。
【0070】
3.細胞株の準備
実験に使用された細胞株であるLNCaP細胞株は、ヒト前立腺癌転移性細胞であり、ATCC(American Type Cell Culture;Rockville,MD)から購入し、10%FBS(fetal bovine serum)、50U/mlペニシリン及び50μg/mlストレプトマイシンを含むRPMI(Roswell Park Memorial Institute medium)を培地にして、1ないし2x106/mlになるように、37℃に維持される5% CO2インキュベータで培養した。
【0071】
実施例2:LNCaP細胞株モデルでのpep1の癌細胞増殖抑制測定
pep1の前立腺癌に対する効果を確認するために、LNCaP細胞株を使用して、MTTアッセイを実施した。癌細胞増殖抑制確認のために実験に使用した試薬、材料及び細胞株培養方法は、前記実施例1に記載されている通りである。使用されたMTTアッセイ方法は、次の通りである。
【0072】
96ウェルプレート(SPL)において一定細胞数(3x103/well)で培養したLNCaP細胞株を、濃度別pep1(0,0.1,0.3,1,3,10μM)、ドセタキセル(3nM)が含有された増殖培地で72時間培養させた後、MTT試薬を各ウェルに40μlずつ入れる。4時間反応させた後、DMSOに溶かし、570nmで吸光度を測定した。
【0073】
さらに、pep1の培養時間及び濃度を異にした反復実験を行った。96ウェルプレート(SPL)において一定細胞数(3x103/well)で培養したLNCaP細胞株を、濃度別にpep1(0,0.01,1,10,30μM)が含有された増殖培地で96時間培養させた後、MTT試薬を、各ウェルに40μlずつ入れる。4時間反応させた後、DMSOに溶かし、570nmで吸光度を測定した。
【0074】
実験結果の分析のために、さまざまな処置群間の平均をstudent’s t−testで検定し、統計的有意性の基準は、p<0.05(*)またはp<0.01(**)に設定した。
【0075】
前述のような方法で実施したMTT分析を介して、pep1の癌細胞増殖抑制効果を調べるために、pep1の濃度別に影響を測定した結果、pep1が、0μM、0.1μM、0.3μM、1μM、3μM含有された各培地と比較するとき、pep1を10μM含んだ培地で、統計的に有意な細胞増殖抑制効果が発生したということを確認することができた(図1参照)。さらなる反復実験結果でも、pep1が濃度依存的に細胞増殖を抑制するということを確認することができた(図2参照)。
【0076】
また、ドセタキセル3nM、及び濃度別にpep1を含んだ各培地で実施したMTT分析でも、ドセタキセル3nMと、3μM、10μM、30μMのpep1とを含んだ各培地でも、ドセタキセル3nMと、0μM、0.1μM、0.3μM、1μMのpep1とを含んだ各培地と比較するとき、統計的に有意な細胞増殖抑制効果が発生した(図3参照)。それは、ドセタキセルと併用したときも、pep1が濃度依存的に細胞増殖抑制効果を示すということを意味する。
【0077】
実施例3:LNCaP細胞異種移植(xenograft)モデルにおけるpep1投与時の癌細胞サイズ測定
pep1が投与されたとき、癌細胞サイズに及ぼす影響を測定するために実験を行った。
【0078】
下記の1)ないし7)の実験群に、LNCaP細胞を移植した。実験のために使用した試薬、材料及び細胞株培養方法は、前記実施例1に記載されている通りである。
【0079】
LNCaP細胞は、ヒト前立腺癌転移性細胞であり、ATCC(American Type Cel lCulture;Rockville,MD)から購入し、10% FBS、50U/mlペニシリン及び50μg/mlストレプトマイシンを含むRPMIを培地にして、1ないし2x106/mlになるように37℃に維持される5% CO2インキュベータで培養した。
【0080】
実験動物:7個の実験群に、LNCaP細胞を移植した。BALB/c−nuマウス(中央実験動物、ソウル、韓国から購入)5週齢雄を、各群別に、6匹+余裕分5匹入手した後、1週間安定化させ、1匹当たりLNCaP細胞1*107cells(LNCaP細胞)を、100μlのPBSに懸濁してわき腹に移植した後、2週間経過を見て、腫瘍を形成していないか、あるいは有意なほどにサイズが大きくない5匹を除き、6匹ずつ平均が同じになるように群分離を行い、下記に記載されているような7個の群に分け、20日間薬物投与を実施した。癌体積は、カリパス(calipers)で測定し、体積計算は、次のところによる。
【0081】
[width2xlengthx0.5cm3
【0082】
移植以後、pep1、及び陽性対照群に、酢酸ロイプロリド(positive control)を、下のような7個の実験群に分け、それぞれ毎日皮下注射で投与した。
【0083】
1)LNCaP移植対照群(vehicle)
2)LNCaP移植+pep1 0.01mg/kg投与群
3)LNCaP移植+pep1 0.1mg/kg投与群
4)LNCaP移植+pep1 1mg/kg投与群
5)LNCaP移植+pep1 10mg/kg投与群
6)LNCaP移植+酢酸ロイプロリド0.1mg/kg投与群
7)LNCaP移植+酢酸ロイプロリド0.1mg/kg+pep1 0.1mg/kg投与群
【0084】
また、pep1がドセタキセルと併用投与されたとき、癌細胞サイズに及ぼす影響を測定するために追加実験を行った。
【0085】
下記の8)ないし13)の実験群に、LNCaP細胞を移植した。実験のために使用した試薬、材料及び細胞株培養方法は、前記実施例1に記載されている通りである。
【0086】
実験動物:6個の実験群に、LNCaP細胞を移植した。BALB/c−nuマウス(中央実験動物、ソウル、韓国から購入)5週齢雄を、各群別に、6匹+余裕分5匹を入手した後、1週間安定化させ、1匹当たりLNCaP細胞1*107cells(LNCaP細胞)を、100μlのPBSに懸濁し、わき腹に移植した後、2週間経過を見て、腫瘍を形成していないか、あるいは有意なほどにサイズが大きくない5匹を除き、6匹ずつ平均が同じになるように群分離を行い、下記に記載されているような6個の群に分け、20日間薬物投与を実施した。癌体積は、カリパスで測定し、体積計算は、次のところによる。
【0087】
[width2xlengthx0.5cm3
【0088】
移植以後、pep1とドセタキセルとを、以下のような6個の実験群に分けてそれぞれ投与した。
【0089】
8)LNCaP移植対照群
9)LNCaP移植+ドセタキセル20mg/kg(週1回、腹腔内)投与群
10)LNCaP移植+pep1 30mg/kg(週3回、皮下)投与群
11)LNCaP移植+pep1 3mg/kg+ドセタキセル20mg/kg投与群
12)LNCaP移植+pep1 10mg/kg+ドセタキセル20mg/kg投与群
13)LNCaP移植+pep1 30mg/kg+ドセタキセル20mg/kg投与群
【0090】
その後、毎回飲水量、食餌摂取量、癌増殖率(短径、長径)を測定し、腫瘍重量(tumor weight/body weight)、大腿部筋肉重量を定量した。また、癌組織標本制作及びPCNA(細胞増殖マーカー)/TUNEL(自家死滅マーカー)染色を行った。
【0091】
実験結果分析のために、さまざまな処置群間の平均を、student’s t−testで検定した。統計的有意性の基準は、p<0.05(*)またはp<0.01(**)と設定した。
【0092】
前記実験群別の分析結果、pep1を、0.01mg/kg及び0.1mg/kg濃度で投与した場合、有意性ある癌増殖抑制効果を示すことができなかったが、pep1を、1mg/kg及び10mg/kg濃度で投与した場合、陽性対照群である酢酸ロイプロリドより、さらに抑制効果が観察されるということを確認することができた(図4参照、図4において、Y軸の単位は、腫瘍体積であり、mm3である)。それは、pep1が、LNCaP細胞で有意性ある癌増殖抑制効果があるということを、動物モデルでも確認することができるということを意味する。さらに、酢酸ロイプロリドと併用投与した7)群と、酢酸ロイプロリドを単独投与した6)群とを比較すれば、pep1が、酢酸ロイプロリドとの併用投与時にも、癌細胞サイズ抑制に効果があるということをさらに確認することができた。
【0093】
また、pep1とドセタキセルとを併用投与した追加実験分析結果、ドセタキセルとpep1とを併用投与した場合、有意性ある抑制効果が観察されるということを確認することができた。特に、pep1を10mg/kg投与し、ドセタキセルを20mg/kg併用した実験群の場合、最終評価時点において、癌増殖の明らかな抑制効果が観察された(図5参照、図5において、Y軸の単位は、腫瘍体積であり、mm3である)。それは、pep1がドセタキセルとの併用投与時にも、LNCaP細胞において、有意性ある癌増殖抑制効果があるということを動物モデルでも確認することができるということを意味する。
【0094】
実施例4:LNCaP細胞異種移植モデルにおけるpep1投与時の体重変化測定
LNCaP異種移植モデルの腫瘍細胞増殖による体重変化を観察するために、実施例3で実験された1)ないし7)の実験群の体重を測定した。
実験群別に分析した結果、対照群(vehicle、実験群1))及び酢酸ロイプロリド単独及び併用投与群(実験群6及び7))と、pep1濃度別投与群(実験群2ないし5)との間に体重の急激な差が示されず、pep1投与の体内安定性を確認することができた(図6参照)。
【0095】
実施例5:LNCaP細胞株モデルにおけるpep1の癌細胞移動性(migration)抑制測定
トランスウェル分析(trans-well assay)を介して、pep1が癌細胞移動性に及ぼす影響を評価した。
【0096】
癌細胞移動性評価のために使用した試薬、材料及び細胞株培養方法は、前記実施例1に記載されている通りである。使用された移動性分析(migration assay)方法は、次の通りである。
【0097】
LNCaP細胞株を、6ウェルプレートで一晩中培養し、濃度別にpep1(0、1,10,30μM)を処理して24時間培養した。その後、トランスウェルプレート(trans-well plate)に、1x104/wellで接種(seeding)した。3時間後、ウェルの上部分(upper compartment)を除去し、下方に移動した細胞を固定、染色し、セル数を定量した。
【0098】
また、ドセタキセルとの併用投与時の移動性を観察するための追加実験を行った。LNCaP細胞株を、6ウェルプレートで一晩中培養し、濃度別にpep1(0,1,3,10,30μM)を処理して24時間培養した。さらに、ドセタキセル(3nM)が含有された増殖培地で48時間培養させた後、トランスウェルプレートに、1x104/wellで接種した。3時間後、ウェルの上部分を除去し、下方に移動した細胞を固定、染色し、セル数を定量した。
【0099】
実験結果分析のために、多くの処置群間の平均を、student’s t−testで検定した。統計的有意性の基準は、p<0.05(*)またはp<0.01(**)に設定した。
【0100】
前述のような方法で実施したトランスウェル分析結果、pep1が含有されていない培地(0μM、control)では、癌細胞移動が増加したが、pep1(1μM、10μM、30μM)を共に処理した場合、癌細胞移動が統計的に有意なほど抑制されるということが分かった(図7及び図8参照)。図7及び図8において、controlは、LNCaP移植後、pep1処理を行っていない実験群である。
【0101】
また、ドセタキセルとの併用投与追加実験の分析結果、ドセタキセル(3nM)が含有された培地では、癌細胞移動が増加したが、ドセタキセル(3nM)が含有された培地に、pep1(3μM、10μM、30μM)を共に処理した場合、癌細胞移動が統計的に有意なほど抑制されるということが分かった(図9ないし図14参照)。
【0102】
実施例6:LNCaP細胞株モデルにおけるpep1の投与時の癌細胞移動性マーカー(MMP9、MMP2)のmRNA発現程度測定
癌細胞の移動性を示すmRNAマーカーMMP9(matrix metalloproteinase−9)及びMMP2(matrix metalloproteinase−2)の発現を観察するために、LNCaP異種移植された組織において、相対的な発現程度を観察した(図15及び図16参照)。
【0103】
下記の14)ないし16)の実験群に、LNCaP細胞を移植した。実験のために使用した試薬、材料及び細胞株培養方法は、前記実施例1に記載されている通りである。
LNCaP細胞は、ヒト前立腺癌転移性細胞であり、ATCC(American Type Cel lCulture;Rockville,MD)から購入し、10% FBS、50U/mlペニシリン及び50μg/mlストレプトマイシンを含むRPMIを培地にし、1ないし2x106/mlになるように、37℃に維持される5% CO2インキュベータで培養した。
【0104】
実験動物:3個の実験群に、LNCaP細胞を移植した。BALB/c−nuマウス(中央実験動物、ソウル、韓国から購入)5週齢雄を、各群別に、6匹+余裕分5匹入手した後、1週間安定化させ、1匹当たりLNCaP細胞1*107cells(LNCaP細胞)を、100μlのPBSに懸濁し、わき腹に移植した後、2週間経過を見て、腫瘍を形成していないか、あるいは有意なほどにサイズが大きくない5匹を除き、6匹ずつ平均が同じになるように群分離を行い、下記に記載されているような3個の群に分け、20日間薬物投与を実施した。
【0105】
移植以後、pep1、及び陽性対照群に、酢酸ロイプロリド(positive control)を、以下のような3個の実験群に分け、それぞれ毎日皮下注射で投与した。
【0106】
14)LNCaP移植対照群(vehicle)
15)LNCaP移植+pep1 10mg/kg投与群
16)LNCaP移植+酢酸ロイプロリド0.1mg/kg投与群
【0107】
実験結果分析のために、さまざまな処置群間の平均を、student’s t−testで検定した。統計的有意性の基準は、p<0.05(*)またはp<0.01(**)に設定した。
【0108】
3個の各実験群から採集した腫瘍組織からRNAを抽出した後、抽出したRNAにおいて、MMP9及びMMP2のプリマーを使用して、RT−PCRを行った。RT−PCRの結果として増幅された各サンプルを、電気泳動法を使用して、2Dゲルに下げた後、蛍光染色を行い、その発現程度を測定した。mRNAのPCRを介した分析法は、一般的に周知の方法を介して遂行された。
【0109】
発現程度は、MMP9の場合、対照群(vehicle)の場合を2と判読したものを基準に相対的な発現を示し(図15参照)、MMP2の場合、対照群(vehicle)の場合を38と判読したことを基準に、相対的な発現を示した(図16参照)。
【0110】
発現程度の比較結果MMP9及びMMP2のいずれにおいても、対照群(vehicle)及び陽性対照群(leuprolide)に比べ、pep1を投与した腫瘍組織において、低い発現程度を示し、pep1が癌組織の癌細胞移動性減少に効果があるということが分かった。
【0111】
前記実施例2において、pep1は、単独投与時、及び既存抗癌剤との併用投与時、前立腺癌細胞株の増殖抑制効能を示した。実施例3及び5では、前立腺癌細胞株を移植された動物モデルにおいて、癌細胞サイズを小さくさせる効能(実施例3)、及び前立腺癌細胞の移動を抑制する効能(実施例5)も示した。実施例6では、前立腺癌の転移を示す癌細胞移動関連mRNAマーカーの発現を抑制する効能も示した。さらに、実施例4においては、pep1の投与時、体重の急激な変化がないということが分かり、投与時に安定性もあるということが分かった。従って、結論として、pep1は、前立腺癌の増殖抑制、転移抑制にいずれも効能を有しながらも、安全であり、pep1を含んだ前立腺癌増殖抑制剤、転移抑制剤として使用可能であり、それを活用し、前立腺癌治療剤として可能性を有するといえる。
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【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]